説明

方向性磁気ストリップの製造方法

【課題】六価クロムを使用しなくて済み、製造中に環境および水に対して非常に有毒かつ有害であるという欠点を生じることがない、方向性磁気ストリップ上にホスフェート層を形成する方法、より詳しくは、ホスフェート溶液の均一な塗布したがって均一な仕上げ層品質を達成できる方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップ、すなわち添加剤としてコロイド成分および少なくとも1つのコロイド安定剤(A)を含有するホスフェート溶液が磁気ストリップに塗布された方向性磁気ストリップの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップの製造方法に関する。また本発明は、ホスフェート層で被覆された、本発明の方法により製造できる方向性磁気ストリップ、並びにこの磁気ストリップを変圧器のコア材料として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ストリップは、特殊な磁気特性をもつ鋼工業において知られている材料である。この材料は、一般に、0.2〜0.5mmの厚さを有し、かつ冷間圧延および熱処理方法からなる複雑な製造方法により製造される。材料の金属学的特性、冷間圧延過程の成形度合い、および熱処理段階のパラメータは、目標とする再結晶化過程が行われるように、互いに調和される。これらの再結晶化過程は、材料にとって一般的な「ゴス組織(Goss texture、Goss-Textur(英、独訳))」をもたらし、ゴス組織では、最も磁化し易い方向は完成ストリップの圧延方向である。
【0003】
磁気ストリップの基本的材料は、ケイ素鋼板である。方向性磁気ストリップと無方向性磁気ストリップとの間には区別がなされている。無方向性磁気ストリップでは、磁束はいかなる特定方向にも固定されず、したがって、あらゆる方向に等しく良好な磁気特性が形成される(等方性磁化)。
【0004】
これに対し、異方性磁気ストリップは、強い異方性磁気挙動を有している。これは、クリスタライト(結晶学的組織)の均一な方向性に帰するものである。方向性磁気ストリップでは、複雑な製造方法により、有効な結晶成長選択が行われる。最終焼きなまし材料内に小さい欠陥のある方向性をもつ結晶は事実上理想的な組織を有し、この組織は、その発明者にちなんで「ゴス組織」と命名された。磁気ストリップの表面は、一般に、酸化物層および無機ホスフェート層で被覆される。これらの層は、実質的に、電気的絶縁の態様で作用する。
【0005】
方向性磁気ストリップは、例えば電力変圧器、配電変圧器および高級小型変圧器等におけるように、特に小さい磁気損が重要でありかつ透磁性または分極に特に強い要求がなされている目的に使用するのに特に適している。方向性磁気ストリップの主要用途は、変圧器のコア材料としての用途である。変圧器のコアは、重ねられた磁気ストリップシート(積層体)からなる。磁気ストリップシートは、最も磁化し易い圧延方向が、常に、有効コイル磁界の方向になるようにスタックすなわち重ねられる。この結果、交流磁界の磁気反転過程でのエネルギ損は最小になる。このため、特に変圧器の全エネルギ損もまた、コアに使用される磁気ストリップの品質に基づいて定まる。エネルギ損とは別に、ノイズ発生も変圧器の特徴である。ノイズ発生は、磁気歪みとして知られている物理的効果に基づいており、とりわけ使用される磁気ストリップコア材料の特性による影響を受ける。
【0006】
これらの要求を満たすため、一般に、方向性磁気ストリップの表面上には、磁気ストリップ上に配置されるセラミックのような層(一般に、ガラス膜と呼ばれている)と、このガラス膜上に配置されるホスフェート層とからなる2層型の層システムが設けられている。この層システムは、スタックとして使用するのに必要な積層体の電気的絶縁を確保するためのものである。しかしながら、この絶縁特性とは別に、コア材料の磁気特性は、層システムによっても影響を受ける。磁気損は、層システムにより基本的材料に伝達される引っ張り応力により更に低減される。また、磁気歪みひいては変圧器ノイズは、引っ張り応力により最小化される。これらの効果を利用するため、層システムは、一般に、ガラス膜と、この上に配置されるホスフェート層とからなる。これらの2つの層は、金属コア材料に永久的引っ張り応力を加えることができる。
【0007】
永久的引っ張り応力を発生させるため、従来技術によるホスフェート溶液には、コロイド成分を含有している。引っ張り応力はコロイド成分により発生され、ホスフェート自体は結合剤として作用する。ホスフェート溶液/コロイドで作られたこの形式のシステムは、一般的用語のゾル/ゲル変換の下で全体として一体に結合されかつ種々のコーティング技術の分野で知られている適法性を有する。この場合には、ストリップ表面上へのホスフェート溶液の塗布後、換言すれば乾燥過程中にゾル/ゲル変換が行われるならば有利である。ホスフェートとコロイド成分との組合せは、これを確保するには不充分である。すなわち、ゾル/ゲル変換は、溶液のpHおよび不純物より詳しくは外部からのイオンによる汚染および塗布温度に敏感に左右される。特に大規模作業の塗布の場合には、純粋のホスフェート/コロイド混合物は、これらの安定性に関してあまりにも敏感である。
【0008】
実際に安定的に使用できる方法に適応するため、従来技術によるホスフェート/コロイド混合物には、六価クロムも添加されており、該六価クロムは、一般に、三酸化クロムまたはクロム酸のような溶液中に導入される。例えば下記特許文献1には、モノアルミニウムホスフェートおよびシリカゾル(コロイドSiO)をベースとする方法が開示されており、実用に供するため、0.2〜4.5%の三酸化クロムまたはクロム酸塩が添加される。下記特許文献2には、複数のホスフェートおよび種々のコロイドの混合物が開示されており、この場合にも、三酸化クロムと組合わされる。特許文献3には、SiO粉末が高度に分散されたマグネシウムとアルミニウムホスフェートとの混合物が開示されている。この混合物も六価クロムCr(VI)により濃縮される。
