説明

方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液および絶縁被膜付方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】絶縁被膜処理液をクロムフリーとした場合に問題となる被膜張力および耐吸湿性の低下を防止し、方向性電磁鋼板の絶縁被膜として必要な特性、すなわち被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率が、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液を用いた場合に匹敵する、方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液を提案する。
【解決手段】 Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、この選択した該リン酸塩中のPO4を基準とし、該PO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液を用いた場合と同等の被膜特性を有する絶縁被膜付方向性電磁鋼板が得られるクロムフリー絶縁被膜処理液、およびこのクロムフリー絶縁被膜処理液を用いた絶縁被膜付方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力用変圧器から発生する騒音が公害として問題となっている。電力用変圧器の騒音の主原因は、変圧器の鉄心材料として用いられる方向性電磁鋼板の磁歪であることが知られている。変圧器の騒音を減らすためには、方向性電磁鋼板の磁歪を小さくすることが必要であり、工業上有利な解決方法は、方向性電磁鋼板に絶縁被膜を被覆することである。方向性電磁鋼板の絶縁被膜に必要とされる特性として、被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率がある。これらの特性のなかで、磁歪の低減には、被膜張力を確保することが重要である。ここで、被膜張力とは、絶縁被膜の形成によって方向性電磁鋼板に付与される張力のことである。
【0003】
方向性電磁鋼板の被膜は、通常、二次再結晶焼鈍により形成された結晶質のフォルステライト被膜と、その上に施されるリン酸塩系の絶縁被膜から成り立っている。この絶縁被膜を形成する従来の方法は、特許文献1および特許文献2に開示されているように、コロイド状シリカとリン酸塩、さらに無水クロム酸、クロム酸塩および重クロム酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する絶縁被膜処理液を塗布、焼付けをするものである。
これらの方法によって形成される絶縁被膜は、方向性電磁鋼板に引張応力を与え、磁歪特性を改善する効果を有する。しかし、これらの絶縁被膜処理液は、絶縁被膜の耐吸湿性を良好に維持するための成分として、無水クロム酸、クロム酸塩または重クロム酸塩などのクロム化合物を含み、これらに由来する6価クロムを含有する。絶縁被膜処理液中に含まれる6価クロムは、焼付けにより3価クロムに還元されて無害化されるが、廃液処理作業において取り扱いが難しいなどの問題があった。
【特許文献1】特開昭48-39338号公報
【特許文献2】特開昭50-79442号公報
【0004】
一方、クロムフリーの方向性電磁鋼板用絶縁被膜処理液として、特許文献3には、コロイド状シリカ、リン酸アルミニウム、ホウ酸、およびMg、Al、Fe、Co、NiおよびZnの硫酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する絶縁被膜処理液が、特許文献4には、コロイド状シリカ、リン酸マグネシウム、およびMg、Al、MnおよびZnの硫酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する絶縁被膜処理液が開示されている。しかしながら、特許文献3および特許文献4の絶縁被膜処理液を用いた場合には、近年の被膜特性に対する要求に対して、被膜張力、耐吸湿性の点で問題があった。
【特許文献3】特公昭57-9631号公報
【特許文献4】特公昭58-44744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、絶縁被膜処理液をクロムフリー化した場合に問題となる被膜張力および耐吸湿性の低下を防止し、方向性電磁鋼板の絶縁被膜として必要な特性、すなわち被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率が、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液を用いた場合と遜色のないものが得られる、方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液を、この方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液を用いた絶縁被膜付方向性電磁鋼板の製造方法とあわせて提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
さて、上記の課題を解決すべく、発明者らは、クロムフリー絶縁被膜処理液を用いて、所望の被膜張力および耐吸湿性を有する方向性電磁鋼板を得るために、種々の検討を行った。
すなわち、リン酸塩およびコロイド状シリカを含有した絶縁被膜処理液に種々の金属化合物を添加し、二次再結晶焼鈍後の方向性電磁鋼板に塗布・焼付けした後の被膜特性について調査した。
その結果、金属化合物として、水溶性のバナジウム化合物を添加することにより、所期した目的が有利に達成することを見出した。
本発明は、上記知見に立脚するものである。
【0007】
なお、バナジウム化合物を含有する絶縁被膜処理液として、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液が、特許文献5に開示されている。この特許文献5に開示の絶縁被膜処理液においてバナジウム化合物は、方向性電磁鋼板を変圧器の鉄心に使用する際、鉄心の加工性を向上させるために添加されるものである。具体的には、絶縁被膜の滑り性および潤滑性を改善するものである。つまり、特許文献5の場合は、主に鉄心の加工性を改善するためにバナジウム化合物を配合するものであり、本発明とは添加の目的が根本的に異なる。
