説明

既存ブレース架構の補剛方法および補剛ブレース構造

【課題】簡易かつ安価に既存ブレース架構の補剛をすることが可能な既存ブレース架構の補剛方法および補剛ブレース構造を提案する。
【解決手段】一対の形鋼材14,14がガセットプレート20を挟んだ状態でボルト接合されてなる既存ブレース架構の補剛方法であって、一対の形鋼材14,14をガセットプレート20から取り外す取外し工程と、ガセットプレート20から取り外した一対の形鋼材14,14を管材11内に挿通し、各形鋼材14,14を芯材12,12とするブレースユニット10を形成するユニット形成工程と、一対の芯材12,12でガセットプレート20を挟むとともに一対の芯材12,12をガセットプレート20にボルト接合することでブレースユニット10をガセットプレート20に取り付けるユニット取付工程と、管材11内に充填材13を充填する充填工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存ブレース架構の補剛方法および補剛ブレース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の形鋼材(ブレース材)を背合わせに配設してなるブレース架構によって柱梁架構の構面を補強する場合がある。
このブレース架構は、柱梁架構の角部に固定されたガセットプレートに接合されている。
【0003】
上記ブレース架構では、大地震等により柱梁架構に大きな変形が生じたときに、ブレース材が面外にはらみだす面外座屈変形が生じる場合がある。
ブレース材の面外座屈変形を抑制するためには、既存のブレース材に対して座屈補剛を行うか、あるいは、既存のブレース材をより剛性の高い補剛ブレース材に交換する必要がある。
【0004】
なお、補剛ブレース材としては、例えば特許文献1に示すように、鋼管と、鋼管内に貫通されて軸力を負担する軸材とを有する鋼管補剛ブレース材等がある。
【0005】
また、特許文献2には、既存のブレース材を取り外すことなく、ブレース架構を補剛する方法として、一対の半割り鋼管または一対のコ字状鋼板を利用して、ブレース材を包囲するとともに、一対の半割り鋼管同士または一対のコ字状鋼板同士を現場溶接して補剛鋼管を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−239393号公報
【特許文献2】特開2009−174173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存のブレースを交換する場合には、新たに配設する補剛ブレース材の材料費や既存のブレース材の処分費などにより、費用が嵩むという問題点があった。
また、既存のガセットプレートに適合する取付構造を補剛ブレースに加工する必要があり、その作業に手間と費用が嵩む。
【0008】
特許文献2の座屈補剛方法は、補剛鋼管を形成するための現場溶接に手間がかかる。また、火気の使用に制限がある構造物には採用することができなかった。
また、2分割された鋼材(一対の半割り鋼管または一対のコ字状鋼板)の位置決めや仮止め等の作業に手間を要する。
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、簡易かつ安価に既存ブレース架構の補剛をすることが可能な既存ブレース架構の補剛方法および補剛ブレース構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の既存ブレース架構の補剛方法は、一対の形鋼材がガセットプレートを挟んだ状態でボルト接合されてなる既存ブレース架構の補剛方法であって、前記一対の形鋼材を前記ガセットプレートから取り外す取外し工程と、前記ガセットプレートから取り外した前記一対の形鋼材を管材内に挿通し、前記各形鋼材を芯材とするブレースユニットを形成するユニット形成工程と、一対の前記芯材で前記ガセットプレートを挟むとともに前記一対の芯材を前記ガセットプレートにボルト接合することで前記ブレースユニットを前記ガセットプレートに取り付けるユニット取付工程と、前記管材内に充填材を充填する充填工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
なお、撤去工程において取り外した既存の形鋼材が変形している場合には、既存の形鋼材に代えて新設の形鋼材を芯材として使用してもよい。
【0012】
