説明

施釉製品、その製造方法、銀検出方法及び銀回収方法

【課題】銀を釉層最表面付近に濃縮させることができる施釉製品と、その製造方法を提供する。釉層中の銀を容易に検出することができる方法を提供する。釉層から銀を容易に回収することができる方法を提供する。
【解決手段】銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品素材の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成し、含アルカリシリケート層を形成する。釉層中の銀が移動し、銀濃度の高い含アルカリシリケート層が形成されるこの含アルカリシリケート層は黄色を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性タイルなど銀含有釉層を有した施釉製品と、その製造方法に関する。また、本発明は、釉層中の銀を検出する方法及び釉層から銀を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性タイルや抗菌性ホーローなどのように、銀含有釉層を有した抗菌性施釉製品が広く用いられている。
【0003】
特開2003−54988には、セラミックス表面に銀を含まない第1の釉薬を掛けた後、銀を含む第2の釉薬を薄く掛け、その後、焼成して表面の銀濃度が高い施釉製品を比較的少ない銀使用量にて製造する方法が記載されている。
【0004】
特開2001−261379の[0037]〜[0050]段落には、釉層を有した陶器を硝酸銀水溶液中に浸漬させた後、100℃に加温して銀を釉層に担持させることが記載されている。
【0005】
なお、特開2002−160984には、釉掛けしていないタイル素地成形体に水ガラスを付着させた後、焼成するタイルの製造方法が記載されているが、この水ガラスはタイル表面の微細気孔を閉塞させる封孔処理のためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−54988
【特許文献2】特開2001−261379
【特許文献3】特開2002−160984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2003−54988のように、銀を含む釉薬を付着させて焼成した施釉製品の場合、銀は釉層全体に分布することになる。施釉製品に抗菌性を付与するために作用する銀は、釉層表面付近に存在するものであるため、釉層中に均一に銀が存在する場合には、銀含有量の高い第2の釉薬を用いたとしても、抗菌性に寄与しない銀の割合が多い。
【0008】
特開2001−261379のように、硝酸銀水溶液を染み込ませて銀を担持させた施釉製品にあっては、施釉製品表面から銀イオンが溶離し易く、長期にわたる抗菌性は劣るものと考えられる。
【0009】
本発明は、銀を釉層最表面付近に濃縮させた施釉製品と、その製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、釉層中の銀を容易に検出することができる方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、釉層から銀を容易に回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の施釉製品は、基材表面に銀を含有した釉層が設けられた施釉製品において、該釉層の表面に含アルカリシリケート層が焼き付けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の施釉製品は、請求項1において、前記釉層の銀含有率が0.001〜10wt%であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の施釉製品は、請求項1又は2において、前記含アルカリシリケート層の厚さが50〜5000nmであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の施釉製品の製造方法は、銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品素材の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の釉層中の銀検出方法は、銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成し、表面の黄色の呈色状態を測定することにより釉層中の銀を検出することを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の銀回収方法は、銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成し、その後、該釉層から銀を回収することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明者の研究によると、施釉製品の表面の銀を含有した釉層に水ガラス、又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させて300〜800℃で焼成して含アルカリシリケート層を形成すると、釉層中の銀がこの含アルカリシリケート層中に拡散移動してきて、該含アルカリシリケート層中に濃縮する現象が生じることが認められた。
【0017】
このように銀が移動する理由の1つとして、施釉製品表面から銀が蒸発しようとして施釉製品最表面に移動してきた銀イオンが含アルカリシリケート層に捕捉されることが考えられる。また、別の理由として、含アルカリシリケート層を水ガラスによって形成した場合、アルカリイオンと銀イオンとのイオン交換作用によって含アルカリシリケート層中に銀イオンが移動してくることも考えられる。銀イオンの含アルカリシリケート層への拡散のメカニズムの如何に拘らず、本発明の施釉製品は、銀を比較的高濃度に含む含アルカリシリケート層を最表面に有しており、抗菌性に寄与する銀の割合が多い。そのため、少ない銀の使用量で効果的な抗菌性を得ることができる。
【0018】
この含アルカリシリケート層中に移動してきた銀イオンは、含アルカリシリケート層中で、又は含アルカリシリケート層と釉層との界面付近で析出して銀コロイドを生じさせる。この銀コロイドは特有の黄色を呈することから、この黄色を検出することにより、釉層中に銀が存在していたことを検出することができる。また、この黄色を比色等によって定量することにより、釉層中に存在していた銀濃度を定量的に検出することも可能である。