【0009】
したがって、従来技術では、磁気ストリップのホスフェートコーティングには、クロム特に六価クロムが重要である。引っ張り応力を最適化するため、大規模方法でコロイド成分を含有するホスフェートコーティングにホスフェート層を塗布するときは、クロムは、とりわけ重要な役割を与えられる。したがって、クロムの使用は従来技術において特に重要視される。なぜならば、六価クロムは、ストリップ表面へのホスフェート溶液の塗布可能性を高めかつ均一に仕上げられたストリップ絶縁層の形成を可能にするからである。また、六価クロムは、ストリップの醜い仕上げ層の形成を防止しかつ鉄が溶液中に入らないようにホスフェート溶液とストリップ材料との相互反応を修正する。かくして、ホスフェート溶液が鉄イオンにより汚染されることが防止される。最後に、六価クロムは、コロイド溶液成分の重合に影響を与え、層を乾燥するときに重合が比較的高い温度でのみ行われるようにする。したがって、ストリップ表面へのホスフェート溶液の塗布中の制御されない重合またはゲル形成(これは、時間を費やす生産停止を招く虞れがある)が防止される。
【0010】
ホスフェート/コロイド混合物中の六価クロムの作用は、ゾルからゲルへの変換が、焼付け時の層の乾燥中に最初に行われるように制御されるという事実に実質的に基づいている。
【0011】
しかしながら、クロム含有システムの使用につれて益々大きくなる重大な欠点は、六価クロムは、特に、環境および水に対して非常に有毒かつ有害であるという事実にある。生産工程から六価クロム成分を無くす世界規模的試みがなされている。クロムの置換が不可能な場合には、作業者および環境の保護に関して莫大な努力をしなければならない。プラントの安全性とは別に、人々の保護のための特殊な保護設備、意図しないクロムの放出を防止するための保護装置、廃棄手段および故障が生じた場合のプランをプロセスに組込まなくてはならない。しかしながら、あらゆる保護手段を講じたとしても、人間および環境にとって無視できない危険が依然として残っている。ホスフェート溶液から六価クロムを簡単に除去する試みは、これまで、実験室を超えてはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】ドイツ国特許DE 2247 269号公報
【特許文献2】欧州特許EP 0 406 833号公報
【特許文献3】欧州特許EP 0 201 228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、六価クロムを使用しなくて済み、製造中に上記欠点を生じることがない、方向性磁気ストリップ上にホスフェート層を形成する方法、より詳しくは、ホスフェート溶液の均一な塗布したがって均一な仕上げ層品質を達成できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、添加剤としてコロイド成分および少なくとも1つのコロイド安定剤(A)を含有するホスフェート溶液が磁気ストリップに塗布されることを特徴とする、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップの製造方法により達成される。
【0015】
本発明によれば、表現「ホスフェート溶液はコロイド成分を含有している」とは、ホスフェート溶液の一部分が、数ナノメートルから数マイクロメートルのサイズを有する固体粒子または超分子凝集体からなることを意味する。ホスフェート溶液中のコロイド成分のサイズは、5nm〜1μm、好ましくは5nm〜100nm、より好ましくは10nm〜100nmの範囲内で変動することが好ましい。
【0016】
ホスフェート溶液中のコロイド成分の一部は変えることができる。ホスフェート溶液のコロイド成分の一部は、好ましくは、5〜50重量%、より詳しくは5〜30重量%の範囲内で変えるのが好ましい。最も変化に富む物質をコロイド成分として使用できる。これらの物質は、可溶性リン酸が特に好ましい訳ではない。
【0017】
酸化物、好ましくはCr、ZrO、SnO、V、Al、SiOの水性懸濁液により特に良い結果が得られる。これらのうち、特にSiOが適している。したがって、本発明による特に適したコロイド成分はシリカゾルである。水中のSiOの部分が10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%であるシリカゾルにより良い結果が達成される。SiOの特に好ましい粒子サイズは、5〜30nm、望ましくは10〜20nmである。
【0018】
本発明による方法は、ホスフェート溶液が、添加剤としてコロイド安定剤(A)を含有している点で優れている。本発明の方法のこの特徴は、ゾルからゲルへの変換が、ホスフェート層の乾燥中にのみ生じることにより確保される。また、コロイド安定剤の使用により、ホスフェート溶液の均一塗布が可能になり、このため、均一な仕上げ層の品質が達成される。したがって、コロイド安定剤(A)の使用により、磁気金属板のホスフェートコーティングにおいて、ホスフェート溶液中に六価クロムを使用しなくて済む。これにより、コロイド含有ホスフェート溶液を用いるクロムフリー(クロムを使用しない)製造時に一般に生じる問題を実質的に回避できる。
【0019】
A群の添加剤はコロイド安定剤である。本発明におけるコロイド安定剤はコロイドを安定化させる添加剤であり、制御されないゾル/ゲル変換または固体物質の凝集を防止する。また、コロイド安定剤は、ホスフェート溶液の塗布前の使用領域内の温度鈍感性を有利に確保して、好ましくない物質、より詳しくは好ましくないイオンに対してシステムを鈍感にする。
