説明

既設アンカーの荷重測定方法および既設アンカーの再緊張方法

【課題】 荷重測定時、およびその後の再緊張時、再定着時での作業性の向上、およびその作業の確実性の向上をはかるという目的を、構成の複雑化等を伴うことなく実現可能とする。
【解決手段】 引張材16に固定的に係止されたサポートヘッド12のねじ孔12aのうちの離間3ヶ所に、このねじ孔に対するその螺進により引張材をその緊張方向に牽引可能とする再緊張ボルト28を螺着するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴ったその挟圧を可能に、ロードセル34を再緊張ボルト毎にそれぞれ配設する。そして、サポートヘッドのねじ孔12aに対する各再緊張ボルト28の螺進のもとで、引張材16を牽引し、サポートヘッドが引張材を伴って所定量浮上した時点において測定された各ロードセル34での測定値の合計を、既設アンカーの定着荷重、あるいは再緊張荷重として測定し認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工、定着済みの既設アンカーの定着荷重を測定する既設アンカーの荷重測定方法、およびその既設アンカーを再緊張し、かつその再緊張状態で保持、定着する既設アンカーの再緊張方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤、構造物等の補強、安定化を目的として施工されるアンカー、いわゆるグラウンドアンカーは、地盤等にその定着部の固結された引張材の牽引、緊張によりその自由長部に発生される緊張力を、その定着荷重として地盤、構造物等に伝達、付与する構造であるため、たとえば、経年変化による地盤等の変位や引張材の伸び等によってその緊張力、つまり定着荷重が低下すると、アンカーとしてのその機能性の低下が伴われる。そこで、通常は、ほぼ定期的にその健全度の検査を行い、定着荷重が低下したと判断されたとき、その既設アンカーを再緊張することでアンカーとしての機能性を長期間維持することが行われている。
【0003】
ところで、このような施工、定着済みのアンカー、つまり既設アンカーの健全度を検査するにあたっては、通常、既設アンカーを牽引し、その際の荷重を測定することでその健全度を評価することが行われる。しかしながら、この既設アンカーの牽引に一般的に使用される油圧式のセンターホールジャッキは、比較的重量のある大型機材として認識できるものであり、その移動および設置に相応の労力が要求されるばかりでなく、アンカーの施工箇所である斜面等への大規模な足場の構築やクレーンの設置等、その施工設備の具現化も要求されることから、このようなセンターホールジャッキを用いた既設アンカー健全度の検査が作業性および安全性等の低下を伴いやすいものであることは、否定できないところである。
【0004】
ここで、このような大型のセンターホールジャッキを用いることなく既設アンカーの定着荷重を測定する方法の一つが、たとえば特開2002−267593号公報に開示されている。
【0005】
この公報において例示された既設アンカーは、所定のおねじ部に対する定着座金上での緊締ナットの締め付けによって引張材(アンカー体)を緊張定着させる構成であり、この公知の方法においては、その定着座金周りに配した受け座金上に、略筒状の支持台および環状のロードセルを順次配設し、緊締ナットによる負担荷重のない状態まで、ロードセル上部の載荷用ナットを締め付けることにより、この締め付けのもとで挟圧されたロードセルによる、その既設アンカーの定着荷重の測定が行われる。そして、その定着荷重が施工当初の設計荷重より低下したと判断されたとき、所定の再緊張荷重までの載荷用ナットの更なる締め付けにより、ロードセルにおいてその荷重を認識しつつその引張材の再緊張を行い、所定の再緊張荷重までの引張材の再緊張後、定着座金に当接するまで緊締ナットを螺進させた後に載荷用ナットを緩めることにより、所定の再緊張荷重による再緊張状態の維持をはかるものとして、この発明は構成されている。
【0006】
しかしながら、この公知の構成は、引張材に対して一体的に設けられた1体のおねじ部(ボルト状の棒体)に対する載荷用ナットの締め付けによってその緊張を得る構成であるため、引張材の引張荷重は、その一点に集中することになる。そして、この公知の構成においては、その載荷用ナットをレンチ等により手動で回転させるため、そのレンチ等の工具の大型化による作業性の低下等が当然に予想される。
【0007】
また、この1体のおねじ部および載荷用ナットには、引張材の牽引、緊張に耐え得るだけのそれ相応の剛性も要求されるため、おねじ部および載荷用ナットの大型化(大径化)によるそのコストの上昇も避けられない。
【0008】
