説明

既存建物の基礎下の地下階増築方法

【課題】既存杭と新設の基礎スラブを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築する地下階増築方法を提供する。
【解決手段】既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、既存杭で軸力を仮受けした状態で沈下量の少ない地層及び深度まで直下地盤を掘削し、掘削底面に新設の基礎スラブを築造すると共に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、杭基礎構造の既存建物の基礎下に地下階を増築施工する方法の技術分野に属し、更に云うと、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築し支持力を増強する地下階増築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から杭基礎構造の既存建物の基礎下に地下階を増築施工する方法として、例えば、図4に示すように、既存建物40の既存杭41で軸力を仮受けした状態で既存基礎スラブ42の下の地盤を掘削し、前記既存杭41の周りに新設杭43を打設し、同新設杭43と既存杭41とをフーチング44で一体化することで支持力を増強し増築施工する方法がある。
【0003】
また、図5に示すように、既存建物50の既存杭51で軸力を仮受けしながら既存基礎スラブ52の下の地盤を沈下量が少ない地層まで掘削し、前記掘削底面に全荷重を支持可能な新設の基礎スラブ53を打設して、杭基礎構造を最終的に直接基礎構造に代えることで支持力を補強し増築施工する方法もある。
【0004】
特許文献1には、杭基礎構造の既存建物の外周に山留め壁を構築し、既存杭の外周に仮受けサポートを建てた上でジャッキを設置して建物の軸力を同サポートへ盛り換えて既存杭を解体し、新たに同位置に本設鉄骨造の新設柱を設置することで支持力を増強し地下階を増築施工する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、既存杭に支持された既存建物の外周に山留め壁(連続壁)を構築すると共に、前記山留め壁と既存基礎の地中梁とを接合して既存建物を支持し、しかる後に既存杭の周りへコンクリートを打設し、地下用の新設柱及び新設の基礎スラブを構築することで支持力を増強し地下階を増築施工する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2650969号公報
【特許文献2】特公平6−84690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示した方法は、基礎形式を変更せず杭基礎構造のまま増築施工するため、増築分の鉛直支持力を増強する新設杭43を新たに打設しなければならない。しかし、既存基礎スラブ42の下は施工空間が狭く、使用できる機械が限られると共に、機械自体の搬入が困難となる。また、煩雑で危険な作業が要求されて作業効率や安全性が悪いという問題がある。のみならず、新設杭43の築造による施工費と材料費が嵩む。
【0008】
図5に示した杭基礎構造を最終的に直接基礎構造に変更する方法は、既存杭51の利用が仮設のみとなり合理的ではない。また、直接基礎を構築するためには支持力の増強と沈下の許容範囲内となる地層まで基礎下端を下げる必要がある。したがって、新設の基礎スラブ53を荷重に耐えるに足りる相当の厚みに構築しなければならないし、適用地盤も限定されることになる。
【0009】
上記特許文献1に記載された技術は、既存杭を解体し新設柱を構築するべく仮受けサポート材による軸力の盛り換え作業が必要であるため、非常に面倒な構築工程が追加され工期の長期化とコスト高が懸念される。
【0010】
上述したいずれの従来技術も、杭基礎構造とする既存建物を最終的にパイルド・ラフト基礎構造に構築して支持力を増強する既存建物の基礎下の地下階増築方法ないしそれを示唆する内容ではない。
【0011】
特許文献2に記載された技術は、杭基礎構造とする既存建物に、基礎下を掘削したのち既存杭間に新設の基礎スラブが構築されるもので、一見するとパイルドラフト基礎と誤認されるが、この技術は新設の基礎スラブと既存杭又は基礎梁とを剛接又は緊結するとの記載は一切なく、そもそも新設の基礎スラブの支持力を期待していないものである。したがって、基礎形式は杭基礎構造のままで、やはりパイルド・ラフト基礎構造に変更して支持力を増強するものではない。のみならず、新たに地下用の新設柱を限られた狭い場所で複数構築することは至難で作業効率が悪くコストも嵩む。
【0012】
本発明の目的は、杭基礎構造の既存建物における基礎下に地下階を増築する際に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築して支持力を増強し、新設杭及び新設柱の築造の必要が無く、合理的で経済的な既存建物の基礎下の地下階増築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法は、
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
前記既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、既存杭で軸力を仮受けした状態で沈下量の少ない地層及び深度まで直下地盤を掘削する工程と、
前記掘削底面に新設の基礎スラブを築造すると共に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築する工程と、
から成ることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載した発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法は、
