説明

方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤スラリーの調整方法および方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】脱炭焼鈍後の方向性電磁鋼板の表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、スラリーの性状を迅速に評価して、操業中にスラリーの継ぎ足しが必要となった場合でも、継ぎ足しの前後でスラリー性状に変化を生じさせることのないスラリーの調整方法を提供することを目的とする。
【解決手段】使用途中の粘度が0.020〜0.300 Pa・sのスラリーに対し、新規に調合した粘度が同じく0.020〜0.300Pa・sのスラリーを継ぎ足すに際し、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を前記使用途中のスラリーのゼータ電位の±10mV以内に調整した後に継ぎ足す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造に用いられるマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、使用途中のスラリーに新規に調合したスラリーを継ぎ足す際の調整方法と、その調整方法を用いた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の製造工程は、所定の成分組成に調整した鋼スラブを熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで脱炭一次再結晶焼鈍後、最終仕上焼鈍を行うのが一般的である。
これらの工程のうち、最終仕上焼鈍では1200℃という高温で処理を行うことから、コイルの焼付きを防止するため、焼鈍分離剤として、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布するのが通例である。また、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤は、かような役割のほかに、脱炭一次再結晶焼鈍時に鋼板表面に生成するシリカを主体とする酸化層と反応してフォルステライト被膜を形成させるという働きもある。このようにして形成されたフォルステライト被膜は、上塗りされる絶縁被膜(多くはリン酸系絶縁被膜)と地鉄部分とを密着させる一種のバインダーとしての働きや、鋼板に張力を付与することにより磁気特性を向上させる働き、鋼板被膜外観を均一化する働きなどがあり、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤は、方向性電磁鋼板の製造の中で重要な役割を果たしている。
【0003】
マグネシアを主体とする焼鈍分離剤の塗布工程は、通常、マグネシアを主体とする粉体に水を加えて懸濁させて撹拌させることによりスラリー化し、これをロールコーターにより鋼板表面に塗布して乾燥炉で乾燥させた後にコイルに巻き取る。この塗布工程では、スラリーの粘度を調整することが重要である。
スラリーの粘度が低すぎる場合には、鋼板表面へのスラリーの塗布性や付着性が低下することによって鋼板表面にさざ波状の塗布むらが生じる。また、スラリーの塗布時に、コーター溝の模様が転写されることによって、最終仕上焼鈍後のフォルステライト被膜に模様が残る不具合を招く。さらに、スラリーの塗布むらに起因して、最終仕上焼鈍後のフォルステライト被膜の膜厚が鋼板内で不均一となるため、最終仕上焼鈍後のコイルの形状が変形して、鋼板形状が不均一となる場合もある。
一方、スラリーの粘度が高すぎる場合には、塗布設備の配管内でスラリーの詰まりが生じ、高速での均一な塗布が困難となるため、仕上焼鈍後のフォルステライト被膜の外観にむらを生じる。スラリーの詰まりが著しい場合には、設備トラブルを招くに至る。
また、スラリーの粘度が塗布中に変化した場合、スラリーを塗布した時刻によってフォルステライト被膜の品質に差異が発生するという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1には、スラリー中に炭酸ガスあるいはドライアイスを添加し、スラリーの粘度を一定の範囲に管理する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭55−110732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるスラリー中に炭酸ガスあるいはドライアイスを添加する方法には、マグネシアが炭酸マグネシウムに変化し、コイル層間の雰囲気中のカーボンポテンシャルが上昇し、最終仕上焼鈍後の鋼中炭素量が上昇して磁気時効を招くという問題があった。
【0006】
