説明

施肥機

【課題】簡易な切替操作により、作業能率の低下を招くことなく、木目細かく施肥量を調節することができる施肥機を提供する。
【解決手段】繰出部19から肥料ホッパ31内の肥料を導管32を介して施肥部33へ移送して圃場に施肥を行う施肥機15において、単位面積当たりの設定施肥量として複数個の設定値を入力できる施肥量設定手段86と、この施肥量設定手段86で設定した複数個の設定値から使用する設定値を選択するための施肥量選択手段89と、繰出部19の繰出量を変更する繰出量変更手段41と、前記施肥量選択手段89で選択された設定値に基づいて前記繰出量変更手段41を制御する制御部92と、繰出部19の回転数検出部40とを設けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料ホッパ内から繰出部によって圃場に施肥を行う施肥機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、田植機等の農作業機に装備されて田植作業と同時に施肥を行うようにした施肥機がある。この施肥機は、肥料ホッパ内の肥料を左右に並列して設けた複数の繰出部からそれぞれ導管を介して施肥部へ肥料を供給してこの施肥部から肥料を吐出する。
【0003】
前記施肥機においては、前記繰出部の肥料の繰出量を調節する繰出量調節機構を複数の繰出部の各々に設け、この複数の繰出量調節機構を繰出量調節ハンドルの操作により作動させて繰出量を変更調節する例がある。たとえば、特許文献1の例では、この変更調節のために繰出部を駆動する電動モ−タを車側部に設けて制御し、自動的に繰出部の繰出量を変更することができる。
【0004】
しかし、繰出量の調節は、農作業機による施肥作業に先立って所望の目盛り位置にダイヤルを合わせて行う必要があり、また、施肥作業の途中で繰出量を変更する場合は、停車してダイヤルを調節する必要があった。そのため、木目細かく施肥量を調節しようとすると作業能率の低下を招くという問題を抱えていた。
【0005】
また、圃場の大区画整備が進む中で、一枚の圃場内の地力むらが大きくなっている。地力むらは、造成時の切土盛土などの影響で、特定の傾向を持つことが多く、圃場内を数区分に分割して、施肥量を変更したいとの要望が強く出されている。現行技術では、作業中に施肥量を変更することができるものの、施肥量の変更が煩雑であったり、別途高額な制御システム(精度の高いGPS、コンピュータ)が必要となり、現実的ではない。そして、コスト低減、環境負荷低減さらには高付加価値農産物生産の観点から、肥料の節減や適正な施用が求められている。
【特許文献1】特開2002−272231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡易な構成で、作業能率の低下を招くことなく、肥料の節減や適正な施用を図るべく木目細かく施肥量を調節することができる施肥機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、繰出部(19)から肥料ホッパ(31)内の肥料を導管(32)を介して施肥部(33)へ移送して圃場に施肥を行う施肥機(15)において、単位面積当たりの設定施肥量として複数個の設定値を入力できる施肥量設定手段(86)と、この施肥量設定手段(86)で設定した複数個の設定値から使用する設定値を選択するための施肥量選択手段(89)と、繰出部(19)の繰出量を変更する繰出量変更手段(41)と、前記施肥量選択手段(89)で選択された設定値に基づいて前記繰出量変更手段(41)を制御する制御部(92)と、繰出部(19)の回転数検出部(40)とを設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、繰出部(19)から肥料ホッパ(31)内の肥料を導管(32)を介して施肥部(33)へ移送して圃場に施肥を行う施肥機(15)において、繰出部(19)の繰出量を変更する繰出量変更手段(41)と、前記繰出量変更手段(41)を制御する制御部(92)とを設け、作業方向に施肥量変更が必要な圃場における施肥作業で、作業開始後の最初の直線作業時に繰出量変更の順番及びその設定施肥量毎の施肥量の累計(繰出部回転総数)を記憶するテイーチング手段と、該テイーチング手段によるテイーチング後の直線作業時に前記繰出量変更の順番及びその設定施肥量毎の施肥量の累計に基づいて自動的に繰出量を変更する手段とを設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