ここで、環状のロードセルによる正確な荷重測定にあたっては、その受圧面に対する均等な荷重付加が要求される。そこで、この公知の構成においては、受け座金の挿通孔に対向する支持台の部分を球面状に形成することにより、地盤表面に対する支持台の傾斜配置、つまりはロードセルの受圧面の傾斜調整を可能としている。
【0009】
しかしながら、ロードセルの受圧面が引張材の軸心に対して直交配置されたか否かは、作業者の目分量により概略的に判断せざるを得ないため、この公知の構成においては、荷重測定の正確性に劣る可能性のあることが否定できない。
【0010】
そして、引張材が複数のPC鋼より線であった場合においては、荷重測定時のみならず、その再緊張時および再定着時にも、その付与荷重の均等化、つまり各PC鋼より線に対する付与荷重の均等化が要求される。しかしながら、この公知の構成においては、各PC鋼より線に対する付与荷重の均等化の成否が、作業者の目分量による、引張材の軸心に対する支持台の傾斜調整に依存されることになるため、この公知の構成は、荷重測定に加えて、その再緊張および再定着の正確性にも劣るといわざるを得ない。
【特許文献1】特開2002−267593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、荷重測定時、およびその後の再緊張時、再定着時での作業性が低下しやすい点、およびその作業の正確性に劣りやすい点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る本発明の既設アンカーの荷重測定方法は、引張材およびアンカーヘッドの少なくともいずれかに固定的に係止されたサポートヘッドの、少なくとも離間3ヶ所に設けられた一連のねじ孔のうちの少なくとも3ヶ所に、当該ねじ孔に対するその螺進により引張材をその緊張方向に牽引可能とする再緊張ボルトを螺着するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴ったその挟圧を可能に、所定のロードセルを再緊張ボルト毎にそれぞれ配設し、ねじ孔に対する各再緊張ボルトの螺進のもとで引張材を牽引し、サポートヘッドが引張材を伴って所定量浮上した時点において測定された各ロードセルでの測定値の合計を、既設アンカーの定着荷重として測定し認識することを、その最も主要な特徴としている。
【0013】
また、この発明の請求項2は、請求項1の荷重測定方法において、環状のロードセルの環装された再緊張ボルトを、サポートヘッドのねじ孔に対し、支圧板への接地により配設された所定のボルト台の挿通孔を介して、その上方から螺着し、このボルト台を支持ベースとした再緊張ボルトの締め付け回転に伴う、サポートヘッドに対する再緊張ボルトの螺進により、この再緊張ボルトのヘッドとボルト台との間でロードセルを挟圧するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴うサポートヘッドの引き上げにより、引張材をその緊張方向に牽引することを、その最も主要な特徴としている。
【0014】
さらに、この発明の請求項3は、請求項1の荷重測定方法において、サポートヘッドに螺着した再緊張ボルトと支圧板との間にロードセルを介在し、再緊張ボルトの締め付け回転に伴ったねじ孔に対する螺進のもとでの、サポートヘッドから支圧板方向へのその突出に伴って、この再緊張ボルトの先端と支圧板との間でロードセルを挟圧するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴う支圧板に対するサポートヘッドの押し上げにより、引張材をその緊張方向に牽引することを、その最も主要な特徴としている。
【0015】
請求項4に係る本発明の既設アンカーの再緊張方法は、引張材およびアンカーヘッドの少なくともいずれかに固定的に係止されたサポートヘッドの、等間隔の少なくとも6ヶ所に設けられた一連のねじ孔のうちの少なくとも離間3ヶ所を残す少なくとも離間3ヶ所に、当該ねじ孔に対するその螺進により引張材をその緊張方向に牽引可能とする再緊張ボルトを螺着するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴ったその挟圧を可能に、所定のロードセルを再緊張ボルト毎にそれぞれ配設し、ねじ孔に対する各再緊張ボルトの螺進のもとで引張材を牽引し、サポートヘッドが所定量浮上した時点において測定された各ロードセルでの測定値の合計から、既設アンカーの要再緊張の要否を判断し、その定着荷重から要再緊張と判断された場合、その時点からの各再緊張ボルトのさらなる螺進を、既設アンカーに対する再緊張作業として行い、その際に各ロードセルによって測定される測定値の合計を、既設アンカーに対する再緊張荷重として測定、認識し、この再緊張荷重が所定の設定値に到達したとき、再緊張ボルトの螺着のない残りの各ねじ孔に所定の定着ボルトをそれぞれ螺着し、この各定着ボルトの螺進による、その再緊張位置でのサポートヘッドの支持後、ねじ孔からの全再緊張ボルトの螺退、抜去により、各ロードセルをそれぞれ除去するとともに、この再緊張ボルトに代えてその各ねじ孔に螺着した定着ボルトでのサポートヘッドの支持を、先に螺着した定着ボルトでの支持に加えることにより、これを再緊張状態での既設アンカーの維持とすることを、その最も主要な特徴としている。
