説明

方法及び組成物

本発明は、対象における障害の診断を補助する方法であって、前記対象に由来する、血液を含む試料を供給するステップと、前記試料の少なくとも2つの特徴をアッセイするステップであり、前記特徴が、前記試料に含まれるポリペプチドの構造組成、前記試料に含まれる代謝産物、及び前記試料に含まれる触媒活性から選択され、前記少なくとも2つの特徴のそれぞれが同一試料の多重分析から決定されるステップを含む方法に関する。本発明は、一定の組成物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患の多重スクリーニングに関する。とりわけ、本発明は、質量分析を用いた遺伝性疾患の多重スクリーニングに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS,mass spectrometry)は、定性的且つ定量的な強力な分析法であり、この5年の間、多くの臨床検査室及び調査研究室に導入されている。MS分析機器の費用は、大多数の検査研究室の手が届く範囲に低下している。臨床検査室では、臨床関連の広範な分析物を測定するために質量分析計を使用する。生体試料に適用する場合、MSの強みは、化合物の同定及び定量化に向けたその選択性にある。タンデムMS(MSMS)は、優れた分析能を示すMS法である。
【0003】
遺伝性代謝疾患、先天性の甲状腺機能低下症、異常ヘモグロビン症、嚢胞性線維症、及び、地域の要件により定義される他のさまざまな疾患についての新生児スクリーニングなどのスクリーニングは、現在多くの国々において義務化されている。
【0004】
代謝産物スクリーニングのためのMSMSの導入は、分析プロセス、及び、スクリーニングできる可能性のある疾患の数の両方に対して革命をもたらした。典型的には、このシステムにはブチル化が含まれる。しかし、代謝産物の直接分析を用いたスクリーニングが可能である。
【0005】
本発明者らは、これまでに、新生児スクリーニング及び出生前スクリーニングに適した分析形態のMSMSによる、臨床的に顕著な異常ヘモグロビン症の検出及び確定の実現可能性を実証している。
【0006】
代謝産物スクリーニングにより、特定の遺伝性疾患(inherited conditions)の診断に用いる全範囲の代謝産物の検出が可能になる。米国及び欧州におけるいくつかの施設においては、最大30の疾患が可能となった。しかし、多くの疾患については、容易に測定される代謝産物は感受性及び特異性に乏しく(例えば、ホモシスチン尿症の場合のメチオニン)、このことが課題となっている。
【0007】
英国では、スクリーニングは、フェニルケトン尿症(PKU,phenylketonuria)の診断のためのフェニルアラニンの測定、及び、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症(MCADD,medium chain acylCoA dehydrogenase deficiency)の診断のためのオクタニルカルニチンの測定に限定されてきた。これは、費用対効果の高いアプローチである。しかし、マーカーの感受性及び特異性が低い状態を包含しているとはいえスクリーニングすべき疾患を技術的な限界から除外している可能性のあるスクリーニングプロファイルを増やしたいという要望がある。先行技術によるこのアプローチは、多数の事業計画上及び臨床上の課題を生じさせている。
【0008】
ビオチニダーゼ欠損症は、現在のところ代謝産物を用いてはスクリーニングされない状態の一例である。ビオチニダーゼ欠損症は、スクリーニングされる集団の人種差によるが、出生数のおよそ110,000分の1の割合で発生する。ビオチニダーゼ欠損症が診断されなければ、結果として死亡、抗痙攣薬抵抗性発作、両耳難聴、視覚劣化(optic degeneration)、歩行障害及びさまざまな他の非特異的な臨床状態に至る可能性がある。新生児期に診断され、薬理学的用量のビオチンを用いた生涯にわたる治療が開始された場合、臨床表現型は完全に抑制され、成長及び発育は正常である。後年に診断された場合、いくつかの臨床症状は制御できる(例えば発作)が、他の臨床症状(例えば難聴)は残る。その結果、人口に占める発生率は比較的低いにもかかわらず、ビオチニダーゼ欠損症は、費用対効果の高いスクリーニング候補である。英国以外の多くの施設では、ビオチニダーゼ欠損症は単独のテストを用いてスクリーニングされ、ビオチニルパラアミノ安息香酸(ビオチンPABA,para-aminobenzoic acid)から放出されるパラアミノ安息香酸の測定に基づく比色アッセイを用いて酵素活性が直接測定される。このアッセイは、専用の単独試料(血液スポット)を必要とし、手間も時間もかかり、比較的感受性が低い。ビオチニダーゼ欠損症の診断に有用な血液代謝産物はこれまで記載されていない。したがって、先行技術によるビオチニダーゼスクリーニングには、多数の欠点及び課題が含まれる。
【0009】
チロシン血症1型は、提案されているマーカーの感受性及び特異性が低い状態の一例である。チロシン血症1型(フマリルアセトアセターゼ欠損症)は、スクリーニングされる集団の人種差によるが、出生数のおよそ300,000人に1人の割合で発生する。チロシン血症1型が診断されずにいると、結果として劇症肝炎、凝固障害、及び死亡又はくる病、ポルフィリン症様の発作、神経学的合併症、及び肝腫瘍に至る可能性がある。肝移植が唯一の治療である場合が多い。新生児期に診断され、生涯にわたるNTBC治療が開始された場合、臨床表現型は完全に抑制され、成長及び発育は正常である。したがって、チロシン血症1型は、その希少性にもかかわらず費用対効果の高いスクリーニング候補と考えられる。多くの場合、血中チロシンが増加するが、これは診断には使えず、新生児期には血中チロシンの非特異的な増加は一般的であることから、この疾患の唯一の指標として血中チロシンレベルの使用を試みることは問題である。スクシニルアセトンは診断に使える代謝産物と考えられるが、その測定は先行技術の代謝産物スクリーニングシステムに容易には組み入れられないことが課題である。スクシニルアセトンは、最初は、酵素であるポルフォビリノーゲン合成酵素(PBG合成酵素は、脱水により5−アミノレブリン酸分子2個を結合する)を阻害することにより認識された(その阻害はポルフィリン症様の発作の一因となる)。多くの施設では、ポルフォビリノーゲン合成酵素の活性は、チロシン血症1型をスクリーニングするか、又はチロシン増加が最初に示された場合のバックアップテストを行うために使用される。このアッセイは、基質として5−アミノレブリン酸を提供し、生成されるポルフォビリノーゲンを測定することに基づく。このアッセイは、単独の血液スポットを必要とし、手間も時間もかかり、比較的感受性が低い。酵素プロセスの解明不足も、先行技術においてチロシン血症に関する課題が生じる原因となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酵素活性は、通常、標準化及び最適化された条件下で測定する。そのような標準化/最適化には、特異的な緩衝液及びpH条件が必要である。したがって、個々のアッセイ及び条件はほとんどの場合において異なり、多くの場合、著しく異なる。そのため、各アッセイはほぼ専用である。第1の所望の酵素についてのアッセイ条件が、第2の又はさらなる所望の酵素に適したものであることは稀であり、実際には、そうした酵素を阻害又は不活性化さえしかねない。複数酵素の分析を実施したい場合には、これは深刻な問題である。
【0011】
加えて、緩衝液は重要な化合物のエレクトロスプレーイオン化を顕著に抑制する可能性があることは公知である。これは、当技術分野における課題である。先行技術は、この課題を、典型的にはクロマトグラフィーを用いて化合物シグナルから緩衝液を除去することで解決しようと試みている。これは、時間がかかるとともに、実行するための専門の設備及び知識を必要とする、手間のかかるステップである。
【0012】
本発明は、先行技術に伴う課題の克服を追求する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
遺伝性疾患のスクリーニングに対する現在のアプローチは、多重化に適合しない。先行技術においては、個々の疾患は、実施される特定のテスト用に最適化された一連の個別条件を用いてスクリーニングされる。さらに、こうしたテストの多くは、独立した血液スポットを必要とする。これは、手間も費用もかかるだけでなく、血液の必要量という点で深刻な制約でもある。このことは、少量の血液しか典型的に採取されない新生児スクリーニングの分野においてとりわけ急を要する課題である。
【0014】
本発明者らは、複数の疾患を同時にスクリーニングできる方法を開発した。言い換えれば、本発明者らは、血液スポットなど単一の試料のみを使用して複数の疾患をアッセイできるように、スクリーニング手順の多重化を可能にする手法を開発した。
【0015】
このブレイクスルーを達成するために、本発明者らは、調査すべき多様な診断用化学実体の最適化及び希釈/検出に関する当技術分野における考えに逆らってきた。具体的には、本発明者らは、従来の緩衝系を採用せず、試験中の多様な化学物質の準最適な触媒条件及び/又は準最適な濃度を意図的に実現するアプローチを開発した。しかし、一部はこのアプローチの結果として、一部は質量分析による強力な検出法と組み合わせることにより、驚くべきことに、高い特異性と広範なスクリーニングプロファイルとを有利に組み合わせることができることが示される。こうした優位性に加え、試料の必要量が劇的に減少することも、本発明のさらなる利点である。例えば、典型的には、新生児の血液スポット6つの標準アレイ上で現在行われているより大きなテストパネルを有利に多重化して、従来の先行技術のテスト用で採取されていた量の1/6未満に相当する血液スポット試料から従来のテスト結果の上位セット(superset)を抽出することができる。
【0016】
本発明は、こうした驚くべき知見に基づくものである。
【0017】
したがって、一態様では、本発明は、対象における疾患(disorder)の診断を補助する方法であって、
前記対象に由来する試料を供給することと、
前記試料の少なくとも2つの特徴をアッセイすることであり、前記特徴が、
(i)前記試料に含まれるポリペプチドの構造組成、
(ii)前記試料に含まれる代謝産物、及び
(iii)前記試料に含まれる触媒活性
から選択され、
前記少なくとも2つの特徴のそれぞれが多重解析(multiplex analysis)により決定されるステップとを含む方法を提供する。
【0018】
「多重化する(multiplex)」/「多重化(すること)」は、当技術分野における通常の意味、すなわち、いくつかの機能を、独立してはいるが関連している様式で同時に実行するという意味を有する。言い換えれば、多重化は、本発明において、単一の読取値(in a single readout)における複数の独立した疾患指標の分析を意味する。ここで言う「関連する」様式は、適切には、共通のインテロゲーション(interrogation)又は分析のステップにおいて複数データの収集、例えば、当然ながら、典型的に互いに独立している、可能性のある複数の異なる障害についてのデータを収集することを指す。
【0019】
最も適切には、共通のステップは、共通又は単一の試料からデータを抽出することを指す。適切には、共通のステップは、データ収集機器の単一のセッション(MS分析機器の単一のセッションなど)から、可能性のある複数の疾患のデータを抽出することを指す。最も適切には、共通のステップは、単一試料のみについて、すなわち、より大きな全体的な試料の異なる部分を分割したり下調製(sub-preparation)することなく、単一の実際の身体試料について本発明を実行することにより複数の分析を実行することを指し、各分析は、例えば、全く同じスポット又は再水和させた血液試料について実行する。
【0020】
したがって、適切には、前記多重解析は、同一試料の多重解析を含む。このことは、追ってより詳細に説明する。
【0021】
適切には、試料は血液又は血漿を含む。より適切には、試料は血液を含み、より適切には、試料は本質的に血液からなり、より適切には、試料は血液である。最も適切には、試料は、乾燥血液スポット、例えば、直径およそ3.2mmの乾燥血液スポットを含む。適切には、乾燥血液スポットは従来の濾紙に付けた血液スポットであり、新生児の血液スポット試料の採取において標準的な慣例及び周知の要領で風乾させる。
【0022】
適切には、試料は、天然に存在するその成分によってのみ緩衝化させる。適切には、試料への緩衝液の添加を具体的に省く。外因的な緩衝化ステップを回避することは、本発明の利点である。有利には、本発明によれば、溶媒との再水和は、外因的な緩衝系を関与させなくても十分である。
【0023】
適切には、前記試料に含まれるポリペプチドの構造組成をアッセイするステップは、
(a)前記試料にペプチダーゼを加えるステップ、
(b)ペプチダーゼ処理後に前記試料中のポリペプチドを分析するステップ、及び
(c)前記ポリペプチドの構造組成に関して(b)の情報から推測するステップ
を含む。
【0024】
適切には、前記ペプチダーゼはトリプシンである。
【0025】
適切には、前記所望のポリペプチドは、ヘモグロビン、アルブミン、トランスフェリン、α−1−アンチトリプシン、セルロプラスミン、α−フェトプロテイン又はミオグロビンのうち1又は複数である。
【0026】
適切には、前記試料に含まれる代謝産物をアッセイするステップは、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、バリン、シトルリン、オルニチン、アルギニノコハク酸、クレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸、3−メトキシチロシン、遊離カルニチン、さまざまなアシルカルニチン種(オクタノイルカルニチンなど)、さまざまなグリシンコンジュゲート(ヘキサノイルグリシンなど)、酸種(オロチン酸など)、ステロイド(17−ヒドロキシプロゲステロンなど)、7−デヒドロコレステロール又はコレステロールの有無をアッセイすること、又はその濃度をアッセイすることを含む。
【0027】
適切には、前記試料に含まれる触媒活性をアッセイするステップは、
(a)前記触媒活性の作用を受けやすい基質を前記試料に加えるステップ、及び
(b)前記基質の有無及び/又は前記基質に作用する前記触媒活性の作用による生成物の有無について試料を分析するステップ
を含む。
【0028】
適切には、前記触媒活性の作用に感受性がある1つを超える基質を加えて分析してもよい。これには、分析の特異性を高めるという利点がある。
【0029】
適切には、前記1又は複数の基質は水溶性である。これには、アッセイを単純化し、有機溶媒(複数可)の使用を回避するという利点がある。
【0030】
適切には、前記各基質は、水中にのみ加えられる。これには、緩衝剤及び/又は有機溶媒を省くという利点がある。
【0031】
適切には、前記特徴は、MS分析により決定される。より適切には、前記MSはエレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS,mass spectrometry-mass spectrometry)である。
【0032】
適切には、少なくとも2つの特徴は、
(i)前記試料に含まれるポリペプチドの構造組成と、
(ii)及び(iii)から選択される少なくとも1つのさらなる特徴と
を含む。
【0033】
適切には、3つの特徴(i)、(ii)及び(iii)のそれぞれをアッセイする。
【0034】
適切には、前記試料はインビトロ試料である。適切には、前記方法はインビトロ法である。
【0035】
別の態様では、本発明は、実質的にビオチンを含有しないビオシチンを含む組成物に関する。
【0036】
別の態様では、本発明は、ビオシチンを含む組成物であって、前記ビオシチンが、同位体標識されたリシン残基を含む組成物に関する。
【0037】
別の態様では、本発明は、実質的にビオチンを含有しないビオチニルPABAを含む組成物に関する。
【0038】
別の態様では、本発明は、実質的にPABAを含有しないビオチニル−PABAを含む組成物に関する。
【0039】
別の態様では、本発明は、実質的にビオチンを含有せず実質的にPABAを含有しないビオチニル−PABAを含む組成物に関する。
【0040】
別の態様では、本発明は、上述のような組成物であって、前記同位体標識が、炭素13、重水素、窒素15又は酸素18、適切には炭素13である組成物に関する。
【0041】
別の態様では、本発明は、
(i)5−アミノレブリン酸、
(ii)ビオシチン、及び
(iii)ビオチニルパラアミノ安息香酸
のうち2つ以上を含む組成物に関する。
【0042】
適切には、前記組成物はHO(水)をさらに含む。
【0043】
適切には、前記組成物は緩衝化を含まない。
【0044】
適切には、前記組成物は実質的にビオチンを含まない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】スキャンを示すグラフである。
【図2】スキャンを示すグラフである。
【図3】スキャンを示すグラフである。
【図4】スキャンを示すグラフである。
【図5】スキャンを示すグラフである。
【図6】スキャンを示すグラフである。
【図7】スキャンを示すグラフである。
【図8】スキャンを示すグラフである。
【図9】略図である。
【図10】クロマトグラムであり、オレンジ色の線は上限線である。
【図11】クロマトグラムであり、オレンジ色の線は上限線である。
【図12】クロマトグラムであり、オレンジ色の線は上限線であるが、但し、青い線が上限線である図12の下のパネルを除く。
【図13】グラフである。
【図14】クロマトグラムであり、上段のパネル中の青い線は上限線である。
【図15】クロマトグラムであり、上段のパネル中の青い線は上限線である。
【図16】クロマトグラムであり、上段のパネル中の青い線は上限線である。
【図17】検量線のグラフである。
【図18】検量線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
先行技術においては、酵素活性は、通常、標準化及び/又は最適化された条件下で測定する。これには、特定の緩衝液及びpH条件が必要である。そのような分析を多重化しようと試みたとしても、異なる緩衝系又はpH系を用いては不可能と考えられ、その理由は、実際には、各アッセイはほぼ特有だからである。加えて、緩衝液は重要な化合物のエレクトロスプレーイオン化を顕著に抑制し得ることがわかっている。したがって、クロマトグラフィーは、化合物シグナルから緩衝液を除去するために使用されることが多い。本発明者らの洞察は、本発明により、このような先行技術の課題を克服することを可能にした。本発明者らは、遺伝性代謝疾患スクリーニングに対処する上で、実際の酵素活性を定量することは必ずしも必要ではなく、むしろ、酵素活性の存在の有無を定量すれば、実際に十分な情報が得られることを理解した。このことは、基質の変換速度の最大化を目的とした酵素活性の最適化に基づく先行技術の発想とは対照的である。いくつかのケースでは、高活性と低活性との間を半定量的に判別することが必要となる可能性がある。このこともやはり、例えば、安定同位体標識した標準物質(stable isotope labeled standard)、若しくは基質:生成物の比率、又は、本明細書中で説明するような他の較正を用いて、本発明により容易に達成される。鍵となる教示は、新生児スクリーニングなどのスクリーニング用途には、酵素条件が最適である必要はない、ということである。準最適な条件においてであっても、本発明者らは、本明細書中で実証するように、信頼できる診断情報及び読取値を得ることができる。
【0047】
異常ヘモグロビン症の臨床診断(トリプシンペプチドに基づく)並びにPKU及びMCADDについての代謝産物診断を1〜2分のサイクル以内のMSMSにより同時に組み込んで、3.2mmの単一の血液スポットをビオチニダーゼ及びポルフォビリノーゲン合成酵素の活性の測定に有利に使用できることは、本発明の利点である。したがって、好ましい一実施形態では、本発明は、そのような診断の組合せに関する。
【0048】
分析様式
本発明は、質量分析、最も適切にはエレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)など適当な手法による、臨床診断に使える代謝産物及び/又は酵素活性及び/又はタンパク質の多重解析(例えば単一の血液スポット上での)に関する。