の発明の特徴に加えて、圃場番号を選択する圃場設定手段を設け、圃場設定手段により選択された圃場番号に対して複数個の設定施肥量を設定できる構成とし、該設定施肥量に基づいて前記繰出量変更手段(41)を制御する構成としたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、繰出部(19)の回転数検出部(40)と、繰出部(19)の回転総数を検出する対象時間を設定する検出時間設定手段と、前記回転数検出部(40)の検出に基づいて前記検出時間設定手段で設定された時間内の繰出部(19)の回転総数を演算する制御部(92)と、前記回転総数に基づく総施肥量に関する情報を表示する表示部(85b)とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、上記施肥量設定手段には、単位面積当たりの施肥量を規定するための複数の設定値が入力保持され、これら複数の設定値の中から施肥量選択手段により使用する設定値を選択すると、選択された設定値に応じた繰出量が決定され、この繰出量に応じて繰出量変更手段により繰出部の繰出動作が変更される。
このように、上記施肥機は、任意設定可能な複数個の設定施肥量から所望の施肥量を選択可能に構成したことから、作業中に簡単に設定施肥量を切替ることができ、例えば圃場内の局所で土壌の肥料濃度が異なっていても、それに対応して施肥量を変化させて圃場全体の肥料濃度の均一化を図ることができる。
【0012】
請求項2の発明によると、テイーチング手段により最初の直線作業時に繰出量変更の順番及びその設定施肥量毎の施肥量の累計(繰出部回転総数)を記憶し、その後の行程では自動的に繰出量変更を行う。
【0013】
請求項3の発明によると、請求項1の発明の作用に加えて、圃場設定手段により選択された圃場番号と複数の設定施肥量が対となったデータを制御部(92)に保存し、作業開始前に圃場番号を選択することによって自動的に対応する複数個の設定施肥量を呼び出し、作業中に簡単に設定施肥量を切り替えることができる。
従って、請求項1乃至3の発明によると、例えば精度の高いGPS、コンピュータ等の高額な制御システムが不要で、造成時の切土盛土などの影響で特定の傾向を持つ地力むらに対応して、圃場内を数区分に分割して施肥量を自動的に変更することができ、肥料の節減や適正な施用が行えることにより、コスト低減、環境負荷低減さらには高付加価値農産物生産を図ることができる。
【0014】
請求項4の発明によると、請求項1乃至3のいずれかの発明の作用効果に加えて、検出時間設定手段で適宜設定された時間内の繰出部(19)の回転総数に基づく総施肥量に関する情報を表示部(85b)に表示することができ、この表示された情報を参考にして繰出量変更等を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
図1および図2は、施肥機を装備した乗用型の田植機の一例に係る側面図と平面図である。乗用型田植機1には、機体フレーム2の略中央に駆動源であるエンジン3が備えられ、このエンジン3からの動力により油圧式無断変速装置4、主トランスミッション5を介して駆動される前輪6,6及び後輪7,7を備えて構成される。
【0016】
前記エンジン3の上方には、操縦席8を設け、機体フレーム2の後部にはリンク機構9を介して苗植付部10が装着され、この苗植付部10を上下に昇降するように油圧昇降シリンダ11を設ける。また、主トランスミッション5からの動力の入切を行う植付クラッチ13を介して植付伝動軸14により伝動されて作動する構成となっている。、操縦席8の右側方には、後述の施肥機15及び苗植付部10の駆動の入切操作と苗植付部10の昇降操作とをするための植付・昇降レバー16を配置する。
【0017】
植付クラッチ13は、主トランスミッション5からの動力を受けて植付伝動軸14に伝動するとともに、施肥機15の施肥伝動ロッド18に伝動する。植付伝動軸14は入力回転速度に対して速度を切り替えて植付クラッチ13から動力を受け、機体の走行速度に対して苗植付部10の作動速度を変速できる。一方、施肥伝動ロッド18は、機体の走行速度に対して所定の速度で施肥機15の繰出部19…を稼動する必要から、入力側から所定の伝動比で伝動する。
【0018】