【0016】
また、この発明の請求項5は、請求項4の再緊張方法において、環状のロードセルの環装された再緊張ボルトを、サポートヘッドのねじ孔に対し、支圧板への接地により配設された所定のボルト台の挿通孔を介して、その上方から螺着し、このボルト台を支持ベースとした再緊張ボルトの締め付け回転に伴う、サポートヘッドに対する再緊張ボルトの螺進により、この再緊張ボルトのヘッドとボルト台との間でロードセルを挟圧するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴うサポートヘッドの引き上げにより、引張材をその緊張方向に牽引することを、その最も主要な特徴としている。
【0017】
さらに、この発明の請求項6は、請求項4の再緊張方法において、サポートヘッドに螺着した再緊張ボルトと支圧板との間にロードセルを介在し、再緊張ボルトの締め付け回転に伴ったねじ孔に対する螺進のもとでの、サポートヘッドから支圧板方向への再緊張ボルトの突出により、この再緊張ボルトの先端と支圧板との間でロードセルを挟圧するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴う支圧板に対するサポートヘッドの押し上げにより、引張材をその緊張方向に牽引することを、その最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る本発明の既設アンカーの荷重測定方法によれば、ロードセルが複数箇所に設けられ、その牽引、緊張の均等具合が、ロードセル毎の測定値として具体的に認識できるため、牽引力に偏りのない均質な緊張状態での荷重測定が容易に確保可能となる。よって、その荷重測定の正確性が確実に向上されるという利点が、この請求項1によれば得られる。
【0019】
そして、この請求項1においては、サポートヘッドに対する、少なくとも3ヶ所の再緊張ボルトの螺進により、引張材の牽引、緊張を行うため、単体の再緊張ボルトでの負荷荷重は、その分散化により確実に低減される。つまり、各再緊張ボルトに対する螺進回転作業に過剰な労力は要求されないため、手動工具の小型化に伴う、その作業性の向上が十分にはかられるとともに、作業者への労力負担の軽減により、この点においても作業性が確実に向上されるという利点が、この請求項1によれば得られる。
【0020】
さらに、この請求項1においては、少なくとも離間3ヶ所の再緊張ボルトにより、引張材の牽引、緊張を行うため、地盤表面の傾斜に対応した均質な牽引、緊張が、各再緊張ボルトでの螺進量の調整のもとで容易に確保可能となる。従って、斜面変化への適応性に優れた荷重測定方法が容易に確保可能になるという利点が、この請求項1によれば得られる。
【0021】
そして、この発明の請求項2および請求項3は、請求項1の荷重測定方法をより適切に遂行し得るという利点がある。
【0022】
また、請求項4に係る本発明の既設アンカーの再緊張方法によれば、上記請求項1の荷重測定方法での荷重測定に継続した既設アンカーの再緊張および再定着が容易に可能になるという利点がある。
【0023】
そして、複数箇所に配したロードセルでの測定値の合計値としてその既設アンカーの定着荷重および再緊張荷重を測定するため、各ロードセルの測定値を認識することにより、各箇所での荷重の均等化をはかることが容易に可能になる。従って、引張材が複数のPC鋼より線であった場合においても、荷重測定時、再緊張時、および再定着時での各PC鋼より線での負荷荷重の均等化が十分に可能となり、これにより、その再緊張、再定着の作業の確実性が向上されるという利点が、この請求項4によれば得られる。
【0024】
さらに、この発明の請求項5および請求項6は、請求項4の再緊張方法をより適切に遂行し得るという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
荷重測定時、およびその後の再緊張時、再定着時での作業性の向上、およびその作業の確実性の向上をはかるという目的を、構成の複雑化等を伴うことなく実現可能とした。
【実施例】
【0026】