【特許文献5】特許第2791812号公報
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、この選択した該リン酸塩中のPO4を基準とし、該PO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合することを特徴とする方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液。
【0009】
(2)方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで一次再結晶焼鈍後、必要に応じてMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍を施し、さらに絶縁被膜処理液を塗布したのち、焼付け処理を行う一連の工程により、方向性電磁鋼板を製造するに際し、
上記絶縁被膜処理液として、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、この選択した該リン酸塩中のPO4を基準とし、該PO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用いることを特徴とする絶縁被膜付方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のクロムフリー絶縁被膜処理液によれば、有害なクロム化合物の廃液を発生させることなく、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液を用いた場合に匹敵する、優れた被膜特性を有する絶縁被膜付方向性電磁鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
まず、絶縁被膜処理液として、リン酸マグネシウムMg(H2PO4)2の34mass%水溶液:450ml(PO4:1mol)に対して、SiO2:30mass%のコロイド状シリカ450ml(SiO2:2mol)および硫酸バナジウムを種々の割合(V換算で0.02〜3mol)で配合したものを用意した。
これらの絶縁被膜処理液を、フォルステライト被膜を有する二次再結晶焼鈍後の板厚:0.20mmの方向性電磁鋼板に塗布し、800℃の温度で60秒の焼付け処理を施した。焼付け処理後の被膜厚さはいずれも、2μm(片面)とした。かくして得られた方向性電磁鋼板について、次に示す方法により、被膜張力、耐吸湿性および防錆性を評価した。
被膜張力σは、鋼板を30mm×280mmにせん断して、片面の絶縁被膜を除去した後、鋼板の片端30mmを固定して鋼板の反りを測定し、以下の式から求めた。
σ(MPa)=121520(MPa)×板厚(mm)×反り(mm)/250(mm)/250(mm)
耐吸湿性は、50mm×50mmの試験片3枚を、100℃の蒸留水中で5分間浸漬煮沸して、被膜表面から溶出したPを定量分析し、平均値で評価した。
防錆性は、湿度50%、露点50℃の空気中に鋼板を50時間保持したのち、鋼板表面を観察し、さびの発生がないものを○、点錆びが発生したものを△、面錆が発生したものを×として評価した。
【0012】
結果を、図1〜3に示す。
図1に、耐吸湿性に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響を、図2に、防錆性に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響を、および図3に、被膜張力に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響をそれぞれ示す。硫酸バナジウムの添加量(V換算)が、PO4:1molに対して0.1mol以上の場合、耐吸湿性および防錆性が共に著しく改善され、被膜張力は、わずかに増加し安定して高位を保つ傾向であった。一方、添加量が2molを超えた場合には、耐吸湿性は問題なかったものの防錆性が劣化し、また被膜張力は、若干減少する傾向を示した。
【0013】
次に、本発明の限定理由について説明する。
本発明の絶縁被膜処理液は、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから1種または2種以上を含有する。これは、これら以外のリン酸塩では、無水クロム酸類を添加しない場合には、耐吸湿性の良好な被膜が得られないからである。特に、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnの第一リン酸塩であるMg(H2PO4)2、Ca(H2PO4)2、Ba(H2PO4)2、Sr(H2PO4)2、Zn(H2PO4)2、Al(H2PO4)2およびMn(H2PO4)2は、水に容易に溶解するため好適である。また、これらの第一リン酸塩の水和物も同様に好適である。
【0014】
上記のリン酸塩中のPO4:1molに対して、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10mol配合する。コロイド状シリカは、上記リン酸塩と共に低熱膨張率のガラス質を形成して被膜張力を発生するため、必須の物質である。コロイド状シリカは、溶液の安定性、相溶性が得られる限り、特に限定はされない。例えば、市販の酸性タイプであるST-0(日産化学(株)製 SiO2含有量:20mass%)が挙げられるが、アルカリ性タイプのコロイド状シリカでも使用することができる。
【0015】
本発明では、絶縁被膜の耐吸湿性を改善するために、リン酸塩中のPO4:1molに対して、水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合することが特に重要である。
