説明

旅行時間予測装置及び方法

【課題】道路における事故、災害など突発事象の発生後の道路の旅行時間を、精度よく予測する。
【解決手段】突発事象の発生した区間を含む旅行時間の予測対象区間を設定し、前記予測対象区間を複数のブロックに分割し、ある時刻tにおける各ブロック内の交通密度を算出し、前記各ブロック内の交通密度に基づいて、隣接するブロック間で移動可能な交通量を算出し、前記各ブロック内の交通密度と、前記隣接するブロック間で移動可能な交通量とに基づいて、先の時刻t+ΔTにおける各ブロックの交通密度を予測し、旅行時間を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路における事故、災害など突発事象の発生後の道路の旅行時間を予測する旅行時間予測装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路に車両感知器を設置して現時点の道路の旅行時間データを取得し、この旅行時間データに基づいて、将来の旅行時間を予測することが行われている。
この予測方法としては、過去の旅行時間データを統計情報として蓄積しておき、現在の旅行時間が過去と同じように増減していく(同じパターンで推移する)とみなして、旅行時間を予測する。
【0003】
一方、道路を走行する車両の旅行時間を算出するのに、単位距離のブロックを接続して道路モデルを形成し、各ブロックの交通密度及び設定された交通量−密度曲線に従ってブロック間の交通量を計算し、この交通量に相当する台数を移動させて交通流を表現する方法がある。
【特許文献1】特開2002-260142号公報
【特許文献2】特開平9-147285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、道路において事故、災害など突発事象が発生した場合に、過去に蓄積した旅行時間データを用いても、精度のよい予測ができない。
そこで、本発明は、道路における事故、災害など突発事象の発生後の道路の旅行時間を、精度よく予測することができる旅行時間予測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の旅行時間予測装置は、突発事象の発生した区間を含む旅行時間の予測対象区間を設定する設定手段と、前記予測対象区間を複数のブロックに分割し、ある時刻における各ブロック内の交通密度を算出する交通密度算出手段と、前記各ブロック内の交通密度に基づいて、前記ある時刻における隣接するブロック間で移動可能な交通量を算出する移動可能交通量算出手段と、前記各ブロック内の交通密度と、前記隣接するブロック間で移動可能な交通量とに基づいて、先の時刻における各ブロックの交通密度を予測する交通密度予測手段と、前記交通密度予測手段により予測された先の時刻における各ブロックの交通密度に基づいて旅行時間を予測する旅行時間予測手段とを有するものである。
【0006】
この旅行時間予測装置は、突発事象により規制の発生した区間を含む予測対象区間を設定し、単位長さのブロックに分割する。分割したブロックに対し、取得済みの各リンクの旅行時間から各ブロックに旅行時間を配分し、旅行時間を速度に換算し、各ブロックの交通密度を算出する。
速度を交通密度に換算するには、速度−交通密度曲線を用いることができる。
【0007】
速度−交通密度曲線を用いる場合、取得された交通速度が自由流速度である場合は、交通の流れが飽和していないので、交通密度を一意的に求めることはできない。そこであらかじめ記憶した当該予測対象区間の属する路線、地域、日種(曜日、休日など)、時間帯の少なくとも1つ以上の組み合わせにかかわる交通密度の情報を参照して、交通密度を決定するとよい。
【0008】
また、交通密度を変えて旅行時間を予測し、同条件下で取得した実際の旅行時間との平均誤差を求め、平均誤差が最小となる交通密度をデータとして記憶しておくとよい。
そして、前記各ブロック内の交通密度に基づいて、前記ある時刻における隣接するブロック間で移動可能な交通量を算出する。
具体的には、各ブロックの交通密度に基づいて、各ブロックごとにブロックから出ることのできる交通量とブロックに入ることのできる交通量を算出する。隣り合うブロック間で、上流側のブロックから出ることのできる交通量と下流側のブロックに入ることのできる交通量を比較し、小さい方の交通量をブロック間の移動可能交通量とする。
