説明

既設構造体の支柱の嵩上げ方法、農業用温室の支柱の嵩上げ方法およびそれらに使用する継手部材

【課題】工事費用および工事期間が共に少なくてすむと共に、工事に必要とする部材の構造も簡易かつ安価な、既設構造体の支柱の嵩上げ方法およびそれに使用する継手部材を提供することを目的とする。
【解決手段】既設構造体10の支柱11を嵩上げする方法であって、(A)既設構造体10の支柱11を下部支柱21と上部支柱22とに切断する工程と、(B)前記支柱11に継手部材30を添えて該継手部材30を前記(A)工程で切断した支柱21,22の一方に固着する工程と、(C)前記上部支柱22を所定高さに持ち上げる工程と、(D)所定高さに持ち上げた状態で前記(B)工程で固着されていない方の支柱22または21を前記継手部材30に仮止めする工程と、(E)前記(A)〜(D)工程を前記構造体10の他の支柱11に順次施す工程と、(F)前記(C)〜(E)工程を既設構造体10の支柱11を所望高さ嵩上げするまで繰り返す工程と、を備える支柱11を嵩上げする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば農業用温室や農業用ハウス(以下「農業用温室」という)等の既設構造体の支柱を嵩上げするときに使用する既設構造体の支柱の嵩上げ方法、農業用温室の支柱の嵩上げ方法およびそれに使用する継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に農業用温室は、栽培する農作物や果樹等又は敷地面積等に応じて設計され建造される。しかし、後になって、栽培する農作物や果樹等を変更する場合や栽培方法の変更等によって、前記農業用温室の軒高さを高くする必要が生じる場合がある。例えば、トマトの多段収穫を行うために、内部空間(高さ空間)をさらに広げる必要が生じる場合や、また、特に夏場の温度管理に注意が必要な周年栽培を行うために、軒高さを上げて、煙突効果による換気効率を向上させる場合等である。
【0003】
このような場合には、一般的には、前記農業用温室を撤去して新たに設計した農業用温室を建造するのであるが、新たに立て替える場合は、撤去費用、工事費用及びそれらのための工事期間が必要となる。このような問題を解消するためには、既設の農業用温室の支柱を嵩上げすることによって、前記農業用温室の軒高さを高くする方法が考えられる。
【0004】
この支柱を嵩上げするための方法としては、例えば、特開平9−96126号公報に記載の方法が公知である。前記支柱の嵩上げ方法は、ゴルフ練習場のネット(既設構造体)用の支柱を嵩上げする方法であって、先ず、既設の支柱の側方に補助支柱を必要本数建て、次に、前記補助支柱各々の一部を既設の支柱に固定するとともに、前記補助支柱上に、別途用意した嵩上げ用構造体を固定して、前記支柱全体として嵩上げを行うのである。
【0005】
【特許文献1】特開平9−96126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特開平9−96126号公報に記載された支柱を嵩上げする方法は、前記補助支柱の下端を既設の支柱の基礎又はその近傍に固定する必要があり、この固定は基礎を作製する工事法により行なわれている。したがって、前記補助支柱を立設するためには基礎工事が必要であり、工事費用と工事期間が掛かると共に、その構成上、農業用温室等の構造体に適用できるものではない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、工事費用および工事期間が共に少なくてすむと共に、工事に必要とする部材の構造も簡易かつ安価な、既設構造体の支柱の嵩上げ方法およびそれに使用する継手部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の既設構造体の支柱の嵩上げ方法は、既設構造体の支柱を嵩上げする方法であって、(A)既設構造体の支柱を下部支柱と上部支柱とに切断する工程と、(B)前記支柱に継手部材を添えて該継手部材を前記(A)工程で切断した支柱の一方に固着する工程と、(C)前記上部支柱を所定高さに持ち上げる工程と、(D)所定高さに持ち上げた状態で前記(B)工程で固着されていない方の支柱を前記継手部材に仮止めする工程と、(E)前記(A)〜(D)工程を前記構造体の他の支柱に順次施す工程と、(F)前記(C)〜(E)工程を既設構造体の支柱を所望高さ嵩上げするまで繰り返す工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の既設構造体の支柱の嵩上げ方法にあっては、既設の構造体を維持したまま、支柱の嵩上げを行うことができると共に、これらに掛かる費用も安くてすみ、かつ工事期間の短縮化を図ることができる。
【0010】
請求項2に記載の農業用温室の支柱の嵩上げ方法は、請求項1に記載の既設構造体の支柱の嵩上げ方法を用いて農業用温室の支柱の嵩上げを行うことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の農業用温室の支柱の嵩上げ方法にあっては、既設の農業用温室の構造を維持したまま、支柱の嵩上げを行うことができると共に、これらに掛かる費用も安くてすみ、かつ工事期間の短縮化を図ることができる。