【0049】
用途
このシステムには、疾患又は障害、とりわけ遺伝性病(inherited disorders)の可能性について対象を評価する上での用途がある。本発明には、遺伝性疾患についての新生児スクリーニングにおいて特定の用途がある。臨床症状が現れていない時点で、信頼できる読取値を用いてスクリーニングが行われることが、本発明の利点である。
【0050】
アッセイ
本発明の特徴は、単一の出発試料に対して複数の種類のアッセイが実施されることである。典型的には、これらのアッセイは、単一の分析の一部として実施される。これは、複数のアッセイを、並行して、連続して、又は同時に実施することを意味する場合がある。本発明の好ましい態様の特徴は、複数のアッセイが単一操作において実施されることである。これは、試料調製の予備ステップを連続的に(例えば、血液スポットの再水和に次いで基質の添加、それに次いでペプチダーゼの添加というように)実施することを意味する場合がある。しかし、複数アッセイを同時に実施することの原則は、単一の分析を実施して、単一の同一試料のインテロゲーション(複数可)から情報を収集できることである。試料を1回のステップで再水和させてから、実施する特定のアッセイの多様な必須要素を別々の連続的なステップで試料に加えるという事実だけでは、アッセイを別々な、又は異なるものとみなすには十分でない。キーポイントは、本発明により、同一試料から多様なアッセイが実施されることにより、試料の数(及び/又は必要な試料物質の量)が有利に減少し、単一の操作において有利にデータを収集する複数の異なるアッセイの実施が単純化されることである。
【0051】
したがって、適切には、「単一試料」上又は「同一試料」上で本発明を実施する際には、これは、少なくとも2つの特徴について最終的に分析される試料を予備調製ステップ(例えば、基質添加、ペプチダーゼ添加)用に分割又は分離せずに前記2つ以上の特徴の分析に至るのではなく、調製ステップ(実施する場合には)を、単一の同一試料(例えば、同一の単一材料又は一定分量)上で物理的に実施し、次にその単一の同一試料を使用して、必要な読取値を得ることを意味する。当然ながら、これは、材料を2つの部分に最初に分けて基準試料又は較正試料を得ることを妨げるものではなく、先に説明したように、同一試料上で分析のステップ又は手順を実施することが、本発明の主要素である。
【0052】
適切には、アッセイが全て単一試料上で実施される場合には、アッセイは同時に実施されるとみなされよう。この点については、異なるクラスの化合物、例えば、有機酸(オロチン酸など)、糖及び/又は糖リン酸(ガラクトース−1−ホスフェートなど)及び/又はステロイド(17−ヒドロキシプロゲステロンなど)についての陰イオン化をアッセイするために第2の又はさらなるMS注入を実施することが望ましい場合がある。しかし、注目すべきは、複数回注入のMS実施形態(2回注入の実施形態など)においてでさえ、分析はやはり単一の同一最終試料上で実施されることである。適切には、1回又は2回の注入を用い、より適切には1回のみの注入を用いる。より適切には、読取値が単一の分析から収集される場合には、アッセイは同時に実施されるとみなされよう。好ましい一実施形態では、読取値は単一の分析から収集され、この分析は、適切には、質量分析の単一のデータ収集セッションである。
【0053】
本発明によれば、多数の異なるクラスの分析があり、これらを有利に組み合わせて単一操作とする。このような分析としては、代謝産物スクリーニング、酵素活性についてのスクリーニング及び特定のポリペプチドの有無についてのスクリーニング又はそれらの変形(例えば、トリプシンのMSMS)が挙げられる。
【0054】
代謝産物
代謝産物スクリーニングは、試料中の特定の化学化合物の有無の定量を指す。これを代謝産物スクリーニングと呼ぶ理由は、当該化合物は、当該試料を特徴付けるものとして典型的に存在するか存在しないかのいずれかだからである。言い換えれば、アッセイされる化合物は、テストされる個々の対象の正常な代謝を特徴付けるものとして生成される(又は生成されない)。したがって、特定の代謝産物の有無の分析は、典型的には、特定の基質化合物を、又は任意の同族酵素活性を試料に加えることを含まない。当然ながら、実施される代謝産物アッセイの特定の形式によっては、代謝産物の存在が一定の状態を示すことがあり、又は、代謝産物の不在が一定の状態を示すことがある。特定の化合物の有無についての代謝産物スクリーニングには、化合物が検出されるか、又は検出されないかいずれかの場合に、非常に明確な読取値が典型的に示されるという利点がある。しかし、他の実施形態では、特定の代謝産物のレベルについてスクリーニングすることが望ましい場合がある。そのような実施形態は、アッセイされる特定の代謝産物のレベル又は濃度を正確に評価するために、計測手段の、より詳細な較正を必要とする可能性があり、或いは、試料(又は、外部基準試料、若しくは、公知の濃度の添加物質を添加された試料も)における内部標準の使用が必要な可能性があることは明らかである。そのような実施形態には、代謝産物の有無に加えて追加的な情報をもたらす、すなわち、試料中の当該代謝産物のレベル又は濃度についての情報をもたらす利点があることは明らかである。
【0055】
本発明においてアッセイできる代謝産物としては、以下が挙げられる(所見−適応症の形式で記載):
高濃度のフェニルアラニン−フェニルケトン尿症
高濃度のチロシン−チロシン血症1、2、3型
高濃度のロイシン及びバリン−メープルシロップ尿症
高濃度のシトルリン−アルギニノコハク酸合成酵素欠損症
高濃度のオルニチン−脳回転状萎縮症、高オルニチン血症(hyperornithinaeamia)
高濃度のアルギニノコハク酸−アルギニノスクシナーゼ欠損症
低濃度のクレアチン及びクレアチニン−AGAT、GAMT又はクレアチン輸送体の欠損症
高濃度のグアニジノ酢酸−GAMT欠損症
低濃度のグアニジノ酢酸−AGAT欠損症
高濃度の3−メトキシチロシン−芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ欠損症及びリン酸ピリドキサール合成欠損症
高濃度の遊離カルニチン−カルニチンパルミトイル転移酵素1欠損症
低濃度の遊離カルニチン−カルニチンパルミトイル転移酵素2欠損症
高濃度のオクタノイルカルニチン−中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症(MCADD)
高濃度のさまざまなアシルカルニチン種、この場合、さまざまな脂肪の酸化及び有機酸障害
高濃度のヘキサノイルグリシン−中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症(MCADD)
高濃度のオロチン酸−オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
高濃度の17−ヒドロキシプロゲステロン−先天性副腎過形成症
高濃度のアンドロステンジオン−先天性副腎過形成症
低濃度のコルチゾール−先天性副腎過形成症
高濃度の7−デヒドロコレステロール−スミス・レムリ・オピッツ症候群
高濃度のコレステロール−家族性高コレステロール血症。
【0056】
当業者に公知の他の関連性も、本発明において同様に適用できる。
【0057】
用語「高い」及び「低い」は、本文書において用いられる場合は、意味を汲み取られるべきである。例えば、「高濃度のフェニルアラニン」は、正常な対象と比較して、すなわち、フェニルケトン尿症に罹患していない対象と比較して高いという意味である。同様に、「低」濃度の物質は、同じく、試験又はスクリーニングされる状態に関しては正常である個体におけるレベル(複数可)と比較して低いことを意味する。同じ原則は、相対的な用語で本明細書中に記載される、すなわち、量が、非罹患基準試料(複数可)との比較で理解されるべき、酵素活性及び他の実体にも適用される。少なくともこうした理由から、相対的な用語「高い」及び「低い」は、本発明及びその操作を理解する当業者にとっては明確でもあり適切でもある。
【0058】
最も適切には、代謝産物は、実施例の項において記載するとおりのものである。
【0059】
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC,ornithine transcarbamylase)欠損症を検出するための所望の代謝産物としてオロチン酸が開示されることに注目すべきである。全血中のオロチン酸は、この目的のためには、これまでに使用されても提案されてもいなかった。いくつかの従来の背景においては、診断に使える代謝産物として尿中のオロチン酸が調査されていた。しかし、本発明は、血中のオロチン酸レベルをOTC欠損症の診断指標として新規に使用することを教示するものである。
【0060】
触媒活性
酵素活性のスクリーニングは、試料が特定の触媒活性についてスクリーニングされる状況を指す。適切には、このスクリーニングは、触媒活性が作用できる基質を試料中に供給することにより行われる。活性が存在する可能性の有無を評価するためには、読取値は、典型的には、アッセイされる触媒活性(酵素活性など)の存在下で基質が変換されることになる予想生成物の有無である。触媒活性は、典型的には酵素活性である。そのような活性としては、以下を挙げることができる(酵素−基質;適応症の形式で記載):
ビオチニダーゼ−基質ビオチニルPABA又はビオシチン又はその安定同位体の変化形;不在(低活性)はビオチニダーゼ欠損症を示す
ポルフォビリノーゲン合成酵素欠損−基質δ−アミノレブリン酸;不在(低活性)は、スクシニルアセトン(フマリルアセトアセターゼ欠損症)の存在又はポルフォビリノーゲン合成酵素欠損症を示す
ガラクトシダーゼA−基質4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクトピラノシド;不在(低活性)はファブリー病を示す
グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ−基質グルタリルCoA;不在(低活性)はグルタル酸尿症1型を示す
チオプリンメチル転移酵素−基質6−メルカプトプリン又はその安定同位体の変化形;不在(低活性)はアザチオプリン感受性を示す
クレアチンキナーゼ−基質クレアチンリン酸;存在(高活性)は、デュシェンヌ/ベッカー筋ジストロフィーを示す
【0061】
最も適切には、そのような活性は、実施例の項に記載のものから選択される。
【0062】
ポリペプチド分析
本発明により試料に対して適切に実施されるさらなる種類の分析は、ポリペプチド分析である。この分析は、特定のポリペプチドの単純な有無のためのものであってもよい。或いは、この分析は、定義されたポリペプチドの特定の変異形の有無を特徴付け又は検出するためのものであってもよい。この分析は、当業者に公知の適当な任意の様式によって実施してもよい。
【0063】
適切には、ポリペプチド分析は、ポリペプチドの構造組成の分析を指す。この構造組成は、典型的にはポリペプチドの立体配座又は三次元構造ではないが、必要であれば、熟練オペレーターが、必要に応じてこの特徴を選んで分析してもよい。適切には、構造組成は、ポリペプチドの分子構造を指す。適切には、分子構造は、ポリペプチドのアミノ酸組成を指す。ポリペプチドのアミノ酸組成全体を決定することは実際的ではない場合があることは明らかである。適切には、アミノ酸組成の鍵となる特徴的な部分をインテロゲートする。最も適切には、構造組成の分析は、ポリペプチドのペプチダーゼ消化(断片化)、及び、結果として生じるペプチド(断片)の質量分析により実施する。これにより、特定の断片の質量などの情報が得られ、この断片自身はポリペプチドの組成についての情報を明らかにすることができ、又はより一般的には、断片の質量から元のポリペプチド(mother polypeptide)内のペプチダーゼ認識配列の数及び間隔についての情報が明らかになり、それにより、ポリペプチドの分子構造又はアミノ酸組成(すなわちアミノ酸配列)についての直接的(認識部位)及び間接的(間隔)両方の情報が得られる。
【0064】
ペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ)は、好ましくは、ペプチド結合を切断できる酵素又はその断片などの任意の触媒実体である。現在のところ、6群のプロテアーゼが定義されている:セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン酸、メタロ及びグルタミン酸。好ましくは前記エンドペプチダーゼは単一のエンドペプチダーゼである。
【0065】
ペプチダーゼは、トリプシン、V8エンドペプチダーゼ、キモトリプシン、Asp−N及びLys−Cなど、当技術分野で公知の適当な任意のペプチダーゼであってもよい。適切には、前記エンドペプチダーゼは、XXK又はXXRという認識配列を有する。適切には、分析は、トリプシン消化物、及び、その結果生じる切断産物の分析により実施する。単離において実施されるこの手法は、当技術分野で周知である。例えば、臨床的に顕著な異常ヘモグロビン症の評価と関連して、そのような手法は、Daniel et al (2005 Br.J.Haematol. vol. 130 pp 635-43)中に非常に詳細に記載されている。異常ヘモグロビン症の診断に使える所望のポリペプチドとしてヘモグロビンを分析することに加え、ミオグロビン(デュシェンヌ/ベッカー筋ジストロフィーの診断用)、アルブミン(甲状腺ホルモン結合欠損症の診断用)、トランスフェリン(グリコシル化障害の診断用)、α−1−アンチトリプシン(α−1−アンチトリプシン欠損症の診断用)、α−フェトプロテイン(劇症肝不全の診断用)、セルロプラスミン(ウィルソン病の診断用)、又は所望の他の任意のポリペプチドをこの方法により分析できる。
【0066】
読取値
原理上は、読取値は、検査する試料内の個々の化学実体の存在の検出に適した当技術分野で公知の任意の手段により(例えば、その質量を定量することにより)収集できると考えられる。適切には、分析は、中間に衝突ステップを有する2つの異なる質量選別装置を備えた装置により実施できると考えられる。最も適切には、読取値は、質量分析(MS)を用いて収集する。イオンを分析する能力のある任意のMS分析機器を使用できると考えられる。例えば、MALDI/TOF/線形トラップ又は他の任意の型のMS分析機器を用いることができると考えられる。最も適切には、分析は、エレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)による。
【0067】
ビオチニダーゼ欠損症
ビオチニダーゼ欠損症の主要な懸念及び臨床効果は、両耳性難聴である。英国保健省は、聴覚障害のスクリーニングに多くの資金を注ぎ込んでいる。したがって、ビオチニダーゼ欠損症は稀な遺伝性欠損症ではあるものの、障害の主要な表現型は両耳性難聴であり、これに取り組むには終生、高額の費用がかかるという事実により、新生児においてビオチニダーゼ欠損症をスクリーニングすることは経済効果が非常に高いことを意味する。先行技術においては、ビオチニダーゼ欠損症のスクリーニングは、比色アッセイを用いて実施する。例えば、ニュージーランド、米国及び他の地域は、比色スクリーンを採用している。この先行技術の手法は、生じる色が弱いという意味で不十分なアッセイであるが、これは、先行技術の比色アッセイが非感受性だからである。この結果、現在のガイドラインによりテストを実施した場合でも、確実性に欠けることになる。加えて、血液スポットについてこのテストを実施することは技術的に非常に難しい。先行技術のアプローチには限界があることから、この領域における主要な焦点はアッセイの最適化に合わされている。対照的に、本発明により、本発明者らは、満足なアッセイは、最適化しなくても実際に作製できることを開示する。本発明者らのアプローチは、いずれかの比色酵素アッセイに焦点を合わせるのではなく、ビオシチン及びその生成物をモニターすることを含む。さらに、本発明者らの単純化したアッセイの主要な特徴は、緩衝化を用いないことである。まず、これには、同一試料において多重化することになる、可能性のある他の酵素アッセイを阻害せずに済むという利点がある。第2に、イオン抑制の問題は、緩衝液ではなく水中で基質を供給することにより有利に減少又は回避される。緩衝化は感受性を低下させることがあるため、その使用を回避することにより、本発明者らは、感受性を有利に高める。さらに、先行技術手法の場合と同様に緩衝液を使用した場合、これを除去するには手間も時間もかかるクロマトグラフィーが必要になる可能性がある。本発明者らのアプローチは、このステップを有利に排除する。
【0068】
基質
ビオシチンは、ビオチニダーゼ酵素の天然の基質である。ビオシチンは、ビオチンがリシンに結合してなる。本発明者らは、市販のビオシチンは相当量のビオチンを含有する傾向があることに注目した。したがって、本発明によれば、ビオシチン基質は、ビオチンを有利に除去したものである。言い換えれば、ビオシチン基質を精製して、混入ビオチンを除去する。これは、当技術分野で公知の適当な任意の手段により達成できる簡単な精製ステップである。適切には、ビオチンはクロマトグラフィーにより除去する。
【0069】
精製したビオシチンを使用することの利点は、それにより切断産物の1つ(ビオチン)が除去されることである。混入ビオチンが原因で偽陽性となることがあるが、その理由は、ビオチンはビオチニダーゼの切断産物だからである。したがって、混入ビオチンがアッセイにおいて検出されると、ビオチニダーゼ活性が検出されたとの印象を誤って受けかねないと考えられる。本明細書中で教示するアプローチに従うことにより、すなわち、供給される市販のビオシチンから、残存する混入ビオチンを全て除去することにより、特異性が増しているという利点を有し分析から偽陽性を排除する「清浄化された(cleaned)」基質が作製される。したがって、一態様では、本発明は、「清浄化されたビオシチン」、すなわち、ビオチンを実質的に含有しないビオシチンに関する。適切には、本発明は、ビオチンを本質的に含有しないビオシチンに関する。最も適切には、本発明は、ビオチンを全く含有しないビオシチンに関する。
【0070】
ビオチニル−PABAは、ビオチニダーゼ酵素の良好な基質である。本発明者らは、市販のビオチニル−PABAは可溶化において困難を示す傾向があることに注目した。超音波処理、加熱、ボルテックス又は類似の処理など、可溶化を高めるための積極的な処理を行うと(3mMであっても)、自発的な加水分解が助長される結果、溶液中で遊離PABA及び遊離ビオチンが生じることがある。このような実体、とりわけ遊離ビオチンは、アッセイを混乱させることがある。そのため、本発明により、ビオチニル−PABA基質からビオチンを有利に取り除く。言い換えれば、ビオチニル−PABA基質を精製して混入ビオチン(及び/又は遊離PABA)を除去する。これは、当技術分野で公知の適当な任意の手段により達成できる簡単な精製ステップである。適切には、ビオチン(及び/又はPABA)は、クロマトグラフィーにより除去する。適切には、この精製は、ビオチニル−PABAの可溶化後に実施する。
【0071】
精製したビオチニル−PABAを使用する利点は、それにより切断産物の少なくとも1つ(例えばビオチン)が除去されることである。ビオチンなどの混入産物が原因で、偽陽性になることがある。したがって、アッセイにおいて混入ビオチンが検出されると、活性が検出されたとの印象を誤って受けかねないと考えられる。本明細書中で教示するアプローチに従うことにより、すなわち、供給される市販のビオチニル−PABAから残存する混入ビオチン/PABAを全て除去することにより、特異性が増しているという利点を有し分析から偽陽性を排除する「清浄化された」基質が作製される。したがって、一態様では、本発明は、「清浄化されたビオチニル−PABA」、すなわち、ビオチン及び/又はPABAを実質的に含有しないビオチニル−PABAに関する。適切には、本発明は、ビオチンを本質的に含有しないビオチニル−PABAに関する。最も適切には、本発明は、ビオチンを全く含有しないビオチニル−PABAに関する。適切には、「清浄化された」(精製された)ビオチニル−PABAは溶液中で供給されるが、このことは、清浄化された材料を再度可溶化しようと試みた際に、さらなる加水分解の可能性を排除する利点を有する。
【0072】