【0009】
このブロック間で移動可能な交通量を算出するには、交通量−交通密度曲線を用いることができる。
この場合、突発事象の発生したブロックでは、移動可能な交通量が車線規制によって絞られることを考慮する。すなわち、突発事象の発生した区間の車線絞り率に応じて異なった交通量−交通密度曲線を用いる。
【0010】
前記「異なった交通量−交通密度曲線」は、例えば、突発事象の発生した区間の絞り率に応じて異なった臨界交通密度、及びジャム交通密度が設定された曲線である。
この移動可能な交通量と、前記各ブロック内の交通密度とに基づいて、先の時刻における各ブロックの交通密度を予測する。交通密度が予測できれば、交通密度を車両の速度に変換し、旅行時間を求めることができる。
【0011】
そして、一定の時間間隔で前記の処理を繰り返し、任意の将来時点における旅行時間を予測することができる。
なお、前記予測対象区間の上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量は、前記「ブロック間の移動可能な交通量」とは別に求めておく。
例えば、前記予測対象区間の上流端又は下流端に隣接するリンクの旅行時間に基づいて速度を求め、その速度から当該リンクの交通密度を求め、この交通密度を用いて上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量を算出することができる。
【0012】
この「前記予測対象区間の上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量」は、予測対象区間から外れた区間の交通量であるので、突発事象の影響が薄い。そこで例えば、従来手法(旅行時間推移のパターンマッチング及び統計情報を用いた予測手法)を用いて求められた値を採用してもよい。また、現在時点の当該リンクの旅行時間を変動のない一定値として用いてもよい。
【0013】
前記旅行時間予測処理を開始するタイミングは、突発事象に関する情報を取得したとき、又はリンクの旅行時間の情報を複数の時間帯にわたって取得し、その時間帯の旅行時間の増加割合が所定の範囲外になったとき、とするとよい。
後者の場合、旅行時間が急激に増加するので、突発事象が発生したと判定することができる。
【0014】
突発事象が発生したと判断した場合には、対象のリンクに対し、突発対応の旅行時間予測を開始する。
旅行時間予測の終了は、突発事象に基づいた規制が解消すると考えられる時間の経過時としてもよい。
前記規制解消時間は、突発事象の種類に応じて、それぞれ設定しておいてもよい。
【0015】
また、本発明の旅行時間予測方法は、前記本発明の旅行時間予測装置と実質同一発明にかかる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施の形態では、旅行時間予測装置は、外部からの道路規制情報を常に監視し、道路規制情報をリストアップしておく。通常は[背景技術]で述べたパターンマッチング・統計情報を用いた方法により旅行時間の予測を行っている。ひとたび突発事象が発生すると、規制リストより道路規制情報を取得し、突発が発生した地点を含む予測対象区間を対象にし、本手法を用いた予測を行う。
【0017】
通常の予測から、突発事象対応の旅行時間予測への切り替えタイミングについては、所定の外部機関から突発事象に関する情報、例えば道路規制情報を取得したときに行う。また、所定の外部機関から取得した旅行時間の増加が急激である場合、例えば取得した旅行時間の推移が、過去の事故時の旅行時間増加を分析した結果と比較して増加率が大きいとき、突発事象が発生したとする。
【0018】
以下、突発事象対応の旅行時間予測処理を説明する。
まず、用語の定義を行う。
リンク:路線の道路区間の一単位をいう。
予測対象区間:旅行時間を予測したい道路区間。少なくとも突発事象が発生したリンクを含む一連のリンクをいう。予測対象区間は、突発事象によって渋滞が発生すると予想される範囲を選択する。
【0019】
自由流速度Vf:車両が自由に走行できる速度。一定値とする。
スキャン時間ΔT:旅行時間予測処理のための1サイクルの処理時間、一定値とする。この1サイクルで予測対象の全ブロックの処理をする。