また、スラリーは塗布設備に備えられたスラリータンク内での使用途中のスラリーに対して、別途、新規に調合したスラリーを定期的に継ぎ足して使用される。しかしながら、新規に調合するスラリーの粘度を、使用途中のスラリーと同じ粘度に調整した場合でも、継ぎ足し直後から粘度が変化して、スラリーの塗布むらや、塗布設備の配管内でのスラリー詰まりといった問題を生じる場合があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、スラリーの性状を迅速に評価して、操業中にスラリーの継ぎ足しが必要となった場合でも、継ぎ足しの前後でスラリー性状に変化を生じさせることのないスラリーの調整方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の調整方法を使用することによって、操業中にスラリーの継ぎ足しが生じた場合であっても、コイル全長にわたって均一な被膜外観および形状を得ることができる方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、発明者らは、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリー化したときの粘度に及ぼすpH、ゼータ電位およびマグネシアの等電点の影響について調査した。その結果、調合直後のスラリーのゼータ電位は、マグネシアの保管状態によって時間経過とともに変化するが、やがては、マグネシアの保管状態に左右されない個々のマグネシアに固有の一定値に収束することが判明した。そして、迅速に測定することができるゼータ電位を指標として、継ぎ足す側のスラリーのゼータ電位が、スラリータンク内に残存するスラリーのゼータ電位(ほぼ収束値に一致)に対して±10mV以内の範囲のときにスラリータンクに継ぎ足すことによって、継ぎ足し前後でスラリータンク内のスラリーの粘度が大きく変化しないことを見出した。
また、上記した本発明の調整方法を使用すれば、方向性電磁鋼板の製造に際し、操業中にスラリーの継ぎ足しを行った場合でも、スラリーの継ぎ足し前後で方向性電磁鋼板の表面品質にばらつきが生じないことを知見したのである。
【0009】
以下、本発明の契機となった、調合直後のスラリーのゼータ電位が、時間の経過とともに一定値に収束することを見出した実験について説明する。
【0010】
(実験1)
倉庫内で保管したマグネシアAと、デシケータ内で保管したマグネシアBを、各100g準備し、それぞれ500mlのスラリーとなるように、30℃の水を加えた。なお、これらのマグネシア(MgO)は、同一の製造履歴をもつ粉体で、保管方法のみが異なるものである。これらをジューサーミキサーで1分間撹拌してスラリー化したのち、ウォーターバスで液温30℃に保ったままマグネチックスターラーで毎分120回転の速度で撹拌しながらスラリーのゼータ電位の変化を、米国メーテックアプライドサイエンス社製ゼータ電位測定器ESA-9800を用いて測定した。なお、ESA-9800は、電極間に高周波の交流の電場を供給し、粒子を振動させることで発生する波の圧力振幅値からゼータ電位を測定するものである。
【0011】
測定結果を図1に示す。
マグネシアAから調合したスラリーは初期のゼータ電位が高く、時間の経過とともに低下し、一定値に収束した。一方、マグネシアBから調合したスラリーは逆に初期のゼータ電位が低く、時間の経過とともに高くなり、一定値に収束した。なお、マグネシアAから調合したスラリーおよびマグネシアBから調合したスラリーともに、ゼータ電位の収束値は一致した。
【0012】
このような挙動の違いが発生する理由は明らかではないが、発明者らは、次のように推測している。
化学総説 No.7 P.111-132(1975)に示されるように、金属酸化物に水を加えてスラリーとした場合、水中で水和し、金属酸化物の表面には水和基が存在する。この水和基はさらに、水素イオンを放出してマイナスに帯電する場合もあれば、水素イオンを吸着してプラスに帯電する場合もある。どちらに帯電しやすいかは、金属酸化物の等電点と水のpHとの関係に依存する。
マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとした場合、水がマグネシアの等電点よりも酸性側では、マグネシア表面の水和基が水素イオンを吸着することによってプラスに帯電し、水がマグネシアの等電点よりも塩基性では、マグネシアの水和基から水素イオンが放出されることによってマイナスに帯電する。なお、マグネシアの等電点は、マグネシアの表面におけるMg原子、O原子や格子欠陥などの状態によって決まるものである。
スラリー中のマグネシアの帯電状態を示すゼータ電位は、マグネシアの等電点と水のpHとの関係で決められるのが一般的であるが、スラリーのゼータ電位が、時間の経過とともにどのように変化するかは、良く知られていないのが実情であったため、本実験で詳細に調査した。