かような水溶性のバナジウム化合物としては、硫酸バナジウム、塩化バナジウム、臭化バナジウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムおよびバナジン酸リチウムなどが有利に適合し、またこれらの水和物を用いることもできる。良好な耐吸湿性を得るためには、絶縁被膜処理液に含まれるリン酸塩中のPO4:1molに対して、水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1mol以上配合することが必要である。一方2.0molを超えて配合すると、防錆性が劣化する。これは、被膜の微小クラックが原因であると推定される。バナジウム化合物の、より好適な配合量は、V換算で1.0〜2.0molである。
【0016】
また、本発明の絶縁被膜処理液に、方向性電磁鋼板の耐融着性や滑り性を向上させるために、1次粒径:50〜2000nmのSiO2、Al2O3およびTiO2のうちから選ばれる1種または2種以上を含有しても良い。
これは、方向性電磁鋼板が巻鉄心型の変圧機に用いられる場合、鋼板が巻かれ、鉄心の形に成形された後、歪取焼鈍が施される。その際、隣接する被膜同士で融着することがある。このような融着は、鉄心の層間絶縁抵抗を低下させることになり、磁気特性を劣化させる原因となるため、絶縁被膜には、耐融着性を付与させることが望ましいからである。
また、方向性電磁鋼板が積鉄心型の変圧器に用いられる場合、積み作業を円滑に行うためには、鋼板同士の滑り性を良好にすることが望ましいからである。
【0017】
なお、前記特許文献5に開示のクロム化合物を含有する絶縁被膜処理液において、バナジウム化合物を配合する理由は、本発明のクロムフリー絶縁被膜処理液における、上記のSiO2、Al2O3およびTiO2と同様に、鉄心の製造性を向上させるためであるのに対し、本発明の絶縁被膜処理液において、バナジウム化合物を配合する理由は、クロムフリー絶縁被膜の被膜特性を改善するためであり、両者でその目的が大きく異なる。
また、特許文献5に開示されている絶縁被膜処理液に配合されるバナジウム化合物が、コロイド状であるのに対して、本発明で配合されるバナジウム化合物は、水溶性である。水溶性のバナジウム化合物は、コロイド状のバナジウム化合物に比べてMg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩と混合した時点でリン酸の吸湿性の改善効果が発現するという点で大きな違いがある。
【0018】
次に、本発明のクロムフリー絶縁被膜処理液を用いた方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明では、方向性電磁鋼板用スラブに熱間圧延を施し、焼鈍および冷間圧延によって最終板厚とし、一次再結晶焼鈍および二次再結晶焼鈍を施した後、上述の絶縁被膜処理液を塗布し、次いで350℃以上の温度で焼付け処理を行う。
【0019】
本発明において、方向性電磁鋼板の成分組成は、特に制限されることはなく、従来公知の成分系いずれもが適合する。また、製造方法についても特に制限されることはなく、従来公知の製造方法いずれをも使用することができる。ちなみに、スラブの主要成分であるC:0.08mass%以下、Si:2.0〜3.5mass%およびMn:0.03〜0.3mass%の他に、インヒビターとしてMnSを用いる場合は、S:200ppm程度、AlNを用いる場合は、sol.Al:200ppm程度、およびMnSeとSbを用いる場合は、Mn、SeおよびSbを添加することができる。
【0020】
このようにして製作された方向性電磁鋼板用スラブは、熱間圧延される。熱間圧延後の板厚は、1.5〜3.0mm程度とするのが望ましい。熱延板には、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚に仕上げ、ついで一次再結晶焼鈍後、二次再結晶焼鈍(最終仕上げ焼鈍)を施し、さらに絶縁被膜処理を塗布したのち、350℃以上の温度で焼付け処理を行う。
【0021】
一次再結晶焼鈍は、脱炭を兼ねて行うことができ、800〜950℃の温度で10〜600秒間、連続焼鈍をすることが望ましい。一次再結晶焼鈍中、あるいは一次再結晶焼鈍後に、アンモニアガス等を用いて窒化処理を施してもよい。
【0022】
二次再結晶焼鈍は、一次再結晶焼鈍で得た結晶粒を、二次再結晶によって圧延方向に磁気特性が優れる結晶方位、いわゆるゴス方位に優先的に成長させる工程であり、800〜1250℃の温度で5〜600時間程度とすることが望ましい。
【0023】
また、近年では、方向性電磁鋼板の鉄損を、より一層改善することを目的として、フォルステライト被膜が形成されていない状態で絶縁被膜処理をすることも検討されているが、本発明のクロムフリー絶縁処理被膜処理液は、フォルステライト被膜の有無にかかわらず適用することができる。
【0024】
上記のような一連の工程を経て製作した二次再結晶後の方向性電磁鋼板に、本発明のクロムフリー絶縁被膜処理液を塗布して焼付け処理を行う。
クロムフリー絶縁被膜処理液は、塗布性の向上のために、水を加えて希釈し密度を調整しても良い。また、塗布する際には、ロールコーターなど、公知の方法を使用することができる。
焼付け温度は、750℃以上であることが望ましい。これは、750℃以上で焼付けることによって、被膜張力が発生するからである。ただし、方向性電磁鋼板が変圧器の鉄心に使用される場合、焼付け温度は、350℃以上であれば良い。これは、鉄心の製造に際しては、800℃の温度で3時間程度の歪取焼鈍が施されることが多いが、この場合、被膜張力は、この歪取焼鈍時に発現するからである。
【0025】
なお、絶縁被膜の厚さは、特に限定されないが、1〜5μm程度が好適である。被膜張力は被膜の厚さに比例するため、1μm未満では、被膜張力が不足する。一方5μmを超えると占積率が低下する。
【実施例1】
【0026】
