説明

既存軸組を補強する補強壁の構築方法、及び既存軸組を補強する補強壁

【課題】既存軸組の解体を行わずに、既存軸組に対して確実に応力伝達可能な補強壁を構築する。
【解決手段】既存軸組5を補強する補強壁10の構築方法であって、補強用板壁11を形成する補強用板壁形成工程と、既存丸柱1の周面に対応した曲面形状の曲面部を外周面に有する周囲枠部材31を形成する周囲枠部材形成工程と、補強用板壁11の端面に周囲枠部材31を固定することにより補強壁10を形成する補強壁形成工程と、補強壁10を既存軸組5の内方に嵌め込む補強壁嵌め込み工程と、補強壁10が既存軸組5の内方に嵌め込まれた状態において、周囲枠部材31及び既存軸組5の両者に跨って複数の貫入部材41を貫入することを、周囲枠部材31の周方向の全周に亘って行う補強壁固定工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存軸組を補強する補強壁の構築方法、及び既存軸組を補強する補強壁に係り、特に既存の木造建築物に有効に適用可能な補強壁の構築方法、及び補強壁に関する。
【背景技術】
【0002】
社寺等における伝統的木造建築物は、図5の正面図に示すように、一対の柱1,1と、これら一対の柱1,1に架け渡される上下一対の横架材3,3とを、軸組5として有し、場合によっては、当該軸組5の内方に板壁311が設けられることがある。そして、かかる板壁311が設けられる場合には、例えば、柱1,1と横架材3,3とに設けられた大入れ等の溝部1t,3tに板壁311の各端部311a,311a,311b,311bが差し込まれることで、板壁311は軸組5に固定される。
【0003】
ここで、かかる板壁311は、一般に大判の一枚板を確保し難いなどの理由から、複数枚の帯状の板材315,315…を組み合わせて構成される。例えば、これら板材315,315…は、その長手方向を水平方向に揃えながら、互いに隣り合う板材315,315同士が小端(こば)315k,315kにおいて当接されることにより、鉛直方向(上下方向)を整列方向として整列配置されている。そして、各板材315の上端面315uや下端面315dたる前記小端315kにはダボ321,321…が設けられ、これにより、整列方向に隣り合う板材315,315同士の長手方向(図示例では水平方向)の相対移動を規制している(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−248640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような板壁311は、地震時に耐震壁として機能する。そのため、建築物の耐震性を高めるには、壁数を増やすことが有効であり、つまり耐震改修方法の一例として、建築物の室内に板壁311を増設することが挙げられる。但し、伝統的木造建築物では、開放感等の観点から間仕切りの少ない架構が望まれるところ、壁数が増えると、この要望に応え難くなる。
【0006】
他方、板壁一枚当たりの耐力を高めることによっても、耐震性を高め得る。そして、これによれば、壁数を増やすこと無く、建築物の耐震性を高めることができる。
そこで、かかる板壁311の耐力につき本願出願人が鋭意検討したところ、上述のように板材315の長手方向を水平方向に揃えつつ上下方向を整列方向として複数枚の板材315,315…が整列配置されている場合には、図5のような上下方向に長い縦長形状のダボ321よりも、水平方向に長い横長形状のダボ21(例えば図2Aを参照)を用いる方が板壁311の水平方向の耐力を格段に向上できることを知見した。そして、かかる横長のダボ21を用いて板材15,15…を連結した板壁11については、既に特許出願済みである。
【0007】
また、本願出願人は、上述のような横長形状のダボ21を用いずに、板材115,115同士を嵌合(かみ合わせ)構造で連結することによっても、板壁111の耐力を向上可能なことを知見し、かかる嵌合構造を用いた板壁111についても、既に特許出願済みである(例えば図11Aを参照)。
【0008】
しかし、上述のような横長形状のダボ21を用いた板壁11や嵌合構造を用いた板壁111を、補強壁として、丸柱を有する既存軸組5に適用する場合には、板壁11(111)と既存軸組5との間で確実に応力伝達がなされるようにすべく、大入れ等の溝部1t,3tにほぞ等の嵌合構造を設けて板壁11(111)を既存軸組5に強固に固定する必要があるが、そうすると、当該板壁11(111)の既存軸組5への取り付けの際に、ほぞ穴へのほぞの差し込み作業が必須となり、これに伴い既存軸組5の解体を余儀なくされ、工期やコスト面で問題があった。
【0009】
また、かかる問題は、ダボ21や嵌合構造で複数の板材15,15…(115,115…)を連結してなる上記板壁11(111)以外の板壁、つまり、一枚板で構成される板壁を、補強壁として既存軸組5に追設する場合にも起こり得る共通の問題あった。
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、柱に丸柱が使用された既存軸組の内方に補強壁を構築する際に、既存軸組の解体を行わずに、当該既存軸組に対して確実に応力伝達可能な補強壁を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
一対の既存丸柱と、該一対の既存丸柱に架け渡される上下一対の既存横架材とを有する既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強壁の本体をなす補強用板壁を形成する補強用板壁形成工程と、
前記補強用板壁の端面をその全周に亘って覆うように、前記端面に固定される周囲枠部材であって、前記既存丸柱の周面に対応した曲面形状の曲面部を外周面に有する前記周囲枠部材を形成する周囲枠部材形成工程と、
前記補強用板壁の前記端面に前記周囲枠部材を固定することにより前記補強壁を形成する補強壁形成工程と、
前記補強壁の壁厚方向に係る前記補強用板壁の中心位置を、前記既存丸柱の断面中心よりも前記壁厚方向の一方側に位置させつつ、前記曲面部を、前記既存丸柱の前記周面のうちで前記既存丸柱の前記断面中心よりも前記壁厚方向の前記一方側の部分に当接させることにより、前記補強壁を前記既存軸組の内方に嵌め込む補強壁嵌め込み工程と、
前記補強壁が前記既存軸組の内方に嵌め込まれた状態において、前記周囲枠部材及び前記既存軸組の両者に跨って複数の貫入部材を貫入することを、前記周囲枠部材の周方向の全周に亘って行う補強壁固定工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
上記請求項1に示す発明によれば、補強用板壁の端面に周囲枠部材を固定してなる補強壁を、既存軸組の内方に嵌め込み、そして、当該補強壁を、周囲枠部材に設けられる複数の貫入部材で既存軸組に固定する。ここで、かかる貫入部材は全周に亘って設けられる。よって、既存軸組と補強壁の周囲枠部材との間の相対移動は確実に規制される。また、補強壁が既存軸組に嵌め込まれた状態において、周囲枠部材の曲面部は、既存丸柱の周面のうちで既存丸柱の断面中心よりも壁厚方向の一方側の部分に当接し、当該一方側には、補強用板壁の断面中心が位置している。つまり、既存丸柱の断面中心の位置を境界として壁厚方向の同じ側に、丸柱の周面のうちで周囲枠部材の曲面部が当接する部分と、補強用板壁の断面中心との両者は位置している。よって、既存軸組と補強壁との間の応力伝達は確実且つ円滑になされるようになる。
また、上述したように、既存丸柱の周面のうちで周囲枠部材の曲面部が当接する部分は、壁厚方向の一方側に位置しているので、壁厚方向の一方側から補強用板壁を既存軸組に対して壁厚方向に相対移動すれば、当該補強用板壁を既存軸組に引っ掛けること無く容易且つ円滑に同既存軸組の内方に嵌め込むことができる。そして、嵌め込んだ後に貫入部材によって補強壁を既存軸組に固定するので、既存軸組を解体しなくて済み、工期やコストの問題を解消することができる。
【0013】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強壁形成工程においては、前記端面と前記周囲枠部材との間の少なくとも前記周方向の相対移動が規制されるように、嵌合構造を介して前記端面に前記周囲枠部材を固定することを特徴とする。
【0014】
上記請求項2に示す発明によれば、補強用板壁の端面と周囲枠部材との固定は、嵌合構造によってなされ、これにより、補強用板壁の端面と周囲枠部材との間の相対移動が、少なくとも周囲枠部材の周方向について規制される。これにより、周囲枠部材を介して補強壁の本体たる補強用板壁と既存軸組との間の壁幅方向及び壁高方向の応力伝達が確実になされるように補強壁は構築される。
【0015】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強用板壁は、複数の板材を有し、
前記複数の板材は、前記板材の長手方向を鉛直方向及び水平方向のどちらか一方に揃えながら、互いに隣り合う前記板材同士が小端において当接されることにより、前記長手方向と直交する方向を整列方向として整列配置され、
前記小端には、前記整列方向に隣り合う前記板材同士の前記長手方向の相対移動を規制する複数のダボが設けられ、
各小端につき少なくとも一つのダボの前記長手方向の長さは、前記整列方向の長さ以上であることを特徴とする。
【0016】
上記請求項3に示す発明によれば、各小端につき少なくとも一つのダボは、前記長手方向の長さが前記整列方向の長さ以上となるように形成されている。よって、補強用板壁の水平耐力を高めることができる。
【0017】
請求項4に示す発明は、請求項3に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記ダボ及び前記板材は木材であり、
前記ダボに係る木材の繊維方向は、前記長手方向に沿っており、
