説明

既設杭引き抜き装置用のケーシング、および既設杭の引き抜き工法

【課題】既設杭を容易に引き抜くことができる既設杭引き抜き装置用のケーシング、および既設杭の引き抜き工法を提供する。
【解決手段】ケーシング1の内周面に、先端から後端に渡る螺旋状のスクリュー羽根13が設けられている。ケーシング1を回転させながら既設杭Pの外周に圧入し、スクリュー羽根13の回転により、既設杭Pの周囲の土砂とともに、既設杭Pをケーシング1の後端まで上昇させ、既設杭Pの上端部を把持して、既設杭Pをケーシング1から引き抜く。スクリュー羽根13の回転により、掘削された土砂とともに既設杭Pがケーシング1の後端まで上昇するので、既設杭Pの上端部を把持しやすく、既設杭Pを容易に引き抜くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設杭引き抜き装置用のケーシング、および既設杭の引き抜き工法に関する。さらに詳しくは、構造物の基礎として地盤に打ち込まれた既設杭を引き抜くための既設杭引き抜き装置用のケーシング、および既設杭の引き抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設杭の引き抜き工法の一つとして、鋼管からなるケーシングを回転させながら既設杭の外周に圧入し、それにより既設杭と周囲の地盤との摩擦を切り、ついで既設杭の上端部にクレーンのワイヤロープを巻きつけ、そのワイヤロープの巻き取りにより既設杭を引き抜く工法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし、ケーシング内には既設杭とともに掘削された土砂が存在するため、その土砂の中に既設杭が埋まって、既設杭の上端部にワイヤロープを巻きつけることが困難な場合があり、このような場合には、既設杭の引き抜きが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−339892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、既設杭を容易に引き抜くことができる既設杭引き抜き装置用のケーシング、および既設杭の引き抜き工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の既設杭引き抜き装置用のケーシングは、円筒形のケーシングであって、該ケーシングの内周面に、先端から後端に渡る螺旋状のスクリュー羽根が設けられていることを特徴とする。
第2発明の既設杭引き抜き装置用のケーシングは、第1発明において、前記ケーシングの後端に、オーガと連結するカップリングが着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
第3発明の既設杭引き抜き装置用のケーシングは、第1または第2発明において、前記スクリュー羽根は、その内周の半径が既設杭の半径より大きく、該スクリュー羽根の内周の半径と該既設杭の半径との差が、0mmより大きく30mm以下であることを特徴とする。
第4発明の既設杭の引き抜き工法は、請求項1、2または3記載の既設杭引き抜き装置用のケーシングを用いた既設杭の引き抜き工法であって、前記ケーシングを回転させながら前記既設杭の外周に圧入し、前記スクリュー羽根の回転により、前記既設杭の周囲の土砂とともに、該既設杭を前記ケーシングの後端まで上昇させ、前記既設杭の上端部を把持して、該既設杭を該ケーシングから引き抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、内周面に設けられたスクリュー羽根の回転により、掘削された土砂とともに既設杭がケーシングの後端まで上昇するので、既設杭の上端部を把持しやすく、既設杭を容易に引き抜くことができる。
第2発明によれば、カップリングが着脱可能に取り付けられているので、カップリングを取り外して、ケーシングの後端から既設杭を引き抜くことができる。
第3発明によれば、スクリュー羽根の内周の半径と該既設杭の半径との差が0mmより大きいので、スクリュー羽根と既設杭との間に隙間が確保され、ケーシングを既設杭の外周に圧入することができる。また、スクリュー羽根の内周の半径と該既設杭の半径との差が30mm以下であるので、スクリュー羽根の回転により上昇する土砂の摩擦により、既設杭を上昇させることができる。
第4発明によれば、スクリュー羽根の回転により、既設杭がケーシングの後端まで上昇するので、既設杭の上端部を把持しやすく、既設杭を容易に引き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るケーシングの側面図である。
【図2】同ケーシングの側面視断面図である。
【図3】(a)図は図1におけるIIIa-IIIa線矢視図であり、(b)図は図1におけるIIIb-IIIb線矢視図である。
【図4】(a)図はカップリングの側面図であり、(b)図は(a)図におけるb-b線矢視図である。
【図5】同ケーシングを用いたオーガ式掘削機の側面図である。
【図6】同ケーシングを用いた既設杭の引き抜き工法の説明図である。
【図7】スクリュー羽根と既設杭との間の隙間の説明図である。
