説明

既設杭を撤去する工法

【課題】本発明の目的は排土の処理が容易で、かつ、作業効率の優れた既設杭を撤去する工法を提供する。
【解決手段】第2ケーシング2に回転力を付与することで、第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、ドリル12によって掘削される地盤に水を噴射すると共に掘削により生じた排土を泥水化して羽根板11で撹拌しながら排出することで、既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために既設杭3のまわりを掘り進む第2掘進工程と、水を噴射せずにドリル12によって掘削した排土を上方に排出することなく掘り進み第1ケーシング1の先端部分と既設杭3の先端部分との間に排土を詰めることで、既設杭3を第1ケーシング1に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設杭を撤去する工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物を取り壊して更地にする際に、建造物の基礎を構成する地盤に打ち込まれた既設杭を取り除く必要がある。そこで、従来より、前記杭に用いられた鉄筋入りのコンクリート製の杭を除去する工法が提案されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−29519号(第4図)
【特許文献2】U3,156,209(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1の方法では、排土の処理が難しく、そのため、掘削が困難となる場合がある。
【0005】
一方、特許文献2では掘削用のバケツと切断用のバケツとを交互に用い、掘削と切断とを交互に行う工法を提案している。しかし、この従来工法では2種のバケツを取り換える手間が多くなり、作業効率が低下する。
【0006】
したがって、本発明の目的は排土の処理が容易で、かつ、作業効率の優れた既設杭を撤去する工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、地盤に打ち込まれている既設杭を撤去する工法であって、
前記杭の外径よりも大きい内径を持つ円筒体10の内周面に径方向の内側に突出し排土を撹拌する羽根板11および水を供給するパイプ42を備えた第1および第2ケーシング1,2と、最下端の第1ケーシング1の下端に設けられ掘削するためのドリル12とを用い、前記ドリル12を備えた第1ケーシング1に回転力を付与して前記第1ケーシング1を回転させながら、前記ドリル12によって掘削される地盤に前記パイプ42の先端から水を噴射すると共に前記掘削により生じた排土を泥水化して前記羽根板11で撹拌しながら上方に排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第1掘進工程と、前記回転力がケーシングからケーシングに伝わるように、かつ、前記パイプ42同士が互いに連なるように前記ケーシング同士を軸方向に互いに連結する連結工程と、前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記水を噴射せずに前記ドリル12によって掘削される地盤に前記パイプ42の先端から水を噴射すると共に前記掘削により生じた排土を泥水化して前記羽根板11で撹拌しながら上方に排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第2掘進工程と、前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記水を噴射せずに前記ドリル12によって掘削した排土を上方に排出することなく掘り進み前記第1ケーシング1の先端部分と前記既設杭3の先端部分との間に前記排土を詰めることで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りすると共に、前記第1ケーシング1の中に前記既設杭3を固定する第3掘進工程と、前記第3掘進工程の後に、前記第2および第1ケーシング2,1を持ち上げて、前記掘進により前記既設杭3の全長にわたって地盤から縁切りされた前記既設杭3を前記第1および第2ケーシング1,2と共に地上に持ち上げる持ち上げ工程とを備える。
【0008】
本発明の場合、ケーシング1,2を次々に連ねて掘削を行うので、ケーシング1,2を取り換える必要がない。
また、水を噴射し、ベントナイトを添加することにより排土が泥水となって昇り易くなる。
また、各ケーシング1,2に形成した羽根板11によって前記泥水が撹拌されて上方に送られるので、排土により掘削の妨げられるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例にかかる第1掘進工程を示す側面図である。
【図2】各ケーシングの縦断面図である。
【図3】第2掘進工程を示す側面図である。
【図4】各工程を示す側面図である。
【図5】各工程を示す側面図である。
【図6】第3掘進工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な実施例においては、前記パイプ42の先端から前記既設杭3の下方に向かって圧力水を吐出して前記既設杭3の下端面30と地盤との間に生じる水圧によって前記既設杭3の下端面30を上方に向かって押しながら、前記持ち上げ工程を実行する。
【0011】