ブロックB:リンクをさらに分割した区間であって、車両が自由流速度Vf で走行したときに、スキャン時間 ΔTの間に通過する区間。1ブロックの距離Lを「ブロック長」という。 ブロック長 は一定値となる。
【0020】
交通量Q:単位時間に地点を通過する車両台数(台/時間)。
交通密度K:ブロック内に存在する単位距離あたりの車両台数(台/距離)。交通量Qと交通密度Kと速度Vの間には、「交通量Q=交通密度K×速度V」の関係がある。
臨界交通密度Kc:交通密度Kが増大して渋滞が始まるときの交通密度。
ジャム交通密度Kjam:渋滞の程度が増大して車両の動きが止まったときの交通密度。
【0021】
図1は、予測対象区間を示す道路図である。予測対象区間は、一連のつながったリンク1〜3からなる。各リンク1〜3はそれぞれブロックに分割される。ブロックに一連の番号を付けて、ブロックB0〜B8とする。
本実施の形態では、ブロックの番号は、車両の走行方向下流から上流に行くにつれて番号が増えていくように付ける。すなわち、車両の走行方向は、B8→B0の方向とする。最上流のブロックB8を始端ブロック、最下流のブロックB0を終端ブロックいう。
【0022】
なお、図1では、予測対象区間を構成するリンク数は3,ブロック数は9としたが、本発明の実施はこれらの数に限られるものではない。
本発明のリンク旅行時間予測装置は、突発事象が発生すると、突発事象が発生したリンクを含む予測対象区間を特定し、ブロック間を伝わる交通量と各ブロックの交通密度を取得し、先の時刻における各ブロックの交通密度を算出し、これらの各ブロックの交通密度に基づいて各ブロックの速度を求め、旅行時間を予測する。
【0023】
以下、ブロックを表す添え字を狽鉛とする。
時刻tにおける、ブロックBi+1からブロックBiに入る交通量をQi+1,i(t)、ブロックBiの交通密度をKi(t)と表記する。
図2は、ブロック間の交通量と、ブロック内の交通密度の関係を図示した模式図である。図2では、時刻tにおける交通量、交通密度が、時刻t+ΔTにおける交通量、交通密度に推移する様子を示している。 例えば、ブロックBiに注目すると、ブロックBiに流入する交通量Qi+1,i(t)と、ブロックBiから流出する交通量Qi,i-1(t)によって、時刻tにおける交通密度Ki(t)が、時刻t+ΔTでは交通密度Ki(t+ΔT)に移行する。
【0024】
突発事象が起こったときの道路の状態を模式的に示すと、図3のようになる。図3は、二車線道路でブロックBiの中で事故や災害が起こり、一車線が走行不能になった状態を示す。ただし隣接するブロックBi-1 やブロックBi+1では、二車線とも走行可能である。このようなブロックBiの車線減少状態を「絞り」(アイリス)といい、車線減少後の通行可能車線に対する全車線の割合を「絞り率」という。図3ではブロックBiにおける絞り率は0.5である。ただし、一車線しかない道路の場合は、車線が減少すれば通行可能な車線はなくなり、絞り率は0となるが、この場合、路肩走行できるものと想定して、絞り率は0より大きなある値(0.1から0.3)に設定する。
【0025】
以下、突発事象発生後の旅行時間予測アルゴリズムを説明する。
突発事象が発生すれば、渋滞予測したい予測対象区間を特定する。予測対象区間は、1本のリンクのみの場合もあり、複数本のリンクがつながった場合もある。
リンクをブロックに分解し、各ブロックごとに、そのブロックに流入、流出する交通量と、ブロック内の交通密度とを求める。
【0026】
図4は、全体の流れを示すブロック図である。
全プロセスは、突発事象を検出するための突発事象検出プロセス12と、旅行時間予測プロセス13とを含む。この他に、図示しないが、突発事象が発生しなくても進行する通常時旅行時間予測プロセスがある。
全体の流れを説明すると、まず、外部機関から受信されるリンク旅行時間・規制データを常時メモリ14に蓄積しておく。リンク旅行時間・規制データは、リンク旅行時間データとともに、突発事象発生の有無、発生場所、車線規制の有無、絞り率の情報を含む。
【0027】
突発事象検出プロセス12では、一定時間ごと、例えば1分ごとにそのメモリ14を読みに行く。
また、突発事象検出プロセス12は、リンクのつながりを見るために、必要な時に道路地図データを読みに行く。
