説明

方法

未分化植物細胞から葉状バイオマスを生成するための方法であって、未分化植物細胞を提供する段階、未分化植物細胞を細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質と接触させる段階、および一時的液体浸漬培養系中で細胞を増殖させる段階を含む方法。本発明のこの方法を使用して、ポリペプチド、および天然薬用成分を生成することができ、この方法を使用して二酸化炭素を捕捉することができる。in vitroで植物細胞中でポリペプチドを生成する方法であって、ポリペプチドをコードするトランスジェニック核酸分子を保持する葉緑体を含有する未分化植物細胞を提供する段階であって、植物細胞がホモプラストミーを示す段階、および前述の方法に従い細胞を繁殖させてポリペプチドを含有する葉状バイオマスを生成する段階を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養において葉状バイオマスを生成するための方法に関する。
【0002】
本明細書中の明らかに以前に公開された文書の一覧または考察は、その文書が現在の技術水準の一部である、または共通の一般知識であることを認めるものとして必ずしも解釈すべきではない。
【背景技術】
【0003】
培養におけるバイオマスの生成は、遺伝子操作されたポリペプチドの生成、薬用成分、多糖、リグニンおよび脂質を含む内因性植物性産物の生成、新しい型の多糖、リグニン、糖、芳香族および脂肪族化合物を含めた代謝産物操作による植物中で本来見られない新規な単純および複合化学物質の生成、および二酸化炭素の捕捉に有用である。いくつかの状況ではバイオマスを燃料に使用することもできる。
【0004】
WO00/57690は、分化した植物片からのフィトケミカル生成植物の微細繁殖および生成に関する。特にWO00/57690は、成体植物から得た分化した細胞の小片を刺激して、典型的な植物成長培地(例えば土壌、堆肥)において正常な植物成長が可能な完全に形成されたフィトケミカル生成植物に成長することができる新たな苗木を生成することに関する。
【0005】
WO01/94602は、固形成長培地を使用して植物を増やすおよび/または形質転換するための、植物再生法およびその使用に関する。WO01/94602中に記載された方法から生じる植物は、典型的な植物成長培地(例えば、土壌および堆肥)において正常な成長下で成長することができる、生育可能な植物である。
【0006】
WO2008/028115は、遺伝子導入用の1つの容器システムの使用によって短時間で多数のトランスジェニックトウモロコシ植物を生成し、生育可能な植物に成長させるためのハイスループット法に関する。生成するトウモロコシ植物は、典型的な植物成長培地(例えば土壌、堆肥)において正常な植物成長が可能であり、根、茎および葉構造を有する生育可能な植物である。
【0007】
例えばEtienne & Berthouly(2002) Plant Cell、Tissue and Organ Culture 69、215〜231頁、Hanhineva & Karenlampi(2007) BMC Biotechnology 7、11〜23頁の、さらにDucosら(2007) In Vitro Cellular & Developmental Biology-Plant 43:652〜659頁の、一時的液体浸漬培養系(例えば、一時的液体浸漬バイオリアクターまたはTIB)の使用は知られている。例えば、Hanhineva & Karenlampi(2007)は、トランスジェニックイチゴ植物を生成するためのTIBの使用を記載し、この場合生成する植物は、それらが例えば、土壌または堆肥中で正常な植物成長が可能であるように、外因性遺伝子を含み、根と苗条形成の両方を含む。
【0008】
生物学的製剤および他の高価値タンパク質の発現用の植物を研究者が選択している主な理由の1つは、植物の成長に伴う驚異的なスケールアップの可能性および非常に低いメンテナンスコストである。しかしながら、トランスジェニック植物の使用は、周辺の非トランスジェニック穀物への導入遺伝子の移動および食物連鎖による汚染の可能性に関する一般的懸念と共に、その欠点を有する(Fox、2003)。
【0009】
長期にわたり、大部分の種におけるプラスチドゲノムは花粉には存在せず、母性遺伝すると想定されていた(Hagemann、2004;Zhangら、2003;ScottおよびWilkinson、1999)。したがって、トランスプラストミック植物を作製するための、葉緑体ゲノム、またはプラストームへの遺伝子の挿入は、導入遺伝子の花粉を仲介する流れに対して本質的な天然の障害となると考えられた。しかしながら、いくつかの近年の刊行物は、葉緑体DNA含有物の流出は当初考えられていたより頻繁かつ広範囲であることを示している。例えば、花粉への葉緑体DNAの移動は、イネ科アワ(Setaria italica)(エノコログサ)では0.03%(Wangら、2004)、タバコでは0.01〜0.00029%(Rufら、2007;SvabおよびMaliga、2007)およびアブラナ科シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では0.0039%に達すると推定された(AzhagiriおよびMaliga、2007)。
【0010】
別の懸念は、古典的な核形質転換体と同じ方法で、葉緑体DNAが経時的に核ゲノムに移され(Sheppardら、2008)、そこからそれが近隣の非トランスジェニック種に伝わり得る可能性である。16,000花粉粒毎に1つの葉緑体DNAが核DNAに移動する頻度がタバコにおいて検出された(Huangら、2003)。タバコ種に応じて、エーカー当たり5,000〜16,000のタバコ植物が成長することができる事実を考慮して、葉緑体DNAが核に移動するリスクは無視してよいものではない。
【0011】
葉緑体形質転換体を選択するために使用されるaadA遺伝子などの抗生物質耐性カセットが、土壌細菌(Monierら、2007)、および飼料昆虫の消化管内に見られる細菌(BrinkmannおよびTebbe、2007)に移る可能性があるという懸念も生じている。
【0012】
田畑にトランスプラストミック種をまくことから生じ得るあらゆる環境問題を回避するために、1つの解決策は、封じ込め条件下で増殖させた植物細胞懸濁培養液中で組換えタンパク質を生成することである。実際、多数の異種タンパク質を発現させるために植物細胞懸濁液が変更されている(Hellwigら、2004において総説されている)。植物細胞懸濁液は、収穫までの時間の短さ、完全に制御された成長および気象条件または疾患と無関係であることなど、組換えタンパク質の生成に関して完全植物に優るいくつかの利点を示す。細菌生産系に基づく現行の適正製造規範、cGMPを容易に適用して、食品医薬品局(Federal Drug Administration)(FDA)による、または欧州医薬品審査庁(European Agency for the Evaluation of Medicinal Products)(EMEA)による迅速な当局の承認をもたらすこともできる(Maら、2003;Fischerら、2004;Twymanら、2003において総説されている)。
【0013】
細菌と同様に、植物細胞懸濁培養液は成長および維持に関して安価である。さらにそれらは本質的に安全である。それらはヒト病原体を保有しておらず、内毒素を生成することもないからである。植物細胞懸濁液は単純な合成培地中に維持することができるが、動物細胞と同様に複雑なマルチマータンパク質を合成することができる。田畑で成長する植物とは対照的に、培養植物細胞の性能は気候、土壌の質、季節および日長とは無関係である。マイコトキシン、除草剤または殺虫剤による汚染のリスクがなく(Doran、2000)、副産物(例えば、繊維、油、ワックス、フェノール化合物)はわずかである。おそらく、完全植物に優る植物細胞懸濁培養液の最も重要な利点は、産物の単離および精製に関するはるかに簡素化された手順である(Fischerら、1999)。
【0014】
しかしながら、植物細胞懸濁培養液の主な欠点は遅い成長、および核形質転換によって生成される組換えタンパク質の通常低い収率である(Hellwigら、2004)。別の弱点は、通常全可溶性タンパク質(TSP)の0.0064%〜4%の範囲である組換えタンパク質レベルと共に、植物細胞培養液の生産性は大幅に変わる可能性があるという事実であるが、例外的な場合、最大20%のTSPを得ることができる(Huangら、2001)。
【0015】
一般に、葉緑体形質転換は古典的な核形質転換より多く組換えタンパク質を生成する。例えば、大腸菌(E.coli)熱不安定性エンテロトキシン(LTB)のB-サブユニットは、タバコにおいて核とプラスチド両方の形質転換によって発現された。エンテロトキシン遺伝子をプラスチドゲノムに挿入したとき、結果としての収率は250倍高かった(Kangら、2003)。同様に、コレラ毒素B抗原(CTB)が核およびプラスチドDNAから発現されたとき、タバコ葉緑体における抗原産生は核より410倍高かった(Daniellら、2001)。葉緑体形質転換がいくつかのタンパク質の過剰発現に関して優れていると思われていても、トランスプラストミック高等植物細胞懸濁液における組換えGFPの可能な生成に関してわずか1つの報告しか公開されていない(Langbeckerら、2004)。この試験は、茶褐色のタバコ植物細胞培養液のプラスチド形質転換を記載したが、発現能力の評価は実施されなかった。
【0016】
実施例中に記載する実験では、様々な条件下で増殖した葉状組織、カルスおよび細胞懸濁液における、プラスチドコード組換えタンパク質、この場合緑色蛍光タンパク質GFP+の変異体(Scholzら、2000)の発現レベルを調べている。結果は、細胞懸濁培養液における発現は高レベルの考えられる経路であり、葉緑体における外来タンパク質の発現を含むことを示すが、発現のレベルは植物の葉中よりはるかに低い。細胞懸濁培養液から始めて非常に高レベルの組換えタンパク質を生成することができ、かつ未分化植物細胞から高レベルの葉状バイオマスを生成することができる、一時的液体浸漬バイオリアクターに基づく新たな発現系の開発も記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO00/57690
【特許文献2】WO01/94602
【特許文献3】WO2008/028115
【特許文献4】Sanfordら、米国特許第4,945,050号
【特許文献5】Fraleyら、米国特許第5,352,605号
【特許文献6】WO97/20057
【特許文献7】WO93/07278
【特許文献8】WO95/19443
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Etienne & Berthouly(2002) Plant Cell、Tissue and Organ Culture 69、215〜231頁
【非特許文献2】Hanhineva & Karenlampi(2007) BMC Biotechnology 7、11〜23頁
【非特許文献3】Ducosら(2007) In Vitro Cellular & Developmental Biology-Plant 43:652〜659頁
【非特許文献4】Baker(2008)Ann.Rev.Plant Biol.59:89〜113頁
【非特許文献5】Crosswayら、BioTechniques 4:320〜334頁(1986)
【非特許文献6】Riggsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA83:5602〜5606頁(1986)
【非特許文献7】Hincheeら、Biotechnology 6:915〜921頁(1988)
