説明

方法、分散物および使用

インクジェット印刷用インクでの使用に適した水性顔料分散物の調製方法であって、以下の段階を、I)続いてII)の順番で含む方法:I)2.0M以下の塩化ナトリウム臨界凝結濃度を有する分散物を提供する段階、ここにおいて、前記分散物は、顔料と、水性液体媒体と、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤とを含む;および、
II)分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を1以上の疎水性化合物(1以上)と反応させることにより、分散剤の親水性を低下させる段階。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散物の調製方法、該方法により得ることができる顔料分散物、およびインクジェット印刷用インクを調製するための該方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インクは、用いる着色剤のタイプに応じて2つのタイプの一方であることが多い。染料に基づくインクは、液体媒体に溶解している染料を含むことが多い。顔料インクは、液体媒体に分散している顔料を含む。顔料インクは、染料に基づくインクより良好な耐オゾン堅牢度および耐光堅牢度を有する傾向がある。しかしながら、顔料が粒状分散物の形にあるので、インクの貯蔵中および/またはインクの使用(例えば印刷)中に顔料粒子が集塊(agglomerate)または凝集(flocculate)する傾向がある。インクが基材上に印刷される前のそのような集塊または凝集は、とりわけ、印刷機のノズルが非常に小さく、あらゆる大きすぎる粒状物質による閉塞の影響を受けやすい、インクジェット印刷用のインクにおいて、非常に望ましくない。したがって、インクジェット分野では、顔料分散物のコロイド安定性を向上させる試みに多大な尽力がなされてきた。液体媒体が大量の水混和性有機溶媒および比較的より少量の水を含む場合、良好なコロイド安定性を有する顔料インクを提供することがとりわけ難しい。
【0003】
特に普通紙上に印刷したときに高い光学濃度(OD)を示す顔料インクを提供することも望ましい。
顔料分散物は、分散剤によりコロイド的に安定化させることが多い。
【0004】
分散剤安定化顔料インクに関するわれわれ独自の研究において、われわれは、良好なコロイド安定性と普通紙上での高いODを同時に示すインクを調製することがとりわけ難しいことを見いだした。例えば、われわれは、高いコロイド安定性を有する当分野で公知の分散剤安定化顔料インクが、普通紙上に印刷したときに低いODををもたらすこと、そしてその逆も同様であることを見いだした。
【0005】
われわれはまた、普通紙上に印刷したときに高いODを示すインクをもたらす少数の分散剤安定化顔料インクでは、分散剤を例えば顔料の分散または微粉砕段階で溶解するのを補助するために顕著で望ましくない大量の有機溶媒を必要とする、分散剤が使用される傾向があることも見いだした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
商業的に、上記問題の1以上を少なくとも部分的に解決するインクを調製するために用いることができる顔料分散物が、今もなお引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に従って、インクジェット印刷用インクでの使用に適した水性顔料分散物の調製方法であって、以下の段階を、I)続いてII)の順番で含む方法を提供する:
I)2.0M以下の塩化ナトリウム臨界凝結濃度(critical coagulation concentration)を有する分散物を提供する段階、ここにおいて、前記分散物は、顔料と、水性液体媒体と、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤とを含む;および
II)分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を1以上の疎水性化合物(1以上)と反応させることにより、分散剤の親水性を低下させる段階。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本記載では、特記しない限り、“ある(a)”および“ある(an)”という単語は、1以上を意味する。したがって、例えば、“ある”顔料は、1より多くの顔料が存在する可能性を包含し、同様に“ある”分散剤は、1より多くの分散剤が存在する可能性を包含する。
段階I)
段階I)の分散物は、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤の存在下で水性液体媒体中に顔料を分散させることを含む方法により提供することができる。分散は、例えば、ビーズミル粉砕、ビーズ振とう、超音波処理、均質化および/またはミクロ流動化などの任意の適した方法により、実施することができる。水性液体媒体中に顔料を分散させるための好ましい方法は、ビーズミル粉砕を含む。典型的には、ビーズミル粉砕は、微粉砕ビーズ、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤、水性液体媒体、および比較的高い割合の顔料(しばしば、水性液体媒体の重量に対し約15〜45重量%)を含む組成物を用いて実施する。微粉砕後、微粉砕ビーズを、典型的には濾過により取り出す。微粉砕された分散物(ミルベース)は、上記組成物中に包含される分散剤と同一または異なっていることができるさらなる分散剤を含有していてもよい追加的な水性液体媒体で希釈することができる。
【0009】
あるいは、分散剤は、商業的供給源から得ることができる。
顔料
顔料は、水性液体媒体に溶解しない無機もしくは有機顔料材料またはその混合物を含むことができ、そのような顔料材料またはその混合物であることが好ましい。
【0010】
好ましい有機顔料としては、例えば、Colour Index International、第3版(1971)およびこれに続くその改訂版およびその補遺において、“Pigments”という見出しの章に記載されている顔料のクラスのいずれかが挙げられる。有機顔料の例としては、アゾ(ジスアゾおよび縮合アゾを含む)、チオインジゴ、インダントロン、イソインダントロン、アンタントロン、アントラキノン、イソジベンゾアントロン、トリフェンジオキサジン、キナクリドン、ならびにフタロシアニン系、特に銅フタロシアニンおよびその核ハロゲン化誘導体、ならびに酸性、塩基性および媒染染料のレーキに由来するものが挙げられる。好ましい有機顔料は、フタロシアニン、特に銅フタロシアニン顔料、アゾ顔料、インダントロン、アンタントロンおよびキナクリドン顔料である。
【0011】
好ましい無機顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉄および二酸化ケイ素が挙げられる。
カーボンブラック顔料の場合、これらは、カーボンブラックの表面の一部が酸化基(例えば、カルボン酸および/またはヒドロキシ基)を有するように調製することができる。しかしながら、そのような基の量は、カーボンブラックを分散剤の補助なしで水に分散させることができるように、あまり多くないことが好ましい。
【0012】
顔料は、シアン、マゼンタ、黄色または黒色顔料であることが好ましい。
顔料は、単一の化学種または2以上の化学種を含む混合物(例えば、2以上の異なる顔料を含む混合物)であることができる。すなわち、2以上の異なる顔料を本発明の方法に用いることができる。2以上の顔料を用いる場合、それらは同じ色または色調のものである必要はない。
【0013】
顔料は、分散剤の補助なしでは水性液体媒体に分散することができない、すなわち、分散剤の存在が分散を促進するのに必要であることが好ましい。顔料は、例えばその表面にイオン性基を共有結合させることにより化学的に表面処理されていないことが好ましい(特に−COHまたは−SOHで)。
水性液体媒体
言うまでもなく、水性液体媒体は水であるか水を含む。水性液体媒体は、1以上の水混和性有機溶媒を含有していてもよい。
【0014】
液体媒体が水と1以上の水混和性有機溶媒との混合物を含む場合、水と存在するすべての水混和性有機溶媒との重量比は、好ましくは1:1〜100:1、より好ましくは2:1〜50:1、特に3:1〜20:1である。
【0015】
好ましい液体媒体は、以下:
(a)50〜100部、より好ましくは75〜100部の水;および
(b)合計0〜50部、より好ましくは0〜25部の1以上の水混和性有機溶媒;
ここにおいて、部は重量に基づき、(a)と(b)の部の合計=100である
を含む。
【0016】
一態様において、水性液体媒体中の唯一の液体は水である。
水性液体媒体は、水および水混和性有機溶媒に加えて、他の成分、例えば、殺生物剤、界面活性剤、他の分散剤(1以上)などを含有することができる。
【0017】
水混和性有機溶媒を用いると、水性液体媒体中の分散剤および/または疎水性化合物(1以上)の溶解度を上昇させることができる。
水性液体媒体は、25℃で測定して好ましくは100mPa.s未満、より好ましくは50mPa.s未満の粘度を有する。
分散剤
分散剤はポリマーであることが好ましいが、ポリマーでなくてもよい。
【0018】
分散剤は、好ましくは、グラフト、櫛形または星形構造、より好ましくは線状構造を有する。分散剤は、顔料粒子の周囲で架橋して、各粒子の周囲に封入シェルを形成することもできる。
【0019】
分散剤はホモポリマーであってもよいが、好ましくはコポリマーである。好ましいコポリマーはブロックコポリマー(例えば、そのモノマー単位が、AAAA−BBBBのようなブロック状でコポリマーの全体にわたって分布している)であり、より好ましくは、コポリマー分散剤はランダムコポリマー(例えば、そのモノマー単位がコポリマーの全体にわたって無作為/統計的に分布している)である。
【0020】
分散剤は、ポリエステル、ポリウレタン、および、特にエチレン不飽和モノマーの重合に由来する反復単位を含むポリマーであるか、これらを含むことが好ましい。エチレン不飽和モノマーの重合から得られる好ましいポリマーは、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン系またはポリ(メタ)アクリレート−コ−スチレン系ポリマーであるか、これらを含む。分散剤は、一緒に物理的にブレンドするか化学的に結合させる(例えばグラフトさせる)ことができるポリマーの組み合わせであることができる。エチレン不飽和モノマーの重合から得られるポリマーは、任意の適した方法により作製することができる。好ましい方法は、エチレン不飽和モノマー、特に、(メタ)アクリレートおよび芳香族基を含有するビニルモノマー、例えば、ビニルナフタレン、スチレン系モノマーおよび特に(メタ)アクリル酸ベンジルモノマーのラジカル重合である。適したラジカル重合法としては、懸濁重合、乳化重合、分散重合および好ましくは溶液重合が挙げられる。分散剤を、水性または有機液体キャリヤーの存在下でエチレン不飽和モノマーの溶液重合により調製することが好ましい。
【0021】
本発明で用いる分散剤は合成的に調製することができ、または商業的供給源から得ることができる。
段階I)で挙げた分散剤は、1以上のイオン性基(1以上)を有する単一の分散剤であることができ、または、それぞれ1以上のイオン性基(1以上)を有する1より多くの分散剤を含む混合物であることができる。
【0022】
段階I)で挙げた分散物中に存在する分散剤はすべて、分散剤の親水性を低下させるために、疎水性化合物(1以上)と反応することができる1より多くのイオン性基(1以上)を有することが好ましい。