【図8】同ケーシングを用いた全周回転式掘削機の側面図であり、(a)図は掘削前、(b)図は掘削後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るケーシング1は、長尺の円筒形に構成された既設杭引き抜き装置用のケーシングである。ケーシング1の外周面には、2条の突条11、11が螺旋状に設けられている。また、ケーシング1の側面には、土排出窓12が数カ所設けられており、ケーシング1の内部から外部へ土砂を排出できるようになっている。
【0010】
図2に示すように、ケーシング1の内周面には、先端から後端に渡って螺旋状のスクリュー羽根13が設けられている。このスクリュー羽根13と前述の突条11とは巻き方向が同一となっている。
【0011】
図3(a)に示すように、ケーシング1の先端には、掘削刃14が取り付けられており、ケーシング1を回転させながら、その先端を地盤に圧入することで、地盤を掘削できるようになっている。
【0012】
一方、図3(b)に示すように、ケーシング1の後端には、等角度間隔で2つの凸部15が設けられている。この凸部15により、ケーシング1をオーガと連結するカップリングが着脱可能に取り付けられる。
【0013】
図4に示すように、ケーシング1をオーガと連結するカップリング16はオーガの回転軸に連結される軸部16aと、ケーシング1の後端を覆うキャップ16bとから構成されている。また、キャップ16bには、側面視逆L字形のキー溝16cが等角度間隔で2ヶ所形成されている。
【0014】
そのため、カップリング16は、キャップ16bをケーシング1の後端に被せるとともに、凸部15をキー溝16cに嵌合することにより、ケーシング1に取り付けることができる。また、凸部15をキー溝16cから外すことにより、カップリング16をケーシング1から取り外すことができる。
なお、凸部15およびキー溝16cは同数であればよく、3つ以上形成されてもよい。
【0015】
つぎに、上記ケーシング1を用いた既設杭の引き抜き工法について説明する。
以下、既設杭引き抜き装置としてオーガ式掘削機を用いた例と、全周回転式掘削機を用いた例とに分けて説明する。
【0016】
(オーガ式掘削機)
まず、オーガ式掘削機を用いた例について説明する。
図5に示すように、本実施形態のオーガ式掘削機Aは、ベースマシン2と、ベースマシン2に垂直に支持されたリーダー3と、リーダー3に対して垂直方向に褶動可能に取り付けられたオーガ4、および上記ケーシング1とから構成される。
ケーシング1とオーガ4とは、前記カップリング16により連結されている。
【0017】
図6に示すように、(1)まず、バックホーなどで地表面を掘削して、地盤に埋設された既設杭Pの上端部を露出させ、ケーシング1をその軸心が既設杭Pの軸心と同心になるように配置する。
【0018】
(2)つぎに、ケーシング1をオーガ4で回転させながら既設杭Pの外周の地盤に圧入していく。
ここで、ケーシング1を回転させると、先端の掘削刃14により地盤が掘削されていく。また、掘削された土砂は、内周面に設けられたスクリュー羽根13の回転により上方に搬送される。そして、掘削がある程度進むと、スクリュー羽根13により搬送された土砂が、地表面より上方に位置する土排出窓12からケーシング1の外部へ排出される。
なお、掘削された土砂は、外周面に設けられた突条11によっても地表面まで排出され、ケーシング1と地盤との間に隙間を空けている。そのため、ケーシング1と地盤との間の摩擦が低減し、ケーシング1が回転しやすいように維持される。
【0019】
(3)つぎに、ケーシング1が既設杭Pの先端より深く圧入されると、既設杭Pと地盤との摩擦がなくなり、既設杭Pが地盤から切り離される。
【0020】
(4)つぎに、ケーシング1の深さを一定としたまま回転を継続させると、ケーシング1内の土砂がスクリュー羽根13の回転により上方に搬送される。このとき、既設杭Pと土砂との摩擦力および既設杭Pとスクリュー羽根13との摩擦力により、土砂とともに既設杭Pも上方に搬送される。
なお、ケーシング1を既設杭Pの先端よりさらに深く圧入して土砂をケーシング1の内部に送り込むことにより、既設杭Pがより上昇しやすくなる。
【0021】
ここで、既設杭Pが土砂とともに上昇するためには、図7に示すように、スクリュー羽根13の内周と既設杭Pとの間の隙間dは限りなく0に近い方が、摩擦力が強くなるので好ましい。ただし、ケーシング1を既設杭Pの外周に圧入するためには、数十mm、具体的には20mm〜30mm程度の隙間dがある方が、施工が容易となる。そのため、隙間dは0mmより大きく30mm以下であることが好ましい。
換言すれば、スクリュー羽根13は、その内周の半径が既設杭Pの半径より大きく、スクリュー羽根13の内周の半径と既設杭Pの半径との差が、0mmより大きく30mm以下となるように構成されることが好ましい。スクリュー羽根13の内周の半径と既設杭Pの半径との差が0mmより大きければ、スクリュー羽根13と既設杭Pとの間に隙間dが確保され、ケーシング1を既設杭Pの外周に圧入することができる。また、スクリュー羽根13の内周の半径と既設杭Pの半径との差が30mm以下であれば、スクリュー羽根13の回転により上昇する土砂の摩擦により、既設杭Pを上昇させることができる。
【0022】
(5)既設杭Pをケーシング1の後端、すなわちカップリング16に当接するまで上昇させた後に、ケーシング1の回転を停止し、オーガ4を引き上げ、カップリング16を取りはずす。そうすると、ケーシング1の後端から既設杭Pの上端部が現れる。
そして、ケーシング1の後端に現れた既設杭Pの上端部にクレーンのワイヤロープ5を巻きつけ、そのワイヤロープ5の巻き取りにより既設杭Pをケーシング1から引き抜く。
