説明

既存杭の非破壊検査方法

【課題】 既存構造物が存在する状態で既存杭の健全性を検査できる、簡便で信頼性の高い非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 既存構造物1が存在する状態で、フーチング2の上面から下方に向けて穿孔し、穿孔された孔9を利用して杭頭部3a上に第一の加速度計7を設置する。また、フーチング2の上面には第二の加速度計8を設置しておく。次いで、ハンマー10でフーチング2の上面を打撃し、第一の加速度計7および第二の加速度計8で反射波を計測する。第一の加速度計7および第二の加速度計8により計測された加速度応答波形は、それぞれ積分して速度応答波形に変換した後、FFTなどを用いて周波数領域に変換し、杭3のみの周波数応答を抽出する。そして、当該周波数応答を時間領域に変換して、杭3のみの時間応答を求め、当該時間応答より杭3の健全性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭の非破壊検査方法に関し、特に、既存構造物が存在する状態で既存杭の健全性を検査する非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりとともに、既存杭を再利用する試みが増えてきた。特に、場所打ちコンクリート杭はサイズも大きく撤去するのも困難であるため、再利用できる効果は大きい。
一方、既存杭を再利用する場合には、既存杭の健全性を確認する必要があるが、通常、既存構造物を解体する前に新設構造物を設計することが多いため、杭を露頭させてから行う従来のインテグリティ試験では対応することができない。
【0003】
ここで、インテグリティ試験(Integrity Test)とは、杭頭部に加速度計を設置し、ハンマーで杭頭部を軽打して弾性波を発生させ、弾性波の反射性状から杭長や欠損部を検出する試験方法である。
【0004】
そこで、特許文献1では、基礎スラブ本体が存在する状態で基礎杭の位置を把握したい範囲に対してメッシュ状に調査範囲を細分化し、メッシュの交点上に加速度計を設置して、ハンマーにより加速度計近傍の基礎スラブ本体を打撃し、加速度計より検出された波形について周波数分析を行い、ある周波数成分が際だって多く見られた場合に、基礎スラブ本体の下部に基礎杭が存在しないものとして判定する方法が開示されている。
また、特許文献2では、地中に打ち込まれた杭で支えられる構造物の周囲に複数のAEセンサを設置し、杭の破損箇所で発生したAE信号をAEセンサにより検出し、検出信号を処理装置へ入力して破損箇所の位置と破損度を処理装置に算出させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−181951号公報 (第2−3頁、第1−6図)
【特許文献2】特開平9−218182号公報 (第3−5頁、第1−13図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明の場合、基礎スラブをメッシュ状に細分化してメッシュの交点上に加速度計を設置するという、非常に手間の掛かる方法であるうえ、杭長や断面欠損など基礎杭の健全性については明らかにできないという問題がある。
また、特許文献2に記載された発明の場合、固体が変形あるいは破損する際に生じる音を弾性波として捉える必要があるため、構造物の周囲に複数のAEセンサを常時、設置しておかなければならないという問題がある。また、地盤を伝わる弾性波を検出するものであるため、弾性波が不確定要素の大きな地盤の影響を大きく受け、信頼性に著しく欠ける結果が得られるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、既存構造物が存在する状態で既存杭の健全性を検査できる、簡便で信頼性の高い非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る既存杭の非破壊検査方法は、フーチングを介して既存構造物を支持する既存杭の健全性を、当該既存構造物が存在する状態で検査する非破壊検査方法であって、前記フーチングを下方に穿孔して前記既存杭の杭頭部上に第一の加速度計を設置するとともに、前記フーチング上または前記フーチングに近接する基礎梁もしくは基礎スラブ上に第二の加速度計を設置する第一の工程と、前記フーチングの上面を打撃して、前記第一の加速度計および前記第二の加速度計で反射波を計測する第二の工程と、前記第一の加速度計および前記第二の加速度計により計測された反射波をそれぞれ周波数領域に変換して、前記既存杭のみの周波数応答を抽出する第三の工程と、
前記周波数応答を時間領域に変換して、前記既存杭のみの時間応答を求め、当該時間応答より前記既存杭の健全性を検査する第四の工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、フーチングの上面を打撃することにより発生する反射波を、既存杭の杭頭部上に設置した第一の加速度計と、フーチング上またはフーチングに近接する基礎梁もしくは基礎スラブ上に設置した第二の加速度計により計測するため、当該反射波は、既存杭の応答に加えてフーチングの応答を含んだものとなる。そのため、第一の加速度計および第二の加速度計により計測された反射波を時間領域から周波数領域に変換し、既存杭とフーチングの周波数特性の違いに着目して既存杭のみの周波数応答を抽出する([発明を実施するための最良の形態]において詳述する。)。そして、既存杭のみの周波数応答を時間領域に変換して得られた、既存杭のみの時間応答を用いて、従来のインテグリティ試験と同様に、杭長や欠損部の有無を確認するものである。