【0023】
段階I)の分散物は、いずれも疎水性化合物(1以上)と反応することができない1以上の親水性基(1以上)を有する、さらなる分散剤を含むことができる(含まないことが好ましいが)。
【0024】
いくつかの態様において(以下に記載するように)、段階I)でもたらされる分散物中の分散剤は、顔料粒子を封入する架橋シェルの形にある。
段階I)でもたらされる分散剤が、顔料粒子を封入する架橋シェルの形にない態様(すなわち従来の分散剤)では、分散剤は、好ましくは3000〜100000、より好ましくは5000〜50000の数平均分子量を有する。分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(“GPC”)により測定したものであることが好ましい。
分散剤中のイオン性基(1以上)
イオン性基はカチオン性であってもよいが、事実上アニオン性であることが好ましい。
【0025】
カチオン性基の例としては、アミノ、置換アミノ、第四アンモニウム、ピリジニウム、グアニドおよびビグアニド基が挙げられる。
好ましいアニオン性基は、酸性、特にカルボン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基である。イオン化形で記載する場合、これらはそれぞれ−CO、−SO、および−PO2−である。酸性スルフェート、ホスフェートおよびポリホスフェートも、酸性アニオン性基として用いることができる。
【0026】
分散剤中に存在するイオン性基の好ましくは少なくとも一部、より好ましくはすべてが、カルボン酸基である。
分散剤中に存在するイオン性基は、遊離酸(すなわち、プロトン化している、例えば−COH)、遊離塩基(すなわち、プロトン化していない、例えば−NH)の形にあることができ、または塩(例えばナトリウム塩または酢酸塩)の形にあることができる。
【0027】
塩の形の分散剤が好ましい。好ましい塩の形(酸性イオン性基に関し)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、置換アンモニウムおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
分散剤は、平均して分散剤1分子あたり好ましくは2以上、より好ましくは2〜1000、特に10〜500のイオン性基を有する。これは、段階I)でもたらされる顔料粒子の周囲に分散剤が架橋していない態様で、特に好ましい。
【0029】
好ましい一態様において、分散剤は、1以上(より好ましくは2以上)のイオン性基を有し、親水性非イオン性基(例えばポリエチレンオキシ基)を有さない。
段階I)において、分散剤は、分散剤1gあたり好ましくは少なくとも0.35ミリモル、より好ましくは少なくとも0.9ミリモル、さらにより好ましくは少なくとも1.15ミリモル、特に少なくとも1.3ミリモルのイオン性基を有する。
【0030】
段階I)において、分散剤は、優先傾向が高くなっていく順番で、分散剤1gあたり2.65ミリモル以下、2.3ミリモル以下、2.15ミリモル以下、2.0ミリモル以下および1.75ミリモル以下のイオン性基を有することが好ましい。
【0031】
好ましい分散剤は、例えば、合計で分散剤1グラムあたり0.9〜2.65ミリモル、特に1.0〜2.3ミリモル、もっとも好ましくは1.0〜2.0ミリモルのイオン性基を有する。われわれは、そのような分散剤が本発明においてとりわけ良好に機能し、これを用いると、とりわけ良好な光学濃度を普通紙上で示し、良好なコロイド安定性を有する顔料インクを、提供することができることを見いだした。
【0032】
イオン性基の量は、任意の適した方法により確定することができ、好ましい方法は、滴定法、例えば酸/塩基滴定である。
分散剤中に存在するイオン性基はすべて、アニオン性(特に酸性)であることが好ましい。分散剤中に存在するすべてのイオン性基が、それぞれ独立して、−COH、−SOHおよび−PO基およびそれらの塩から選択されることが、特に好ましい。分散剤中に存在するすべてのイオン性基が−COH基またはその塩であることが、もっとも好ましい。われわれは、すべてのイオン性基が−COH基またはその塩である場合、該分散剤を用いて、普通紙上でとりわけ良好な光学濃度を有するインクを調製することができることを見いだした。したがって、イオン性基のミリモルの上記量が、分散剤中のカルボン酸基のミリモルの好ましい量に直接相当することが好ましい。
親水性非イオン性基
分散剤は、分散物がなお必要な臨界凝結濃度を有するという条件で、少量の親水性非イオン性基を含むことができる。
【0033】
親水性非イオン性基の例としては、ポリエチレンオキシ、ヒドロキシ、ポリアクリルアミドおよびポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシ官能性セルロース基が挙げられる。
【0034】
分散剤は、いずれも親水性非イオン性基を含有していないモノマーの共重合から得られていることが好ましい。分散剤は、どのようなものであれ親水性非イオン性基を有さないことが好ましい。
自己架橋性分散剤
とりわけ、段階I)でもたらされる分散剤が、顔料粒子を封入する架橋シェルの形にない態様(すなわち従来の分散剤)では、分散剤は、該分散剤が自己架橋するのを可能にする1以上の基を含有していてもよい。
【0035】
一態様において、分散剤は自己架橋することができる。これは、例えば、開始剤(特にラジカル開始剤)を用いて後で架橋させる未反応エチレン不飽和基(特にビニル基)を有することにより、実現することができる。
【0036】
他の一態様において、分散剤は、1以上のイオン性基(1以上)および該イオン性基(1以上)と架橋する1以上の基を有することにより、自己架橋することができる。例えば、分散剤は、カルボン酸イオン性基とエポキシ架橋性基との組合わせを有することができる。
【0037】
自己架橋反応は、分散剤を加熱することにより実施することが好ましい。架橋反応を加速するために、適した触媒を用いることもできる。
分散剤の吸着
分散剤は顔料上に吸着していることが好ましい。段階I)でもたらされる分散剤が、顔料粒子を封入する架橋シェルの形にある態様では、分散剤は顔料粒子に吸着しており、恒久的に結びついてもいる。すなわち、この態様の分散剤は、顔料粒子から脱着する可能性がはるかに低いか、脱着することができない。
【0038】
分散剤が顔料表面に化学的に結合していることも可能であるが、これは好ましくない。
分散剤は、顔料の存在下でエチレン不飽和モノマーを重合することにより調製されていないことが好ましい。
臨界凝結濃度
段階I)の分散物は、優先傾向が高くなっていく順番で、1.8M以下、1.6M以下、1.4M以下、1.2M以下、1.0M以下および0.8M以下の塩化ナトリウム臨界凝結濃度(CCC)を有することが好ましい。
【0039】
段階I)の分散物は、好ましくは少なくとも0.1M、より好ましくは少なくとも0.25M、特に少なくとも0.35MのCCCを有する。
好ましい態様において、CCCは0.1〜2.0M、より好ましくは0.10〜1.8M、さらにより好ましくは0.20〜1.6M、特に0.30〜0.8Mである。
【0040】
CCCは、i)〜v)の順番で以下の段階により測定することが好ましい:
i)段階I)で述べた分散物中の顔料の濃度を、水の添加または除去により10重量%に調整する段階;
ii)段階i)で調製した調整済み分散物2滴と、0.5Mのモル濃度を有する水中の塩化ナトリウム溶液1.5gとを混合することにより、試験試料を調製する段階;
iii)段階ii)で調製した試験試料を25℃の温度で24時間保管する段階;
iv)試料底部に顕著な沈殿が存在するかどうかを調べるために、試験試料を視覚的に評価する段階;
v)段階iv)で述べた視覚的評価で試料底部に顕著な沈殿が示される塩化ナトリウム溶液の最低モル濃度が確定されるまで、より高いまたはより低いモル濃度の塩化ナトリウム溶液を用いて段階i)〜iv)を繰り返す段階。ここにおいて、このモル濃度がCCCである。
【0041】
顕著な沈殿という用語により、われわれは、試験試料中に最初に存在していた顔料の大部分またはすべてが沈殿していることを意味し、ほんの微量の沈殿物は無視する。重量法または光の透過率法を用いることにより沈殿の程度をより正確に測定することが可能であるが、大抵の目的に関し視覚的評価は十分に正確で信頼性がある。
【0042】
段階v)において、われわれは、必要とされる正確さに応じて例えば0.05Mまたは0.1Mの程度までのより高いまたはより低いモル濃度の塩化ナトリウム溶液を使用することが、一般に適するであろうことを見いだした。
【0043】
実験的に、CCCを迅速に確定するためには、それぞれ異なる濃度の塩化ナトリウムを有する数多くの試料を単に調製することが好都合であることが多い。
望ましいCCC値を有する分散物をもたらす分散剤を以下に挙げるが、一般に、われわれは、適した分散剤が、疎水性モノマーに由来する相対的に多量の反復単位、イオン性基を有するモノマーに由来する相対的に少量の反復単位、および親水性非イオン性基を有するモノマーに由来するあってもほんの少しの反復単位を含有することを見いだしている。
分散剤組成物
分散剤は、エチレン不飽和モノマーの共重合により得ることが好ましく、好ましい態様において、分散剤は、成分a)〜c)のエチレン不飽和モノマー:
a)1以上の疎水性エチレン不飽和モノマー;
b)1以上のイオン性基を有する1以上の親水性エチレン不飽和モノマー;および
c)1以上の親水性非イオン性基を有する2部以下の1以上の親水性エチレン不飽和モノマー;
ここにおいて、部は重量に基づき、a)〜c)の部の合計は100になる
の共重合に由来する反復単位を含む。
成分a)1以上の疎水性エチレン不飽和モノマー
疎水性という用語は、成分b)およびc)の親水性モノマーより疎水性であることを意味する。疎水性モノマーは、イオン性であるか非イオン性であるかに関わらず、親水性基を有さないことが好ましい。例えば、それらはあらゆる酸性基またはポリエチレンオキシ基を有さないことが好ましい。
【0044】
疎水性エチレン不飽和モノマーは、好ましくは少なくとも1、より好ましくは1〜6、特に2〜6のLogP計算値を有する。
Mannhold,R.およびDross,K.による総説(Quant.Struct−Act.Relat.15,403−409,1996)には、化合物および特に薬剤のLogP値を計算するための14の方法が記載されている。この総説から、われわれは、“フラグメント法”および特にACD labsソフトウェアにより実施するフラグメント法を選んでいる。モノマーのLogP計算値は、市販のコンピューター・ソフトウェアを用いて、例えば、LogP DBソフトウェアのバージョン7.04または該ソフトウェアのその後のバージョン(Advanced Chemistry Development Inc(ACD labs)から入手可能)を用いて、計算することができる。あらゆるイオン性またはイオン化しうる基を、それらの中性の(イオン化していない)形で計算する。logP値が大きいほど、より疎水性が高いモノマーに相当する。われわれは、そのようなモノマーの包含が、望ましい臨界凝結濃度をもたらすのを促進し、顔料表面上への分散剤の吸着に役立つことを見いだした。
【0045】
好ましい疎水性エチレン不飽和モノマーは、スチレン系モノマー(例えば、スチレン、アルファメチルスチレン)、芳香族(メタ)アクリレート(特にアクリル酸ベンジルおよびメタクリル酸ベンジル)、C1−30−ヒドロカルビル(メタ)アクリレート、ブタジエン、ポリ(C3−4)アルキレンオキシド基を含有する(メタ)アクリレート、アルキルシロキサンまたはフッ素化アルキル基を含有する(メタ)アクリレート、およびビニルナフタレンである。