図1、図2は、本発明の既設アンカーの荷重測定方法、および既設アンカーの再緊張方法を遂行するにあたって使用される再緊張装置10の概略縦断面図、およびその概略分解斜視図であり、これらを見るとわかるように、本発明においては、所定複数のねじ孔12aを有したサポートヘッド12を、既設アンカーの牽引部材として、たとえばその引張材16に対して固定的に係止し、このサポートヘッドのねじ孔に対する再緊張ボルト28の螺進によりその引張材を牽引するものとして、その牽引/緊張手法が限定的に具体化されている。
【0027】
図1、図2に加えて図3を見るとわかるように、地盤、構造物等の補強、安定化を目的として施工されるアンカー(グラウンドアンカー)は、地盤中にその定着部(図示しない)の固結された引張材16、たとえば所定複数本のPC鋼より線を所定の牽引力のもとで牽引し、その延出端16aに対し、構造物18上の支圧板20に載置、係合可能なアンカーヘッド22をクサビ24によって固定的に係止することにより、その緊張力を定着力として構造物および地盤に付与可能に構成されている。
【0028】
なお、この種のアンカー(既設アンカー)の全体的な基本構造は公知であるとともに、その構造自体はこの発明の趣旨でないため、その構造に対する詳細な説明はここでは省略する。
【0029】
ここで、このような既設アンカーの定着荷重の測定、およびその後の再緊張にあたっては、この既設アンカーの引張材16をその定着形態のまま牽引することが要求される。そこで、図1、図2に示すように、この発明においては、牽引部材となるサポートヘッド12を、引張材16およびアンカーヘッド22の少なくともいずれかに一体的に係止するものとしている。
【0030】
なお、この実施例においては、サポートヘッド12が、アンカーヘッド22からの引張材の延出端16aに対し、クサビ26を介して固定的に係止されている。
【0031】
このサポートヘッド12には、少なくとも3ヶ所のねじ孔12aが、たとえば貫通して設けられるが、この実施例においては、60°間隔の6箇所として、その数が限定的に具体化されている。そして、この発明においては、このサポートヘッド12の6ヶ所のねじ孔12aのうちの、少なくとも離間3ヶ所を残す離間3ヶ所、たとえば一つおきの3ヶ所に、再緊張ボルト28が螺着され、ねじ孔に対するこの再緊張ボルトの螺進により引張材16を牽引するよう、この再緊張装置10は構成されている。
【0032】
図1、図2に示すように、この発明の第1実施例においては、再緊張ボルト28が、支圧板20へのその下端の接地を伴って配設された、中空のボルト台30の挿通孔32を介して、サポートヘッドのねじ孔12aに、その上方からそれぞれ螺着されるとともに、挟圧荷重を検出、測定可能とするロードセル34が、この再緊張ボルト毎にそれぞれ配設されている。
【0033】
このロードセル34としては、再緊張ボルト28周りに環装可能な、市販の環状のものが利用され、ねじ孔12a、つまりサポートヘッド12に対する再緊張ボルトの螺進に伴った、ボルト頭部28aとボルト台30との間での挟圧を可能に、このボルト台上に載置される。
【0034】
なお、ここで用いるロードセル34は、市販の一般的なものであるため、本発明において使用する再緊張ボルトのボルト頭部28aによる係合、挟圧が容易でない場合も考えられるが、図1、図2に参照符号36として示す、ボルト頭部を受けるためのカラー等を利用することにより、使用可能なロードセルの許容範囲は十分に拡張される。
【0035】
このような構成においては、対応する手動レンチ等による、締め付け方向への再緊張ボルト28の回転作業(締め付け回転)により、この再緊張ボルトがサポートヘッド12に対して螺進しようとするが、そのボルト頭部28aは、ロードセルのカラー36との係合により、その一定高さに保持されるため、この締め付け方向への再緊張ボルトの回転作業のもとでは、サポートヘッドが引張材16を伴って引き上げられる。つまり、この引張材16は、締め付け方向への再緊張ボルト28の回転作業に伴ったサポートヘッド12の引き上げにより、その引き上げに応じた量だけ牽引、緊張されることになる。
【0036】
そして、この発明においては、再緊張ボルト28毎にロードセル34を配している。つまり、その各再緊張ボルト28による引張荷重が、その再緊張ボルト毎のロードセル34によって個別に検出、測定されるため、この各ロードセルでの測定値を合計することによって、引張材16に対する全体的な引張荷重、ひいてはその既設アンカーの定着荷重を測定、認識することが可能となる。
【0037】
たとえば、図4に示すような、アンカーヘッド22からの荷重が支圧板20に対して付与されていない点、つまり支圧板からのアンカーヘッドの離反浮上点における引張荷重を測定することにより、これを引張材16、つまりは既設アンカーの定着荷重としてみなすことができる。