苗植付部10は本例では6条植の構成で、苗載置台20と6条分の苗植付装置21…からなり、植付伝動軸14の動力を植付伝動部22に受けて作動する構成となっている。また、苗植付部10の下部には中央部にセンタ−フロ−ト23a及び両側部にサイドフロ−ト23b,23bが設けられており、圃場面を滑走するようになっている。苗載置台20はマット苗を載せて左右往復動作し、苗を1株分ずつ各条の苗取出口21aに供給するとともに、苗を下方に移送する。植付伝動部22の伝動ケースはフレームを兼ね、伝動ケース内にはクラッチを備え、苗植付装置の作動を2条単位で入切する。
【0019】
(施肥機)
施肥機15は、苗植付部10の前方に設けられている。この施肥機15は、圃場に散布する粒状肥料を貯留する肥料ホッパ31と各条毎の繰出部19…と肥料の搬送を案内する各条毎の導管32…と導管32…の先端の施肥部33…と、繰出部19…の繰出量を調節可能に駆動する繰出伝動部25、送風部26等を備える。
【0020】
(繰出部)
繰出部19は、図3の断面図に示すように、シャッタ付きの肥料ホッパ31の下端に繰出ロ−ル34を繰出軸35によって軸支して構成する。繰出ロ−ル34の外周面には、回転方向の一定角度毎に繰出溝34a…が設けられており、各繰出軸35を車幅方向に横並びに配置し、これらを車幅方向に一体構成の繰出駆動軸36から歯車伝動により回動する。また、繰出ロ−ル34の前側には、該ロ−ル34外周面と接触するブラシ34bが設けられており、繰出溝34a…から溢れた肥料を掻き除くように構成される。繰出ロ−ル34はその繰出溝34a…に肥料ホッパ31から落下供給される粒状肥料を溜め、該繰出ロ−ル34の回動によって所定量毎に肥料を繰出口19b…を介して前記導管32…に供給される。
【0021】
(繰出伝動部)
前記繰出部19…を駆動するための繰出伝動部25は、その平面図と側面図を図4および図5にそれぞれ示すように、互いに隣接する繰出部19、19の間に配置し、この繰出伝動部25に隣接して同繰出部19の繰出量をアクチュエータ53により自動調節する繰出量調節機構41とその調節量を検出するストロークセンサによる調節量検出部(回転数検出部)40を設ける。
【0022】
繰出伝動部25は、前記植付クラッチ13から出力するクランク軸13bと連結して略上下動作する施肥伝動ロッド18と、この施肥伝動ロッド18から方向変換用のカウンタリンク42を介して略前後方向に進退動作する調節ロッド43と、この調節ロッド43を連結したワンウェイクラッチ44等から構成される。このワンウェイクラッチ44は繰出駆動軸36に取付け、繰出軸35を歯車伝動により一方向に回動する。
【0023】
上記ワンウェイクラッチ44を2連に配置し、両者間に方向を反転するカウンタリンク45を介して対向動作する2つの対向ロッド46a,46bをそれぞれの外周部に連結して往復回動機構を構成し、その一方に調節ロッド43を連結することにより、同調節ロッド43の往復行程で繰出軸35を連続的に回動することができる。
【0024】
繰出量調節機構41は、ねじ機構を介設して伸縮動作する伸縮ロッド51と、この伸縮ロッド51の後端部51bと連結し、上記カウンタリンク42の支軸42aの位置を調節するべく揺動可能に支軸52aに軸支した支点調節リンク52と、伸縮ロッド51の前端部に直結した伸縮調節用の電動モータ53等によって構成する。伸縮ロッド51は、その中間部を支軸51cによって揺動可能に繰出伝動部25に軸支するとともに、側方に延びる連結部材54を介して伸縮ロッド51の伸縮量を検出する調節量検出部40と連結する。この調節量検出部40は、繰出量調節機構41の側方に繰出伝動部25を挟んだ位置に、伸縮ロッド51と平行に、かつ、伸縮ロッド51の支軸51cの軸線上に支軸42aを設けて軸支する。
【0025】
上記支点調節リンク52は、支軸52aについて揺動動作することにより、伸縮ロッド51の伸縮による揺動位置に応じてカウンタリンク42の軸支位置を変更し、施肥伝動ロッド18が一定ストロークで上下動作する場合において、ワンウェイクラッチ44と連結する調節ロッド43の進退量が変更されるので、伸縮ロッド51の伸縮に応じてワンウェイクラッチ44の回動量を変更することができる。
【0026】
(繰出量調節制御)
繰出量調節機構(繰出量変更手段)41の操作のため、繰出量を設定する入力操作部と、調節量検出部40によるフィードバック信号とによって所定の繰出量に調節制御するコントロ−ルを備え、このコントロ−ルによって電動モータ53を調節制御する。上記コントロ−ルによる繰出量の調節制御は、例えば図6に示す入力操作部55を設け、肥料の比重と面積あたりの施肥量とを入力することにより、必要な目標繰出量を算出し、この目標繰出量と対応する伸縮ロッド51の伸縮位置を維持するべく電動モータ53を電子制御処理するように構成する。