【0020】
本発明によれば、酸性溶液中で安定しているならば、最も変化に富むコロイド安定剤を使用できる。また、コロイド安定剤がコロイド溶液の安定性を乱すことがなくかつ塗布したホスフェート層の品質に不利な影響を与えないことが有利である。また、コロイド安定剤の毒性は、できる限り低いことが有利である。更に、使用されるコロイド安定剤は、ホスフェート溶液中に任意に存在する他の添加剤の個々の効果を妨げないようにするため、これらの添加剤と相互反応すべきではない。
【0021】
実用試験によれば、電解質、界面活性剤およびポリマーは、本発明によるコロイド安定剤に特に適していることが証明されている。しかしながら、驚くべきことに、コロイド安定剤として、リン酸エステルおよび/またはスルホン酸エステルが特に好ましい。用語「リン酸エステル」とは、本発明によれば、化学式OP(OR)を有し、コロイド安定剤として作用するリン酸の有機エステルを意味する。また「スルホン酸エステル」とは、本発明によれば、化学式R(O)P(OR)を有し、コロイド安定剤として作用するスルホン酸の有機エステルを意味するものと理解すべきである。ここでは、ラジカルRは、必ずしもすべてのラジカルRが同時的に水素である必要はないが、水素基、芳香族基または脂肪族基とは互いに独立している。用語「脂肪族基」は、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基を含むものである。
【0022】
アルキル基は、1〜8個の炭素原子をもつ飽和脂肪族炭化水素基を含む。アルキル基は、直鎖基でも分鎖基でもよい。本発明による特に適したアルキル基として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第2ブチル、n−ペンチル、n−ヘプチルがある。アルキル基はまた、1つ以上の置換基で置換できる。適当な置換基として、特に、脂肪族ラジカル基がある。更に、適当な置換基として、アルコキシ基、ニトロ基、スルホキシ基、メルカプト基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン基、スルファミド基、カルボバイアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシアルキル基、アミノカルボニル基、アミノスルホニル基、アミノアルキル基、シアノアルキル基、アルキルスルホニル基、スルホニルアミノ基およびヒドロキシル基がある。
【0023】
表現「アルケニル」は、2〜10個の炭素原子および少なくとも1つの二重結合を有する脂肪族炭素基に関する。アルケニル基は、直鎖または分枝鎖を呈する。本発明による特に好ましいアルケニル基は、アリル基、2−ブテニル基および2−ヘキシニル基である。任意であるが、アルケニル基は、1つ以上の置換基で置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0024】
用語「アルキニル」は、2〜8個の炭素原子および少なくとも1つの三重結合を有する脂肪族炭素基に関する。アルキニル基は、直鎖または分枝鎖を呈する。アルキニル基は、1つ以上の置換基で置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0025】
また、脂肪族基の適当な置換基として、アリル基、アラルキル基または脂環基がある。「アリル」とは、例えばフェニル基のような単環基、例えばインデニル基、ナフタレニル基のような二環基、例えば3つの環をもつフルオレニル基またはベンゾ結合基のような三環基に関する。アリル基はまた、1つ以上の置換基で置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0026】
「アラルキル」は、アリル基と置換できるアルキル基に関する。表現「脂環(cycloaliphatic、cycloaliphatisch(英、独訳))」とは、単結合により分子の残部に結合された飽和または部分的に不飽和の単環、二環または三環の炭化水素リングをいう。脂環は、3〜8員(3 to 8-membered、3 bis 8-gliedrige(英、独訳))の単環リングおよび8〜12員の二環リングである。脂肪族基は、シクロアルキル基とシクロアルケニル基を含む。アラルキルはまた、1つ以上の置換基で置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0027】
脂肪族基の他の適当な置換基として、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子により置換された上記置換基がある。
【0028】
本発明によれば、リン酸エステルの使用が特に適している。エチルホスフェート、より詳しくはモノエチルホスフェートおよび/またはジエチルホスフェートが特に適している。特に、ケボケミエ社(Kebo Chemie社)から入手できる製品ADACID VP 1225/1は極めて適している。
【0029】
したがって、本発明による方法は、クロムを使用しない(クロムフリー)のホスフェート溶液の使用を可能にする。それでもなお、ホスフェート溶液にクロムを含有させてもよいことは明白である。しかしながら、0.2重量%より少ない、好ましくは0.1重量%より少ない、特に好ましくは0.01重量%より少ないクロムを含有するホスフェート溶液の使用が好ましい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、ホスフェート溶液はまた、酸洗い抑制剤(B)および湿潤剤(C)からなる群から選択された少なくとも1つの添加剤を含有している。本発明による方法により製造される方向性磁気ストリップの特性は、酸洗い抑制剤(B)および/または湿潤剤(C)の使用により更に改善できる。したがって、本発明によれば、コロイド安定剤(A)に加えて、少なくとも1つの酸洗い抑制剤(B)および少なくとも1つの湿潤剤(C)を含有するホスフェート溶液の使用が特に好ましい。
