説明

既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法

【課題】低コストかつ短期間にて、周辺環境に優れる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法を提供する。
【解決手段】既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法であって、地下構造物は、少なくとも構造物本体を備え、液化ガス供給装置に接続された液化ガス供給通路と、液化ガス回収装置に接続された液化ガス回収通路とを接続する冷却器が構造物本体内の所定深度に配置され、冷却器に液化ガスを供給し、構造物本体内の空気を冷却することによって地下構造物の周辺地盤を凍結させる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法に関し、特に、マンホール等の既設小型の地下構造物を部分的に削孔または開口する際の湧水に伴う地盤崩壊を抑制するために利用される既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンホール等の既設小型の地下構造物を部分的に削孔または開口して補強もしくは改修を行う場合、削孔または開口した部分から湧水が地下構造物の周辺に発生する現象がある。このため、湧水に伴い、既設小型の地下構造物の周辺地盤の崩壊が起こりやすい。その結果、既設小型の地下構造物を補強・改修する工事は極めて危険である。
【0003】
従来から、上述した問題の対策としては、薬液注入工法を中心とした地盤改良または補強工法が開発されている。具体的には、例えば、次のような工法で行われている。まず、互いに直交する3方向に、それぞれ互いに間隔を存して配設された2連の噴射ノズルを備えた注入ロッドを対象地盤に貫入する。そして、各噴射ノズルより同時に瞬結性または緩結性薬液を噴射すると共に、同各薬液噴射流の周りに圧縮空気を連行させながら、当該ロッドを地盤から徐々に引き抜き、逆T型固結体を造成する (例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、シリカ系の水溶液型薬液を砂地盤に注入することにより砂地盤中に固結体を形成させる処理において、砂地盤の深さ方向および水平方向において球状乃至団子状に且つ一部が相互にオーバーラップして連接固化するように薬液を注入する地盤の固化改良工法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。かかる地盤の固化改良工法は、薬液の注入率が低いため、従来の薬液注入工法と比較して周辺地盤への影響が低くなる。
【0005】
また、環境保全等の理由から薬液注入工法に代わる工法としては、凍結工法が近年注目されるようになってきた。この凍結工法は、既設小型の地下構造物の周辺地盤を一時的に凍結させ、その間に必要な補強または改修工事を行い、工事終了後、凍結した地盤を元の状態に戻す仮設工法である。この従来の凍結工法は、具体的には、例えば、凍結管と呼ばれる直径約10cmの金属管を周辺地盤を凍結したい範囲に、所定の間隔で地上から削孔埋設し、冷却液を循環供給して凍結管を氷点以下の温度で冷却し続け、既設小型の地下構造物の周辺地盤を人工的に凍結させる。
【特許文献1】特開平05−125893号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−131467号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される薬液注入による地盤改良工法には、次のような問題がある。それは、周辺地盤の土質の把握が地盤改良の効果に大きく影響するので、工事前に改良施工地点の土質を調査する必要がある。また、施工域に所定のピッチでかつ所定の深度まで削孔するので、大型の施工設備が必要である。このため、かかる費用が膨大となり、必要な工期も長期化してしまうという問題がある。また、この工法では、地盤における完全な固結・止水等の改良は不可能であり、また、薬液は地盤に残ることによって、地盤の汚染が発生し、環境保全の立場からも採用に制限を受けるようになってきた。
【0007】
一方、特許文献2に開示される地盤改良工法の場合には、薬液の注入による周辺地盤への汚染がある程度に低くなる。しかし、環境保全上十分に有効と言えない。また、環境問題以外、上述した特許文献1に開示される方法と同様に、コストアップかつ工期が長くなるという問題がある。
【0008】