前記板材に係る木材の繊維方向は、前記長手方向に沿っていることを特徴とする。
【0018】
上記請求項4に示す発明によれば、前記長手方向に関してダボの圧縮強度や圧縮剛性を高くすることができて、これにより、前記長手方向の外力がダボに作用した際のダボの潰れやめり込み等の圧縮変形量の低減を図れる。また、板材に凹設されるダボ穴の前記長手方向の圧縮強度や圧縮剛性も高くすることができて、これにより、前記長手方向の外力がダボ穴に作用した際のダボ穴の潰れやめり込み等の圧縮変形量の低減を図れる。そして、これらの結果として、隣り合う板材同士の前記長手方向の相対移動を確実に規制し、板壁の耐力を高めることができる。
また、ダボと板材との両者とも、繊維方向に圧縮されることで力が伝達されるために初期剛性も高くなる。
【0019】
請求項5に示す発明は、請求項1又は2に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強用板壁は、複数の板材を有し、
前記複数の板材は、前記板材の長手方向を鉛直方向及び水平方向のどちらか一方に揃えながら、互いに隣り合う前記板材同士が小端において当接されることにより、前記長手方向と直交する方向を整列方向として整列配置され、
互いに当接する前記小端同士のうちの一方の小端には、凸部が前記小端と一体に形成されているとともに、もう一方の小端には、前記凸部が嵌合する凹部が前記小端と一体に形成されており、
前記凸部と前記凹部との嵌合によって、前記整列方向に隣り合う前記板材同士の前記長手方向の相対移動が規制されることを特徴とする。
【0020】
上記請求項5に示す発明によれば、板材同士の連結は、一方の板材の小端に一体に形成された凸部と、もう一方の板材の小端に一体に形成された凹部との嵌合によってなされる。よって、板材同士の連結に縦長形状のダボは使用されず、その結果、補強用板壁の耐力を高めることができる。
【0021】
請求項6に示す発明は、
一対の既存丸柱と、該一対の既存丸柱に架け渡される上下一対の既存横架材とを有する既存軸組を補強すべく、該既存軸組の構築後に該既存軸組の内方に設けられる補強壁であって、
前記補強壁の本体をなす補強用板壁と、
前記補強用板壁の端面をその全周に亘って覆うように、前記端面に固定された周囲枠部材であって、前記既存丸柱の周面に対応した曲面形状の曲面部を外周面に有する前記周囲枠部材と、
前記補強用板壁に固定された前記周囲枠部材を前記既存軸組の内方に嵌め込んだ状態で、前記周囲枠部材及び前記既存軸組の両者に跨って貫入された複数の貫入部材と、を有し、
前記貫入部材は、前記周囲枠部材の周方向の全周に亘って設けられ、
前記周囲枠部材及び前記補強用板壁が前記既存軸組の内方に嵌め込まれた状態においては、前記補強壁の壁厚方向に係る前記補強用板壁の中心位置が、前記既存丸柱の断面中心よりも前記壁厚方向の一方側に位置しているとともに、前記周囲枠部材の前記曲面部は、前記既存丸柱の前記周面のうちで前記既存丸柱の前記断面中心よりも前記壁厚方向の前記一方側の部分に当接していることを特徴とする。
【0022】
上記請求項6に示す発明によれば、請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、柱に丸柱が使用された既存軸組の内方に補強壁を構築する際に、既存軸組の解体を行わずに、当該既存軸組に対して確実に応力伝達可能な補強壁を構築可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1Aは、第1実施形態の補強壁10を構築する前の既存軸組5の正面図及び中心縦断面図であり、図1Bは、図1A中のB−B断面図であり、図1Cは、図1A中のC−C断面図である。
【図2】図2Aは、第1実施形態の補強壁10を構築後の既存軸組5の正面図であり、図2Bは、図2A中のB−B断面図であり、図2Cは、図2A中のC−C断面図である。
【図3】図3Aは、第1実施形態の補強壁10の正面図及び中心縦断面図であり、図3Bは、図3A中のB−B断面図であり、図3Cは、図3A中のC−C断面図である。
【図4】図2A中のIV−IV断面図である。
【図5】比較例の補強用板壁311が設けられた既存軸組5の正面図である。
【図6】比較例の補強用板壁311の問題点を説明するための既存軸組5の概略正面図である。
【図7】図7Aは、第1実施形態の補強用板壁11の中央部の拡大正面図であり、図7Bは、図7A中のB−B断面図である。
【図8】図8Aは、補強用板壁311に水平外力が作用した際の縦長形状のダボ321の挙動を示す模式図であり、図8Bは、補強用板壁11に水平外力が作用した際の横長形状のダボ21の挙動を示す模式図である。
【図9】図9A及び図9Bは、実験に用いた試験片11s1,11s2及び試験装置の概略図である。
【図10】図10A及び図10Bは、それぞれ実施例及び比較例の荷重−変位のグラフである。
【図11】図11Aは、第2実施形態の補強壁110を構築後の既存軸組5の正面図であり、図11Bは、図11A中のB−B断面図である。
【図12】補強用板壁111の中央部の拡大正面図である。
【図13】補強用板壁111に水平外力が作用した際の、板材115に一体形成された嵌合凸部117の挙動を示す模式図である。
【図14】図14A及び図14Bは、実験に用いた試験片111s1,111s2及び試験装置の概略図である。
【図15】図15A及び図15Bは、それぞれ実施例及び比較例の荷重−変位のグラフである。
【図16】第1実施形態の変形例の正面図である。
【図17】第2実施形態の変形例の正面図である。
【図18】第2実施形態の変形例の正面図である。
【図19】図19A及び図19Bは、それぞれ第2実施形態の変形例の補強用板壁111の中央部の拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
===第1実施形態===
図1A乃至図3Cは、既存軸組5を補強すべく設けられた第1実施形態の補強壁10の説明図である。図1A乃至図1Cには補強壁10を構築する前の既存軸組5を示し、図2A乃至図2Cには補強壁10を構築後の既存軸組5を示している。また、図3A乃至図3Cには、既存軸組5に取り付ける前の補強壁10を示している。なお、図1A及び図3A中の左半部には正面図を示し、同右半部には中心縦断面図を示しており、図2Aには正面図を示している。また、図1B及び図1Cは、それぞれ図1A中のB−B断面図及び同C−C断面図であり、図2B及び図2Cは、それぞれ図2A中のB−B断面図及び同C−C断面図であり、図3B及び図3Cは、それぞれ図3A中のB−B断面図及び同C−C断面図である。
なお、以下では、互いに直交する三方向を、壁高方向、壁幅方向、及び壁厚方向とする。ここで、壁高方向は、鉛直方向たる上下方向を向いており、また壁幅方向及び壁厚方向は、それぞれ水平方向を向いている。なお、壁幅方向のことを左右方向とも言い、壁厚方向のことを前後方向とも言う。ここで、「前方側」が、請求項に記載の「一方側」に相当する。
また、図1A乃至図3C中では、図の錯綜を防ぐ目的で、本来ハッチングで示すべき断面部もハッチング無しで示し、更に、以下で説明に供するほぼ全図に亘り、周囲枠部材31についてはグレーで着色して示している。
【0026】
第1実施形態に係る既存建築物は木造建築物であり、図1A乃至図1Cに示すように、その木造の既存軸組5は、左右一対の丸柱1,1(既存丸柱に相当)と、上下一対の横架材3,3(既存横架材に相当)とを有している。横架材3,3の小口断面形状は矩形であるが、丸柱1,1の小口断面形状は円形である。ここで言う円形の概念には、真円や楕円は勿論のこと、これら真円や楕円以外の円形も含まれる。例えば、曲率の異なる複数の曲線を組み合わせてなる円形も含まれる。また、この例では、丸柱1,1及び横架材3,3のどちらも檜であるが、檜以外の木材でも良い。
【0027】
上側の横架材3は、例えば大梁や大引き等であり、下側の横架材3は、地覆や土台等である。そして、丸柱1と横架材3とは、互いの端部1e,3eにおいて、ほぞ及びほぞ穴等の適宜な嵌合構造や込栓4により相対移動不能に連結固定されており、これにより、矩形枠状の既存軸組5の内方には、正面視略矩形形状の空間SP5が区画されている。なお、この空間SP5の壁幅方向の寸法たる幅寸は、左右一対の柱1,1が丸柱1,1であることから、図1Cに示すように、壁厚方向の端から中央位置へ向かうに従って徐々狭くなっており、つまり、この空間SPの横断面形状は、壁厚方向の中央部にて括れた略砂時計形状(鼓形状)になっている。
【0028】
この空間SP5には、図1Aの既存軸組5を補強する目的で、図2A乃至図2Cに示すように補強壁10が追設される。補強壁10は、図3A乃至図3Cに示すように、補強壁10の本体をなす補強用板壁11と、この補強用板壁11の全四つの端面11a,11a,11b,11bを、その全周に亘って覆うようにこれら端面11a,11a,11b,11bに固定された周囲枠部材31と、を有している。
【0029】
補強用板壁11は、複数枚の略長方形の板材15,15…を有している。各板材15は、その長手方向を左右の水平方向に向け且つ幅方向を上下方向に向けながら、上下に隣り合う板材15と小端(こば)15kにおいて当接されており、これにより、前記長手方向と直交する方向たる上下方向を整列方向として各板材15,15…は整列配置されている。また、各板材15の小端15kたる上端面15u及び下端面15dには、それぞれダボ21が設けられており、かかるダボ21を介して、上下に隣り合う板材15,15同士が順次一体に連結されて全ての板材15,15…が一体化され、これにより全体として一枚の矩形状の補強用板壁11として機能する。なお、この例では、補強用板壁11として、複数枚の板材15からなる板壁を例示しているが、何等これに限るものではなく、例えば大判の一枚板で補強用板壁11を構成可能であれば、当該一枚板の板壁でも良い。また、この例では、板材15は檜であるが、檜以外の木材でも良い。
【0030】