【0038】
なお、この、支圧板22からのアンカーヘッド20の離反浮上は、たとえば、ボルト台30のセンター孔38を介して配設した変位計(図示しない)等による、サポートヘッド12の引き上げ量(浮上量)により検出、認識できる。そして、その測定点をサポートヘッド12の所定の引き上げ量として予め規定することにより、定着荷重の適正測定が十分に可能となる。
【0039】
このように、この発明の既設アンカーの荷重測定方法によれば、ロードセル34の環装された3ヶ所の再緊張ボルト28に対する、その締め付け方向への回転作業(螺進回転作業)により、既設アンカーの牽引、およびその定着荷重の測定が可能となる。つまり、センターホールジャッキ等の大型機材を用いることなく、その緊張作業、および定着荷重の測定が容易に行えるため、センターホールジャッキ等を用いる作業に比較して、その作業性は大幅に改善される。
【0040】
そして、この発明においては、少なくとも3ヶ所に離間配置した再緊張ボルト28によって、引張材16の牽引を得るため、一つの再緊張ボルトでの負担荷重は十分に低下されることになる。つまり、特開2002−267593号公報に開示のような1ヶ所でのナットの回転作業に比較して、その再緊張ボルト28の1ヶ所での作業労力は十分に軽減されるため、レンチ等の手動工具の小型化等のはかられるこの発明によれば、この公知の構成と比較しても、その作業性は確実に向上される。
【0041】
さらに、定着荷重を測定するロードセル34が再緊張ボルト28毎に配設されているため、測定荷重を個別に確認しながらの均質な緊張が、この発明においては容易に確保可能となる。従って、その荷重測定の正確性が確実に向上される。
【0042】
ところで、このような既設アンカーの定着荷重は、その既設アンカーの健全度を評価する判断材料となるものであり、ここで測定した定着荷重が所定の設定値、たとえば施工当初の設計荷重から大幅に低下していた場合等においては、その再緊張、つまりは引張材16のさらなる牽引、および再定着が必要となる。そこで、この発明の既設アンカーの再緊張方法は、この前出の荷重測定方法による荷重測定に継続して行えるものとして具体化されている。
【0043】
たとえば、3ヶ所の再緊張ボルト28毎に配したロードセル34での測定値の合計として測定された既設アンカーの定着荷重により、要再緊張と判断された場合、図4に示す、その既設アンカーの荷重測定状態から、手動レンチ等により各再緊張ボルトをさらに螺進させることによるサポートヘッド12のさらなる引き上げにより、引張材16を、たとえば図5に示すようにさらに牽引する。そして、サポートヘッド12の引き上げにより変動した各ロードセル34での測定値の合計、つまり引張材16に対する引張荷重が所定の設定値に到達したと判断されたとき、その作業は、既設アンカーの再緊張作業から、その再緊張状態での再定着作業に移行される。
【0044】
図6、図7に示すように、この再定着作業においては、まず、サポートヘッドのねじ孔12aのうちの、再緊張ボルト28の螺着のない残りの各ねじ孔に、所定の定着ボルト40をそれぞれ螺着し、この各定着ボルトを、各ロードセル34での測定値の変動の生じない程度の締め付け位置まで螺進させることにより、その再緊張位置でのサポートヘッド12の支持を行う。そして、その後、ねじ孔12aからの全再緊張ボルト28の螺退、抜去により、図8に示すように各ロードセル34をそれぞれ除去するとともに、図9に示すように、この抜去した再緊張ボルトに代えて、サポートヘッドのその各ねじ孔12aに、別の定着ボルト40をそれぞれ同様に螺着し、この後螺着の定着ボルトでのサポートヘッド12の支持を、先螺着の定着ボルトでの支持に加えることにより、これを再緊張状態での既設アンカーの再定着として、その状態の維持をはかる。
【0045】
上記のように、この発明の既設アンカーの再緊張方法によれば、前記の荷重測定方法による荷重測定からの継続的実施が容易に可能となる。つまり、前記荷重測定方法による既設アンカーの定着荷重の測定後、要再緊張と判断された場合においては、そのままの状態から各再緊張ボルト28をさらに螺進させれば足りるため、荷重測定から再緊張作業への移行、実施が容易に可能となり、その作業性が確実に向上される。
【0046】
そして、この再緊張方法は、サポートヘッド12に対する、等間隔離反した複数(3ヶ所)の各再緊張ボルト28の螺進により、引張材16の再緊張を得る構成であり、これによれば、各再緊張ボルトの螺進量の調整により、各位置での牽引力が調整できるため、図示のような複数のPC鋼より線を引張材16として使用した既設アンカーであっても、各PC鋼より線を均等に牽引、緊張することが容易に可能となる。
【0047】