混入ビオチンの問題に対する代替的アプローチは、標識リシンを有するビオシチンを使用することである。標識は、例えば安定同位体標識であってもよい。したがって、結果として得られる試料においては、分析は、ビオチニダーゼの作用により放出される標識リシンのみを探すことにより実施する。このようにして、触媒作用によるビオチン産物を本質的に無視することにより、ビオシチン基質中に存在する一切の混入ビオチンを、分析から効果的に無視又は黙殺する。
【0073】
ビオシチンは水溶性である。Biot PABAは、わずかな水溶性しかもたない。
【0074】
キーポイントは、本発明者らは定量化には典型的には関心がなく、ある物が存在するかしないか、すなわち定性的であるかに焦点を合わせており、これにより、加える基質レベルを低下させることができ、この低下により、コストを最小化すると同時に、読取値の誤差を減らし(clean up)、精度向上のために比率(例えば基質:生成物比)を使えるようにするということである。基質:生成物比は、当然ながら、必要に応じ、例えば酵素活性の定量化にも使用できる。
【0075】
ビオシチン、ビオチニルPABA及びδ−アミノレブリン酸(用語「δ−アミノレブリン酸」は、本明細書中では用語「5−アミノレブリン酸」と互換的に使用されるが、適切には、「δ−アミノレブリン酸」と言った場合は、「5−アミノレブリン酸」を指すと理解される)は全て、ビオチニダーゼ及び/又はPBG合成酵素のアッセイのための本発明の多重システムにおいて異なる濃度及び組合せで広範に試験されている。こうした基質はそれぞれ、20μM〜1mMの範囲で有効であり、さらに高い濃度でも有効である可能性がある。20μM未満の濃度は有用性が低い傾向があり、結果として酵素動態及び分析上の感受性の問題が両方とも生じる可能性がある。本発明における各基質の最適濃度は50μmである。
【0076】
作用させる酵素のインキュベーションのタイミングは、広範に試験してある。このインキュベーションは、ほんの数分〜2.5時間まで有効である。適切には、インキュベーションは30〜120分間である。最適なインキュベーション時間は約1時間である。適切には、インキュベーション時間は60分、又はおよそ60分である。インキュベーション時間は、基質の添加から試料の停止(例えば、停止緩衝液又は泳動緩衝液(running buffer)/溶媒の添加)又は試料の読取りの時間とみなされる。より適切には、インキュベーション時間は、基質の添加からプロテアーゼの添加の時間とみなされるが、その理由は、典型的にはプロテアーゼは、酵素を分解することになるからである。いくつかの実施形態では、基質とプロテアーゼとを同時に添加することが可能と考えられるが、基質の消化速度が比較的遅い場合には、例えば、基質濃度(複数可)を高くするなど、さらなる補償的な調節を行うことが必要と予想されよう。
【0077】
当然ながら、当業者は、必要に応じて基質濃度及び/又はインキュベーション時間を最適化できる。例えば、基質濃度が高いほうがインキュベーション時間を短くすることができ、逆も又同様と考えられる。
【0078】
インキュベーション温度についてのガイダンスは、本明細書中、とりわけ実施例の項に記載する。出発点として室温(例えば摂氏18〜25度)を用いてもよく、必要に応じ熟練作業者により最適化を実施してもよい。
【0079】
標準化
本発明の利点は、触媒分析のための条件の標準化が不要なことである。さらに、過剰な基質を供給する必要もない。過剰な基質の必要性を取り除くことにより、本発明の利点は、基質濃度を自由に選んでテストの時間帯にわたり良好な結果をもたらすことができることである。加えて、過剰な基質を供給する必要性を省くことにより、半定量的な分析が可能になる。例えば、公知の濃度の基質を供給することにより、且つ、インキュベーションステップ後の基質及び生成物の量を分析することにより、特定の試料における活性量を良好に推定する基質:生成物比を導くことができる。これにより、有利なことに、この実施形態においては、同位体標識された安定な基質又は定量化用の生成物が必要なくなる。
【0080】
チロシン血症1型
先行技術では、チロシン血症1型は、血中のチロシンレベルの増加により検出されてきた。しかし、これは二次的又はさらには三次的な効果である。チロシン血症1型における酵素欠損は、実際はチロシンと直接隣合せの関係にはない。事実、多くの新生児は、とりわけ未熟児において、血流中のチロシンが上昇していた。このことは、先行技術による分析を複雑にする。例えば、オペレーターがチロシンレベルについて高いカットオフ値を設定した場合、多くの陽性結果が見落とされる可能性がある。逆に、オペレーターがチロシンレベルについて低すぎるカットオフ値を設定した場合、陰性が多く出すぎる可能性があり、これにより、追跡テスト又は再テスト時の資源が無駄になる。代替的なアプローチでは、スクシニルアセトンレベルが測定されている。しかし、これは、酸及び他の化学処理を必要とし、技術が要求される測定である。チロシン血症1型における実際の酵素欠損は、スクシニルアセトンの蓄積を引き起こすフマリルアセトアセターゼ欠損である。スクシニルアセトンは、ポルフォビリノーゲン合成酵素(PBS,porphobilinogen synthase)活性を阻害する。PBSアッセイは、スクシニルアセトン濃度の代わりとして用いられている。潜在的な酵素であるポルフォビリノーゲン合成酵素のアッセイは、先行技術における困難を伴う可能性がある。まず、アッセイに必要な濃度で基質を使用した場合、基質が酵素を阻害する可能性がある。或いは、ポルフォビリノーゲン自体の測定を試みるようにアッセイを設定した場合、このアッセイには問題がある可能性があるが、その理由は、ポルフォビリノーゲンは、典型的に、非常に速やかに代謝され続けるからである。この2つの要素があることにより、先行技術による長時間のアッセイでは一貫して低い結果が出そうだというさらなる困難が生じる。本発明者らは、基質として5−アミノレブリン酸を供給し、生成されるポルフォビリノーゲンを測定するというアプローチを提案する。加えて、並行処理においては、このアッセイはスクシニルアセトンの存在下で反復できる。スクシニルアセトンは、ポルフォビリノーゲン合成酵素を阻害する。したがって、スクシニルアセトンがある場合とない場合との結果を比較することで、ポルフォビリノーゲン合成酵素の活性を直接アッセイすることによりチロシン血症1型を検出することが可能であることを明確に実証できる。
【0081】
したがって、先行技術では、PBSは、基質として5−アミノレブリン酸を使用し、生成されたポルフォビリノーゲンを比色測定により測定する「最適化された」アッセイにおいて測定されてきた。先行技術では、酵素活性は、添加されたスクシニルアセトンの量に比例して低下することが示されている。より重要なことは、未治療のチロシン血症1型を有する患者において観察されるスクシニルアセトンの濃度では、PBS活性は(実質的に)無効である。しかし、比色アッセイは非感受性であり、先行技術では、生成されるポルフォビリノーゲンの量を増やすための論理的手段として、長いインキュベーション時間(16〜24時間)が用いられてきた。本発明者らは、PBS活性はその基質である高濃度の5−アミノレブリン酸の存在下でインキュベートしたときに著しく低下する場合があることに気付いた。これにより、予想されるポルフォビリノーゲンの合成量は減少する。加えて、酵素ポルフォビリノーゲンデアミナーゼによるポルフォビリノーゲンの除去速度がポルフォビリノーゲンの生成速度を上回り始める場合がある。したがって、インキュベーション時間の短さは、本発明による顕著な利点を代表する。加えて、ポルフォビリノーゲンのMSMS検出は、比色アッセイにおけるより顕著に感受性が高い。
【0082】
単なる操作上の問題としては、MS分析は典型的にブランクを含んでおり、このブランクは、基準又は対照試料として便利に使用できる。さらに、本明細書中で「実質的にシグナルなし」と言及する箇所では、ブランク又は対照試料を参照するだけで、シグナルが実際に存在するか否かが明らかになることを念頭に置くべきである。
【0083】
本発明の利点は、特異性及び感受性が、それぞれ両方とも先行技術の比色アッセイの場合よりはるかに高いことである。事実、結果は、典型的に非常に明瞭であるため、二進法的な読取値に近付く。ハイスループット診断の設定においては、これが本発明の顕著な利点であることは明らかである。
【0084】
適切には、本明細書中に記載の異なる分析は、同一試料上で実施される。「同一試料」とは、この用語が、全く同一の単一の身体試料上で異なる処理及び分析を実施することを指すことを強調するものである。この用語は、例えば、いくつかの異なる処理に分けられ、そのような異なる処理のそれぞれが追って合わされることになる試料を指すのではない。「同一試料」とは、血液スポット又は血液試料などの1つの身体標本が使用され、異なる分析がそれぞれ、全く同一の単一の当該試料上で行われることを意味する。このことは、先行技術においては教示されていない。事実、先行技術の教示はこうした内容とは離れており、その理由は、先行技術は、実施することになる各個々の分析についての条件を最適化することの重要性を強調しているからである。現在のスクリーニングの実践法は、世界的に、実施される各テストについて異なるスポットを採用している。先行技術では、1つの酵素当たり1つのスポットを分析すべきであると一貫して教示される。したがって、本発明の際立った違いは、本発明者らのアプローチには、単一の同一スポット上でのいくつかの酵素の分析が含まれることである。これは重要な点であるが、その理由は、本明細書中で教示する、準最適な(若しくは、実際は全く最適化されていない)系又は非緩衝系から多様な酵素が実際に抽出できることについての有用な情報は、本発明以前には認識されていなかったからである。このことは、本発明の多重化全体にわたる主要な実施形態である。
【0085】
同様なポイントが、用いられる希釈率に関連して生じる。異常ヘモグロビン症の分析用の典型的な試料希釈率は、代謝産物分析用のものより6〜8倍高い。さらに、先行技術では、代謝産物はメタノール又はメタノール:水混合物を使用し、血液スポットから抽出して固定する(抽出されなかった変性したタンパク質及び塩はそのままにする)ことが普通であり、それにより、エレクトロスプレー源中のイオン抑制が低下する。本発明によれば、使用される唯一の溶媒は水である。しかし、本発明の利点は、異常ヘモグロビン症の分析用に希釈されている6〜8倍の試料中であっても、本発明者らは実際に、診断に使える代謝産物を確実且つ再現可能に検出できることである。希釈された試料中の当該代謝産物の濃度が顕著に低下していることを念頭に置けば、このことはそれ自体驚くべきことである。さらに、本発明によれば、代謝産物分析のための標準的な手順の一部とみなされるメタノール又はメタノール:水抽出系を驚くほど省くことができるという点で、これは別のレベルで驚くべきことである。適切には、本発明の方法の調製ステップにおいては有機溶媒を使用しない。MSMS泳動緩衝液又は同様の添加剤が読取り用に必要な場合には、通常の実践法と同様、読取り前に加えるべきであることは明らかである。しかし適切には、有機溶媒ステップは試料調製から省かれる。適切には、従来の代謝産物の抽出ステップはこの方法から省かれる。
【0086】
試料
試料は、テストされる対象に由来する適当な任意の材料であってもよい。適切には、試料は血液を含む。いくつかの実施形態では、そのような血液は、より早期の診断につながるという利点を有する可能性がある臍帯血(臍の緒の血液)であってもよい。より適切には、試料は毛細管血である。適切には、試料は、踵を針で刺して得る毛細管血である。より適切には、試料は、生後0日〜10日の新生児から採取する、踵を針で刺して得る毛細管血を含む。適切には、血液は、生後1日〜8日目、適切には生後3日〜8日目、適切には生後5日〜8日目に採取する。
【0087】
踵を針で刺して得るそのような試料を採取する血液スポットカード上の標準的なスポットは、典型的には比較的大きい(例えば直径6mm超)。現在は、単一の針刺し採血(prick sampling)セッションから、およそ4つの大きなスポットが採取される。しかし、本発明の利点は、必要な試料材料が顕著に少なくなることである。具体的には、本発明において使用するための血液スポット試料は、有利には直径6mm又は6mm未満であってもよく、適切にはほんの3.2mmのスポットであってもよく、最も適切には3.2mmのスポット(又はそれに相当する試料サイズ)1つのみを使用する。比較すると、先行技術の標準的な単一スポット(「大きなスポット」)に必要な同一材料からは、3.2mmのスポットおよそ6つを得ることができる。
【0088】
多様な国々の保健機関は、こうした血液スポット試料を保持していることに注目すべきである。例えば、デンマークでは、スポットは冷凍保存されている。英国では、スポットは典型的には乾燥状態で保持されている。年間に採取及び保存されるスポットの数は相当なものである。例えば、英国では1年におよそ600,000試料、米国では1年におよそ3,000,000試料、欧州全体(英国を除く)では1年におよそ4,000,000試料が採取される。したがって、本発明のさらなる利点は、採取される必要のあるスポットが少ないほど、結果的に、保存が必要となるスポットが少なくなるということである。或いは、同じ量の血液を既存の採取法と同様に採取できるので、本発明の利点は、後の段階での新しいテスト又は追跡テスト用に残す残存血液が多いことである。
【0089】
さらなる問題は、出生直後は、新生児は苦痛を感じている可能性があること、及び/又は栄養上の問題が存在する可能性があることである。このような要素は、代謝産物が「失われる」ことになるか、又は予想外の時点で実際に現れるという結果を招きかねない。しかし、苦痛を感じている対象から採取する試料中の代謝産物を出現させたり消失させたりする予測不能な変化が明白に存在するか否かにかかわらず、酵素活性は常に存在する。したがって、試料中の触媒活性又は酵素活性をアッセイする場合に、テストされる対象における産後のストレスが分析から大部分排除されることは、本発明の利点である。事実、代謝産物ではなく酵素活性を直接検出することにより、感受性を高めることができる。さらに、酵素活性の分析において標識化された基質を使用することにより、試料中の一切のバックグラウンド効果又は既存の生成物を排除し、これにより分析の特異性を高めることができる。
【0090】
先行技術の視点からは、本明細書中に教示する多重化を、いかなる場合においても機能させることができると考えられることは驚くべきことである。その理由は、試料中のポリペプチドのタンパク質分解物(トリプシン消化物など)は、フェニルアラニンなどのアミノ酸を放出することになるからである。診断用の代謝産物としてフェニルアラニンを使用する場合(例えば、その存在がフェニルケトン尿症を示すと評価されるとき)には、こうした処理はその結果を混乱させると推定されよう。しかし、本明細書中で実証するように、この多重解析は実際に機能する。事実、血液スポットを使用してこの効果を標準化し、それを考慮することが可能である。すなわち、実際に放出されるより多くのフェニルアラニンを観察することが可能であるため、事実、驚くべきことに、プロテアーゼ処理が他の分析と一緒に多重化されるかどうかは問題ではない。言い換えれば、公知のフェニルアラニン濃度の血液スポット較正器を用いることにより、トリプシン活性により試料から放出されたフェニルアラニンの量は、血液スポット標準からの当量の放出により補正される。このことは、他のアミノ酸についても当てはまる。いかなる場合においても、このことはアシルカルニチン分析にとっては問題ではない。
【0091】
いくつかの実施形態では、試料の年齢が重要である場合がある。これは、試料が採取されてから経過した時間を意味し、試料を採取した対象の年齢を指すものではない。したがって、試料は生後1日又は数日から数週間、数カ月、又はさらには数年(2年など)の範囲であってもよい。典型的には、スポットが古いほど、溶出するタンパク質は少ない。したがって、分析においてプロテアーゼ処理を用いると、「バックグラウンド」の遊離アミノ酸放出量(この量から異なる「ベースライン」の読みが得られ、その読取値から、例えば、PKUの場合にはPheの、診断指標としての存在が評価されることになる)は、より古い試料(すなわち、数週間又は数カ月古い試料)においては少なくなる傾向がある。この理由から、試料を比較する際には、ほぼ同年代の対照又は基準試料を使用することが好ましい。これは、好ましくは、互いに2〜3カ月以内、適切には互いに2カ月以内、適切には互いに1カ月以内、適切には互いに2週間以内、最も適切には互いに1週間以内の試料を意味する。
【0092】
比較的古い試料の場合、泳動溶媒(running solvent)としてのメタノールの使用は、溶出する比較的少ない絶対量の材料のイオン化を最適化するために有利である場合がある。
【0093】
プロテアーゼ処理
適切には、プロテアーゼ消化ステップは、試料を分析する前の最終ステップ(すなわち、読取り前の最終ステップ)として実施する。典型的には、試料をまず再水和させてから、任意の基質を試料に加え(適切には水のみの中に加え、一切の緩衝系の添加を回避する)、次に、試料をインキュベートして当該基質の触媒作用を行わせ、ここで初めてプロテアーゼを加えてから適切にインキュベーションし、プロテアーゼを作用させることになる。プロテアーゼは、試料中の酵素が、外因的に加えられた基質(あれば)に対して作用する機会を得た後で加えることが好ましいのは明らかである。プロテアーゼを基質と同時に加えると、酵素自体がプロテアーゼの作用により分解されることになり、それにより当該酵素の活性について偽陰性の結果がもたらされる危険が生じるリスクがある。したがって、適切には、プロテアーゼ添加及びプロテアーゼインキュベーションのステップは、最後、又は試料分析(読取り)の直前に実施する。
【0094】
適切には、試料はブチル化しない。適切には、試料の誘導体化は実施しない。
【0095】
適切には、試料中のタンパク質の特定の変性は行わない。
【0096】
適切には、添加は水中のみにて行う。適切には、水は、試料調製において使用する唯一の溶媒である。適切には、試料調製において有機溶媒は使用しない。
【0097】
読取り時点で加える「泳動緩衝液」又は「泳動溶媒」(アセトニトリルなどの有機溶媒を含んでもよい)は、試料調製物の一部とみなされないことは明らかである。試料調製物が有機溶媒を含まないことは本発明の利点であるが、このことは、読取りの一部としての泳動緩衝液の最終的な添加を全く許さないものと解釈されるべきではない。泳動溶媒の最終添加(適切には、溶出/基質添加、酵素活性インキュベーション、プロテアーゼ添加及びプロテアーゼインキュベーションの後)は適切に行う。これには、ペプチド、酵素基質/生成物及び従来の代謝産物の効率的なイオン化を促進するという利点がある。このことは、いくつかの代謝産物(例えば長鎖アシルカルニチン)を可溶化する上でさらに有利である可能性がある。したがって、適切には、泳動溶媒の最終添加(有機溶媒を含んでもよい)は、読取り時点での本プロセスの一部である。
【0098】
泳動緩衝液は、当技術分野で公知の適当な任意の組成物を含んでもよい。適切には、泳動緩衝液は、本明細書中、とりわけ実施例の項に記載のようなアセトニトリルを含む。適切には、MSMSに適した任意の泳動緩衝液を使用する。いくつかの実施形態では、酵素反応(それ自体が診断に使えるか、又は診断に使えるポリペプチドを生成させるために使用する、トリプシンなどのプロテアーゼであるかを問わない)は、泳動緩衝液の添加により停止させる。いくつかの実施形態では、この停止用泳動緩衝液は、メタノールを含んでもよく、又はメタノールからなっていてもよい。これにより、イオン化向上という利点がもたらされる。当然ながら、実際的な意味においては、停止用の泳動緩衝液/溶媒としてメタノールを使用することは、アセトニトリルベースの溶媒など従来の泳動溶媒の使用を全く許さないものではない。1つの視点から言えば、そのような従来の溶媒はこれまでどおり使用してもよく、その理由は、典型的には、読取りのためにMSMS機中に少量の試料を実際に入れ、その量は、停止された試料(すなわち、泳動緩衝液(停止用泳動溶媒)を含む試料を2μl含んでもよいと考えられるからであるが、当然ながらこの試料は、典型的には毛細管(又は「パイプライン」)担持システム(loading system)中に導入されることから、従来のアセトニトリルベースの泳動緩衝液によりいずれかの側に境界が形成されると思われる。したがって、実際的な観点からは、停止用泳動緩衝液としてのメタノールの使用は、読取り段階からアセトニトリル又は他の従来の緩衝液を排除するものではなく、泳動溶媒(停止用泳動溶媒)としてのそのようなメタノールの使用により一定の利益が得られるものであることは理解されよう。したがって、適切には、本発明の方法は、従来のアセトニトリル−HO−ギ酸の泳動溶媒(同1mlなど)で反応を停止させるステップを含み、より適切には、本発明の方法は、メタノール(同1mlなど)で反応を停止させるステップを含む。
