説明

方向性電磁鋼板

【課題】磁区細分化用の溝を形成した方向性電磁鋼板であって、実機トランスに組上げた際の鉄損を低く抑えることのできる、優れた実機鉄損特性を有する方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】線状溝の底面部における絶縁コーティングの膜厚a(μm)と、線状溝部以外の鋼板表面の絶縁コーティング膜厚a(μm)と、線状溝の深さa(μm)とが、以下の式(1)および(2)を満足するように制御する。
0.3μm≦a≦3.5μm ・・・(1)
+a−a≦15μm ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスなどの鉄心材料に用いる方向性電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、その磁化特性が優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。
そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を、(110)[001]方位(いわゆる、ゴス方位)に高度に揃えることや、製品鋼板中の不純物を低減することが重要である。しかしながら、結晶方位の制御や、不純物を低減することは、製造コストとの兼ね合い等で限界がある。そこで、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一歪を導入し、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、最終製品板にレーザを照射し、鋼板表層に高転位密度領域を導入し、磁区幅を狭くすることで、鋼板の鉄損を低減する技術が提案されている。
また、特許文献2には、仕上げ焼鈍済みの鋼板に対して、882〜2156 MPa(90〜220 kgf/mm2)の荷重で地鉄部分に深さ:5μm 超の溝を形成したのち、750℃以上の温度で加熱処理することにより、磁区を細分化する技術が提案されている。
さらに、特許文献3には、鋼板の圧延方向とほぼ直角な方向に、幅が30μm以上300μm以下、深さが10μm以上70μm以下であって、圧延方向の間隔が1mm以上である線状刻み目(溝)を導入する技術が提案されている。
上記したような種々の磁区細分化技術の開発により、鉄損特性が良好な方向性電磁鋼板が得られるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−2252号公報
【特許文献2】特公昭62−53579号公報
【特許文献3】特公平3−69968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常、鋼板表面に溝を形成して、鉄心材に剪断し、トランス等に組む場合は、既に積層された鉄心材の上を滑らせるようにして次の鉄心材を積み重ねていく。そのため、鉄心材を滑らせる際に、溝部が引っかかって作業性が低下するという問題があった。
さらには、作業性の問題だけではなく、溝部が引っかかることによって、鋼板に局所的な応力が掛かり、鋼板がひずむことで磁気特性が劣化するという問題が生じる場合もあった。
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであり、磁区細分化用の溝を形成した方向性電磁鋼板であって、実機トランスに組上げた際の鉄損を低く抑えることのできる、優れた実機鉄損特性を有する方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.線状溝を設けた鋼板の表面に、絶縁コーティングを施した方向性電磁鋼板において、該線状溝の底面部における該絶縁コーティングの膜厚a(μm)と、該線状溝部以外の鋼板表面の該絶縁コーティング膜厚a(μm)と、該線状溝の深さa(μm)とが、下記式(1)および(2)を満足することを、特徴とする方向性電磁鋼板。

0.3μm≦a≦3.5μm ・・・(1)
+a−a≦15μm ・・・(2)
【0008】
2.前記絶縁コーティングによる鋼板への付与張力が8MPa以下であることを特徴とする、前記1に記載の方向性電磁鋼板。
【0009】
3.前記絶縁コーティングが、リン酸塩-シリカ系のコーティング処理液により形成したものであることを、特徴とする前記1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実機トランスに組上げた際の鉄損を効果的に抑えることのできる、優れた実機鉄損特性を有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のパラメータ、線状溝底面部のコーティング膜厚a(μm)と、線状溝部以外のコーティング膜厚a(μm)と、線状溝深さa(μm)とを示した模式図である。
【図2】絶縁被膜により発生する鋼板の張力の測定および算出の要領を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
通常、鋼板の表面に線状溝(以下、単に溝ともいう)を形成する際には、鋼板の絶縁性を確保するために、溝を形成したのち、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成させ、さらにその上に、絶縁のための被膜(以下、絶縁コーティング、または、単にコーティングという)を付与する。