以上により、既設杭Pの引き抜きが完了する。
【0023】
このように、スクリュー羽根13の回転により、既設杭Pがケーシング1の後端まで上昇するので、既設杭Pの上端部が土砂に埋まることがない。そのため、既設杭Pの上端部にワイヤロープ5を巻きつけ易く、既設杭Pを容易に引き抜くことができる。
なお、特許請求の範囲に記載の「既設杭の上端部を把持して」とは、クレーンのワイヤロープ5や他の把持具で既設杭Pの上端部を掴むことを意味する。
【0024】
(全周回転式掘削機)
つぎに、全周回転式掘削機を用いた例について説明する。
図8(a)に示すように、本実施形態の全周回転式掘削機Bは、公知の全周回転式掘削機本体6と、その全周回転式掘削機本体6に挿入された上記ケーシング1とから構成される。
ここで、ケーシング1の後端には、カップリング16が取り付けられておらず、開口した状態となっている。また、ケーシング1として、後端に凸部15が設けられておらず、カップリング16が取り付けられない実施形態のものを用いてもよい。
【0025】
まず、バックホーなどで地表面を掘削して、地盤に埋設された既設杭Pの上端部を露出させ、全周回転式掘削機本体6をその中心が既設杭Pの軸心と同心になるように設置する。そして、全周回転式掘削機本体6に上記ケーシング1を挿入する。
【0026】
つぎに、ケーシング1を全周回転式掘削機本体6で回転させながら既設杭Pの外周の地盤に圧入していく(図6(2)参照)。
つぎに、ケーシング1が既設杭Pの先端より深く圧入されると、既設杭Pと地盤との摩擦がなくなり、既設杭Pが地盤から切り離される(図6(3)参照)。
つぎに、ケーシング1の深さを一定としたまま回転を継続させると、ケーシング1内の土砂がスクリュー羽根13の回転により上方に搬送される(図6(4)参照)。このとき、既設杭Pと土砂との摩擦力および既設杭Pとスクリュー羽根13との摩擦力により、土砂とともに既設杭Pも上方に搬送される。
【0027】
図8(b)に示すように、全周回転式掘削機Bを用いた場合には、ケーシング1の後端が開口した状態であるので、既設杭Pをケーシング1の後端から突出するまで上昇させることができる。ここで、既設杭Pの上端部にワイヤロープ5を巻きつけることができればよいため、既設杭Pはケーシング1の後端から50cm程度突出するまで上昇させられる。
【0028】
その後、ケーシング1の回転を停止し、ケーシング1の後端から突出した既設杭Pの上端部にクレーンのワイヤロープ5を巻きつけ、そのワイヤロープ5の巻き取りにより既設杭Pをケーシング1から引き抜く。
以上により、既設杭Pの引き抜きが完了する。
【0029】
このように、スクリュー羽根13の回転により、既設杭Pがケーシング1の後端から突出するまで上昇するので、既設杭Pの上端部が土砂に埋まることがない。そのため、既設杭Pの上端部にワイヤロープ5を巻きつけ易く、既設杭Pを容易に引き抜くことができる。
【0030】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、ケーシング1は長尺の1本の部材であるが、所定長さごとに分割、連結可能に構成し、既設杭Pの長さ寸法に合わせて、ケーシング1の長さ寸法を変更できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 ケーシング
11 突条
12 土排出窓
13 スクリュー羽根
14 掘削刃
15 凸部
16 カップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のケーシングであって、
該ケーシングの内周面に、先端から後端に渡る螺旋状のスクリュー羽根が設けられている
ことを特徴とする既設杭引き抜き装置用のケーシング。
【請求項2】
前記ケーシングの後端に、オーガと連結するカップリングが着脱可能に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載の既設杭引き抜き装置用のケーシング。
【請求項3】
前記スクリュー羽根は、その内周の半径が既設杭の半径より大きく、該スクリュー羽根の内周の半径と該既設杭の半径との差が、0mmより大きく30mm以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載の既設杭引き抜き装置用のケーシング。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の既設杭引き抜き装置用のケーシングを用いた既設杭の引き抜き工法であって、
前記ケーシングを回転させながら前記既設杭の外周に圧入し、
前記スクリュー羽根の回転により、前記既設杭の周囲の土砂とともに、該既設杭を前記ケーシングの後端まで上昇させ、
前記既設杭の上端部を把持して、該既設杭を該ケーシングから引き抜く
ことを特徴とする既設杭の引き抜き工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91939(P2013−91939A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233489(P2011−233489)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(304034934)株式会社村上組 (4)
【Fターム(参考)】