説明

既設トンネルの拡幅装置及び拡幅工法

【課題】装置の簡略化によりコストダウンが図れる既設トンネルの拡幅装置を提供する。
【解決手段】既設トンネル10の内壁に設置されたエントランス11内をトンネルの径方向へ少なくとも前進可能な筒状の装置本体13と、装置本体を前進させるべく既設トンネル内に設置される複数本の推進ジャッキ14と、装置本体内を前後方向へ仕切る隔壁16にシール装置18A,18Bを介して貫通しその筒軸方向中間部よりやや前方側が隔壁後方の装置本体の左右両部に揺動可能に枢支されて伸縮可能なカッター支持筒17A,17Bと、カッター支持筒を揺動させるべく隔壁後方の装置本体に取着されたスイングジャッキ19A,19Bと、カッター支持筒の隔壁前方に位置する先端部に取着されたドラムカッター22A,22Bと、隔壁に吸込口26aを貫通させて隔壁前方の装置本体内の掘削土砂を取り込む排出コンベア26と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設トンネルの断面を一部拡幅する既設トンネルの拡幅装置及び拡幅工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路トンネルの分岐・合流部や非常駐車帯等を構築する際には、既設トンネルの断面を一部拡幅させる(例えばφ約12m→φ約18m)必要がある。このような拡幅工法として、従来、例えば、図9に示すようなものがある(特許文献1参照)。
【0003】
これは、セグメント切拡げ工法であって、先ず、同図(イ)に示したように、一次覆工時に刃口セグメントfを含む特殊セグメントgを組込んでおき、次いで、同図(ロ)に示したように、刃口セグメントfに泥水環流装置(図示せず)を取付け、掘削機hを定位置にセットする。
【0004】
次いで、同図(ハ)に示したように、拡張装置付きカッターiを刃口セグメントfに貫入し、泥水掘削をしながらボックスフレームjを所定の位置まで圧入していって拡幅する。
【0005】
この拡幅は1リング毎に行ない、反対側も同様に行って、最後にボックスフレームjの側板を撤去し、二次覆工kにより同図(ニ)に示したような拡巾トンネルを構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−88598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前述したような拡幅工法にあっては、拡張装置付きカッターiが掘削機hに対し拡張装置により単に進退可能に設けられているため、拡副部の掘削範囲は拡張装置付きカッターiの大きさ及び個数によって決まり、大きな掘削範囲が必要な場合は拡張装置付きカッターiをそれだけ大径化したり個数を増大したりしなければならず、装置が大掛かりになってコストアップを招来するという問題点があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み提案されたもので、装置の簡略化によりコストダウンが図れると共に汎用性に優れた既設トンネルの拡幅装置及び拡幅工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するための本発明に係る既設トンネルの拡幅装置は、
既設トンネルの内壁に設置されたエントランス内をトンネルの径方向へ少なくとも前進可能な筒状の装置本体と、
前記装置本体を前進させるべく前記既設トンネル内に設置される複数本の推進ジャッキと、
前記装置本体内を前後方向へ仕切る隔壁にシール装置を介して貫通しその筒軸方向中間部よりやや前方側が隔壁後方の装置本体の左右両部に揺動可能に枢支されて伸縮可能なカッター支持筒と、
前記カッター支持筒を揺動させるべく隔壁後方の装置本体に取着されたスイングジャッキと、
前記カッター支持筒の隔壁前方に位置する先端部に取着されたドラムカッターと、
前記隔壁に吸込口を貫通させて隔壁前方の装置本体内の掘削土砂を取り込む排出コンベアと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、
前記エントランスの内周面にエントランスパッキンが取着されていることを特徴とする。
【0011】
また、
前記シール装置は、前記カッター支持筒の揺動を許容する開口を有すると共にカッター支持筒の揺動支点を中心とした円に沿って円弧状に形成されて前記隔壁に所定の隙間を有して一体的に組み込まれた二重壁状のガイド板と、前記ガイド板の隙間に摺動可能に配設されて当該ガイド板の開口を閉塞可能に前記カッター支持筒の外周にフランジ状に固設された閉塞板と、からなることを特徴とする。
【0012】
また、
前記カッター支持筒及びドラムカッターは前記隔壁にトンネル高さ方向に複数段に亘って設けられることを特徴とする。
【0013】
斯かる目的を達成するための本発明に係る既設トンネルの拡幅工法は、
前記既設トンネルの拡幅装置を用いて既設トンネルを拡幅する際に、装置本体と推進ジャッキとの間にリング状の覆工部材を継ぎ足しながら当該装置本体を前進させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る既設トンネルの拡幅装置によれば、カッター支持筒の伸長と揺動によりドラムカッターによる掘削範囲の増大が図られるので、ドラムカッターの大きさ及び個数の削減が可能となり、装置の簡略化によりコストダウンが図れる。
【0015】
本発明に係る既設トンネルの拡幅工法によれば、カッター支持筒の伸縮如何に拘わらず装置本体を任意に前進させて拡幅長さの増大が図れ、汎用性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1を示す拡幅装置の側断面図である。