かかる補強用板壁11の上下の各端面11b,11bには、周囲枠部材31における対応する部分31b(後述する横枠部分31b,31b)を固定するための嵌合構造として、複数のダボ穴11bh,11bh…が左右の壁幅方向に並んで形成されており、また、同補強用板壁11の左右の各端面11a,11aにも、同周囲枠部材31における対応する部分31a,31a(後述する縦枠部分31a,31a)を固定するための嵌合構造として、板材15毎にほぞ11apが形成されている。この嵌合については後述する。
【0031】
図2Aに示すように、周囲枠部材31(図2A中、グレーで着色して示す部分)は、既存軸組5と補強用板壁11との間に配置されて、補強用板壁11を既存軸組5の内方に取り付けるための取り付け部材として機能する。そのため、周囲枠部材31は、既存軸組5の正面視略矩形の内周形状及び補強用板壁11の正面視略矩形の外周形状に対応させて、矩形枠として構成されている。また、同部材31は、補強用板壁11への組み付けを容易にすべく4分割されている。すなわち、図3Aに示すように、周囲枠部材31は、補強用板壁11の左右の各端面11a,11aに固定されるべき左右の各縦枠部分31a,31aと、補強用板壁11の上下の各端面11b,11bに固定されるべき上下の各横枠部分31b,31bと、を有し、これら枠部分31a,31a,31b,31bは互いに分離可能に構成されている。そして、縦枠部分31aと横枠部分31bとが、各枠部分31a,31bの端部31ae,31beにて所定の嵌合構造で連結されることにより、これら四つの枠部分31a,31a,31b,31bは一体化されて、上述の周囲枠部材31となる。なお、嵌合構造としては、例えばほぞ及びほぞ穴によるほぞ嵌合や、ダボ及びダボ穴によるダボ嵌合等を例示できるが、この例では前者のほぞ嵌合を用いている。
【0032】
左右の各縦枠部分31a,31a及び上下の各横枠部分31b,31bの何れも、例えば略矩形断面の木材たる角材を本体とし、この例では檜である。そして、何れの枠部分31a,31a,31b,31bについても、その壁厚方向の寸法は、補強用板壁11の厚みよりも大きく、また、各枠部分31a,31a,31b,31bにおいて補強用板壁11の端面11a,11a,11b,11bが対向すべき面31r(周囲枠部材31の内周面31r)の略中央部には、大入れ31tが形成されており、大入れ31tの底部には、それぞれ補強用板壁11の各端面11a,11a,11b,11bを固定するための嵌合構造が設けられている。例えば、各縦枠部分31a,31aの大入れ31tの底部には、複数のほぞ穴31ah,31ah…が壁高方向に間欠的に並んで形成されており、各ほぞ穴31ahに、補強用板壁11の左右の各端面11a,11aのうちで対応する端面11aのほぞ11ap,11ap…が嵌合されて固定される。他方、各横枠部分31b,31bの大入れ31tの底部には、複数のダボ穴31bh,31bh…が壁幅方向に並んで形成されており、各ダボ穴31bhに、補強用板壁11の上下の各端面11b,11bのうちで対応する端面11bのダボ穴11bhに嵌合するダボ14が嵌合されて固定される。なお、ダボ14の材料としては、例えば白樫や欅(けやき)等が使用される。そして、これらの嵌合により、補強用板壁11と周囲枠部材31との間の相対移動は全方位に亘って規制され、これにより補強用板壁11と周囲枠部材31との間の応力の伝達が確実になされるようになっている。但し、補強用板壁11と周囲枠部材31との固定構造は、何等嵌合に限るものではなく、つまり、補強用板壁11の端面11a,11a,11b,11bに周囲枠部材31を固定して互いの相対移動を全方向について規制可能な固定構造、或いは少なくとも周囲枠部材31の周方向(壁幅方向及び壁高方向)について規制可能な固定構造であれば、別の固定構造でも構わない。
【0033】
かかる周囲枠部材31は、その外周面31sが既存軸組5の内周面5rに当接することにより既存軸組5に固定される。そのため、周囲枠部材31の外周面31sの形状は、既存軸組5の内周面5rの形状に対応した形状に作り込まれている。詳しくは次の通りである。
先ず、図1Bに示すように既存軸組5の上下一対の横架材3,3の小口断面形状は前述の通り矩形であるので、当該既存軸組5の内周面5rの一部をなす上側の横架材3の下面3d及び下側の横架材3の上面3uは、どちらも壁幅方向及び壁厚方向に平行な平坦面である。このため、上側の横架材3の下面3dに当接すべき周囲枠部材31の上側の横枠部分31bの上面31buは、図3A及び図3Bに示すように壁幅方向及び壁厚方向に平行な平坦面に形成されており、また下側の横架材3の上面3uに当接すべき周囲枠部材31の下側の横枠部分31bの下面31bdも壁幅方向及び壁厚方向に平行な平坦面に形成されている。
【0034】
これに対して、図1Cに示すように既存軸組5の左右一対の丸柱1,1の小口断面形状は前述の通りの円形であるので、当該既存軸組5の内周面5rの一部をなす右側の丸柱1の左の側面1sは、壁厚方向の略中央位置で最も壁幅方向の内方に突出した横断面半円形状の凸曲面であり、同左側の丸柱1の右の側面1sも、壁厚方向の略中央位置で最も壁幅方向の内方に突出した横断面半円形状の凸曲面である。このため、右側の丸柱1の左の側面1sに当接すべき図3Aの周囲枠部材31の外周面31sの部分31as、つまり、右側の縦枠部分31aの外方側面31asは、横断面形状が円弧状の凹曲面部31ask(曲面部に相当)を有している(図3Cを参照)。
【0035】
但し、ここで、図2Cに示すように補強壁10が既存軸組5に嵌め込まれた状態においては、周囲枠部材31の右側の縦枠部分31aの凹曲面部31askは、右側の丸柱1の周面の一部たる左の側面1sのうちで当該丸柱1の横断面中心C1よりも壁厚方向の前方側(一方側)の部分1sk(以下、丸柱側当接部分1skと言う)に専ら当接し、同横断面中心C1よりも後方側(他方側)の部分1smには、ほぼ当接しないように構成されている。そのため、この丸柱側当接部分1skの輪郭形状に対応した円弧状の横断面形状に、右側の縦枠部分31aの凹曲面部31askは形成されている。
【0036】
同様に、左側の丸柱1の右の側面1sに当接すべき図3Aの周囲枠部材31の外周面31sの部分31as、つまり左側の縦枠部分31aの外方側面31asは、横断面形状が円弧状の凹曲面部31askを有しているが、上述の右側の縦枠部分31aと同様、図2Cに示すように補強壁10が既存軸組5に嵌め込まれた状態においては、当該左側の縦枠部分31aの凹曲面部31askも、左側の丸柱1の周面の一部たる右の側面1sのうちで当該丸柱1の横断面中心C1よりも壁厚方向の前方側の部分1skたる丸柱側当接部分1skに専ら当接し、同横断面中心C1よりも後方側の部分1smには、ほぼ当接しないように構成されている。そのため、左側の縦枠部分31aの凹曲面部31askも、丸柱側当接部分1skの輪郭形状に対応した円弧状の横断面形状に形成されている。
【0037】
更には、この第1実施形態では、図2Aに示すように、周囲枠部材31のうちで下側の横枠部分31bの各小口面31bsは、それぞれ左右の縦枠部分31a,31aに覆われているため、丸柱1の各側面1s,1sに対面していないが、上側の横枠部分31bの各小口面31bs,31bsにあっては、左右の縦枠部分31a,31aに覆われずに、丸柱1の各側面1s,1sに対面している。つまり、既存軸組5の内周面5rに対面している。よって、当該上側の横枠部分31bの各小口面31bs,31bsには、上述の縦枠部分31aの凹曲面部31askと同じ横断面形状の凹曲面部31bskが形成されている。
【0038】
そして、このように既存軸組5の内周面5rの形状に対応した外周形状に作り込まれた周囲枠部材31が、図3A乃至図3Cに示すように補強用板壁11に固定され、これにより、補強壁10が形成されている。また、かかる補強壁10の壁高方向の寸法は、図1Aの既存軸組5の内法と同寸又は若干小さい寸法に設定されている。よって、図3Aの補強壁10を、例えば図1Aの既存軸組5に対して相対的に壁厚方向の前方から後方へとスライド移動させることで、補強壁10の外周面10sを既存軸組5の内周面5rに当接させた状態になるように当該補強壁10を既存軸組5の内方に円滑に嵌め込むことができる。すなわち、図2Aに示すように周囲枠部材31の凹曲面部31ask,31ask,31bsk,31bskが丸柱1の周面に当接するまで、補強壁10は、既存軸組5の内周面5rの内方に入り込んで、これにより既存軸組5の内方に嵌め込まれる。
【0039】
なお、図4(図2A中のIV−IV断面図)に示すように、この嵌め込まれた状態においては、壁厚方向に係る補強用板壁11の横断面中心位置C11は、既存丸柱1の横断面中心C1よりも壁厚方向の前方側に位置しており、つまり、丸柱1の横断面中心C1の位置を境界として丸柱側当接部分1sk(丸柱1の周面のうちで周囲枠部材31の凹曲面部31askが当接する部分1sk)と壁厚方向の同じ側に、補強用板壁11の横断面中心位置C11は位置している。よって、丸柱側当接部分1skを介して既存軸組5と補強壁10との間の応力伝達は円滑且つ確実になされるようになる。
【0040】
また、かかる嵌め込み状態の位置関係に補強壁10と既存軸組5とを固定すべく、同図4に示すように、貫入部材としての釘41,41…を、周囲枠部材31から既存軸組5へ向けて打ち込んで、これにより、これら周囲枠部材31と既存軸組5との両者に跨って釘41を貫入する。そして、かかる釘41,41…の打ち込みを、周囲枠部材31の全周に亘って行い、これにより、周囲枠部材31と既存軸組5との間の相対移動は全方位に亘って確実に規制されるようになる。その結果、補強壁10と既存軸組5との間の応力伝達が確実になされるようになって、以上をもって、補強壁10は、既存軸組5を補強する補強壁10として確実に機能し得る状態となっている。
【0041】