【0046】
すべての疎水性モノマーのうち、(メタ)アクリル酸ベンジル、さらに特にメタクリル酸ベンジル(アクリル酸ベンジルではなく)が好ましく、われわれの研究において、それは、普通紙上でとりわけ良好な安定性およびODを有する顔料インクをもたらしている。
【0047】
分散剤は、好ましくは75〜97、より好ましくは77〜97、特に80〜93、もっとも特に82〜91重量部の成分a)の共重合に由来する反復単位を含む。これは、成分a)が(メタ)アクリル酸ベンジルを含む場合に特に当てはまる。
【0048】
成分a)が(メタ)アクリル酸ベンジルを含む場合、それは、重量に基づき好ましくは少なくとも50部、より好ましくは少なくとも60部、特に少なくとも70部、もっとも特に少なくとも80部の(メタ)アクリル酸ベンジルを含む。疎水性モノマーの全体的な好ましい量を得るのに必要な残余分は、(メタ)アクリル酸ベンジル以外の上記疎水性モノマーの任意の1以上により提供することができる。
【0049】
好ましい態様において、成分a)は、(メタ)アクリル酸ベンジルのみ、より好ましくはメタクリル酸ベンジルのみを含む。
成分b)1以上のイオン性基を有する1以上の親水性エチレン不飽和モノマー
成分b)において、存在する各親水性モノマーは、1以上のイオン性基を有する。
【0050】
成分b)のモノマーは、中和されていない(例えば遊離酸)形で計算して好ましくは1未満、より好ましくは0.99〜−2、特に0.99〜0、もっとも特に0.99〜0.5のLogP計算値を有する。
【0051】
上記のように、分散剤中のイオン性基は、酸基、特にカルボン酸基であることが好ましい。
したがって、成分b)は、1以上の酸基、好ましくは1以上のカルボン酸基を有する1以上のモノマーを含むことが好ましい。
【0052】
1以上のイオン性基を有する成分b)に好ましい親水性エチレン不飽和モノマーとしては、ベータカルボキシルエチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、より好ましくは、アクリル酸および特にメタクリル酸が挙げられる。これらのエチレン不飽和モノマーは、重合したときに分散剤中の唯一のイオン性基をもたらすことが好ましい。
【0053】
好ましい態様において、成分b)はメタクリル酸のみを含む。
分散剤は、好ましくは3〜25、より好ましくは3〜23、特に7〜20、もっとも特に9〜18重量部の成分b)の共重合に由来する反復単位を含む。これは、成分b)がメタクリル酸を含むか、より好ましくはメタクリル酸であるときに、特に当てはまる。
成分c)1以上の親水性非イオン性基を有する2部以下の1以上の親水性エチレン不飽和モノマー
成分c)において、存在する各親水性モノマーは、1以上の親水性非イオン性基を有する。
【0054】
本発明の目的に関し、イオン性および非イオン性親水性基の両方を有するモノマーは、成分c)に属すると考える。したがって、成分b)のエチレン不飽和モノマーはすべて、親水性非イオン性基を有さない。
【0055】
成分c)のモノマーは、好ましくは1未満、より好ましくは0.99〜−2のLogP計算値を有する。
われわれは、1以上の親水性非イオン性基を有する親水性エチレン不飽和モノマーに由来する比較的少量の反復単位を含有する分散剤は、最終的な顔料インクが普通紙上に印刷したときに高いODを得る能力を、大きく低下させる傾向があることを見いだした。分散剤中にこれらの反復単位が存在すると、臨界凝結濃度の上昇も起こる。われわれの研究において、われわれは、分散剤中のこれらの反復単位の量を、すべてのモノマー反復単位100部あたり2重量部以下に限定することにより、高いCCCおよび普通紙上での高いODをより良好に得ることができることを見いだした。
【0056】
成分c)は、好ましくは1部未満、より好ましくは0.5部未満、特に0.1部未満、もっとも特に0部(すなわち存在しない)である。このように、分散剤は、1以上の親水性非イオン性基を有する親水性エチレン不飽和モノマーに由来する反復単位を含有しない。
【0057】
親水性非イオン性基の例としては、ポリエチレンオキシ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシ官能性セルロースおよびポリビニルアルコールが挙げられる。親水性非イオン性基を有する容易に入手可能なエチレン不飽和モノマーは、ポリエチレンオキシ(メタ)アクリレートである。
【0058】
成分c)に由来する反復単位が分散剤中に存在する態様(例えば、2重量部の成分c)において、一態様では、成分c)の量を、成分a)の好ましい量から差し引く。このように、成分a)〜c)のすべての量は、なお合計100になる。したがって、例えば2重量部の成分c)が存在する場合、上記成分a)の好ましい量は73〜95(75−2〜97−2)、より好ましくは75〜95(77−2〜97−2)、特に78〜91(80−2〜93−2)、もっとも特に80〜89(82−2〜91−2)重量部の成分a)になる。他の態様では、同様に成分a)〜c)の量の合計が100重量部になるように、成分c)の量を成分b)の好ましい量から差し引くことが可能である。
好ましい分散剤
上記を考慮して、好ましい分散剤は、以下の成分a)〜c)のエチレン不飽和モノマー:
(a)少なくとも50部の(メタ)アクリル酸ベンジルを含む1以上の疎水性エチレン不飽和モノマー75〜97部;
(b)1以上のイオン性基を有する1以上のエチレン不飽和モノマー、好ましくはメタクリル酸3〜25部;および
(c)1以上の親水性非イオン性基を有する親水性エチレン不飽和モノマー2部以下、好ましくはゼロ部;
ここにおいて、部は重量に基づき、a)〜c)の部の合計は100になる
の共重合に由来する反復単位を含む。
【0059】
上記のように、(メタ)アクリル酸ベンジルはメタクリル酸ベンジルである(アクリル酸ベンジルではない)ことが好ましい。
成分a)の唯一の疎水性モノマーがメタクリル酸ベンジルであることが好ましい。
好ましい分散物の特徴
段階I)で述べた分散物中の顔料粒子は、好ましくは1ミクロン以下、より好ましくは10〜1000nm、特に50〜500nm、もっとも特に50〜300nmの平均粒子サイズを有する。平均粒子サイズは、光散乱技術により測定することが好ましい。平均粒子サイズは、Z平均または体積平均サイズであることが好ましい。
【0060】
分散剤は、段階I)において、水性液体媒体、より好ましくは、重量に基づき少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、特に少なくとも70%の水を含み、残りが1以上の水混和性有機溶媒である水性液体媒体中で、上記好ましい顔料粒子サイズをもたらすことができたような分散剤である。これは、分散剤を用いて顔料を分散させるのに水性液体媒体を使用することを容易にするのに加え、普通紙上に印刷したときに良好なODを示すインクをもたらすという点で、本発明の利点の1つである。これは、完全または主に有機液体媒体を用いるいくつかの公知の顔料分散法とは対照的である。
【0061】
段階I)の分散物のpHは、好ましくは5〜12、より好ましくは7〜11である。
分散剤は、粉砕法により顔料表面上に吸着させてあることが好ましい。適した粉砕法の例としては、高圧均質化、ミクロ流動化、超音波および特にビーズミル粉砕が挙げられる。水性液体媒体、顔料および分散剤を含む組成物を、上記好ましい粒子サイズに粉砕することが好ましい。
段階II)分散剤の親水性の低減
段階II)では、疎水性化合物(1以上)を分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが一部と反応させて、疎水性塩を形成することができる。例えば、分散剤中のアニオン性基を疎水性アミンと反応させて、疎水性塩を形成することができる。
【0062】
より好ましくは、疎水性化合物(1以上)を分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが一部と反応させて、それらの間に共有結合を形成させる。
段階II)で用いる疎水性化合物(1以上)の少なくとも1つは、好ましくは1より大きく、より好ましくは1.5より大きく、特に2より大きいLogP計算値を有する。疎水性化合物の少なくとも1つのlogPは、好ましくは1.01〜10、より好ましくは1.5〜6、特に2〜6である。より好ましくは、疎水性化合物(1以上)のすべてが、好ましいLogP値を有する。LogPの計算方法は、分散剤中に反復単位として存在することが好ましい疎水性エチレン不飽和モノマー(成分a)に関し上記したとおりである。
【0063】
疎水性化合物(1以上)は、アリール、ヘテロアリール、C3−30アルキル、フルオロC1−30アルキル、ポリ(C3−4アルコキシ)およびC1−30アルコキシシラン基から選択される少なくとも1つの疎水性基を含有することが好ましい。
【0064】
疎水性化合物(1以上)がアルキル基を含有する場合、アルキル基は線状、分枝状または環状であることができる。
疎水性化合物(1以上)は、分散剤中のイオン性基(1以上)との反応をもたらすのに必要な基以外の親水性基を有さないことが好ましい。したがって、好ましい疎水性化合物(1以上)は、例えば、ヒドロキシ、ポリエチレンオキシ、カルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸基などの基を含有しない。
【0065】
疎水性化合物(1以上)は、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満、特に1重量%未満の水への溶解度を有する。
疎水性化合物(1以上)は、それぞれ独立して、分散剤中のイオン性基(1以上)と反応することができる1以上の基を有する。
【0066】
疎水性化合物(1以上)は、末端キャップ剤、架橋剤またはそれらの混合物を含むことができる。一態様において、疎水性化合物は架橋剤を含み、他の態様では疎水性化合物(1以上)のすべてが架橋剤である。疎水性末端キャップ剤とは、分散剤中のイオン性基(1以上)と反応することができる基を1つだけ有する疎水性化合物をさす。このように、末端キャップ剤は、分散剤中のイオン性基のすべてではないが一部を疎水的にキャップする。疎水性架橋剤とは、分散剤中のイオン性基(1以上)と反応することができる基を2以上、好ましくは2〜10、特に2〜4個有する疎水性化合物をさす。このように、疎水性架橋剤は、分散剤中のイオン性基のすべてではないが一部と架橋して、顔料粒子を封入する分散剤のシェルを形成する。架橋反応は、顔料および水性液体媒体の存在下で実施する。
【0067】
上記のように、疎水性化合物中の好ましい反応性基は、分散剤中のイオン性基への共有結合を形成する。
疎水性化合物(1以上)(イオン性基への共有結合を形成することができるもの)中の好ましい反応性基(1以上)としては、イソシアネート、アジリジン、n−メチロール、カルボジイミド、オキセタン、オキサゾリンおよび特にエポキシ基が挙げられる。これらの反応性基は、イオン性基(1以上)がカルボン酸基(1以上)である(単数/複数)分散剤でとりわけ有用である。
【0068】
とりわけ好ましい組合わせは、疎水性化合物の少なくとも1つがエポキシ基を有し、分散剤がカルボン酸基を有する場合である。より好ましくは、任意の疎水性化合物中に存在する唯一の反応性基(1以上)が、エポキシ基(1以上)である。
疎水性末端キャップ剤
疎水性末端キャップ剤は、好ましくは5000未満、より好ましくは1000未満の数平均分子量を有する。
【0069】
疎水性末端キャップ剤は、式(1)のものであることが好ましい:
【0070】
【化1】

