説明

施釉製品及びその製造方法

【課題】 抗菌処理部全体に亘り充分な抗菌効果を発揮可能とする施釉製品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 基材表面に着色性釉薬原料を適用する工程と、抗菌性金属が光還元担持された光触媒粒子が配合された透明性釉薬原料を前記着色釉薬層上に適用する工程とを含むことを特徴とする施釉製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大便器・小便器・洋式便器・和式便器等の便器、手洗い器・洗面器・便器タンク・便器のサナなどの衛生陶器や、外装・内装・キッチンバック・浴室壁・浴室床などのタイルや、皿・カップ・茶碗などの食器、碍子・プラグ・壺・甕等の陶磁器、浴槽・洗面器・浴室壁・システムキッチンの扉・キッチンシンク・キッチンカウンターなどの琺瑯製品、施釉セメント建材等の施釉製品及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】陶磁器の抗菌方法として、従来より、リン酸銀等の銀化合物と着色性釉薬原料との混合物を陶磁器素地に塗布して焼成する方法や、陶磁器素地に着色性釉薬を塗布した上に、リン酸銀等の銀化合物と透明性釉薬原料との混合物を塗布して焼成する方法が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、リン酸銀等の銀化合物と着色性釉薬原料との混合物を陶磁器素地に塗布して焼成する方法では、顔料粒子やジルコン粒子等の乳濁剤粒子の影響で、銀化合物は表面にほとんど露出せず、充分な抗菌性が発揮されない。陶磁器素地に着色性釉薬を塗布した上に、リン酸銀等の銀化合物と透明性釉薬原料との混合物を塗布して焼成する方法では、上記方法と比較して銀化合物が露出しやすくなるものの、銀化合物が焼成時にコロイド凝集するので、表面から見て微視的に銀が偏在するようになり、抗菌処理部全体に亘り充分に抗菌効果が発揮されない。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、抗菌処理部全体に亘り充分な抗菌効果を発揮可能とする施釉製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記課題を解決すべく、基材表面に着色性釉薬原料を適用する工程と、抗菌性金属が光還元担持された光触媒粒子が配合された透明性釉薬原料を前記着色釉薬層上に適用する工程とを含むことを特徴とする施釉製品の製造方法を提供する。銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属を予め光触媒粒子に担持させておくことで、抗菌性金属の焼成時のコロイド凝集が防止され、表面から見て抗菌性金属が均一に分散するようになるので、抗菌処理部全体に亘り充分な抗菌効果を発揮可能となる。
【0005】本発明の好ましい態様においては、前記透明性釉薬原料は固体配合物又はスラリー状であり、かつその固形分のうちの50〜99重量%は非晶質原料及び/又はレーザー回折装置におけるメディアン径が6μm以下の微粒子からなることを特徴とする施釉製品の製造方法を提供する。そうすることにより、表面が非常に平滑になり、それに伴い表面に菌が付着しにくくなる。従って、抗菌状態を非常に保ちやすくなる。ここで、製造される施釉製品の表面粗さRa(JIS−B0601)は、触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により70nm未満が好ましく、より好ましくは50nm未満であり、最も好ましくは30nm未満である。
【0006】本発明の好ましい態様においては、前記光触媒粒子はTiO2、ZnO、SnO2から選ばれる少なくとも1種であるようにする。これらの金属酸化物を構成する金属は釉薬原料にも一般的に含有されていることが多く、そのため釉薬原料に均一に分散されやすいので、表面から見て抗菌性金属がより均一に分散しやすい。従って、抗菌処理部全体に亘り充分な抗菌効果をより一層発揮可能となる。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の適用可能な施釉製品は、例えば、大便器・小便器・洋式便器・和式便器等の便器、手洗い器・洗面器・便器タンク・便器のサナなどの衛生陶器や、外装・内装・キッチンバック・浴室壁・浴室床などのタイルや、皿・カップ・茶碗などの食器、碍子・プラグ・壺・甕等の陶磁器、浴槽・洗面器・浴室壁・システムキッチンの扉・キッチンシンク・キッチンカウンターなどの琺瑯製品、施釉セメント建材等である。
【0008】本発明の基材には、例えば、陶磁器成形素地・陶磁器焼成素地などの陶磁器素地や、セメント・コンクリートや、鋳鉄・ステンレス・アルミニウムなどの金属が好適に利用できる。
【0009】着色性釉薬原料とは、ケイ砂、長石、石灰石等の天然鉱物の混合物及び/又はフリット等の非晶質原料に、顔料及び/又は乳濁剤を添加した釉薬原料をいう。
【0010】本発明における透明性釉薬原料とは、ケイ砂、長石、石灰石等の天然鉱物の混合物及び/又はフリット等の非晶質原料に、抗菌性金属が光還元担持された光触媒粒子が配合されており、かつ顔料及び乳濁剤が添加されていない釉薬原料をいう。
【0011】本発明における着色性釉薬原料や透明性釉薬原料の適用方法としては、一般的な施釉方法が利用でき、例えば、濡らし吹き・乾き吹きなどのスプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、フローコーティング法、バーコーティング法、印刷法、刷毛塗り法、スピンコーティング法等が好適に利用できる。
【0012】光触媒粒子としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、酸化第一鉄、三酸化タングステン、三酸化二ビスマス等の粒子が好適に利用でき、その好ましい平均粒径は5〜100nmである。
【0013】抗菌性金属としては、銀、銅、亜鉛のうちの少なくとも1種が利用可能である。
【0014】抗菌性金属を光触媒粒子に光還元担持する方法は、例えば、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、硫酸銀、クエン酸銀、硝酸第一銅、酢酸第一銅、乳酸第一銅、硫酸第一銅、クエン酸第一銅、硝酸第二銅、酢酸第二銅、乳酸第二銅、硫酸第二銅、クエン酸第二銅、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、クエン酸亜鉛等の抗菌性金属を含む塩の水溶液と、光触媒粒子分散液を混合した混合液に、紫外線を含む光を照射させることによる。
