説明

既設マンホールの耐震化方法

【課題】マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールを、地中からマンホールや下水道本管を掘り起こしたり、埋め戻したりすることなく容易に耐震化することができる既設マンホールの耐震化方法の提供。
【解決手段】
剛接合部分の下水道本管2の管基部を外壁近傍部分を残して削除し、空所14を形成し、円筒部51および複数の固定具52を有するスペーサー5を空所14へ取り付け、更生管を円筒部51を介して下水道本管2内へ製管し、スペーサー5を空所14から撤去し、更生管の基部外周の耐震継手を取り付け、空所14のマンホール内壁側に充填材を充填して隙間を塞ぐと、マンホール側壁12の側壁孔13に下水道本管2が剛接合されている既設マンホールを、耐震化済みマンホールへ改修される。この既設マンホールの耐震化方法は、大がかりな切削マシンを必要とせず、マンホール内が地山と連通しないため、地下水や土砂がマンホール内へ流入しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道本管がマンホール側壁に剛接合されている既設マンホールの耐震化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の下水道管との連結構造では、下水道管とマンホール側壁とが剛接合されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−90077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、下記の課題を有する。
下水道本管がマンホール側壁に剛接合されている既設マンホールでは、地震動が加わると、マンホールと下水道管との動きに違いが生じる。この動きの違いを吸収できない場合には、マンホールや下水道管の破損を招く。
【0005】
現在では、下水道管渠施設(主にマンホールと下水道管)を新しく敷設(新設工事)する場合は、耐震および止水目的で、フレキシブルジョイントを介して接続することが一般的になっている。
しかし、以前に敷設された下水道管渠施設には、マンホールにフレキシブルジョイントが取り付けられていないのが現状である。
このため、阪神淡路大震災(平成7年1月発生)では、マンホールと下水道管との接合部、およびマンホールから1本目の下水道管に多くの被害が見られた。
【0006】
下水道管とマンホール側壁とが剛接合されている従来の下水道管渠施設を、耐震性の下水道管渠施設に変更する場合には、地中から一旦、マンホールや下水道管を掘り起こし、フレキシブルジョイントを取り付け後、再び埋め直す必要がある。
【0007】
地中から一旦、マンホールや下水道管を掘り起こし、フレキシブルジョイントを取り付ける場合には、下記に示す課題が生じる。
熟練を要する。施工費が嵩む。工期がかかる。交通障害を引き起こす。
【0008】
本発明の目的は、下水道管とマンホール側壁とが剛接合されている既設マンホールを、地中からマンホールや下水道管を掘り起こしたり、埋め戻したりすることなく容易に耐震化することができる既設マンホールの耐震化方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールを以下の工程を経て耐震化する。
(下水道本管削除工程)
マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管の管基部を外壁近傍部分を残して削除し、空所を形成する。
【0010】
(スペーサー取付工程)
円筒長が空所の長さより短く、円筒内径が下水道本管の内径に略等しい円筒部と、下水道本管と同軸状に円筒部を配置するための複数の固定具とを有するスペーサーを空所へ取り付ける。
【0011】
(更生管製管工程)
下水道本管の内径およびスペーサーの円筒部の内径に管外径が等しい更生管を、スペーサーの円筒部を介して下水道本管内へ製管する。
(スペーサー撤去工程)
固定具の固定を解除してスペーサーを空所から撤去する。
【0012】
(耐震継手取付工程)
更生管の基部外周の空所に耐震継手を取り付ける。
(充填材充填工程)
水密性を確実にするため、空所のマンホール内壁側に充填材を充填して隙間を塞ぐ。
【0013】
(請求項2について)
スペーサーの固定具は、ボルトナット、キャンパーである。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1について)
下水道本管削除工程において、剛接合部分の下水道本管の管基部を外壁近傍部分を残して削除している。
このため、マンホール内が地山と連通しないため、地下水や土砂がマンホール内へ流入しない。また、施工時において、下水道本管からマンホールへの汚水の流れ込みを阻害しない。
【0015】
下水道本管の口径が大きくても、外壁近傍部分を残すので、簡単な工具で剛接合部分の管基部を削除することができる。
【0016】
マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管の管基部を外壁近傍部分を残して削除して空所を形成し、この空所へ、円筒内径が下水道本管の内径に等しい円筒部および複数の固定具を有するスペーサーを取り付けている。
このため、スペーサーの円筒部を介して下水道本管内へ更生管を精度良く製管することができる。
【0017】
更生管の製管後に、固定具の固定を解除してスペーサーを空所から撤去すれば、更生管の基部外周の空所へ耐震継手を容易に取り付けることができる。
更生管の基部外周の空所に耐震継手を取り付けているので、既設マンホールを耐震化することができる。