【0071】
式中、Rは疎水性基であるか疎水性基を含む。
Rは、先に記載したような疎水性基であることが好ましい。
とりわけ好ましい末端キャップ剤は式(2)、(3)または(4)のものである:
【0072】
【化2】

【0073】
【化3】

【0074】
【化4】

【0075】
疎水性架橋剤
好ましい疎水性架橋剤は、式(5)〜(8)のものである:
【0076】
【化5】

【0077】
【化6】

【0078】
【化7】

【0079】
【化8】

【0080】
式中、nは1〜20である。
段階II)の反応
段階II)の反応は、分散物を好ましくは40〜100℃の温度に加熱することにより実施することが好ましい。反応を加速または促進するために、場合によっては触媒を加えることが有用である。
【0081】
段階II)の分散物のpHは、好ましくは5〜13、特に7〜12である。疎水性化合物(1以上)中の反応性基がエポキシである場合、反応をホウ酸塩および/またはホウ酸の存在下で実施することが好ましい。
イオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部
本発明に従って、分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を、疎水性化合物(1以上)と反応させる。すべてのイオン性基を反応させた場合、われわれは、分散物のコロイド安定性に問題が生じる傾向があり、顔料分散物が時間とともに凝結または凝集する可能性があることを見いだしている。
【0082】
疎水性化合物(1以上)中の反応性基(1以上)の化学量論(stoichiometry)を分散剤中のイオン性基(1以上)で制御することにより、段階II)の反応の程度を制御することが好ましい。
【0083】
疎水性化合物(1以上)は、すべての疎水性化合物(1以上)中に存在する反応性基のミリモル数を、段階II)の直前に分散剤中に存在するイオン性基のミリモル数で割った値が、好ましくは0.1〜0.9、より好ましくは0.1〜0.6、特に0.2〜0.5であるような量で、段階II)に存在することが好ましい。われわれは、段階II)の反応の程度をそのように制限することにより、普通紙上に印刷したときに良好なODを示すと同時に良好なコロイド分散安定性も有する、最終的なインクを得ることができることを見いだした。
【0084】
“段階II)の直前”という単語により、われわれは、例えば、親水性架橋剤を段階I)と段階II)の間に用いて分散剤中のイオン性基の一部を架橋するような以下に記載する態様において、疎水性化合物(1以上)の好ましい量を計算するのに用いるのは、段階II)の直前の状態のイオン性基のこの低減した量であることを意味する。
【0085】
段階II)の直前に存在するイオン性基(1以上)の量を決定することが必要である場合、これは、例えば塩基での滴定などの滴定法により容易に行うことができる。
封入顔料
本発明の方法は、顔料粒子が架橋分散剤で封入されている水性顔料分散物をもたらすことが好ましい。
【0086】
一態様において、段階I)でもたらされる分散剤は、すでに顔料の周囲に封入されている。これは、水性液体媒体および顔料の存在下で分散剤を架橋することにより達成されていることが好ましい。そのような封入顔料を調製するのに適した方法は、例えば国際公開WO06/064193号、WO05/056700号およびWO05/061087号に記載されている。
【0087】
他の態様では、該方法のいくつかの時点で、分散剤を顔料および水性液体媒体の存在下で架橋する。このようにして、得られる顔料粒子を分散剤で封入する。これにより、特に、比較的高い割合の水混和性有機溶媒を含む水性液体媒体中で、大きく改善されたコロイド安定性を有する分散物およびインクがもたらされる。
【0088】
好ましくは、架橋はエポキシ架橋剤により生じ、成分b)は、1以上のカルボン酸基を有する1以上のモノマーを含む。
架橋段階は、任意の時点、例えば、段階I)とII)の間、段階II)の最中、段階II)の後、またはそれらの任意の組み合わせにおいて、実施することができる。
【0089】
架橋は、疎水性架橋剤、親水性架橋剤、もしくは分散剤中の自己架橋によるか、またはそれらの任意の組み合わせにより、生じさせることができる。
好ましくは、所望による架橋段階を、以下の成分を特定の割合で含む組成物:
(a)30〜99.7部、好ましくは50〜97部の水性液体媒体;
(b)0.1〜50部、好ましくは1〜30部の顔料;
(c)0.1〜30部、好ましくは1〜30部の分散剤;および
(d)0.001〜30部、好ましくは0.01〜10部の架橋剤;
ここにおいて、部はすべて重量に基づく
を混合することを含む方法により実施する。
所望による親水性架橋
一態様では、少なくとも一部のイオン性基(1以上)が分散剤中に残るように、本発明の方法のいくつかの時点で分散剤を1以上の親水性架橋剤(1以上)と架橋させる。親水性架橋反応は、顔料および水性液体媒体の存在下で実施する。このようにして、分散剤は、顔料粒子を封入するシェルを形成する。親水性架橋剤との架橋反応は、段階I)とII)の間、段階II)の最中、段階II)の後、またはそれらの任意の組み合わせにおいて、実施することができる。親水性架橋剤を用いる態様では、それを段階I)とII)の間に分散剤と反応させることが好ましい。
【0090】
好ましい親水性架橋剤は、上記したように、好ましくは1.0以下、より好ましくは1.0〜−3のLogP計算値を有する。親水性架橋剤は、少なくとも5重量%の水への溶解度を有することが好ましい。
【0091】
親水性架橋剤は、分散剤中のあらゆる共反応性基と反応することができる。この所望による段階では、分散剤中の反応する架橋性基はイオン性基である必要はないが、イオン性基であることが好ましい。
【0092】
親水性架橋剤は、最終的な分散剤の親水性を上昇させないが、上昇させる傾向はあるであろう。例えば、一態様において、親水性架橋剤により与えられる親水性は、分散剤中の共反応性イオン性基の損失による相殺および/または段階II)それ自体による相殺を超える。
【0093】
より親水性が高いまたはより大量の親水性架橋剤を用いる場合、段階II)の疎水性化合物の疎水性および割合は、全体的プロセスにより分散剤の親水性の低下(段階Iでもたらされるそれの最初の状態と比較して)がもたらされるように、上昇させるべきである。
【0094】
親水性架橋剤の例としては、上記好ましいLogP値を有する場合のアミン、エチレンオキシ、ヒドロキシ、カチオン性およびアニオン性基を含むものが挙げられる。
親水性架橋在中の架橋性基は、疎水性化合物(1以上)中の反応性基(1以上)について先に上記したもののいずれかであることができ、同様にエポキシ基が好ましい。
【0095】
存在する場合、好ましい親水性架橋剤は、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル(特に、15未満、好ましくは10未満、特に5未満のエチレンオキシ反復単位を有するもの)である。少なくとも1つのエチレンオキシ反復単位が存在する。
【0096】
したがって、一態様は、インクジェット印刷用インクでの使用に適した水性顔料分散物の調製方法であって、以下の段階を、I)続いてII)の順番で含む方法である:
I)2.0M以下の塩化ナトリウム臨界凝結濃度を有する分散物を提供する段階、ここにおいて、前記分散物は、顔料と、水性液体媒体と、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤とを含む;
IA)分散剤中の少なくとも一部のイオン性基(1以上)が残るように、分散剤を1以上の親水性架橋剤(1以上)と架橋する段階;および
II)分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を1以上の疎水性化合物(1以上)と反応させることにより、分散剤の親水性を低下させる段階。
【0097】
好ましい態様では、分散剤を1以上の親水性架橋剤(1以上)と架橋させない。より一般的には、本発明の全体的プロセスは、分散剤の親水性を上昇させる傾向があるであろう段階を含まない。このようにして、段階II)は、例えば親水性架橋剤に由来するあらゆる追加的な親水性基を抑える必要がない。
所望による分散剤の自己架橋
上記のように、分散剤は、それを自己架橋することができるようにする基を含有することができる。この態様では、本発明のプロセスの最中のいくつかの時点で分散剤を自己架橋させることが好ましい。自己架橋は、段階I)とII)の間、段階II)の最中、段階II)の後、またはそれらの任意の組み合わせにおいて、実施することができる。自己架橋反応は、分散物の加熱により生じさせることができる。
【0098】
分散剤が未反応エチレン不飽和基を含有する場合、これらを、例えば開始剤(例えば過硫酸塩)の添加によるか、分散物の加熱により、自己架橋させることができる。自己架橋は顔料および水性液体媒体の存在下で起こる。したがって、分散剤は、顔料粒子を封入するシェルを形成する。
最終的な分散物の性質