【0009】
また、本発明に係る既存杭の非破壊検査方法では、前記第三の工程において、前記第一の加速度計および前記第二の加速度計により計測された反射波をそれぞれ積分した後、周波数領域に変換してもよい。
本発明では、計測された反射波を積分して不要な高周波成分を除去することにより、既存杭の健全性の判断が容易となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、フーチングの上面を打撃することにより発生する反射波を、既存杭の杭頭部上に設置した第一の加速度計と、フーチング上またはフーチングに近接する基礎梁もしくは基礎スラブ上に設置した第二の加速度計により計測し、計測された反射波を時間領域から周波数領域に変換して、既存杭のみの周波数応答を抽出した後、既存杭のみの周波数応答を時間領域に変換して得られた、既存杭のみの時間応答を用いることにより、既存構造物が存在した状態で、既存杭の杭長や欠損部の有無を確認することができる。その結果、設計者は安心して既存杭を利用した設計を行うことができる。特に、既存場所打ち杭が大口径あるいは拡底杭の場合、撤去するのは極めて困難であり、既存杭を再利用することで資源を有効活用できるとともに、解体撤去時の騒音・振動問題を回避でき、工期短縮および工費削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る既存杭の非破壊検査方法について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る既存杭の非破壊検査方法を示し、(a)は立断面図、(b)はA−A矢視断面図である。
既存構造物1の柱4は、フーチング2を介して杭(既存杭)3に支持されており、フーチング2、2同士は、基礎スラブ6と一体化された基礎梁5で連結されている。
【0012】
既存構造物1が存在する状態で、フーチング2の上面から下方に向けて穿孔し、穿孔された孔9を利用して杭頭部3a上に第一の加速度計7を設置する。この際、フーチング2に設ける孔9は柱4や基礎梁5を避けたほうが良いが、必ずしも垂直である必要はなく、鉛直方向に対して傾斜して設けてもよい。また、孔9は、第一の加速度計7が設置できる程度の小さな穴でよく、フーチング2内の鉄筋を切断せずに穿孔することができ、躯体の損傷を最小限に抑えることができる。
一方、フーチング2の上面には第二の加速度計8を設置しておく。
【0013】
次いで、ハンマー10でフーチング2の上面を打撃し、第一の加速度計7および第二の加速度計8で反射波を計測する。
なお、打撃入力がフーチング2上からなので、ハンマー10打撃だけでなく、より重量の大きい重錘を使用してもよく、杭長が長い場合に有効である。
【0014】
第一の加速度計7および第二の加速度計8により計測された加速度応答波形(反射波)は、それぞれ積分して速度応答波形に変換した後、FFT(Fast Fourier Transform)などを用いて周波数領域に変換する。一般に加速度応答波形は、不要な高周波成分を多く含んでいるので、速度応答波形に変換したほうがデータ処理が容易である。
【0015】
図2は、フーチング2および杭3の入出力関係を示したものである。
フーチング2の上面を打撃すると、その打撃入力はフーチング2から杭3に伝わり、フーチング2および杭3は、それぞれ振動する。その際、フーチング2と杭3が連結されているため、フーチング2と杭3との間で相互作用が発生する。このため、第一の加速度計7で計測される加速度応答波形は、杭3のみの加速度応答波形と、フーチング2と杭3の相互作用による加速度応答波形とが混在した波として計測される。同様に、第二の加速度計8で計測される加速度応答波形は、フーチング2のみの加速度応答波形と、フーチング2と杭3の相互作用による加速度応答波形とが混在した波として計測される。
【0016】
図3は、計測された加速度(速度)応答波形の周波数応答を示したものである。
フーチング2と杭3の相互作用が弱い場合、その周波数応答は図3(a)のようになる。フーチング2と杭3は、それぞれ周波数帯域が異なっているため、容易に杭3のみの周波数応答を抽出することができる。
一方、フーチング2と杭3の相互作用が強い場合、その周波数応答は図3(b)のようになる。この場合、フーチング2と杭3の周波数帯域は、大幅にラップしているため、杭3のみの周波数応答を容易に抽出することはできない。
【0017】
そこで、フーチング2と杭3の相互作用が強い場合について、杭3のみの周波数応答を抽出する方法について説明する。
杭3の時刻歴応答yおよびフーチング2の時刻歴応答yは、インパルス応答関数を用いて(1)式および(2)式で表わすことができる。なお、添字Pは杭を、Sは構造体のフーチングを表わしている。
【0018】
【数1】