かかる既存ブレース架構の補剛方法によれば、現場での溶接作業を要しないため、簡易に既存ブレース架構を補剛することができる。
また、ブレースユニット(芯材)に対して、ガセットプレートに取り付けるための特別な加工を要しないため、簡易かつ安価に既存ブレース架構を補剛できる。
さらに、既存のブレースを再利用することで、費用を最小限に抑えることができる。
【0013】
また、本発明の補剛ブレース構造は、管材と、前記管材に挿通された一対の形鋼材と、前記管材内に充填された充填材とを備えるものであって、前記一対の形鋼材は、背合わせの状態でガセットプレートを挟んでいることを特徴としている。
【0014】
かかる補剛ブレース構造によれば、既存のブレース架構が形鋼材によりガセットプレートを挟む方式であっても、元の状態で他の構造材に影響を与えることなく改修することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の既存ブレースの補剛方法および補剛ブレース構造によれば、簡易かつ安価に既存ブレースの補剛をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る補剛ブレース構造を示す正面図である。
【図2】図1に示す補剛ブレース構造のブレースユニットを示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は既存ブレース架構の補剛方法の各作業手順を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の補剛ブレース構造1は、既存ブレース架構を補剛するものであって、図1に示すように、柱梁架構2の角部に配設されたガセットプレート20,20と、ガセットプレート20,20に両端がボルト接合されてなるブレースユニット10と、ブレースユニット10の内部に充填された充填材13(図2参照)とから構成されている。
【0018】
ブレースユニット10は、図2に示すように、管材11と、一対の芯材12,12とにより構成されている。
【0019】
管材11は、断面矩形状の鋼管により構成されている。
なお、管材11の断面形状は矩形状に限定されるものではなく、例えば断面円形であってもよい。
【0020】
管材11は、一対の芯材12,12(一対の溝形鋼14,14)を囲むことができるよう、一対の芯材12,12の外形状よりも一回り大きな内空を有している。また、管材11は、ガセットプレート20,20同士の間隔と同程度の長さである。すなわち、管材11は芯材12よりも短く、芯材12を挿通させた状態では、芯材12の両端が管材11の両端から突出する。
【0021】
管材11の断面寸法(部材厚等)は、既存ブレース架構の補剛に必要な耐力に応じて設定する。
管材11は、壁部材(外壁等)30や配管31等と干渉することのないように配置されている。
【0022】
各芯材12は、管材11に挿通された溝型鋼(形鋼材)14により構成されている。
なお、芯材12を構成する材料(形鋼材)は溝形鋼に限定されるものではない。たとえば山形鋼でもよいし、角形鋼管でもよい。
【0023】
一対の芯材12,12(溝形鋼14,14)は、背合わせの状態で、管材11に挿通されている。
芯材12,12は、図1に示すように、それぞれガセットプレート20に接合されている。芯材12,12をガセットプレート20に接合するには、芯材12,12によりガセットプレート20を挟んだ状態で、芯材12,12のウェブ部分およびガセットプレート20をボルト接合すればよい。
【0024】
基本的には、柱梁架構2に固定されていた既存の溝形鋼14を芯材12として使用するが、既存の溝形鋼14に損傷(残留変形)が生じている場合には、同断面(同寸法)の新設の溝形鋼14を芯材12として使用する。
【0025】
本実施形態では、溝形鋼14の表面に予めアンボンド処理を施しておき、充填材13と芯材12とが一体に固定されることを防止している。
アンボンド処理は、溝形鋼14の表面にアンボンド材を塗布または貼着することにより行う。本実施形態では、アンボンド材として、粘着ビニルテープやブチルゴムテープ等を溝形鋼14に貼り付ける。
【0026】
なお、ブレースユニット10は、管材11の中心線(図心)と芯材12の中心線(図心)とが一致するように構成されることが望ましいが、ガセットプレート20と壁部材30や配管31等との位置関係に互いの中心線がずれていてもよい。
【0027】