ちなみに、同図4に示すように、この第1実施形態では、釘41の打ち込み位置が、壁厚方向に関しては複数箇所の一例として二箇所設定されている。詳しくは、周囲枠部材31の内周面31rにおいて補強用板壁11を壁厚方向の両側から挟む位置に、それぞれ釘41,41が打ち込まれている。ちなみに、この打ち込み位置は、周囲枠部材31の内周面31rの大入れ31tの未形成部分、つまり各縦枠部分31aや各横枠部分31bにおいて大入れ31tが形成された面31rの残部に設定されているので、打ち込み作業を容易に行うことができる。また、釘41の打ち込み方向は壁幅方向又は壁高方向に対して所定角度だけ傾斜する方向を向いているとともに、対となる二箇所の釘41,41同士の打ち込み方向が互いに平行にならないように調整しながら、これら釘41,41は打ち込まれている。よって、これら一対の釘41,41同士は互いに拘束し合って確実に抜け止めされる。
【0042】
かかる補強壁10は、次のような構築手順で既存建築物の既存軸組5の内方に構築される。
先ず、施工現場や工場等において、図3Aの板材15,15…及びダボ21,21…を作製し、そして、ダボ21によって板材15,15同士を順次連結していき、一枚の補強用板壁11に組み立てる(補強用板壁形成工程)。
【0043】
また、これと同時並行又は相前後して、図3A及び3Cに示すような凹曲面部31ask,31ask,31bsk,31bskが形成された周囲枠部材31、つまり左右の各縦枠部分31a,31a及び上下の各横枠部分31b,31bを作製する(周囲枠部材形成工程)。
【0044】
そうしたら、補強用板壁11の端面11a,11a,11b,11bを、その全周に亘って覆うように端面11a,11a,11b,11bに周囲枠部材31を固定する。すなわち、補強用板壁11の左右の各端面11a,11aに、それぞれ対応する縦枠部分31a,31aをほぞ嵌合により取り付け、また補強用板壁11の上下の各端面11b,11bに、それぞれ対応する横枠部分31b、31bを、ダボ嵌合によって取り付けて、補強壁10を形成する(補強壁形成工程)。
【0045】
次に、補強壁10を施工現場の既存建築物まで搬入する。そして、この補強壁10を、図1Aに示す既存建築物の既存軸組5の内方に嵌め込む。すなわち、補強壁10を既存軸組5に対して壁厚方向の前方から後方へとスライド移動させ、そして、図2C及び図2Aに示すように、当該スライド移動を、凹曲面部31ask,31ask,31bsk,31bskが丸柱1の周面における丸柱側当接部分1skに当接するまで行う。これにより、図2Cに示すように壁厚方向に係る補強用板壁11の横断面中心位置C11が、壁厚方向に係り丸柱側当接部1skが位置する側と同じ前方側に位置するように補強壁10が既存軸組5の内方に嵌め込まれる(補強壁嵌め込み工程)。
【0046】
そうしたら、最後に、この補強壁10が既存軸組5の内方に嵌め込まれた状態において、釘41,41…を打ち込んで、これら釘41,41…を周囲枠部材31と既存軸組5との両者に跨って貫入し、これにより既存軸組5に補強壁10を固定する(補強壁固定工程)。そして、以上をもって、補強壁10が既存軸組5に構築される。そして、上述から明らかなように、当該補強壁10の構築方法によれば、既存軸組5を解体せずに、当該既存軸組5に対して確実に応力伝達可能な補強壁10を構築することができる。
【0047】
ところで、上述のように第1実施形態では、補強用板壁11は、ほぞ嵌合及びダボ嵌合によって周囲枠部材31に強固に固定されており、且つ、周囲枠部材31は、釘止めによって既存軸組5に強固に固定されている。そのため、水平外力Fの作用下においても(図6)、補強用板壁11と既存軸組5との間では確実に応力伝達がなされ、これにより圧縮束に起因した補強用板壁11の局所破損も有効に防止される。図5は、その説明用の比較例の板壁311の正面図である。
【0048】
この図5の比較例のような場合、つまり、左右一対の丸柱1,1には大入れ1tのみが上下に沿った溝状に形成され、当該大入れ1tに補強用板壁311の左右の両端部311a,311aが差し込まれて固定され、且つ、上下一対の横架材3,3にも大入れ3tのみが左右に沿った溝状に形成され、当該大入れ3tに補強用板壁311の上下の両端部311b,311bが差し込まれて固定されている場合に、図6に示すような水平外力Fが作用すると、丸柱1,1及び横架材3,3からなる軸組5は、図6の二点鎖線のように、比較的容易に平行四辺形状に変形してしまう。すなわち、せん断力を受けた軸組5内で補強用板壁311全体が四辺でせん断力を伝達することができないため、軸組5の対角方向に圧縮力を受けて抵抗する際に、対角方向の両端の隅角部に圧縮力が集中し、その結果、対角方向の両端の板材315の繊維に直交方向に横圧縮が発生してつぶれ、対角長さが短くなることによって軸組5は容易に平行四辺形状に変形してしまう。すると、図6に示す既存軸組5の四つの内角θ1,θ2,θ3,θ4のうちの鈍角の方の内角θ1,θ3につき、その対角線上に生じている圧縮束の影響により横架材3と丸柱1との交点付近の部位に、圧縮束からの応力が作用し、これにより、当該部位が破損し易くなる。
【0049】
これに対して、図2Aの第1実施形態の補強用板壁11にあっては、既存軸組5に釘止めされた周囲枠部材31に、ほぞ嵌合やダボ嵌合を介して補強用板壁11は固定されており、これにより、既存軸組5と補強用板壁11との間の相対移動は規制されている。よって、上述の図6の水平外力Fが作用した際に、補強用板壁11の左右の両端部11a,11aの丸柱1,1に対する鉛直方向の応力伝達が可能であるとともに、補強用板壁11の上下の両端部11b,11bの横架材3,3に対する水平方向の応力伝達が可能であり、これにより、上述の圧縮束の水平方向及び鉛直方向の分力を横架材3及び丸柱1に効果的に伝達することが可能となって、上述の交点付近の部位の破損が抑制される。その結果、水平外力Fの値を図5の比較例の架構形式よりも大きく設定することができる。また、横架材3及び丸柱1が変形に抵抗する要素にもなるため、平行四辺形状の変形も抑えられ、その結果、補強用板壁11の面内せん断剛性及び耐力は、より向上する。
【0050】
ところで、上述の第1実施形態では、図2Bに示すように既存軸組5の上下の各横架材3,3の小口断面形状が矩形であったため、上側の横架材3の平坦な下面3d及び下側の横架材3の平坦な上面3uに対応させてそれぞれ、周囲枠部材31の上側の横枠部分31bの上面31buを平坦面にし、同下側の横枠部分31の下面31bdを平坦面にしていたが、これら横架材3,3のどちらか一方又は両方が、小口断面形状が円形の丸材である場合には、当該丸材の横架材3の周面に対面する横枠部分31bの面には、前述の縦枠部分31aと同様の凹曲面部(不図示)が、丸材の周面の形状に対応させて形成されることになる。そして、このような構成によれば、第1実施形態に係る補強壁10を、横架材3に丸材を用いた既存軸組5にも適用可能となる。
【0051】
また、上述の第1実施形態では、図4に示すように周囲枠部材31は壁厚方向の前方側にのみ設けられ、丸柱1の横断面中心C1の位置を壁厚方向に超えて壁厚方向の後方側には延在していなかったが、後方側に延在させても良い。そして、かかる構成によれば、補強用板壁11の壁厚を厚くすることができる。但し、その場合には、凹曲面部31askに連続させながら横断面中心C1の位置を壁厚方向に超えて延長される部分の面31asmは、同図4中に二点鎖線で示すように壁厚方向に平行な平坦面31asmに形成されるのが望ましい。そして、このようになっていれば、既存軸組5の内方に補強壁10を嵌め込む際の引っ掛かり等の干渉が防止され、円滑な嵌め込み性が担保される。
【0052】
また、同図4中に三点鎖線で示すように、壁厚方向の後方側に、補強壁10と平行に別途化粧板51を設けても良い。そして、このような化粧板51を設ければ、後方側から補強壁10を一切見えないようにすることができて、これにより、後方側から見た時の意匠性を高めることができる。
【0053】
<<<補強用板壁11の板材15,15同士を連結するダボ21について>>>
ここで、第1実施形態の補強用板壁11の板材15,15同士を連結するダボ21について説明する。図7A及び図7Bは、ダボ21の説明図である。図7Aには、補強用板壁11の中央部の拡大正面図を示しており、また、図7Bには、図7A中のB−B断面図を示している。
【0054】
板材15,15同士を一体に連結するダボ21は、前述のように板材15の小端15kに埋設されている。すなわち、上下に隣り合う板材15,15同士の各小端15k,15kには、それぞれ、ダボ穴16,16が凹設されており、そして、互いに対向する上側の板材15のダボ穴16と下側の板材15のダボ穴16とに跨って、ダボ21が嵌合することにより、当該ダボ21を介して上側の板材15と下側の板材15とが、その長手方向たる水平方向の左右の相対移動を規制された状態に一体化されている。そして、かかる板材15,15同士の一体化が上下方向に亘って繰り返されることにより、図3Aで既述したように、全ての板材15,15…が連結一体化されて一枚の補強用板壁11をなし、丸柱1や横架材3から入力される地震力等の水平外力を受け止めて木造の既存建築物の耐震性を高めるなど補強効果を奏するようになっている。
【0055】
かかるダボ21は、例えば中実の直方体部材である。その素材としては木材が使用され、また、板材15よりも堅い木材が使用される。ここで「堅い」というのは、圧縮荷重を付与した際に圧縮変形量が小さい(つまり潰れ難い)ということであり、この例では、板材15が檜であるので、これよりも堅い木材として白樫や欅等が使用される。
【0056】
また、ダボ穴16の各内法は、ダボ21の各外法と同寸若しくは若干小さめに設計されており、これにより、ダボ穴16にダボ21が嵌合された状態においては、ダボ21とダボ穴16との間に隙間が生じないようになっている。但し、ダボ21を介して板材15,15同士が連結された際に、これら板材15,15同士が小端15k,15kの略全面に亘って互いに当接するようにすべく、ダボ穴16の深さDは、ダボ21の上下方向の外法L1の略半分の値に設定されているとともに、各板材15の小端15kは平坦面に形成されている。