【0099】
適切には、試料には外因的な緩衝液を加えない。適切には、緩衝化ステップは、本発明の方法から省かれる。
【0100】
適切には、試料には外因的な緩衝液を加えない。
【0101】
適切には、介入的な抽出ステップは実施せず、むしろ適切には、試料は、一切の介入ステップなしで調製した後で直接分析する。
【0102】
変性
タンパク質分析についての先行技術では、プロテアーゼ消化の前にタンパク質(複数可)を変性させることが必要と考えられている。先行技術では、例えば、異常ヘモグロビン症に関して、試料は、アセトニトリル及びギ酸を別々に加えてはっきり変性させてから放置する。先行技術の方法によれば、次に、トリプシンを加える前に炭酸アンモニウムを使用してpHをトリプシンの最適pHに近付けることで、試料中のギ酸を中和させる。乾燥血液スポット中のタンパク質は既に少なくとも部分的に変性しているという洞察に基づくこうしたステップの排除は、本発明の方法の強力な単純化である。したがって、適切には、本発明の方法は、有機溶媒又は有機酸をベースにした試料調製ステップを具体的に省く。適切には、本発明の方法は、化学変性に基づく試料調製ステップを具体的に省く。適切には、本発明の方法は、有機溶媒の介入ステップ(複数可)/変性を伴わない試料調製を含む。広範な態様では、本発明は、異常ヘモグロビン症の診断法(複数可)などのタンパク質分析法(複数可)であって、本明細書中で教示する要領で当該方法が多重化されない場合であってもそのようなステップを省く方法に関する。
【0103】
定量化 内部標準/生成物:基質比
定量化は、同位体標識された安定な基質を使用して達成できる。適切には、前記基質は、少なくとも1つの安定同位体、適切には少なくとも2つの安定同位体(複数可)で標識される。適切には、前記同位体(複数可)は、重水素、炭素13、窒素15及び酸素18からなる群から選択される。適切には、前記同位体は炭素13である。2つの同位体を使用する場合、適切にはそれらは炭素13及び窒素15である。適切には、基質がポリペプチドである場合、安定同位体は、標識がエンドペプチダーゼによる切断(あれば)後のペプチドにより保持されるように、所望のエンドペプチダーゼ切断部位(あれば)についてはN末端に組み込まれる。標準的な同位体−希釈手順を用いて代謝産物/ペプチド(例えばペプチド安定同位体)を測定するための安定同位体内部標準は、酵素基質の最初の添加と共に、又はプロテアーゼ添加と共に加えてもよい。酵素生成物の安定同位体は、適切には、酵素インキュベーション後に加えるが、これには、安定同位体が酵素活性を阻害しないという利点がある。特異性を求めて安定同位体標識された基質を加える場合、これは適切には最初の添加時点、すなわち、酵素(複数可)が、そのような任意の基質(複数可)に対して作用する機会を有するような時点においてである。酵素活性又は相対的な酵素活性の有無が、典型的には定量化を必要とせずにアッセイされることは、本発明の利点である。典型的には、こうした活性の有無は、生成された生成物又は基質:生成物比を用いて測定できる。定量化をさらに特徴とする実施形態の主要な利点は、準最適な基質濃度(複数可)を用いるときである。
【0104】
或いは、定量化は、基質/生成物比の誘導により実施してもよい。
【0105】
さらなる用途
本発明のシステム及び方法によれば、MSMSによる全血代謝産物、酵素活性及びトリプシンペプチドの多重測定に基づき、3.2mmの単一の血液スポット上で、且つ、試料の移動を伴わずに、遺伝性代謝疾患及び異常ヘモグロビン症の同時診断が可能になる。
【0106】
本発明は、タンパク質/ポリペプチドにおける突然変異を検出すること、及び/又は、タンパク質/ポリペプチドを、トリプシンなどのプロテアーゼにより放出されるペプチドとして定量的に測定することに用途がある。
【0107】
本発明者らは、ヘモグロビン(又は任意のタンパク質)の古典的変性のための一切の添加を有利に省くことにより、全体の手順を顕著に単純化する。
【0108】
このシステムは、追加的な代謝産物、酵素活性又はトリプシンペプチドを包含するように容易に拡張させることができ、さまざまな臨床診断に適用可能な多重化された全般的な分析アプローチを代表する。
【0109】
本発明の主要な利点は、ビオチニダーゼ(最適pH6.0)及びポルフォビリノーゲン合成酵素(最適pH6.4)などさまざまな酵素の活性を測定するための、緩衝化させる唯一必要なものとして、血液スポットを使用することである。適切には、基質は水中に加える(すなわち、適切には、水が、使用される唯一の溶媒/担体である)。次に、酵素生成物を測定して活性を定量する。本発明は、「スポット上での診断」に関する。
【0110】
水中で酵素基質を使用する主要な技術的効果は、試料が、本発明者らがトリプシン消化及び異常ヘモグロビン症診断のために以前用いてきたものに有利に相当するものであることである。
【0111】
同一の分析に代謝産物が含まれることは、驚くほど有効である。異常ヘモグロビン症の分析のための試料希釈率は、代謝産物分析用に通常用いるものより典型的には6〜8倍高い。代謝産物は、タンパク質及び塩の溶出を最小化してエレクトロスプレー源中のイオン抑制を最小化するメタノール又はメタノール:水混合物を使用することで、血液スポットから抽出することが普通である。加えて、基質/生成物及び酵素プロセスは、所望の代謝産物を増加/減少させることができる。とりわけ、先行技術による代謝産物分析には典型的にブチル化が含まれるが、ブチル化は、適切には本発明の方法から具体的に省かれる。
【0112】
所定の酵素のために、1つを超える基質を使用してもよい。これには、特異性が増すという利点がある。
【0113】
安定同位体標識された基質を使用してもよい。これには、特異性を高めるという利点がある。
【0114】
適切には、基質は、測定対象となる酵素生成物が具体的に含有されないように調製する。これには、生成物が基質に混入する場合に生じる可能性のある「偽陽性」を排除するという利点がある。
【0115】
適切には、水溶性の基質を使用する。これには、唯一の溶媒/担体としての水を維持することにより、試料調製から有機溶媒及び/又は抽出ステップを排除するという利点がある(但し、前述したように、読取り段階での「泳動溶媒」の添加には、アセトニトリルなどの有機溶媒(複数可)がこれまでどおり含まれていてもよい)。緩衝液除去などのためのクロマトグラフィーが排除されることは、本発明の利点である。
【0116】
したがって、好ましい一実施形態では、試料は1つの血液スポットを含み、試料調製には移動は含まれず、単一の多重解析において代謝産物、酵素活性及びタンパク質をそれぞれ測定する。
【0117】
本発明者らは、クロマトグラフィーを用いない試料の直接注入、及び、エレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)検出を用いるなどにより、3.2mmの単一の血液スポット(血液スポットのサイズはこれより大きくても小さくてもよく、液体全血又は血漿を使用してもよい。最も適切には血液を使用し、適切にはスポットのサイズは名目上3.2mmであり、最も適切には、スポットのサイズは3.2mmである)上での分析物(例えば、MCADDの場合のオクタノイルカルニチン)の同時測定、タンパク質(鎌状βヘモグロビン)の検出及び酵素活性の測定のための多重解析システムを実証する。このシステムは、新生児スクリーニングに関して説明したが、さまざまな臨床診断及びモニタリングの状況、例えば、癌、糖尿病(1型及び2型)、腎疾患及び肝疾患に適用できると考えられる。
【0118】
本発明は、非対称ジメチルアルギニン(ADMA,asymmetric dimethylarginine)、オロチン酸及び3−O−メチルジヒドロキシフェニルアラニン(3OMDOPA,3-O-methyl-dihydroxyphenylalanine)などのさらなる分析物にも適用でき、さらなる遺伝性及び先天性の障害のスクリーニングを有利に可能にする。このような代謝産物を用いた疾患スクリーニングは、これまでに記載されたことがない。このような分析物(代謝産物)は、現在記載している多重スクリーニングシステムに組み込むことができる。とりわけ、本発明者らは、メタノール150μl(アミノ酸、アシルカルニチン、クレアチニン、メチルマロン酸、オロチン酸、ADMA及び対称ジメチルアルギニン(SDMA,symmetric dimethylarginine)の定量化のための全範囲の安定同位体を含有する)での30分間の血液スポット溶出、次いで、迅速クロマトグラフィー、エレクトロスプレー(陽イオン及び陰イオンの両モードにおける)のための溶出液各5μlの2回の注入、及び、SCIEX API5000(Applied Biosystems社製、Warrington, UK)でのMRM分析を用いた分析の実施について記載する。SDMAは糸球体濾過速度の測定値として提案されており、本明細書中に示すデータは、SDMAは血液スポットにおいて十分な精度及び精度を有した状態で測定でき、それにより腎不全の正確な診断、及び、広範な臨床状態(例えば、腎機能の低下及び結果としての心血管リスクの増加を伴う、糖尿病及び心疾患)における腎機能のモニターが可能になることを実証することに注目すべきである。
【0119】
実施例を用いて、ここに本発明を説明する。この実施例は、例証することを意図したものであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0120】
全般的な方法:
深いウェルプレートに入った血液スポットに、フェニルアラニン、チロシン及びオクタノイルカルニチン用の安定同位体を含んだ基質100μlを加えて37℃で30分間インキュベートする。
【0121】
トリプシン5μl(5mg/ml)を加えて37℃でさらに30分間インキュベートする。
【0122】
安定同位体PABAを含有する泳動溶媒1mlを加える。
【0123】
注入準備完了。MSMS時間は1分。
【0124】
詳細な方法:
2μlを注入。75μl/分。移動相はアセトニトリル:水 1:1に0.025%ギ酸を加えたもの。臨床的に診断される異常ヘモグロビン症用に合計1分のMSMS MRM取得、5−アミノレブリン酸、ポルフォビリノーゲン、ビオシチン、ビオチン、リシン、d5−リシン、ビオチンPABA、PABA、d4−PABA、フェニルアラニン、チロシン、オクタノイルカルニチン、d5−フェニルアラニン、d4−チロシン及びd3−オクタノイルカルニチン。
【0125】
以下の分析を実施した:
1)Schleicher & Schuell社製の濾紙(新生児スクリーニングに使用する)上に載せた全血から調製した3.2mmの全血スポットをインキュベートしておき、ポルフォビリノーゲン合成酵素の天然の基質である5−アミノレブリン酸を加えて37℃で1時間30分インキュベートし、MSMSによりポルフォビリノーゲンを測定した。
2)1の要領で、但し、100μmol/lのスクシニルアセトンを含ませ、アッセイの阻害(ポルフォビリノーゲンは全く(実質的に)検出されない)、ひいては、チロシン血症1型を検出することが可能であることを実証した。
3)Schleicher & Schuell社製の濾紙(新生児スクリーニングに使用する)上に載せた全血から調製した3.2mmの全血スポットをインキュベートしておき、ビオチニダーゼの天然の基質であるビオシチンを加えて37℃で1時間30分インキュベートし、MSMSによりビオチン及びリシンを測定した。
4)3の要領で、但し、生理食塩水で洗浄した赤血球に、ビオチニダーゼ欠損症患者に由来する血漿を加えたものを使用して、ビオチニダーゼ活性の低下を実証した。この実験及び3は、基質中に相当な量のビオチンが存在することにより複雑化した。判別は依然として可能であり、これによりビオチンダーゼ(biotindase)欠損症の検出が可能になったが、ビオチンを含有しない基質又は安定同位体標識されたリシンの利点(シグナルをチェックしたところ標準条件下では存在しない)が浮き彫りになった。
5)Schleicher & Schuell社製の濾紙(新生児スクリーニングに使用する)上に載せた全血から調製した3.2mmの全血スポットをインキュベートしておき、ビオチニダーゼの人工基質であるビオチンPABAを加えて37℃で1時間30分インキュベートし、MSMSによりビオチン及びPABAを測定した。
6)5の要領で、但し、生理食塩水で洗浄した赤血球に、ビオチニダーゼ欠損症患者に由来する血漿を加えたものを使用して、ビオチニダーゼ活性の低下を実証した。この実験及び5は、基質中に相当な量のビオチンが存在することにより複雑化した。判別(とりわけPABAを使用した場合)は依然として可能であり、これにより、ビオチンダーゼ欠損症の検出が可能になったが、ビオチン/PABAを含有しない基質の利点が強調された。
7)5及び6の要領で、但し、放出されるPABAの定量化のために安定同位体PABAを加えた。
8)前記の要領で、但し、5−アミノレブリン酸及びビオシチン、又は、5−アミノレブリン酸及びビオチンPABA、又は、5−アミノレブリン酸、ビオシチン及びビオチンPABAを加えて、両方の酵素を同時に測定し、同一血液スポット上でビオチニダーゼ及び/又はチロシン血症1型のいずれの診断も行うことができることを実証した。
9)前記の要領で、但しトリプシンを加えて37℃でさらに30分間インキュベートして、正常な酵素活性、ヘモグロビンパターン、フェニルアラニン及びオクタノイルカルニチンを実証した。
10)鎌状赤血球疾患に罹患している対象に由来する試料以外は9の要領で、正常な酵素活性、フェニルアラニン、オクタノイルカルニチン及び鎌状赤血球疾患のヘモグロビンパターンを実証した。
11)9の要領で、但し、PKU患者に由来する試料を加えて、正常な酵素活性、ヘモグロビンパターン、オクタノイルカルニチン及びPKUの診断に使えるフェニルアラニンの増加を実証した。
12)9の要領で、但し、MCADD患者に由来する試料を加えて、正常な酵素活性、ヘモグロビンパターン、フェニルアラニン及びMCADDの診断に使えるオクタノイルカルニチンの増加を実証した。
【実施例2】
【0126】
多重解析
この実施例では、プロテアーゼ処理を含む多重解析並びに試料中の遊離アミノ酸のアッセイを示すが、これらは、先行技術に基づく手法では不可能であった。さらに、本発明者らは、分析及び処理はそれぞれ、本発明による多重化の形で実施できること、並びに、分析の読取値はそれぞれ、代謝産物、酵素活性、プロテアーゼ分析のために単一の試料のみを調製するという事実にもかかわらず依然としてロバストで信頼できること、並びに、この試料は外因的な緩衝化を行わず、溶媒に基づく変性ステップを伴わず、短い時間枠で調製されることを実証するが、これらは先行技術では不可能であった。
【0127】
したがって、この項において用いる方法(最適化された時間進行を含め)は、以下のとおりである:
深いウェルプレートに入った3.2mmの血液スポットに基質100μl(50μM、濃度の検討後、5−アミノレブリン酸+ビオシチン又はビオチニル−PABA)を加えて37℃で60分間インキュベートする。
トリプシン100μl(0.5mg/ml)を加えて37℃でさらに30分間インキュベートする。
フェニルアラニン、チロシン及びオクタノイルカルニチン用の安定同位体を含んだ泳動溶媒1mlを加える。
注入準備完了。MSMS時間は1分。
【0128】
トリプシンでのインキュベーションに応答してフェニルアラニンシグナルが増加することを、追って記載の表中に示す。(列の多くは、実験誤差の排除を促進するための複製した試料の対になっていることに注意。)安定同位体ISは影響を受けないことに注目。これは、安定同位体は当然ながら試料中のタンパク質中には存在しないからであり、安定同位体はトリプシンで消化され、消化後にフェニルアラニンシグナルの増加が生じる。
【0129】
これにより、メタノール中でのシグナル、フェニルアラニン及び安定同位体内部標準の増加(イオン化の増加)も実証される。結果は、適切な標準を用いて計算する。
【0130】
試料が古くなる問題にもかかわらず、検量線の直線性、対照値、及びPKU患者の同定の容易さから、このシステムの妥当性が示唆される。
【0131】
フェニルアラニンの上昇は、フェニルケトン尿症を示すものである。
【0132】
Gにおけるピーク面積はFにおける面積より大きい、すなわち、トリプシン放出に由来するPhe、並びに、試料中に実際に存在するPheを測定する。D5(同位体のもの)が同じであることから(カラムO及びP)、本発明者らは、このPheがトリプシン放出に由来するものであることを示す。このPheがシグナル効果であったとすれば、その場合は同位体標準も「上昇」した(すなわち、より大きいシグナルを示した)であろう。
【0133】
停止/泳動溶媒としてのメタノールは、より良好なイオン化/より高い感受性をもたらす。このことは、カラムFとHとを、並びにカラムOとQとを比較することにより実証される。このことは有利であるが任意選択的なものであり、その理由は、従来の泳動/停止溶媒が非常に有効に働くからである。
【0134】
この実施例の主要な実証は、本発明を正確に実施するには、どの様式でPheをアッセイするかは問題ではないということである。例えば、S/T/U/V、とりわけ23/24列に注意を向ける。トリプシンを用いた場合に、より多くのPheが見られることは明らかである。これは、上で説明してきたように、トリプシンによりPheが放出されることによる。同様に、メタノールを用いた場合にも、より多くのPheが見られるが、これは、上での説明のとおり、イオン化が良好になることによる。先行技術の視点からは、これが機能することは予想できなかったと思われるが、その理由は、トリプシンにより放出されるPheは非常に多くのバックグラウンドレベルのPheを生じさせるので、PKU患者において存在するPheのシグナルは失われると予想されたと思われるからである。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、本発明による多重解析において、依然として優れた判別が行われることを示す。1つの理由は、適切な対照と比較しているからである。トリプシン処理を対照中に組み込むことにより、非PKU対照のトリプシン処理においてPheの上昇を見ることができる。しかし、トリプシンにより発生した当該シグナルを用いた場合でも、PKU患者のより高いレベルに対し、依然として優れた判別が行われる。1つのキーポイントは、トリプシン関連の放出は古い試料におけるほうが少ないことであるが、これは、古い試料におけるほうがタンパク質溶出量が少なく、したがってトリプシン攻撃に対応できることによる。さらに、又、より重要なことには、年代の合った試料においては、タンパク質溶出、ひいてはトリプシンにより生じるPheシグナルは、対照とPKU患者との間で比較可能であることから、プロテアーゼにより放出されるPheシグナルの「バックグラウンド」はその2者間で比較可能であるが、決定的なことに、又、先行技術に関しては予想外なことに、本発明によれば、当該試料中にはあって対照中にはない、診断に使える遊離Pheにより、PKU試料中のシグナルにおけるロバストで検出可能な差が依然として存在する。したがって、先行技術の方法が多重アプローチにより混乱するのに対し、本発明者らの方法は多重化においてもロバストであることを、本発明者らは示すものである。大きなバックグラウンド成分(プロテアーゼにより放出されるPheにより生じる)にもかかわらず、PKU試料の[バックグラウンドプラスシグナル]は、適当な対照の[バックグラウンドのみ]のシグナルとは明確に区別される。言い換えれば、プロテアーゼ多重アッセイにおけるシグナルを「上昇」させることができ、本発明によれば、実際の診断用シグナルを依然として判別できる。
【0135】
プロテアーゼ分析が多重アッセイの一部である場合、年代の合った対照試料を使用することは本発明の任意選択的な有利な特徴であるが、その理由は、これには、バックグラウンドのさらに良好な適合、ひいてはさらに良好/よりロバストな判別という利点があるからである。
【0136】
【表1】