【0019】
ここに、h:杭3のインパルス応答関数、h:フーチング2のインパルス応答関数、hps、hsp:杭3とフーチング2の相互作用によるインパルス応答関数、x:打撃入力、t:時間である。
【0020】
(1)式および(2)式を周波数領域に変換すると、杭3の周波数応答Yおよびフーチング2の周波数応答Yは(3)式および(4)式で表わすことができる。
【0021】
【数2】

【0022】
ここに、H:杭3の周波数応答関数、H:フーチング2の周波数応答関数、Hps、Hsp:杭3とフーチング2の相互作用による周波数応答関数、X:打撃入力の周波数応答、ω:周波数である。
【0023】
ここで、インパルス応答関数とは、単位衝撃力を構造体に加えた際に、当該構造体に生じる時刻歴応答波形をいう。また、周波数応答関数とは、入力Xが構造体に作用して出力Yが生じる場合、入力Xに対する出力Yの比を周波数ごとに求めたものである。
インパルス応答関数と周波数応答関数は、フーリエ変換および逆フーリエ変換の関係にあり、インパルス応答関数をフーリエ変換すると周波数応答関数となり、周波数応答関数を逆フーリエ変換するとインパルス応答関数となる。
【0024】
杭3とフーチング2の結合度が剛に近い場合、Hps(ω)=Hsp(ω)=1とみなすことができる。そこで、(3)式においてHps(ω)=1とすることにより、杭3の周波数応答関数Hは(5)式のように求めることができる。
なお、杭3とフーチング2の結合度が緩くなると、Hps(ω)およびHsp(ω)は周波数特性を持つようになると考えられるが、これは計測データを解析する過程で推定することになる。
【0025】
【数3】

【0026】
(5)式からわかるように、フーチング2と杭3の相互作用が強い場合は、打撃入力xも併せて計測しておく必要がある。
【0027】
杭3のみの周波数応答が抽出されると、杭3のみの周波数応答を時間領域に変換して、杭3のみの時間応答を求める。そして、従来のインテグリティ試験と同様に、当該時間応答より杭3の健全性を検査する。
図4は、杭3のみの時間応答を示したものである。図中、Vは欠損部Cからの反射波を示し、Vは杭3の先端部からの反射波を示している。杭体内での弾性波速度が既知であれば、反射波の到達時間から杭長を推定することができ、また杭3に欠損部Cなどの異常箇所があれば、その部分からも弾性波が反射するため、異常箇所の有無および位置を検出することができる。
【0028】
本実施形態による既存杭の非破壊検査方法では、フーチング2の上面を打撃することにより発生する反射波を、杭頭部3a上に設置した第一の加速度計7と、フーチング2上に設置した第二の加速度計8により計測し、計測された反射波を時間領域から周波数領域に変換して、杭3のみの周波数応答を抽出した後、杭3のみの周波数応答を時間領域に変換して得られた、杭3のみの時間応答を用いることにより、既存構造物1が存在した状態で、杭長や杭3の欠損部Cの有無を確認することができる。その結果、設計者は安心して既存杭を利用した設計を行うことができる。特に、既存場所打ち杭が大口径あるいは拡底杭の場合、撤去するのは極めて困難であり、既存杭を再利用することで資源を有効活用できるとともに、解体撤去時の騒音・振動問題を回避でき、工期短縮および工費削減を図ることができる。
また、本実施形態による既存杭の非破壊検査方法は、第一の加速度計7と第二の加速度計8を設置してフーチング2の上から打撃する簡便な方法なので、杭体の全数検査が容易に行え、既存杭に関する信頼性の高いデータ(杭長および断面欠損)が既存構造物1の解体前に得られる。しかも、既存構造物1内で作業できるため、天候に左右されない。
【0029】
以上、本発明に係る既存杭の非破壊検査方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、フーチング上に加速度計を設置したが、基礎梁または基礎スラブ上に加速度計を設置してもよい。また、上記の実施形態では、杭頭部上とフーチング上に加速度計を1台づつ設置しているが、複数台設置してもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る既存杭の非破壊検査方法を示し、(a)は立断面図、(b)はA−A矢視断面図である。
【図2】フーチングおよび杭の入出力関係を示す模式図である。
【図3】計測された加速度(速度)応答波形の周波数応答を示し、(a)はフーチングと杭の相互作用が弱い場合、(b)はフーチングと杭の相互作用が強い場合を示す。
【図4】杭のみの時間応答の図である。
【符号の説明】
【0031】
1 既存構造物
2 フーチング
3 杭(既存杭)
3a 杭頭部
4 柱
5 基礎梁
6 基礎スラブ
7 第一の加速度計
8 第二の加速度計
9 孔
10 ハンマー
C 欠損部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フーチングを介して既存構造物を支持する既存杭の健全性を、当該既存構造物が存在する状態で検査する非破壊検査方法であって、
前記フーチングを下方に穿孔して前記既存杭の杭頭部上に第一の加速度計を設置するとともに、前記フーチング上または前記フーチングに近接する基礎梁もしくは基礎スラブ上に第二の加速度計を設置する第一の工程と、
前記フーチングの上面を打撃して、前記第一の加速度計および前記第二の加速度計で反射波を計測する第二の工程と、
前記第一の加速度計および前記第二の加速度計により計測された反射波をそれぞれ周波数領域に変換して、前記既存杭のみの周波数応答を抽出する第三の工程と、
前記周波数応答を時間領域に変換して、前記既存杭のみの時間応答を求め、当該時間応答より前記既存杭の健全性を検査する第四の工程とを備えることを特徴とする既存杭の非破壊検査方法。
【請求項2】
前記第三の工程において、
前記第一の加速度計および前記第二の加速度計により計測された反射波をそれぞれ積分した後、周波数領域に変換することを特徴とする請求項1に記載の既存杭の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−322734(P2006−322734A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144025(P2005−144025)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】