【非特許文献8】Paszkowskiら、EMBO J. 3:2717〜2722頁(1984)
【非特許文献9】Southern(1975)J.Mol.Biol.98、503頁
【非特許文献10】Berentら(1985) Biotech.3、208頁
【非特許文献11】McElroyら、Mol.Gen.Genet 231、150〜160頁(1991)
【非特許文献12】Binetら、Plant Science 79、87〜94(1991)
【非特許文献13】Snustadら、Plant Cell 4、549、1992
【非特許文献14】Evansら、FEBS Letters 262、29、1990
【非特許文献15】Rosenbergら、Gene、56、125(1987)
【非特許文献16】Guerineauら、Mol.Gen.Genet.、262、141〜144頁(1991)
【非特許文献17】Proudfoot、Cell、64、671〜674頁(1991)
【非特許文献18】Callisら、Genes Develop.1、1183〜1200頁(1987)
【非特許文献19】Lassnerら、Plant Molecular Biology 17、229〜234頁(1991)
【非特許文献20】Joshi, C.P.、Nucleic Acids Research 15、6643〜6653頁(1987)
【非特許文献21】LuehrsenおよびWalbot、Mol.Gen.Genet. 225、81〜93頁(1991)
【非特許文献22】C.P.LichtensteinおよびS.L.Fuller、「Vectors for the genetic engineering of plants」、Genetic Engineering、P.W.J.Rigby編、vol.6、104〜171頁(Academic Press Ltd.1987)
【非特許文献23】SambrookおよびRussell(2001)、Molecular Cloning、A laboratory manual;GriersonおよびCovey(1988)Plant molecular biologyおよびWatsonら、(1997)Recombinant DNA
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第一の態様は、未分化植物細胞から葉状バイオマスを生成するための方法であって、未分化植物細胞を提供する段階、未分化植物細胞を、細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質と接触させる段階、および一時的液体浸漬培養系中で細胞を増殖させる段階を含む方法を提供する。
【0020】
「未分化植物細胞」によって、本発明者らは、細胞が苗条または葉などの任意の特定の植物組織に分化する兆候を実質的に示さず、未分化細胞の分化を誘導する作用物質が存在しない、特に苗条への未分化細胞の分化を誘導する作用物質が存在し得ない条件下で、細胞が少なくとも1ヶ月間その状態に留まるという意味を含む。未分化細胞はトランスジェニックまたは非トランスジェニックであってよい。
【0021】
典型的には、未分化細胞は永久カルスまたはカルス材料に由来してよい。永久カルスは、未分化植物細胞の細胞培養物である。このような永久カルス細胞は、少なくとも1ヶ月間未分化型状態に留まる。
【0022】
未分化細胞はin-vitroで葉、茎、花、種または苗条などの分化した植物材料から得られてもよく、これらを切断しオーキシンなどの特定植物ホルモンと接触させた状態で放置する。
【0023】
この植物材料がホルモンと接触した状態であるとき、植物材料のいくつかの領域中にカルスが形成される。分化した植物材料においてホルモンによって誘導されるカルスは、永久カルスであるとは考えられない。
【0024】
植物がトランスジェニック植物ではない未分化細胞を提供するステップは、
植物ホルモンと接触させた状態で植物(植物材料)の切断片を放置する段階を含み、次いで植物ホルモンはこれらの切断片の端にカルスを生成し、
次いでこれらのカルスをカルスとして二次培養し、いかなる選択もせずに維持する。
【0025】
切断した植物材料は、根、葉、茎、花または種の全部または一部であってよい。
【0026】
植物がトランスプラストミック植物である未分化細胞を提供するステップは、
葉緑体DNAを標的とする相同組換えの方法によって植物細胞の葉緑体へトランスジェニック核酸分子を導入する段階、
トランスジェニック核酸分子を含有する植物細胞を誘導して未分化細胞のカルスを形成させ段階、および
ホモプラストミーを得るのに有効な条件下でカルスを繁殖させる段階を含む。
【0027】
本発明の実験のカルスは、未分化細胞として培養し少なくとも1ヶ月間維持された永久カルスである。
【0028】
作用物質との接触時に存在する細胞のみが、未分化細胞であることが好ましい。典型的には、作用物質との接触時に存在する少なくとも90%、または95%、または99%、または99.9%または99.99%の細胞が未分化細胞である。
【0029】
実質的に全ての葉状および葉状様バイオマス材料が、作用物質との接触後、未分化細胞の分化時に生成されることが好ましい。典型的には、作用物質を用いた未分化細胞の処理時に生成される植物材料は、少なくとも50%、好ましくは70%、およびより好ましくは85%を超えて葉状バイオマスであるはずである。
【0030】
「葉状」および「葉状様バイオマス」によって、本発明者らは、植物材料が「葉状」または「葉状様」組織の形であるという意味を含む。これらの葉状組織は、組織片の形状、葉緑体の数および有意な光合成活性によって他の植物組織と区別される。例えば、任意の所与の植物に関して、葉状材料は、植物組織の共焦点顕微鏡分析により計数して多数の葉緑体および発達した葉緑体を有し、これらの葉緑体は、植物組織による二酸化炭素の吸収により検出して、非葉状材料中の葉緑体より、高い光合成活性(蛍光計を用いたFv/Fmの測定)および高いクロロフィル含有量(吸光光度法による抽出色素の分析)を有する。例えば(Baker(2008)Ann.Rev.Plant Biol.59:89〜113頁)中に記載されたように、このような測定法は当業者にはよく知られている。
【0031】
一時的液体浸漬培養系は、当技術分野で知られている任意のこのような系であってよい。(例えば、Etienne & Berthouly(2002) Plant Cell、Tissue and Organ Culture 69、215〜231頁、Hanhineva & Karenlampi(2007) BMC Biotechnology 7、11〜23頁から、およびさらにDucosら(2007) In Vitro Cellular & Developmental Biology-Plant 43:652〜659頁を参照、これらは全て参照により本明細書に組み込まれている。典型的には、これらの系はその上に細胞が存在する多孔性固体支持体(例えば、ネットまたはスポンジまたはフォーム)を含有し、以下でさらに論じるようにこれを液体増殖培地中に短時間浸す。
【0032】
植物細胞は単子葉植物または双子葉植物由来の細胞であってよい。
【0033】
適切な双子葉植物は、タバコ、ジャガイモ、トマト、マメ、ダイズ、ニンジン、キャッサバまたはシロイヌナズナ属(Arabidopsis)のいずれかを含む。
【0034】
適切な単子葉植物は、トウモロコシ、ライムギ、オートムギ、キビ、サトウキビ、モロコシ、メイズ、コムギまたはコメのいずれかを含む。
【0035】
好ましい実施形態では、植物細胞は、その主な薬用成分が葉の中で生成される薬用植物に由来する。方法は、葉状バイオマスからそれらを抽出することによりこのような薬用成分を得るのに有利な手法となることは理解されよう。
【0036】
適切な薬用植物は、ロウトウ種、ヒヨス種、チョウセンアサガオ種、ペパヴェール種、ハシリドコロ種、ジギタリス種、マクナ種、イチイ種、カンプトテカ種、イヌガヤ種、またはニチニチソウ種、クソニンジンなどのヨモギ種のいずれかを含む。このような薬用植物に由来し得る医薬品には、アトロピン、スコポルアミン、およびヒオスシアミン、ならびにこれらの前駆体および誘導体などのトロパンアルカロイド、コデイン、モルフィン、テバイン、ノルサングイナリン、サングイナリン、およびクリプトピン、ならびにこれらの前駆体および誘導体などのモルフィアンアルカロイド、ジゴキシゲニン、ジギトキシゲニン、ギトキシゲニン、ジギナチゲニン、ギタロキシゲニン、ならびにこれらの前駆体および誘導体などのカルデノライド、L-DOPA(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)ならびにその前駆体および誘導体、タキソールならびにその前駆体および誘導体などの抗腫瘍化合物、カンプトテシンおよびその誘導体、ホモハリングトニン、ハリングトニン、イソハリングトニンおよびセファロタキシンならびにこれらの前駆体および誘導体、およびビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンドリン、カタランチン、これらの前駆体および誘導体などのビンカアルカロイド、アルテミシニン、その前駆体および誘導体などの抗マラリア薬があるが、これらだけには限られない。
【0037】
葉状バイオマスによって生成される薬用化合物は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤または担体を併用することによって医薬組成物中に組み込むことができる。
【0038】
さらなる好ましい実施形態では、植物はエネルギー作物であってよい。エネルギー作物によって、本発明者らは、エタノールまたはバイオディーゼルを含めたバイオ燃料の生成において使用される植物種を意味する。本発明は、季節および植物種と無関係に、バイオ燃料の連続的な生成に利用することができる、バイオマスの連続的な生成を可能にする。生成するバイオマスは、発酵によるエタノール生産プロセス中で使用するための比較的高レベルの多糖、またはバイオディーゼルを生成するためにさらに加工することができる比較的高レベルの1つまたは複数の脂質を内に含有し得る。これらの高レベルの有利な化合物は、遺伝子操作によりバイオマスにおいて生成することもできる。植物は、ススキ種、ヤトロファ種、キビ種、ヤナギ、ヤシノキ、メイズ、キャッサバ、またはポプラのいずれかであることが適切である。
【0039】
細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質は、典型的には植物ホルモン(フィトホルモンまたは植物成長物質)、および好ましくはサイトカイニンである。サイトカイニンは、主に細胞分裂および苗条形成に影響を与えるだけでなく細胞老化の遅延においても役割を有する化学物質の一群であり、植物全体中のオーキシン輸送の仲介を担い、節間長および葉の成長に影響を与える。オーキシンは、細胞拡大、芽形成および根発生に好影響を与える化合物である。それらは他のホルモンの生成も促進し、それらはサイトカイニンと共に茎、根、果実の成長を調節し、茎を花に転換する。
【0040】
サイトカイニンは、アデニン型またはフェニル尿素型に属する天然または人工サイトカイニンのいずれかであってよい。サイトカイニンは、アデニン、カイネチン、ゼアチン、6-ベンジルアミノプリン、ジフェニル尿素、チジアズロン(TDZ)およびサイトカイニン活性を有するこれらの各々の誘導体のいずれかであることが好ましい。
【0041】
作用物質は、本発明のカルス/細胞懸濁液由来の任意の1つの未分化植物細胞から、苗条が急速、好ましくは指数関数的に成長するように、分化を促進、誘導、および誘発することができる。このような苗条は、葉状または葉状様バイオマスに発達する。
【0042】
細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質は、チジアズロン(TDZ)であることが好ましい。