【0137】
多重解析:Tyr
本発明者らは、トリプシンでのインキュベーションに応じたチロシンシグナルの増加を実証する。安定同位体ISは影響されないことに注目。
【0138】
これにより、メタノール中でのシグナル、チロシン及び安定同位体内部標準の増加(イオン化の増加)も実証される。
【0139】
試料が古くなる問題にもかかわらず、検量線の直線性及び対照値から、このシステムの妥当性が確認される。
【0140】
以下に記載の表は、データを示すものである。
【0141】
【表2】


【0142】
多重解析:Oct Carn
本発明者らは、トリプシンでのインキュベーションに応じたオクタノイルカルニチンシグナルのわずかな増加を実証する。安定同位体ISも影響されないことに注目。タンパク質消化後のイオン化が高まったことが示唆される。
【0143】
これにより、メタノール中でのシグナル、オクタノイルカルニチン及び安定同位体内部標準の増加(イオン化の増加)も実証される。
【0144】
試料が古くなる問題にもかかわらず、検量線の直線性、対照値及びMCADD患者の同定の容易さから、このシステムの妥当性が示唆される。
【0145】
【表3】

【0146】
全詳細にわたり、データを以下の表に示す:
【0147】
【表4】


【0148】
多重解析:Leu
本発明者らは、トリプシンでのインキュベーションに応じたロイシンシグナルの増加を実証する。先に論考したように、このことは、MSUD患者(複数可)に由来する古いスポット(複数可)におけるほうが目立たない。安定同位体ISは影響されないことに注目。
【0149】
これにより、メタノール中でのシグナル、ロイシン及び安定同位体内部標準の増加(イオン化の増加)も実証される。
【0150】
しかし、検量線の直線性及び対照値から、同年代の試料におけるこのシステムの妥当性が示唆される。以下の表にデータを示す。
【0151】
【表5】


【0152】
MSUD患者についての1100μmol/l及び735μmol/lの計算濃度は、非罹患患者についてのはるかに低い計算濃度と比較した場合にロバストな判別を示し、プロテアーゼ及び/又はメタノール処理にかかわらず、この判別は維持された。
【0153】
本発明は、古い試料(例えば、生後数カ月〜2年又はさらに古い)の分析において適用することさえできる。スキャン及び/又は比率(Leu−Phe比など)を用いて、優れた診断結果を得ることができる。例えば、ロイシン及びバリンについての計算結果は比較的信頼が低く、このことは、スポットの年代に関連するようである。スキャンを見ると、診断をくだすべきであることは明らかである。この場合は、ロイシン/フェニルアラニン比及び/又はバリン/フェニルアラニン比を用いて、MSUD患者に由来する試料を判別してもよい。さらに、スキャンを調査すると、ロイシン/アラニン比及びバリン/アラニン比は顕著に良好になるであろうことが示される。
【0154】
このことを例証するためには、図1のアシルカルニチンのスキャン(上)及びニュートラルロススキャン(下−ギ酸イオンを失っている)を参照のこと。
【0155】
図1と図2を比較して、Pheの上昇を見よ、これによりPKU患者を診断する。
【0156】
図3と比較して、MSUD試料中のロイシン/イソロイシン(132.3)の上昇を見よ。
【0157】
Leu:Phe比(132.3:166.4)は、MSUDについての一層よりロバストな指標である。
【0158】
Leu:Ala(132.3:90.1)比は、MSUDについてのさらに又よりロバストな指標であるが、その理由は、MSUDにおいては二次的効果としてAlaが典型的に低く、そのため、このLeu:Ala比を診断用として試験することにより、MSUDにおいてAlaがさらにより際立つからである。
【0159】
図4は、MCADD患者においてオクタノイルカルニチンが検出されること(288.2)、及び、この検出及び診断は本発明の多重解析により乱されないことを示すものである。
【0160】
これらの実験を、今回は多重化プロセスの一部としてプロテアーゼを用いて繰り返す。図5は、プロテアーゼ(トリプシン)を含めた完全なプロセスの場合の対照試料を示すものである。プロテアーゼによりアミノ酸が放出されることから、シグナルは図1におけるものより約10倍高いことに注目。しかし、この1桁高いシグナルにもかかわらず、本発明は、依然として優れた判別を有利にもたらす。図6のPhe(166.3)を図5と比較すると、Pheは図6において明らかに上昇しており、これにより、シグナル/バックグラウンドレベル全体が10倍高いにもかかわらずPKUが診断される。さらに、図7の132.2を図5と比較すると(およそ1.6×10対1.1×10)、MSUD患者が容易且つロバストに判別及び診断される。前述のとおり、Leu:Ala比などの比率を比較すれば、さらによりロバストな判別が達成される。オクタノイルカルニチンについて検討する場合、図8の288.4を図5と比較すると、従わざるを得ない判別が見られ、多重化の一部としてトリプシンプロテアーゼが存在していてもMCADDが診断される。
【0161】
適切には、実際には、分析する臨床試料スポットは、互いに1週間程度以内に全て作製される。しかし、本発明がいかに信頼できるものであるかを例証するために、MSUDスポットを1年より前に作製したので、本発明者らがこのスポット上にトリプシンを添加してもロイシン又はバリンの顕著な上昇は一切得られないことは、「トリプシンなし」対「トリプシン」の処理から、明らかである。
【0162】
5−アミノレブリン酸/イソロイシン/ロイシンに関して
これらの種(並びにヒドロキシプロリン)のそれぞれが132.3ピークに寄与することに注目。これが、5−アミノレブリン酸濃度などの基質濃度が有利に最小化する理由である。したがって、多重化試料中で使用される5−アミノレブリン酸が少ないほど、その存在が132.3ピークを「膨らませる」程度は低くなる。先行技術の手法は、本明細書中で教示するものの約20倍も多い基質を典型的に使用することから、そうした効果は先行技術の方法においては観察されなかったであろうし、観察できなかったであろう。適切には、50μM 5−アミノレブリン酸基質を使用する。
【0163】
スキャンは、MSUDを診断することが可能であることを実証するものである。前述のように、シグナルは5−アミノレブリン酸からの寄与もいくらか含んでいるが、これは、高い衝突エネルギーのロイシン転移を読取値として用いることにより有利に最小化される。いかなる場合においても、本発明者らは、このスキャンアプローチは、この多重化の状況においてであっても機能するであろうということを実証する。
【0164】
世界中の新生児スクリーニング研究室の大多数においては、ニュートラルロススキャンはアミノ酸について行われ(大部分はブチル化した試料を使用するが、本発明者らがこの実施例において示すように、誘導体化されていない試料及びニュートラルロスm/z46も使用できる)、及びアシルカルニチンについての生成物m/z85の前駆体イオンスキャン(ブチル化については同じコメント、但し、m/z85生成物のイオンはブチル化されたもの及び誘導体化されていないものについて同じものである)。
【0165】
好ましくはMRMを使用する。しかし、前述の内容は、オペレーターにより選択される可能性のあるさまざまな代替読取値を用いた場合でも、本発明をどれだけ多重化の形で適用できるかを例証するものである。
【0166】
多重解析:Val
これにより、トリプシンでのインキュベーションに応じたバリンシグナルの増加が実証される(MSUD患者に由来する古いスポットにおけるものではない)。安定同位体ISは影響されないことに注目。
【0167】
これにより、メタノール中でのシグナル、バリン及び安定同位体内部標準の増加(イオン化の増加)も実証される。
【0168】
試料が古くなる問題は、MSUD患者の同定を困難にする。しかし、検量線の直線性及び対照値から、同年代の試料におけるこのシステムの妥当性が示唆される。
【0169】
【表6】


【0170】
図1〜8のスキャンは、先に「Leu」の見出しの下で説明したように、非常に古い試料においてであってもどの程度の比率であれば診断の実施に使用できるかを示すものである。さらに、Val−Phe比を使用してもよい(以下を参照)。
【0171】
【表7】

【0172】
濃度比は、わずかに変化することがあるが、その理由は、フェニルアラニン濃度が低く精度に問題があるからである。
【0173】
理論上は、実際的には、又、本明細書中に示すスキャン及びデータから、ロイシン/アラニン比はより良好な判別要素と考えられるため、MSUDにとって好ましい。
【0174】
【表8】

【0175】
濃度比は変化することがあるが、その理由は、フェニルアラニン濃度が低く精度に問題があるからである。
【0176】
理論上は、実際的には、又、スキャンから示されるように、バリン/アラニン比は別のロバストな判別要素をもたらす。
【0177】
前述のように、これら特定の実施例においてはMSUD試料は他のものより相当古いため、プロテアーゼに関連する放出が少なく示されることを念頭に置かなければならない。十分に実証したように、本発明の方法は、プロテアーゼ作用による高度な放出が生じた場合でも、依然として優れた判別を有するロバストな診断手段のままである。事実、このことは先の実施例に示したデータセットにより実証される。
【実施例3】
【0178】
ビオチニダーゼ+ビオチン/PABA多重化
血液スポットを、ビオチニルPABA(およそ50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
【0179】
本発明者らは、以下の問いを発した:ビオチン又はPABAを測定することにより、対照とビオチニダーゼ欠損症との間が判別されるか?
【0180】
本発明者らは以下の問いにも取り組む:生成物/基質比を区別のために用いることができるか?
成人対照の活性を現時点での新生児試料とどのように比較するか?
古い試料、及び、EDTA中で採取した試料において活性を測定できるか?
【0181】
【表9】

【0182】
結論:
成人対照試料中のビオチンシグナルは、ビオチニダーゼ欠損症試料中のシグナルの3.5倍にすぎない:1、2列及び5、6列を参照(太字・下線付きで強調)。
成人対照試料中のPABAシグナルは、ビオチニダーゼ欠損症試料中のシグナルの30倍である:7、8列及び11、12を参照列(太字・イタリックで強調)。
MCADD試料における最低のビオチンシグナルは、ビオチニダーゼ欠損症試料におけるシグナルとそれほど異ならない。MCADD試料における最低のPABAシグナルは、依然としてビオチニダーゼ欠損症試料におけるシグナルの5倍である。したがって、PABAは好ましい分析物である。
基質と共にインキュベートしたブランクスポット中に高度に顕著なビオチンシグナルが存在することから、シグナル:ノイズ比が低いことが示唆されることに注目。基質と共にインキュベートしたブランクスポット中に測定可能なPABAシグナルが実質的に存在しないことから、シグナル:ノイズ比が非常に高いことが示唆されることに注目。したがって、やはりPABAは好ましい分析物である。
PABA/ビオチニルPABA比は、より大きな判別をもたらす:35倍。
ビオチニダーゼ活性は、古い試料及びEDTA試料において測定可能である(但し、古い試料中ではある程度の試料劣化がある)。
【0183】
好ましい基質はビオシチンであるが、その理由は、ビオシチンは天然の基質であり、又、ビオシチンは典型的に他の基質よりはビオチンの混入が少ないからである。
【実施例4】
【0184】
PBG合成酵素多重化
血液スポットを、水、ビオシチン(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)、並びに、ビオチニルPABA(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
2つのMRMを使用してポルフォビリノーゲンを測定した。
【0185】
第1の問い:ポルフォビリノーゲンを測定することにより、対照とチロシン血症1型(スクシニルアセトンはポルフォビリノーゲン合成酵素活性を阻害した)との間が判別されるか?
【0186】
第2の問い:どのポルフォビリノーゲンMRMがより良好か?
生成物/基質比を区別のために用いることができるか?
成人対照の活性を現時点での新生児試料とどのように比較するか?
古い試料、及び、EDTA中で採取した試料において活性を測定できるか?
ビオチニダーゼ活性を同時に測定するためにビオシチン又はビオチニルPABAを使用した場合、PBG合成酵素活性に差があるか?
【0187】
【表10】