【0027】
(送風部等)
送風部26は、繰出部19…の側方に設けた送風機62が機体フレーム2の前部に配置したバッテリ−61の電源により駆動される構成となっており、この送風機62から施肥エアチャンバ63を介して繰出部19に連通送風する。施肥エアチャンバ−63は前記繰出部19…の前側で左右方向に長く構成され、該エアチャンバ−63の左端部に前記送風機62が取り付けられた構成となっている。このエアチャンバ−63に受けた圧力風により、繰出部19…の肥料が導管32…から施肥部33…へ搬送されて圃場に散布される。尚、前記施肥エアチャンバ−63は、肥料回収管64と一体に構成され、側断面が略長方形の形状に構成されている。前記肥料ホッパ31及び前記繰出部19…は、操縦席8の直ぐ後側となる機体フレーム2の後部に設けられている。肥料回収管64は、繰出ロ−ル34の前側に連通して、作業終了後等に肥料ホッパ31及び繰出部19…に残存する粒状肥料を取り出し回収する。施肥部33…は、作溝器等を備えて苗植付部10による各条の圃場の苗植付位置の側部に肥料が供給されるように前記フロ−ト23a、23bに取り付けられている。
【0028】
上記構成の施肥機15付きの乗用型田植機1は、肥料ホッパ31内の肥料を左右に並列して設けた6個の繰出部19…からそれぞれの導管32…を介してそれぞれの施肥部33…へ肥料を移送して施肥部33…から肥料を吐出することにより圃場に6条分の施肥を行う。そして、施肥作業中であっても、圃場の肥沃状態の相違等に応じて、繰出量調節のための入力操作部55により、施肥量(肥料重量)を変更設定することができる。尚、圃場の肥沃状態の相違により施肥量(肥料重量)を変更設定する一例として、圃場の畦際で重複して機体を走行させるために肥料の繰出量を減らしたりすることが挙げられる。
【0029】
上記構成の施肥機15は、互いに隣接する繰出部の間に繰出伝動部25を設けることにより、複数の繰出部19が横に長く配置されている場合において、配置場所の制約を受けることなく車幅方向の中央に配置することができる。施肥の際は、繰出伝動部25を介して各繰出部19が駆動され、また、繰出量調節機構41は、調節量検出部40の信号によってアクチュエータ53を制御することにより、指令に応じて高精度に繰出量を調節することができる。
【0030】
したがって、上記施肥機15は、複数の繰出部19…が横に長く配置されている場合でも、機体中央に配置することによって繰出部の伝動系を簡易に構成することができ、また、繰出伝動の効率の均一化を図ることができる。さらに、繰出量調節機構41と調節量検出部40との間に繰出伝動部25を挟むように配置した場合は、左右方向のバランス性によって繰出量の調節精度を向上することができるとともに、繰出量調節機構41および調節量検出部40を外したときに繰出伝動部25の両側方に空間ができるので、繰出伝動部25のメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0031】
つぎに、繰出伝動部25の繰出量調節機構について別の実施形態について説明する。繰出伝動部25は、平面図と側面図を図7と図8に、および図8のA矢視図を図9にそれぞれ示すように、前述のように、互いに隣接する繰出部19,19の間に配置されて繰出軸35に動力を伝える。この繰出伝動部25の側方には、繰出量調節機構71を調節量検出部40と一体に構成して配置する。繰出量調節機構71は前記同様に自動調節のための電動モータ53を備えるとともに、伸縮ロッド51と平行に調節量検出部40としてのストロークセンサを連結配置する。
【0032】
上記電動モータ53等のアクチュエータは、繰出量調節機構71と直結して構成することにより、両者を同一軸線上に確保できるので、伝動ロスなく低トルクで駆動でき、また、アクチュエータを肥料ホッパ31の前方に配置することにより、取付けやメンテナンスの効率を向上することができる。また、上記調節量検出部40は、繰出量調節機構71と一体構成とすることにより、タイムラグ、ストロークロスを防止して調節制度を向上することができる。
【0033】
繰出量調節機構71の電動モータ53は繰出部19の肥料ホッパ31の前方に配置し、この肥料ホッパ31を後方に横転動作可能に転動支点31aを設ける。上記肥料ホッパ31は、その横転スペースが電動モータ53の後方に確保され、この電動モータ53と干渉することなく肥料ホッパを横転動作することができるので、繰出部19のメンテナンス性を向上することができる。
【0034】