【0043】
都合が良いことに、作用物質は、天然に存在するオーキシン、4-クロロ-インドール酢酸、フェニル酢酸(PAA)、インドール-3-酪酸およびインドール-3-酢酸、または合成オーキシンアナログ1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸などのオーキシンなどの、別の植物ホルモンと併用して使用することができる。
【0044】
典型的には、作用物質は、0.01〜100μΜの濃度で培養培地に加えられる。濃度は0.1〜10μΜであることが好ましい。
【0045】
作用物質は、一時的液体浸漬培養ステップの開始時または最中に加えられてもよい。
【0046】
例えば葉状バイオマスの生成を最適化するため、または対象のポリペプチドまたは薬用成分などの葉状バイオマス中の特定産物の濃度を最適化するための、任意の適切な液体浸漬レジメを選択することができる。典型的には、液体浸漬時間は2〜24時間の培養毎に1〜30分の範囲である。液体浸漬時間は2〜6時間毎に1〜10分であることが好ましい。
【0047】
当業者は、植物の種類および起源に基づき、時間、温度および成長培地などの最適な液体浸漬培養パラメーターを容易に選択して、最も有効な方法、すなわち最適なスピード、量および質で、特定目的の特定バイオマスを生成することができる。
【0048】
一時的液体浸漬培養中の液体の体積は任意の好都合な体積であってよいが、典型的には1〜10,000リットルである。あるいは、体積は1〜5,000リットル、1〜1,000リットル、または1〜500リットルであってよい。
【0049】
一時的液体浸漬培養系を含有する容器は任意の好都合な大きさであってよく、典型的には1〜10,000リットルである。あるいは、体積は1〜5,000リットル、1〜1,000リットル、または1〜500リットルであってよい。
【0050】
本発明の一実施形態では、植物細胞は遺伝子操作されない。よく知られているように、植物は、その葉内で前に記載した薬用成分、ならびに油、色素、抗酸化剤、糖(炭水化物)などの単純および複合生化学物質、脂質、アミノ酸、揮発性芳香族化合物、および香料/香料前駆体などの、多くの重要な産物を内因的に生成する。
【0051】
対象の植物材料は、供給水源などのサンプル中の毒性汚染物質を濃縮、捕捉、または分解することもできる(植物ベースのin vitro汚染除去/精製)。
【0052】
植物材料を使用して、一時的反応溶液中に含有される1つの化合物を1つまたは複数の他の化合物に形質転換することもできる。
【0053】
本発明の別の実施形態では、植物細胞は遺伝子操作されて、例えばポリペプチドを発現する。ポリペプチドは任意の対象のポリペプチドであってよいが、治療用ポリペプチド、酵素、増殖因子、免疫グロブリン、ホルモン、構造タンパク質、植物のストレス応答に関与するタンパク質、生物学的製剤、ペプチド、またはワクチン抗原のいずれか1つであることが好ましい。ポリペプチドが酵素であるとき、それを使用して葉状物質の代謝を変え、それによって新規なポリマーおよび代謝産物を生成することができる。1つまたは複数のポリペプチドを葉状物質内で発現させて、水源などのサンプル中に見られる汚染物質を精製または分解する葉状組織の能力を高めることも可能である。
【0054】
遺伝子操作した植物細胞(組換えまたはトランスジェニック植物細胞)は、(i)外因性核酸(導入遺伝子)が核中に存在する核形質転換植物細胞、(ii)外因性核酸(導入遺伝子)が葉緑体などのプラスチド中に存在するトランスプラストミック植物細胞、または(iii)核形質転換とトランスプラストミックの両方である植物細胞であってよい。
【0055】
核形質転換植物およびトランスプラストミック植物の作製法は当技術分野でよく知られている。例えば、粒子ボンバードメント、マイクロインジェクション、PEG-エレクトロポレーション、アグロバクテリウム(agrobacterium)仲介形質転換、植物ウイルスなどを使用して、核酸分子を植物細胞に導入することができる(例えば、Birch 1997、Maliga 2004、Glebaら、2008を参照)。
【0056】
植物がトランスプラストミック植物であれば好ましい。
【0057】
いくつかの当技術分野で認められている方法で植物を形質転換することができる。当業者は、方法の選択は形質転換対象の植物の型に依存し得ることを理解している。植物細胞を形質転換するのに適した方法の例には、マイクロインジェクション(Crosswayら、BioTechniques 4:320〜334頁(1986))、エレクトロポレーション(Riggsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:5602〜5606頁(1986)、アグロバクテリウム仲介形質転換(Hincheeら、Biotechnology 6:915〜921頁(1988);)、直接遺伝子導入(Paszkowskiら、EMBO J. 3:2717〜2722頁(1984);)、およびAgracetus, Inc.、Madison、WisconsinおよびDupont, Inc.、Wilmington、Delawareから入手可能なデバイスを使用する弾道粒子加速法がある(例えば、Sanfordら、米国特許第4,945,050号を参照)。アグロバクテリウム仲介形質転換は一般に、前述の他の方法が好ましい単子葉植物には有効でない。
【0058】
形質転換が成功した細胞、すなわち本発明のDNA構築物を含有する細胞は、よく知られている技法によって同定することができる。例えば、1つの選択技法は、形質転換細胞において選択可能な形質をコードするDNA配列(マーカー)を発現ベクター内に組み込むことを含む。これらのマーカーには、ジヒドロ葉酸還元酵素、真核生物細胞培養用のG418またはネオマイシン耐性、および大腸菌および他の細菌における培養用のテトラサイクリン、カナマイシンまたはアンピシリン耐性遺伝子がある。あるいは、このような選択可能な形質の遺伝子は、所望の宿主細胞を同時形質転換するために使用する別のベクターに存在してよい。
【0059】
マーカー遺伝子を使用して形質転換体を同定することはできるが、どの細胞が組換えDNA分子を含有し、どの細胞がセルフライゲーションベクター分子を含有するかを決定することが望ましい。DNA断片の挿入が分子上に存在する遺伝子の1つの完全性を損ねるクローニングベクターを使用することによって、これを実施することができる。したがって、その遺伝子の機能消失のために、組換え体を同定することができる。
【0060】
形質転換が成功した細胞を同定するための別の方法は、本発明の発現構築物の導入から生じた細胞を増殖して、本発明のポリペプチドを生成する段階を含む。Southern(1975)J.Mol.Biol.98、503頁またはBerentら(1985) Biotech.3、208頁により記載された方法などの方法を使用して、細胞を採取および溶解し、それらのDNA含有物をDNAの存在に関して調べることができる。
【0061】
あるいは、上清中のタンパク質の存在を、以下に記載するように抗体を使用して検出することができる。
【0062】
組換えDNAの存在を直接アッセイすることに加えて、組換えDNAがタンパク質の発現を誘導することができるとき、よく知られている免疫学的方法によって形質転換の成功を確認することができる。例えば、発現ベクターによって形質転換が成功した細胞は、適切な抗原性を示すタンパク質を生成する。形質転換された疑いがある細胞のサンプルを採取し、適切な抗体を使用してタンパク質に関してアッセイする。
【0063】
当業者は、植物形質転換技法によって、安定および不安定(一過性)形質転換体を生成することができることを理解している。一過性形質転換体は、DNA構築物によってコードされる本発明の化合物を含む産物を一過的にのみ発現する。一過性発現系は、分子遺伝的研究、およびいくつか特定の実用化に有用である可能性があり、高価値タンパク質の生成を担う形質転換細胞は形質転換直後に採取する。
【0064】
安定した形質転換体は、異種DNA配列を宿主のゲノムに組み込むと生成することができる。植物に関しては、異種DNAは一染色体中、またはオルガネラゲノム(ミトコンドリア、葉緑体)中に挿入することができる。
【0065】
当業者は、大腸菌は中間宿主として使用することができ、標準または修飾プラスミドベクターを使用して、コード配列を含む様々なプラスミドの構築において使用することができることを理解している。植物の形質転換は、例えばバリスティックデバイスによって、この中間宿主から回収し細胞の直接形質転換に使用するプラスミドDNAを使用して実施することが可能である。あるいは、コード配列を含有するキメラDNA構築物を、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウムリゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)における増殖およびアグロバクテリウム仲介遺伝子導入による植物細胞への後の形質転換用に、TiまたはRiプラスミドベースのベクターに連結させることが可能である。
【0066】
ベクターの例には、クローニングベクター、発現ベクターおよびシャトルベクターがある。クローニングベクターは、より多量のDNA配列を生成する目的でレシピエントにDNA断片を運ぶために使用する作用物質を含む。発現ベクターは、DNA配列を宿主に運び、そこでタンパク質またはアンチセンス転写産物などの特定産物の合成を誘導する作用物質を含む。発現ベクターは、ベクター中挿入部位を含有する発現カセットへのコードDNA配列の挿入によって生成することができる。シャトルベクターは、それを使用して外来配列を2個以上の宿主に運ぶことができるように、2宿主の複製起点を有するように構築された遺伝子エレメントを含む。例えばシャトルベクターは、大腸菌およびアグロバクテリウムツメファシエンスの複製起点を有することができる。
【0067】
一般にDNAは、発現に適した方向および正しいリーディングフレームでベクターに挿入する。必要な場合、所望の宿主によって認識される適切な転写および翻訳調節制御ヌクレオチド配列とDNAを連結させることは可能であるが、このような制御は一般にベクターにおいて利用可能である。制御エレメントは植物、または植物ウイルスもしくはアグロバクテリウムのTi/Riプラスミドを含めた他の供給源に由来してよい。
【0068】
DNA挿入体は、適切なプロモーター、例えば植物ウイルスプロモーターまたは植物プロモーターと作動可能に連結させることが可能である。好ましいプロモーターには、構成的、誘導的、一時的調節、発生調節、細胞優先的および/または細胞特異的プロモーター、組織優先的および/または組織特異的プロモーター、および化学的調節プロモーターがある。プロモーターは、転写因子結合部位の人工的組合せから構築された、合成または人工的プロモーターであってもよい。
【0069】
構成的プロモーターには、CaMV35Sおよび19Sプロモーターがある(Fraleyら、米国特許第5,352,605号)。McElroyら、Mol.Gen.Genet 231、150〜160頁(1991)により記載されたプロモーター発現カセットはコード配列の発現のために容易に修飾することができ、単子葉植物宿主中での使用に特に適している。
【0070】
さらに別の好ましい構成的プロモーターは、多くの細胞型で蓄積することが知られている別の遺伝子産物であるユビキチンに由来する。ユビキチンプロモーターは、トランスジェニック植物において使用するために数種からクローニングされている(例えば、Binetら、Plant Science 79、87〜94(1991))。
【0071】