突発事象検出プロセス12は、リンク旅行時間・規制データと道路地図データとに基づいて、突発事象が発生した時に、表1に示すような突発事象発生テーブルを作成し、メモリ16に記憶する。
【0028】
【表1】

【0029】
表1において、「時刻」は、メモリ14を読みに行った時刻(例えば1分ごと)のことである。「規制発生メッシュ番号」は、突発事象の発生した場所を含む地図番号のことである。「規制発生リンク番号」は突発事象の発生したリンクを特定するための番号のことである。「規制開始位置」は、車線規制された道路の上流端位置であり、「規制終了位置」は、車線規制された道路の下流端位置である。「規制の種別情報」は、事故、災害などの突発事象の種別、通行可能な車線数、絞り率を示す。「リンク旅行時間・規制データ」は、メモリ14から取得したデータである。
【0030】
旅行時間予測プロセスは、予測周期ごと、例えば5分ごとにメモリ16の突発事象発生テーブルを読みに行く。
旅行時間予測プロセスは、突発事象発生テーブルから読み出されたブロック内の交通密度と、そのブロックに流入、流出する交通量とに基づいて旅行時間予測演算を行う。
図5は、横軸に交通密度、縦軸に交通量をとったときの、ブロック内の交通密度Kと交通量Qとの関係を示すグラフである。このグラフを「交通量−交通密度曲線」という。交通密度Kが臨界交通密度Kc以下のときは、自由流領域といい、車両は渋滞することなく、自由流速度Vfで走行することができる。臨界交通密度Kc以下であれば、交通量Qは、交通密度に比例して増大する。臨界交通密度Kcになったときの交通量Qcは、そのブロックが保持することができる最大交通量を示している。臨界交通密度Kcを超えれば、交通量Qは交通密度が増えるに連れて減少していく。交通密度Kがジャム交通密度Kjamになったとき交通量は0になる。これは、渋滞で車両が動かなくなったことを意味する。
【0031】
以上のグラフを式で表せば次のようになる。添え字iはブロックの添え字である。(t)は時間の関数であることを表す。
Qi(t)=K i(t) ×Vf (K (t) ≦Kcの場合) (1)
Qi(t)=Qci (Kjam−Ki(t))/(Kjam−Kci)
(Kc<K (t) ≦Kjamの場合) (2)
図6は、横軸に交通密度、縦軸に走行速度をとったときの、ブロック内の交通密度Kと走行速度Vとの関係を示すグラフである。このグラフを「速度−交通密度曲線」という。交通密度Kが臨界交通密度Kc以下のときは、車両は、一定の速度(自由流速度)Vfで走行しているものとする。臨界交通密度Kcを超えれば、速度Vは減少していく。交通密度Kがジャム交通密度Kjamになったとき速度は0になる。
【0032】
以上のグラフを式で表せば、
Ki(t)=αKci (V=Vfの場合) (3)
Ki(t)=KjamQci /[V(Kjam−Kci)+Qci]
(V<Vfの場合) (4)
となる。αは0から1までの定数であるが、V=Vfの場合、走行速度Vfが与えられても、 Ki(t)は一意的に定まらない。この場合の取り扱いについては後述する。
【0033】
ブロックBiからの流出可能交通量Aoutは、次の式で表される。
Aout,i(t)=min{Ki(t),Kci}Vf (5)
すなわち、ブロックBiからの流出可能交通量Aoutは、その時刻の交通密度Kと臨界交通密度Kc とのうち小さい方の値と、 自由流速度Vfとの積で表される。
ブロックBiへの流入可能交通量Ainは次の式で表される。
【0034】
Ain,i(t)=(Kjam−Ki(t))Vf (K(t) ≦Kcの場合) (6)
Ain,i(t)=Kci(Kjam−Ki(t))Vf/(Kjam−Kci) (Kc<K(t)<Kjamの場合) (7)
Ain,i(t)=0 (K(t)=Kjamの場合) (8)
この式は図5のグラフそのものである。
【0035】
ブロック間(ブロックBi+1から出てブロックBiに入る)の移動可能な交通量Qi+1,i(t)は、ブロックBiの流入可能交通量Ain,i(t)と、ブロックBi+1からの流出可能交通量Aout,i+1(t)のうち、小さい方で表される。
Qi+1,i(t)=min{Ain,i(t),Aout,i+1(t)} (9)
t+ΔTの時点におけるブロックBiの交通密度は、tの時点におけるブロックBiの交通密度Ki(t)に、ブロックBiから出て行く交通密度(交通量を速度で割った値)を引き、ブロックBi+1から入ってくる交通密度(交通量を速度で割った値)を足すことにより求めることができる。