【0057】
ここで、この第1実施形態にあっては、ダボ21の長手方向が、板材15の長手方向を向いている。すなわち、ダボ21は、ダボ穴16に嵌合された状態において、板材15の長手方向と平行な方向(図7Aの例では左右方向)の長さL2が板材15の整列方向(図7Aの例では上下方向)の長さL1よりも長い横長形状に形成されている。これにより、補強用板壁11自体の水平耐力が高められて、既存建築物の耐震性を向上可能となる。
【0058】
このように水平耐力が向上する理由は、次のように推察される。
ダボ321が図8Aの比較例のような縦長形状の場合、つまり、ダボ321の長手方向が、板材315の長手方向と直交する方向たる上下方向を向いている場合には、ダボ315の左右方向の長さが短くなっている。よって、左右方向の剪断力を負担する面積が小さくなってダボ321の剪断剛性が小さくなる。これにより、ダボ321は剪断変形が大きくなってダボ321の回転変形が生じ易くなり、その結果、補強用板壁311の水平耐力が小さくなる。
【0059】
これに対して、図8Bの第1実施形態の場合には、ダボ21が、板材15の長手方向たる左右方向に長くなっている。よって、左右方向の剪断力を負担する面積が大きいことからダボ21の剪断剛性は大きくなる。そして、これにより、ダボ21は剪断変形し難くなってダボ321の回転変形が生じ難くなる。また、ダボ21の上面21a及び下面21bが左右方向に広く確保されていることで、上下に隣り合う板材15,15同士が水平方向に相対移動する際にダボ21に作用する回転モーメントを、上記上面21a及び下面21bで有効に受け止め、このことも、回転変形の抑制に寄与し得る。そして、これらの結果、図8B中二点鎖線で示すようにダボ21の回転は小さくなって、補強用板壁11の水平耐力は向上するものと考えられる。なお、補強用板壁11として水平耐力が向上することは、後述の実験によっても確認された事実である。
【0060】
かかるダボ21の横長形状に関し、この図7Aの例では、板材15の長手方向と平行な方向(図7Aでは壁幅方向(左右方向))のダボの長さL2と、板材15の整列方向(図7Aでは壁高方向(上下方向))のダボ21の長さL1との比を、3:1としているが、何等これに限るものではない。すなわち、基本的には、板材15の長手方向と平行な方向(図7Aでは壁幅方向(左右方向))のダボ21の長さL2を、板材15の整列方向(図7Aでは壁高方向(上下方向))のダボ21の長さL1以上にしていれば、上述の比較例(図5)よりも補強用板壁11の水平耐力を高めることができる。但し、実用上は、上記の比を、2:1〜4:1の範囲に設定すると良い。
【0061】
また、図7Aの例では、直方体形状のダボ21を用いているので、その左右の両小口は、左右方向と直交する垂直面となっており、また、両小口が対向するダボ穴16の左右端面も、左右方向と直交する垂直面になっている。よって、水平外力をダボ21の小口とダボ穴16の端面との面接触により略均一に受けることができて、水平外力がダボ21及びダボ穴16に作用した際のダボ21及びダボ穴16の潰れやめり込み等の圧縮変形量の低減を図れ、その結果、隣り合う板材15,15同士の相対移動を有効に規制し、このことも、補強用板壁11の水平耐力の向上に寄与する。
【0062】
ここで望ましくは、木材からなるダボ21の繊維方向を、板材15の長手方向たる左右方向に沿わせていると良く、更に望ましくは、板材15の繊維方向を、板材15の長手方向たる左右方向に沿わせていると良い。
【0063】
そして、このようにすれば、ダボ21及び板材15の圧縮強度や圧縮剛性を、板材15の長手方向たる左右方向に関して高めることができる。これにより、水平外力が補強用板壁11に作用した際のダボ21及びダボ穴16の潰れやめり込み等の圧縮変形量の低減を図れ、結果、上下に隣り合う板材15,15同士の左右方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0064】
図2Aの例では、かかるダボ21,21…が、補強用板壁11の壁面上において略格子状パターンで離散配置されている。すなわち、ダボ21,21…は、壁幅方向(横架材3の長手方向(左右方向))に所定ピッチで配置され、且つ上下方向に隣り合うダボ21,21同士は、壁幅方向の位置を互いに揃えて配置されているが、この配置パターンは何等これに限るものではなく、例えば千鳥配置でも良い。
【0065】
以上説明してきた横長形状のダボ21による補強用板壁11の水平耐力向上効果を、実験によっても確認しているので、その結果等について以下に説明する。
図9A及び図9Bは、実験に用いた試験片11s1,11s2及び試験装置の概略図である。図9Aには、実施例たる横長のダボ21の場合を、また図9Bには比較例たる縦長のダボ321の場合を示している。
【0066】
図9Aに示す実施例の試験片11s1は、図7Aの補強用板壁11において二点鎖線の部位を切り出したものに概ね相当する。また、図9Bに示す比較例の試験片11s2も、その外形寸法としては、上述の実施例と同寸である。すなわち、どちらの試験片11s1,11s2も、板材15(315)の長手方向と直交する整列方向に並ぶ三枚の板材15,15,15(315,315,315)を有し、整列方向の中央の板材15(315)の両脇には、それぞれ一枚の板材15,15(315,315)がダボ21(321)を介して取り付けられている。
【0067】
但し、図9Aの実施例の試験片11s1では、横長形状のダボ21が、中央の板材15の各小端15k,15kにそれぞれ一つずつ設けられているのに対し、図9Bの比較例の場合には、各小端315k,315kに、縦長形状のダボ321が二つずつ設けられている。また、実施例のダボ21の寸法は、24×180×60mmであるのに対して、比較例のダボ321の寸法は、24×24×60mmとしている。ここで、60mmは、板材15(315)の整列方向に係るダボ21,321の長さL1であるが、実施例と比較例とは、共に、ダボ穴16,316の深さDを30mmに揃えていることから、ダボ21,321にあっても前記整列方向の長さL1を60mmに揃えている。また、板材15(315)の長手方向に係るダボ21,321の長さL2については、実施例は180mmであるところ、比較例は24mmであり、これにより、実施例のダボ21は、比較例のダボ321よりも横長形状に形成されている。なお、残りの24mmは、壁厚方向(図9A及び図9Bの紙面を貫通する方向)のダボ21,321の長さであり、互いに同寸である。
【0068】
一方、試験装置は、固定ヘッド91,91と可動ヘッド93とを有する。そして、固定ヘッド91,91に、試験片11s1(11s2)の両脇の各板材15,15(315,315)を固定するとともに、可動ヘッド93の方には中央の板材15(315)を固定した状態で、可動ヘッド93を板材15(315)の長手方向に沿って例えば2mm/分の速度でスライドさせることにより、中央の板材15(315)に対して前記長手方向の荷重を負荷し、その際の荷重値をロードセルで計測しつつ可動ヘッド93のスライド量を計測する。そして、計測された荷重値及びスライド量を、それぞれ、荷重−変位グラフの荷重値及び変位量として同グラフにプロットする。なお、スライド量の最大値は40mmであり、つまり40mmまでスライドさせた後に、除荷した。
【0069】
図10A及び図10Bに、実施例及び比較例の実験結果をそれぞれ示す。なお、ここでは、上述の実験を、実施例について3回、比較例については2回行っており、そのため、図10Aには3本のグラフが示され、図10Bには2本のグラフが示されている。
【0070】
また、同実験では、上述の第1実施形態の内容に対応させて、板材15(315)には檜を用いる一方、実施例のダボ21には白樫を用い、また比較例のダボ321には欅を用いた。ここで、これら白樫や欅のどちらも、檜より十分に堅い木材である。よって、実験後にダボ21(321)及びダボ穴16(316)の損傷状態を観察したところ、専らダボ穴16(316)の方が凹んだりめり込まれるなど大きく損傷していた。つまり、ダボ21(321)の方の損傷は、概ね表面の浅い疵程度に留まっており、大きな凹み等の目立った外傷は無かった。
【0071】
以下、図10A及び図10Bのグラフを参照しながら、実験結果について説明する。
先ず、各試験片11s1,11s2の耐力であるが、これは、グラフの最初の荷重ピーク値で評価した。そして、図10Aの実施例の場合は、3つのグラフのピーク値の平均値が58.4kNであり、また、図10Bの比較例の場合は、2つのグラフのピーク値の平均値が35.3kNであった。このことから、実施例の試験片11s1は、ダボ数が比較例の二分の一であるにも拘わらず、比較例の試験片11s2よりも高い耐力を示すことがわかった。
【0072】
また、ダボ一つ当たりの耐力を求めてみると、比較例では、そのダボ数が4であることから、上記耐力35.3kNをダボ数4で除算して8.8kNが得られ、他方、実施例では、ダボ数が2であることから、上記耐力58.4kNを2で除算して29.2kNが得られた。よって、実施例の横長形状のダボ構造は、比較例の縦長形状のダボ構造の約3倍の耐力を有することがわかった。また初期剛性も向上しているが、それはダボ21と板材15との力の伝達が繊維方向同士の圧縮によってなされることも関係していると推察される。
【0073】
更に、実験後の各試験片11s1,11s2の損傷状態の観察結果によれば、比較例の試験片11s2では、ダボ321が大きく回転しているのに対して、実施例の試験片11s1では、ダボ21の回転が大幅に抑制されていることが確認された。このことから、ダボ21,321の回転挙動が、各補強用板壁11,311を模擬した各試験片11s1,11s2の耐力に大きく関係していることがわかった。
【0074】