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
前記既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、沈下量の少ない地層及び深度まで地盤改良し、その後、既存杭で軸力を仮受けした状態で地下階増築分の階高深度まで直下地盤を掘削し、前記掘削底面に新設の基礎スラブを築造すると共に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載した発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法は、
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、既存杭で軸力を仮受けした状態で地下階増築分の階高深度まで掘削したのち、前記掘削底面から沈下量の少ない地層及び深度まで地盤改良を行ない、前記改良地盤の上面へ新設の基礎スラブを築造し、同既存杭と新設の基礎スラブとを緊結し、パイルド・ラフト基礎を構築することを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した既存建物の基礎下の地下階増築方法において、
既存杭を増築階の柱に仕上げ、外周壁を構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1又は4に記載した発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法は、以下のような効果を奏する。
(1)杭基礎構造とする既存建物の既存基礎スラブ下を沈下量の少ない地層又は深度まで掘削し、新設の基礎スラブを構築した後、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結して所謂パイルド・ラフト基礎を構築するので、既存基礎地盤が軟弱であっても支持力を合理的に増強して地下階の増築を実施することができる。
(2)既存杭を増築階の柱に仕上げて利用するので、新たに新設柱を構築する作業やその材料費を削減できる。
(3)既存杭を有効的に利用するので、既存杭の解体、搬入作業、新設杭の設置作業を一切無用にして作業効率の向上とコストの低減を実現できる。
(4)既存基礎スラブは解体せず、その下の地盤から掘削するので、同既存基礎スラブの解体や、搬出作業を無くして作業効率を向上させると共に、既存基礎スラブが掘削時に切梁としての機能を発揮する。
【0018】
請求項2〜4に記載した発明は、沈下量の少ない地層(支持層)までの深度が非常に深い場合であっても、新設の基礎スラブの下から前記沈下量の少ない地層及び深度まで地盤改良を施工する構成としたので、地層の如何に左右されずパイルドラフト基礎を構築して地下階の増築を施工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、杭基礎構造の既存建物1における既存杭4と既存基礎スラブ3とで支持された基礎下に地下階を増築する方法である。
前記既存建物1の既存基礎スラブ3下の地盤を、既存杭4で仮受けした状態で沈下量の少ない地層及び深度まで直下地盤を掘削する。
前記掘削底面に新設の基礎スラブ5を築造すると共に、既存杭4と新設の基礎スラブ5とを緊結しパイルド・ラフト基礎を構築する。
前記既存杭4を増築階の柱に仕上げ、外周壁7を構築する。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法の実施例を、図面に基づいて説明する。
本発明を実施する既存建物1は、図1に示すように、既存杭4と既存基礎スラブ3とから成る杭基礎構造の上に構築されている。基礎地盤Bが軟弱で増築階の重量が付加されると直接基礎構造では沈下が大きくなり成立せず、また杭基礎構造のみでも支持力が不足して成立しない場合に好適に実施される。
【0021】
本発明の方法は、先ず、既存建物1の既存地下階2の底版として備えられた既存基礎スラブ3下の基礎地盤Bを、前記既存杭4で軸力を仮受けした状態で、沈下量の少ない地層Hまで、しかも地層H内で増築階分を十分に支持可能な深度まで掘削する。
【0022】
掘削する方法としては、例えば図示することは省略したが既存基礎スラブ3に作業用の孔を開設し、この作業孔を通して掘削機等を挿入し同スラブ3下の地盤が逐次掘削される。したがって、既存地下階2及び既存基礎スラブ3を解体することがないので余計な準備の必要が無く、作業効率が良い他、同既存地下階2と既存基礎スラブ3が切梁としての機能を発揮する効果がある。また、掘削時に既存杭4の支持力を有効利用できる効果もある。勿論この方法の限りではなく、既存建物1の外壁に沿って所定の深度に達する縦孔を設けたのち、横方向から掘削を進める方法で実施しても良い。
【0023】
次に、沈下量の少ない支持層Hまでの直下地盤の掘削が完了した段階で、図2に示すように、掘削底面上に配筋を行い、コンクリートを打設して新設の基礎スラブ5を築造する。前記新設の基礎スラブ5は、増築分の不足支持力を補強するに足りる厚さに施工される。具体的には上部と下部の2枚版として実施することが好ましい。
【0024】
そして、前記既存杭4と新設の基礎スラブ5とを緊結してパイルド・ラフト基礎構造を構築する。緊結方法としては、図示することは省略したが既存杭4にアンカーを打設する方法や、既存杭4の主筋をはつりだして新設の基礎スラブ5と筋束する方法とされる。この際、新設の基礎スラブ5と基礎梁とも緊結する。斯くすると、新設の基礎スラブ5と既存杭4との両方で合理的に既存建物1の鉛直軸力を支持できる。
【0025】
しかる後に、前記既存杭4の外周面に化粧材6を取り付けて増築階の柱として仕上げる。更に、既存杭4…間に配筋を行い、壁型枠を組み立て、コンクリートを打設して外周壁7を構築し新築地下階8を完成する(請求項4記載の発明)。上記のように前記既存杭4を言わば構真柱としても利用するので、新たに新設柱を構築する作業やその材料費を削減できて経済的である。勿論、別途柱を増築することを適宜行われる。