【0036】
Ki(t+ΔT)=Ki(t)−Qi,i-1(t)/Vf+Qi+1,i(t)/Vf (10)
これで、tの時点におけるブロックBiの交通密度に基づいて、t+ΔTの時点におけるブロックBiの交通密度を予測することができる。
また、前記(5)式から(9) 式を使えば、t+ΔTの時点におけるブロックBiの交通密度を使って、t+2ΔTの時点における交通密度も計算することができる。このようにして、 t+nΔT (n≧1)の時点における交通密度を算出することができる。
【0037】
このようにして、ブロックごとの交通密度を算出すれば、(3),(4)式(図6)に基づいて交通密度を速度に変換することができる。この速度を用いて、ブロックの旅行時間を求め、予測対象区間を構成するブロックについて、旅行時間を加算すれば、予測対象区間の旅行時間が求まる。
次に、本発明のリンク旅行時間予測装置が以上に説明した予測方法を実行する場合の計算処理手順を、フローチャートに基づいて説明する。
【0038】
全体フローチャートを図7に示す。全体フローチャートは、初期化処理と、予測精度判定処理と、交通密度算出処理と、旅行時間予測処理とに分かれる。
初期化処理(ステップS1)は、突発事象発生後の各種定数を設定する処理である。
予測精度判定処理(ステップS2)は、1スキャン時間前に求めた旅行時間の予測値と、メモリ14に蓄積された現在の旅行時間の値とを比較して、その差の絶対値が閾値以上(または1スキャン時間前に求めた旅行時間と現在の旅行時間との大きい方を小さい方で割った比が閾値以上)であれば、旅行時間予測を中止する処理である。これは、何らかの原因によりこの旅行時間予測が当たっていないと認められるので、計算資源を節約するためである。
【0039】
交通密度算出処理(ステップS3)は、前述した(5)式から(10)式を用いて 交通密度を算出する処理である。
旅行時間予測処理(ステップS4)は、前述したように、(3),(4)式に基づいて交通密度を速度に変換し、この速度を用いて、予測対象区間の旅行時間を求める処理である。
以下、初期化処理(ステップS1)の内容を、図8を参照してさらに詳しく説明する。
【0040】
旅行時間予測プロセス13は、メモリ14の旅行時間・規制データを参照して突発事象の発生を検知すると、予測対象区間を特定する(ステップS11)。この特定方法は、突発事象発生の場所を含むブロックから上流に所定本数(a本)のリンクを選定し、下流に所定本数(b本)のリンクを選定する。本数a、bともに、突発事象によって渋滞が予測される最大区間数にとる。一般には、渋滞は突発事象発生場所の上流側に波及していくので、a>bである。例えばaを5kmから10kmに相当するリンク数とし、bを0kmから2kmに相当するリンク数とする。そして、リンク内をブロックに分割する。1ブロック長は、自由流速度Vfが100km/hで、かつスキャン時間ΔTが10秒の場合、270m程度である。
【0041】
次に、予測精度判定を行う(ステップS12)。この処理は、前述したとおり、1予測周期前に求めた旅行時間と、メモリ14に蓄積された現在の旅行時間の値とを比較して、その差の絶対値が閾値以上であれば、旅行時間予測を中止する処理である。旅行時間予測を中止する場合は、ステップS16にあるように、メモリ16に「2:予測を中止」を設定する。
【0042】
予測を中止しない場合は、各ブロック内の変数の取得・設定を行う(ステップS14)。変数としては、「自由流速度」「臨界交通密度Kci」「ジャム交通密度Kjam」「絞り率」がある。
自由流速度、臨界交通密度、ジャム交通密度は、路線又はリンクに固有な値であり、メモリ15の道路地図テーブルの中に記憶されている。
【0043】
絞り率は、外部機関から与えられた規制情報を基にして設定され、突発事象発生情報として、メモリ16のテーブルに蓄積されている数値である。
旅行時間予測プロセス13は、突発事象の起こったブロックで絞り率を設定する。この絞り率に応じて、当該ブロックの臨界交通密度Kc、ジャム交通密度Kjamを小さくする。この様子を図5に矢印で示している。例えば、絞り率が0.5であれば、臨界交通密度Kc、ジャム交通密度Kjamも半分にする。
【0044】