【0031】
B群に属する添加剤は酸洗い抑制剤である。本発明によれば、用語「酸洗い抑制剤(pickling inhibitors、Beizinhibitoren(英、独訳))」とは、鉄が全く溶液中に入らないようにまたはごく少量だけ入るように、ホスフェート溶液とストリップ表面との化学的相互反応に影響を与える添加剤を意味する。したがって、酸洗い抑制剤の使用により、鉄イオンによるホスフェート溶液の汚染が防止され、ホスフェート溶液は長期間に亘って一定の特性を保有できる。これは、ホスフェート溶液の鉄イオンが濃厚になると磁気ストリップ上のホスフェート層の化学的抵抗が低下するため有利である。ゾル/ゲル変換はふさわしくないイオンによる影響を強く受けるので、本発明が適用されるときにコロイド系中に酸洗い抑制剤を使用すると特に有利であることが証明されている。したがって、酸洗い抑制剤を添加することにより、コロイド系の安定性が実質的に改善される。
【0032】
本発明によれば、酸性溶液中で安定していれば、酸洗い抑制剤(B)として、最も変化に富む添加剤を使用できる。酸洗い抑制剤が、塗布されるホスフェート層の品質に悪影響を与えないならば一層有利である。また、酸洗い抑制剤の毒性はできる限り小さいことが有利である。基本的に、使用される酸洗い抑制剤は、使用されるホスフェート溶液に適合できるものでなくてはならない。更に、使用される酸洗い抑制剤は、コロイド構成成分の安定を損なうものであってはならない。また、使用される酸洗い抑制剤は、添加剤が個々の効果に関して妨げられないように、ホスフェート溶液中の他の添加剤と相互反応すべきではない。
【0033】
実用試験によれば、チオ尿素誘導体、C2−10−アルキノール、トリアジン誘導体、チオグリコール酸、C1−4−アルキルアミン、ヒドロキシ−C2−8−チオカルボン酸および/または脂肪アルコールポリグリコールエーテルは、特に有効な酸洗い抑制剤であることが証明されている。
【0034】
本発明によれば、チオ尿素誘導体の形態の酸洗い抑制剤は、基本的構造としてチオ尿素構造を有する酸洗い抑制剤を意味するものである。チオ尿素の1〜4個の水素原子は、適当な置換原子と置換できる。本発明による特に適した置換原子として、既に上述した脂肪族基がある。
【0035】
基本的チオ尿素構造の窒素原子の他の適当な置換原子として、上述のように、アリル基、アラルキル基または脂環基がある。
【0036】
本発明による特に適したチオ尿素誘導体として、C1−6−ジアルキルチオ尿素、好ましくはC1−4−ジアルキルチオ尿素がある。アルキル置換基は、置換されないのが好ましい。ジエチルチオ尿素、より詳しくは1,3−ジエチル−2−チオ尿素の使用が非常に好ましい。特に適した製品として、アルフィニッシュ社(Alufinish社)から入手できるFerropas 7578がある。
【0037】
本発明により特に適した酸洗い抑制剤として、C2−10−アルキノール、より詳しくは上記特徴を有するC2−6−アルカインジオール、アルカインがある。アルカイン置換基は、本発明により特に適したC2−6−アルカインジオールでは置換されず、二重結合を有している。本発明による更に好ましい酸洗い抑制剤として、ブチン−1,4−ジオール、より詳しくはブタ−2−イン−1,4−ジオール(But-2-in-1,4-diol)およびプロパルギルアルコール(Prop-2-in-1-ol)がある。
【0038】
本発明により非常に適した酸洗い抑制剤として、トリアジン誘導体がある。トリアジン誘導体の形態をなす酸洗い誘導体とは、本発明によれば、基本的トリアジン構造を有する酸洗い抑制剤を意味する。基本的トリアジン構造の1つ以上の水素原子は、本発明に適したトリアジン誘導体の適当な置換基で置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0039】
本発明による他の特に適した酸洗い抑制剤として、脂肪アルコールポリグリコールエーテルがある。本発明によれば、脂肪アルコールポリグリコールエーテルとは、脂肪アルコールと過剰の酸化エチレンとの反応生成物を意味する。本発明による特に適した脂肪アルコールは、6〜30個、好ましくは8〜15個の炭素原子を有している。ポリグリコールエーテルの酸化エチレン基の部分は、水溶性脂肪アルコールポリグリコールエーテルを作るのに充分な大きさを有する。したがって、好ましくは、アルコールの炭素原子として、少なくとも多くの―O−CH−CH−基が存在すべきである。或いは、水溶性は、例えば硫酸とのエステル化およびエステルのナトリウム塩への変換等の適当な置換によっても達成できる。基本的には、脂肪アルコールポリグリコールエーテルの水素原子も、適当な置換基により置換できる。適当な置換基として、アルキル置換基として上述したものがある。
【0040】
酸洗い抑制剤として使用するのに、チオグリコール酸およびヘキサメチレンテトラミンは特に適している。
【0041】
C群の添加剤は湿潤剤である。酸性溶液中で安定しているものであれば、最も変化性に富む湿潤剤を本発明による方法に使用できる。湿潤剤が、塗布されるホスフェート層の品質に不利な影響を与えないならば更に有利である。湿潤剤の毒性ができる限り小さいことも有利である。また、使用される湿潤剤は、コロイド構成成分の安定性を損なうものであってはならない。更に、使用される湿潤剤は、ホスフェート溶液中に存在する他の添加剤の個々の効果が妨げられるような態様で添加剤と相互反応してはならない。
【0042】
