説明

既存住宅の補強方法および住宅

【課題】津波が既存住宅に衝突した場合でも、建物の倒壊を少なくすることができる既存住宅の補強方法および住宅を提供する。
【解決手段】既存住宅1の隅部11を断面L字形状のRC壁2により覆うとともに、その隅部11間でRC壁2の下部および上部それぞれを横材31,32により連結する。そのため、津波が建物1に衝突し、その際の衝撃により建物1が傾いたり変形しようとしても、RC壁2とそのRC壁間2の上下を連結した横材31,32とが周囲から建物1の傾きや変形を押さえるので、建物1の倒壊を少なくすることができる。なお、既存住宅1とRC壁2および横材31,32と間には、ゴム等の緩衝材4を挿入しても良い。また、既存住宅1の隅部11に設けるRC壁2は、地中に埋設された杭や基礎に連結することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存住宅の補強方法および住宅に関し、特に、津波に対して補強した既存住宅の補強方法および住宅に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存住宅の補強方法として、例えば、建物隅部(角部)の基礎幅を拡幅し、木製枠材の少なくとも片面に構造用面材を固定したL型の耐震エレメントをその隅部のみに配置して建物と一体化させ、耐震エレメントを拡幅した基礎で受ける耐震補強方法(例えば、特許文献1参照。)や、建物の隅部に補強板状材と断面L字状の補強サポート材を設けた補強方法がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3981267号公報
【特許文献2】特開2001−173240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1,2に記載された既存住宅の補強方法は、L型の耐震エレメントや断面L字状の補強サポート材を既存住宅の隅部の柱や壁に直接取付けて補強しているため、津波が建物に衝突すると、その津波の衝撃力が耐震エレメントや補強サポート材を介して建物の柱や壁に伝わり、津波の衝撃力によって建物が倒壊するおそれがあるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、津波が衝突した場合でも、建物の倒壊を少なくすることができる既存住宅の補強方法および住宅を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る既存住宅の補強方法は、既存住宅(建物)の隅部を断面L字形状のRC(鉄筋コンクリート)壁により覆うとともに、その隅部間でRC壁の下部および上部それぞれを横材により連結したことを特徴とする。この方法によると、建物の各隅部が断面L字形状のRC壁により覆われるだけでなく、それら増設したRC壁の下部および上部それぞれが横材により連結されるので、建物の隅部に配置されたRC壁とそのRC壁間上下を連結した横材とが、枠(骨組み)状に建物の周囲を取り囲むことになる。そのため、津波が建物に衝突し、その際の衝撃により建物が傾いたり変形しようとしても、建物の柱や壁とは連結することなく、独立したRC壁とそのRC壁間上下を連結した横材とが一体となって周囲から建物の傾きや変形を押さえようとするので、建物の倒壊を少なくすることができる。
また、請求項2に記載の発明に係る既存住宅の補強方法は、請求項1記載の既存住宅の補強方法において、既存住宅と前記RC壁との間または既存住宅と前記横材との間のうち少なくとも一方には、緩衝材が挿入されることを特徴とする。この方法によると、建物と前記RC壁との間または建物と前記横材との間のうち少なくとも一方には、ゴム等の緩衝材が挿入されるので、津波の衝撃力や強い横揺れの地震に対して、緩衝材の効果により建物全体の変形を抑えることができると共に、小さな地震や微弱振動等が発生してもRC壁や横材が建物の外壁に傷を付けたり擦れた際に発生する軋み音を防止できる。
また、請求項3に記載の発明に係る既存住宅の補強方法は、請求項1または請求項2記載の既存住宅の補強方法において、前記RC壁は、地中に埋設された杭に連結されていることを特徴とする。この方法によると、RC壁は地中に埋設された杭に連結されているため、津波等に対する抵抗力がより大きくなる。
また、請求項4に記載の発明に係る既存住宅の補強方法は、請求項1または請求項2記載の既存住宅の補強方法において、前記RC壁は、基礎に定着されていることを特徴とする。この方法によると、RC壁は基礎に定着されているので、津波等に対する抵抗力がより大きくなる。
また、請求項5に記載の発明に係る住宅は、請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載の既存住宅の補強方法で補強されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の既存住宅の補強方法および住宅によれば、建物の隅部が断面L字形状のRC壁により覆われるだけでなく、その隅部間でRC壁の下部および上部それぞれが横材により連結されるので、建物の隅部のRC壁とそのRC壁間上下を連結した横材とが枠(骨組み)状に建物の周囲を取り囲むことになる。そのため、津波が建物に衝突し、その際の衝撃により建物が傾いたり変形しようとしても、建物の柱や壁とは連結することなく、独立したRC壁とそのRC壁間の上下を連結した横材とが、周囲から建物の傾きや変形を押さえようとするので、建物の倒壊を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る既存住宅の補強方法により補強された住宅の斜視図である。
【図2】本発明に係る既存住宅の補強方法により補強された住宅の断面である。
【図3】実施形態2の既存住宅の補強方法を示す断面図である。
【図4】実施形態2の既存住宅の補強方法を示す断面図である。
【図5】実施形態2の木造既存住宅の補強方法の他の例を示す断面図である。
【図6】実施形態2の木造既存住宅の補強方法のさらに他の例を示す断面図である。
【図7】実施形態2の木造既存住宅の補強方法のさらに他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態1.