【図2】拡幅装置の正面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1のC−C線断面図である。
【図6】図1のD−D線断面図である。
【図7】本発明の実施例2を示す拡幅装置の要部側断面図である。
【図8】拡幅装置の平断面図である。
【図9】従来の拡幅工法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る既設トンネルの拡幅装置及び拡幅工法を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の実施例1を示す拡幅装置の側断面図、図2は拡幅装置の正面図、図3は図1のA−A線断面図、図4は図1のB−B線断面図、図5は図1のC−C線断面図、図6は図1のD−D線断面図である。
【0019】
図1乃至図6に示すように、断面が円形の既設トンネル10の内壁一部(拡幅部)に断面が矩形(縦長)のエントランス11が設置され、このエントランス11の内周面にはエントランスパッキン12が取着されている。
【0020】
そして、エントランス11内には、当該エントランス11と断面形状が相似形の筒状の装置本体13が既設トンネル10の径方向(図1中左右方向)へ少なくとも前進可能に嵌装される。この装置本体13を前進させる複数本の推進ジャッキ14が既設トンネル13内の架台15上に反力受けとなる支持枠28を介して横向きに設置される。
【0021】
前記装置本体13には、当該装置本体13内を前後方向へ仕切る隔壁16が設けられ、この隔壁16に上,下二段に亘ってカッター支持筒17A,17Bがそれぞれシール装置18A,18Bを介して貫通している。各カッター支持筒17A,17Bはその筒軸方向中間部が隔壁16後方の装置本体13の左右両部に枢支(枢支点O1,O2参照)され、隔壁16後方の装置本体13にそのヘッド部が取着されたスイングジャッキ19A,19Bにより図1中上下方向(トンネル高さ方向)に揺動可能になっている。
【0022】
また、各カッター支持筒17A,17Bは内筒20aと外筒20bとからなる二重筒で形成され、図示しない伸縮機構により内筒20aが外筒20bに対して伸縮可能になっている。そして、隔壁16前方に位置する内筒20aの先端部に、装置本体13の前進方向に沿った垂直面内で回転する(図1中反時計方向に回転する)ドラムカッター(通称パドルカッター)22A,22Bが取着される。
【0023】
このドラムカッター22A,22Bは、内蔵された図示しないモータで回転可能になっているが、カッター支持筒17A,17B側に設けたモータの回転力がギア機構等の動力伝達手段を介して伝達されることで回転する構成でも良い。
【0024】
前記シール装置18A,18Bは、カッター支持筒17A,17Bの揺動を許容する開口23a,23bを有すると共にカッター支持筒17A,17Bの揺動支点(枢支点O1,O2参照)を中心とした円に沿って円弧状に形成されて隔壁16に所定の隙間を有して一体的に組み込まれた二重壁状のガイド板24a,24bと、これらのガイド板24a,24bの隙間に摺動可能に挿入されて当該ガイド板24a,24bの開口23a,23bを閉塞可能にカッター支持筒17A,17Bの外周にフランジ状に固設された閉塞板25と、からなる。
【0025】
そして、前記隔壁16の図1中下部に吸込口26aを貫通させて隔壁16前方の装置本体13内の掘削土砂を取り込む排出コンベア26が装置本体13内の左,右両部に二本設置される。尚、図4及び図5中27は各ドラムカッター22A,22Bが各カッター支持筒17A,17Bの伸長により装置本体13から突出した時に作動して各ドラムカッター22A,22Bのカッター幅を増大させるオーバカッタジャッキで、図1中30は拡副部(トンネル)である。
【0026】
このように構成されるため、既設トンネル10の所定の拡幅部位を拡幅する際には、先ず、予め既設トンネル10の内壁に設置されたエントランス11内に拡幅装置の装置本体13を嵌装する。この装置本体13の嵌装前後に必要に応じて既設トンネル10の拡幅部における既設の覆工部材(セグメント等)を取り除く。
【0027】
次に、装置本体13内に、ドラムカッター22A,22B付きのカッター支持筒17A,17Bを、スイングジャッキ19A,19Bと共に組み付けると共に、排出コンベア26をセットする。
【0028】
その後、既設トンネル10内に設置した架台15上に支持枠28を介して複数本の推進ジャッキ14を取り付けて拡幅のための準備が終了する。
【0029】
準備が終了した図1の状態から、ドラムカッター22A,22Bを図示しないモータ駆動により回転させると共にスイングジャッキ19A,19Bの伸縮によりカッター支持筒17A,17Bを枢支点O1,O2を中心に揺動させながら、図示しない伸縮機構によりカッター支持筒17A,17B(厳密には内筒20a)を徐々に伸長させて拡幅部位における切羽の掘削を開始する。
【0030】
掘削された土砂は装置本体13内の下部に取り込まれ、取り込まれた掘削土砂は排出コンベア26により装置本体13外に排出され、図示しない排出手段により外部に排出される。この際、隔壁16におけるカッター支持筒17A,17Bの貫通部は、シール装置18A,18Bのガイド板24a,24bにおける開口23a,23bがカッター支持筒17A,17Bの揺動下にあっても閉塞板25で常時閉塞されるので、既設トンネル10内への浸水等は確実に阻止される。また、エントランス11においては、エントランスパッキン12により、既設トンネル10内への浸水等は確実に阻止される。
【0031】
