説明

方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度の評価方法

【課題】方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度を、200〜500℃における重量変化を用いることにより、評価する方法を提供する。
【解決手段】方向性電磁鋼板に用いる焼鈍分離剤の水和度を熱重量分析法で200℃〜500℃における重量変化を評価することにより評価する。これらの水和度に基づいて、焼鈍分離剤の水和度のレベル管理を行うことにより、被膜特性に優れた方向性電磁鋼板の歩留まりを高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板に用いる焼鈍分離剤の水和度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板は、Si:2.5〜4.0%を含むスラブを熱延し、焼鈍と1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷延により、最終板厚とされる。次いで、連続焼鈍炉において、水素ガス、または水素ガスと窒素ガスの混合雰囲気中で脱炭焼鈍を行い、脱炭とともに、一次再結晶およびSiO2を主体とする表面酸化層形成を生じさせる。
【0003】
その後、MgOなどからなる焼鈍分離剤を水に懸濁させスラリー状として、それを鋼板上に塗布し、乾燥後、コイル状に巻き取り、最終仕上げ焼鈍を行い、絶縁被膜処理とヒートフラットニングにより最終製品とされる。仕上げ焼鈍工程において、MgOなどからなる焼鈍分離剤は、コイル状の鋼板間の焼き付けを防止するだけでなく、脱炭焼鈍で形成したSiO2などからなる表面酸化膜と反応し、グラス被膜を形成する。
【0004】
焼鈍分離剤の素材は、一般に、MgCl2または海水などを原料として得られるMgO主体の粉末であり、必要に応じて少量のTiO2等が添加される。焼鈍分離剤は、素材粉末を水に懸濁させてスラリー状にして鋼板に塗布されるが、この際、MgOの一部は水和して、Mg(OH)2を形成する。Mg(OH)2が過剰に生じると、コイル内に水分を持ち込むため、仕上げ焼鈍過程で鋼板の過剰な酸化が起こり、被膜欠陥が起こり易くなる。
【0005】
一方、Mg(OH)2が少ない場合には、グラス被膜の形成の反応性が低下し、被膜不良が起こり易くなる。これらのグラス被膜の改善技術としては、特許文献1〜3に、焼鈍分離剤が提案されている。さらに、焼鈍分離剤の水和度の評価は、従来、1000℃で1時間の加熱による焼鈍分離剤の重量減少量の測定などにより行われてきた。
【0006】
これにより求められる水和度X1(重量%)は、加熱前後の焼鈍分離剤の重さを、それぞれ、WiとWfとしたとき、
X1=(Wi−Wf)/Wi×100
で与えられる。このような水和度の評価方法は、例えば、特許文献4に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭55−73823号公報
【特許文献2】特開昭62−156226号公報
【特許文献3】特開平8−143975号公報
【特許文献4】特開平10−88241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、加熱による重量減少量を用いて、焼鈍分離剤の水和度を評価する従来の方法では、焼鈍分離剤の中の水和成分だけではなく、吸着水や炭酸ガスなどの加熱による放出量も測定している。このため、従来の評価方法による測定結果には、焼鈍分離剤中の水和成分以外の情報が含まれているという問題があった。本発明は、焼鈍分離剤の水和度を精度高く評価する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するために、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤を200℃から500℃まで加熱したときの重量減少量を測定することを特徴とする方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度の評価方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の評価方法によって、焼鈍分離剤の水和度を精度良く評価できるようになった。さらに、この水和度に基づいて、水和度のレベル管理を行うことにより、被膜特性に優れた方向性電磁鋼板の歩留まりを高めることができ、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の評価、生産上の効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、方向性電磁鋼板において良好なグラス被膜を形成するに必要な焼鈍分離剤の水和度を評価するために、熱重量分析法において、特定の測定条件下で得られる測定情報を利用した。ここで、水和度とは、焼鈍分離材が脱炭焼鈍板の表面と反応し、良好なグラス被膜を作るために必要な実効的な成分であり、それぞれの評価方法によって水和度が定義される。