【0015】本発明の施釉製品では、表面の水との接触角は30°未満が好ましく、より好ましくは25°未満であり、最も好ましくは20°未満である。水との接触角は接触角測定器により測定可能である。
【0016】
【実施例】(実施例1)まず、ビーカーに入れた1重量%の硝酸銀水溶液の中に、住友大阪セメント製の超微粒子酸化亜鉛粉末ZnO−350を入れ、スターラーで撹拌しながら、三共電気製ブラックライトブルー蛍光灯FL20S−BLBを10cmの距離から30分間照射することにより、酸化亜鉛粉末に銀を光還元担持した。その後、粉末をろ過し、蒸留水で数回水洗してから乾燥させ、釉薬への添加用粉末とした。SiO2−Al23−Na2Oを主成分とする組成から成る#1釉薬原料2kgと水1kg及び球石4kgを、容積6リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約18時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Aとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Aの粒径を測定したところ、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が5.8μmであった。また、上記#1釉薬原料から乳濁剤と顔料を除いた組成からなる透明性釉薬基材を、電気炉を用いて1300〜1400℃にて溶融し、水中で急冷後、スタンプミルにより粉砕して透明性釉薬フリットを得た。透明性釉薬フリットとフリットではない透明性釉薬原料を重量比で7:3に混合し、この混合粉末600gと上記の如くして得られた銀を担持した酸化亜鉛粉末6.0g(釉薬基材に対して1.0重量%添加)と水400g及びアルミナボール1kgを、容積2リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約18時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Bとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Bの粒径を測定したところ、10μm以下が68%、50%平均粒径(D50)が6.0μmであった。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×150mmの板状成形体を作製した。この成形体上に、下層として釉薬Aをスプレーコーティングし、続いて、上層として釉薬Bをスプレーコーティングした後、1100〜1200℃で焼成することにより試料を得た。
【0017】得られた試料について、表面粗さ測定及び抗菌性試験を行った。試料表面の表面粗さは、触針式表面粗さ測定器(JIS−B0651)を用い、中心線表面粗さRa(JIS−B0601)を測定した。その結果、Ra=0.03μmであった。抗菌性試験については、大腸菌(Eschericia coli,IFO3972)に対する殺菌効果を評価した。すなわち、あらかじめ70vol%のエタノールで殺菌し、乾燥させておいた上記試料の釉薬層表面に、菌液0.2ml(菌数:1×105〜5×105個)を滴下し、45×45mmのポリエチレン製フィルムで被覆して密着させ、温度37±1℃、相対湿度90%以上の雰囲気中で24時間静置した。その後、フィルムをはがし、NA培地でスタンプし、温度35±1℃の環境下で16〜20時間培養して生菌数を測定した。同時に、抗菌性の無いブランクサンプル(対照品)で試験して培養した菌数と、上記サンプル(供試品)で試験して培養した菌数を比較することにより、減菌率及び増殖抑制率を算出し、抗菌性を判定した。減菌率は、以下の式により計算される。
減菌率(%)=100×([対照品生残菌数]−[供試品生残菌数])/[対照品生残菌数]
また、増殖抑制率は、以下の式により計算される。
増殖抑制率=log([対照品生残菌数]/[供試品生残菌数])
なお、抗菌効果の有無の判定基準は、上記減菌率が99%以上又は増殖抑制率が2.0以上の場合「抗菌効果あり」、それ以下の場合は「抗菌効果なし」と判定する。その結果、本実施例1試料の減菌率は99.99991%、増殖抑制率は6.0であり、「抗菌効果あり」と判定された。
【0018】(実施例2)ビーカーに入れた1重量%の硝酸銀水溶液の中に、石原産業製のアナターゼ型酸化チタン粉末ST−01を入れ、スターラーで撹拌しながら、三共電気製ブラックライトブルー蛍光灯FL20S−BLBを10cmの距離から20分間照射することにより、酸化チタン粉末に銀を光還元担持した。その後、粉末をろ過し、蒸留水で数回水洗してから乾燥させ、添加用粉末とした。また、上記実施例1で用いた#1釉薬原料から乳濁剤と顔料を除いた組成からなる透明性釉薬基材を、電気炉を用いて1300〜1400℃にて溶融し、水中で急冷後、スタンプミルにより粉砕して透明性釉薬フリットを得た。透明性釉薬フリットとフリットではない透明性釉薬原料を重量比で7:3に混合し、この混合粉末600gと上記の如くして得られた銀を担持した酸化チタン粉末6.0g(釉薬基材に対して1.0重量%添加)と水400g及びアルミナボール1kgを、容積2リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約18時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Cとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Cの粒径を測定したところ、10μm以下が68%、50%平均粒径(D50)が6.0μmであった。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×150mmの板状成形体を作製した。この成形体上に、下層として前記実施例1で作製した釉薬Aをスプレーコーティングし、続いて、上層として釉薬Cをスプレーコーティングした後、1100〜1200℃で焼成することにより試料を得た。
【0019】得られた試料について、、実施例1と同様に表面粗さ測定を行ったところ、Ra=0.05μmであった。また、実施例1と同様に抗菌性試験を行ったところ、本実施例2試料の減菌率は99.994%、増殖抑制率4.2であり、「抗菌性あり」と判定された。