【0018】
(請求項2について)
スペーサーの円筒部は、複数に分割されている。このため、スペーサー撤去工程で、スペーサーを空所から撤去し易くなる。
(請求項3について)
スペーサーの固定具には、容易に入手できるボルトナットやキャンパーを利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明の実施例1に係る既設マンホールの耐震化方法の下水道本管削除工程を示す説明図であり、(b)は本発明の実施例1に係る既設マンホールの耐震化方法のスペーサー取付工程を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例1に係る既設マンホールの耐震化方法の更生管製管工程を示す説明図である。
【図3】(a)、(b)は本発明の実施例1に係る既設マンホールの耐震化方法の耐震継手取付工程を示す説明図であり、(c)は本発明の実施例1に係る既設マンホールの耐震化方法の充填材充填工程を示す説明図である。
【図4】(a)は固定具の他の例を示す説明図であり、(b)は位置決めプレートの取り付けた例を示す説明図である。
【図5】スペーサーを使用しない場合に起きる不具合を示す説明図である。
【図6】(a)は本発明の変形例に係る既設マンホールの耐震化方法のスペーサー撤去工程を示す説明図であり、(b)は本発明の変形例に係る既設マンホールの耐震化方法の耐震継手取付工程を示す説明図であり、(c)は本発明の変形例に係る既設マンホールの耐震化方法の充填材充填工程を示す説明図である。
【図7】スペーサの変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
マンホール側壁に下水道本管が剛接合されている既設マンホールを以下の工程を経て耐震化する。
マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管の管基部を外壁近傍部分を残して削除し、空所を形成する(下水道本管削除工程)。
【0021】
円筒長が空隙の長さより短く円筒内径が下水道本管の内径に等しい円筒部、および下水道本管と同軸状に円筒部を配置するための複数の固定具とを有するスペーサーを空所へ取り付ける(スペーサー取付工程)。
【0022】
下水道本管の内径およびスペーサーの円筒部の内径に管外径が略等しい更生管を、スペーサーの円筒部を介して下水道本管内へ製管する(更生管製管工程)。
【0023】
固定具の固定を解除してスペーサーを空所から撤去する(スペーサー撤去工程)。
更生管の基部外周の空所に耐震継手を取り付ける(耐震継手取付工程)。
空所のマンホール内壁側に充填材を充填して隙間を塞ぐ(充填材充填工程)。
【0024】
この既設マンホールの耐震化方法は、マンホールや下水道管を掘り起こしたり、埋め戻したりすることなく容易に耐震化することができる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
本発明の実施例1(請求項1、3に対応)に係る既設マンホールの耐震化方法を図1〜図3に基づいて説明する。
土中に埋設された既設マンホール(コンクリート製)は、底版11の端縁から立設するマンホール側壁12の側壁孔13に下水道本管2(ヒューム管)を剛接合してなり、後述する工程を経て耐震化済マンホールAに改修される。
【0026】
既設マンホールの耐震化方法を用いて改修された耐震化済マンホールAは、マンホール本体1と、剛接合部分の管基部を外壁近傍部分を残して撤去した下水道本管2と、下水道本管2内へ製管された更生管3と、空所14内に配され、マンホール充填材mで隙間を塞いだ耐震継手4とを備える{図3の(c)参照}。
【0027】
(下水道本管削除工程)
機械や工具を用い、マンホール側壁12の側壁孔13に下水道本管2が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管2の管基部を、外壁近傍部分を残して削除し、空所14を形成する{図1の(a)参照}。
【0028】
(スペーサー取付工程)
円筒長が空所14の長さより短く、円筒内径dが下水道本管2の内径Dに等しい円筒部51と、下水道本管2と同軸状に円筒部51を配置するための四個の固定具52とを有するスペーサー5を空所14へ取り付ける{図1の(b)参照}。
【0029】
本実施例では、固定具52は、円筒部51の四箇所に固着されたナット53、およびナット53に螺合するボルト54である。
具体的には、ボルト54の頭部をレンチ等で回動させて、円筒部51が、下水道本管2と同軸状になる様にスペーサー5を位置決めする。
【0030】
(更生管製管工程)
スペーサー5を空所14へ取り付けた状態で、下水道本管2の内径Dおよびスペーサー5の円筒内径dに管外径が等しい更生管3を、円筒部51内を通して下水道本管2へ製管する(図2参照)。
なお、スペーサー5を使用しないと、図5に示す様に、更生管3が広がってしまい、耐震継手4を空所14へ取り付けられなくなる。
【0031】
(スペーサー撤去工程)
ボルト54の頭部をレンチ等で回わして緩め、円筒部51を更生管3から抜き、スペーサー5を空所14から撤去する。
【0032】
(耐震継手取付工程)
マンホール本体1内から、更生管3の基部外周の空所14へ耐震継手4を押し込んで取り付ける{図3の(a、b)参照}。
【0033】
耐震継手4は、内周が更生管3の外周に略等しい長尺径小円筒部41、外周が空所14の内壁に略等しい短尺径大円筒部42、および両者を接続する接続部43を有する継手本体40(ゴム製)と、短尺径大円筒部42に内嵌される鋼製円筒44と、長尺径小円筒部41に外嵌される鋼製リング45と、短尺径大円筒部42の外周に取り付けられるステンレスバンド36とを備える。