また、上述した凍結工法において、凍結管の布設および撤去等の作業が必要となる。このため、工事費が高価となると共に、工期も長くなる。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低コストかつ短期間にて、周辺環境に優れる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法であって、地下構造物は、少なくとも構造物本体を備え、液化ガス供給装置に接続された液化ガス供給通路と、液化ガス回収装置に接続された液化ガス回収通路とを接続する冷却器が構造物本体内の所定深度に配置され、冷却器に液化ガスを供給し、構造物本体内の空気を冷却することによって地下構造物の周辺地盤を凍結させる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。
【0011】
これによれば、低コストかつ短期間にて、周辺環境に優れる既設小型の地下構造物の周辺地盤を強化できる。構造物本体内の所定深度に配置された冷却器に液化ガスを供給し、構造物本体内の空気を冷却することによって、既設小型の地下構造物の周辺地盤を完全な固結・止水等に改良させ、その間に必要な補強または改修工事を行うことができる。従来の薬液注入工法と比べて、工事前に改良施工地点の土質の調査、あるいは大型の施工設備を用いて施工域に所定のピッチでかつ所定の深度まで削孔することを必要とせず、さらに、上述した凍結工法に比較しても、凍結管の布設および撤去等の作業が必要ない。このため、かかる費用が低減し、必要な工期も短期化になってしまう。また、薬液を地盤に注入しないので、薬液の残留による地盤汚染が発生しないと共に、工事終了後、凍結した地盤を元の状態に戻すことができる。このため、環境保全の立場からも本発明の工法を採用することが望ましい。
【0012】
また、別の本発明は、先の発明に加え、地下構造物が地上への開口部を有するマンホールである既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。
【0013】
このため、マンホールを部分的に削孔または開口して補強もしくは改修等を行う場合において、削孔または開口した部分から湧水が発生しなく、マンホールの周辺地盤を効率良く強化できる。その結果、マンホールの周辺に湧水に伴う地盤の崩壊が生じなく、工事を安全に行うことができる。
【0014】
また、別の本発明は、先の発明に加え、冷却器がマンホール内に地下水面より下に位置させる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。
【0015】
これによれば、マンホール周辺の地下水面以下の地盤を短期間かつ迅速に凍結することができる。このため、マンホールの周辺地盤を確実に固結・止水等に改良できる。また、液化ガスの凍結効率を高めるので、かかるの費用を低減すると共に、必要凍結時間が短くなることができる。
【0016】
また、別の本発明は、先の発明に加え、マンホールが周辺地盤を凍結しない範囲と対応する周壁の内周側面に沿って断熱材層が配置され、さらに、冷却器の上方に断熱蓋が設けられる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。
【0017】
断熱材層と断熱蓋とがそれぞれ設けられることによって、断熱材層と断熱蓋との外側の地盤と断熱されるので、冷却器に供給した液化ガスの凍結効率を高める。このため、液化ガスの使用量が低減し、費用を大幅に削減することができる。
【0018】
また、別の本発明は、先の発明に加え、液化ガスが液体窒素である既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法としている。
【0019】
液体窒素は、−195.8℃と非常に低い温度まで冷却される。このため、マンホールの周辺地盤をより確実に短期間かつ迅速に固結・止水等に改良できる。
【0020】
本発明に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法に適用する構造物は、小型であり、構造物の全部あるいはその一部が地中に埋設されるものであれば特に限定されるものではなく、マンホールの他、例えば、小型トンネルまたは地下タンク等が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低コストかつ短期間にて、周辺環境に優れる既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法に適用するマンホール100を示す断面図である。
【0024】
図1に示すように、マンホール100は、地中に埋設され、円筒形状にコンクリートによって形成されて、上端側に地上への開口部を有するマンホール本体5と、当該マンホール本体5の下端側の周壁に内外に貫通させた貫通孔に接続され、マンホール本体5の内外の汚水流通を行うための排水管60と、を備える。排水管60は、マンホール100の上流側および下流側にそれぞれ配管付の止水プラグ61が設けられ、さらに、マンホール100の周辺地盤を凍結した期間中にも下水の供用が可能となる防熱材付きの配管62が配置される。マンホール本体5の上端に形成された開口部には、金属製のマンホール蓋10が着脱自在に備えられており、開口部の周辺は舗装が施されている。