【0013】
本実験の場合、マグネシアに加えた水は、マグネシアAおよびBのいずれの等電点よりも酸性側であったため、いずれのマグネシアから生成したスラリーとも、プラスに帯電、すなわちゼータ電位はプラスであった。しかし、その数値は、それぞれで異なっていた。
倉庫に保管されていたマグネシアAは、空気中で放置されていたことにより、吸湿して表面に多数の水和基をもっていた。従って、マグネシアAに水を加えてスラリーとした際に、マグネシア表面に存在していた多数の水和基が、加えた水から多数の水素イオンを吸着することとなり、高いゼータ電位を示した。その後、過剰に吸着していた水酸基が、平衡状態へと戻るために脱離することによって、次第にマグネシア表面に存在していた水和基が失われゼータ電位が低下し、最終的には、平衡状態に達した。
一方、デシケータ内に保管されていたマグネシアBの場合は、表面に存在する水和基が少量であったことから、マグネシアBに水を加えた際に、マグネシアの表面の水和基が吸着する水素イオンが少量であったため、スラリーとした直後であってもゼータ電位は低かった。その後、マグネシアの表面が水と接触することによって、次第に水和が進行して、それに伴い水素イオンを吸着するためゼータ電位が上昇し、平衡状態に達した。
マグネシアAとマグネシアBは、保管状態の違いによりマグネシア表面に存在する水和基の数は異なるが、等電点に影響を与えるような、マグネシア表面におけるMg原子、O原子や格子欠陥などの状態は同じであることから、平衡するゼータ電位は同一となった。
【0014】
(実験2)
次に、ゼータ電位が平衡に達しているスラリーが入っているスラリータンクに、新規に調合したスラリーを継ぎ足した後、スラリータンク内のスラリーのゼータ電位および粘度がどのように変化するかを調査した。
まず、マグネシアに水を加えてスラリーとしたものを、ゼータ電位が20mVで一定値となるまで、マグネットスターラーで撹拌したのち、スラリータンクに入れた。なお、このときのスラリータンク内のスラリーの粘度は、0.070Pa・sであった。次に、継ぎ足すスラリーとして、スラリータンク内のスラリーの調合に使用したものと同一の製造履歴をもつマグネシアに、水を加えてスラリーとしてから、マグネットスターラーで撹拌しながら、スラリー化してからの経過時間を0〜90分の範囲で変化させたスラリーNo.1〜11を調合した。スラリーNo.1〜11の各経過時間は、表1に示すとおりである。なお、同表中には、スラリーNo.1〜11それぞれのゼータ電位を併せて示す。ついで、スラリーNo.1〜11のそれぞれに、B型粘度計で粘度:0.070Pa・sになるように水を加えて500mlとしたのち、スラリータンク内のスラリー:500mlに継ぎ足した。継ぎ足し後のスラリータンク内のゼータ電位および粘度についても同表中に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
同表より、スラリーNo.1〜11のそれぞれのゼータ電位と継ぎ足し前のスラリータンク内のゼータ電位との差が±10mV以内の場合には、継ぎ足し前後でスラリータンク内のスラリーの粘度変化は、±0.010Pa・s以下の範囲であることが確認できた。一般に、フォルステライト被膜は、スラリーの粘度差が±0.010Pa・s以下であれば、他の製造条件が同一であるならば、その品質のばらつきは小さいとされている。
従って、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を管理することで、スラリータンク内のスラリーの粘度を一定範囲内に保つことができ、方向性電磁鋼板の表面品質のばらつきを抑えることができることが確認された。
なお、本実験では、継ぎ足すスラリーの量がスラリータンク内のスラリーの量と同一という前提で行った。これは、継ぎ足すスラリーの量が、スラリータンク内のスラリーの量と同量の場合に粘度変化が最も大きくなるからであり、いずれか一方が少なければ粘度変化は相対的に小さくなるため、両者の量が同一の条件をもって、両者のゼータ電位差:±10mV以内と定めたものである。
【0017】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
1.脱炭焼鈍後の方向性電磁鋼板の表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、使用途中の粘度が0.020〜0.300 Pa・sのスラリーに対し、新規に調合した粘度が同じく0.020〜0.300Pa・sのスラリーを継ぎ足すに際し、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を前記使用途中のスラリーのゼータ電位の±10mV以内に調整した後に継ぎ足すことを特徴とするスラリーの調整方法。
【0018】