上記繰出量調節機構71は、その要部を図10に示すように、アクチュエータに代えて手動操作用のハンドル72と取替え可能に構成する。電動モータ53は、取替えが可能なユニットとして構成することにより、電動モータ53、調節量検出部40、制御処理部等の障害が発生した場合に、ハンドル72の操作によって繰出量の調節が可能となるので、機器トラブルによっても施肥作業を続行することができる。
【0035】
上記施肥機15の動作設定のための操作部および表示部は、その配置正面図を図11に示すように、操作部85aを操縦部の操舵ハンドル81の中央部に、また、表示部85bをステアリングコラム81a上端の操舵ハンドル81の内側に見える位置に配置することにより、肥料の比重、繰出量等の設定を可能に構成する。
【0036】
詳細には、操作部85aは、図12に拡大して示すように、設定する対象を比重と施肥量とに切替える「施肥設定」スイッチ(施肥量設定手段)86を中心としてその右側に、「増」「減」操作用のスイッチボタン87a,87b、「累計リセット」スイッチボタン88、左側に設定値を切替える「可変」スイッチボタン(施肥量選択手段)89と切替状態表示用のONランプ89a等をタッチパネル式に構成する。また、表示部85bは、図13に拡大して示すように、「散布設定」「比重」「施肥量」「累計」等の項目を表示する表示部90と、その表示項目を切換えるスイッチボタン91を配置して構成する。
【0037】
操作部85aの「可変」スイッチボタン89は、操舵ハンドル81の中央部に配置することにより、作業走行中にボタン操作によって施肥量を随時変更することができるので、作業性の向上を図ることができる。また、走行中においても、オペレータが運転姿勢を崩すことなく植付作業ができる。これに対し、従来のようなメータパネル上に調節操作部分と表示部分が一体になったユニットでは、ハンドル越しの調節操作により運転姿勢を崩す事態を招くことがあったが、上記構成によってそのような問題を解消して走行直進性を向上することができる。さらに、スイッチボタン類がステアリング上面より突出することのないタッチパネル状に構成することにより、田植作業時の苗補給、肥料補給においても、スイッチボタンに引っ掛かることなく作業ができる。
【0038】
表示部85bについては、従来の如くの操作と表示が一体のユニットでは、ハンドル81のグリップの影となって見にくかったが、上記のように表示部85bを構成することにより、表示項目を容易に視認できるので、表示確認の際に運転姿勢を崩すような事態を解消することができる。
【0039】
上記操作部85aおよび表示部85bによる施肥機15の動作設定を処理する制御部92は、図14の入出力構成図に示すように、操作部85aおよび表示部85bの関係機器のほかに、施肥機15の繰出部19について調節量検出ストロークセンサ(調節量検出部)40、繰出量を調節する調節量変更用電動モータ53を接続する。
【0040】
具体的な設定処理手順は、図15のフローチャートに示すように、エンジンキースイッチによる初期処理として比重設定値を表示(S1〜S3)する。次いで、可変スイッチ89のチェック(S4)によりそのスイッチ操作に応じて「通常」と「可変」を交互に切替える。詳細には、可変スイッチの操作に応じて制御フラグCについての切替処理(S4a〜S4c)と、可変ランプ89aと施肥量表示90について、「通常」、すなわち、ランプオフおよび通常設定値表示(S6a,S7a)、または、「可変」、すなわち、ランプオンおよび可変設定値表示(S6b,S7b)に交互に切替え、次の可変スイッチ89の操作まで、制御フラグCのチェック(S5)によってその状態を維持する。
【0041】
次いで、施肥設定スイッチ86のチェック(S8)により、オンであれば後述の施肥設定処理(S9)を行い、オフであれば、比重設定値、施肥量設定値に基づいて調節量変更用電動モータ53へ出力(S10)し、次の表示切替スイッチ91の操作に応じて表示項目を「比重」「施肥量」「累計」の順に切替える(S11、S12)。
【0042】
上記施肥設定処理(S9)について詳細に説明すると、図16のフローチャートに示すように、「増」スイッチ87aの操作に応じて表示項目の設定値を増加変更するとともに変更された設定値を表示し(S21〜S23)、また、「減」スイッチ87bの操作に応じて表示項目の設定値を減少変更するとともに変更された設定値を表示する(S24〜S26)。この処理を施肥設定スイッチ86のチェック(S27)によりオンになるまで繰り返してから「比重」「施肥量」「累計」の順で次の表示項目を表示(S28)する。