図1は、本発明に係る方法により1階部分を補強した既存住宅1の斜視図、図2は、建物の1階部分の梁11c部分における断面図である。図1および図2に示すように、実施形態1の既存住宅の補強方法は、既存住宅1において、隅柱(角柱)11aが設けられる隅部11を断面L字形状のRC(鉄筋コンクリート)壁2により覆うとともに、その隅部11間でRC壁2の下部および上部それぞれをH形鋼等の横材31,32により連結して既存住宅1を補強したことを特徴とする。つまり、下方の横材31は、既存住宅(建物)1の基礎12や土台11b(図3〜図4参照。)等と対向するようにRC壁2間に設けられる一方、上方の横材32は、既存住宅1の梁11c等と対向するようにRC壁2間に設けられる。これにより、図1に示すように、補強部材となるRC壁2と横材31,32が、それぞれ、既存住宅1の1階部分の隅部11の隅柱11aや、基礎12、土台11b、梁11c等に沿ってそれらとは独立して設けられるので、建物1の1階部分の周囲を枠(骨組み)状に取り囲むことになる。そのため、津波が建物1に衝突し、その際の衝撃により建物1が傾いたり変形しようとしても、建物1の隅柱11aや土台11b、梁11c等とは連結せず独立したRC壁2とそのRC壁間2の上下を連結した横材31,32とが周囲から建物1の傾きや変形を押さえるので、建物1の倒壊を少なくすることができる。また、建物1の隅部11に設けたRC壁2やRC壁間2の上下を連結した横材31,32は、建物1の隅柱11aや土台11b、梁11c等には連結されてなく、建物1とは独立して構築され、建物1の1階部分における各方向の外壁を囲むように外側から自立的に保護しているので、RC壁2や横材31,32に作用した外力は、RC壁2や横材31,32が傾いたり変形しない限りは建物1に伝達することはなく、建物1に何ら影響を与えることなく既存住宅1を補強できる。
【0010】
ここで、図2に示すように既存住宅1の隅部11とRC壁2との間、または既存住宅1の基礎12、土台11b、梁11c等と横材31,32とのうち少なくとも一方には、ゴムや粘弾性体や樹脂発泡体等の緩衝材4が挿入されている。これにより、強い横揺れの地震が発生しても緩衝材4の効果により既存住宅1全体の変形を抑えることができると共に、小さな地震や微弱振動等が発生してもRC壁2や横材31,32が建物1の外壁に傷を付けたり、擦れた際に軋み音が発生することを防止できる。なお、実施形態1では、既存住宅1の1階部分のみRC壁2および横材31,32とにより補強したが、2階部分まで同様に補強することも可能である。
【0011】
従って、この既存住宅の補強方法によれば、既存住宅1の隅部11が断面L字形状のRC壁2により覆われるだけでなく、その隅部11間でRC壁2の下部および上部それぞれが横材31,32により連結されるので、津波が建物1に衝突し、その際の衝撃により建物1が傾いたり変形しようとしても、RC壁2とそのRC壁間2の上下を連結した横材31,32とが周囲から建物1の傾きや変形を押さえるので、建物1の倒壊を少なくすることができる。なお、住宅の崩壊は、一般的に層崩壊なる場合が多いが、建物1の1階部分の骨組である隅柱11aや土台11b、梁11c等の構造材部分をRC壁2やRC壁2間の横材31,32によって支えているので、層崩壊を効果的に防ぐことができ、既存住宅1の耐力が向上する。また、建物1の隅部11とRC壁2との間、または建物1の基礎12、土台11b、梁11c等と横材31,32とのうち少なくとも一方には、ゴムや粘弾性体や樹脂発泡体等の緩衝材4が挿入されているので、強い横揺れの地震が発生しても緩衝材4の効果により建物1全体における変形を抑えることができる。
【0012】
実施形態2.