===第2実施形態===
図11A及び図11Bは、既存軸組5を補強すべく設けられた第2実施形態の補強壁110の説明図である。図11Aには正面図を示し、図11Bには、図11A中のB−B断面図を示している。
【0075】
上述の第1実施形態では、補強用板壁11をなす複数の板材15,15…がダボ21によって連結一体化されていたが、この第2実施形態では、ダボ21を用いずに板材115,115同士を嵌合(かみ合わせ)構造で連結している点で主に相違する。よって、以下の説明では、この相違点についてのみ説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、その説明については省略する。例えば、図11Aの補強用板壁111に対して、その全四つの各端面111a,111a,111b,111bを覆って周囲枠部材31(つまり、縦枠部分31a,31a及び横枠部分31b,31b)が固定されている点などは、第1実施形態の補強用板壁11と同様であり、よって周囲枠部材31等については説明しない。
【0076】
第2実施形態に係る補強用板壁111は、複数枚の略長方形の板材115,115…を有する。各板材115は、その長手方向を左右の水平方向に向け且つ幅方向を上下方向に向けながら、上下に隣り合う板材115と小端115kにおいて当接されており、これにより、前記長手方向と直交する方向たる上下方向を整列方向として各板材115,115…は整列配置されている。
【0077】
また、各板材115の小端115kたる上端面115u及び下端面115dには、それぞれ嵌合凸部117又は嵌合凹部118が形成されている。そして、その上方及び下方に隣り合う板材115の小端115kには、上記の嵌合凸部117又は嵌合凹部118に対応させて、嵌合凹部118又は嵌合凸部117が形成されており、互いに対応する嵌合凸部117と嵌合凹部118との嵌合によって上下に隣り合う板材115,115同士が順次一体に連結されて全ての板材115,115…が一体化され、これにより全体として一枚の補強用板壁111として機能する。なお、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の詳細については後述する。
【0078】
図11Aの例では、上端の板材115と下端の板材115とを除き、それらの間に位置する各板材115,115…の平面形状は、上下方向の一つおきに同形となっている。すなわち、これらの板材115,115…は、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の形状まで考慮すると、2種類の外形形状の板材15に大別される。より詳しくは、上から二つ目、四つ目、六つ目、八つ目の板材115のグループと、上から三つ目、五つ目、七つ目の板材115のグループとの2種類の外形形状に大別される。但し、このように2種類に大別されなくても良い。つまり、板材115,115…は、上下方向の一つおきに同形となっていなくても良く、例えば、板材115の幅寸(図11Aの例では上下方向(壁高方向)の長さ)や板厚(図11Bの例では前後方向(壁厚方向)の長さ)が、板材115,115…毎に異なっていても良い。
【0079】
図12は、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の説明図であり、補強用板壁111の中央部を拡大正面視で示している。
板材115,115同士を一体に連結する嵌合凸部117及び嵌合凹部118は、それぞれ、板材115の小端115kに、板材115の一部として一体不可分に形成されている。すなわち、嵌合凸部117は、その周囲の部位が切除されることにより板材115の小端115kに凸設されており、他方、嵌合凹部118は、板材115の一部が嵌合凸部117の形状に又は相似形状などに切り欠かれることにより小端115kに凹設されている。そして、嵌合凸部117の寸法は、嵌合凹部118と同寸又は若干大きめに形成されており、嵌合時には互いの間に隙間が形成されないようになっている。よって、同嵌合に基づいて、上側の板材115と下側の板材115とが、その長手方向たる水平方向の左右の相対移動を規制された状態に一体化される。そして、かかる嵌合が、上下方向に並ぶ全ての板材115,115…について順次繰り返されることにより、図11Aで既述したように、全ての板材115,115…が連結一体化されて一枚の補強用板壁111をなす。
【0080】
なお、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の形状は、それぞれ、壁厚方向(図12の紙面を貫通する方向)の全厚に亘る何れの断面においても同形に維持されている。よって、嵌合させる際には、正面視で嵌合凸部117と嵌合凹部118とを互いに重ねた状態において、壁厚方向にスライドさせることにより容易に嵌合させることができる。
【0081】
ところで、この第2実施形態の補強用板壁111、つまり嵌合凸部117及び嵌合凹部118からなる嵌合構造を板材115,115同士の連結に用いた補強用板壁111にあっても、第1実施形態の横長形状のダボ21を用いた補強用板壁11の場合と同様に、補強用板壁111の水平耐力を向上することができる。以下、詳しく説明する。
図13に示すように、嵌合凸部117は、一方の板材115(図13では下側の板材115)に対しては、当該板材115と一体不可分たる板材115の一部になっている。よって、直接板材115,115同士がかみ合うことにより、水平力に対してせん断負担面積を大きく確保することが可能となり、その結果、大きな水平外力の作用下でも上下に隣り合う板材115,115同士は水平方向に相対移動し難くなり、補強用板壁111としての水平耐力が向上する。なお、この水平耐力が向上することは、後述の実験によっても確認されている。
【0082】
また、図12の例では、嵌合凸部117の左右方向の一端面117e1を、左右方向と直交する垂直面に形成し、同方向の他端面117e2を、嵌合凸部117の先端117sから基端117bに向かうに従って嵌合凸部117の左右方向の長さが短くなるように、テーパー面に形成している。そして、このように構成していれば、当該テーパー面117e2によって、板材115,115同士は、前記整列方向に離間不能に強固に連結され、これをもって、補強用板壁111の一体性を高めることができる。一方、嵌合凸部117の一端面117e1の方は、上述の如きテーパー面ではなく垂直面に形成されている。よって、嵌合凸部117と嵌合凹部118とを嵌合させる際に嵌合させ易くなる。
【0083】
なお、場合によっては、嵌合凸部117の一端面117e1の方も、他端面117e2と逆勾配のテーパー面にしても良く、つまり、互いに逆の傾きのテーパー面を嵌合凸部117の左右方向の両端面117e1,117e2に形成しても良い。この場合、嵌合作業の作業性については、上述の構成より劣ることになるが、補強用板壁111の一体性については、上述よりも高めることができる。
【0084】
更に、図12の例では、上述のテーパー面117e2を具備した嵌合凸部117と、この嵌合凸部117が嵌合可能な嵌合凹部118との双方が、各小端115kに形成されている。すなわち、小端115kにおいて嵌合凸部117ではない部位が嵌合凹部118となっており、これにより、嵌合凸部117と嵌合凹部118とが左右方向(板材115の長手方向)に交互に所定ピッチPで形成されている。
そして、かかる構成によれば、上述の整列方向に離間不能な嵌合状態が左右方向の全長に亘って確保されるので、板材115,115同士の連結を強固にできて補強用板壁111の一体性を高め得て、結果、補強用板壁111の耐震性のより一層の向上を図れる。
【0085】
また望ましくは、木材からなる板材115の繊維方向を、板材115の長手方向たる左右方向に沿わせていると良い。そして、このようにすれば、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の圧縮強度や圧縮剛性を、板材115の長手方向たる左右方向に関して高めることができる。すなわち、嵌合凸部117や嵌合凹部118が互いに板材115の繊維方向に圧縮されることで力が伝達されるために初期剛性が高くなる。これにより、水平外力が補強用板壁111に作用した際の嵌合凸部117及び嵌合凹部118の潰れやめり込み等の圧縮変形量の低減を図れ、結果、上下に隣り合う板材115,115同士の左右方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0086】
以上説明してきた嵌合凸部117及び嵌合凹部118による補強用板壁111の水平耐力向上効果を、実験によっても確認しているので、その結果等について以下に説明する。
図14A及び図14Bは、実験に用いた試験片111s1,111s2及び試験装置の概略図である。図14Aには、実施例たる嵌合凸部117及び嵌合凹部118の場合を示し、図14Bには比較例たる縦長形状のダボ321の場合を示している。
【0087】
図14Aに示す実施例の試験片111s1は、図12の補強用板壁111において二点鎖線の部位を切り出したものに概ね相当する。また、図14Bに示す比較例の試験片111s2も、その外形寸法としては、上述の実施例と同寸である。すなわち、どちらの試験片111s1,111s2も、板材115(315)の長手方向と直交する整列方向に並ぶ三枚の板材115,115,115(315,315,315)を有する。そして、実施例にあっては、整列方向の中央の板材115の両脇に、それぞれ一枚の板材115,115が、嵌合凸部117及び嵌合凹部118によって取り付けられている。他方、図14Bの比較例の試験片111s2は、第1実施形態の実験で用いた図9Bの比較例の試験片11s2と同じである。よって、比較例の試験片111s2の説明については適宜省略しながら説明する。
【0088】