【0025】
図2は、図1に示したマンホール100の周辺地盤の凍結を実施できる形態を示す図である。
【0026】
図2に示すように、液化ガス供給装置20に接続された液化ガス供給通路21と、液化ガス回収装置30に接続された液化ガス回収通路31とを接続する冷却器40がマンホール本体5内の所定深度に設けられる。冷却器40は、マンホール100の大きさおよび地盤の状況に応じて公知のものを好適に選択して用いることができる。液化ガス供給装置20は、液化ガスボンベから構成され、マンホール100の周辺地面上に配置される。これは現地に2個ぐらい常時搬入し、複数の接続端子を備えた接続具と流出口が接続されている。流出口22と冷却器40とを接続した液化ガス供給通路21の途中位置に、電動モータで開閉駆動される電磁開閉弁(図示せず)が設置されるのが好ましい。この電磁開閉弁の開閉および弁開度は、液化ガスの供給量を制御でき、マンホール本体5内の空気の冷却温度をコントロールしている。液化ガス回収装置30は、受液タンクから構成され、マンホール100の周辺地面上に配置される。液化ガス供給通路21と液化ガス回収通路31とは、液化ガスの導入に耐える金属管、例えば、ステンレス管または銅管から構成され、特に限定せず、低温脆性が生じない既知の金属管を採用しても良い。
【0027】
マンホール100は、周辺地盤を凍結しない範囲と対応するマンホール本体5の周壁の内周側面に沿って断熱材層50が配置され、さらに、マンホール本体5の内における冷却器40の上方に断熱蓋55が設けられる。断熱材層50および断熱蓋55を構成する断熱材料としては、例えば、グラスウール、ロックウール、発泡ポリウレタンあるいは発泡ポリスチレン等が使用できる。グラスウールからなる断熱材層50および発泡ポリスチレンであるスタイロフォームからなる断熱蓋55をそれぞれ用いるのがより好ましい。ただし、上述の断熱材料は一例に過ぎず、他の断熱材料を採用しても良い。また、断熱材層50および断熱蓋55の厚さは、マンホール100の大きさ、冷却温度および液化ガスの種類に応じて適切に選択して用いるのが好ましい。以上のように断熱材層50と断熱蓋55とがそれぞれ設けられることによって、断熱材層50と断熱蓋55との外側の地盤と断熱されるので、冷却器40に供給した液化ガスの凍結効率を高める。このため、液化ガスの使用量が低減し、費用を大幅に削減することができる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法について説明する。
【0029】
図2に示すように、液化ガス供給装置20は、液化ガス供給通路21を介して冷却器40の液化ガス入口からマンホール100内に地下水面より上に位置された冷却器40内に液化ガスを供給する。すると、マンホール100内の空気が冷却される。それによって、断熱材層50を取り付けた範囲の地盤は断熱材層50によって冷却されることが阻止されて当該部分の地盤は凍結せず、地下水面より下方のマンホール100の外周地盤は確実に凍結される。本実施の形態において、特に、マンホール100内の空気が−40℃位に冷却されることによってマンホール100の周辺地盤を凍結させるのが好ましい。
【0030】
ここで、「液化ガス」とは、常温で気相あるいはガス状であり、且つ極低温により液化したものである。液化ガスは、冷媒として作用するものであり、供給量が多く、不活性且つ安全な理由から液化窒素を好適に用いることができる。また、防爆対策があり、且つ、気化した後の安全性が確保される点で、液化した酸素あるいは液化したその他の気体を用いるのが好ましい。これに関連して、本発明で用いられる液化ガスの流路を構成する各種部材は、液化ガスの極低温に対して十分な耐性を有する材料を用いることが好ましい。
【0031】
また、本実施の形態において、冷却器40がマンホール100内に地下水面より下に位置させて配置しても良い。このため、液化ガスの凍結効率が高まり、マンホール100周辺の地下水面以下の地盤を短期間かつ迅速に凍結することができる。
【0032】
マンホール100の周辺地盤の凍結については、液化ガスの種類および地盤の凍結要求に応じて公知の方法を適宜に選択してコントロールできる。具体的には、例えば、液化ガス供給装置20と冷却器40との間に電磁開閉弁(図示せず)が設置され、その開閉および弁開度はコントローラ(図示せず)により自動制御される。コントローラには、設置した排気温度測定センサーの測定値が入力されるようになっている。コントローラの自動制御系は、地盤凍結の進展状況を検出する排気温度測定センサーが一定の上限および下限を有する範囲の測定温度である場合、地盤凍結の進展は適正と判断し、コントローラは電磁開閉弁の開度をそのままに維持し液化ガスの流量が維持される。しかし、排気温度測定センサーが下限以下を検出した場合、コントローラは、液化ガスの供給量過多であると判断して電磁開閉弁の弁開度を絞り、液化ガスの供給量を減少させる。逆に排気温度測定センサーが上限以上を検出した場合、コントローラは液化ガスの供給量不足と判断し、電磁開閉弁の弁開度を拡大し、液化ガスの供給量を増加させて行われる。