本発明による方法に湿潤剤を使用すると、ストリップ表面上へのホスフェート溶液の塗布が改善される。また、ホスフェート層の均一性も向上する。実用試験によれば、湿潤剤として、フルオロ界面活性剤が特に適していることが証明されている。フルオロ界面活性剤の長所は、六価クロム含有ホスフェート溶液中でも、最も変化性に富むホスフェート溶液に安定的に使用できることである。本発明による方法には、最も変化性に富むフルオロ界面活性剤が添加剤として適している。本発明によれば、用語「フルオロ界面活性剤」とは、疎水性基としてのペルフルオロアルキルラジカルを有する界面活性剤を意味する(「アルキル」は、上記定義の意義を有している)。フルオロ界面活性剤は、非フッ素化界面活性剤と比較して、極めて低い濃度で水の表面張力を大きく低下できる点で優れている。また、フルオロ界面活性剤は、高い化学的および熱的安定性を有している。最も変化性に富む界面活性剤は、もしこれらの界面活性剤が酸性溶液中で安定している場合には、本発明により好ましく使用できるフルオロ界面活性剤の可能性ある界面活性剤成分である。フルオロ界面活性剤がコロイド溶液の安定性を損なわずかつ塗布されるホスフェート層の品質に不利な影響を与えない場合には更に有利である。また、フルオロ界面活性剤の毒性ができる限り低いものであれば、更に有利である。
【0043】
実用試験によれば、C1−4−テトラアルキルアンモニウムペルフルオロ−C5−10−アルキルスルホネートが、本発明によるフルオロ界面活性剤として特に適していることが証明されている。特に適した湿潤剤として、テトラエチルアンモニウムペルフルオロオクタンスルホネートを含有する、シュヴェンク社(Schwenk社)から入手できる製品NC 709がある。
【0044】
ホスフェート溶液中に含有される種々の添加剤A〜Cの量は、広範囲に変えることができる。実用試験によれば、コロイド安定剤(A)が0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より詳しくは0.1〜2重量%の量で使用される場合に特に良い結果が得られることが証明されている。酸洗い抑制剤(B)は、0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜1重量%、より詳しくは0.01〜0.08重量%の量で良好に使用できる。湿潤剤(C)は、0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%、より詳しくは0.01〜0.1重量%の量で良好に使用でき、各場合に、ホスフェート溶液の全重量に基づいて定められる。
【0045】
本発明によるホスフェート溶液には、最も変化性に富むホスフェートを含有させることができる。例えばホスフェート溶液には、カルシウムホスフェート、マグネシウムホスフェート、マンガンホスフェートおよび/またはこれらの混合物を含有させることができる。水溶性に優れているため、本発明によれば一次ホスフェート(モノホスフェート)が特に好ましい。アルミニウムホスフェートおよび/またはマグネシウムホスフェートを含有するホスフェート溶液により、特に良い結果が達成される。非常に好ましいホスフェート溶液は、40〜60重量%の量でAl(HPOを含有するホスフェート溶液である。
【0046】
ホスフェートとしてAl(HPOを含有しかつコロイド成分としてSiO(シリカゾル)を含有するホスフェート溶液を使用する場合には、下記量比率が特に適していることが証明された。すなわち、
0.5<Al(HPO:SiO<20、好ましくは、
0.7<Al(HPO:SiO<5、より詳しくは、
Al(HPO:SiO=1.36
【0047】
ホスフェート溶液のベースは水が好ましいが、水と同様な反応性および極性を有するならば、他の溶剤を使用できることも明白である。
【0048】
本発明によれば、ホスフェート溶液中のホスフェートの濃度は、5〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%、特に40〜60重量%である。
【0049】
応力弛緩焼きなましの範囲内での焼付けホスフェートコーティングは、磁気ストリップ上にホスフェート層を形成する上で、実際に特に適していることが証明された。焼付けホスフェートコーティングでは、最初に、ホスフェート溶液がストリップに塗布され、次に700℃以上、好ましくは800℃、特に850℃より高い温度で焼付けられる。連続炉内での焼付けが特にうまくいくことが証明された。
【0050】
既に上述したように、ホスフェート溶液はコロイド成分を含有する。引っ張り応力はホスフェート層の乾燥中にコロイド成分により磁気ストリップに伝達されるので、この実施形態は有利である。磁気ストリップを使用するとき、引っ張り応力は、磁気損の明らかな低下をもたらす。また、磁歪、したがってノイズ発生は、変圧器内での使用中に最小になる。
【0051】
本発明による特に適したコロイド成分は、コロイド状の二酸化ケイ素である。コロイド系の安定性に関しては、コロイド安定剤の使用以外に、ホスフェート溶液のpHも重要である。乾燥前のホスフェート溶液の安定性を高めるには、3より小さいpH、好ましくは0.5〜1のpHが特にうまくいくことが証明された。
【0052】
磁気ストリップの引っ張り応力は、ホスフェート層と磁気ストリップとの間にガラス膜を配置することにより更に増大させることができる。本発明によれば、ガラス膜とは、好ましくは主としてMgSiOを含有しかつスルフィドが混和されたセラミックのような層を意味する。ガラス膜は、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素からの完全焼きなまし中に既知の方法により形成されるのが好ましい。
【0053】
本発明の他の態様は、本発明の方法により製造された、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップである。本発明による磁気ストリップは、ホスフェート層内のクロム含有量が0.2重量%より少なく、好ましくは0.1重量%より少ないことを特徴とする。