【0188】
結論:
成人対照試料におけるポルフォビリノーゲンシグナルは、チロシン血症1型試料におけるシグナルの15倍である(ブランク血液スポットより多い)−強調してある太字を参照。
他の非EDTA試料のいずれにおいても、最低のポルフォビリノーゲンシグナルは、依然としてチロシン血症1型試料におけるシグナルの2倍である。
基質と共にインキュベートしたブランクスポット中に測定可能なポルフォビリノーゲンシグナルは実質的に存在しないことから、調製したチロシン血症1型試料におけるいくらかの残存活性が示唆されることに注目。
227.3/122.1MRMはより感受性が高いが、シグナル:ノイズ比は227.3/94.0にすぎない。いずれも可能であることが示唆されるが、シグナルがより強いことから227.3/122.1のほうが好ましい。
生成物/基質比は、わずかに大きい判別をもたらす:15〜20倍。
現時点での新生児の試料はPKU患者に由来するものであり、その活性は成人活性のおよそ60〜70%であるが、依然として高度に判別される。
PBG合成酵素活性は古い試料において測定可能である(しかし、EDTA試料は恐らく測定可能ではない)が、古い試料においてはほぼ確実に、ある程度の試料劣化が存在する。
ビオチニダーゼ基質間で差はない。
【実施例5】
【0189】
Hb多重化
血液スポットを、水、ビオシチン(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)、並びに、ビオチニルPABA(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
【0190】
第1の問い:酵素基質及びインキュベーションを含めることによる多重化は、鎌状ペプチドを検出する能力に影響するか?
【0191】
第2の問い:とりわけ基質間のイオン抑制に関して差はあるか?
【0192】
【表11】

【0193】
結論:
成人のHbAS試料中の鎌状シグナルは、水又はいずれかの基質中の他の試料におけるシグナルのおよそ100倍である−強調してある太字を参照(AS=ヘテロ接合体)。
鎌状又は野生型のペプチドについて、ビオチニダーゼ基質間に差はない。
したがって、多重解析は、異常ヘモグロビン症の診断にも驚くほど適している。基質が存在し、酵素活性をインテロゲートするためにインキュベーションを実施した場合、異常ヘモグロビン症の同時多重診断には損害がない、すなわち、シグナルに対し又は判別に対し影響がない。
【0194】
同じことをHbc、HbDPunjab、HbOarab、HbE、δ−Lepore及びHbFについて行ったことろ、全て良好に機能しバックグラウンド効果はない。(NB HbF MCADDは新生児であり、当該試料については多くのHbFが観察されたのは、これが理由である。)
【実施例6】
【0195】
ビオチニダーゼ+ビオシチン/ビオチン多重化
血液スポットを、水及びビオシチン(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)の両方と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
【0196】
第1の問い:ビオチンを測定することにより、対照とビオチニダーゼ欠損症との間は判別されるか?
【0197】
第2の問い:生成物/基質比を区別のために使用できるか?
成人対照の活性を現時点での新生児の試料とどのように比較するか?
活性は、古い試料、及び、EDTA中で採取される試料において測定可能か?
【0198】
【表12】

【0199】
結論:
成人対照試料におけるビオチンシグナルは、ビオチニダーゼ欠損症試料におけるシグナルの45倍(ブランク血液スポットと同じ)である−強調してある太字を参照。
他の試料のいずれにおいても、最低のビオチンシグナルは、依然としてビオチニダーゼ欠損症試料におけるシグナルの8倍である。
基質と共にインキュベートしたブランクスポットにおいては測定可能なビオチンシグナルは実質的になく、非常に高いシグナル:ノイズ比を示すことに注目。
予想どおり、生成物/基質比は、より大きい判別をもたらす:73倍。
現時点での新生児の試料はPKU患者に由来するものであり、その活性はそれほど低くない(未熟児においては活性はより低い可能性があるが、依然として良好な判別がもたらされる)。
古い試料中ではある程度の試料劣化がほぼ確実に存在するものの、ビオチニダーゼ活性は、古い試料及びEDTA試料において測定可能である。
洗浄された、とは、赤血球を洗浄したことを意味する(ビオチニダーゼは血漿中にある)−同等性のためにビオチニダーゼ欠損症患者に由来する血漿を再度加えるので、ビオチニダーゼは含有されていない。
【実施例7】
【0200】
PKU多重化
血液スポットを、水、ビオシチン(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)、並びに、ビオチニルPABA(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
【0201】
第1の問い:フェニルケトン尿症を検出するように十分良好にフェニルアラニンを測定できるか?
この方法は本当に定量的か?
いずれかの酵素基質混合物を加えると、フェニルアラニンシグナルに影響するか。
【0202】
結果はビオシチン混合物における標準から計算することに注意。
【0203】
以下の表にPKU多重化データを示す。
【0204】
【表13】



【0205】
結論:
患者由来の試料は、非常に容易に同定される。試料は高い値であるが、判別(シグナル、比率又は濃度)は優れている。
この方法は、高度に定量的と思われる−直線性、精度及びQC結果は優れている。トリプシン由来のバックグラウンドは、std曲線がゼロを通過しないことを意味する。
患者のフェニルアラニン濃度は、以前測定したとおりである。
しかし、標準及びQCは、同時に作製された。対照における高い値、及び、より古い試料における低いレベル(0未満と測定される)は、溶出が穏やかという問題があることを示唆している可能性がある。
実際は、分析する全ての試料は、好ましくは、1週間以内に採取されることになる。
基質の影響はシグナルには及ばない。
【実施例8】
【0206】
MCADD多重化
血液スポットを、水、ビオシチン(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)、並びに、ビオチニルPABA(50μmol/l)及び5−アミノレブリン酸(50μmol/l)と共にインキュベートする。
酵素活性、トリプシン消化後の診断に使える異常ヘモグロビン症ペプチド、及び代謝産物についての完全な分析プロセス。
【0207】
第1の問い:MCADDを検出するようにオクタノイルカルニチンを十分良好に測定できるか?
この方法は本当に定量的か?
いずれかの酵素基質混合物を加えるとフェニルアラニンシグナルに影響するか。
【0208】
結果はビオシチン混合物における標準から計算することに注意。
【0209】
MCADD多重化データを以下の表に示す:
【0210】
【表14】