【0019】
含アルカリシリケート層中に高度に銀を濃縮させた場合、この含アルカリシリケート層から銀を溶出させたり、含アルカリシリケート層自体を剥ぎ取ったりすることにより、銀を効率よく回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明の施釉製品は、基材表面に銀を含有した釉層が設けられ、この釉層の最表面に含アルカリシリケート層が設けられている。
【0023】
施釉製品は、陶磁器であってもよく、鉄などの金属製品に施釉したホーローであってもよい。陶磁器製品としては、タイルのほか、便器、流し鉢などの衛生陶器が例示される。
【0024】
釉層は、釉薬を基材に付着させ、焼成することにより基材に固着されたものである。釉層は、銀が配合されていればよく、その他の組成に特に限定はない。
【0025】
この釉薬中に含有させておく銀は、金属銀のほか、酸化銀、リン酸銀、硝酸銀、塩化銀などであってもよい。銀は、Agに換算して釉薬固形分100重量部中に対して0.001〜10重量部、特に0.01〜2重量部配合されていることが望ましい。
【0026】
釉薬は、溶融温度が800〜1250℃特に1100〜1250℃程度のものであることが好ましい。釉薬を塗布した後、この溶融温度よりも高い温度にて焼成し、釉層を形成する。
【0027】
その後、この釉層の上に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ前駆体を塗布し、乾燥させた後、300〜800℃特に400〜600℃にて5〜120分特に30〜60分焼成して水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ前駆体を釉層に焼き付ける。
【0028】
水ガラスとしては、ソーダ水ガラス、カリ水ガラス、リチウム水ガラスのいずれでもよいが、安価なソーダ水ガラスの方が好ましい。水ガラスは、原液のまま用いてもよいが、水で希釈して塗布するのが好ましい。
【0029】
シリカ前駆体としては、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシド、シランカップリング剤などを用いることができる。
【0030】
水ガラス等の塗布厚さは、焼成後の含アルカリシリケート層の厚さが50〜5000nm特に50〜800nm程度となる厚さが好ましい。
【0031】
塗布の方法は、スプレー、幕掛け、ロールコーターなど任意である。
【0032】
この焼成によって形成された含アルカリシリケート層中には、銀イオンの熱拡散又は水ガラス中のアルカリ(ナトリウム、カリウム又はリチウム)とのイオン交換作用によって銀が釉層中よりも高濃度に蓄積されている。銀の一部は、釉層と含アルカリシリケート層との界面付近にも存在することがある。含アルカリシリケート層に移動してきた銀イオンの一部は、析出して銀コロイドとなり、特有の黄色を呈する。
【0033】
なお、釉層の銀濃度が高いほど、含アルカリシリケート層に移動してくる銀の量が多くなる。従って、同一の焼成条件で焼成して形成した含アルカリシリケート層について黄色の濃淡を測定したり、銀濃度既知の釉層を有した施釉製品について施した含アルカリシリケート層の黄色と対比したりすることにより、釉層中に存在していた銀を検出したり、銀の濃度を検出したりすることができる。
【0034】
また、含アルカリシリケート層中又は含アルカリシリケート層と釉層との界面付近には、釉層中よりも銀が高濃度に蓄積しているので、この含アルカリシリケート層中や、含アルカリシリケート層と釉層との界面層付近から酸、特に硝酸によって銀を溶出させて銀を回収することができる。また、含アルカリシリケート層や、含アルカリシリケート層及び該界面層付近を剥ぎ取って銀を回収することも可能である。含アルカリシリケート層等を剥ぎ取るには、施釉製品の表面付近のみを切断したり、研磨によって剥離させる方法などを採用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0036】
[実施例1]
陶器質タイル製造用坏土をプレス成形し、50×50×6mmの成形体とした。
【0037】
これに、銀(Ag)を1重量%含有する銀含有白色釉薬を幕掛けにより釉掛けし、乾燥後、1240℃×1hrにて焼成し、施釉タイル(釉層付きタイル)とした。この施釉タイルの表面に3号水ガラスを水で濃度5%に希釈したものをスプレーによって塗布した。希釈液塗布量は50mg/100mmである。次いで、500℃に0.5時間保持し、水ガラス層を釉層に焼き付けた。
【0038】
このようにして製造した抗菌性タイル表面付近の断面についてEPMA分析を行い銀濃度の定量を行った。その結果を第1図に示す。
【0039】
[実施例2]
水ガラス濃度を3%としたこと以外は実施例1と同様にしてタイルを製造した。(希釈液の塗布量も実施例1と同じく50mg/100mmとした。)このタイルの表面付近の断面について同様にして銀濃度分布を測定し、その結果を第1図に示した。
【0040】
[実施例3]
水ガラス濃度を1%としたこと以外は実施例1と同様にしてタイルを製造した。(希釈液の塗布量も実施例1と同じく50mg/100mmとした。)このタイルの表面付近の断面について同様にして銀濃度分布を測定し、その結果を第1図に示した。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、水ガラスを塗布する前のタイルの表面付近の断面について同様にして銀濃度分布を測定し、その結果を第1図に示した。
【0042】
第1図より、水ガラス由来のソーダシリケート層中に銀が釉層よりも高濃度に存在していることが認められた。
【0043】
以上の実施例1〜3及び比較例1より、銀含有釉層に水ガラスによって含アルカリシリケート層を焼き付けると、最表面の銀濃度が高くなることが認められた。これにより、施釉製品の抗菌性が向上する。
【0044】
[実施例4〜12]
<実施例4,5,6>
釉薬の銀含有量を0.5重量%としたこと以外は実施例1,2,3と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。
【0045】
<実施例7,8,9>
釉薬の銀含有量を0.1重量%としたこと以外は実施例1,2,3と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。