本発明の方法から得られる最終的な分散物は、0.2M以下のCCCを有することが好ましい。最終的な分散物のCCCは、好ましくは0.1〜2.0M、より好ましくは0.10〜1.8M、さらにより好ましくは0.20〜1.6M、特に0.30〜1.0Mである。
段階II)の効果
いずれかの特定の理論に限定しようとするものではないが、本発明の第1の観点に従ったプロセスの間に、分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を、分散剤の親水性を低下させる(疎水性を上昇させる)1以上の疎水性化合物と反応させる。
【0099】
われわれの研究において、われわれは、段階II)を段階I)で得られた2.0Mを大きく超える(例えば4.0M)CCCを有する分散物で実施した場合、それから得られる分散物およびインクが、普通紙上に印刷したときにODの検出可能または顕著な上昇を示さないことを見いだした。意外にも、われわれは、段階I)の分散物が2.0M以下の塩化ナトリウムCCCを有する場合、段階II)の反応は、改善されたODを有するプリントを普通紙上にもたらすインクを調製するのに適した分散物をもたらすことを見いだした。しばしば、ODの利益は0.1または0.2OD単位と同程度であることができ、これは非常に望ましい。このように、段階I)およびII)は相乗的な対をなす。
【0100】
本方法により作製される分散物を含有するインクは、普通紙と接触したときに沈殿する傾向が高くなっているので、普通紙上での光学濃度の改善が生じる可能性がある。われわれは、普通紙上に沈殿を生じさせるメカニズムが、普通紙中に存在する塩が本発明の方法から得られる顔料分散物と相互作用する“塩析”現象であると推測している。
乾燥または濃縮
本発明の第1の観点に従った方法は、生成物から水性液体媒体の一部またはすべてを除去する段階を追加的に含むことができる。水性液体媒体は、蒸発および濾過などの方法により除去することができる。このようにして、顔料分散物を濃縮するか乾燥固体の形に転化することができる。液体媒体が水と水混和性有機溶媒との混合物を含む場合、水混和性有機溶媒を選択的に除去することが望ましい可能性がある。これは、例えば蒸溜または膜処理により実施することができる。
分散剤の親水性の低減
分散剤の親水性の低減は、多くの技術のいずれか1つにより確認および測定することができる。
【0101】
親水性の低減は、好ましくは、段階II)の直前および直後に分散剤中のイオン性基の数を測定する分析法により確認することができる。例えば、イオン性基がカルボン酸基である場合、段階II)の結果としての分散剤中に存在するカルボン酸基数の減少を、滴定により確認することができる。
【0102】
段階II)からの分散剤の親水性の低減は、溶解性または分散性の特徴、水とn−オクタノールとの間の分配、およびメタノール/水湿潤により確認することもできる。親水性の低減を実証する1つの方法は、段階I)で得られた顔料分散物のメタノール/水湿潤特性を、段階II)の後のものと比べて測定することである。この方法では、水性液体媒体を蒸発させることにより分散物を乾燥させる。その後、乾燥した分散物を、さまざまな重量の割合で水とメタノールのみを含む液体と接触させる。メタノール湿潤値(メタノールの重量%で表す)は、乾燥した分散物を湿潤および分散させるメタノールの最大相対量であると考える。したがって、例えば、段階I)で得られる最初の分散物は50%のメタノール湿潤値を有するかもしれないが、段階II)の後、値は70%に上昇している可能性がある。
【0103】
分散剤の親水性の低減は、水中の顔料分散物のゼータ電位を測定することによりモニタリングすることも可能である。より低い親水性は、より低いゼータ電位に相当することが多い(特に、分散剤が親水性非イオン性基を含有しないか、少ししか含有しない場合)。
分散物の精製
本発明の第1の観点に従った方法はさらに、水性顔料分散物を精製する段階を含むことが好ましい。精製プロセスは、段階II)の後に実施することが好ましい。精製は、精密濾過、脱イオン樹脂(deionizer resin)、遠心分離とこれに続くデカンテーションおよび洗浄などの任意の適した方法によることができる。好ましい方法は、膜濾過、特に限外濾過である。好ましい限外濾過膜は、約0.1ミクロンの細孔サイズを有する。段階II)の後の分散物を、分散物の体積に基づき5〜50体積の純水で洗浄することが好ましい。限外濾過法で用いる水は、脱イオンされているか、蒸留されているか、逆浸透により精製されていることが好ましい。分散物が十分に精製された時点を評価する好ましい方法は、限外濾過工程からの透過流の導電率を測定することと、透過流が100μS/cm未満、より好ましくは50μS/cm未満の導電率を有するようになるまでさらなる体積の純水を加え続けることである。限外濾過は、分散物中に10〜15重量%の顔料を有する分散物で実施することが好ましい。われわれは、場合によっては、精製により、普通紙上に印刷したときにさらに改善されたODを有する最終的な分散物およびインクをもたらすことができることを見いだした。
添加剤
本発明の方法はさらに、粘度調整剤、pH緩衝剤、金属キレート化剤、界面活性剤、腐食抑制剤、殺生物剤、染料、水混和性有機溶媒(1以上)および/またはコゲーション低減剤(kogation reducing additive)から選択される1以上の添加剤の添加を含むことが好ましい。これらは、段階II)の後に加えることが好ましい。
該方法の生成物
本発明の第2の観点に従って、本発明の第1の観点に従った方法により得た、または得ることができる水性顔料分散物を提供する。
インクおよびインクジェット印刷用インク
本発明の第2の観点に従った水性顔料分散物であって、本発明の第1の観点に従った方法により調製されたものを用いて、インク、特にインクジェット印刷用インクを調製することができる。
【0104】
インクは、25℃の温度で測定して、好ましくは50mPa.s未満、より好ましくは30mPa.s未満、特に15mPa.s未満の粘度を有する。
インクは、25℃の温度で測定して、好ましくは20〜65ダイン/cm、より好ましくは30〜60ダイン/cmの表面張力を有する。
【0105】
インクのpHは、好ましくは4〜11、より好ましくは7〜10である。
インクがインクジェット印刷用インクとして用いられることになっている場合、該インクは、好ましくは100万部あたり500部未満、より好ましくは100万部あたり100部未満のハロゲン化物イオン濃度を有する。インクが100万部あたり100部未満、より好ましくは50部未満の二価および三価の金属を有することが、特に好ましい。上記で用いた100万部あたりの部は、インクの全重量に対する重量部をさす。得られるインク中のこれら低濃度のイオンは、上記精製段階により達成することができる。
【0106】
インクの作製方法は、直径1ミクロンを超える粒子サイズを有する粒子を例えば濾過または遠心分離により除去するための段階を包含することが好ましい。インクは、直径1ミクロンを超えるサイズを有する粒子を、重量に基づき好ましくは10%未満、より好ましくは2%未満、特に1%未満有する。
【0107】
インク中の顔料の量は、重量に基づき好ましくは0.1〜15%、より好ましくは1〜10%、特に3〜10%である。
インク中の有機溶媒
インクは、水と有機溶媒を好ましくは99:1〜1:99、より好ましくは99:1〜50:50、特に95:5〜70:30の重量比で含有する。
【0108】
好ましい有機溶媒は、水混和性有機溶媒およびそのような溶媒の混合物である。好ましい水混和性有機溶媒としては、C1−6−アルカノール、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノールおよびシクロヘキサノール;線状アミド、好ましくは、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド;ケトンおよびケトン−アルコール、好ましくは、アセトン、メチルエーテルケトン、シクロヘキサノンおよびジアセトンアルコール;水混和性エーテル、好ましくは、テトラヒドロフランおよびジオキサン;ジオール、好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、ペンタン−1,5−ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびチオジグリコール、ならびに、オリゴ−およびポリ−アルキレングリコール、好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくは、グリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;ジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)−エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールおよびエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプロラクタムおよび1,3−ジメチルイミダゾリドン;環状エステル、好ましくはカプロラクトン;スルホキシド、好ましくはジメチルスルホキシドおよびスルホランが挙げられる。液体媒体は、水と2以上、特に2〜8種の水混和性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0109】