【実施例2】
【0026】
図示例では地下階を1階分増築する場合の補強方法について説明したが、支持層Hが更に深い場合や地下階を更にもう1階分増やしたいときには、新設の基礎スラブ5を上面だけの一枚版に構築すると共にその上面から作業用の孔を開設したのち、上述した各工程を繰り返すことにより実施することができる。
【実施例3】
【0027】
次に、請求項2に記載した既存建物の基礎下の地下階増築方法について図3に基づいて説明する。実施例3は上述した実施例1と略同様の技術思想とされているため、以下にその相違点を中心に説明する。
実施例3は特に沈下量の少ない地層Hまでの深度が非常に深く、地下階増築分の階高深度より更に深い場合に好適に実施されるものである。
先ず前記既存建物1の既存基礎スラブ3下の地盤を、沈下量の少ない地層H内まで地盤改良を施工し地盤改良体9を構築する。前記地盤改良体9の構築は公知の深層混合処理工法或いはソイルセメント工法により構築される。そして、前記既存杭4で軸力を仮受けした状態で新築地下階8の階高深度(図示では地層B内)まで直下地盤(地盤改良体9の上層部)を掘削し、前記掘削底面に新設の基礎スラブ5を築造すると共に、既存杭4と新設の基礎スラブ5とを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築する。
【実施例4】
【0028】
この実施例に限らず、上記実施例1と同様に先ず前記既存建物1の既存基礎スラブ3下の基礎地盤Bを、既存杭4で軸力を仮受けした状態で新築地下階8の階高深度まで掘削する。その後、前記掘削底面から沈下量の少ない地層H内まで地盤改良を施工して地盤改良体9を構築する。
しかる後に改良地盤(地盤改良体9)の上面に新設の基礎スラブ5を築造すると共に、既存杭4と新設の基礎スラブ5とを上述した要領で緊結してパイルド・ラフト基礎を構築することもできる(請求項3記載の発明)。
【0029】
本発明は、杭基礎構造とする基礎形式を最終的にパイルド・ラフト基礎構造に変更して合理的な鉛直支持力の増強を行なった上で増築施工を実施できる。また、既存杭4を有効的に利用するので、既存杭4の解体や、搬出作業、新設杭の設置作業を一切無用として作業効率の向上とコストの低減も実現できるのである。
【0030】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために付言する。例えば、既存基礎スラブ3の下の地盤を掘削する際に、既存地下階2及び基礎スラブ3の面外変形を抑制するため、既存建物1の外周に山留め壁を構築することも行われる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法において、既存基礎スラブ下を所定の地層及び深度まで掘削した状態を示す立面図である。
【図2】本発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法を実施したパイルド・ラフト基礎の一例を示した立面図である。
【図3】本発明に係る既存建物の基礎下の地下階増築方法を実施したパイルド・ラフト基礎の別の例を示した立面図である。
【図4】従来例を示す参考図である。
【図5】他の従来例を示す参考図である。
【符号の説明】
【0032】
1 既存建物
2 既存地下階
3 既存基礎スラブ
4 既存杭
5 新設の基礎スラブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
前記既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、既存杭で軸力を仮受けした状態で沈下量の少ない地層及び深度まで直下地盤を掘削する工程と、
前記掘削底面に新設の基礎スラブを築造すると共に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築する工程と、
から成ることを特徴とする、既存建物の基礎下の地下階増築方法。
【請求項2】
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
前記既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、沈下量の少ない地層及び深度まで地盤改良し、その後、既存杭で軸力を仮受けした状態で地下階増築分の階高深度まで直下地盤を掘削し、前記掘削底面に新設の基礎スラブを築造すると共に、既存杭と新設の基礎スラブとを緊結してパイルド・ラフト基礎を構築することを特徴とする、既存建物の基礎下の地下階増築方法。
【請求項3】
杭基礎構造の既存建物における既存杭と既存基礎スラブとで支持された基礎下に地下階を増築する施工方法において、
既存建物の既存基礎スラブ下の地盤を、既存杭で軸力を仮受けした状態で地下階増築分の階高深度まで掘削したのち、前記掘削底面から沈下量の少ない地層及び深度まで地盤改良を行ない、前記改良地盤の上面へ新設の基礎スラブを築造し、同既存杭と新設の基礎スラブとを緊結し、パイルド・ラフト基礎を構築することを特徴とする、既存建物の基礎下の地下階増築方法。
【請求項4】
既存杭を増築階の柱に仕上げ、外周壁を構築することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した既存建物の基礎下の地下階増築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−177407(P2007−177407A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374027(P2005−374027)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】