【0046】
<実施例10,11,12>
釉薬の銀含有量を0.05重量%としたこと以外は実施例1,2,3と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。
【0047】
これらの実施例1〜12の抗菌性タイルと前記比較例1のタイルについて、タイル表面の色差を測定した。結果を第2図に示す。
【0048】
第2図より、釉薬中の銀濃度が高いほど、色差ΔEが大きくなることが認められた。これにより、元の釉層中の銀濃度を表面の黄色の濃さに基づいて判定できることが認められた。
【0049】
[実施例13〜24]
塗布する水ガラス希釈液の量を50mg/100mmから15mg/100mmに変更したこと以外は実施例1〜12と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。これらの実施例13〜24の抗菌性タイルと前記比較例1のタイルについて、タイル表面の色差を測定した。結果を第3図に示す。
【0050】
第3図より、釉薬中の銀濃度が高いほど、色差ΔEが大きくなることが認められた。これにより、元の釉層中の銀濃度を表面の黄色の濃さに基づいて判定できることが認められた。
【0051】
[実施例25〜44]
<実施例25〜28>
実施例3,6,9,12において、水ガラスの焼き付け時間を60分から15分に変更したこと以外は同一条件にて抗菌性タイルを製造した。焼き付け温度は実施例3,6,9,12と同じく500℃である。これらの抗菌性タイルについてタイル表面の色差を測定した。結果を第4図に示す。
【0052】
<実施例29〜32>
水ガラスの焼き付け温度を300℃としたこと以外は実施例25〜28と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。これらの抗菌性タイルについてタイル表面の色差を測定した。結果を第4図に示す。
【0053】
<実施例33〜36>
水ガラスの焼き付け温度を400℃としたこと以外は実施例25〜28と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。これらの抗菌性タイルについてタイル表面の色差を測定した。結果を第4図に示す。
【0054】
<実施例37〜40>
水ガラスの焼き付け温度を600℃としたこと以外は実施例25〜28と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。これらの抗菌性タイルについてタイル表面の色差を測定した。結果を第4図に示す。
【0055】
<実施例41〜44>
水ガラスの焼き付け温度を700℃としたこと以外は実施例25〜28と同一条件にて抗菌性タイルを製造した。これらの抗菌性タイルについてタイル表面の色差を測定した。結果を第4図に示す。
【0056】
<第4図の考察>
第4図の通り、焼き付け温度300℃〜500℃の範囲では、焼き付け温度が高いほど黄色が強くなる。しかしながら、焼き付け温度が500℃を超えると、逆に焼き付け温度が高いほど黄色が弱くなる。これは銀が蒸発するためであると推察される。
【0057】
なお、第4図においても、釉薬中の銀濃度が高いほど、タイル表面の黄色が濃くなることが認められる。これにより、元の釉層中の銀濃度を表面の黄色の濃さに基づいて判定できることが認められた。
【0058】
[実施例45〜48]
ソーダ水ガラス希釈液の代わりにカリ水ガラス希釈液(濃度1%)を用い、塗布量を50mg/100mmとし、焼き付け温度(硬化温度)を100℃(実施例45)、200℃(実施例46)、300℃(実施例47)又は400℃(実施例48)とした。その他は実施例1と同一条件とした。製造した抗菌性タイル表面の色差ΔEを測定し、結果を第5図に示した。
【0059】
[実施例49〜52]
カリ水ガラスの代りに珪酸リチウム水溶液(濃度1%)を用い、塗布量を50mg/100mmとしたこと以外は実施例45〜48と同一条件とした。製造した抗菌性タイル表面の色差ΔEを測定し、結果を第5図に示した。
【0060】
[実施例53〜56]
カリ水ガラスの代りにテトラエトキシシランの原液(濃度99.9%)を用い、塗布量を100mg/100mmとしたこと以外は実施例45〜48と同一条件とした。製造した抗菌性タイル表面の色差ΔEを測定し、結果を第5図に示した。
【0061】
第5図より、カリ水ガラス珪酸リチウム、テトラエトキシシランを用いた場合でも、銀が表面に濃縮することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に銀を含有した釉層が設けられた施釉製品において、該釉層の表面に含アルカリシリケート層が焼き付けられていることを特徴とする施釉製品。
【請求項2】
請求項1において、前記釉層の銀含有率が0.001〜10wt%であることを特徴とする施釉製品。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記含アルカリシリケート層の厚さが50〜5000nmであることを特徴とする施釉製品。
【請求項4】
銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品素材の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成することを特徴とする施釉製品の製造方法。
【請求項5】
銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成し、表面の黄色の呈色状態を測定することにより釉層中の銀を検出することを特徴とする釉層中の銀検出方法。
【請求項6】
銀を含有した釉層を基材表面に備えた施釉製品の該釉層の表面に、水ガラス又はシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体を付着させ、300〜800℃で焼成し、
その後、該釉層から銀を回収することを特徴とする銀回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−235397(P2010−235397A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85593(P2009−85593)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】