【0043】
また、累計演算の処理については、図17のフローチャートに示すように、繰出ロ−ル34の回転センサ値に基づいて累計を演算(S31)し、累計リセットスイッチ88の操作に応じて累計値をクリヤする(S32,S33)。
【0044】
上記構成による農作業機用施肥機15は、任意設定可能な設定施肥量から所望の施肥量を操縦部81,81aにおける選択操作によって繰出変更可能に構成したことから、農作業機1の稼動中に簡単に設定施肥量を切替ることができるので、圃場内の局所で土壌の肥料濃度が異なっていても、それに対応して施肥量を変化させて圃場全体の肥料濃度の均一化を図ることができる。
【0045】
次に、施肥量の切替のための収量情報の表示処理について説明する。
施肥作業走行に際し、表示部85bに収量情報を表示するように構成する。具体的には、図18に示すように、圃場番地、面積、施肥量、肥料種類、比重等を事前に入力しておき、前年度の収量情報を圃場メッシュ毎に登録しておき、前記収量情報を参考に肥料種類を決定したり施肥量を走行しながら変更したりできる構成とすることにより、例えば収量の少ない部分に施肥量を増加させ、収量のばらつきを防止することができる。
【0046】
上記収量情報を表示する場合の表示処理について、図19のフローチャートにより説明する。以下において、前記同様の処理ステップはその符号を付すことによって説明を省略する。
前記の表示処理を除いた範囲で前記同様に処理(S1〜S8)し、施肥設定スイッチ86のチェック(S8)により、オンであれば後述の施肥設定処理(S9a)を行い、オフであれば、比重設定値、施肥量設定値に基づいて調節量変更用電動モータ53へ出力(S10)する。
【0047】
上記施肥設定処理(S9a)について詳細に説明すると、図20のフローチャートに示すように、圃場番地表示を点滅(S41)してから、表示切替スイッチがオンになったタイミングで点滅項目を順次切り替える(S42,S43)。点滅項目は、「圃場番地」「面積」「施肥量」「肥料種類」「比重」の順にエンドレスに切り替える。
【0048】
これに続く「増」「減」87a,87bのスイッチ処理(S21〜S26)を含め、施肥設定スイッチ86のチェック(S27)がオンになる時まで表示切替スイッチによる点滅の順次切り替え(S42,S43)を繰り返すことにより、各項目を設定することができる。
このようにして、図21の例のように圃場別に条件を変更して施肥作業をすることができる。
【0049】
また、施肥作業を自動切替する図22の走行例のように、最初のティーチング行程によって図23の例のように、圃場番号に対応して設定繰出量Fn(設定施肥量)と繰出部の回転総数とが設定された制御テーブルが作成され、以後、この制御テーブルに沿って自動モードにより施肥処理することができる。この例においては、2種の設定繰出量を使用して圃場全体を2つの区域に分け、互いの区域で異なる繰出量となるように施肥作業を行う場合を示している。その処理手順は、図24のフローチャートのように、繰出部の回転総数に基づいて自動的に施肥処理を切替えることができる。尚、前記繰出部の回転総に代えて走行車輪の回転数検出等による機体の走行距離に基づいて自動的に施肥処理を切替える構成としてもよい。
【0050】
また、繰出部19の回転総数を検出する対象時間を設定する検出時間設定手段となる作業開始ボタンと作業終了ボタンとを設け、作業開始ボタンを押してから作業終了ボタンを押すまでの間の繰出部19の回転総数を調節量検出部(回転数検出部)40の検出値とその経過時間とから演算し、演算された回転総数と肥料のかさ密度とに基づく総施肥量(肥料投入量)を表示部85bに表示する。これにより、実際に施肥された直前の総施肥量を制度良く算出でき、この表示された総施肥量を参考にして繰出量変更等を行うことができる。
【0051】
尚、本発明は、田植機に備える施肥機に限定されるものではなく、農作業機全般に適用される。また、上記施肥機に代えて、粒状の薬剤を散布する薬剤散布機としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】施肥機を装備した一例に係る乗用型の田植機の全体側面図である。
【図2】図1の乗用型の田植機の平面図である。
【図3】繰出部の断面図である。
【図4】繰出伝動部の平面図である。
【図5】図4の繰出伝動部の側面図である。
【図6】コントロ−ルの入力操作部である。
【図7】別構成例に係る繰出伝動部の平面図である。
【図8】図7の繰出伝動部の側面図である。
【図9】図8のA矢視図である。