上記フォルステライト被膜は、方向性電磁鋼板を製造する際の脱炭焼鈍において、鋼板表面にSiO2主体の内部酸化層を形成し、その上にMgOを含有する焼鈍分離剤を塗布して、高温・長時間で仕上焼鈍を行うことによって、内部酸化層とMgOの両者を反応させて形成するものである。
【0013】
他方、フォルステライト被膜に上塗りして付与する絶縁コーティングは、コーティング液を塗布し、焼き付けることで得られる。
これらの被膜は、鋼板との間に熱膨張率の差を有するために、高温で形成し、付与された後に常温に冷却されると、収縮率の小さい被膜が鋼板に引っ張り応力を与える働きがある。
【0014】
絶縁コーティングは、その膜厚が大きくなると、鋼板への付与張力が増大して鉄損改善効果が高くなる。その一方で、実機トランスに組んだ際の占積率(地鉄の比率)が低下し、また素材鉄損に対するトランス鉄損(ビルディングファクター)が低下するという傾向があった。そのため、従来は、鋼板全体としての膜厚(単位面積当たりの目付量)のみを制御していた。
【0015】
ここに、図1に、線状溝底面部のコーティング膜厚aと、線状溝部以外のコーティング膜厚aと、線状溝深さaとを模式図で示す。なお、図中、1は線状溝部以外、2は線状溝部である。
発明者らは、前記した課題を検討したところ、図1に示したコーティング膜厚aと、コーティング膜厚aと、線状溝深さaとを適正に制御することで、前記課題が解決できることを見出した。
【0016】
すなわち、上記したコーティング膜厚aは、本発明に従う以下の式(1)を満足する必要がある。というのは、コーティング膜厚aが0.3μmより小さいと、絶縁コーティングの厚みが薄すぎるため、層間抵抗や防錆性が劣化するからである。一方、aが3.5μmを超えると、実機トランスに組んだ場合の占積率が増大するからである。
0.3μm≦a≦3.5μm ・・・(1)
【0017】
次に、本発明における重要なポイントは、前記コーティング膜厚aと、コーティング膜厚aと、線状溝深さaとが以下の式(2)を満足する必要がある。
+a−a≦15 (μm)・・・(2)
というのは、式(2)左辺の値を低下させると、鋼板全体に凹凸が小さくなって、フラットな形状となるため、鋼板のハンドリング中の引っかかりがなくなって作業性が改善されると同時に、局所的な応力が加わわることで、鋼板がひずみ磁気特性が劣化するという問題も生じなくなるからである。なお、線状溝深さaは、鋼板表面からの深さであるが、フォルステライト被膜の厚みも、線状溝深さaに含むものとする。また、上記式(2)の好ましい下限値は、3(μm)である。
【0018】
このように凹凸を小さくする、すなわち、式(2)左辺の値を低下させるためには、溝底面部の膜厚aを増大させる必要があるが、このためには、例えば、コーティング塗工液の粘度を低下させることや、コーターロールに硬質なロールを用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明では、絶縁コーティングのコーティング被膜により発生する張力を8MPa以下とすることが望ましい。
というのは、本発明では、溝部においてコーティングの膜厚を増大させるため、張力が局所的に高くなる。その結果、鋼板表面における応力分布が不均一になり、絶縁コーティングの被膜が剥離しやすくなる。これを防止するためにコーティング張力を低下させることが好ましい。
なお、コーティング被膜により発生する張力の下限値は、特に制限はないが、張力効果による鉄損改善の観点から、4MPa程度とするのが好ましい。
【0020】
上記したコーティング被膜の形成は、例えばリン酸塩-シリカ系のコーティング処理液を用いて行うことが好ましい。この際、リン酸塩比率を高めたり、熱膨張係数の高くなるリン酸塩(例えばリン酸カルシウムやリン酸ストロンチウムなど)を用いることなどにより、張力の制御が可能である。
このような低張力のコーティングを付与することにより、線状溝部と線状溝部以外との膜厚差による張力の変化の程度が小さくなるため、コーティングが剥離しにくくなる。
なお、線状溝部以外1とは、図1に示したように、線状溝部2を除外した部分である。
【0021】
なお、本発明における絶縁被膜により発生する鋼板の張力の測定および算出は、次のようにして行う。
まず、測定面にテープを貼ってアルカリ水溶液に浸漬させることで非測定面の絶縁被膜を剥離し、次に図2に示すように、鋼板の反り具合としてL部とX部を測定し、LMとXMを求めておく。
ついで、次式(3)および(4)
L=2Rsin(θ/2) ・・・(3)
X=R{1−cos(θ/2)} ・・・(4)
を用いて、曲率半径Rは、次式(5)
R=(L2+4X2)/8X ・・・(5)
と求められることから、
この式(5)に、L=LMおよびX=XMを代入して、曲率半径Rを求める。さらに、この曲率半径Rを、次式(6)に代入すれば、地鉄表面の引張応力σを算出することができる。
σ=E・ε=E・(d/2R) ・・・(6)
ただし、E:ヤング率(E100=1.4×105MPa)
ε:地鉄界面歪み(板厚中央でε=0)
d:板厚
【0022】
本発明において、方向性電磁鋼板用スラブの成分組成は、磁区細分化効果の大きい二次再結晶が生じる成分組成であればよい。
また、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、Al:0.01〜0.065質量%、N:0.005〜0.012質量%、S:0.005〜0.03質量%、Se:0.005〜0.03質量%である。