【0012】
従来の単純な高温までの加熱によって水和度を評価する方法では、焼鈍分離剤に入っている吸着水や不純物が加熱中の放出されるガス量に影響している。吸着水や不純物の量は焼鈍分離剤によって異なっており、これが水和度を評価する上での誤差要因となっていることが多い。
【0013】
熱重量分析法により、焼鈍分離剤の水和度を評価する方法について述べる。この方法では、鋼板に塗布する一定量の焼鈍分離剤を採取し、熱重量分析法により、200℃から500℃まで加熱する。焼鈍分離剤の加熱前後での重量減少量を用いて、焼鈍分離剤の水和度を評価する。すなわち、200℃と500℃での重量を、それぞれ、W200とW500とすると、水和度X3(重量%)は次のように定義される。
X3=(W200−W500)/W200×100
【0014】
加熱温度範囲はとしては、200℃から500℃としたが、開始温度と終了温度には50℃の幅を持たせてもよい。この熱重量分析法では、200℃までの加熱中に、吸着水が焼鈍分離材から放出される。また、500℃以上での加熱中には、焼鈍分離剤に含まれるCO2などのガス成分が放出される。このため、焼鈍分離剤中の水和度は、200℃から500までの加熱により評価することができる。この方法による誤差要因としては、200℃から500℃で放出されるガス成分の影響がある。
【実施例】
【0015】
本発明における方向性電磁鋼板に用いられる焼鈍分離剤の評価方法の実施例について説明する。重量%でC:0.08、Si:3.2、Mn:0.08、S:0.02、Cu:0.07、Sn:0.06、Al:0.03、N:0.008、残部を不可避的不純物とFeからなる高磁束密度方向性電磁鋼板の素材スラブを、公知の方法で、熱延−焼鈍−酸洗−冷延−により、最終板厚0.23mmとした。
【0016】
この鋼板を、窒素ガス25%と水素ガス75%の混合ガス中で、露点65℃の湿潤雰囲気中で、850℃の温度で120秒間の脱炭焼鈍を行った。次いで、グラス形成促進剤として、TiO2とNa247を添加した原料粉MgOを水に懸濁し、水和時間を変えて、様々に水和度を変えた。
【0017】
それらの焼鈍分離剤について、大気中で、1000℃の均熱温度で1時間加熱による重量減少量(相対値)を評価する比較法(従来法)により評価した水和度、および、本発明により200℃から500℃まで加熱したときの重量減少量(相対値)で評価した水和度の関係を図1に示す。
【0018】
この図において、比較法による水和度の評価では、被膜特性の良否の変化が水和度に対しある程度の幅を持っているのに対し、本発明による水和度の評価では、被膜特性の良否が水和度とともに鋭く変化している。本発明による水和度の値は高く、これは、本発明による熱重量分析法の測定温度範囲においても、水和成分以外のガス成分の放出が重量変化に寄与しているためと考えられる。
【0019】
このように、本発明によって評価される焼鈍分離材の水和度は、方向性電磁鋼板の被膜特性の良否と良い相関がある。従って、本発明により焼鈍分離剤の水和度を評価し、仕上げ焼鈍によって良好なグラス被膜が得られるように、水和度のレベル管理(例えば、水和時間の調整)を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】様々に水和した焼鈍分離剤の水和度を、大気中で1000℃、均熱1時間、加熱による重量減少量(相対値)を評価する比較法(従来法)により評価した結果、および、本発明により200℃から500℃まで加熱したときの重量減少量(相対値)で評価した結果の関係を示す図である。図中の黒丸印は被膜良好、−は被膜不良、黒三角印はその中間状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤を200℃から500℃まで加熱したときの重量減少量を測定することを特徴とする方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度の評価方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−92664(P2009−92664A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281538(P2008−281538)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【分割の表示】特願2000−276799(P2000−276799)の分割
【原出願日】平成12年9月12日(2000.9.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】