【0020】(実施例3)ビーカーに入れた1重量%の硝酸銀水溶液の中に、同和鉱業製の酸化スズ粉末TDSN−1を入れ、スターラーで撹拌しながら、ウシオ電機製水銀−キセノンランプUXM−200Hを30cmの距離から30分間照射することにより、酸化スズ粉末に銀を光還元担持した。その後、粉末をろ過し、蒸留水で数回水洗してから乾燥させ、添加用粉末とした。また、上記実施例1で用いた#1釉薬原料から乳濁剤と顔料を除いた組成からなる透明性釉薬基材を、電気炉を用いて1300〜1400℃にて溶融し、水中で急冷後、スタンプミルにより粉砕して透明性釉薬フリットを得た。透明性釉薬フリットとフリットではない透明性釉薬原料を重量比で7:3に混合し、この混合粉末600gと上記の如くして得られた銀を担持した酸化スズ粉末6.0g(釉薬基材に対して1.0重量%添加)と水400g及びアルミナボール1kgを、容積2リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約18時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Dとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Dの粒径を測定したところ、10μm以下が68%、50%平均粒径(D50)が6.0μmであった。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×150mmの板状成形体を作製した。この成形体上に、下層として前記実施例1で作製した釉薬Aをスプレーコーティングし、続いて、上層として釉薬Dをスプレーコーティングした後、1100〜1200℃で焼成することにより試料を得た。
【0021】得られた試料について、、実施例1と同様に表面粗さ測定を行ったところ、Ra=0.03μmであった。また、実施例1と同様に抗菌性試験を行ったところ、本実施例3試料の減菌率は99.9995%、増殖抑制率5.3であり、「抗菌性あり」と判定された。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、抗菌処理部全体に亘り充分な抗菌効果を発揮可能とする施釉製品及びその製造方法を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に着色性釉薬原料を適用する工程と、抗菌性金属が光還元担持された光触媒粒子が配合された透明性釉薬原料を前記着色釉薬層上に適用する工程とを含むことを特徴とする施釉製品の製造方法。
【請求項2】 前記透明性釉薬原料は固体配合物又はスラリー状であり、かつその固形分のうちの50〜99重量%は非晶質原料及び/又はレーザー回折装置におけるメディアン径が6μm以下の微粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の施釉製品の製造方法。
【請求項3】 前記光触媒粒子はTiO2、ZnO、SnO2から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の施釉製品の製造方法。
【請求項4】 請求項1〜3の製造方法により作製されうる、表面粗さRaが触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により70nm未満であり、かつ抗菌性を有する施釉製品。
【請求項5】 請求項1〜3の製造方法により作製されうる、表面粗さRaが触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により50nm未満であり、かつ抗菌性を有する施釉製品。
【請求項6】 請求項1〜3の製造方法により作製されうる、表面粗さRaが触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により30nm未満であり、かつ抗菌性を有する施釉製品。
【請求項7】 表面の水との接触角が30°未満であることを特徴とする請求項4〜6に記載の施釉製品。
【請求項8】 表面の水との接触角が25°未満であることを特徴とする請求項4〜6に記載の施釉製品。
【請求項9】 表面の水との接触角が20°未満であることを特徴とする請求項4〜6に記載の施釉製品。
【請求項10】 前記施釉製品は、陶磁器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項11】 前記施釉製品は、琺瑯製品であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項12】 前記施釉製品は、施釉セメント建材であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項13】 前記施釉製品は、衛生陶器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項14】 前記施釉製品は、タイルであることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項15】 前記施釉製品は、食器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項16】 前記施釉製品は、碍子であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項17】 前記施釉製品は、便器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項18】 前記施釉製品は、洗面器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項19】 前記施釉製品は、便器タンクであることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項20】 前記施釉製品は、手洗器であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項21】 前記施釉製品は、便器のサナであることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。
【請求項22】 前記施釉製品は、浴槽であることを特徴とする請求項4〜9に記載の施釉製品。

【公開番号】特開2001−19573(P2001−19573A)
【公開日】平成13年1月23日(2001.1.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−195373
【出願日】平成11年7月9日(1999.7.9)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】