【0023】
さらに、本発明は、Al、N、S、Seの含有量を制限した、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板にも適用することができる。
この場合には、Al、N、SおよびSe量はそれぞれ、Al:100 質量ppm以下、N:50 質量ppm以下、S:50 質量ppm以下、Se:50 質量ppm以下に抑制することが好ましい。
【0024】
本発明の方向性電磁鋼板用スラブの基本成分および任意添加成分について具体的に述べると次のとおりである。
C:0.15質量%以下
Cは、熱延板組織の改善のために添加をするが、0.15質量%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減することが困難になるため、0.15質量%以下とすることが好ましい。なお、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はない。
【0025】
Si:2.0〜8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が達成できず、一方、8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0〜8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0026】
Mn:0.005〜1.0質量%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しく、一方1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0027】
上記の基本成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50質量%、Sn:0.01〜1.50質量%、Sb:0.005〜1.50質量%、Cu:0.03〜3.0質量%、P:0.03〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.10質量%およびCr:0.03〜1.50質量%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。そのため、Ni量は0.03〜1.5質量%の範囲とするのが好ましい。
【0028】
また、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。
【0029】
次いで、上記した成分組成を有するスラブは、常法に従い加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
【0030】
さらに、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。この時、ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度として800〜1200℃の範囲が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒した一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害される。一方、熱延板焼鈍温度が1200℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるために、整粒した一次再結晶組織の実現が極めて困難となる。
【0031】
熱延板焼鈍後は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、一次再結晶焼鈍を行い、焼鈍分離剤を塗布する。一次再結晶焼鈍中、あるいは、一次再結晶焼鈍後、二次再結晶開始までの間に、インヒビターを強化する目的で、鋼板を窒化させるなどすることもできる。二次再結晶焼鈍前に焼鈍分離剤を塗布した後に、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的として最終仕上げ焼鈍を施す。
【0032】
なお、以下に説明するように、本発明に従う溝の形成は、最終の冷間圧延後であれば、一次再結晶焼鈍の前後や、二次再結晶焼鈍の前後、平坦化焼鈍の前後など、いずれのタイミングで形成しても問題はない。但し、張力コーティング後に溝を形成する場合は、溝形成位置の被膜を一旦取り除いてから、後述する手法にて溝を形成し、再び被膜を形成する工程が必要になる。従って、溝形成は、最終冷間圧延後であって、張力コーティングを被成する前に行うことが好ましい。
【0033】
最終仕上げ焼鈍後には、平坦化焼鈍を行って形状を矯正することが有効である。なお、本発明では、平坦化焼鈍前または後に、鋼板表面に張力コーティングを付与する。平坦化焼鈍前に張力コーティング処理液を塗布し、平坦化焼鈍とコーティングの焼付けを兼ねることもできる。
なお、本発明おいては、鋼板に張力コーティングを付与する際、前述したように、線状溝底面部のコーティング膜厚a(μm)と線状溝部以外のコーティング膜厚a(μm)、さらに溝深さa(μm)をそれぞれ適正に制御することが肝要である。
【0034】
ここに、本発明においては、張力コーティングとは、鉄損低減のために鋼板に張力を与える絶縁コーティングを意味する。なお、張力コーティングとしては、シリカおよびリン酸塩を主成分とするものであれば、いずれもが有利に適合する。このほか、ホウ酸塩とアルミナゾルを用いたコーティング、複合水酸化物を用いたコーティングなども適用可能である。