【0012】
請求項3に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材は、請求項1に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材であって、前記支柱を外方から固定できるように、少なくとも第一継手部材と第二継手部材とに分割してなると共に、前記第一継手部材と第二継手部材とは長手方向に複数のボルト孔を開設してなることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材にあっては、請求項3に記載の既設構造体を嵩上げする場合に使用する継手部材を、極めて容易かつ安価に製作することができる。
【0014】
請求項4に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材は、請求項3に記載の既設構造体を嵩上げする場合に使用する継手部材であって、前記第一継手部材および前記第二継手部材は夫々金属製のアングル部材から形成してなり、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定されてなることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材にあっては、前記第一継手部材および前記第二継手部材を夫々金属製のアングル部材から形成しているので、安価かつ容易に前記各継手部材を製造することができると共に、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定しているので、前記支柱を嵩上げする際には、前記上部支柱又は前記下部支柱が前記継手部材の中を摺動して上昇し、前記継手部材が嵩上げ時のガイドとして機能し、円滑な嵩上げを行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材は、請求項2に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材であって、前記支柱を外方から固定できるように、少なくとも第一継手部材と第二継手部材とに分割してなると共に、前記第一継手部材と第二継手部材とは長手方向に複数のボルト孔を開設してなることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材にあっては、請求項4に記載の農業用温室を嵩上げする場合に使用する継手部材を、極めて容易かつ安価に製作することができる。
【0018】
請求項6に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材は、請求項5に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材にあって、前記第一継手部材および前記第二継手部材は夫々金属製のアングル部材から形成してなり、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定してなることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材にあっては、前記第一継手部材および前記第二継手部材を夫々金属製のアングル部材から形成しているので、安価かつ容易に前記各継手部材を製造することができると共に、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定しているので、前記支柱を嵩上げする際には、前記上部支柱又は前記下部支柱が前記継手部材の中を摺動して上昇し、前記継手部材が嵩上げ時のガイドとして機能し、円滑な嵩上げを行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の既設構造体の支柱の嵩上げ方法によれば、既設の構造体を維持したまま、支柱の嵩上げを行うことができると共に、これらに掛かる費用も安くてすみ、かつ工事期間の短縮化を図ることができる。
【0021】
請求項2に記載の農業用温室の支柱の嵩上げ方法によれば、既設の農業用温室の構造を維持したまま、支柱の嵩上げを行うことができると共に、これらに掛かる費用も安くてすみ、かつ工事期間の短縮化を図ることができる。
【0022】
請求項3に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材によれば、請求項3に記載の既設構造体を嵩上げする場合に使用する継手部材を、極めて容易かつ安価に製作することができる。
【0023】
請求項4に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材によれば、前記第一継手部材および前記第二継手部材を夫々金属製のアングル部材から形成しているので、安価かつ容易に前記各継手部材を製造することができると共に、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定しているので、前記支柱を嵩上げする際には、前記上部支柱又は前記下部支柱が前記継手部材の中を摺動して上昇し、前記継手部材が嵩上げ時のガイドとして機能し、円滑な嵩上げを行うことができる。
【0024】