【0211】
結論:
患者由来の試料は、カットオフスクリーニングの0.5μmol/lのボーダーラインにある。この濃度でのシグナル、比率又は濃度は良好である。
EDTA試料は良好に見える。
この方法は、高度に定量的と思われる−直線性、精度及びQCの結果は優れている。
患者のオクタノイルカルニチン濃度は、以前測定したとおりである。
溶出効果は検出されない。
基質の影響はシグナルには及ばない。
【0212】
このようにして、本発明者らは、多重化の形で多様な範囲のテストを実施する能力を包括的に実証してきた。テストが、代謝産物、酵素活性、又は、ポリペプチドのインテロゲーション(プロテアーゼ消化を経て)であるかにかかわらず、条件又は処理はいずれも、試料分析の時点で取得される他の読取値のいずれにも不利に影響しない。したがって、本発明は、強力な多重診断方法を提供する。
【実施例9】
【0213】
オロチン酸
オロチン酸は、ピリミジンの合成における重要な代謝産物である。したがって、遺伝性の新規のピリミジン合成障害、具体的にはUMP合成酵素欠損症においては、尿中のオロチン酸濃度が上昇する。オロチン酸は、カルバミルリン酸及びアスパラギン酸から合成されることから、尿素回路の遺伝性障害、すなわちオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症、アルギニノコハク酸合成酵素欠損症及びアルギニノコハク酸リアーゼ欠損症においては、尿中のオロチン酸が上昇する(図9を参照)。
【0214】
遺伝性のオロチン酸尿症及び尿素回路障害の鑑別診断は、UMP合成酵素欠損症における臨床的背景及びオロチン酸の大量排泄に基づけば、比較的容易である。尿素回路障害の鑑別診断は、普通は、血漿中又は尿中のアミノ酸に基づく:アルギニノコハク酸合成酵素欠損症においてはシトルリンが上昇し、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症においてはアルギニニオ(argininio)コハク酸が上昇する。オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症においては、普通は血漿中シトルリンが低下するが、初期診断は、尿素回路のアミノ酸が特徴的に増加していない状態での尿中のオロチン酸排泄の上昇に基づく。全血/血漿中のオロチン酸が測定されることは稀であるが、その理由は、オロチン酸は腎臓により活発に排泄され、その血漿中濃度は、尿中で観察される濃度と比較すると比較的低い。しかし、治療しなければ、オロチン酸の血液/血漿中濃度は、上に特定した障害の全てにおいて上昇するであろう。尿素回路障害における血漿中オロチン酸については、1つだけ重要な刊行物がある(Sass et al (1999) Ped Neph 13, 912)。著者らは、ガスクロマトグラフィー質量分析を用いて、アルギニノコハク酸合成酵素欠損症患者に由来する試料における血漿中オロチン酸を測定し、血漿分析は尿分析にとって利益をもたらさないと結論した。
【0215】
本発明者らは、OTCについて新生児及び急性患者をスクリーニングするための、エレクトロスプレーMSMSを用いた、血液スポット中のオロチン酸定量化の使用を開示する。
【0216】
以下の情報は、この状態についてのOMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)のデータセットからの抜粋である:
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損は、尿素回路代謝のX連鎖性の先天異常であり、高アンモニア血症を引き起こす。この障害は、栄養補助食品としてのアルギニン及び低タンパク質食で治療可能である。
尿素回路障害は、高アンモニア血症、脳症及び呼吸性アルカローシスの3徴候を特徴とする。尿素回路の酵素の生合成における異なる欠陥を含む5つの障害についての記載がある:OTC欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症(237300)、アルギニノコハク酸合成酵素欠損症又はシトルリン血症(215700)、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症(207900)及びアルギナーゼ欠損症(207800)。
【0217】
臨床的特徴
Russell et al. (1962)は、慢性のアンモニア中毒症及び精神機能低下に罹患している2人のいとこについて記載した。肝生検により、肝臓のOTC活性が非常に低いことが示された。尿素合成においてオルニチンからシトルリンへの変換レベルで障害が存在すると推定された。
【0218】
Levin et al. (1969)は、罹患した女児について報告したが、その子の母親はタンパク質への嫌悪及び血漿中アンモニアレベルの上昇を有したが、父親は正常であった。別の男児において、Levin et al. (1969)は、彼らが考えるところの、OTC欠損症が原因の通常の高アンモニア血症の変化形(恐らくは、異なる酵素的変化による)を見出した。酵素活性は正常の25%であり(他の症例の場合のように正常の5〜7%ではなく)、他の酵素特性は正常とは異なることが示された。臨床像は、通常の症例の場合より軽症であった。Holmes et al. (1987)も、OTC欠損症の軽症の変化形について記載した。
【0219】
Campbell et al. (1971, 1973)は、オルニチントランスカルバミラーゼの完全な欠損による新生児の致死的な高アンモニア血症について報告した。Campbell et al.は、この酵素をコードする遺伝子が突然変異する結果、ヘテロ接合の女性においては部分的な欠損が、ヘミ接合の男性においては完全な欠損が生じることがあると示唆した。
【0220】
Thaler et al. (1974)は、ライ症候群を示唆する内臓の脂肪変性を伴う脳症に罹患している小児におけるOTC欠損の「新規のタンパク質耐性の変化形」について記載した。Krieger et al. (1979)は、OTC欠損症に罹患している男児について報告したが、この男児は、4カ月間は比較的症状がなかったが、脳萎縮症による重篤な痙攣を徐々に発症し、生後13カ月時点で死亡した。肝臓のOTC活性は正常の1.5%であった。著者らは、肝臓内の微小胞の脂肪蓄積を伴う急性増悪期間中のOTC欠損症の臨床像から、ライ症候群が示唆される可能性があると述べた。
【0221】
Bruton et al. (1970)は、高アンモニア血症の全ての形態の特徴である、星状膠細胞のアルツハイマーII型グリアへの形質転換について記載した。Kornfeld et al. (1985)は、OTC欠損症の2症例における神経病理学的な知見について報告した。生後3日の男児は、主に脳幹内の神経膠症を示し、2歳の女児は、大脳皮質の広範にわたる神経膠症及び瘢痕回、並びに、小脳の内顆粒層における萎縮症を示した。
【0222】
Drogari and Leonard (1988)は、臨床症状を比較的遅く発症した6名の罹患男児について記載した。そのうち1名は、小児期中「非常に難しい子供、内向的だが爆発的な癇癪を起こす」と見られていた男児であった。12歳のとき、混乱のエピソードが現れたため病院に入院したが、原因がわからなかった。14歳のとき、入院前夜に高タンパク質の食事を摂った後、深い意識不明となり、病院に入院した。尿中のオロチン酸排泄値が上昇しており、母親がキャリアーであることがわかった。その後、低タンパク質食、アルギニン栄養補助食品及び安息香酸ナトリウムでの治療を受けた。高アンモニア血症のエピソードはさらに出現したが、とりわけ、エネルギー抑制により急に生じた。18歳のとき、試験で立派な成績をおさめ、医学部に入学した。Finkelstein et al. (1989, 1990)は、著者らが定義した遅発性OTC欠損症を生後28日で発症した21名の男性患者について記載した。この患者らは出生時には正常と思われたが、後に、易興奮性、嘔吐及び嗜眠(これらは突発性である場合が多かった)を発症した。発症年齢は、2カ月〜44年の範囲であった。
【0223】
男性における部分欠損(恐らく対立形質)について、Matsuda et al. (1971)及びOizumi et al. (1984)が報告した。Oizumi et al. (1984)は、感染症により誘発された高アンモニア血症に伴う間欠性昏睡を有する6歳の男児の症例を報告した。肝生検により、OTC活性は正常の16%であることが示された。母親は、タンパク質負荷の後で、尿中のオロチン酸排泄値上昇を示した。食事によるアルギニン補給により、この男児における高アンモニア血症のエピソードは消滅した。Matsuda et al. (1991)は、32名の日本人のOTC欠損症患者の臨床上及び検査上の特徴について記載した。Matsuda et al.は、臨床症状及び発症年齢に基づき患者を3群に分けた:第1群(0〜28日)、第2群(29日〜5歳)及び第3群(5歳超)。死亡率及び精神遅滞の発生率が最も低かったのは、第2群の患者においてであった。第1群及び第3群の患者の死亡率及び酵素活性は類似していた。これらの患者のシトルリンレベルは非常に高く、高アンモニア血症の最初のエピソードが現れる前は無症候であった。著者らは、遅発性OTC欠損症の発生率は従来認識されていたより高いと強調した。
【0224】
Anadiotis et al. (2001)は、低タンパク質食、シトルリン及びフェニル酪酸ナトリウムを摂取中に膵炎を発症した15歳男性のOTC欠損症患者について報告した。
【0225】
Lee et al. (2002)は、アルギニノコハク酸合成酵素欠損に伴うシトルリン血症(Goldblum et al., 1986)において、及び、カルバモイルリン酸合成酵素欠損症(Kline et al., 1981)において、尿素回路の先天異常に伴う腸性先端皮膚炎様皮膚症のいくつかの報告があったと述べた。Lee et al. (2002)は、アルギニンは上皮ケラチンのアミノ酸組成において非常に大きな割合を占めることから、尿素回路障害を伴うアルギニン欠損症は、罹患児における上皮バリア機能障害及び皮膚病変の一因となることがあると推測した。
【0226】
Lien et al. (2007)は、咽頭のポリープ除去のための平凡な手術後に高アンモニア血症で突然死亡した52歳男性について報告した。手術の8日後、この男性は、混乱、運動失調及びパラノイアを発症し、それが進行して、3日以内に発作、脳浮腫、昏睡、死亡に至った。既往歴は目立ったものはなかった。この患者の無症候の20歳の娘について出生前評価が明らかになり、彼女の双子の男児は両方ともOTC遺伝子の突然変異のキャリアーであることがわかった。母親は突然変異についてはヘテロ接合であったが、彼女の父親の剖検試料についてのDNA分析は不首尾であった。新生男児は2人とも低タンパク質食を摂取して健康であった。Lien et al. (2007)は、高齢の男性におけるOTC欠損症の遅発性で珍しい発症であることを強調した。
【0227】
ヘテロ接合の女性
Rowe et al. (1986)は、13名の無症候女性のヘテロ接合体について概説した。彼女たちは、早ければ生後1週間、又は遅ければ6歳で発症した。診断前の症状は、非特異的であった:突発性の極度の易興奮性(100%)、突発性の嘔吐及び嗜眠(100%)、タンパク質回避(92%)、運動失調(77%)、段階IIの昏睡(46%)、成長遅滞(38%)、発育遅滞(38%)及び発作(23%)。母乳からの離乳時に発症することが多かった。発端者を含めると、13家族の女性の42%が症状を有した。
【0228】
Gilchrist and Coleman (1987)は、重篤な症状を遅く発症した2名のヘテロ接合の女性について報告した。脳障害及び限局性の神経学的欠損は、1名においては36歳で、もう1名においては38歳で始まった。後者は、タンパク質食の後で尿中のオロチン酸が上昇しており、肉を食べること(食べると大抵、急に頭痛が発生した)に対し生涯嫌悪を持っていた。
【0229】
Arn et al. (1989)は、OTC遺伝子座での突然変異に対するヘテロ接合性の表現型効果について論考した。Arn et al. (1990)は、突然変異体のOTC対立遺伝子のキャリアーである以外は正常な女性は、特に産褥期間中に、高アンモニア血症性昏睡のリスクが上昇していると報告した。Arn et al.は、進行性の嗜眠及び混迷のエピソード、急性皮質機能障害又は昏睡の証拠を特に妊娠中に発症する女性は全て、系統分析、以前のエピソード暦についての調査、並びに、血漿アンモニウム値及び即時に可能であれば血漿グルタミンレベルの測定によりOTC欠損症について調べるよう推奨した。高アンモニア血症を早期同定することで、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム及び塩酸アルギニンを用いた静脈内療法により血漿アンモニウムレベルを正す機会が得られる。
【0230】
Lee et al. (2002)は、腸性肢端皮膚炎に似た皮膚病変を有し、その後OTC欠損症であることがわかった女児について報告した。感染性の原因が排除され亜鉛不足が解消されると、アルギニン及びシトルリンの補給が開始された後で発疹が回復した。
【0231】
遺伝
Scott et al. (1972)は、OTC欠損のX連鎖劣性遺伝を維持した2家系について発表した。Short et al. (1973)は、4家族を研究したが、全てX連鎖遺伝と一致した。OTC欠損についてヘテロ接合の女性の肝臓において、Ricciuti et al. (1976)は、2種類の細胞(1つは酵素活性が欠損しており、もう1つは正常)を実証した。細胞モザイク現象の知見により、OTC遺伝子がX連鎖性であることが確認された。したがって、X連鎖性優性遺伝の証拠は以下に基づく:(1)ほとんどの場合、ほぼ完全に酵素が存在しない男性における障害の重篤な性質、(2)ヘテロ接合の女性における臨床的重篤性及び酵素レベルの広範なばらつき、(3)ヘテロ接合の女性の肝臓におけるリオン(Lyon)現象の実証及び(4)マウスにおけるX連鎖の実証(DeMars et al., 1976を参照)。
【0232】
マッピング
Burdakin and Norum (1981)は、OTC欠損症とX染色体上のG6PD(305900)との連鎖について、3つの機会における少なくとも1つの組換え体を観察した。遺伝子座は、X染色体の反対側の末端にあることが後に見出された。
【0233】
診断法
Rowe et al. (1986)は、家族歴、食事歴、突発性非特異的症状、タンパク質の枯渇(withdrawal of protein)への応答及び他の特徴により、早期診断が可能になると提唱した。テストした5名の患者においては、診断の時点ではIQは70を下回っていた。
【0234】
OTCは、肝臓中及び小腸の粘膜中で発現する。Hamano et al. (1988)は、十二指腸の粘膜の生検標本の免疫細胞化学試験を用いたOTC欠損症キャリアーの同定について記載した。OTC陰性細胞は、いくつかの絨毛の一方の側面の周囲に分布していたのに対し、OTC陽性細胞は他方の側面上に位置していた。腸の上皮細胞は、陰窩細胞の区画から生じ、その後、絨毛の側面に沿って上方へ移動する。個々の陰窩の上皮は、単一の両親型の細胞からなると考えられる。
【0235】
ヘテロ接合の女性の約15%は、生命を脅かす高アンモニア血症性昏睡を有する。症候性及び無症候性のキャリアーは両方とも、特にタンパク質負荷テスト下でオロチン酸排泄値の上昇を示す。Pelet et al. (1990)は、テストは絶対的なキャリアーにおいて陰性であることは稀で、恐らく、キャリアーの8%を超える頻度ではないことを見出した。
【0236】
Hauser et al. (1990)は、ヘテロ接合女性の同定のための、窒素負荷に代用できるテストについて記載した。窒素負荷テストにおいては、カルバモイルリン酸がミトコンドリア内に蓄積される。過剰なカルバモイルリン酸は、細胞質ゾル中に拡散し、そこで基質として機能してピリミジンの生合成を促進する結果、オロチン酸が蓄積及び排泄される。Hauser et al. (1990)が提案したテストでは、単回経口用量のアロプリノールを窒素負荷に代用する。この方法の有効性は、オキシプリノールリボヌクレオチド(アロプリノールの代謝産物)がオロチジン一リン酸デカルボキシラーゼ(この働きにより、オロチジン一リン酸及びその前駆体であるオロチン酸が蓄積され、最終的にはオロチン酸尿症及びオロチジン尿症に至る)に及ぼす阻害効果によるものである。
【0237】
Grompe et al. (1991)は、OTC欠損症についての診断アルゴリズムを提案した。OTC欠損症の出生前検出及びキャリアー検出の正確さは連鎖分析により大きく向上しているが、その理由は、遺伝子のクローニング、RFLPベースの診断は、症例の多くが新しい突然変異を示すこの障害においては限界があるからである。
【0238】
Yudkoff et al. (1996)は、OTC欠損症についてヘテロ接合体女性における代謝能をモニターする新しい手法を開発した。Yudkoff et al.は、このテストによりインビボでの窒素代謝が効果的にモニターされるので、OTC欠損症における酵素活性を測定するための肝生検を不要にできると結論した。無症候性のOTC欠損症キャリアーは、正常な速度で尿素を形成するが、このことから、酵素活性が正常未満であっても尿素生成能力がある場合があることが示唆される。表面上は無症候のOTC欠損症キャリアーは正常な速度で尿素を形成するが、5−(15)N−グルタミンの生成増加に反映されるように、その窒素代謝は、やはり異常である。この新しいテストは、OTC欠損症の新規の治療(例えば、肝移植及び遺伝子療法)の有効性のモニタリングにとって重要である可能性がある。この方法は、(15)NH(4)Clを経口負荷させた後、質量分析を用いて(15)NH(4)Clの(15)N−尿素及び5−(15)N−グルタミンへの変換を測定するものである。
【0239】
Bowling et al. (1999)は、OTC遺伝子の突然変異が原因でOTC欠損症に罹患した男性を2名続けて有する家族について報告した。母親は通常の生化学試験を受けた。末梢血の白血球及び皮膚線維芽細胞について母親の遺伝子型同定を実施したところ、突然変異は示されず、性腺モザイク現象が強く示唆された。著者らは、OTC欠損症に罹患した子供が以前生まれたが母親はキャリアーではないと思われるカップルをカウンセリングする際には性腺モザイク現象を考慮する必要があると述べた。
【0240】
要約すると、OMIMの説明から書き留めるべきキーポイントは、以下のとおりである:
OTCはX連鎖疾患であるが、キャリアー女性が罹患することがあり、重篤度のばらつきが非常に大きい。
男女とも、ほぼ全般的に致死性である非常に重篤な疾患を新生児期間において発症することがある。
男女とも、残存酵素活性及び低タンパク質食の自己選択によっては、小児から成人まで人生のあらゆる段階で、反社会的行動から死まで、さまざまな重篤度で発症する可能性もある。
新生児スクリーニングは、適切なテストが存在しないという理由から、考慮されてこなかった。
【0241】
本発明は、比較的簡単な食事管理及び「代替経路」薬理学を用いれば正常に成長及び発育すると思われ、代償不全エピソードがあればその期間中続く所定の応急措置(emergency regimen)を受けることになると思われる遅発患者群を同定するために有利に使用できる。このことは、英国では新生児スクリーニングが最近義務化されている遺伝性の脂肪酸化障害である中鎖アシルCoA欠損症(MCADD)のスクリーニングに似ている。OTC及びMCADDは、「ライ症候群」の主要な原因を代表する。
【0242】
本発明者らは、新生児期に全血/血漿又は乾燥血液スポットを使用してOTCをスクリーニングするための当技術分野における試みがあるとは認識していないので、これは本発明の別の新しい用途である。当然ながら、当業者であればこの特定のテストは特異的でないことに気付くであろう。すなわち、UMP合成酵素欠損症及び他の尿素回路障害(前述部分を参照)の症例は検出されるであろうが、当技術分野で周知の臨床的背景又は他のバイオマーカーを用いればこれらを容易に鑑別できる。したがって、適切には、本発明の方法は、検出される状態を検証するための、臨床的背景上での、又はバイオマーカーを根拠にした鑑別を含むさらなるステップを含んでもよい。
【0243】
この実施例では、OTCのデータを提示することにより、約5分を要するクロマトグラフィーの手順を用いて乾燥血液スポット中のオロチン酸を正確に定量化できることを実証する。手順にかかる時間の短縮化を所望する場合は、カラムサイズを小さくし、及び/又は流速を増して2分サイクル以内に適切なクロマトグラフィーを得ることにより、システムを最適化することが可能である。したがって、提示するデータを検討すれば、乾燥血液スポット中のオロチン酸は、OTC欠損症についての新生児血液スポットスクリーニングに適用があることは明らかである。
【0244】
本発明者は、ここに、以下の問いに基づき実験的支持を示す:
乾燥血液スポット上でオロチン酸の正常値を検出できるか?
予測される生理学的範囲内で、乾燥血液中のオロチン酸における変化を検出できるか?
【0245】
実験:
成人の志願者が、ヘパリンリチウム処理した血液試料5mlを提供し、これを−80℃で保存した。次いで、この試料を解凍、混合し、オロチン酸標準物質を以下のとおり加えた:
全血90μl+脱イオン水10μl
(最終濃度、基本)
全血100μl+100μmol/lオロチン酸1μl
(最終濃度、基本+1μmol/l)
全血100μl+500μmol/lオロチン酸1μl
(最終濃度、基本+5μmol/l)
全血100μl+2.5mmol/lオロチン酸1μl
(最終濃度、基本+25μmol/l)
全血100μl+10mmol/lオロチン酸1μl
(最終濃度、基本+100μmol/l)
【0246】
各試料50μlを標準的なSchleicher & Schuell社製の濾紙上にピペットで載せ、室温で乾燥させてからアッセイを実施した。対照DBS試料(古いND)及びメチルマロン酸血症患者に由来するDBS試料を含めた。
【0247】
3.2mmの血液スポット(試料2.5μlにほぼ等しい)を調製した。メタノール溶出溶媒を調製した(アミノ酸、アシルカルニチン、クレアチニン、メチルマロン酸、オロチン酸、ADMA及びSDMAの定量化のための全範囲の安定同位体を含有する)。溶出溶媒150μlを各DBSに加え、37℃で30分間混合してから遠心分離した。上澄みをポリプロピレン製の深型96ウェルプレートに移し、カバーマットをかけた。次に、クロマトグラフィー、及び、SCIEX API5000 (Applied Biosystems社製、Warrington, UK)を用いた多重反応モニタリング(MRM,multiple reaction monitoring)モードでの安定同位体希釈陰イオンエレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)に従い、オロチン酸、メチルマロン酸(追って掲載のクロマトグラムを参照)、メチルクエン酸(データは示していない)及び3−ヒドロキシグルタル酸(データは示していない)を測定した。
【0248】
HTS PALオートサンプラー(CTC Analytics AG社製、スイス)を使用して、上澄み5μLを移動相流量250μL/分のアセトニトリル:水(37.5:62.5v/v)中に自動注入した。2cm×4.0mmのガードカラム付きChirobiotic T 100×2.1mmカラム(Advanced Separation Technologies社製、Congleton, UK)を用いてクロマトグラフィーを実施し、オロチン酸(m/zは154.9/111.1、156.9/113.1)及びメチルマロン酸、メチルクエン酸及び3−ヒドロキシグルタル酸についての前駆体/生成物イオン対を陰イオンMRMモードで取得した。結果は、Analystバージョン1.4.3を用いて計算した。
【0249】
結果:
DBS ND対照、DBS対照+25μmol/lオロチン酸及びDBS MMAについてのクロマトグラム(図10、11及び12)を参照:
いずれの場合も、上のパネルはオロチン酸(青)及びオロチン酸の安定同位体内部標準(赤)、下のパネルはメチルマロン酸(青)及びメチルマロン酸の安定同位体標準(赤)。
【0250】
クロマトグラム、ND対照及びDBS MMAの調査から、オロチン酸については干渉バックグラウンドシグナル(およそ1〜3μmol/l)が存在し、これにより、DBSオロチン酸の全てのアッセイの感受性が制限されることが実証される。しかし、添加されたオロチン酸のレベルが25μmol/lのときは、シグナル:ノイズ比はおよそ8:1である。25μmol/lの値は、本発明者らが、OTC欠損症に罹患している新生児(以前診断された症例の血縁者)に由来する試料における血漿/全血オロチン酸を測定したところ濃度はおよそ25μmol/lであったことから、意味があるものである。OTC欠損症についての新生児スクリーニングを、このようにして実証する。
【0251】
メチルマロン酸について検討。クロマトグラム、DBS ND及びDBS対照+25μmol/lオロチン酸により、MMAについての明白なシグナルが明らかになる。実は、これはコハク酸であり、このシステムにおいてはMMAよりわずかに遅くクロマトグラフ化する。しかし、陽性症例においては、MMAの増加は特徴的である。これにより、迅速クロマトグラフィー及びMSMSを陰イオンモードで用いて、オロチン酸及びMMAの、診断に使える血液スポット濃度を同時に測定できることが実証される。さらなる診断用有機酸(例えば3−ヒドロキシグルタレート)を加えることでテストシステムの診断効率が高まる可能性があることは明白である。
【0252】
この実施例においては、クロマトグラフィーには5分かかることに注意されたい。しかし、50mmカラム及び流速400μl/分を用いると、この時間は2分未満に短縮できる。
【0253】
診断範囲(1〜100μmol/l)内での、全血へのオロチン酸標準の添加は、容易に、正確に及び精密に測定される。このことは、図13における検量線により実証される(DBSオロチン酸検量線(1〜100μmol/l))。R値は、分析範囲にわたる分析精度の粗測定値であり、0.9997である。これは、乾燥血液スポットを使用することによる優れた相関である。
【0254】
主要なオロチン酸データ:
【0255】
【表15】