【0035】
本発明での溝の形成は、従来公知の溝の形成方法、例えば、局所的にエッチング処理する方法、刃物などでけがく方法、突起つきロールで圧延する方法などが挙げられるが、最も好ましい方法は、最終冷延後の鋼板に印刷等によりエッチングレジストを付着させたのち、非付着域に電解エッチング等の処理により溝を形成する方法である。というのは、機械的に溝を形成させる方法では、刃物やロールの磨耗が極めて大きくなり、溝が鈍ったような形状になるからである。さらに、刃物やロールの交換による生産性の低下も問題となる。
【0036】
本発明で鋼板表面に形成する溝は、幅:50〜300μm、深さ:10〜50μm および間隔:1.5〜10.0mm程度とし、溝の形成方向は、圧延方向と直角方向に対し±30°程度以内とすることが好ましい。なお、本発明において、「線状」とは、実線だけでなく、点線や破線なども含むものとする。
【0037】
本発明において、上述した工程や製造条件以外については、従来公知の溝を形成して磁区細分化処理を施す方向性電磁鋼板の製造方法を、適宜使用することができる。
【実施例1】
【0038】
質量%で、C:0.05%、Si:3.2%、Mn:0.06%、Se:0.02%およびSb:0.02%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物の組成からなる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1400℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.6mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を施した。ついで、1000℃での中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延によって、最終板厚:0.30mmの冷延板に仕上げた。
【0039】
その後、グラビアオフセット印刷によるエッチングレジストを塗布し、ついで電解エッチングおよびアルカリ液中でのレジスト剥離を行うことにより、幅:150μm、深さ:20μm の線状溝を、圧延方向と直交する向きに対し10°の角度にて3mm間隔で形成した。
ついで、825℃で脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶と純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を1200℃、10hの条件で実施した。
そして、張力コーティング処理液を塗布し、830℃で、張力コーティング焼付けを兼ねた平坦化焼鈍を行って製品とした。その際、表1に示すようにコータロールの硬度、コート液粘度、コーティング液組成を変化させることにより、各種の膜厚条件でコーティングを塗布、乾燥して焼き付けた。これを用いて、1000kVAの油入り変圧器を製造し、鉄損を測定した。また、得られた製品について、磁気特性、コーティング張力、占積率、錆発生率および層間抵抗をそれぞれ評価した。
なお、磁気特性、占積率および層間抵抗はJIS C2550に記載の方法に準拠し、錆発生率は温度:50℃、露点:50℃で、大気中に50時間保持後、錆発生率を目視判定することで測定した。またコーティング張力は、前述の方法に従って測定を行い求めた。
上記した測定結果をそれぞれ表2に併記する。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表2に示したとおり、本発明の前掲式(1)および(2)を満足する試験No.2〜6、10〜15の方向性電磁鋼板は、いずれも変圧器に組んだ際に極めて良好な鉄損特性が得られた。
しかしながら、前掲式(1)を満足しない試験No.1,7や、前掲式(2)を満足しない試験No.8,9の方向性電磁鋼板は、変圧器に組んだ際の鉄損特性に劣っていた。
【符号の説明】
【0043】
1 線状溝部以外
2 線状溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状溝を設けた鋼板の表面に、絶縁コーティングを施した方向性電磁鋼板において、該線状溝の底面部における該絶縁コーティングの膜厚a(μm)と、該線状溝部以外の鋼板表面の該絶縁コーティング膜厚a(μm)と、該線状溝の深さa(μm)とが、下記式(1)および(2)を満足することを、特徴とする方向性電磁鋼板。

0.3μm≦a2≦3.5μm ・・・(1)
+a−a≦15μm ・・・(2)
【請求項2】
前記絶縁コーティングによる鋼板への付与張力が8MPa以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記絶縁コーティングが、リン酸塩-シリカ系のコーティング処理液により形成したものであることを、特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−72431(P2012−72431A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217370(P2010−217370)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】