C:0.06mass%、Si:3.4mass%、sol.Al:0.03mass%、Mn:0.06mass%およびSe:0.02mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成なる方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延して板厚:2.3mmとし、1050℃の温度で60秒の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により中間板厚:1.4mmとし、1100℃、60秒の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.20mmとした。この冷間圧延板に、脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を820℃の温度で150秒施した後、焼鈍分離剤であるMgOスラリーを塗布してから、1200℃、12時間の二次再結晶焼鈍を施すことにより、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。
次に、リン酸マグネシウムMg(H2PO4)2中のPO4:1molを含有する水溶液500mlに対して、SiO2換算で3molを含有するコロイド状シリカ700ml、および表1に示すバナジウム化合物を配合したクロムフリー絶縁被膜処理を、二次再結晶焼鈍後の方向性電磁鋼板に塗布し、焼付け処理を850℃の温度で1分間施した。
【0027】
また、比較例として、上記のクロムフリー絶縁被膜処理液中にバナジウム化合物を配合しなかったもの、バナジウム化合物の代わりに硫酸マグネシウムの七水和物:1molを配合したもの、およびV換算で0.2molのコロイド状V2O5を30ml配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用いて、それぞれ同様に絶縁被膜付方向性電磁鋼板を製作した。
さらに、クロム化合物を含有する絶縁被膜処理液を用いた従来例として、リン酸マグネシウムMg(H2PO4)2中のPO4:1molに対して、SiO2換算で3molのコロイド状シリカ700ml、Cr換算で0.1molの重クロム酸カリウムを配合した絶縁被膜処理液を用いて絶縁被膜付方向性電磁鋼板を製作した。
【0028】
得られた絶縁被膜付方向性電磁鋼板について、次に示す方法により、被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率を評価した。なお、いずれの場合も被膜厚さは2μm(片面)であった。
被膜張力σは、鋼板を30mm×280mmにせん断して、片面の絶縁被膜を除去した後、鋼板の片端30mmを固定して鋼板の反りを測定し、以下の式から求めた。本発明で目標とする鋼板への被膜張力σは、8MPa以上であるが、被膜厚等により変化するものであり、
σ(MPa)=121520(MPa)×板厚(mm)×反り(mm)/250(mm)/250(mm)
で求められる。
耐吸湿性は、50mm×50mmの試験片3枚を、100℃の蒸留水中で5分間浸漬煮沸して、被膜表面から溶出したPを定量分析し、平均値で評価した。本発明で目標とするP溶出量は、80μg/150cm2以下である。
防錆性は、湿度50%、露点50℃の空気中に鋼板を50時間保持したのち、鋼板表面を観察し、さびの発生がないものを○、若干錆びが発生したもの(点錆)を△、錆が激しいもの(面錆)を×として評価した。
占積率は、JIS C 2550に準拠する方法で評価した。
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
同表に示したとおり、本発明に従いバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用いた場合には、従来のクロムフリー絶縁被膜処理液において課題であった被膜張力および耐吸湿性が著しく改善され、クロムを含有する絶縁被膜処理液の場合に匹敵する特性となった。また、防錆性および占積率にも優れていた。
なお、比較例5は、本発明に比べると防錆性に劣っているが、この理由は、比較例5では、バナジウム化合物をコロイド状で添加しているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】耐吸湿性に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響を示すグラフである。
【図2】防錆性に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響を示すグラフである。
【図3】被膜張力に及ぼす硫酸バナジウム添加量の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、この選択した該リン酸塩中のPO4を基準とし、該PO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合することを特徴とする方向性電磁鋼板用クロムフリー絶縁被膜処理液。
【請求項2】
方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで一次再結晶焼鈍後、必要に応じてMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍を施し、さらに絶縁被膜処理液を塗布したのち、焼付け処理を行う一連の工程により、方向性電磁鋼板を製造するに際し、
上記絶縁被膜処理液として、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、この選択した該リン酸塩中のPO4を基準とし、該PO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5〜10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1〜2.0mol配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用いることを特徴とする絶縁被膜付方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−41074(P2009−41074A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207674(P2007−207674)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】