カッター支持筒17A,17Bが最大限に伸長したら(図1中のドラムカッター22A,22Bの鎖線状態参照)、今度は、ドラムカッター22A,22Bの回転、揺動下で全ての推進ジャッキ14を伸長させて装置本体13を前進させ、掘削を推し進める。
【0032】
そして、全ての推進ジャッキ14の最大ストローク後、所要の推進ジャッキ14を一本毎あるいは数本纏めて順次収縮し、これにより出来た装置本体13との間隙に図示しない覆工部材のピース(セグメントピース等)を挿入して、最終的にリング状の覆工部材を組み立てる。その後、全ての推進ジャッキ14を再び伸長してリング状の覆工部材を介して当該装置本体13を前進させ、これを繰り返すことで所定の長さの拡幅部30が掘削される。即ち、既設トンネル10の拡幅部位において所定の幅に亘って拡幅されるのである。
【0033】
このように本実施例によれば、カッター支持筒17A,17Bの伸長と揺動によりドラムカッター22A,22Bによる掘削範囲の増大が図られるので、ドラムカッター22A,22Bの大きさ及び個数の削減が可能となり、拡幅装置の簡略化によりコストダウンが図れる。
【0034】
また、カッター支持筒17A,17Bの伸縮如何に拘わらず、リング状の覆工部材を用いるあるいは継ぎ足すことで、装置本体13を任意に前進させて拡幅長さの増大が図れるので、汎用性も高まる。
【0035】
尚、上述した拡幅装置を既設トンネル10の長手方向に複数連接して既設トンネル10の長手方向へ所定長さに亘って拡幅部30を形成するようにしても良いことは言うまでもない。
【実施例2】
【0036】
図7は本発明の実施例2を示す拡幅装置の要部側断面図、図8は拡幅装置の平断面図である。
【0037】
これは、実施例1におけるカッター支持筒17及びドラムカッター22を隔壁16にシール装置18を介してトンネル高さ方向(図中上下方向)に1段だけ設けた例である。その他の構成は実施例1と同様なので、図1,図4及び図5と同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0038】
これによれば、実施例1と同様の作用・効果に加えて拡幅部30のトンネル高さに見合った最適な大きさの拡幅装置を提供することができるという利点が得られる。
【0039】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲でカッター支持筒17及びドラムカッター22をトンネル高さ方向に3段以上設ける等各種変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0040】
10 既設トンネル
11 エントランス
12 エントランスパッキン
13 装置本体
14 推進ジャッキ
15 架台
16 隔壁
17A,17B カッター支持筒
18A,18B シール装置
19A,19B スイングジャッキ
20a 内筒
20b 外筒
22A,22B ドラムカッター
23a,23b 開口
24a,24b ガイド板
25 閉塞板
26a 吸込口
26 排出コンベア
27 オーバカッタジャッキ
28 支持枠
30 拡幅部
1,O2 カッター支持筒の枢支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設トンネルの内壁に設置されたエントランス内をトンネルの径方向へ少なくとも前進可能な筒状の装置本体と、
前記装置本体を前進させるべく前記既設トンネル内に設置される複数本の推進ジャッキと、
前記装置本体内を前後方向へ仕切る隔壁にシール装置を介して貫通しその筒軸方向中間部よりやや前方側が隔壁後方の装置本体の左右両部に揺動可能に枢支されて伸縮可能なカッター支持筒と、
前記カッター支持筒を揺動させるべく隔壁後方の装置本体に取着されたスイングジャッキと、
前記カッター支持筒の隔壁前方に位置する先端部に取着されたドラムカッターと、
前記隔壁に吸込口を貫通させて隔壁前方の装置本体内の掘削土砂を取り込む排出コンベアと、
を備えたことを特徴とする既設トンネルの拡幅装置。
【請求項2】
前記エントランスの内周面にエントランスパッキンが取着されていることを特徴とする請求項1に記載の既設トンネルの拡幅装置。
【請求項3】
前記シール装置は、前記カッター支持筒の揺動を許容する開口を有すると共にカッター支持筒の揺動支点を中心とした円に沿って円弧状に形成されて前記隔壁に所定の隙間を有して一体的に組み込まれた二重壁状のガイド板と、前記ガイド板の隙間に摺動可能に配設されて当該ガイド板の開口を閉塞可能に前記カッター支持筒の外周にフランジ状に固設された閉塞板と、からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の既設トンネルの拡幅装置。
【請求項4】
前記カッター支持筒及びドラムカッターは前記隔壁にトンネル高さ方向に複数段に亘って設けられることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の既設トンネルの拡幅装置。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれか一つに記載の既設トンネルの拡幅装置を用いて既設トンネルを拡幅する際に、装置本体と推進ジャッキとの間にリング状の覆工部材を継ぎ足しながら当該装置本体を前進させることを特徴とする既設トンネルの拡幅工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2131(P2013−2131A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133859(P2011−133859)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】