なお、耐震継手は、耐震継手4に拘らず、これ以外の構造でも良い。
【0034】
(充填材充填工程)
耐震継手4が嵌め込まれている、空所14のマンホール内壁側にマンホール充填材mを充填して隙間を塞ぐ{図3の(c)参照}。
【0035】
実施例1の既設マンホールの耐震化方法は、以下の利点を有する。
マンホール側壁12の側壁孔13に下水道本管2が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管2の管基部を、機械や工具を用い、外壁近傍部分を残して撤去する工法であるので、大がかりな切削マシンを必要としない。
また、マンホール内が地山と連通しないため、耐震化工事中に、地山の地下水や土砂がマンホール内へ流入しない。更に、下水道本管2からマンホールへの汚水の流れ込みを阻害しない。
下水道本管2の口径が大きくても、外壁近傍部分を残して下水道本管2の管基部を簡単な工具で撤去することができる。
【0036】
マンホール側壁12の側壁孔13に下水道本管2が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管2の管基部を、外壁近傍部分を残し撤去して空所14を形成し、この空所14へ、円筒内径dが下水道本管2の内径Dに等しい円筒部51および四個の固定具52を有するスペーサー5を取り付けている。
このため、スペーサー5の円筒部51を介して下水道本管2内へ更生管3を精度良く製管することができる。
【0037】
更生管3の製管後にボルト54を緩めてスペーサー5を空所14から撤去すれば、更生管3の基部外周の空所14へ、容易に耐震継手3を嵌め込んで取り付けることができる。なお、スペーサー5の固定具は、ボルト54、ナット53であるので容易に入手でき、安価である。
【0038】
更生管3の基部外周の空所14に耐震継手3を嵌め込んで取り付けているので、既設マンホールを耐震化することができる。なお、地中からマンホールや下水道管を掘り起こしたり、埋め直す必要がない。
【0039】
(変形例)
a.円筒部51とキャンパー55でスペーサー5を構成しても良い。スペーサー取付工程において、キャンパー55は、マンホール本体1内から円筒部51の基部外周の空所14へ圧入される{図4の(a)参照}。
円筒部51を省略し、キャンパー55をリングにしてスペーサー5とし、製管後に把手56を引き抜いても良い(図7参照)。
また、スペーサ5は、半割れ等の分割形でも良い。
【0040】
b.スペーサー取付工程でスペーサー5を空所14へ取り付ける際に、円筒部51の先部内壁と、下水道本管2の基部内壁とを跨いで、位置決めプレート6(薄板)を複数位置に設けても良い{図4の(b)参照}。
この構成であると、スペーサー5の円筒部51の内壁と、下水道本管2の基部内壁とが、位置決めプレート6により連絡されるので、スペーサー5を下水道本管2と同軸状に配置し易くなり、更生管3を下水道本管2へ更に容易に製管することができる。
【0041】
c.耐震継手4は、内周が更生管3の外周に略等しい長尺径小円筒部41、外周が空所14の内壁に略等しい短尺径大円筒部42、および両者を接続する接続部43を有する継手本体40(ゴム製)と、短尺径大円筒部42に内嵌される鋼製円筒44と、長尺径小円筒部41の外周および短尺径大円筒部42の外周に取り付けられるステンレスバンド35、36とを備える構造であっても良い(図6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この既設マンホールの耐震化方法を採用すれば、マンホール側壁の側壁孔に下水道管が剛接合されている従来の既設マンホールを、地面を掘り起こすことなく耐震化済マンホールに変更することができる。
【符号の説明】
【0043】
A 耐震化済マンホール
m マンホール充填材
1 マンホール本体
2 下水道本管
4 耐震継手
12 マンホール側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホール側壁の側壁孔に下水道本管が剛接合されている既設マンホールの、剛接合部分の下水道本管の管基部を外壁近傍部分を残して削除し、空所を形成する下水道本管削除工程と、
円筒長が前記空所の長さより短く円筒内径が前記下水道本管の内径に等しい円筒部、および前記下水道本管と同軸状に前記円筒部を配置するための複数の固定具を有するスペーサーを前記空所へ取り付けるスペーサー取付工程と、
前記下水道本管の内径および前記スペーサーの前記円筒部の内径に管外径が略等しい更生管を前記円筒部を介して下水道本管内へ製管する更生管製管工程と、
前記固定具の固定を解除して前記スペーサーを前記空所から撤去するスペーサー撤去工程と、
前記更生管の基部外周の前記空所に耐震継手を取り付ける耐震継手取付工程と、
前記空所のマンホール内壁側に充填材を充填して隙間を塞ぐ充填材充填工程とからなる既設マンホールの耐震化方法。
【請求項2】
前記スペーサーの円筒部は、複数に分割されていることを特徴とする請求項1に記載の既設マンホールの耐震化方法。
【請求項3】
前記スペーサーの前記固定具は、ボルトナット、キャンパーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の既設マンホールの耐震化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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