請求項5に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材によれば、請求項4に記載の農業用温室を嵩上げする場合に使用する継手部材を、極めて容易かつ安価に製作することができる。
【0025】
請求項6に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材によれば、前記第一継手部材および前記第二継手部材を夫々金属製のアングル部材から形成しているので、安価かつ容易に前記各継手部材を製造することができると共に、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定しているので、前記支柱を嵩上げする際には、前記上部支柱又は前記下部支柱が前記継手部材の中を摺動して上昇し、前記継手部材が嵩上げ時のガイドとして機能し、円滑な嵩上げを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0027】
図1は、本発明にかかる既設構造体の嵩上げ方法を実施する農業用温室の要部斜視図であり、図2は、同農業用温室の要部断面図であり、図3は、同農業用温室の概略平面図である。
【0028】
図1乃至図3において、10は、横方向(図1における矢印X方向)に六棟連設している連棟型の農業用温室であり、11は支柱である。
【0029】
該支柱11は角形鋼管により形成しており、下端にはボルト孔(図示せず)を2つ開設した長方形状の取付基板11aが溶接固定され、前記ボルト孔に、基礎Gに埋設されたボルトBを挿入してナットNで固定している(図4参照)。
【0030】
前記支柱11は、横方向に7本、奥行方向(図1における矢印Y方向)に10本を夫々立設しており、平面視においては、図3に示すように、横方向に7列(Y1列〜Y7列)、奥行き方向に10列(X1列〜X10列)になるように配置している。なお、例えば、図3において右下隅の支柱を示す場合は、前記列番号を使用して、支柱11(X1,Y1)と表示する。したがって、図3において、左下隅に配置される支柱は支柱11(X1,Y7)と表示する。
【0031】
前記支柱11の上部には、複数の合掌材12を頂部において山型となるように突合状態で奥行方向に向けて並設している。前記合掌材12の上面には、前記合掌材12と直交するように奥行方向に向けて、長尺状のもや材13が所定間隔を開けて複数本取り付けており、該もや材13の上には、垂木材(図示せず)が前記合掌材12と並行して架設されており、屋根面を支持している。また、前記合掌材12の頂部には、奥行方向に向けて、長尺状の棟材14を架設している。そして、前記突合状態の合掌材12,12間には陸梁15を架設している。
【0032】
以上のように構成された前記農業用温室10に対して、本発明に係る支柱の嵩上げ方法を用いて、軒高さを所望の高さ(本実施態様では100cm)嵩上げする場合について説明する。
【0033】
図4(a)は支柱の要部斜視図であり、(b)は支柱の要部拡大斜視図であり、(c)は支柱の平面図である。また、図5乃至図11は支柱を嵩上げする方法の手順を示す概略図である。
【0034】
先ず、図4に示すように、前記支柱11の下部に固定ボルト挿通孔11b、11bを開設し、その上方に固定ボルト挿通孔11c、11cを挿通する固定ボルトが下方の固定ボルトと直交する位置にて開設し、さらにその上方に固定ボルト挿通孔11d、11dを、挿通する固定ボルトが下方の固定ボルトと互いに直交する位置にて開設する。なお、各固定ボルト挿通孔11b、11c、11d間は、長手方向に10cmの等間隔を隔てて開設している。
【0035】
次に、図5に示すように、前記支柱11の固定ボルト挿通孔11dよりも上方の位置(図4における切断面S)で、エアープラズマ切断機等の切断手段を用いて水平方向に切断して、前記支柱11を下部支柱21と上部支柱22とに切離する。なお、図4(a)に示す切断面Sを前記支柱11の下方位置に設けると、後のボルト締結作業等を容易に行うことができると共に、継手(後述する継手部材30)を介在させた場合に、前記支柱11の安定性を増すことができる。
【0036】
次に、図6に示すように、継手部材30を、前記支柱11を抱持するように前記支柱11の外側から被せて前記下部支柱21にボルトとナットで固定する。
【0037】
前記継手部材30は、前記支柱11に外方から被せられるようにするため、第一継手部材31と第二継手部材32とに分割して構成している。前記第一継手部材31および第二継手部材32は、共に金属製のアングル部材で形成しており、補強ボルト挿通孔を、直交する各面に長手方向に20cm間隔となるように、かつ各面で互い違いとなるように開設している。すなわち、第一継手部材31には、一面に固定ボルト挿通孔31a、31bおよび補強ボルト挿通孔31c、31d、31e、31f、31g、31h、31iを、長手方向に夫々20cm間隔となるように9孔開設し、他面には固定ボルト挿通孔31mおよび補強ボルト挿通孔31n、31o、31p、31q、31r、31s、31tを長手方向に夫々20cm間隔となるように8孔開設しており、さらに前記固定ボルト挿通孔31aと31m、前記固定ボルト挿通孔31mと前記補強ボルト挿通孔31n等が夫々10cm間隔となるように開設し、第二継手部材32には、一面に固定ボルト挿通孔32a、32bおよび補強ボルト挿通孔32c、32d、32e、32f、32g、32h、32iを、長手方向に夫々20cm間隔となるように9孔開設し、他面には固定ボルト挿通孔32mおよび補強ボルト挿通孔32n、32o、32p、32q、32r、32s、32tを長手方向に夫々20cm間隔となるように8孔開設しており、さらに前記固定ボルト挿通孔31aと31m、前記固定ボルト挿通孔31mと前記補強ボルト挿通孔31n、・・・が夫々10cm間隔となるように開設している。