インクに特に好ましい水混和性有機溶媒は、環状アミド、特に、2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドンおよびN−エチル−ピロリドン;ジオール、特に、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、チオジグリコール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール;ならびに、ジオールのモノ−C1−4−アルキルおよびジ−C1−4−アルキルエーテル、より好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシ−2−エトキシ−2−エトキシエタノールである。
【0110】
水と1以上の有機溶媒の混合物を含む他の適したインク媒体の例は、米国特許公報第4963189号、米国特許公報第4703113号、米国特許公報第4626284号および欧州出願公開EP425150A号に記載されている。
【0111】
インクジェット印刷用インクは、インクジェット印刷機用カートリッジのチャンバーに容易に加えることができる。
用途
本発明の方法により、インクジェット印刷用インクでの使用に特に適している水性顔料分散物が調製される。これに加えて、該水性顔料分散物は、インク、ペイント、毛髪染料、化粧料、熱可塑性プラスチックおよび熱硬化性プラスチックに用いることができる。
【0112】
本発明の第3の観点に従って、インクジェット印刷用インクを調製するための、本発明の第1の観点に従った方法の使用を提供する。好ましくは、この使用は、普通紙上に印刷したときにより高い光学濃度をもたらすインクジェット印刷用インクを提供する技術的目的のためである。
【0113】
本発明の方法により調製される水性顔料分散物を含有するインクジェット印刷用インクは、いくつかの態様において、例えば耐湿潤堅牢度または光学濃度を改善するか色のブリードを低減するための固着剤を含む紙で、用いることができる。他の態様において、本発明の方法により調製される水性顔料分散物を含有するインクジェット印刷用インクは、固着剤と一緒に用いることができる。例えば、インクジェット印刷機用カートリッジは、1つのチャンバーに上記インクを含み、他のチャンバーに固着剤を含む液体を含んでいてもよい。このようにして、インクジェット印刷機は、インクおよび固着剤を基材に施用することができる。
【0114】
固着剤は当分野で周知であり、金属塩、酸およびカチオン性材料などのものを包含する。
本発明をさらに以下の実施例により例示する。実施例において、部および百分率はすべて、特記しない限り重量に基づく。
【実施例】
【0115】
実施例
以下に記載する実験を必要なように率に応じて増減することができるように、量は部で表してある。実際の実験は、すべての部がグラムである状態で実施した。
1.分散剤の調製
1.1 分散剤(1)の調製
モノマー供給組成物を、メタクリル酸ベンジル(871部)、メタクリル酸(129部)およびイソプロパノール(375部)を混合することにより調製した。
【0116】
開始剤供給組成物を、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)およびイソプロパノール(187.5部)を混合することにより調製した。
イソプロパノール(187.5部)を反応器内で80℃に加熱し、継続的に攪拌し、窒素ガス雰囲気でパージした。モノマー供給組成物および開始剤供給組成物を徐々に反応器に供給する一方、内容物を攪拌し、温度を80℃で維持し、窒素雰囲気を維持した。モノマー供給物および開始剤供給物をともに2時間かけて反応器に供給した。反応器の内容物を80℃でさらに4時間維持した後、25℃に冷却した。その後、得られた分散剤を、減圧下での回転蒸発により反応器の内容物から単離した。これを分散剤(1)とした。分散剤(1)は、47999の数平均分子量、89332の重量平均分子量、およびGPCにより測定して1.86の多分散性を有するアクリルコポリマーであった。分散剤(1)は、酸基1.5ミリモル/分散剤1gに相当する酸価を有していた。分散剤(1)は、メタクリル酸ベンジルおよびメタクリル酸に由来する反復単位を、それぞれ重量に基づき87.1:12.9の割合で含有していた。
1.2 分散剤(2)の調製
分散剤(2)は、用いたモノマーがメタクリル酸ベンジル(785部)およびメタクリル酸215部)であった点を除き、分散剤(1)とまったく同じ方法で調製した。これを分散剤(2)とした。分散剤(2)は、48462の数平均分子量、86938の重量平均分子量、およびGPCにより測定して1.79の多分散性を有するアクリルコポリマーであった。分散剤(2)は、酸基2.5ミリモル/分散剤1gに相当する酸価を有していた。分散剤(2)は、メタクリル酸ベンジルおよびメタクリル酸に由来する反復単位を、それぞれ重量に基づき78.5:21.5の割合で含有していた。メタクリル酸の割合がより高いことから明らかなように、分散剤(2)は分散剤(1)よりいくぶん親水性が高い。
1.3 比較分散剤(1)の調製
比較分散剤(1)は、用いたモノマーがメタクリル酸2−エチルヘキシル(350部)、メタクリル酸メチル(413部)およびメタクリル酸(237部)であった点を除き、分散剤(1)とまったく同様に調製した。これを比較分散剤(1)とした。比較分散剤(1)は、45593の数平均分子量、75945の重量平均分子量、およびGPCにより測定して1.67の多分散性を有するアクリルコポリマーであった。比較分散剤(1)は、酸基2.75ミリモル/分散剤1gに相当する酸価を有していた。比較分散剤(1)は、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸に由来する反復単位を、それぞれ重量に基づき35:41.3:23.7の割合で含有していた。以上からわかるように、比較分散剤(1)は、分散剤(1)および分散剤(2)より親水性が高い。
2.分散剤溶液の調製
2.1 分散剤溶液(1)
分散剤(1)(154.3部)を水に溶解して(1000部)にし、水酸化カリウム水溶液で中和して、約9のpHを有する水溶液を得た。これにより、約15重量%の分散剤(1)を含有する分散剤溶液(1)が得られた。
2.2 分散剤溶液(2)
分散剤(2)(350部)を水に溶解して(1000部)にし、水酸化カリウム水溶液で中和して、約9のpHを有する水溶液を得た。これにより、約35重量%の分散剤(2)を含有する分散剤溶液(2)が得られた。
2.3 比較分散剤溶液(1)
比較分散剤(1)(461部)を水に溶解して(1000部)にし、水酸化カリウム水溶液で中和して、約9のpHを有する水溶液を得た。これにより、約46重量%の比較分散剤(1)を含有する分散剤溶液(1)が得られた。
3.ミルベースの調製
3.1 ミルベース(1)
顔料粉末(Dainichiseikaからの15:3銅フタロシアニンブルーTRB2顔料149.55部、50重量%の固形分を有する)、分散剤溶液(1)(243.03部)および水(107.4部)を、SilversonTMミキサーを30分間にわたり用いて一緒に予備混合した。
【0117】
予備混合後、予備混合物を1mmのビーズが入っている垂直型ビーズミルに移した。該予備混合物を少なくとも4時間、粒子サイズが微粉砕時間に伴いなおサイズの減少を示した場合はより長時間にわたり、微粉砕した。
【0118】
その後、微粉砕した混合物から微粉砕ビーズを濾過により取り出した。その後、微粉砕した混合物を、純水を加えることにより10重量%の顔料まで調整した。これによりミルベース(1)が得られた。
3.2 ミルベース(2)
ミルベース(2)は、顔料ペースト(Dainichiseikaからの15:3銅フタロシアニンブルーTRB2顔料149.55部、50重量%の固形分を有する)、分散剤溶液(2)(107.17部)および水(243.3部)をミルベース(1)で記載した対応する成分の代わりに用いた点を除き、ミルベース(1)とまったく同じ方法で調製した。
3.3 比較ミルベース(1)
比較ミルベース(1)は、顔料ペースト(Dainichiseikaからの15:3銅フタロシアニンブルーTRB2顔料119.64部、50重量%の固形分を有する)、比較分散剤溶液(1)(65.08部)および水(215.3部)をミルベース(1)で記載した対応する成分の代わりに用いた点を除き、ミルベース(1)とまったく同じ方法で調製した。
4. 臨界凝結濃度の測定
ミルベース(1)、(2)および比較ミルベース(1)の塩化ナトリウム臨界凝結濃度を、NaClの濃度を段階的に0.1Mずつ用いて、先に記載した方法により測定した。
【0119】
結果はCCC値において顕著な差を示した。われわれは、これを分散剤の組成の差に主として起因すると考える。
【0120】
【表1】