誘導的プロモーターは、非生物的および生物的環境刺激に応答性があるプロモーターを含む。非生物的環境刺激は、光、温度および水の利用を含む。生物的環境刺激は、病原体、(ウイルス誘導型、真菌誘導型、昆虫誘導型、および線虫誘導型プロモーター含む)、共生者と草食動物の間の相互作用を含む。プロモーターは、運動、接触、組織損傷およびフィトクロム(アブシジン酸、サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン、エチレン、ブラシノステロイド、およびシステミンなどのペプチド、および結節形成因子含む)にも応答し得る。
【0072】
一時的調節プロモーターは、概日調節プロモーター、および非概日性時間管理機構に応答性があるプロモーターを含む。発生調節プロモーターは、葉、茎、根、花、種、胚、花粉および卵細胞を含めた、器官および他の構造に関する組織特異的および細胞型特異的プロモーターを含む。
【0073】
植物、特にメイズおよびテンサイ中でのコード配列の発現に有用な組織特異的または組織優先的プロモーターは、根、髄、葉または花粉における発現を誘導するプロモーターである。いくつかの例は、アブラナ科シロイヌナズナb1-チューブリン遺伝子由来のTUB1プロモーター(Snustadら、Plant Cell 4、549、1992)、エンドウ(Pisum sativum)のメタロチオネイン様遺伝子由来のPsMTAプロモーター領域(Evansら、FEBS Letters 262、29、1990)、アブラナ科シロイヌナズナ由来のRPL16AおよびARSK1プロモーター、およびWO97/20057およびWO93/07278中に開示されたさらなるプロモーターである。さらに、化学誘導性プロモーターは発現を誘導するのに有用であり、さらに好ましい(WO95/19443参照)。
【0074】
特に好ましいのは16SrRNA、psbAおよびrbcLプロモーターである。
【0075】
プロモーター以外に、様々な転写ターミネーターを本発明のDNA構築物中に組み込むことが可能である。転写ターミネーターは、導入遺伝子の転写停止およびその正確なポリアデニル化を担う。転写ターミネーターはプロモーターと同じ遺伝子に由来してよく、または異なる遺伝子に由来してよい。好ましい実施形態において、コード配列を、その本来存在するポリアデニル化シグナル配列と作動可能に連結させる。適切な転写ターミネーターおよび植物中で機能することが知られているターミネーターには、CaMV35Sターミネーター、tmlターミネーター、pea rbcS E9ターミネーターおよび当技術分野で知られている他のターミネーターがある。オクトピンシンターゼおよびノパリンシンターゼ終結領域などの、好都合な終結領域もアグロバクテリウムツメファシエンスのTi-プラスミドから入手可能である。例えば、Rosenbergら、Gene、56、125(1987);Guerineauら、Mol.Gen.Genet.、262、141〜144頁(1991);Proudfoot、Cell、64、671〜674頁(1991)を参照されたい。
【0076】
前述に加えて、本発明のDNA構築物は、発現レベルを調節することができる任意の他の配列を含むことができる。多数の配列が転写単位内からの遺伝子発現を高めることが知られており、これらの配列はコード配列と共に使用して、トランスジェニック植物における発現を増大することができる。様々なイントロン配列が、特に単子葉植物細胞における発現を高めることが示されている。例えばメイズAdh1遺伝子のイントロンは、メイズ細胞中に導入すると、その同系プロモーター下で野生型遺伝子の発現を有意に高めることが分かっている(Callisら、Genes Develop.1、1183〜1200頁(1987))。イントロン配列は、通常植物形質転換ベクター内、典型的には非翻訳リーダー内に組み込まれる。
【0077】
構築物は、適切なヌクレオチド配列と作動可能に連結した、葉緑体局在シグナル、葉緑体特異的プロモーター、相同組換えを誘導する葉緑体特異的配列ホモログ、核局在シグナル(Lassnerら、Plant Molecular Biology 17、229〜234頁(1991))、植物翻訳コンセンサス配列(Joshi, C.P.、Nucleic Acids Research 15、6643〜6653頁(1987))、イントロン(LuehrsenおよびWalbot、Mol.Gen.Genet. 225、81〜93頁(1991))などのレギュレーターを含むこともできる。
【0078】
一般に使用される植物形質転換ベクターは、感染によりDNAを送達するアグロバクテリウムベクターである。他のベクターには、バリスティックベクターおよびDNA仲介形質転換に適したベクターがある。これらの方法は当業者には知られている。例えば、C.P.LichtensteinおよびS.L.Fuller、「Vectors for the genetic engineering of plants」、Genetic Engineering、P.W.J.Rigby編、vol.6、104〜171頁(Academic Press Ltd.1987)による総説を参照されたい。
【0079】
本発明の第一の態様の方法を使用して二酸化炭素を捕捉することができる。空気はこのために使用することができるが、ただし空気が二酸化炭素を豊富に含む、例えば空気が最大10%の二酸化炭素を含み得る場合それが好ましい。さらに、より有効な二酸化炭素捕捉を可能にするために、植物細胞に利用可能な追加の炭素によって、それはバイオマスのさらなる生成を可能にする。
【0080】
二酸化炭素の捕捉は、二酸化炭素を含有する空気を一時的液体浸漬バイオリアクターに供給することにより実施することができる。二酸化炭素の供給源は、大気中の二酸化炭素、二酸化炭素キャニスター、発電所の排出ガスまたは燃焼および/または発酵チャンバーの排出ガスを含めた、任意の供給源に由来してよい。
【0081】
二酸化炭素濃度を有利に制御して、一時的液体浸漬バイオリアクター中の増殖培地のpHおよび葉状バイオマス増殖を調節することができる。
【0082】
バイオ燃料は、前に記載した一時的液体浸漬バイオリアクター、例えば1つまたは複数の密閉型一時的液体浸漬バイオリアクターであるバイオリアクター中で葉状バイオマスを増殖するステップ、連続、半連続またはバッチ式プロセスで葉状バイオマスを採取するステップ、および葉状バイオマス由来の脂質または炭水化物をバイオ燃料に転換するステップを有する方法によって生成することができる。脂質または炭水化物は、バイオ燃料への転換プロセス前にまたはその一部分として、葉状バイオマスから抽出することができる。あるいは脂質または炭水化物は葉状バイオマスによって培養培地に分泌され、バイオ燃料への転換用の培養培地から採取され得る。
【0083】
葉状バイオマスによるバイオ燃料の生成を改善するために、バイオマスを環境ストレス、またはいくつかのストレスの組合せに曝して、脂質およびまたは炭水化物の生成を高めることができる。葉状バイオマスを遺伝子操作して、(例えば、培養培地への分泌を促進することによって)バイオ燃料に転換される脂質または炭水化物の生成およびアクセス性を改善することもできる。
【0084】
バイオディーゼルはトランスエステル化のプロセスによって油/脂質から生成することができ、化石/鉱物燃料と組成が類似した液体である。その化学名は脂肪酸メチル(またはエチル)エステル(FAME)である。油を水酸化ナトリウムおよびメタノール(またはエタノール)と混合し、その化学反応によってバイオディーゼル(FAME)およびグリセロールが生成する。
【0085】
植物アルコール化合物は、生物学的に生成されるアルコール、最も一般的にはエタノール(バイオエタノール)、およびそれほど一般的ではないがプロパノールおよびブタノールであり、糖、デンプン、またはセルロースの発酵を介した微生物と酵素の作用によって生成される。
【0086】
本発明の第二の態様は、in vitroで植物細胞中でポリペプチドを生成する方法であって、
ポリペプチドをコードするトランスジェニック核酸分子を保持する葉緑体を含有する未分化植物細胞を提供する段階であって、植物細胞がホモプラストミーを示す段階、および
本発明の第一の態様の方法に従い細胞を繁殖させてポリペプチドを含有する葉状バイオマスを生成する段階を含む方法を提供する。
【0087】
言い換えると、未分化植物細胞を提供する段階、未分化植物細胞を、細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質と接触させる段階、および一時的液体浸漬培養系中で細胞を増殖させる段階を含む方法によって細胞を増殖する。
【0088】
前および実施例中に記載する方法を使用して、トランスジェニック核酸分子を葉緑体に導入することができる。
【0089】
「ホモプラストミー」によって、本発明者らは、植物細胞の各葉緑体中の葉緑体DNAの大部分または全ての多数のコピーが形質転換された状況を意味する。選択剤を含有する培地上で数回、トランスプラストミック材料を二次培養することによってホモプラストミーを得る。選択剤は形質転換構築物において使用される選択可能マーカーと結合し、任意の適切な選択可能マーカー、例えばストレプトマイシンまたはカナマイシンなどの抗生物質耐性遺伝子であってよい。
【0090】
ホモプラストミーの達成はサザンブロッティングを使用して一般的に確認される。
【0091】
植物がトランスジェニック植物ではない未分化細胞を提供するステップは、
植物ホルモンと接触させた状態で植物(植物材料)の切断片を放置する段階を含み、次いで植物ホルモンはこれらの切断片の端にカルスを生成し、
次いでこれらのカルスをカルスとして二次培養し、いかなる選択もせずに維持する。
【0092】
切断した植物材料は、根、葉、茎、花または種の全部または一部であってよい。
【0093】
植物がトランスプラストミック植物である未分化細胞を提供するステップは、
葉緑体DNAを標的とする相同組換えの方法によって植物細胞の葉緑体へトランスジェニック核酸分子を導入する段階、
トランスジェニック核酸分子を含有する植物細胞を誘導して未分化細胞のカルスを形成させ段階、および
ホモプラストミーを得るのに有効な条件下でカルスを繁殖させる段階を含む。
【0094】
トランスジェニック構築物は、相同組換え(いわゆる右と左の境界)を得るための標的葉緑体DNAと類似した(例えば85%を超える同一率)少なくとも2つの核酸配列、選択可能マーカー遺伝子およびコードペプチドまたはポリペプチド配列を含有するはずである。
【0095】
トランスプラストミック未分化細胞の使用に関して、抗生物質選択、例えばストレプトマイシン、スペクチノマイシンまたはカナマイシンを用いた選択を使用してホモプラストミーを得る。
【0096】
カルスのホモプラストミーは、以下の方法だけには限られないが、これらを含めた当業者によく知られている様々な方法によって得ることができる;
(i)核酸を葉の葉緑体DNA中に導入し、植物を再生(成長)させ、この植物を少なくとも2回二次培養し(切断し、選択培地上に置いて葉の部分から苗条を再生する)ホモプラストミーに達する。例えばサザンブロッティングによってホモプラストミーを検出したとき、選択した植物を新たな培地に移し根を生成させ、および最後にそれが花および種を生成するまで土壌に移す。次いで選択培地上に種をまき、生じた苗条を使用してカルスを生成する。
(ii)前述の(i)の方法、ただし土壌への植物の移動および開花含まず。ホモプラストミーに達した直後、植物の葉を使用してカルスを生成する。
(iii)核酸を葉の葉緑体DNA中に導入し、最初の葉の出現時に、カルスが選択培地上で誘導され、(この植物材料はヘテロプラストミーである。それは形質転換と非形質転換葉緑体DNAの混合物を含有し、サザンブロットによって確認することができるからである)、それが後にホモプラストミーに達するまで、そのカルスを選択培地上でカルスとして二次培養する。
(iv)核酸を未分化細胞の葉緑体DNA中に導入し、トランスプラストミックカルスは、ホモプラストミーに達するまで選択培地上でカルスとして二次培養する。