何れの板材115,115…(315,315…)も、その厚みは全面に亘り47mmの均等厚である。また、嵌合凸部117及び嵌合凹部118の寸法は互いに同寸であり、詳しくは次の通りである。先ず、嵌合凸部117の高さたる上下方向の長さL1は15mmであり、嵌合凸部117の基端117b側の左右方向の長さL2bが177mm、同先端117s側の左右方向の長さL2eが180mmである。そして、このように先端117s側の長さL2eの方を基端117b側の長さL2bよりも長くすることにより、図12に示すように、嵌合凸部117の左右方向の両端面のうちの一方の面117e1を、左右方向と直交した垂直面にしながらも、もう一方の面117e2を、同垂直面から所定勾配(左右方向の長さ:上下方向の長さ=6:15)だけ傾いたテーパー面にしている。また、上述の第2実施形態の内容に対応させて、板材115(315)には檜を用いた。
【0089】
試験装置は、第1実施形態の実験と同じものを用いており、試験方法も第1実施形態の実験の場合と同じである。すなわち、試験装置の固定ヘッド91,91に、試験片111s1(111s2)の両脇の各板材115,115(315,315)を固定するとともに、可動ヘッド93の方には中央の板材115(315)を固定した状態で、可動ヘッド93を板材15(315)の長手方向に沿って例えば2mm/分の速度でスライドさせることにより、中央の板材15(315)に対して同方向の荷重を負荷し、その際の荷重値をロードセルで計測しつつ可動ヘッド93のスライド量を計測した。
【0090】
図15A及び図15Bに、実施例及び比較例の実験結果をそれぞれ示す。各図とも、左側にはグラフの全体を示すとともに、右側には、初期剛性がわかるようにグラフの初期変位の部分を拡大して示している。また、ここでは、上述の実験を、実施例について3回、比較例については2回行っており、よって、図15Aには3本のグラフが示され、図15Bには2本のグラフが示されている。なお、図15Bの実験結果のグラフは、前述の図9Bのグラフと同じである。
【0091】
以下、実験結果について、図15A及び図15Bのグラフを参照しながら説明する。
先ず、各試験片111s1,111s2の耐力であるが、これは、グラフの最初の荷重ピーク値で評価した。そして、図15Aの実施例の場合は、3つのグラフのピーク値の平均値が107.7kNであり、また、図15Bの比較例の場合は、2つのグラフのピーク値の平均値が35.3kNであった。このことから、実施例の試験片111s1は、比較例の試験片111s2よりも格段に高い耐力を示すことがわかる。
【0092】
ちなみに、図15A及び図15Bの右側の初期剛性のグラフを見ると、実施例の方が比較例よりも初期剛性が格段に高くなっているが、これは、嵌合凸部117が、繊維方向同士の圧縮によって力を伝達するためと推察される。
【0093】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0094】
上述の実施形態では、既存軸組5に周囲枠部材31を固定するための貫入部材の一例として釘41を例示したが、かかる釘41としては、例えば鉄丸釘や和釘、或いは軸部の外周面に凹凸部を有したスクリュー釘などを用いることができる。また、場合によっては鉄以外の金属製の釘を用いても良く、更には、ビス(例えばタルキック(商標))やステープルでも良い。
【0095】
上述の実施形態では、既存建築物の既存軸組5に係る丸柱1や横架材3、周囲枠部材31、補強用板壁11(111)に係る板材15(115)やダボ14,21の何れも木製としていたが、その素材は何等木材に限るものではない。例えば、コンクリート製や樹脂製、金属製等でも良い。
【0096】
上述の実施形態では、既存軸組5の定義について述べていなかったが、既存軸組5とは、補強壁10の構築前に予め構築済み状態にある軸組のことを言う。
【0097】
上述の第1実施形態では、補強用板壁11をなす板材15,15同士を連結するためのダボ21として直方体形状のものを例示したが、何等これに限るものではない。例えば断面が円形や楕円形等の円柱体でも良いし、断面が三角形の三角柱体でも良いし、断面が五角形以上の多角柱体でも良い。
【0098】
上述の第1実施形態では、図2Aに示すように、補強用板壁11の板材15の長手方向を水平方向に揃えていたが、何等これに限るものではない。例えば、図16の正面図に示すように、板材15の長手方向を上下方向(鉛直方向)に揃えても良い。そして、この場合には、板材15の長手方向が上下方向を向いていることから、ダボ21の長手方向も上下方向を向いて配置されることになる。つまり、ダボ21は、ダボ穴16に嵌合された状態において、板材15の長手方向と平行な上下方向の長さが板材15の整列方向と平行な左右方向の長さよりも長く設定されることになる。そして、かかる構成においても、上述と同じ理屈で、補強用板壁11の水平耐力を高めることができて、既存建築物の耐震性を向上可能となる。すなわち、水平外力F0が補強用板壁11に作用した場合に、図16に示すように、水平外力F0は、補強用板壁11の内力を介して上下方向の剪断力F1に変換されるので、当該剪断力F1によって板材15,15同士が上下方向に相対移動することになるが、この時、この上下方向の相対移動をダボ21が規制するので、当該ダボ21は、上述の第1実施形態と同様の耐力向上効果を奏することができる。
【0099】
上述の第1実施形態では、図2Aに示すように、全てのダボ21,21…が同形状であり、また、全てのダボ21,21…の長手方向が板材15の長手方向と平行に配置されていたが、何等これに限るものではない。例えば、各小端15kにつき少なくとも一つのダボ21の長手方向が、板材15の長手方向と平行な向きに配置されていれば、それ相応の耐力向上効果を奏し得る。すなわち、整列方向に並ぶ全ての小端15k,15k…に関して、小端15k毎に、それぞれ、少なくとも一つのダボ21の長手方向が、板材15の長手方向と平行な向きに配置されていれば、本発明の範囲に属する。
但し、図2Aのように全てのダボ21,21…に関して、板材15の長手方向に係るダボ21の長さが、板材15の整列方向に係るダボ21の長さ以上になっている方が、補強用板壁11の耐力をより確実に高めることができることから、好ましいのは言うまでもない。
【0100】
上述の第1実施形態では、図3Bに示すように、板材15の厚み方向(壁厚方向)のダボ21の長さを、板材15の厚みよりも小さくし、これによりダボ21を板材15内に完全に埋設していたが、何等これに限るものでない。例えば、板材15の厚み方向のダボ21の長さを、板材15の厚みと同厚又はそれ以上の長さにしても良い。但し、その場合には、板材15の板面から、ダボ21の一部が外部に露出することになる。
【0101】
上述の第2実施形態では、図11Aに示すように、補強用板壁111の板材115の長手方向を水平方向に揃えていたが、何等これに限るものではない。例えば、図17の正面図に示すように、板材115の長手方向を上下方向(鉛直方向)に揃えても良い。そして、この構成によっても、上述と同じ理屈で、補強用板壁111の水平耐力を高めることができて、既存建築物の耐震性を向上可能となる。すなわち、水平外力F0が補強用板壁111に作用した場合に、図17に示すように、水平外力F0は、補強用板壁111の内力を介して上下方向の剪断力F1に変換されるので、当該剪断力F1によって板材115,115同士が上下方向に相対移動することになるが、この時、この上下方向の相対移動を、嵌合凸部117が嵌合凹部118との嵌合によって規制するので、当該嵌合凸部117は、上述の第2実施形態と同様の耐力向上効果を奏することができる。
ちなみに、この場合についても、嵌合凸部117の正面視の形状は、せん断負担面積向上等の観点から、板材115の整列方向に平行な方向の長さよりも、板材115の長手方向に平行な方向の長さの方が長い形状に形成されていると良い。すなわち、この場合は、板材115の長手方向が上下方向を向いていることから、嵌合凸部117の形状は、上下方向の長さが左右方向の長さよりも長く設定されている。
【0102】
上述の第2実施形態では、図12に示すように左右方向の他端面117e2にテーパー面117e2を有していたが、嵌合凸部117の形状は何等これに限るものではない。例えば、図18の正面図に示すように、嵌合凸部117における左右方向の両端面117e3,117e4が、左右方向と直交する垂直面に形成された矩形の嵌合凸部117であっても良いし、更には、正面視で三角形状の嵌合凸部117であっても良い。なお、これらの場合にも、嵌合凹部118は、嵌合凸部117の形状に対応して、その同形又は相似形状等の凹形状に形成されているのは言うまでもない。
【0103】
また、場合によっては、図19Aの補強用板壁111の拡大正面図に示すように、嵌合凸部117の他端面117e2のテーパー面を、図12のテーパー面とは逆勾配のテーパー面に形成しても良い。詳しくは、図19Aに示すように、嵌合凸部117の左右方向の一端面117e1を、左右方向と直交する垂直面に形成し、嵌合凸部117の左右方向の他端面117e2を、嵌合凸部117の先端117sから基端117bに向かうに従って嵌合凸部117の左右方向の長さが大きくなるようにテーパー面117e2に形成しても良い。このようにすれば、嵌合凸部117の正面視形状をその基端117b側が広がった形状(台形形状)にできて、当該嵌合凸部117の割れや欠けを有効に防止可能となる。
更に場合によっては、上述のテーパー面117e2に加えて、図19Bに示すように、嵌合凸部117の一端面117e1の方も、上記他端面117e2とは逆勾配のテーパー面にしても良く、つまり、互いに逆の傾きのテーパー面を嵌合凸部117の左右方向の両端面117e1,117e2に形成しても良い。この場合、図19Bの嵌合凸部117の正面視形状は、その基端117b側がより一層広がった形状(台形形状)となり、その結果、当該嵌合凸部117の割れや欠けを、より効果的に抑制可能となる。なお、これら図19A及び図19Bのどちらの場合も、嵌合凹部118は、嵌合凸部117の形状に対応して、その同形又は相似形状等の凹形状に形成されているのは言うまでもない。