充填材13は、管材11と芯材12との隙間に充填されている。本実施形態では、充填材13としてモルタル等のセメント系固化物を使用する。なお、充填材13の材質は、管材11内に充填された後、硬化して一定の強度を発現するものであれば、限定されるものではない。
【0028】
ガセットプレート20は、図1に示すように、柱梁架構2を構成する柱21と梁22との角部に固定された鋼板であって、ブレース材(溝形鋼14,14)を固定するための複数のボルト孔(図示せず)が形成されている。
ガセットプレート20の形状が限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0029】
次に、本実施形態の既存ブレース架構の補剛方法について説明する。
既存ブレース架構の補剛方法は、取外し工程と、ユニット形成工程と、ユニット取付工程と、充填工程とを備えている。
【0030】
取外し工程は、図3の(a)に示すように、既存ブレース架構に取り付けらえた、既存のブレース材(溝形鋼14,14)を、ガセットプレート20から取り外す工程である。
前記したように、既存のブレース材は、ガセットプレート20を挟んだ状態でボルト接合された一対の溝形鋼14,14により構成されている。
【0031】
溝形鋼14,14の取り外しは、ボルトBを外すことにより行う。
溝形鋼14,14を取り外したら、溝形鋼14,14の状態を詳細に点検する。
【0032】
ユニット形成工程は、ガセットプレート20から取り外した一対の溝形鋼14,14を管材11内に挿通し、各溝形鋼14を芯材12とするブレースユニット10を形成する工程である(図3の(b)参照)。
【0033】
溝形鋼14は、アンボンド処理を施してから管材11内に挿通する。
一対の溝形鋼14,14は、背合わせの状態で、管材11内に挿通する。
【0034】
溝形鋼14を点検した際に、溝形鋼14に残留変形等が発見された場合には、既存の溝形鋼14は破棄し、新設の溝形鋼14と交換する。なお、新設の溝形鋼14同士を組み合わせて一対の芯材12,12としてもよいし、既存の溝形鋼14と新設の溝形鋼14とを組み合わせて一対の芯材12,12としてもよい。
【0035】
本実施形態では、ブレースユニット10をガセットプレート20の取り付ける際に、両者が長手方向に相対移動しないように、ブレースユニット10の長手方向中間部に、管材11と芯材12とを貫通する仮止めボルト15を取り付けておく(図1参照)。なお、仮止めボルト15の取り付け位置を長手方向中間部以外としてもよいし、取り付け個所数を二ヶ所以上としてもよい。また、管材11の仮止め方法も限定されなく、例えば、充填工程において使用する型枠を介して仮止めをしてもよいし、仮止めボルト15に変えて棒状部材を貫通させてもよい。
【0036】
ユニット取付工程は、図3の(b)に示すように、芯材12,12(溝形鋼14,14)でガセットプレート20を挟むとともに芯材12,12をガセットプレート20にボルト接合する工程である。
【0037】
芯材12をガセットプレート20に固定することで、ブレースユニット10がガセットプレート20に取り付けられる。
【0038】
充填工程は、管材11内に充填材13を充填する工程である。
充填材13の充填は、管材11の両端を型枠により塞いだ状態で行う。このとき、型枠は、管材11の下側端部のみに設置してもよい。
【0039】
充填材13は、管材11の内面と芯材12,12の隙間および芯材12,12(溝形鋼14,14)同士の隙間に充填する。
【0040】
充填材13に所定の強度が発現した後、脱型することで、補剛ブレース構造1が完成する。
【0041】
本実施形態の既存ブレース架構の補剛方法および補剛ブレース構造によれば、既存の形鋼材(溝形鋼14,14)を使用することで、ブレースの長さ、ボルト孔の位置、外壁や配管等とブレースとの離隔距離等の実測を要することなく、簡易に補剛することが可能である。
【0042】
溝形鋼14,14(芯材12,12)は、管材11および充填材13により外周囲が覆われているため、溝形鋼14,14(芯材12,12)に対して圧縮力が作用した場合であっても、座屈が拘束されて、優れた耐力を発現する。
【0043】
また、溝形鋼14,14の外面にはアンボンド処理が施されているため、芯材12と充填材13とは一体に接着されておらず、溝形鋼14(芯材12)に対して引張力が作用した際に充填材13が破損することがない。
【0044】
また、現場での溶接作業等を要しないため、他の架構部材に影響を与えることなく改修することができる。そのため、耐防火棟での改修にも採用することができる。