【0097】
核酸分子は、選択可能マーカー遺伝子を含むことが好ましい。典型的には、選択可能マーカー遺伝子はaadA、nptll、AphVIなどの抗生物質耐性遺伝子である。
【0098】
典型的には、核酸分子はベクターまたはPCR断片に挿入する。
【0099】
典型的には、ベクターはプラスミドであり、典型的には、ベクターは大腸菌、酵母菌、昆虫または哺乳動物細胞中で繁殖可能である。プラスミドは葉緑体形質転換プラスミドであることが好ましい。
【0100】
ポリペプチドの発現が強力な葉緑体特異的プロモーターによって誘導される場合、それは好ましい。適切なプロモーターには、16SrRNAプロモーター、psbAプロモーターおよびrbcLプロモーターがある。
【0101】
植物細胞および葉緑体形質転換の方法は当業者にはよく知られており、前に論じSambrookおよびRussell(2001)、Molecular Cloning、A laboratory manual;GriersonおよびCovey(1988)Plant molecular biologyおよびWatsonら、(1997)Recombinant DNA中に記載されたトランスジェニック法を含む。
【0102】
増殖培地中で利用可能な光量および/または利用可能なスクロース量は、ポリペプチドの生成に影響を与える可能性がある。増殖培地および気体混合物を含めた条件(例えば、二酸化炭素濃度)は、使用する植物材料および生成に必要とされるバイオマスに基づいて、それぞれ特定のポリペプチドを生成するために、当業者によって容易に最適化することができる。
【0103】
本発明の第二の態様の方法は、葉状バイオマスからポリペプチドを得る、さらなるステップを含むことが好ましい。このようにして得たポリペプチドも本発明内に含まれる。葉状組織を破砕して組織抽出物を得て、その組織抽出物からポリペプチドを単離することによって、ポリペプチドを得ることが好都合である。
【0104】
ポリペプチドは、濾過、HPLC、イオン交換樹脂抽出、疎水性相互作用樹脂抽出、親和性クロマトグラフィー、または油-水相分離の少なくとも1つを使用して組織抽出物から精製することが好都合である。
【0105】
ポリペプチドは、ポリペプチドを精製する際に使用するためのタグを含むことができる。タグは、GST、ビオチン、6His、Strep、HAまたはmycタグのいずれか1つなどの、切断性または非切断性タグであってよい。
【0106】
本発明は、本発明の第一の態様の方法によって得られる葉状バイオマスも含む。
【0107】
本発明の方法から得られるポリペプチドは、治療用ポリペプチド、酵素、増殖因子、免疫グロブリン、ホルモン、構造タンパク質、植物のストレス応答に関与するタンパク質、生物学的製剤またはワクチン抗原のいずれか1つであってよい。
【0108】
本発明の第三の態様は、葉状バイオマス中に存在する成分を得るための方法であって、本発明の第一の態様に従い葉状バイオマスを生成する段階、および葉状バイオマスから成分を得る段階を含む方法を提供する。典型的には、成分は実質的に純粋な形で得られ、したがって方法は、成分を精製するさらなるステップを含むことができる。実質的に純粋な形は、典型的には成分の90%超、または95%超、または99%超を含有する。
【0109】
成分は、葉状バイオマスによるその分泌によって、または葉状バイオマスからの抽出によって、例えば葉状バイオマスを粉砕して成分を放出させることによって得ることができる。
【0110】
成分は薬用成分、組換えによって発現されるポリペプチド、炭水化物、脂質、油、揮発性芳香族化合物、抗酸化剤、色素、香料または香料前駆体であってよく、成分は内因性または外因性のいずれかであってよい。
【0111】
本発明は、得られた成分の、さらなる製品、例えばバイオ燃料、食料品または薬用成分への処理をさらに提供する。
【0112】
本発明は、in vitroで植物細胞中でポリペプチドを生成するための系であって、
未分化細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質、および
葉緑体への導入および発現に適合した、ポリペプチドをコードする核酸分子を含む系も含む。
【0113】
本発明のさらなる態様では、本発明の第一の態様の方法を実施する段階を含む、二酸化炭素を捕捉する方法を提供する。
【0114】
精製しようとするサンプルを、本発明の第一の態様の方法から得られた葉状バイオマスに曝す段階を含む、サンプルを精製する方法。
【0115】
精製プロセスは1つまたは複数の毒素を除去するためであってよい。
【0116】
本発明の他の態様の方法によって得た成分、および薬学的に許容される担体希釈剤、賦形剤または担体を製剤化する段階を含む、医薬組成物を製造する方法も提供する。
【0117】
さらに、本発明の他の態様の方法によって得た成分、および薬学的に許容される担体希釈剤、賦形剤または担体を含む医薬品を提供する。
【0118】
本発明のさらなる態様では、本発明の他の態様の方法によって得た成分の発酵またはトランスエステル化を含む、バイオ燃料を製造する方法を提供する。この製造法によって得られるバイオ燃料も提供する。
【0119】
ここで本発明を、以下の非制限的な実施例および図面を参照しながらより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】トランスプラストミックGFP-6系のサザンブロット分析の図である。 (A)標的葉緑体領域中の野生型ナス科タバコ属(Nicotiana tabacum)ペティットハバナ(petit Havana)(Wt-pt DNA)および形質転換(T-pt DNA)タバコプラストームの物理的地図。それぞれの地図の下の矢印は、各ゲノムDNAのBgIII消化後の予想DNA断片の大きさを示す。ベクター配列は白色で示し、一方タバコプラストーム配列はオレンジ色で示す。(B)トランスジェニック系GFP-6(GFP-6)および野生型タバコに関するBgIIIを用いた全ゲノムDNAの消化後のサザンブロット分析。消化したゲノムDNAは0.7%(w/v)アガロースゲル上に供し、ナイロン膜上に移し、プライマーPHK40-Fおよびrps12-out-Rで標的領域の増幅に相当するDig標識PCR断片をプローブ処理した(黒線)。
【図2】トランスプラストミックGFP-6タバコ系におけるGFP+検出の図である。 対照の野生型(wt)タバコ植物と共にUVおよび可視光線下で、GFP-6ホモプラストーム系(GFP-6)におけるGFP発現を目に見える状態にした(A)。(B)GFP-6および野生型系からの可溶性タンパク質のタンパク質電気泳動。それぞれの植物の5μg全可溶性タンパク質抽出物を、予め染色したタンパク質マーカー(New England Biolabs、UK)と共に12.5%(w/v)SDS-PAGEゲル上に充填し、タンパク質の分離は銀染色によって目に見える状態にした。特異的抗GFP抗体を使用しウエスタンブロッティングによって、GFPを特異的に検出した。予め染色したマーカーの移動も示す。
【図3】異なるトランスプラストミックタバコ組織におけるGFP+発現の図である。 カルスから全可溶性タンパク質抽出物、GFP-6および野生型タバコから細胞懸濁液および葉を生成した。カルスおよび細胞懸濁液に関しては、5μgの全可溶性タンパク質を12.5%(w/v)SDS-PAGEゲル上にレーン毎に載せ、一方で葉抽出物に関してはわずか1μgを載せた。(A)銀染色ゲルに相当し、一方(B)GFP抗体を使用した相当するウエスタンブロットを表す。GFP標準はRoche Life Science、UKから購入し、予め染色したタンパク質マーカーはNew England Biolabs、UKから購入した。マーカータンパク質のラダーサイズはkDa単位である。Wtはナス科タバコ属ペティットハバナを表し、E.coliはpFMGFPで形質転換した大腸菌KRX株からのタンパク質抽出物に相当する。
【図4】異なる条件下でのGFP-6トランスプラストミックカルスの増殖の図である。 ホモプラストームカルスGFP-6の写真を25℃での増殖の4週間後に撮った。プレート(A、B、CおよびD)はタバコ実生と同様の強度で16/8時間の光において増殖し、および(E、F、GおよびH)は暗所で増殖した。A、B、EおよびFのみが培地中に3%(w/v)スクロースを含有していた。全ての培地が500mg/Lのスペクチノマイシンおよび500mg/Lのストレプトマイシンを含有していた。蛍光発光は、Axiovert200M倒立顕微鏡(Carl Zeiss、Goettingen、ドイツ)およびAxiovisionソフトウェア(バージョン3.0)を使用して、490nmでの励起後520nmにおいて検出した。蛍光露出はそれぞれA、DおよびE、Hに関して30ms、100msおよび600msであった。顕微鏡の倍率はA、D、EおよびHにおいて40倍で同一であった。
【図5】異なる条件下で増殖したGFP-6カルス中GFP+の検出の図である。 全可溶性タンパク質を、明所(L)または暗所(D)で増殖したカルスならびに明所および糖下で増殖した野生型(Wt)から抽出した。培地中のスクロースの存在は(+)によって示し、一方スクロースを含まない培地は(-)で記載する。それぞれのカルスの5μgの全可溶性タンパク質を12.5%(w/v)SDS-PAGEゲル上に載せ(L-、L+、D+、D-、wt)、全タンパク質含有量は(A)銀染色によって検出した。Mは予め染色したタンパク質マーカー(New England Biolabs、UK)を表し、相当する大きさは左側にkDa単位で示す。(B)GFP+の存在は抗GFP抗体を用いて特異的に検出した。GFP標準(Upstate、USA)はナノグラムで示す量で加えた。
【図6】一時的液体浸漬バイオリアクターから新たに形成されたグリーンバイオマスにおけるGFP+発現の図である。 6週間のインキュベーション期間後、GFP-6系のタバコバイオマス(A)を一時的液体浸漬バイオリアクターから除去した。アセトン抽出プロトコールを使用して新たに形成された葉から全タンパク質を抽出し、予め染色した低範囲のSDS-PAGE標準(Bio-Rad Laboratories、UK)と共に10%(w/v)SDS-PAGEゲル上に載せた(B)。野生型(wt)およびGFP-6系(GFP-6)由来のタンパク質はクーマシーブルー染色によって目に見える状態にした。異なる希釈のアセトン粉末は抗GFP抗体を用いてイムノブロッティングによって分析し(C)、知られている量のGFPタンパク質(Upstate、USA)と比較した。
【図7】アセトン沈殿プロトコール中のGFP検出の図である。 アセトン抽出プロトコールの異なるステップからのいくつかのサンプルにおけるGFPの存在を表すウエスタンブロット。ペレットはローディングバッファー中に直接再懸濁し、一方洗浄液はローディングバッファーを加える前にspeedvac(Savant、NY、USA)中で一晩乾燥させた。わずか5μlのペレット(P)サンプルを載せ、一方洗浄液(W)1〜4からの全ての上清を加えた。
【図8】ナス科タバコ属ペティットハバナ細胞懸濁液の乾燥重量および新鮮重量の図である。 タバコ野生型細胞の新鮮重量および乾燥重量を、18日の増殖期間の間2日毎に測定した。乾燥重量は、80℃で24時間新鮮なタバコ細胞を除去した後に測定した。測定は三連で行った。
【実施例】
【0121】
[実施例1]
一時的液体浸漬バイオリアクターを使用する植物葉緑体における組換えタンパク質の封じ込めおよび高レベル生成
要約