この場合、水圧が前記既設杭3の下端面30に加わるので、前記既設杭3をケーシング1,2と共に持ち上げるのが容易になる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明にかかるボーリング装置5の一実施例を図面にしたがって説明する。
全体構成:
図1に示すように、ケーシングを回転させながら地中Sに押し込むためのボーリング装置5は、バンド51、回転機構52およびケーシングジャッキ53を備えている。
【0013】
ケーシング1,2:
図1〜図3に示すように、前記各ケーシング1,2は、円筒状に形成されており、第1ケーシング1の先端にはドリル12が設けられている。図3に示す前記各ケーシング1,2が回転しながら地中Sを掘り進むと、パイプ状のケーシング1,2と既設杭3との間に掘削された土壌が入り込む。
なお、図3においては、ケーシング1,2の内部が見えるように杭3を仮想線で示している。
【0014】
前記各ケーシング1,2には、水まじりの排土を撹拌して上方に排出するのに役立つ羽根板11が、円筒体10の内周面に1個ないし複数個設けられている。なお、各ケーシング1,2には回転機構52の回転力を伝えるため孔57が設けられている。該孔57またはケーシング上端の開口から排土が排出される。
【0015】
前記第1ケーシング1の上端部および図2の第2ケーシング2の上端部には小径な被嵌合部13が設けられ、一方、各第2ケーシング2の下端部には前記被嵌合部13に嵌り込む嵌合部14が設けられている。前記被嵌合部13に嵌合部14を嵌合させ、両者をボルトで締結することにより、ケーシング1,2を次々に継ぎ足すことができる。図4Cのように各ケーシング1,2の上部が所定の位置に達すると、該ケーシング1,2の上部に図2の二点鎖線で示す延長用の第2ケーシング2が継ぎ足される。第2ケーシング2を次々に継ぎ足すことにより、地中深くボーリングを行う。
【0016】
図1に示すように、前記ケーシングジャッキ53は、地表に設置され、回転機構52を保持している。
前記ケーシングジャッキ53は、地表に設置されるフレーム54と、該フレーム54に固定されたジャッキ部55とを備えている。ジャッキ部55には、該ジャッキ部55により上下動される昇降部56が設けられている。
なお、本ボーリング装置5の詳細な構造はU3,135,204号の段落0013〜0023に開示されている。
【0017】
掘進中において、最も上方のケーシングの上端部には、図1Aに示す導水装置4が設置される。前記第1ケーシング1または第2ケーシング2の上端の軸心に設けられたスイベル式の継手40と、前記継手40から径方向の外方に水を導く第1導水路(パイプ)41と、これの下方に延びる第2導水路(パイプ)42とを介して前記水が掘削される地盤に噴射される。
なお、各パイプ42は各ケーシング1,2ごとに互いにジョイントされる。
また、前記継手40には水道圧または水圧ポンプで圧送される水が供給される。
【0018】
つぎに、既設杭3の撤去方法について説明する。まず、図4Aに示すように、撤去すべき既設杭3の上方の地表にボーリング装置5を設置する。ついで、図1Bに示すように、前記ボーリング装置5に第1ケーシング1を保持させる。この際、前記第1ケーシング1の上方には前記導水装置4を設置しておく。
【0019】
図4Bおよび図1Bにおいて、第1ケーシング1にボーリング装置5により回転力を付与して前記第1ケーシング1を回転させながら、前記ドリル12によって掘削される地盤に水を噴射すると共に前記掘削により生じ泥水化した排土を前記羽根板11(図2)で撹拌して上方に旋回排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第1掘進工程を実行する。
前記水の噴射と共に、好ましくは、前記ケーシング1(2)と杭3との間にベントナイトを添加する。これにより、泥水化した排土が上方に浮き上がり易くなる。
【0020】
第1ケーシング1の上端の位置が所定の高さになると、前記第1ケーシング1から導水装置4を取り外す。その後、図4Cのように、第1ケーシング1の上端に第2ケーシング2の下端を連結する。
つまり、前記回転力がケーシングからケーシングに伝わるように、かつ、図2の前記互いに上下に隣接するパイプ42同士が互いに連なるように前記ケーシング同士を軸方向に互いに連結する連結工程を実行する。この際、前記各パイプ42同士が互いに連なるように、第1ケーシング1と第2ケーシング2とを周方向に位置決めして、パイプ42同士を連結する。
【0021】
その後、図4Dのように、前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記ドリル12によって掘削される地盤に水を噴射すると共に前記掘削により生じ泥水化した排土を前記羽根板11(図2)で撹拌しながら上方に旋回排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第2掘進工程を実行する。
【0022】
その後、前記連結工程および第2掘進工程を繰り返すことで、前記既設杭3の先端部分を残した概ね全長にわたって既設杭3を地盤から縁切りさせる。
【0023】
前記既設杭3を地盤から完全に縁切りする直前に、第3掘進工程を行う。
すなわち、図6に示すように、前記第3掘進工程においては、前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記水を噴射せずに前記ドリル12によって掘削した排土を上方に排出することなく掘り進み前記第1ケーシング1の先端部分と前記既設杭3の先端部分との間に前記排土S1を詰めることで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りすると共に、前記第1ケーシング1の中に前記既設杭3を固定する。前記排土により前記第1ケーシング1および前記既設杭3の先端部分に栓S1が形成される。