つぎに、ブロック内の現在の交通密度 Ki(t)を取得して、流入・流出可能交通量Ain,i(t),Aout,i(t)を算出する(ステップS15)。
この交通密度Ki(t)は、 外部機関から与えられメモリ16に蓄えられている旅行時間データに基づいて算出される。すなわち、旅行時間から速度を求め、速度から交通密度を求める。
【0045】
旅行時間から速度を求める方法は、リンクの旅行時間をブロック長に応じてブロック単位に分割し、その分割した旅行時間をブロック長で割って求める。交通密度を求める算出式は、前記(3)式、(4)式(図6)である。 V<Vf の場合は、(4)式に基づいて交通密度は一意的に求まるが、 V=Vf の場合は、走行速度Vfが与えられても交通密度Ki(t)は一意的に定まらない。
【0046】
そこで、予測対象区間の路線(国道、地方道など)、日種、時間帯、天候に応じてαの値を道路地図テーブルなど所定のテーブルに設定しておく。例えば空いている時間帯ならばαを小さめに設定し、混んでいる時間帯ならばαを大きめに設定し、晴天ならばαを小さめに設定し、雨天ならばαを大きめに設定する等である。特別の曜日に混む路線であれば、日種も考慮する。αの決め方は、混みにくい状況(例えば空いている時間帯、晴天)の場合、経験上、交通密度も小さいのでαを小さく設定する。混みやすい状況(例えば混んでいる時間帯、雨天)の場合、経験上、交通密度も大きいのでαを大きく設定する。
【0047】
これらの路線、地域、日種別、時間帯より管理される交通密度の情報は、外部機関から受信されるリンク旅行時間のデータに基づいて更新してもよい。
また、過去の突発事象発生時の実績情報を用いて、自由流速度時の交通密度のパターンを変えて予測を行い、実績の旅行時間の推移に合うかどうかを、評価指数を用いて判定し、予測結果と実績の旅行時間の推移が最も合う時のパターンを該当時間帯、該当路線のパラメータとし、これを繰り返して行い、路線、地域、日種別、時間帯別の自由流速度時の交通密度を決定してもよい。
【0048】
このようにして、αの値が求まれば、交通密度K(t)を知ることができる。
交通密度K(t)が分かれば、(5)式、(6)式から、流入・流出可能交通量Ain,i(t),Aout,i(t)を計算することができる。
交通密度算出処理(ステップS3)の詳細は、図9のフローチャートに示される。
最初に、計算処理の回数Jを設定する。このJは、何時間先まで旅行時間を予測したいかによって決める。例えば1スキャン時間が1秒、3時間先まで予測したいならば、Jを10800と決める。
【0049】
まず計算処理の回数jを1に設定する(ステップS31)。
次に、予測対象区間の始端ブロックの上流端から流入する現在の交通量、すなわち、予測対象区間の始端ブロックの上流端に隣接するリンクから流出する現在の交通量を境界条件として設定する(ステップS32)。この交通量は、始端ブロックの上流に隣接するリンクの旅行時間をリンク長で割って速度を求め、求めた速度を図6のグラフに当てはめて、当該隣接するリンクの交通密度を求める。このとき、 V<Vf の場合は交通密度は一意的に求まるが、 V=Vf の場合は、走行速度が与えられても交通密度は一意的に定まらないので、前述したのと同様に、係数αを設定することにより一意的に求める。これらの交通密度と交通量−交通密度曲線を用いて交通量を算出する。
【0050】
なお、予測対象区間の始端ブロックを境界条件として設定することに加えて、終端ブロックの下流端の交通量を、境界条件として設定することもできる。
次に、規制が解消すると考えられる時間(規制解消時間という)が経過したかどうかを判定する(ステップS33)。この「規制解消時間」は、事故、災害などの突発事象の種別に関連して、経験的、統計的に決定するとよい。事故であれば、事故後処理によって通常U時間(例えばU=2)くらいで車線規制が解消するという過去の統計データがあれば、U時間という数値を設定する。災害であれば、通常W時間(例えばW=12)くらいで車線規制が解消するという過去の統計データがあれば、W時間という数値を設定する。
【0051】
前記時間が経過したかどうかを判定し(ステップS34)、経過すれば、絞り率を通常に戻す(ステップS35)。このように規制解消時間を設定することで、規制が解消していない段階で、規制の解消後の予測を行うことができる。