葉緑体形質転換は、植物において組換えタンパク質を工業生産するための有望な手法である。しかしながら、遺伝子封じ込めは、田畑におけるトランスプラストミック植物の大規模培養に関して依然として問題がある。ここで本発明者らは、モデルタンパク質、修飾型緑色蛍光タンパク質(GFP+)の完全封じ込め生成のために、タバコトランスプラストミック細胞懸濁液を使用する可能性を評価している。トランスプラストミック葉では、GFP+の発現は全可溶性タンパク質(TSP)の約60%に達した。細胞懸濁液培養物(およびカルス)における発現ははるかに低かったが(1.5%のTSP)、液体培養液1リットル当たり約7.2mgを依然として生成した。本発明者らは、カルス中のGFP+生成に影響を与えた異なる要因をさらに調べ、インプットとしての光の重要性に焦点を当てた。最後に本発明者らは、トランスジェニック細胞懸濁液培養物をチジアズロンの存在下で一時的液体浸漬バイオリアクター中に置き苗条形成を開始させた、新規なタンパク質生成プラットフォームの開発を記載する。GFP+収率はバイオリアクター1リットル当たり印象的な660mgに達した。トランスプラストミック細胞懸濁液培養物の迅速な生成および一時的液体浸漬バイオリアクターの使用と組合せた、この新たな生成プラットフォームは、組換えタンパク質の完全封じ込め低コスト生成のための有望な経路である。
【0122】
結果
GFP+を発現するホモプラストームタバコ苗条の作製
タバコ葉緑体におけるGFP+の発現のために構築したベクターは、タバコ葉緑体におけるTetC抗原の発現のために使用したpJST10に由来する(Tregoningら、2003)。プラスミドpJST10は、タバコ葉緑体遺伝子rrn16Sとrps12/7の間の発現および選択カセットの挿入を標的化する(図1A)。ボンバードメント後、いくつかのスペクチノマイシン耐性苗条が10の独立したボンバードメントから生成し、gfp+の組み込みを分析した6個の苗条のうち4個の苗条においてPCR分析により検出した(データ示さず)。GFP-6をさらなる実験用に選択し、MS選択培地において4ラウンドの二次培養に施した。
【0123】
GFP-6系の全ての葉緑体が形質転換されたことを確認するために、全ゲノムDNAをこの植物の葉から抽出し、BgIIIで消化し、サザンブロット分析に施した(図1)。予想通り、挿入部位に相当するプローブは、野生型タバコDNA中の4.5kbの一本のバンドとハイブリダイズした。対照的に、7.1-kbのバンドをGFP-6系中で検出し、これはgfp+遺伝子および選択可能マーカーの挿入と一致する。GFP-6中の4.5kbバンドの欠如はGFP-6がホモプラストーム系であったことも示した(図1B)。
【0124】
GFP-6系におけるGFP+の発現
タバコGFP-6系を土壌で増殖し、植物をUV/青色光源に曝すことによってGFP+の発現を試験した(図2A)。強い緑色蛍光は野生型中ではなくGFP-6中で観察することができ、GFP-6中でのGFP+の発現を示すことができた。GFPの蓄積を確認するために、全可溶性タンパク質をGFP-6および野生型系から抽出し、SDS-PAGEゲル上で分離した(図2B)。特異的抗GFP抗体を使用したイムノブロッティング分析によって、GFP+の蓄積および顕著な分解産物がないことを確認した。銀染色(図2B)およびクーマシーブルー染色ゲル(データ示さず)の分析は、27kDaで移動したGFP+は高発現され、可溶性抽出物中の主なタンパク質であったことを明らかにした。
【0125】
GFP-6タバコ系の葉、カルスおよび細胞懸濁液における発現レベルの比較
GFP-6系から得たT0種をin vitroにおいてMSプレート上で発芽させ、生成した若葉を使用して相当するトランスプラストミックカルスおよび細胞懸濁液を作製した。GFP+の発現は、既知量の市販のGFPを標準として使用して、SDS-PAGE(図3A)および半定量的イムノブロッティング分析(図3B)によって、カルス状態、細胞懸濁液培養物において、および親植物GFP-6の葉において評価した。
【0126】
この比較の最も顕著な結果は、カルスおよび細胞懸濁液と比較した、タバコ葉内の非常に高レベルのGFP+発現であった(図3A)。イムノブロットは、葉内のGFP+発現は、約5mg/gの新鮮重量と同等の約60%のTSPであり、一方カルスおよび細胞懸濁液における発現は約1.5%のTSPであったことを示した(図3B)。細胞懸濁液の増殖を考慮した後(補足図8)、トランスプラストミック細胞懸濁液におけるGFP+の生成率は一日当たり約0.4mg/Lであったと推定した。
【0127】
カルスにおけるGFP発現に対する光および糖の影響
GFP+発現に対する光および外因性スクロースの重要性を評価するために、GFP-6系のトランスプラストミックカルスを、光有りおよび無し、スクロース有りおよび無しのいずれかで、ただし選択を維持するための500mg/Lのスペクチノマイシンの存在下において、カルス誘導培地(CIM)上で1ヶ月間増殖させた(図4)。図4中に見ることができるように、光度とは無関係に、スクロースの添加によってカルスの増殖を顕著に促進した。光と糖の両方がトランスプラストミックカルスに利用可能であったとき、GFP+を発現する多数の小さな葉緑体/プラスチドを同定することができ、これらはサイトゾル内に分散していた(図4A)。光または糖をカルスに供給しなかった場合、GFPの蛍光は低下し、葉緑体/プラスチドの数は減少し、細胞の中心に局在した(図4Dおよび4E)。光および糖の非存在下ではカルス増殖中にGFPの発現は検出しなかった(図4H)。
【0128】
イムノブロッティング実験によって、完全な暗所中で増殖した細胞はGFPをほとんどまたは全く発現せず、一方、スクロースの有無とは無関係に明所では発現が上昇したことを確認した(図5)。
【0129】
光およびスクロースの存在下で増殖したとき(L+)、GFP+発現のレベルは、イムノブロッティングによって約4%のTSPであったと推定した(図5)。カルスの新鮮重量および乾燥重量に標準化したとき、これはそれぞれ最大48μg/g f.w.(新鮮重量)または約1mg/g d.w.(乾燥重量)のGFP+発現のレベルに相当した。
【0130】
トランスプラストミックバイオマスを生成するための一時的液体浸漬バイオリアクターの使用
トランスプラストミック遺伝子発現が葉組織において最大である可能性があると仮定し、本発明者らは、カルス/細胞懸濁液から葉組織を迅速に生成するための方法の開発に努めた。予備実験において、本発明者らは、タバコにおいて体細胞胚増殖を促進することが知られている(GillおよびSaxena、1993)チジアズロン(TDZ)の添加によって、固形MS培地上で増殖したGFP-6カルスから苗条形成を誘導することができたことを発見した(データ示さず)。生産能力をスケールアップするために、タバコGFP-6系由来のトランスプラストミック細胞懸濁液を2-Lバイオリアクターに充填し、0.1μΜのTDZを補充したMS培地中に一時的に沈めた。約6週間後、多数の苗条が生成した(図6A)。最初の14日間の間、成長を検出することはできず、苗条のみがこの期間後に成長し始めた。おそらくこの誘導期は、アブラナ科シロイヌナズナにおいてカルスと分裂組織の間で観察された変化と同様に(Gordonら、2007)、タバコにおいてカルス組織から葉組織に細胞が再分化するのに必要な時間と関係がある。
【0131】
40日後、全バイオマスを分析用にバイオリアクターから除去した。植物材料の目視検査によって、最小ガラス化状態の主に健常な葉の存在が明らかとなった。
【0132】
合計約470gの量の新鮮重量バイオマスを2-Lバイオリアクター中で生成した。このバイオマス内で生成したGFP+の量を評価するために、アセトン中のタンパク質沈殿に基づくタンパク質沈殿プロトコールを開発した。この方法を使用して、粉末を生成し、重量測定し、SDS-PAGEゲル上に載せて生成したGFP+を検出した(図6B)。野生型と異なり約27kDaの大きさを有する明らかなバンドを検出した。トランスプラストミックバイオマス内のGFP+の生成を定量化するために、数種の量のアセトン粉末を充填し、イムノブロッティングによって1μgのこの粉末は約150ngのGFP+を含有すると推定した(図6C)。これは発現レベルが約2.8mg/新鮮重量1gに達したことを示した。
【0133】
バイオリアクター中では、全GFPの生成は、40日の増殖期にわたり一日当たりおよそ17mg/LのGFPの割合で約660mg/Lに達した。この値は、一日当たり0.4mg/Lの細胞懸濁液でおそらく得られる割合より約42倍高い。
【0134】
考察
タバコトランスプラストミック細胞懸濁液培養物
葉緑体形質転換分野におけるこれまでの多くの実験は、対象のいくつかの遺伝子の発現に関して葉に焦点を当てている。トランスプラストミックジャガイモ(potato tubers)(Sidorovら、1999)およびトランスプラストミックトマト(tomato fruit)(Rufら、2001)における発現に関していくつかの実験が行われているが、発現収率は比較的低い(それぞれ0.05および0.5%のTSP)。しかしながら、トランスジェニック植物の植え込みは、それらがトランスプラストミックである場合でさえ、大部分の公衆によって依然として悪く思われている可能性があり、考えられる環境問題が何らかの将来の開発に対して強烈な影響を有する可能性がある。さらに、それぞれの新しいトランスプラストミックの野外放出に、非常に多額の規制コストが伴う。封じ込めトランスプラストミック細胞ベースの培養における組換えタンパク質生成は多くのこれらの懸念を克服する可能性があり、この新たな生成系の高度な封じ込めの性質によって規制コストを大幅に低減するはずである。
【0135】
異なる型の発現系を比較するために、本発明者らは、緑色蛍光タンパク質(GFP+)の変異体を発現したホモプラストーム系のタバコを最初に作製した。GFPは、タバコ(KhanおよびMaliga、1999;Newellら、2003)、ジャガイモ(Sidorovら、1999)およびレタス(Kanamotoら、2006)を含めた一定範囲の異なる植物中で、葉緑体において高発現し得ることが以前に示されている。ここで記載するGFP発現のレベル、葉中約60%のTSPは発現の上限であり、36%のTSPでGFPを得たレタス中でGFP発現に関して観察した値と同等である(Kanamotoら、2006)。
【0136】
本発明者らの結果は、GFP+発現のレベルは、1%TSPの一過性トランスプラストミックレタスカルス中のGFPの発現と同等である(Leliveltら、2005)1.5〜4%TSPの範囲のレベルを有する葉と比較して、カルスおよび細胞懸濁液培養物において低いことを明らかにした(図3および5)。
【0137】
トランスプラストミック細胞懸濁液中のGFP+の発現は約1.5%のTSPに達し、一日当たり0.4mg/Lの生成率で7.2mg/Lに相当する(図5)。この発現レベルは、培養培地の最適化によって、例えばポリビニルピロリドンおよび/またはゼラチンの添加によって増大した可能性があり、これは核形質転換植物細胞においてタンパク質発現収率の改善に役立った(Kwonら、2003;Leeら、2002)。本発明者らは、光および糖含有量をさらに最適化したとき、GFP+レベルを約4%TSPに増大することができたことも示した(図5)。この結果を細胞懸濁液増殖期に外挿した場合、GFP+の生成はおそらく一日当たり約1mg/Lに達し得る。
【0138】
トランスプラストミックカルス中でのGFP+の生成に影響を与える要因
トランスプラストミックカルスおよび細胞懸濁液中での一般に低い発現レベルは、葉緑体形質転換ベクターの選択によって、および具体的にはGFP+発現を誘導した各プロモーターによって直接説明することができる。Prrn、pFMGFP中で使用されるRNA16S遺伝子のプロモーターは、その活性が葉中でのその活性と比較してイネ胚形成細胞中で7倍低下したイネ由来のRNA16Sプロモーターと同等である(SilhavyおよびMaliga、1998)。同じ現象がここで起こった可能性がある。細胞懸濁液プラスチドは葉の葉緑体ほど分化していないからである。しかしながら、さらなる実験は、分化し得る葉とカルスの両方において、mRNAレベルの低下または考えられる葉緑体数の変動間でGFP mRNAレベルを評価しなければならない。