【0024】
前記栓S1が形成された状態で、前記パイプ42の先端から前記既設杭3の下方に向かって圧力水を吐出して前記既設杭3の下端面30と地盤との間に生じる水圧によって前記既設杭3の下端面30を押しながら、下記持ち上げ工程を実行する。
【0025】
すなわち、図5Aにおいて、前記第3掘進工程の後に、前記第2および第1ケーシング2,1を持ち上げて、前記掘進により前記既設杭3の全長にわたって地盤から縁切りされ前記既設杭3を前記第1および第2ケーシング1,2と共に図5Bのように地上に持ち上げる。
【0026】
前記持ち上げ工程の後に、図5Cのように、前記最上端の第2ケーシング2を撤去して前記既設杭3を露出させる。その後、図5Cのように、既設杭3の上部にワイヤWを掛け、かつ、前記ボーリング装置5により既設杭3を吊り下げた状態で保持する。こうして、前記露出した既設杭3の上端部を保持して吊り下げた状態で、かつ、前記撤去した第2ケーシング2の下のケーシングを保持した状態で、前記保持した部位の間において前記既設杭3の上部を矢印Cで示す部位で切断して除去する。その後、再び図5Dのように既設杭3をワイヤWで吊り下げ前記保持と除去の工程を繰り返して既設杭3を切断撤去する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は既設杭を撤去する工法に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1:第1ケーシング
2:第2ケーシング
10:円筒体
11:羽根板
12:ドリル
13:被嵌合部
14:嵌合部
3:既設杭
30:下端面
4:導水装置
40:継手
41:第1導水路(パイプ)
42:第2導水路(パイプ)
5:ボーリング装置
51:バンド
52:回転機構
53:ケーシングジャッキ
54:フレーム
55:ジャッキ部
56:昇降部
57:孔
S1:栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打ち込まれている既設杭を撤去する工法であって、
前記杭の外径よりも大きい内径を持つ円筒体10の内周面に径方向の内側に突出し排土を撹拌する羽根板11および水を供給するパイプ42を備えた第1および第2ケーシング1,2と、最下端の第1ケーシング1の下端に設けられ掘削するためのドリル12とを用い、
前記ドリル12を備えた第1ケーシング1に回転力を付与して前記第1ケーシング1を回転させながら、前記ドリル12によって掘削される地盤に前記パイプ42の先端から水を噴射すると共に前記掘削により生じた排土を泥水化して前記羽根板11で撹拌しながら上方に排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第1掘進工程と、
前記回転力がケーシングからケーシングに伝わるように、かつ、前記パイプ42同士が互いに連なるように前記ケーシング同士を軸方向に互いに連結する連結工程と、
前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記水を噴射せずに前記ドリル12によって掘削される地盤に前記パイプ42の先端から水を噴射すると共に前記掘削により生じた排土を泥水化して前記羽根板11で撹拌しながら上方に排出することで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りするために前記既設杭3のまわりを掘り進む第2掘進工程と、
前記第2ケーシング2に回転力を付与することで、前記第2および第1ケーシング2,1を回転させながら、前記水を噴射せずに前記ドリル12によって掘削した排土を上方に排出することなく掘り進み前記第1ケーシング1の先端部分と前記既設杭3の先端部分との間に前記排土を詰めることで、前記既設杭3の外周囲を地盤から縁切りすると共に、前記第1ケーシング1の中に前記既設杭3を固定する第3掘進工程と、
前記第3掘進工程の後に、前記第2および第1ケーシング2,1を持ち上げて、前記掘進により前記既設杭3の全長にわたって地盤から縁切りされた前記既設杭3を前記第1および第2ケーシング1,2と共に地上に持ち上げる持ち上げ工程とを備える。
【請求項2】
請求項1の工法において、前記パイプ42の先端から前記既設杭3の下方に向かって圧力水を吐出して前記既設杭3の下端面30と地盤との間に生じる水圧によって前記既設杭3の下端面30を上方に向かって押しながら、前記持ち上げ工程を実行する。
【請求項3】
請求項2の工法において、前記持ち上げ工程の後に、前記最上端の第2ケーシング2を撤去して前記既設杭3を露出させる工程と、
前記露出した既設杭3の上端部を保持して吊り下げた状態で、かつ、前記撤去した第2ケーシング2の下方のケーシングを保持した状態で、前記2つの保持した部位の間において前記既設杭3の上部を切断して除去する工程を繰り返して既設杭3を切断撤去する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241329(P2012−241329A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109476(P2011−109476)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(507213868)
【Fターム(参考)】