【0121】
比較ミルベース(1)は4.0MのNaCl溶液中で沈殿しなかった。したがって、CCCは単純に>4.0Mと記録した。
5.分散剤の親水性の低減
5.1 反応済み分散物および比較反応済み分散物の調製
項目3.1で調製したミルベース(75部)を、ホウ酸溶液(6.8重量%の固形分で0.938部、ホウ酸はAldrichから得た)の存在下で0.122部のtert−ブチルグリシジルエーテル(疎水性末端キャップ剤)と反応させた。末端キャップ剤は、該末端キャップ剤中のエポキシ基が分散剤中に最初に存在するカルボン酸基の約17%と潜在的に反応することができるような十分な化学量論的量で加えた。反応は、ミルベースを終始攪拌しつつ65℃の温度に5時間加熱することにより行った。これにより、反応済み分散物(1)を調製した。
【0122】
他の反応済み分散物および比較反応済み分散物は、用いた成分および量が以下の表2に記載したとおりであった点を除き、上記反応済み分散物(1)とまったく同様に調製した。
【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
6.インク(1)〜(8)および比較インク(1)〜(2)の調製
上記各反応済み分散物および比較反応済み分散物を用いて、対応するインク参照名を有し以下の組成を有するインクまたは比較インクを調製した。
【0126】
反応済み分散物/比較反応済み分散物 40.00部
2−ピロリドン 3.00部
グリセロール 15.00部
1,2ヘキサンジオール 4.00部
エチレングリコール 5.00部
SurfynolTM 465 0.50部
純水 32.50部
SurfynolTM 465は、Airproductsから入手可能な界面活性剤である。
【0127】
したがって、例えば反応済み分散物(1)を用いてインク(1)を調製し、比較反応性分散物(2)を用いて比較インク(2)を調製した。
これに加えて、比較インク(M1)を、反応済み分散物(1)の代わりにミルベース(1)を用いた点を除き、上記インク(1)とまったく同様に調製した。
【0128】
類似の方法で、ミルベース(2)を含有する比較インク(M2)を調製し、比較ミルベース(1)を含有する比較インク(M3)を調製した。
7.プリントの作製
上記項目6に記載した各インクおよび比較インクを、さまざまな種類の普通(未処理)紙、すなわち、Canon GF500、Office PlannerおよびXerox 4200紙上に印刷した。印刷は、色のブロックを100%印刷するSEC D88インクジェット印刷機により実施した。
8. 光学濃度の測定
各プリントについて、反射率光学濃度(reflectance optical density)(ROD)および彩度を、D65光源を観測視野2°でフィルターを取り付けずに用いて照明したGretag Macbeth key wizard V2.5 Spectrolino光濃度計を用いて測定した。測定は、プリントに沿って少なくとも2点で行い、その後平均化した。
9. 光学濃度測定の結果
RODおよび彩度の測定結果を以下の表3、4および5にまとめる。表3、4および5において、“C.インク”は比較インクの略であり、“インク”は本発明の第1の観点に従った方法により調製したインクをさす。
【0129】
【表4】