【0139】
光は有意なGFP+発現に明らかに必要不可欠であると思われ(図5)、一方スクロースは増大した細胞増殖とより関係があるようであった。しかしながら、これらの結果にはバイアスがかかっている可能性がある。暗所での1ヶ月のインキュベーション期間にもかかわらず、GFP+は非常に安定しており、暗所中のスクロース補充培地上で増殖したカルスにおいて検出された発現は、それらを暗所に移す前のタバコ細胞からの残留GFP+生成に相当し得るからである。実際、ジャガイモ塊茎中で同じプロモーターにより誘導されたGFPの発現はわずか0.05%TSPに達し(Sidorovら、1999)、これは、prrnプロモーター下でのGFPの発現に関する真のベースラインは、ここで観察するよりはるかに低いことを示し得る。
【0140】
本発明者らの実験では、カルスおよび細胞懸濁液は緑色の状態であり、細胞周辺に広く分散した多数の葉緑体を有していることは顕著であった(図4A)。これらの細胞中ではGFP+は約4%TSPに達し、このような高レベルは、これらの細胞は実際、完全には分化しておらずプラスチドが依然として機能性葉緑体と同等である一過性細胞懸濁液であることを示し得る。
【0141】
一時的液体浸漬バイオリアクター中でのトランスプラストミックバイオマスの生成
葉中のGFP+生成は未分化細胞中のそれより大幅に優れており(図3)、したがって、トランスプラストミックカルス組織から苗条の誘導を促進するためのいくつかの試みを行った。固体培地へのチジアズロン(TDZ)の添加は、6週間後にカルスからの苗条の形成を誘導した(データ示さず)。興味深いことに、マゼンタボックス(magenta boxes)において観察した増殖は直線的ではなく、最初の2週間以内に個々の増殖を検出することはなかった。
【0142】
しかしながら、トランスプラストミック細胞懸濁液を一時的液体浸漬条件下に置き、一時的液体浸漬型バイオリアクターを使用して細胞材料を時折液体中にごく短い時間沈めたとき、「葉状」材料の生成は有効かつ有意であり、最終バイオマス生成は非常に多量であった(図6A)。バイオマス増殖中の同様の誘導期を、固体培地ベースの誘導と一時的液体浸漬バイオリアクターベースの誘導の両方に関して観察し、最初の2週間の間に増殖を検出することはなかった。
【0143】
材料は主に健常な小さな葉で構成されており、GFP+含有量は約0.66g/Lに達したと推定した(図6C)。これらの値は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で観察した生成より若干低いが(WilkeおよびKatzek、2003)、植物ベースの系中で得られる最高値の1つである。さらに、いくつかの発現レベルはいかなる最適化もせずに得られ、将来の開発は生成および方法の拡張性を改善するはずである。例えば、ガラス容器と使い捨てバッグの交換によって、おそらくより良好な光透過および再分割のため、一時的液体浸漬を使用して生成したコーヒー植物不定胚の量は約2倍となった(Ducosら、2008)。同様の系をトランスプラストミックタバコ苗条と共に使用した場合、生成収率は1g/L超に達し得る。
【0144】
適切な規模のここに記載する系は温室内の完全植物の生成よりはるかに労働集約的であるはずであり、温室格納施設も必要としない。種子を生成する必要がないため、この系は形質転換組織から標的タンパク質を生成するためにおそらく迅速な経路をさらにもたらす。実際、ホモプラストームタバコ系を同定した後、わずか1ヶ月が一時的液体浸漬バイオリアクターに適した細胞懸濁液培養物を得るのに必要とされ、一方で種子を生成する必要がある場合、約3ヶ月が必要である(Molinaら、2004)。したがって、トランスプラストミック苗条の一時的液体浸漬増殖と近年記載された使い捨てバイオリアクター(Terrierら、2007;Ducosら、2008)の組合せは、植物における生物学的製剤の低コスト生成に有望な経路である。
【0145】
実験手順
タバコ苗条、カルスおよび細胞懸濁液の作製
ナス科タバコ属ペティットハバナ(タバコ)の実生、カルスおよび細胞懸濁液を、Fi-Totron 600Hインキュベーター(Sanyo、Watford、UK)中において30%湿度で、16時間の光周期(約100μmol/m2/s)下で25℃において増殖した。タバコの実生はMS培地(MurashigeおよびSkoog、1962)上で発芽させ、1mg/Lの1-ナフタレン酢酸(NAA)および0.1mg/Lのカイネチン(K)を補充したMS培地であるカルス誘導培地(CIM)上に、葉の小片を置くことによってカルスを生成した。細胞懸濁液は、140rpmの一定撹拌下において寒天を欠くCIM培地内で多量のカルスをインキュベートすることによって作製した。全ての植物ホルモンおよび培地はSigma、St Louis、MO、USAから購入した。
【0146】
葉緑体形質転換用ベクターの構築
葉緑体形質転換用ベクターpFMGFPを、NdeIおよびXbaI制限部位を使用した二重消化によって、以前に特徴付けされたタバコ葉緑体用ベクターpJST10(Tregoningら、2003)において、TeTC遺伝子とgfp+遺伝子(Scholzら、2000)を交換することによって作製した。
【0147】
トランスプラストミックタバコ植物の作製
タバコ葉緑体形質転換用ベクターpFMGFPを用いた6週齢の野生型タバコ葉のバイオリスティック形質転換を、PDS1000/He(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)バイオリスティックデバイスおよび1100psiのラプチャーディスクを使用して、1mg/Lのチアミン、100mg/Lのミオイノシトール、1mg/LのN6-ベンジルアデノシン(BAP)および0.1mg/Lの1-ナフタレン酢酸(NAA)を補充したMS培地に基づく組成でRMOP培地(Svabら、1990)上で実施した。ベクターpFMGFPは、製造者の推奨に従い550nmの金粒子でコーティングした(SeaShell、La Jolla、CA、USA)。ボンバードメント後、植物材料を小片(5mm×5mm)に切断するまで葉は暗所中に48時間保ち、500mg/Lのスペクチノマイシン二塩酸塩を補充したRMOP培地に置いた。スペクチノマイシン耐性苗条は同じ培地上で4回二次培養した。
【0148】
サザンブロット分析
タバコプラストームへのベクターの組み込みは、ベクターpFMGFPの相同領域外のタバコプラストーム上のgfp+およびその他の開始部分にプライマーアニーリングを使用してPCRによって評価し(データ示さず)、トランスプラストミックGFP-6系はさらなる全ての実験用に選択した。ホモプラストミー状態は、野生型とトランスプラストミックGFP-6系の両方から消化した全てのゲノムDNAのサザンハイブリダイゼーションによって評価した。約7μgのゲノムDNAはBgIIIで消化し、0.7%(w/v)アガロースゲルに施した。DNAゲルは一晩20×SSCバッファー中で毛管現象によってナイロン膜(Hybond-N、Amersham、Uppsala、スウェーデン)に移した。
【0149】
DIG High Prime DNA標識および検出開始キットII(Roche Applied Science、UK)を使用して37℃で一晩、プローブをDIG標識した。標的領域と相同的な3kbのプローブは、鋳型としてプライマーpJST10-F 5' AATTCACCGCCGTATGGCTGACCGGCGA 3'およびRps12-OUT-R 5' TTCATGTTCCAATTGAACACTGTCCATT 3'およびタバコゲノムDNAを使用してPCRによって得た。プローブ標識およびハイブリダイゼーションは、25ng/mlの最終プローブ濃度で製造者の推奨に従い実施した。与えられたCSPDでの特異的シグナル検出は、製造者のガイドラインに従いX線フィルム(Amersham、Uppsala、スウェーデン)によって検出した。サザンブロット分析によるホモプラストミー確認後、GFP-6小植物は土壌に移し、種子を生成させた。このT0種子は500mg/Lのスペクチノマイシンを補充したMS培地上で発芽させ、若いT0葉はカルスおよび細胞懸濁液の作製に使用した。
【0150】
タンパク質抽出
最初に、全可溶性タンパク質の抽出を(Kanamotoら、2006)に従い実施した。植物材料(葉、カルス、細胞懸濁液)は液体窒素で微粉末に粉砕し、全可溶性抽出バッファー(50mMのHEPES、pH7.6、1mMのDTT、1mMのEDTA、2%(w/v)のポリビニルピロリドンおよび完全プロテアーゼ阻害剤EDTA無カクテルの一錠剤(Roche Products Ltd、Welwyn Garden City、UK)と混合した。植物の混合物は1分間撹拌し、4℃において30分間13,000rpmで遠心分離した。上清はアリコートにし、さらに使用するまで-20℃で保存した。
【0151】
第二の方法は、アセトン沈殿ベースの全タンパク質抽出プロトコールに基づく方法であった。植物材料は液体窒素中で微粉末に粉砕した。30mlの抽出バッファー(80%(v/v)のアセトン、5mMのアスコルベート)を2gの植物粉末または葉の相当物に加え、混合物は氷上で15秒間、Ultra-Turrax(IKA、Heidelberg、ドイツ)を用いて均質にした。4℃において5分間5,000gでの遠心分離によりタンパク質をペレット状にした。上清を廃棄し、ペレットは同じ抽出バッファーおよび同じ遠心分離条件を使用して4回洗浄した。次いでペレットは純アセトン中に再懸濁し、再度均質にした。もう一度タンパク質を4℃において5分間10,000gで遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットは純アセトン中でさらに3回洗浄した。最後の洗浄中、バッファーはアリコートにし、Speed-Vac(Savant、Holbrook、NY、USA)を使用して乾燥させ、残留粉末はアセトン粉末と呼んだ。ペレットおよび異なる洗浄液中のGFPの存在は、ウエスタンブロット分析によって検出した(補足図7)。
【0152】
電気泳動およびウエスタンブロット分析
トランスプラストミックおよび野生型サンプル由来のタンパク質を、定量化目的でタンパク質マーカーおよび市販の組換えGFP(Upstate、Waltham、MA、USA)と共に12.5%(w/v)SDS-PAGEゲル中で解像した。タンパク質ゲルはクーマシーブルーまたは銀染色で直接染色した。
【0153】
電気泳動後、ミニTrans-Blot(登録商標)システム(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)を使用すること、または製造者の推奨(Invitrogen、UK)に従いiBlot乾燥移動システムを使用することのいずれかによって、タンパク質を0.2μmのニトロセルロース膜(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)に移した。移動後、GFP特異的検出は(Prof Nixon、Imperial College London、UKによって提供され)1:20,000に希釈した一次ウサギポリクローナル抗GFP抗体を用いて実施し、一方で二次抗体(ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG、Amersham、Uppsala、スウェーデン)は1:10,000に希釈した。生化学的検出はECL SuperSignal(登録商標)West Pico化学発光基質キット(Pierce Biotechnology Inc.、UK)を用いて実施した。
【0154】
一時的液体浸漬バイオリアクター