実施形態2は、実施形態1をさらに改良したものである。図3は、実施形態2の方法により補強した住宅の基礎12の周辺を示す断面図である。つまり、実施形態2では、建物1の隅部11のRC壁2は、例えば、地中にコンクリート杭や鋼管杭等の杭5を埋設し、その杭5に連結したことを特徴とする。ここで、この杭5は、建物1の基礎12とは別に設けたものである。これにより、RC壁2は地中に埋設された杭5に連結されるため、地震や津波に対する抵抗力がより大きくなる。また、杭5は建物1の基礎12とは別に設けられているため、地震や津波等の際、建物1にかかる外力は基礎12と、RC壁2やRC壁2間の横材31,32を介して建物1の基礎12とは別の杭5とが負担する。そのため、地震や津波に対する抵抗力がより大きくなると共に、建物1の基礎12が脆弱な場合でも、基礎12とは独立して杭5を強化することができる。
【0013】
また、既存住宅1の基礎12が強固な場合は、図4や図5に示すように、土台11b載置する基礎12の側面にアンカー6等を用いてRC壁2を直接定着させることもできる。その際、基礎12とRC壁2との定着には、例えば接着系のあと施工アンカー等を使用して、RC壁2を強固に基礎12に固定して、RC壁2にかかる外力を確実に基礎12に伝えるようにすると良い。アンカー6の頭部は座金61を介してナット62等により締め付ける。この場合、杭5を打設する必要がなくなるので、その杭打ちの分だけコストを抑えることができる。なお、図4の場合には、基礎12とRC壁2との間に緩衝材4を介在させずにアンカー6により直接定着させる一方、図5の場合には、基礎12とRC壁2との間にも緩衝材4を介在させ、アンカー6により定着させる。図4の場合でも基礎12から上方の隅部11等とRC壁2との間には、緩衝材4が介在するので、RC壁2や横材31,32により建物1全体の変形を抑えることができると共に、基礎12とRC壁2との定着力が向上する。また、図5に示す場合、基礎12とRC壁2との間にも緩衝材4が介在するので、図4に示す場合よりも基礎12とRC壁2との間の定着力は弱くなるものの、基礎12も含めた地震発生時の建物1全体の変形を抑えることが可能となる。なお、図6や図7に示すように座金61およびナット62を現場打ちによるRC壁2内に埋設させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0014】
1…住宅(建物)、11…隅部、11a…隅柱、11b…土台、11c…梁、12…基礎、2…RC壁、31,32…横材、4…緩衝材、5…杭、6…アンカー、61…座金、62…ナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存住宅の隅部を断面L字形状のRC壁により覆うとともに、その隅部間でRC壁の下部および上部それぞれを横材により連結したことを特徴とする既存住宅の補強方法。
【請求項2】
請求項1記載の既存住宅の補強方法において、
既存住宅と前記RC壁との間または既存住宅と前記横材との間のうち少なくとも一方には、緩衝材が挿入されることを特徴とする既存住宅の補強方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の既存住宅の補強方法において、
前記RC壁は、地中に埋設された杭に連結されていることを特徴とする既存住宅の補強方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の既存住宅の補強方法において、
前記RC壁は、基礎に定着されていることを特徴とする既存住宅の補強方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載の既存住宅の補強方法で補強されたことを特徴とする住宅。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104218(P2013−104218A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248465(P2011−248465)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】