【0104】
上述の第2実施形態では、図11Aに示すように、全ての嵌合凸部117,117…の正面視の形状を同形状に揃えていたが、何等これに限るものではなく、嵌合凸部117毎に正面視の形状を異ならせても良い。
また、少なくとも一つの嵌合凸部117の長手方向が、板材115の長手方向と平行な方向を向いていれば、それ相応に、同方向の剪断力を負担する面積が嵌合凸部117において大きくなって剪断剛性が向上するので、少なくとも一つの嵌合凸部117の長手方向が、板材115の長手方向と平行な方向を向いていれば良い。
但し、図11Aのように全ての嵌合凸部117,117…に関して、板材115の長手方向(図11Aでは左右方向)に係る嵌合凸部117の長さL2が、板材115の整列方向(図11Aでは上下方向)に係る嵌合凸部117の長さL1よりも大きくなっている方が、補強用板壁111の水平耐力をより確実に高めることができることから、好ましいのは言うまでもない。
【0105】
上述の第2実施形態では、板材115の厚み方向(壁厚方向)の嵌合凸部117の長さを、板材115の厚みと同厚にし、これにより嵌合凸部117が板材115の板面から正面方向に露出していたが、何等これに限るものではない。例えば、板材115の厚み方向の嵌合凸部117の長さを、板材115の厚みよりも小さくしても良く、その場合には、板材115の小端115kに嵌合凸部117が埋設され、正面からは、嵌合凸部117が見えなくなる。ちなみに、この場合、嵌合凸部117と嵌合凹部118との嵌合作業の作業性の観点からは、嵌合凸部117の左右方向の両端面を、互いに平行に形成していると良く、つまり、嵌合凸部117の正面形状を、矩形状か或いは平行四辺形状にすると良い。
【符号の説明】
【0106】
1 丸柱(既存丸柱)、1e 端部、1s 側面、
1sk 丸柱側当接部分(前方側の部分、一方側の部分)、
1sm 後方側の部分、
3 横架材(既存横架材)、3d 下面、3u 上面、
4 込栓、
5 既存軸組、5r 内周面、
10 補強壁、10s 外周面、
11 補強用板壁、11a 端面、11b 端面、
11bh ダボ穴、
11s1 試験片、11s2 試験片、
14 ダボ、
15 板材、15k 小端、15d 下端面、15u 上端面、
16 ダボ穴、
21 ダボ、21a 上面、21b 下面、
31 周囲枠部材、31a 縦枠部分、31ae 端部、31ah ほぞ穴、
31as 外方側面、凹曲面部(曲面部) 31ask、
31b 横枠部分、31bh ダボ穴、31t 大入れ、
31bu 上面、31bd 下面、31be 端部、
31bs 小口面、31bsk 凹曲面部、
31r 内周面、31s 外周面、
41 釘(貫入部材)、
51 化粧板、
91 固定ヘッド、93 可動ヘッド、
110 補強壁、111 補強用板壁、111a 端面、111b 端面、
111s1 試験片、111s2 試験片、
115 板材、115k 小端、115d 下端面、115u 上端面、
117 嵌合凸部、
117b 基端、117s 先端、
117e1 端面、117e2 端面、117e3 端面、117e4 端面、
118 嵌合凹部、
311 補強用板壁、311a 端部、311b 端部、315 板材、
315k 小端、316 ダボ穴、
321 ダボ、
SP5 空間、C1 横断面中心、C11 横断面中心位置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の既存丸柱と、該一対の既存丸柱に架け渡される上下一対の既存横架材とを有する既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強壁の本体をなす補強用板壁を形成する補強用板壁形成工程と、
前記補強用板壁の端面をその全周に亘って覆うように、前記端面に固定される周囲枠部材であって、前記既存丸柱の周面に対応した曲面形状の曲面部を外周面に有する前記周囲枠部材を形成する周囲枠部材形成工程と、
前記補強用板壁の前記端面に前記周囲枠部材を固定することにより前記補強壁を形成する補強壁形成工程と、
前記補強壁の壁厚方向に係る前記補強用板壁の中心位置を、前記既存丸柱の断面中心よりも前記壁厚方向の一方側に位置させつつ、前記曲面部を、前記既存丸柱の前記周面のうちで前記既存丸柱の前記断面中心よりも前記壁厚方向の前記一方側の部分に当接させることにより、前記補強壁を前記既存軸組の内方に嵌め込む補強壁嵌め込み工程と、
前記補強壁が前記既存軸組の内方に嵌め込まれた状態において、前記周囲枠部材及び前記既存軸組の両者に跨って複数の貫入部材を貫入することを、前記周囲枠部材の周方向の全周に亘って行う補強壁固定工程と、を有することを特徴とする既存軸組を補強する補強壁の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強壁形成工程においては、前記端面と前記周囲枠部材との間の少なくとも前記周方向の相対移動が規制されるように、嵌合構造を介して前記端面に前記周囲枠部材を固定することを特徴とする既存軸組を補強する補強壁の構築方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強用板壁は、複数の板材を有し、
前記複数の板材は、前記板材の長手方向を鉛直方向及び水平方向のどちらか一方に揃えながら、互いに隣り合う前記板材同士が小端において当接されることにより、前記長手方向と直交する方向を整列方向として整列配置され、
前記小端には、前記整列方向に隣り合う前記板材同士の前記長手方向の相対移動を規制する複数のダボが設けられ、
各小端につき少なくとも一つのダボの前記長手方向の長さは、前記整列方向の長さ以上であることを特徴とする既存軸組を補強する補強壁の構築方法。
【請求項4】
請求項3に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記ダボ及び前記板材は木材であり、
前記ダボに係る木材の繊維方向は、前記長手方向に沿っており、
前記板材に係る木材の繊維方向は、前記長手方向に沿っていることを特徴とする既存軸組を補強する補強壁の構築方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の既存軸組を補強する補強壁の構築方法であって、
前記補強用板壁は、複数の板材を有し、
前記複数の板材は、前記板材の長手方向を鉛直方向及び水平方向のどちらか一方に揃えながら、互いに隣り合う前記板材同士が小端において当接されることにより、前記長手方向と直交する方向を整列方向として整列配置され、
互いに当接する前記小端同士のうちの一方の小端には、凸部が前記小端と一体に形成されているとともに、もう一方の小端には、前記凸部が嵌合する凹部が前記小端と一体に形成されており、
前記凸部と前記凹部との嵌合によって、前記整列方向に隣り合う前記板材同士の前記長手方向の相対移動が規制されることを特徴とする補強する補強壁の構築方法。
【請求項6】
一対の既存丸柱と、該一対の既存丸柱に架け渡される上下一対の既存横架材とを有する既存軸組を補強すべく、該既存軸組の構築後に該既存軸組の内方に設けられる補強壁であって、
前記補強壁の本体をなす補強用板壁と、
前記補強用板壁の端面をその全周に亘って覆うように、前記端面に固定された周囲枠部材であって、前記既存丸柱の周面に対応した曲面形状の曲面部を外周面に有する前記周囲枠部材と、
前記補強用板壁に固定された前記周囲枠部材を前記既存軸組の内方に嵌め込んだ状態で、前記周囲枠部材及び前記既存軸組の両者に跨って貫入された複数の貫入部材と、を有し、
前記貫入部材は、前記周囲枠部材の周方向の全周に亘って設けられ、
前記周囲枠部材及び前記補強用板壁が前記既存軸組の内方に嵌め込まれた状態においては、前記補強壁の壁厚方向に係る前記補強用板壁の中心位置が、前記既存丸柱の断面中心よりも前記壁厚方向の一方側に位置しているとともに、前記周囲枠部材の前記曲面部は、前記既存丸柱の前記周面のうちで前記既存丸柱の前記断面中心よりも前記壁厚方向の前記一方側の部分に当接していることを特徴とする既存軸組を補強する補強壁。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図13】
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【図15】
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【図19】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−96178(P2013−96178A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241557(P2011−241557)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名:2011年度大会(関東) 学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集 発行日:2011年7月20日 発行所:社団法人 日本建築学会 該当ページ:第91〜96ページ 公開者名:榎本 浩之、山中 昌之、稲山 正弘、五十畑 建、高橋 賢二、本間 章夫、矢島 祐司、石川 理都子、三谷 一房、松崎 洋一、鈴木 貴博 (2)研究集会名:2011年度大会(関東)学術講演会・建築デザイン発表会 主催者名:社団法人 日本建築学会 公開日:平成23年8月23日 公開場所:早稲田大学早稲田キャンパス 文書の種類:プレゼンテーションデータ 公開者:榎本 浩之、矢島 祐司、鈴木 貴博
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(510183589)
【Fターム(参考)】