【0054】
本発明の好ましい実施形態によれば、ガラス膜は、ホスフェート層と磁気ストリップとの間に配置されている。
【0055】
磁気ストリップの上面および/または下面には、ホスフェート層および任意に設けられるガラス膜が配置される。好ましくは、磁気ストリップの上面および下面には、ホスフェート層およびガラス膜が配置される。
【0056】
本発明による方向性磁気ストリップは非常に多くの用途に適しており、変圧器のコア材料として使用することを特に強調しておく。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】同じ溶液中での酸洗い抑制剤の有効性を示すグラフであり、最高の効果は添加剤H15により得られることが示されている。
【図2】同じ溶液中での酸洗い抑制剤の有効性を示すグラフである。
【図3】方法1にしたがって溶液を評価した結果を示すグラフである。
【図4】方法1にしたがって溶液を評価した結果を示すグラフである。
【図5】方法1にしたがって溶液を評価した結果を示すグラフである。
【図6】方法1および2にしたがって22℃で溶液を評価した結果を示すグラフである。
【図7】方法3にしたがって50℃で溶液を評価した結果を示すグラフである。
【図8】磁気損の平均値および特定接触抵抗の平均値と、六価クロム含有絶縁液で処理された基準量のデータとを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、複数の例示実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0059】
種々の添加剤を、次の効果に関して以下に考察する。
・ホスフェート溶液とストリップ表面との相互反応
・コロイド−安定化効果
・ホスフェート溶液の使用特性
【0060】
ここでは、次の方法が適用された。
【0061】
方法1:ホスフェート溶液と磁気ストリップ表面との相互反応の評価
ホスフェート溶液またはホスフェート/コロイド混合物をビーカに入れる。次に、評価すべき添加剤を、撹拌しながら添加する。金属的に裸の表面をもつ計量(重量測定)した磁気ストリップサンプルが溶液中に浸漬し、数回浸漬した後に計量する。この測定値から、重量の減少(酸洗い損)が計算される。この方法は、種々の温度で部分的に行われる。
【0062】
方法2:コロイド−安定化効果の評価
ホスフェート溶液またはホスフェート/コロイド混合物をビーカに入れる。次に、評価すべき添加剤を、撹拌しながら添加する。金属的に裸の表面をもつ計量した磁気ストリップサンプルが溶液中に浸漬する。数回露出した後、溶液の曇りが評価されかつゲル化に関して制御される。試験は種々の温度で行われる。
【0063】
方法3:コロイド−安定化効果の評価
例えば図1に示すように、ゾル/ゲル変換は、粘度計で測定して非常に良い状態にある。
【0064】
方法4:濡れ特性の評価
評価すべき同体積の溶液を、ミリメートルペーパ(millimetre paper、Millimeterpapier(英、独訳))が下に敷かれたガラスディスク上に置く。10分間の実行時間の後、液体が拡散した面積を測定する。この目的のため、面積を円形面積として近似し、円形の直径を面積等価量として与える。
【0065】
例示の実施形態では、次の基礎薬品を使用した。
【0066】
モノアルミニウムホスフェート(Monoaluminium phosphate、Monoaluminiumphosphat(英、独訳):略称 MAL):50M%のAl(HPOを含有する水性Al(HPO
【0067】
脱イオン水: 導電率<15μs/cm
【0068】
モノマグネシウムホスフェート(Monomagnesium phosphate、Monomagnesiumphosphat(英、独訳):略称 MMG):100g75M%のHPOおよび76gの脱イオン水中に溶解された15gのMgO
【0069】
シリカゾル:15nmの平均粒径およびpH9を有する30M%のSiOからなる水性コロイド
【0070】
例示実施形態1:コロイド成分を含まないホスフェート溶液中での酸洗い抑制剤の効果
【0071】
ジエチルチオ尿素(H15)、ブタ−2−イン−1,4−ジオール(But-2-in-1,4-diol)(H31)、ヘキサメチレンテトラアミンおよびプロパルギルアルコール(Prop-2-in-1-ol)(H32)、ブタ−2−イン−1,4−ジオール(But-2-in-1,4-diol)(H33)および脂肪アルコールエトキシレート(H36)をベースとする酸洗い抑制剤が、モノアルミニウムホスフェート溶液(MAL)50%およびモノマグネシウムホスフェート溶液50%中に使用された。
【0072】
【表1】

【0073】
溶液は方法1にしたがって評価され、かつ20時間の作用時間に対する結果が図1および図2に示されている。使用された全ての酸洗い抑制剤が、同じ溶液中で卓越した有効性を有していることが示されている。しかしながら、最高の効果は添加剤H15により得られることが示されている。
【0074】
例示実施形態2:ホスフェート/コロイド混合物中での酸洗い抑制剤の効果
【0075】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0076】
【表2】

【0077】
溶液は、方法1にしたがって評価され、評価の結果が図3に示されている。
【0078】
結果:基本溶液は、鋼サンプルと強く相互反応した。鋼サンプルの重量減少は非常に大きく、このことは、ホスフェート溶液が鉄イオンで強く濃縮されたことを示している。CrOは、溶液中で強い酸洗い抑制効果を有し、したがってホスフェート溶液が鉄イオンで汚染されることが防止される。この効果は、サンプル表面上に明瞭に見ることができる。基本溶液からのサンプルの表面は黒くくすんだ色になっている。CrOが添加された溶液からのサンプル表面は、不変の金属的裸表面を呈している。図3から明らかなように、添加剤H27およびH29は酸洗い抑制剤として作用する。しかしながら、これらの添加剤の酸洗い抑制効果は、CrOより小さい。