タバコバイオマスを、約7グラムのナス科タバコ属ペティットハバナ細胞懸濁液を2-Lの一時的液体浸漬バイオリアクター中に置くことによって作製した(Ducosら、2007)。3時間毎に5分間0.1μΜのチジアズロン(TDZ、Sigma、UK)を補充した1-LのMS培地で、40日間にわたり液体浸漬を実施した。さらに培地は、汚染を予防するため、およびトランスプラストミック細胞を選択するために100mg/Lのスペクチノマイシンを含有した。Nestleの研究者により、ペトリ皿中のカルス固体誘導に基づいて、MS培地中のTDZ(チジアズロン)濃度は0.1μΜで最適であると推定された(データ示さず)。3分間2-L容器へエアーポンプによって培地を押し出し、2分超で重力によって元の容器に戻した。光条件および温度は、カルスおよび細胞懸濁液の増殖実験と同等であった。
【0155】
蛍光顕微鏡
GFPを発現しGFP-6系に由来するトランスプラストミックタバコカルスおよび細胞懸濁液を、Axiovert200M倒立顕微鏡(Carl Zeiss、Goettingen、ドイツ)およびAxiovisionソフトウェア(バージョン3.0)を使用して観察した。励起および発光波長は、GFP+検出に最適な491nmおよび512nmにそれぞれ設定した(Scholzら、2000)。露光および倍率は実験に応じて変え、それらは各図中に示す。
【0156】
表S1.新鮮重量、乾燥重量およびアセトン粉末間の比。
これらの比はGFPの確かな定量化の決定のために計算した。値は新鮮重量(f.w.)、乾燥重量(d.w.)およびアセトン粉末(粉末)に関して少なくとも4回反復の平均を表した。カルスおよび細胞懸濁液(細胞)はその各々の増殖期の最後に採取し、葉の測定は若い2〜3週齢の小植物で実施した(植物当たり約4枚の葉、一時的液体浸漬バイオリアクター中で生成されたバイオマスと同等)。
【0157】
【表1】

[参考資料]





【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化植物細胞から葉状バイオマスを生成するための方法であって、未分化植物細胞を提供する段階、これらの未分化植物細胞を、細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質と接触させる段階、および一時的液体浸漬培養系中で前記細胞を増殖させる段階を含む方法。
【請求項2】
前記植物細胞が単子葉植物または双子葉植物由来の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
双子葉植物がタバコ、トマト、ジャガイモ、マメ、ダイズ、ニンジン、キャッサバまたはシロイヌナズナ属のいずれかである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
単子葉植物がトウモロコシ、ライムギ、オートムギ、キビ、サトウキビ、モロコシ、メイズ、コムギまたはコメのいずれかである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記植物細胞が、その主な薬用成分が葉の中で生成される薬用植物に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記植物がロウトウ種、ヒヨス種、チョウセンアサガオ種、ペパヴェール種、ハシリドコロ種、ジギタリス種、マクナ種、イチイ種、カンプトテカ種、イヌガヤ種、またはニチニチソウ種、クソニンジンなどのヨモギ種のいずれかである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記植物がエネルギー作物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記植物がススキ種、ヤトロファ種、キビ種、ヤナギ、ヤシノキ、メイズ、キャッサバまたはポプラのいずれかである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質が植物ホルモン、好ましくはサイトカイニンである、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
サイトカイニンがアデニン型またはフェニル尿素型に属する天然または人工サイトカイニンのいずれかである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
サイトカイニンがアデニン、カイネチン、ゼアチン、6-ベンジルアミノプリン、ジフェニル尿素、チジアズロン(TDZ)およびサイトカイニン活性を有するこれらの各々の誘導体のいずれかである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
サイトカイニンがチジアズロン(TDZ)である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記作用物質がオーキシンなどの別の植物ホルモンと併用して使用される、請求項9から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記作用物質が0.01〜100μΜ、好ましくは0.1〜10μΜの濃度で培養培地に加えられる、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記作用物質が一時的液体浸漬培養の開始時または最中に加えられる、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
液体浸漬時間が2〜24時間毎に1〜30分、好ましくは2〜6時間毎に1〜10分の範囲である、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
一時的液体浸漬培養中の液体の体積が1〜10,000リットル、好ましくは1〜5,000リットル、より好ましくは1〜1,000リットル、最も好ましくは1〜500リットルである、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
一時的液体浸漬培養系を含有する容器が1〜10,000リットル、好ましくは1〜5,000リットル、より好ましくは1〜1,000リットル、最も好ましくは1〜500リットルである、請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記植物細胞が遺伝子操作されない、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記植物細胞が遺伝子操作されて、例えばポリペプチドを発現する、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
in vitroで植物細胞中でポリペプチドを生成する方法であって、
前記ポリペプチドをコードするトランスジェニック核酸分子を保持する葉緑体を含有する未分化植物細胞を提供する段階であって、前記植物細胞がホモプラストミーを示す段階、および
請求項1に記載の方法に従い前記細胞を繁殖させて前記ポリペプチドを含有する葉状バイオマスを生成する段階を含む方法。
【請求項22】
前記未分化植物細胞を提供するステップが、
植物細胞の葉緑体に前記トランスジェニック核酸分子を導入する段階、
前記トランスジェニック核酸分子を含有する前記植物細胞を誘導して未分化細胞のカルスを形成させ段階、および
ホモプラストミーを得るのに有効な条件下で前記カルスを繁殖させる段階を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ホモプラストミーが、抗生物質選択、例えばスペクチノマイシン、ストレプトマイシンまたはカナマイシンを用いた選択を使用して達成される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
利用可能な光量および/または利用可能なスクロース量が調節されて前記ポリペプチドの生成を最適化する、請求項21から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記葉状バイオマスから前記ポリペプチドを得る段階をさらに含む、請求項21から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記ポリペプチドが治療用ポリペプチド、酵素、増殖因子、免疫グロブリン、ホルモン、構造タンパク質、植物のストレス応答に関与するタンパク質、生物学的製剤またはワクチン抗原のいずれか1つである、請求項21から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項21から26に記載の方法のいずれかを使用することによって得られる、または請求項1から20のいずれかに記載の方法によって得られる葉状バイオマスの処理後に得られるポリペプチド。
【請求項28】
請求項1から20のいずれかに記載の方法によって得られる葉状バイオマス。
【請求項29】
葉状バイオマス中に存在する成分を得るための方法であって、請求項1から20のいずれかに従い葉状バイオマスを生成する段階、および前記葉状バイオマスから前記成分を得る段階を含む方法。
【請求項30】
前記葉状バイオマスによるその分泌によって、または前記葉状バイオマスからの抽出によって、例えば前記葉状バイオマスを粉砕して前記成分を放出させることによって前記成分が得られる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記成分が薬用成分、組換えによって発現されるポリペプチド、炭水化物、脂質、油、揮発性芳香族化合物、抗酸化剤、色素、香料または香料前駆体であり、前記成分が内因性または外因性のいずれかであってよい、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記成分をさらなる製品、例えばバイオ燃料、食料品または薬用成分に加工する、請求項29から31に記載の方法。
【請求項33】
in vitroで植物細胞中でポリペプチドを生成するための系であって、
未分化細胞の葉状組織への分化を促進する作用物質、および
葉緑体への導入および発現に適合した、前記ポリペプチドをコードする核酸分子
を含む系。
【請求項34】
請求項1から20に記載の方法を実施する段階を含む、二酸化炭素を捕捉する方法。
【請求項35】
精製しようとするサンプルを、請求項1から20に記載の方法から得られた葉状バイオマスに曝す段階を含む、サンプルを精製する方法。
【請求項36】
前記精製プロセスが1つまたは複数の毒素を除去するためである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項29から31に記載の方法によって得た成分、および薬学的に許容される担体希釈剤、賦形剤または担体を製剤化する段階を含む、医薬組成物を製造する方法。
【請求項38】
請求項30から32に記載の方法によって得た成分、および薬学的に許容される担体希釈剤、賦形剤または担体を含む医薬品。
【請求項39】
請求項29から31に記載の方法によって得た成分の発酵またはトランスエステル化を含む、バイオ燃料を製造する方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法によって得られるバイオ燃料。

【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−504317(P2013−504317A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528438(P2012−528438)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001537
【国際公開番号】WO2011/030083
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(511052152)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】