【0038】
そして、前述のように、第一継手部材31と第二継手部材32とを、前記支柱11に外側から被せて、前記固定ボルト挿通孔31a、11a、11a、32aを合致させて、固定ボルトBaを挿通しナットNで締結固定し、同様に固定ボルトBbを前記固定ボルト挿通孔31m、11b、11b、32mに挿通し、固定ボルトBcを前記固定ボルト挿通孔31b、11c、11c、32bに挿通し締結固定して、前記下部支柱21に前記継手部材30を固定するのである。
【0039】
以上の工程を残余の69本の前記支柱11に順次行うのである。図7乃至図9は、支柱の前記切断及び継手部材の固着工程の順番を示す概略平面図であり、図10は前記工程が終了した農業用温室の内方からの斜視図である。
【0040】
前記の各工程は、図7に示す矢印の方向に沿って、順次、前記支柱11(X1,Y1)から作業を始め、前記支柱11(X2,Y7)を経由して、前記支柱11(X10,Y7)で工程終了しても良いし、また、図8に示すように、前記支柱11(X1,Y1)および前記支柱11(X10,Y7)から、矢印の方向に沿って同時に作業を初めても良い。さらに、図9に示すように、前記支柱11(X1,Y1),11(X1,Y2),11(X1,Y3),11(X1,Y4),11(X1,Y5),11(X1,Y6)および11(X1,Y7)から同時に奥行方向に向けて作業を開始しても良く、必ずしも一カ所から作業を始める必要はなく、工事費用、工事工期、前記農業用温室の構造等を総合的に考慮して作業に取りかかる順番を定めれば良い。
【0041】
そして、図10に示すように、全ての前記支柱11に以上の工程を順次施したうえで、前記支柱11の嵩上げ工程を行うのである。図11は、持ち上げ手段により支柱を持ち上げた状態を示す農業用温室の内方からの斜視図である。図11において、TLは高所作業用の自走式テーブルリフターであって、該自走式テーブルリフターTLのテーブル上面に突き上げ部材40を載置し、該突き上げ部材40の上端を、持ち上げようとする前記支柱11の両側に位置する前記陸梁15,15の端部に宛い、前記自走式テーブルリフターTLのテーブルを上昇させることによって、前記支柱11を所定高さ持ち上げるのである。このとき、前記上部支柱22は前記継手部材30の内部を摺動するように上昇し、前記継手部材30は前記上部支柱22が上昇するためのガイドとして機能するのである。
【0042】
なお、前記所定高さとは、本実施形態においては10cmである。本実施形態では、嵩上げの所望高さは100cmであるが、一度に一本の支柱11を100cm持ち上げることは構造上困難であるため、前記農業用温室10の構造上許容できる範囲内(一度に一本の支柱11を持ち上げることのできる範囲内)の持ち上げ高さを、所定高さとして設定したものである。したがって、この所定高さは、10cmに限定することなく、前記農業用温室10の構造を考慮して、適宜の高さに設定すればよい。
【0043】
図12(a)は、支柱を一段階(すなわち、10cm)嵩上げした状態を示す斜視図であり、(b)は同要部断面図であり、(c)は、(b)のA−A断面図である。
【0044】
前述のように、前記支柱11を前記所定高さより少し上に上昇させた状態で、前記継手部材30の前記補強ボルト挿通孔31n,32nに補強ボルトBdを挿通させてナットNで締結固定する。そして、前記自走式テーブルリフターTLのテーブルを下降させると、前記上部支柱22の下端も下降して前記補強ボルトBdに抵触し、前記上部支柱22の下端が前記補強ボルトBdに係止した状態で仮止めするのである。すなわち、前記補強ボルトBdは、前記第一継手部材31と前記第二継手部材32とを連結固定して補強すると共に、前記上部支柱22を一段階(すなわち、10cm)嵩上げした状態で仮止めするストッパーとして機能するのである。そして、この工程を、残余の69本の前記支柱11に順次施すのである。なお、本工程を施す順序についても、前述の順序と同様である。なお、作業工程としては、前記切断工程と前記継手部材30の取付工程と前記支柱11の一段階嵩上げを行ってから、次の前記支柱11に取りかかっても良い。
【0045】
図13(a)は支柱を二段階嵩上げした状態を示す斜視図であり、(b)は同要部断面図である。前記各支柱11,11・・・を一段階嵩上げした状態から、さらに一段階(10cm)嵩上げを行う。この場合も、前述と同様に、前記自走式テーブルリフターTLのテーブル上面に突き上げ部材40を載置し、該突き上げ部材40の上端を持ち上げようとする前記支柱11の両側に位置する前記陸梁15,15の端部に宛い、前記自走式テーブルリフターTLのテーブルを上昇させて、前記支柱11を所定高さ持ち上げ、前記継手部材30の前記補強ボルト挿通孔31c,32cに補強ボルトBeを挿通させてナットNで締結固定する。そして、前記自走式テーブルリフターTLのテーブルを下降させると、前記上部支柱22の下端も下降して前記補強ボルトBeに抵触し、前記上部支柱22の下端が前記補強ボルトBeに係止した状態で仮止めするのである。そして、この工程を、残余の69本の前記支柱11に順次施すのである。なお、本工程を施す順序についても、前述の順序と同様である。