【0130】
【表5】

【0131】
【表6】

【0132】
表3〜5の結果は以下を示している:
i)本発明の第1の観点に従った方法の段階II)の反応により、表3および4ではRODが改善されているが、表5では改善されていない。われわれは、これが、表5の比較ミルベースのCCCが>4.0Mである一方、本発明により必要とされているように2.0M以下の値を有する表3および4のミルベースのCCCと関連することを見いだした。
ii)RODの改善は、さまざまなタイプの範囲の普通紙で見ることができる。
iii)さまざまな種類の疎水性化合物を採用することができる。
iv)RODの最大の改善は、分散剤中のイオン性基に対する疎水性化合物中の反応性基の化学量論的量が、例えば17%の場合ではなく、約33%である場合に見られる。
v)未反応インクM1、M2およびM3のベースラインRODは、CCCが低いほど高い。
vi)彩度は、本発明の段階II)の反応により大きな影響を受けない。
10. さらなるインク
表IおよびIIに記載したさらなるインクを調製することができる。ここにおいて、ミルベース(1)およびミルベース(2)は先に定義したとおりであり、インク添加剤は以下に定義するとおりである。第2列以降に示した数字は、関連する構成成分の部数をさし、部はすべて重量に基づく。インクは、サーマル、圧電式またはMemjetインクジェット印刷により紙に施用することができる。
【0133】
以下の略語を表IおよびIIに用いる:
PG=プロピレングリコール
DEG=ジエチレングリコール
NMP=N−メチルピロリドン
DMK=ジメチルケトン
IPA=イソプロパノール
MEOH=メタノール
2P=2−ピロリドン
MIBK=メチルイソブチルケトン
P12=プロパン−1,2−ジオール
BDL=ブタン−2,3−ジオール
Surf=AirproductsからのSurfynolTM 465
PHO=NaHPOおよび
TBT=第三ブタノール
TDG=チオジグリコール
GLY=グリセロール
nBDPG=ジプロピレングリコールのモノ−n−ブチルエーテル
nBDEG=ジエチレングリコールのモノ−n−ブチルエーテル
nBTEG=トリエチレングリコールのモノ−n−ブチルエーテル
【0134】
【表7】

【0135】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷用インクでの使用に適した水性顔料分散物の調製方法であって、以下の段階を、I)続いてII)の順番で含む方法:
I)2.0M以下の塩化ナトリウム臨界凝結濃度を有する分散物を提供する段階、ここにおいて、前記分散物は、顔料と、水性液体媒体と、1以上のイオン性基(1以上)を有する分散剤とを含む;および
II)分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが少なくとも一部を1以上の疎水性化合物(1以上)と反応させることにより、分散剤の親水性を低下させる段階。
【請求項2】
段階I)の分散物の塩化ナトリウム臨界凝結濃度が1.6M以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階I)の分散物の塩化ナトリウム臨界凝結濃度が0.8M以下である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
段階I)の分散物の塩化ナトリウム臨界凝結濃度が少なくとも0.10Mである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階I)の分散物中の分散剤が、分散剤1gあたり2.65ミリモル以下のイオン性基を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
段階I)の分散物中の分散剤が、分散剤1gあたり2.15ミリモル以下のイオン性基を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
段階I)の分散物中の分散剤が、分散剤1gあたり少なくとも0.9ミリモルのイオン性基を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
疎水性化合物(1以上)が、すべての疎水性化合物(1以上)中に存在する反応性基のミリモル数を、段階II)の直前に分散剤中に存在するイオン性基(1以上)のミリモル数で割った値が、0.1〜0.6であるような量で段階II)に存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
疎水性化合物(1以上)が、すべての疎水性化合物(1以上)中に存在する反応性基のミリモル数を、段階II)の直前に分散剤中に存在するイオン性基(1以上)のミリモル数で割った値が、0.2〜0.5であるような量で段階II)に存在する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
疎水性化合物(1以上)の少なくとも1つが、1.5より大きいlogP計算値を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
疎水性化合物(1以上)を分散剤中のイオン性基(1以上)のすべてではないが一部と反応させて、それらの間に共有結合を形成させる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
顔料粒子が架橋分散剤で封入されている水性顔料分散物をもたらす、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
疎水性化合物(1以上)が、末端キャップ剤、架橋剤またはそれらの混合物を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
疎水性化合物(1以上)が架橋剤を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
分散剤中のイオン性基(1以上)が酸基を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酸基がカルボン酸基である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
分散剤が、エチレン不飽和モノマーの重合に由来するモノマー反復単位を含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
分散剤が、成分a)〜c)のエチレン不飽和モノマー:
a)1以上の疎水性エチレン不飽和モノマー;
b)1以上のイオン性基を有する1以上の親水性エチレン不飽和モノマー;および
c)1以上の親水性非イオン性基を有する2部以下の1以上の親水性エチレン不飽和モノマー;
ここにおいて、部は重量に基づき、a)〜c)の部の合計は100になる
の共重合に由来する反復単位を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
分散剤が、以下の成分a)〜c)のエチレン不飽和モノマー:
(a)少なくとも50部の(メタ)アクリル酸ベンジルを含む1以上の疎水性エチレン不飽和モノマー75〜97部;
(b)メタクリル酸3〜25部;および
(c)1以上の親水性非イオン性基を有する親水性エチレン不飽和モノマーなし;
ここにおいて、部は重量に基づき、a)〜c)の部の合計は100になる
の共重合に由来する反復単位を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
さらに、水性顔料分散物を精製する段階を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
さらに、粘度調整剤、pH緩衝剤、金属キレート化剤、界面活性剤、腐食抑制剤、殺生物剤、染料、水混和性有機溶媒(1以上)および/またはコゲーション低減剤から選択される1以上の添加剤の添加を含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法により得た、または得ることができる水性顔料分散物。
【請求項23】
請求項22に記載の水性顔料分散物を含むか、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法により調製されている、インクジェット印刷用インク。
【請求項24】
チャンバーおよびインクジェット印刷用インクを含むインクジェット印刷機用カートリッジであって、該インクジェット印刷用インクが、チャンバー内に存在し、請求項23に記載のものである、前記カートリッジ。
【請求項25】
インクジェット印刷用インクを調製するための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項26】
普通紙上に印刷したときにより高い光学濃度をもたらすインクジェット印刷用インクを提供する技術的目的のための、請求項25に記載の使用。

【公表番号】特表2012−504674(P2012−504674A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529630(P2011−529630)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051284
【国際公開番号】WO2010/038070
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(506139635)フジフィルム・イメイジング・カラランツ・リミテッド (75)
【Fターム(参考)】