前記時間が経過していなければ、前記(9)式(10)式に基づいて、t+ΔTの時点における予測対象区間の各ブロックの交通密度を、tの時点におけるブロックBiの交通密度Ki(t)と、流入・流出可能交通量Ain,i(t),Aout,i(t)に基づいて予測する(ステップS36)。
【0052】
次に計算処理の回数がJに達したかどうかを判定する(ステップS37)。回数がJに達していなければ、計算処理の回数jに1を加算して(ステップS38)、その時点の上流端の境界条件を設定する(ステップS39)。
この場合の上流端の境界条件として、計算処理の回数jに相当する将来時点の交通量のデータが必要なので、ステップS32で行ったようにメモリ16に蓄えられている現在時点の旅行時間データを用いることは原則としてできない。そこで、次のような方法(1)又は(2)を用いる。
【0053】
(1)現在時点の旅行時間データを、将来時点の旅行時間データとみなして用いる。
(2)曜日、天候など同じ条件における過去の統計旅行時間の時間推移パターンの中から、直近の旅行時間推移パターンが似ているパターンを選択し、そのパターンに沿って現在時点の旅行時間データを延長して求める(特許文献1参照)。
図10は、現在時点の旅行時間データを延長する方法を説明するためのグラフであって、 曜日、天候など同じ条件における過去の統計旅行時間の時間推移パターンの中から選ばれたよく似たパターンをPで、現在時点までの旅行時間データの実績値をRで示している。将来の旅行時間データR′は、現在時点の旅行時間データを時間推移パターンPに沿って平行に延長することにより得られる。
【0054】
その後、ステップS34に移り、前記計算処理の回数がJに達するまで、ブロック交通密度予測処理(ステップS36)を繰り返す。
計算処理の回数がJに達すれば、旅行時間推定処理に入る(ステップS40)。この旅行時間推定処理は、各ブロックのブロック交通密度Kに基づいて、前記(3)式(4)式を使って求めることができる。
【0055】
このようにして各ブロックの旅行時間が求まるので、予測対象区間についてそれらを総和することにより、予測対象区間の旅行時間を求めることができる。
予測対象区間の旅行時間を求めた後は、通常のパターンマッチング・統計情報を用いた方法による旅行時間の予測値に、本手法による予測結果を上書きする。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】旅行時間を予測しようとする予測対象区間を示す道路図である。
【図2】ブロック間の交通量と、ブロック内の交通密度の関係を示す模式図である。
【図3】突発事象が起こったときの道路の状態を示す模式図である。
【図4】旅行時間予測処理の全体の流れを示すブロック図である。
【図5】ブロック内の交通密度と交通量との関係を示すグラフである。
【図6】ブロック内の交通密度と走行速度Vとの関係を示すグラフである。
【図7】本発明のリンク旅行時間予測方法を実行する場合の計算処理手順を示す全体フローチャートである。
【図8】初期化処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【図9】交通密度算出処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【図10】現在時点の旅行時間データを延長する方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
12 突発事象検出プロセス
13 旅行時間予測プロセス
14−18 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する車両の先の時刻における旅行時間を予測する装置であって、
突発事象の発生した区間を含む旅行時間の予測対象区間を設定する設定手段と、
前記予測対象区間を複数のブロックに分割し、ある時刻における各ブロック内の交通密度を算出する交通密度算出手段と、
前記各ブロック内の交通密度に基づいて、前記ある時刻における隣接するブロック間で移動可能な交通量を算出する移動可能交通量算出手段と、
前記各ブロック内の交通密度と、前記隣接するブロック間で移動可能な交通量とに基づいて、先の時刻における各ブロックの交通密度を予測する交通密度予測手段と、