【0046】
このようにして、十段階の嵩上げ工程を繰り返して、全ての前記支柱11について所望の高さ(100cm)の嵩上げを行うのである。図14(a)は支柱を十段階に嵩上げした状態を示す斜視図であり、(b)は同要部断面図である。図14に示すように、補強ボルトBd,Be,Bf,Bg,Bh,Bi,Bm,Bn,Bo,Bp,Bqを夫々締結固定して十段階の嵩上げ工程を終えた後には、前記上部支柱におけるの前記継手部材30の固定ボルト挿入孔31h,32hと31t,32tと31i,32iに対応する位置に、夫々固定ボルト挿入孔(図示せず)を開設して、前記固定ボルト挿入孔31h,32hと31t,32tと31i,32iに夫々固定ボルトBr,Bs,Btを挿入し、ナット(図示せず)で締結固定するのである。
【0047】
図15は、全ての支柱について所望の高さの嵩上げを終了した農業用温室の内方からの斜視図である。図15に示すように、全ての支柱について所望の高さ(100cm)の嵩上げを終了すると、これによって、前記農業用温室10の軒高さも100cm上昇することとなり、工事費用を安く、かつ工事期間の短縮も図れ、また、前記の工程で使用する前記継手部材30も、金属製のアングル材に所定間隔のボルト挿通孔(固定ボルト挿通孔および補強ボルト挿通孔)を複数開設するだけで製作でき、極めて容易かつ安価に製作できるのである。
【0048】
なお、前述の前記支柱11の切断工程を行う前に、予め、前記自走式テーブルリフターTLを前記陸梁15,15の端部に宛い支持し、前記取付基板11aのボルトを緩めて、2cm程度前記支柱11を持ち上げておくと、前記支柱11の切断によって前記上部支柱22がずり落ちることなく、また、前記農業用温室10が前記支柱11の切断によって、歪むこともない。
【0049】
また、前述の工程において、前記継手部材30は、前記下部支柱21に固定したが、前記上部支柱22に固定するようにしても良い。
【0050】
また、前記継手部材30は、第一継手部材31と第二継手部材32とに分割して構成したが、前記第一継手部材31と第二継手部材32とを、例えば蝶番等の連結部材で連結してもよい(図示せず)。この場合においては、前記継手部材30の前記支柱11に対する外嵌固定作業が容易となる。
【0051】
さらに、前記自走式テーブルリフターTLは、前記陸梁15,15の端部に宛い支持するように配置したが、これに拘らず、他の箇所、例えば、合掌材12やもや材等に固定しもよく、また、固定する際には、スペーサー(図示せず)を介在させても良い。
【0052】
また、使用する前記継手部材は、図16に示すような他の継手部材を使用してもよい。図16に示す継手部材40は、チャネル材を使用して構成したものであり、第一継手部材41は、前記支柱11の外周の三方を抱持する大きさ形状で形成しており、第二継手部材42は、前記支柱11の外周の一方と前記第一継手部材41の両側板を抱持する大きさ形状で形成している。
【0053】
さらに、前記継手部材40は、前記支柱11が円柱である場合では、断面半円形状のもの(図示せず)を用意すればよく、前記支柱の形状等に応じて製作すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる既設構造体の嵩上げ方法を実施する農業用温室の要部斜視図である。
【図2】同農業用温室の要部断面図である。
【図3】同農業用温室の概略平面図である。
【図4】図4(a)は支柱の要部斜視図であり、(b)は支柱の要部拡大斜視図であり、(c)は支柱の平面図である。
【図5】支柱を嵩上げする方法の手順を示す概略図である。
【図6】支柱を嵩上げする方法の手順を示す概略図である。
【図7】支柱の切断及び継手部材の固着工程の順番を示す概略平面図である。
【図8】支柱の切断及び継手部材の固着工程の順番を示す概略平面図である。
【図9】支柱の切断及び継手部材の固着工程の順番を示す概略平面図である。
【図10】支柱の切断及び継手部材の固着工程工程が終了した農業用温室の内方からの斜視図である。
【図11】持上げ手段により支柱を持ち上げた状態を示す農業用温室の内方からの斜視図である。
【図12】図12(a)は支柱を一段階(すなわち、10cm)嵩上げした状態を示すは斜視図であり、(b)は同要部断面図であり、(c)は(b)のA−A断面図である。
【図13】図13(a)は支柱を二段階嵩上げした状態を示す斜視図であり、(b)は同要部断面図である。
【図14】図14(a)は支柱を十段階に嵩上げした状態を示す斜視図であり、(b)は同要部断面図である。
【図15】全ての支柱について所望の高さの嵩上げを終了した農業用温室の内方からの斜視図である。
【図16】他の継手部材を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 農業用温室
11 支柱
11a 取付基板
11b〜11d 固定ボルト挿入孔