【0033】
以上のように、冷却器40がマンホール100内の所定深度に配置されることによって、一時的にマンホール100の周辺地盤を凍結し、冷却器40等の装置を撤去してマンホール100を部分的に削孔または開口する補強もしくは改修を行った後に、自然解凍によってマンホール100の周辺地盤は元の状態に回復させることができる。また、夜間に施工が可能となり、トータル的に低コストとなる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法について説明したが、本発明に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法は、上述の実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0035】
例えば、液化ガスに代わりに、ブラインと呼ばれる不凍液を、例えば、−60℃〜−35℃に冷却し、これを冷却器40に循環供給して既設小型の地下構造物の周辺地盤を凍結しても良い。こうすると、既設小型の地下構造物の周辺地盤から熱を奪って、温度が上昇したブラインは凍結ユニットへ再び戻り冷却される。凍結ユニットは圧縮器、凝縮器、冷却器等からなり、地盤中の熱は冷却器からブラインを経て大気中に放出されるという冷凍サイクルを繰り返す。このため、液化ガスを流通する液化ガス供給通路21と液化ガス回収通路31と比べて、高価なステンレス管または銅管等の低温脆性が生じない金属製のものを要求されることがなく、通常の鋼管を利用することができる。したがって、その設備の費用が低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、既設小型の地下構造物の周辺地盤を凍結する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法に適用するマンホールを示す断面図である。
【図2】図1に示したマンホールの周辺地盤の凍結を実施できる形態を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
5…マンホール本体
10…マンホール蓋
20…液化ガス供給装置
21…液化ガス供給通路
30…液化ガス回収装置
31…液化ガス回収通路
40…冷却器
50…断熱材層
55…断熱蓋
60…排水管
61…止水プラグ
62…配管
100…マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法であって、
上記地下構造物は、少なくとも構造物本体を備え、
液化ガス供給装置に接続された液化ガス供給通路と、液化ガス回収装置に接続された液化ガス回収通路とを接続する冷却器が上記構造物本体内の所定深度に配置され、
上記冷却器に液化ガスを供給し、上記構造物本体内の空気を冷却することによって上記地下構造物の周辺地盤を凍結させることを特徴とする既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法。
【請求項2】
前記地下構造物は、地上への開口部を有するマンホールであることを特徴とする請求項1に記載の既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法。
【請求項3】
前記冷却器は、前記マンホール内に地下水面より下に位置させることを特徴とする請求項2に記載の既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法。
【請求項4】
前記マンホールは、周辺地盤を凍結しない範囲と対応する周壁の内周側面に沿って断熱材層が配置され、さらに、前記冷却器の上方に断熱蓋が設けられることを特徴とする請求項2または3に記載の既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法。
【請求項5】
前記液化ガスは、液体窒素であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の既設小型の地下構造物の周辺地盤の凍結工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221727(P2009−221727A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66790(P2008−66790)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(397028016)株式会社日水コン (18)
【出願人】(591045965)株式会社精研 (5)
【Fターム(参考)】