前記交通密度予測手段により予測された先の時刻における各ブロックの交通密度に基づいて旅行時間を予測する旅行時間予測手段とを有する旅行時間予測装置。
【請求項2】
前記交通密度算出手段は、予測対象区間の交通速度情報を取得し、この交通速度情報に基づいて、速度−交通密度曲線を用いて交通密度を算出する請求項1記載の旅行時間予測装置。
【請求項3】
前記交通密度算出手段は、取得された交通速度が自由流速度である場合には、あらかじめ記憶した当該予測対象区間の属する路線、地域、日種、時間帯の少なくとも1つ以上の組み合わせにかかわる交通密度の情報を参照して、交通密度を決定する請求項2記載の旅行時間予測装置。
【請求項4】
前記移動可能交通量算出手段は、前記各ブロック内の交通密度に基づいて、交通量−交通密度曲線を用いて前記移動可能交通量を算出する請求項1記載の旅行時間予測装置。
【請求項5】
前記移動可能交通量算出手段は、突発事象の発生した区間の車線絞り率に応じて異なった交通量−交通密度曲線を用いる請求項4記載の旅行時間予測装置。
【請求項6】
前記突発事象の発生した区間の車線絞り率に応じて臨界交通密度、及びジャム交通密度を設定する請求項5記載の旅行時間予測装置。
【請求項7】
前記予測対象区間の上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量を算出する境界交通量算出手段をさらに有し、
前記交通密度予測手段は、前記各ブロック内の交通密度と、前記予測対象区間の上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量と、前記隣接するブロック間で移動可能な交通量とに基づいて、先の時刻における各ブロックの交通密度を予測するものである請求項1記載の旅行時間予測装置。
【請求項8】
前記境界交通量算出手段は、前記予測対象区間の上流端又は下流端に隣接するリンクの旅行時間に基づいて速度を求め、その速度から当該リンクの交通密度を求め、この交通密度を用いて上流端から流入する交通量又は下流端から流出する交通量を算出するものである請求項7記載の旅行時間予測装置。
【請求項9】
前記境界交通量算出手段は、前記隣接するリンクの旅行時間として、旅行時間推移のパターンマッチング及び統計情報を用いた予測手法によって予測された当該リンクの旅行時間を用いるものである請求項8記載の旅行時間予測装置。
【請求項10】
前記境界交通量算出手段は、前記隣接するリンクの旅行時間として、現在時点の当該リンクの旅行時間を用いるものである請求項8記載の旅行時間予測装置。
【請求項11】
前記旅行時間予測手段は、次の(1),(2)のいずれかをきっかけとして旅行時間予測処理を開始する請求項1記載の旅行時間予測装置。
(1)突発事象に関する情報を取得したとき、
(2)リンクの旅行時間の情報を複数の時間帯にわたって取得し、その時間帯の旅行時間の増加割合が所定の範囲外になったとき。
【請求項12】
規制解消時間先までの旅行時間を予測する請求項1記載の旅行時間予測装置。
【請求項13】
前記規制解消時間は、突発事象の種類に応じて設定される請求項12記載の旅行時間予測装置。
【請求項14】
道路を走行する車両の先の時刻における旅行時間を予測する方法であって、
突発事象の発生した区間を含む旅行時間の予測対象区間を設定し、
前記予測対象区間を複数のブロックに分割し、ある時刻における各ブロック内の交通密度を算出し、
前記各ブロック内の交通密度に基づいて、隣接するブロック間で移動可能な交通量を算出し、
前記各ブロック内の交通密度と、前記隣接するブロック間で移動可能な交通量とに基づいて、先の時刻における各ブロックの交通密度を予測し、
前記交通密度予測手段により予測された各ブロックの交通密度に基づいて旅行時間を予測する旅行時間予測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−219633(P2007−219633A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36761(P2006−36761)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(504126112)住友電工システムソリューション株式会社 (78)
【Fターム(参考)】