【0079】
例示実施形態3:ホスフェート/コロイド混合物中での酸洗い抑制剤の効果
【0080】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0081】
【表3】

【0082】
溶液は方法1にしたがって評価され、評価の結果が図4に示されている。
【0083】
結果:添加剤H15は、CrOに匹敵する効果を呈した。ホスフェート溶液と鋼サンプルとの相互反応は強く抑制された。添加剤H15を含有する溶液からのサンプルの表面は長期間に亘って不変に維持され、一方、基本溶液からのサンプルは強い酸洗い腐食を呈した。
【0084】
例示実施形態4:ホスフェート/コロイド混合物中での酸洗い抑制剤の効果
【0085】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0086】
【表4】

【0087】
溶液は方法1にしたがって評価され、評価の結果が図5に示されている。
【0088】
結果:全ての添加剤は、酸洗い抑制剤として作用する。その効果は三酸化クロムおよび添加剤15の効果より小さい。試験での決定的観察は、添加剤がゾル/ゲル変換の触媒作用ができるということである。換言すれば、酸洗い抑制剤として作用する添加剤は、他方では、ゾル/ゲル変換を加速できるということである。この種類の添加剤はコロイド混合物中で使用することはできない。
【0089】
例示実施形態5:ホスフェート/コロイド混合物中でのコロイド安定剤の効果
【0090】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0091】
【表5】

【0092】
溶液は、方法2にしたがって50℃の温度で評価された。
【0093】
結果:ホスフェート/シリカゾル混合物中の添加剤H15は、上述したように、酸洗い反応の抑制剤となる。しかしながら、H15はコロイドの安定化には寄与しない。一方、添加剤H28は、コロイド系で、重合を明らかに遅延させるべく作用する。3M%の添加により、鋼サンプルは、溶液中に置かれたにもかかわらず、50℃で8時間露出した後は、曇りの度合いが大きく増大しないという事実が得られる。したがって、コロイドは、依然としてゾル/ゲル変換とは離れた状態にある。
【0094】
例示実施形態6:ホスフェート/コロイド混合物中で酸洗い抑制剤とコロイド安定剤とを組合せた効果
【0095】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0096】
【表6】

【0097】
溶液は、方法1および2にしたがって22℃の温度で評価され、その結果が図6に示されている。
【0098】
結果:磁気ストリップサンプルが、添加剤H15を含有するホスフェート溶液に入れたとき、発泡は全く生じなかった。これは、添加剤H15が明らかに酸洗い抑制剤として作用するという事実を示すものである。すなわち、発泡は、酸洗い反応からの水素発生の結果である。
【0099】
コロイド安定剤である添加剤H28は、溶液と鋼表面との化学的相互反応に、図6の強い酸洗い損および溶液表面上の発泡に見られるような効果を全く与えない。しかしながら、添加剤は、ゲルへの変換が遅延するような態様で、ゾル/ゲル変換に作用する。これは、溶液の曇りの度合いから判明できる。添加剤H28を加えたビーカ内の溶液は、添加剤28が存在しないビーカ内の溶液よりも曇りの度合いが明らかに低いことを示している。
【0100】
このことは、特殊効果を有する酸洗い抑制剤は、2つの成分が相互反応せずおよびキャンセルされずまたはコロイド系を乱すことなく、コロイド安定剤およびホスフェート/コロイド混合物の特殊効果と組合せて使用できる。
【0101】
化合物すなわちCrOまたは六価クロム化合物の2つの効果はまた、2つの別々の添加剤により証明される。
【0102】
例示実施形態7:ホスフェート/コロイド混合物中でのコロイド安定剤の効果
【0103】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0104】
【表7】

【0105】
溶液は、方法3にしたがって50℃の温度で評価され、評価の結果が図7に示されている。
【0106】
結果:添加剤H28が添加されたホスフェート溶液は、昇温のゾル/ゲル変換の限界条件および鉄イオンによる溶液の汚染条件の下で、実質的により安定している。ホスフェート/コロイド混合物中のゾル/ゲル変換が3時間後にスタートするとしても、添加剤H28を使用する場合には、変換は約6時間にシフトされる。
【0107】
例示実施形態8:湿潤剤の添加による濡れ能力の改善
【0108】
下記のホスフェート溶液を用意した。
【0109】
【表8】

【0110】
これらの溶液は、方法4にしたがって評価された。
【0111】
【表9】

【0112】
酸洗い抑制剤H15が添加された溶液4、5は、これらの溶液が設けられたミリメートルペーパの濡れ能力を明らかに改善することが示されている。これらの作用は、CrOの作用をも超えるものである。
【0113】
例示実施形態9:本発明による方法の実用生産への適用
【0114】
実用条件下で、下記のホスフェート溶液を使用した。
【0115】
【表10】

【0116】
PowerCore(登録商標)H 0.30 mm形式の約850t磁気ストリップ(高透磁性方向性磁気ストリップ)が、このホスフェート溶液で処理された。磁気損P1.7(W/kg)の平均値および特定接触抵抗の平均値が品質上の特徴として測定され、かつCr(VI)含有絶縁液で処理された約20,000tの基準量のデータと比較された(図8参照)。
【0117】