【図10】繰出量調節機構の要部構成例である。
【図11】操作部および表示部の配置正面図である。
【図12】図11の操作部の表示例の拡大図である。
【図13】図11の表示部の表示例の拡大図である。
【図14】制御部の入出力系統図である。
【図15】設定処理手順のフローチャートである。
【図16】施肥設定処理のフローチャートである。
【図17】累計演算の処理のフローチャートである。
【図18】表示部の収量情報の表示例である。
【図19】収量情報を表示するフローチャートである。
【図20】収量情報表示の施肥設定処理のフローチャートである。
【図21】圃場別に施肥条件を設けた例である。
【図22】施肥作業を自動切替する走行例である。
【図23】ティーチング行程によって作成される制御テーブルの例である。
【図24】ティーチングによる処理手順図である。
【符号の説明】
【0053】
1 乗用型田植機(農作業機)
6 前輪
7 後輪
8 操縦席
10 苗植付部
14 植付伝動軸
15 施肥機
19 繰出部
31 肥料ホッパ
32 導管
33 施肥部
40 調節量検出部(回転数検出部)
41 繰出量調節機構(繰出量変更手段)
55 入力操作部
71 繰出量調節機構(繰出量変更手段)
81a ステアリングコラム(操縦部)
81 操舵ハンドル(操縦部)
85a 操作部
85b 表示部
86 施肥量設定手段
89 可変スイッチ(施肥量選択手段)
92 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰出部(19)から肥料ホッパ(31)内の肥料を導管(32)を介して施肥部(33)へ移送して圃場に施肥を行う施肥機(15)において、
単位面積当たりの設定施肥量として複数個の設定値を入力できる施肥量設定手段(86)と、この施肥量設定手段(86)で設定した複数個の設定値から使用する設定値を選択するための施肥量選択手段(89)と、繰出部(19)の繰出量を変更する繰出量変更手段(41)と、前記施肥量選択手段(89)で選択された設定値に基づいて前記繰出量変更手段(41)を制御する制御部(92)と、繰出部(19)の回転数検出部(40)とを設けたことを特徴とする施肥機。
【請求項2】
繰出部(19)から肥料ホッパ(31)内の肥料を導管(32)を介して施肥部(33)へ移送して圃場に施肥を行う施肥機(15)において、
繰出部(19)の繰出量を変更する繰出量変更手段(41)と、前記繰出量変更手段(41)を制御する制御部(92)とを設け、作業方向に施肥量変更が必要な圃場における施肥作業で、作業開始後の最初の直線作業時に繰出量変更の順番及びその設定施肥量毎の施肥量の累計を記憶するテイーチング手段と、該テイーチング手段によるテイーチング後の直線作業時に前記繰出量変更の順番及びその設定施肥量毎の施肥量の累計に基づいて自動的に繰出量を変更する手段とを設けたことを特徴とする施肥機。
【請求項3】
圃場番号を選択する圃場設定手段を設け、圃場設定手段により選択された圃場番号に対して複数個の設定施肥量を設定できる構成とし、該設定施肥量に基づいて前記繰出量変更手段(41)を制御する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の施肥機。
【請求項4】
繰出部(19)の回転数検出部(40)と、繰出部(19)の回転総数を検出する対象時間を設定する検出時間設定手段と、前記回転数検出部(40)の検出に基づいて前記検出時間設定手段で設定された時間内の繰出部(19)の回転総数を演算する制御部(92)と、前記回転総数に基づく総施肥量に関する情報を表示する表示部(85b)とを設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の施肥機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2006−20507(P2006−20507A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198797(P2004−198797)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託調査の成果に係る特許出願(平成15年度独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構委託調査、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】