2.方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで脱炭一次再結晶焼鈍後、鋼板の表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布したのち、最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって方向性電磁鋼板を製造するに当たり、上記マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、使用途中の粘度が0.020〜0.300Pa・sのスラリーに対し、新規に調合した粘度が同じく0.020〜0.300Pa・sのスラリーを継ぎ足すに際し、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を前記使用途中のスラリーのゼータ電位の±10mV以内に調整した後に継ぎ足すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスラリーの調整方法により、使用途中のスラリーに新規に調合したスラリーを継ぎ足す場合においても、スラリータンク内のスラリーの粘度の変化を一定範囲内に保つことができる。また、本発明の調整方法によって調整されたスラリーを焼鈍分離剤として用いた方向性電磁鋼板の製造方法によって、方向性電磁鋼板の表面品質のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、スラリーの調整方法における限定理由について説明する。
本発明は、使用途中(継ぎ足し前のスラリータンク内)のスラリーおよび継ぎ足すスラリーの粘度が0.020〜0.300Pa・sの範囲である場合において、適用することができる。
【0021】
継ぎ足すスラリーのゼータ電位:使用途中のスラリーのゼータ電位との差が±10mV以内
継ぎ足すスラリーのゼータ電位が、使用途中のスラリーのゼータ電位との差で±10mVよりも大きい場合、継ぎ足す前後で、スラリータンク内のスラリーの粘度が大きく変化する。この変化により、鋼板表面へのスラリーの塗布性や付着性が一定とならず、最終仕上焼鈍後のフォルステライト被膜均一性、コイル形状を一定範囲に保つことができない。好ましくは、継ぎ足すスラリーのゼータ電位が、使用途中のスラリーのゼータ電位との差で±8mV以内である。なお、使用途中のスラリーおよび継ぎ足すスラリーのゼータ電位としては、10〜50mVの範囲が好ましい。また、継ぎ足すスラリーの量は、使用途中(スラリータンク内)のスラリー量の300%以内とすることが好ましい。
【0022】
マグネシアを主体とする焼鈍分離剤
本発明が対象とする焼鈍分離剤は、主にマグネシアであるが、その平均粒度は、0.1〜300μmの範囲が好ましい。0.1μmよりも細かいと、スラリー化後の粘度が高くなりすぎ、一方300μmよりも粗いと鋼板上への焼き付きが問題となる。
また、マグネシア以外には、Ti酸化物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸化物あるいはこれらとマグネシアの複合酸化物等のうちから選んだ一種または二種以上を10質量%を上限に含有させても良い。これは、マグネシアとシリカの反応を促進または抑制することにより、良好な被膜の外観を得るためである。上限を超えると、それらの促進または抑制作用が強くなり過ぎて被膜不良を引き起こす。
【0023】
次に、本発明のスラリー調整方法を使用した方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明を適用する方向性電磁鋼板の基本的な製造工程については特に制限はなく、常法に従えば良い。
まず、素材成分については、例えば、C:0.02〜0.1mass%、Si:2.0〜4.0mass%およびMn:0.02〜0.2mass%を含有し、さらにSe:0.001〜0.03mass%、Sb:0.01〜0.08mass%、Al:0.001〜0.04mass%、S:0.001〜0.03mass%、Cu:0.05〜0.2mass%、Sn:0.005〜0.4mass%、Cr:0.02〜0.08mass%、Mo:0.01〜0.1mass%、P:0.01〜0.03massおよびBi:0.001〜0.04mass%のうちから選んだ一種または二種以上を含有するものであれば良い。そして、好適成分に調整した鋼スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延鋼板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで脱炭一次再結晶焼鈍後、鋼板表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとしてロールコーター等で塗布し乾燥してコイルに巻き取った後、最終仕上焼鈍を施す。そして、上記したマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、スラリーの継ぎ足しが必要となった場合に、本発明のスラリーの調整方法を使用するのである。