さらに、各ロードセル34での測定値を確認しながらの再緊張作業が可能となるため、引張材16が複数のPC鋼より線であった場合においても、荷重測定時、再緊張時、および再定着時での各PC鋼より線での負荷荷重の均等化が十分に可能となり、これにより、その再緊張、再定着の作業の確実性が向上されるとともに、それと同時に、複数のPC鋼より線を引張材とした既設アンカーへの適応性も確実に向上される。
【0048】
ここで、上述の実施例においては、サポートヘッドのねじ孔12aの数を等間隔(60°)離反した6ヶ所として具体化しているが、これは、再緊張ボルト28、および定着ボルト40の最低必要数である3ヶ所を前提とした数であるため、6ヶ所以上であればよく、この6ヶ所に限定されるものではない。しかしながら、再緊張ボルト28および定着ボルト40の数の増加は、構成の複雑化、および作業の煩雑化等を伴う虞があるため、引張材16の安定的な牽引、保持を可能とする最低必要数の6ヶ所を採用することにより、その構成の複雑化、および作業の煩雑化等は十分に防止可能となる。
【0049】
なお、既設アンカーの再緊張時における再緊張ボルト28の最低必要数が3ヶ所であることを考えれば、既設アンカーの荷重測定のみを遂行する場合においては、サポートヘッドのねじ孔12aの数を再緊張ボルトの数に対応した3ヶ所とすることも可能である。
【0050】
また、この実施例においては、サポートヘッド12を引張材16に対して固定的に係止しているが、このサポートヘッドに対する再緊張ボルト28の螺進のもとで引張材を一体的に牽引可能とすれば足りるため、これに限定されず、たとえば、このサポートヘッドをアンカーヘッド22周りに一体的に環装する構成としてもよい。
【0051】
ところで、上述の第1実施例においては、再緊張ボルト28によるサポートヘッド12の引き上げによって引張材16を牽引しているが、これに限定されず、再緊張ボルトによるサポートヘッドの押し上げにより、既設アンカー、つまりは引張材の牽引、再緊張を行ってもよい。
【0052】
図10、図11を見るとわかるように、第2実施例となる、この押し上げ型の再緊張装置110においては、サポートヘッド12に対して螺進する再緊張ボルト28での挟圧を可能に、ロードセル34が、支圧板20とサポートヘッド12との間に介在されている。
【0053】
なお、この構成においては、再緊張ボルト28の先端を受ける受け皿42が、ロードセル34に対して設けられる。
【0054】
また、前述の第1実施例とこの第2実施例とでは、ボルト台30の有無がその構成の大きな相違点であり、それ以外の部分においては共通する部分も多いため、前述の第1実施例と同一の構成部材に関しては、その同一の参照符号を付すことで、この第2実施例におけるその詳細な説明は省略する。
【0055】
このような構成によれば、サポートヘッド12に対する再緊張ボルト28の螺進に伴った、ロードセルの受け皿42を基点とするサポートヘッドの押し上げにより、引張材16は牽引、緊張される。そして、たとえば図12に示す、支圧板20からのアンカーヘッド22の離反浮上点における引張荷重を各ロードセル34での測定値の合計として測定することにより、既設アンカーの定着荷重が測定される。
【0056】
また、この定着荷重により、その既設アンカーが要再緊張と判断された場合においては、図12に示す、その既設アンカーの荷重測定状態から、手動レンチ等による各再緊張ボルト28のさらなる螺進により、引張材16を、たとえば図13に示すようにさらに牽引する。そして、サポートヘッド12の引き上げにより変動した各ロードセル34での測定値の合計、つまり引張材16に対する引張荷重が所定の設定値に到達したと判断されたとき、その作業は、既設アンカーの再緊張作業から、その再緊張状態での再定着作業に移行される。
【0057】
図14、図15に示すように、この再定着作業においては、まず、サポートヘッドのねじ孔12aのうちの、再緊張ボルト28の螺着のない残りの各ねじ孔に、所定の定着ボルト40をそれぞれ螺着し、この各定着ボルトを、各ロードセル34での測定値の変動の生じない程度の締め付け位置まで螺進させることにより、その再緊張位置でのサポートヘッド12の支持を行う。そして、その後、ねじ孔12aからの全再緊張ボルト28の螺退、抜去により、図16に示すように各ロードセル34をそれぞれ除去するとともに、図17に示すように、この抜去した再緊張ボルトに代えて、サポートヘッドのその各ねじ孔12aに、別の定着ボルト40をそれぞれ同様に螺着し、この後螺着の定着ボルトでのサポートヘッド12の支持を、先螺着の定着ボルトでの支持に加えることにより、これを再緊張状態での既設アンカーの再定着として、その状態の維持をはかる。
【0058】