【0256】
実施例9の要約:
現在のクロマトグラフィーシステムを用いて乾燥血液スポット上でオロチン酸の正常値を検出することは、干渉が生じるため問題である。
本発明者らは、予測される診断範囲内での乾燥血液スポット中のオロチン酸における変化を正確に検出及び測定できる。
他の診断用有機酸(例えばメチルマロン酸)を同時に測定できる、すなわち、このマーカーは、本発明による多重化が可能である。
【0257】
尿中オロチン酸の測定値の上昇は、OTC欠損症の診断にとって必須と認識される。本発明者らは、新生児スクリーニング及び多重化の用途に適した形式の陰イオンMSMSにより、必要な濃度範囲にわたりDBSオロチン酸を測定できることを実証した。
【実施例10】
【0258】
3−O−メチルジヒドロキシフェニルアラニン
芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC,aromatic amino acid decarboxylase)は、フェニルアラニン及びチロシンからの神経伝達物質(とりわけドパミン及びセロトニン)の合成に関与する代謝経路における酵素である。遺伝性AADC欠損症に罹患すると、CSF中のドパミン及びセロトニンが減少して、基質代謝産物であるL−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA,L-dihydroxy-phenylalanine)及び5−ヒドロキシトリプトファン(5−HT,5-hydroxytryptophan)が増加する結果となる。3OMDOPAは、L−DOPAの3−O−メチル化により生成され、増加もする。
【0259】
AADCの診断は、CSF中の神経伝達物質の減少に主に集中してきたが、場合によっては、尿中のホモバニリン酸の減少及び尿中のL−DOPA、5−HT及び3OMDOPAの増加が有用であることがわかっている。神経伝達物質又はL−DOPA、5−HT及び3OMDOPAの血漿濃度についてはほとんど発表されていない。臨床的には、AADCは重大な状態(下記を参照)であるが、比較的簡単な治療が効果的である場合がある。
【0260】
リン酸ピリドキサールは、AADC活性にとって必須の補助因子である。したがって、リン酸ピリドキサールの供給及び合成に問題があると、AADC欠損症と同様の症状を発症する場合がある。新しい2つの遺伝性障害が比較的最近認識された。1つ目は、リン酸ピリドキサールの合成の問題、具体的には、ピリドキシン(ピリドキサミン)5'−リン酸オキシダーゼ(PNPO,pyridox(am)ine 5'-phosphate oxidase)酵素をコードする遺伝子の突然変異である。重篤な発作及び早期死亡を伴うこの状態は、リン酸ピリドキサールを投与することにより、非常に簡単且つ有効に治療される。したがって、リン酸ピリドキサールは新生児スクリーニングの主要候補である。2つ目の遺伝性状態は、α−アミノアジピン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AASD,α-aminoadipic semialdehyde dehydrogenase)欠損症である。この状態においては、酵素が欠損しているためにα−アミノアジピン酸セミアルデヒドが蓄積し、リン酸ピリドキサールと不可逆的に反応してクネーフェナーゲル縮合生成物を形成するピペリデイン(piperideine)−6−カルボキシレートを形成する。これにより、リン酸ピリドキサールの欠損及びこれに次ぐ重篤な発作が引き起こされる。重篤な発作を伴うこの状態は、ピリドキシンを投与することにより、非常に簡単且つ有効に治療される。したがって、ピリドキシンは新生児スクリーニングの主要候補である。栄養上のピリドキシン不足についても、同様の臨床像が認識される。
【0261】
前述の3つの状態は全て、血漿/全血中で3OMDOPAが蓄積する結果となると予想されよう。3OMDOPAを使用する新生児スクリーニングの可能性は、本明細書中で初めて開示される。
【0262】
本発明者らは、遺伝性のAADC、PNPO及びAASDの欠損症及び全身性ピリドキシン欠損症について新生児及び急性患者をスクリーニングするための、エレクトロスプレーMSMSを用いた、乾燥血液スポット中の3−O−メチルジヒドロキシフェニルアラニン定量化の使用を開示する。
【0263】
以下の情報は、この状態についてのOMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)のデータセットからの抜粋である:
AADC欠損は、神経伝達物質代謝における先天異常であり、セロトニン及びカテコールアミンの欠損症が組み合わさった状態を引き起こす(Abeling et al., 2000)。
【0264】
臨床的特徴
Hyland and Clayton (1990)及びHyland et al. (1992)は、いとこ同士の両親のもとに生まれた男性の一卵性双生児について報告したが、この双子は、生後2カ月で、重篤な低血圧症、及び、泣いた後の手足の伸展、注視痙攣及びチアノーゼからなる発作性運動を発症した。時折生じる末端の舞踏アテトーゼ様運動も示した。後に、体温調節障害及び起立性低血圧が観察された。検査分析においては、CSF中のホモバニリン酸(HVA,homovanillic acid)及び5−ヒドロキシインドール酢酸(5−HIAA,5-hydroxyindoleacetic acid)の濃度の大規模な低下、並びに、全血中セロトニン及び血漿中カテコールアミンの減少が示された。尿中のL−DOPA、5−ヒドロキシトリプトファン(5−HTP,5-hydroxytryptophan)及び3−メトキシチロシンの排泄値が顕著に上昇しており、その全てが生化学経路におけるAADC段階に先行する。この知見から、セロトニン及びドパミンの合成は、中枢神経系及び末梢神経系の両方において影響を受けたことが実証され、AADC欠損症と一致した。AADC酵素活性は血漿中及び肝組織中において激しく低下した(対照の1%)。モノアミン酸化酵素阻害薬、ドパミンアゴニスト及びピリドキシンでの治療の結果、緊張及び運動が著しく改善した。両親は無症候であったが、AADC欠損についてヘテロ接合であることと一致する生化学的プロファイルを有していた。
【0265】
Maller et al. (1997)は、血縁同士の両親のもとに生まれたイラン人患者について報告したが、この患者は、幼少時に、低血圧症、目を「後方に回転」させながら慰めようもないほど泣く発作性エピソード、末端の伸展及び体温不安定を発症した。5歳のとき、重篤な発育遅滞、深刻な低血圧症、並びに、活発な腱反射及び伸展性の足底反応を伴う末端における筋緊張増加を患った。自発性運動は舞踏病アテトーシス様であり、発汗が多くなっていた。CSF、血液及び尿の分析結果、並びに、AADC酵素活性の低さは、AADC欠損症と一致した。Korenke et al. (1997)は、血縁関係のない両親のもとに生まれたドイツ人のAADC患者について報告した。臨床表現型及び検査所見は、以前報告された症例と類似していた。Korenke et al. (1997)及びMaller et al. (1997)は、AADC欠損症とジヒドロプテリジン還元酵素欠損症(261630)との間の臨床上の類似性について述べた。
【0266】
Abeling et al. (1998)は、AADC欠損症に罹患しているオランダ人の少女について報告したが、彼女は、比較的軽症の臨床表現型を有したものの、精神運動遅滞、及び、注視痙攣を伴う特徴ある過緊張性エピソードを呈し続けていた。CSFは5−HIAA及びHVAの減少を示し、尿は、5−HIAA、バニリルマンデル酸(VMA,vanillylmandelic acid)及びノルエピネフリンの減少、L−DOPAの上昇だけでなく、ドパミン及びHVAの上昇を示したが、酵素欠損に基づけば、これは減少しているはずであった。血漿中のAADC活性は検出できなかった。Abeling et al. (1998)は、AADC欠損は脳の区画に限局されることを示唆した。Abeling et al. (1998)により報告された患者を含めた数名のAADC患者の試験において、Abeling et al. (2000)は、全ての患者が高ドパミン尿症を有することを見出したが、高ドパミン尿症は、L−DOPA投与後に上昇した。HVAも上昇した。著者らは、ドパミンは、腎臓において、近位尿細管中に存在する腎臓形態のAADCにより生成され、腎臓のナトリウム処理に関与していると述べた。AADC欠損症患者においては、こうした腎細胞で基質L−DOPAの蓄積量が増加すると、L−DOPAが速やかにドパミン及びHVAに変換される。
【0267】
Swoboda et al. (2003)は、11名のAADC欠損症患者(以前報告された患者4名を含む)の臨床表現型について概説した。新生児の症状としては、食欲不振、嗜眠、下垂症、低体温及び低血圧症が挙げられた。全ての患者は、間欠性の眼球運動異常、体幹低緊張、四肢緊張亢進及び随意運動障害を示した。大多数は、情緒不安定及び易興奮性も示した。他の特徴としては、筋クローヌス、ジストニア、発作性発汗及び胃腸障害(逆流症、便秘及び下痢など)が挙げられた。機能上の臨床転帰は少なかった。
【0268】
生化学的特徴
Verbeek et al. (2007)は、血漿中のAADC酵素活性を調べるための、その基質である5−ヒドロキシトリプトファン(5−HTP)及び3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)を両方とも使用したアッセイについて記載した。Verbeek et al.は、対照血漿におけるAADC酵素活性は、平均すると、基質としてL−DOPAを使用した場合のほうが5−HTPを用いた場合より8〜12高い因子であることを見出した。AADCの両方の基質が、酵素の同じ活性部位をめぐって競合する結果、AADC欠損症患者における残存酵素活性が同等に低下する。AADC欠損症患者においては、HVA、5−HIAA及びMHPGのCSF濃度がそうであるように、両方の基質に対する酵素活性は同等に低下するが、ヘテロ接合体は中間のAADC活性レベルを有する。これらの酵素及びアッセイは、血液上で実施できる。
【0269】
臨床管理
Pons et al. (2004)は、AADC欠損症の臨床管理は、モノアミン作動性伝達を増強するために、ビタミンB6、ドパミンアゴニスト及びMAO阻害薬を含むことが普通であると述べた。AADC患者群における治療応答の評価において、著者らは、2つの主群を検出した:1つは治療に応答し発育上の前進を遂げた男性5名を有する群、2つ目は、治療への応答が乏しく薬物誘発性の運動障害をしばしば発症した女性5名及び男性1名の群。この知見から、女性のほうがドパミン系に左右されるという、モノアミン作動系における性差が示唆された。
【0270】
要約すると、OMIMの説明から書き留めるべきキーポイントは、以下のとおりである:
3OMDOPA(3−メトキシチロシンは3OMDOPAの別名にすぎないことに注意)についての唯一の言及は、尿に関するものである。
診断は、未だにその初期段階にあり、CSF中の神経伝達物質の減少の測定に主に頼っている。
3障害のいずれについての新生児スクリーニングの可能性も、全てが新生児スクリーニングについての国際基準に適合するにもかかわらず、先行技術においては考慮することすら行われてこなかった。
【0271】
本発明者らは、本発明の多重化スクリーンを、とりわけ新生児スクリーニングに適用させたものとして用いることで、原因にかかわらずAADC活性が低下している症例を同定することを目的とする。したがって、テストは1つの状態に特異的なものではなく、可能性のある障害は、臨床的背景(ピリドキシン又はリン酸ピリドキサールを用いた処置への応答)又は他のバイオマーカー(AADC活性など)を用いて容易に鑑別できる。したがって、適切には、本発明の方法は、記載されたような、又は当技術分野で公知のような二次的テストにより診断を確定するさらなるステップを含んでもよい。
【0272】
この実施例では、約6分を要するクロマトグラフィーの手順を用いて乾燥血液スポット中の3OMDOPAを正確に定量化できることを実証するデータを提示する。カラムサイズを小さくし、及び/又は流速を増して2分サイクル以内に適切なクロマトグラフィーを得ることができる。したがって、提示するデータを検討すれば、乾燥血液スポット中の3OMD酸が、遺伝性のAADC、PNPO及びAASDの欠損症、並びに全身性ピリドキシン欠損症についての新生児血液スポットスクリーニングなどの用途において使用できることは明確に実証される。
【0273】
以下の実験の項では、本発明者らは、以下の問いに取り組む:
乾燥血液スポット上で3OMDOPAの正常値を検出できるか?
予測される生理学的範囲内で、乾燥血液中の3OMDOPAにおける変化を検出できるか?
【0274】
実験:
成人の志願者が、ヘパリンリチウム処理した血液試料5mlを提供し、これを−80℃で保存した。次いで、この試料を解凍、混合し、3OMDOPA標準物質を以下のとおり加えた:
全血90μl+脱イオン水10μl
(最終濃度、基本)
全血100μl+100μmol/l 3OMDOPA1μl
(最終濃度、基本+1μmol/l)
全血100μl+500μmol/l 3OMDOPA1μl
(最終濃度、基本+5μmol/l)
全血100μl+2.5mmol/l 3OMDOPA1μl
(最終濃度、基本+25μmol/l)
全血100μl+10mmol/l 3OMDOPA1μl
(最終濃度、基本+100μmol/l)
【0275】
各試料50μlを標準的なSchleicher & Schuell社製の濾紙上にピペットで載せ、室温で乾燥させてからアッセイを実施した。対照DBS試料(古いND)、AADC欠損症患者に由来するDBS試料、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症患者に由来するDBS試料、及び超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症患者に由来するDBS試料を含めた。ADMA及びSDMAも測定したことに注目(実施例9を参照)。
【0276】
3.2mmの血液スポット(試料2.5μlにほぼ等しい)を調製した。メタノール溶出溶媒を調製した(アミノ酸、アシルカルニチン、クレアチニン、メチルマロン酸、オロチン酸、ADMA及びSDMAの定量化のための全範囲の安定同位体を含有する)。溶出溶媒150μlを各DBSに加え、37℃で30分間混合してから遠心分離した。上澄みをポリプロピレン製の深型96ウェルプレートに移し、カバーマットをかけた。次に、クロマトグラフィー、及び、SCIEX API5000 (Applied Biosystems社製、Warrington, UK)を用いた多重反応モニタリング(MRM)モードでの陽イオンエレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)に従い、3OMDOPA(この特定の実験の時点では内部標準は入手できなかったが、現在は入手できることに注意)、グルタリルカルニチン(図14〜16のクロマトグラムを参照)、テトラデセノイルカルニチン(図14〜16のクロマトグラムを参照)、ADMA及びSDMAを測定した。
【0277】
HTS PALオートサンプラー(CTC Analytics AG社製、スイス)を使用して、上澄み5μLを、移動相流速250μL/分のアセトニトリル:水(50:50v/v)に0.025%ギ酸を加えたものの中に自動注入した。2cm×4.0mmのガードカラム付きChirobiotic T 100×2.1mmカラム(Advanced Separation Technologies社製、Congleton, UK)を用いてクロマトグラフィーを実施し、オロチン酸(m/zは、定量化については212.2/166.2、確認については212.2/149.2)、グルタリルカルニチン、テトラデセノイルカルニチン、ADMA及びSDMAについての前駆体/生成物イオン対を陽イオンMRMモードで取得した。結果は、Analystバージョン1.4.3を用いて計算した。
【0278】
結果:
DBS AADC患者、DBSグルタリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症患者及びDBS VLCAD欠損症患者についての、追って記載のクロマトグラムを参照。
いずれの場合も、上のパネルは3OMDOPA(およそ2.7分)定量化イオン(青)及び3OMDOPA確認イオン(赤)、中央のパネルはグルタリルカルニチン(およそ3.0分)(青)及びグルタリルカルニチンの安定同位体内部標準(赤)、下のパネルは、テトラデセノイルカルニチン(およそ2.5分)(青)、及び、内部標準としての安定同位体テトラデカノイルカルニチン(赤)である。
【0279】
クロマトグラム、DBSグルタリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症患者及びDBS VLCAD欠損症患者の調査から、正常な場合、3OMDOPAを検出可能なシグナルは存在しないことが実証される。しかし、AADC欠損症患者においては、3OMDOPAの定量化イオン及び確認イオンのための顕著且つ等価なシグナルがおよそ10μmol/lの濃度で存在する(追って記載の表中の計算値を参照)。したがって、AADC欠損についての新生児スクリーニングなどのスクリーニングは、本発明によれば可能である。本発明は、結果としてAADC活性が低下する任意の障害のスクリーニングにも適用できる。
【0280】
グルタイル(glutayl)カルニチンを検討する場合、DBSグルタリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症患者についてのクロマトグラムを他の2つのクロマトグラムと比較することにより、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症の診断用シグナルが実証される。DBS VLCAD欠損症患者についてのクロマトグラムを他の2つのクロマトグラムと比較することにより、VLCAD欠損症の診断用シグナルが実証される。これにより、迅速クロマトグラフィー及びMSMSを陽イオンモードで用いて、3OMDOPA、グルタリルカルニチン、及び、テトラデセノイルカルニチンの、診断に使える血液スポット濃度を同時に(すなわち多重化状態で)測定できることが実証される。さらなる診断用化合物(例えばADMA)を加ることでテストシステムの診断効率が高まる機会があることは明白である。
【0281】
この実施例においては、クロマトグラフィーには6分かかることに注意されたい。しかし、50mmカラム及び流速400μl/分を用いると、この時間はおよそ2分に短縮できる。
【0282】
診断範囲(1〜100μmol/l)内での、全血への3OMDOPA標準の添加は、安定同位体内部標準がなくても容易に、正確に及び精密に測定される。このことは、図17及び18における検量線により実証される。R値は、分析範囲にわたる分析精度の粗測定値であり、定量化イオンを用いた場合は0.9991、確認イオンを用いた場合は0.9987である。これらは、乾燥血液スポットを使用することによる優れた相関である。
【0283】
【表16】

【0284】
実施例10の要約:
現在のシステムを用いて乾燥血液スポット上で3OMDOPA酸の正常値を検出することは、濃度が低すぎるため問題である。異なる計測手段であれば、この問題に対処できる。
本発明者らは、予測される診断範囲内で乾燥血液スポット中の3OMDOPAにおける変化を正確に検出及び測定できる(実際の患者の試料は確実である)。
他の診断用化合物(例えば、グルタリルカルニチン、テトラデセノイルカルニチン及びADMA)を同時に(すなわち、本発明による多重化の形で)測定できる。
【0285】
DBS 3OMDOPA測定値の上昇は、AADC活性欠損症の新生児スクリーニングについて始めて開示される。本発明者らは、新規に診断されたAADC欠損症患者においてDSS 3OMDOPAが上昇していることを実証した。本発明者らは、新生児スクリーニングなどの多重スクリーニングに適した形式の陽イオンMSMSにより、必要な濃度範囲にわたりDBS 3OMDOPAを測定できることを実証した。
【0286】
ここまでの明細書中で言及した全ての刊行物は、参照により本明細書中に組み込まれる。記載した本発明の態様及び実施形態の多様な改変形及び変形は、本発明の範囲から逸脱することなく当業者には明らかとなろう。特定の好ましい実施形態と結び付けて本発明について記載してきたが、本発明は、特許請求するように、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきでないことは、理解されるべきである。実際、本発明を実施するための、当業者には明らかな記載された様式の多様な改変形は、以下の特許請求の範囲内にあることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疾患の診断を補助する方法であって、
前記対象に由来する、血液を含む試料を供給するステップと、
前記試料の少なくとも2つの特徴をアッセイするステップであり、前記特徴が、
(i)前記試料に含まれるポリペプチドの構造組成、
(ii)前記試料に含まれる代謝産物、及び
(iii)前記試料に含まれる触媒活性
から選択され、
前記少なくとも2つの特徴のそれぞれが同一試料の多重解析により決定されるステップと
を含む方法。
【請求項2】
試料が乾燥血液スポットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が、天然に存在するその成分によってのみ緩衝化される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
試料に含まれるポリペプチドの構造組成をアッセイするステップが、
(a)前記試料にペプチダーゼを加えるステップ、
(b)ペプチダーゼ処理後に前記試料中の前記ポリペプチドを分析するステップ、及び
(c)前記ポリペプチドの構造組成に関して(b)の情報から推測するステップ
を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ペプチダーゼがトリプシンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
試料に含まれるポリペプチドが、ヘモグロビン又はミオグロビンのうち1又は複数である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
試料に含まれる代謝産物をアッセイするステップが、フェニルアラニン、オクタノイルカルニチン又はアシルカルニチンの有無についてアッセイするステップを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
試料に含まれる触媒活性をアッセイするステップが、
(a)前記触媒活性の作用を受けやすい基質を前記試料に加えるステップ、及び
(b)前記基質の有無及び/又は前記基質に作用する前記触媒活性の作用による生成物の有無について前記試料を分析するステップ
を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
触媒活性の作用に感受性がある1つを超える基質を加えて分析する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
1又は複数の基質が水溶性である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
各基質が水中にのみ加えられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
特徴がMS分析により決定される、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
MSがエレクトロスプレー質量分析−質量分析(MSMS)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2つの特徴が、
(i)試料に含まれるポリペプチドの構造組成と、
(ii)及び(iii)から選択される少なくとも1つのさらなる特徴と
を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
3つの特徴(i)、(ii)及び(iii)のそれぞれをアッセイする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
試料がインビトロ試料である、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
実質的にビオチンを含有しないビオシチンを含む組成物。
【請求項18】
ビオシチンを含む組成物であって、前記ビオシチンが、同位体標識されたリシン残基を含む組成物。
【請求項19】
同位体標識が、炭素13、重水素、窒素15又は酸素18である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
実質的にビオチンを含有しないビオチニル−PABAを含む組成物。
【請求項21】
実質的にPABAを含有しないビオチニル−PABAを含む組成物。
【請求項22】
(i)5−アミノレブリン酸、
(ii)ビオシチン、及び
(iii)ビオチニルパラアミノ安息香酸
のうち2つ以上を含む組成物。
【請求項23】
Oをさらに含む、請求項22に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−506922(P2011−506922A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536528(P2010−536528)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004022
【国際公開番号】WO2009/071904
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(500532757)キングス カレッジ ロンドン (14)
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
【出願人】(510157328)
【氏名又は名称原語表記】GUY’S AND ST THOMAS’NHS FOUNDATION TRUST
【Fターム(参考)】