【0045】
既存の形鋼材14に損傷が生じている場合の除き、既存の部材を再利用しているため、経済的である。
【0046】
ガセットプレート20へのブレースユニット10の取り付けは、芯材12,12によりガセットプレート20を挟み、ボルトBを螺着するのみで完了するため、施工が容易である。
ユニット取り付け工程では、まだ充填材13が充填されていないため、芯材12,12でガセットプレート20を挟持する際に、芯材12,12の間隔等を容易に調節することができ、したがって、ガセットプレート20へのブレースユニット10の取り付け作業を容易に行うことができる。
【0047】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0048】
前記実施形態では、柱梁架構に対して、一対の形鋼材が斜めに配設された既存のブレース架構を補剛する場合について説明したが、本発明の補剛ブレース構造が適用可能なブレース架構はこれに限定されるものではない。例えば、二組のブレース材がX字状に配設されたブレース架構に対して、本発明の補剛ブレース構造を採用することで、一組のブレース材を省略し、開口部をより大きく確保する構成としてもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、柱梁架構の角部に配設されたガセットプレートに両端が固定されたブレース材を補剛する場合について説明したが、本発明の補剛ブレース構造が適用可能なブレース架構は限定されるものではなく、例えば、K形ブレースに適用してもよい。
【0050】
前記実施形態では、形鋼材に損傷が生じている場合には、同断面(同寸法)の新設の形鋼材に交換するとしたが、交換する新設の形鋼材は必ずしも既設の形鋼材と同断面である必要はない。
【0051】
芯材のアンボンド処理は必要に応じて行えばよく、省略してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 補剛ブレース構造
10 ブレースユニット
11 管材
12 芯材
13 充填材
14 溝形鋼(形鋼材)
2 柱梁架構
20 ガセットプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の形鋼材がガセットプレートを挟んだ状態でボルト接合されてなる既存ブレース架構の補剛方法であって、
前記一対の形鋼材を前記ガセットプレートから取り外す取外し工程と、
前記ガセットプレートから取り外した前記一対の形鋼材を管材内に挿通し、前記各形鋼材を芯材とするブレースユニットを形成するユニット形成工程と、
一対の前記芯材で前記ガセットプレートを挟むとともに前記一対の芯材を前記ガセットプレートにボルト接合することで前記ブレースユニットを前記ガセットプレートに取り付けるユニット取付工程と、
前記管材内に充填材を充填する充填工程と、を備えることを特徴とする、既存ブレース架構の補剛方法。
【請求項2】
一対の形鋼材がガセットプレートを挟んだ状態でボルト接合されてなる既存ブレース架構の補剛方法であって、
前記一対の形鋼材を前記ガセットプレートから取り外す取外し工程と、
前記ガセットプレートから取り外した前記一対の形鋼材を、その少なくとも一方を新設の形鋼材に交換した上で、管材内に挿通し、前記各形鋼材を芯材とするブレースユニットを形成するユニット形成工程と、
一対の前記芯材で前記ガセットプレートを挟むとともに前記一対の芯材を前記ガセットプレートにボルト接合することで前記ブレースユニットを前記ガセットプレートに取り付けるユニット取付工程と、
前記管材内に充填材を充填する充填工程と、を備えることを特徴とする、既存ブレース架構の補剛方法。
【請求項3】
管材と、
前記管材に挿通された一対の形鋼材と、
前記管材内に充填された充填材と、を備える補剛ブレース構造であって、
前記一対の形鋼材は、背合わせの状態でガセットプレートを挟んでいることを特徴とする、補剛ブレース構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−57173(P2013−57173A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194683(P2011−194683)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】