【表11】

【符号の説明】
【0118】
MMG モノマグネシウムホスフェート
MAL モノアルミニウムホスフェート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加剤としてコロイド成分および少なくとも1つのコロイド安定剤(A)を含有するホスフェート溶液が磁気ストリップに塗布されることを特徴とする、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップの製造方法。
【請求項2】
酸洗い抑制剤(B)および湿潤剤(C)からなる群から選択された少なくとも1つの添加剤を含有するホスフェート溶液が、磁気ストリップに塗布されることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
六価クロム含有量が0.2重量%より少ない、好ましくは0.1重量%より少ないホスフェート溶液が使用されることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド安定剤(A)として、リン酸エステル、好ましくはモノエチルホスフェートおよび/またはジエチルホスフェートが使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸洗い抑制剤(B)として、チオ尿素誘導体、C2−10−アルキノール、トリアジン誘導体、チオグリコール酸、C1−4−アルキルアミン、ヒドロキシ−C2−8−チオカルボン酸および/または脂肪アルコールポリグリコールエーテルが使用されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸洗い抑制剤(B)として、ジエチルチオ尿素、プロパルギルアルコール、ブチン−1,4−ジオール、チオグリコール酸および/またはヘキサメチレンテトラミンが使用されることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
前記湿潤剤(C)として、フルオロ界面活性剤、好ましくはテトラエチルアンモニウム ペルフルオロオクタン スルホネートが使用されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1つの酸洗い抑制剤(B)および少なくとも1つの湿潤剤(C)を含有するホスフェート溶液が使用されることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
前記コロイド安定剤(A)は0.001〜20重量%の量で使用され、酸洗い抑制剤(B)は0.001〜10重量%の量で使用されおよび/または湿潤剤(C)は0.0001〜5重量%の量で使用され、各場合の量は、ホスフェート溶液の全重量に基づいて定められた量であることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
アルミニウムホスフェートおよび/またはマグネシウムホスフェートを含有するホスフェート溶液が、磁気ストリップに塗布されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
コロイド成分として、コロイド二酸化ケイ素が使用されることを特徴とする請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
pH<3、好ましくは1≦pH≦2のホスフェート溶液が磁気ストリップに塗布されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
前記ホスフェート層と磁気ストリップとの間にガラス膜が貼りつけられることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項14】
前記ホスフェート溶液が塗布された磁気ストリップは、800℃より高い温度で焼付けられることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の方法により製造されることを特徴とする、ホスフェート層で被覆された方向性磁気ストリップ。
【請求項16】
前記ホスフェート層内のクロム含有量は0.2重量%より少なく、好ましくは0.1重量%より少ないことを特徴とする請求項15記載の方向性磁気ストリップ。
【請求項17】
ホスフェート層と磁気ストリップとの間には、ガラス膜が施されていることを特徴とする請求項15または16記載の方向性磁気ストリップ。
【請求項18】
前記磁気ストリップの上面および下面にはホスフェート層および/またはガラス膜が施されていることを特徴とする請求項17記載の方向性磁気ストリップ。
【請求項19】
変圧器のコア材料として使用することを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項記載の方向性磁気ストリップの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−515573(P2011−515573A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546328(P2010−546328)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051627
【国際公開番号】WO2009/101129
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(591010893)ティッセンクルップ エレクトリカル スティール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】Thyssenkrupp Electikal Steel GmbH
【Fターム(参考)】