なお、最終仕上焼鈍後は、平坦化焼鈍にて形状矯正する。また、鉄損を改善するために、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施しても良い。さらに、脱炭一次再結晶焼鈍を施す代わりに、脱炭しない雰囲気で一次再結晶焼鈍を施し、ついで脱炭焼鈍を別途施したのち、最終仕上焼鈍を施しても良い。
【実施例1】
【0024】
C:0.045mass%、Si:3.25mass%、Mn:0.070mass%、Al:80ppm、N:40ppmおよびS:20ppmを含有する方向性電磁鋼板用スラブを1200℃の温度に加熱後、熱間圧延し、板厚:2.2mmの熱延板コイルとした。この熱延板に1000℃の温度で30秒間の熱延板焼鈍を施したのち、鋼板表面のスケールを除去した。次にタンデム圧延機により冷間圧延し、最終冷延板厚:0.30mmとした。その後、均熱温度:850℃で90秒間保持する脱炭一次再結晶焼鈍を施したのち、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布してから、1200℃まで25℃/hの速度で昇温する最終仕上焼鈍を施したのち、平滑化焼鈍を施した。なお、各鋼板の製造に際し、操業の途中でスラリーを継ぎ足すものとし、その際、スラリータンク内に表2に示す種々のゼータ電位を示すスラリーを継ぎ足して実施した。
【0025】
かくして得られた方向性電磁鋼板の被膜外観と形状について調べた結果を表2に併記した。
ここに、被膜外観および鋼板形状の評価は次のようにして行った。
まず、被膜外観については、目視観察によりフォルステライト被膜の色調が著しく異なる色むらが発生している部分の長さを測定し、その長さの鋼板全長に対する百分率を色むら発生率として評価した。なお、色むら発生率が5%未満の場合、被膜外観は均一で良好であるといえる。
【0026】
次に、鋼板形状については、目視観察により鋼板表面が平滑でない形状不良が発生している部分の長さを測定し、その長さの鋼板全長に対する百分率を形状不良発生率として評価した。なお、形状不良発生率が5%未満の場合、鋼板形状は均一で良好であるといえる。
【0027】
【表2】

【0028】
同表から明らかなように、スラリーの継ぎ足しに際し、本発明の調整方法を使用した場合には、色むらや形状不良の発生が5%以下に抑えられることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】マグネシアAおよびマグネシアBのそれぞれに水を加えてスラリー化した後のゼータ電位の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭焼鈍後の方向性電磁鋼板の表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、使用途中の粘度が0.020〜0.300 Pa・sのスラリーに対し、新規に調合した粘度が同じく0.020〜0.300Pa・sのスラリーを継ぎ足すに際し、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を前記使用途中のスラリーのゼータ電位の±10mV以内に調整した後に継ぎ足すことを特徴とするスラリーの調整方法。
【請求項2】
方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚に仕上げ、ついで脱炭一次再結晶焼鈍後、鋼板の表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布したのち、最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって方向性電磁鋼板を製造するに当たり、上記マグネシアを主体とする焼鈍分離剤をスラリーとして塗布する工程において、使用途中の粘度が0.020〜0.300Pa・sのスラリーに対し、新規に調合した粘度が同じく0.020〜0.300Pa・sのスラリーを継ぎ足すに際し、継ぎ足すスラリーのゼータ電位を前記使用途中のスラリーのゼータ電位の±10mV以内に調整した後に継ぎ足すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144209(P2009−144209A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323816(P2007−323816)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】