つまり、この第2実施例として示す再緊張装置110のもとでも、前述の第1実施例において示した再緊張装置10と同様の荷重測定方法および再緊張方法がいずれも適切に遂行可能となる。
【0059】
上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
引張材はPC鋼より線に限定されず、PC鋼棒、ロックボルト等においても、上記構成は応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の既設アンカーの荷重測定方法および再緊張方法を遂行するにあたって使用される第1実施例での再緊張装置の概略縦断面図を兼ねる、その再緊張前における概略工程図である。
【図2】図1に示す再緊張装置の概略分解斜視図である。
【図3】既設アンカーの頭部定着部を示す、当該部分の一部破断の概略正面図である。
【図4】荷重測定時における、図1に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図5】再緊張時における、図1に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図6】再緊張後の保持時における、図1に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図7】図1に示す再緊張装置での、再緊張後の保持作業工程を示す、その概略分解斜視図である。
【図8】再緊張ボルトの抜去後を示す、図1に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図9】再定着状態を示す、図1に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図10】この発明の既設アンカーの荷重測定方法および再緊張方法を遂行するにあたって使用される第2実施例での再緊張装置の概略縦断面図を兼ねる、その再緊張前における概略工程図である。
【図11】図10に示す再緊張装置の概略分解斜視図である。
【図12】荷重測定時における、図10に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図13】再緊張時における、図10に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図14】再緊張後の保持時における、図10に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図15】図10に示す再緊張装置での、再緊張後の保持作業工程を示す、その概略分解斜視図である。
【図16】再緊張ボルトの抜去後を示す、図10に示す再緊張装置での概略工程図である。
【図17】再定着状態を示す、図10に示す再緊張装置での概略工程図である。
【符号の説明】
【0062】
10,110 再緊張装置
12 サポートヘッド
16 引張材
20 支圧板
22 アンカーヘッド
28 再緊張ボルト
30 ボルト台
34 ロードセル
40 定着ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤等へのその定着部の固結を伴って緊張された引張材に対する、支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的な係止により、当該引張材を所定荷重のもとで緊張定着させてなる既設アンカーの荷重測定方法であり、
上記引張材および上記アンカーヘッドの少なくともいずれかに固定的に係止されたサポートヘッドの、少なくとも離間3ヶ所に設けられた一連のねじ孔のうちの少なくとも3ヶ所に、当該ねじ孔に対するその螺進により引張材をその緊張方向に牽引可能とする再緊張ボルトを螺着するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴ったその挟圧を可能に、所定のロードセルを再緊張ボルト毎にそれぞれ配設し、
上記ねじ孔に対する各再緊張ボルトの螺進のもとで上記引張材を牽引し、上記サポートヘッドが上記引張材を伴って所定量浮上した時点において測定された各ロードセルでの測定値の合計を、上記既設アンカーの定着荷重として測定し認識する既設アンカーの荷重測定方法。
【請求項2】
環状の前記ロードセルの環装された前記再緊張ボルトを、前記サポートヘッドのねじ孔に対し、前記支圧板への接地により配設された所定のボルト台の挿通孔を介して、その上方から螺着し、
このボルト台を支持ベースとした前記再緊張ボルトの締め付け回転に伴う、前記サポートヘッドに対する前記再緊張ボルトの螺進により、この前記再緊張ボルトのヘッドとボルト台との間で前記ロードセルを挟圧するとともに、この前記再緊張ボルトの螺進に伴う前記サポートヘッドの引き上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引する請求項1記載の既設アンカーの荷重測定方法。
【請求項3】
前記サポートヘッドに螺着した前記再緊張ボルトと前記支圧板との間に前記ロードセルを介在し、
前記再緊張ボルトの締め付け回転に伴った前記ねじ孔に対する螺進のもとでの、前記サポートヘッドから前記支圧板方向へのその突出に伴って、この前記再緊張ボルトの先端と前記支圧板との間で前記ロードセルを挟圧するとともに、この前記再緊張ボルトの螺進に伴った前記支圧板に対する前記サポートヘッドの押し上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引する請求項1記載の既設アンカーの荷重測定方法。
【請求項4】
地盤等へのその定着部の固結を伴って緊張された引張材に対する、支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的な係止により、当該引張材を所定荷重のもとで緊張定着させてなる既設アンカーの再緊張方法であり、
上記引張材および上記アンカーヘッドの少なくともいずれかに固定的に係止されたサポートヘッドの、等間隔の少なくとも6ヶ所に設けられた一連のねじ孔のうちの少なくとも離間3ヶ所を残す少なくとも離間3ヶ所に、当該ねじ孔に対するその螺進により引張材をその緊張方向に牽引可能とする再緊張ボルトを螺着するとともに、この再緊張ボルトの螺進に伴ったその挟圧を可能に、所定のロードセルを再緊張ボルト毎にそれぞれ配設し、
上記ねじ孔に対する各再緊張ボルトの螺進のもとで上記引張材を牽引し、上記サポートヘッドが所定量浮上した時点において測定された各ロードセルでの測定値の合計から、上記既設アンカーの要再緊張の要否を判断し、その定着荷重から要再緊張と判断された場合、その時点からの各再緊張ボルトのさらなる螺進を、上記既設アンカーに対する再緊張作業として行い、その際に各ロードセルによって測定される測定値の合計を、上記既設アンカーに対する再緊張荷重として測定、認識し、
この再緊張荷重が所定の設定値に到達したとき、上記再緊張ボルトの螺着のない残りの各ねじ孔に所定の定着ボルトをそれぞれ螺着し、この各定着ボルトの螺進による、その再緊張位置でのサポートヘッドの支持後、ねじ孔からの全再緊張ボルトの螺退、抜去により、各ロードセルをそれぞれ除去するとともに、この再緊張ボルトに代えてその各ねじ孔に螺着した定着ボルトでのサポートヘッドの支持を、先に螺着した定着ボルトでの支持に加えることにより、これを再緊張状態での既設アンカーの維持とする既設アンカーの再緊張方法。
【請求項5】
環状の前記ロードセルの環装された前記再緊張ボルトを、前記サポートヘッドのねじ孔に対し、前記支圧板への接地により配設された所定のボルト台の挿通孔を介して、その上方から螺着し、
このボルト台を支持ベースとした前記再緊張ボルトの締め付け回転に伴う、前記サポートヘッドに対する前記再緊張ボルトの螺進により、この前記再緊張ボルトのヘッドとボルト台との間で前記ロードセルを挟圧するとともに、この前記再緊張ボルトの螺進に伴う前記サポートヘッドの引き上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引する請求項4記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項6】
前記サポートヘッドに螺着した前記再緊張ボルトと前記支圧板との間に前記ロードセルを介在し、
前記再緊張ボルトの締め付け回転に伴った、前記ねじ孔に対する螺進のもとでの、前記サポートヘッドから前記支圧板方向へのその突出により、この前記再緊張ボルトの先端と前記支圧板との間で前記ロードセルを挟圧するとともに、この前記再緊張ボルトの螺進に伴う前記支圧板に対する前記サポートヘッドの押し上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引する請求項4記載の既設アンカーの再緊張方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−337058(P2006−337058A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159054(P2005−159054)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【出願人】(594054036)三條金属株式会社 (4)
【出願人】(592016784)守谷鋼機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】