12 合掌材
13 もや材
14 棟材
15 陸梁

21 下部支柱
22 上部支柱

30 継手部材
31 第一継手部材
32 第二継手部材

31c、31d、31e、31f、31g、
31h、31i、31n、31o、31p、
31q、31r、31s、31t、32c、
32d、32e、32f、32g、32h、
32i、32n、32o、32p、32q、
32r、32s、32t 補強ボルト挿通孔

31a、31b、31m、32a、32b、
32m 固定ボルト挿通孔

40 他の継手部材
41 他の第一継手部材
42 他の第二継手部材

G 基礎
S 切断面
B ボルト
Ba、Bb、Bc、Br、Bs、Bt 固定ボルト

Bd、Be、Bf、Bg、Bh、Bi、
Bm、Bn、Bo、Bp、Bq、Br、
Bs、Bt 補強ボルト

N ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造体の支柱を嵩上げする方法であって、
(A)既設構造体の支柱を下部支柱と上部支柱とに切断する工程と、
(B)前記支柱に継手部材を添えて該継手部材を前記(A)工程で切断した支柱の一方に固着する工程と、
(C)前記上部支柱を所定高さに持ち上げる工程と、
(D)所定高さに持ち上げた状態で前記(B)工程で固着されていない方の支柱を前記継手部材に仮止めする工程と、
(E)前記(A)〜(D)工程を前記構造体の他の支柱に順次施す工程と、
(F)前記(C)〜(E)工程を既設構造体の支柱を所望高さ嵩上げするまで繰り返す工程と、
を備えることを特徴とする既設構造体の支柱の嵩上げ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既設構造体の支柱の嵩上げ方法を用いて農業用温室の支柱の嵩上げを行うことを特徴とする農業用温室の支柱の嵩上げ方法。
【請求項3】
請求項1に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材であって、
前記支柱を外方から固定できるように、少なくとも第一継手部材と第二継手部材とに分割してなると共に、
前記第一継手部材と前記第二継手部材とは夫々長手方向に複数のボルト孔を開設してなることを特徴とする既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材。
【請求項4】
前記第一継手部材および前記第二継手部材は夫々金属製のアングル部材から形成してなり、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定してなることを特徴とする請求項3に記載の既設構造体の嵩上げ方法に使用する継手部材。
【請求項5】
請求項2に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材であって、
前記支柱を外方から固定できるように、少なくとも第一継手部材と第二継手部材とに分割してなると共に、
前記第一継手部材と前記第二継手部材は夫々長手方向に複数のボルト孔を開設してなることを特徴とする農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材。
【請求項6】
前記第一継手部材および前記第二継手部材は夫々金属製のアングル部材から形成してなり、前記第一継手部材および前記第二継手部材とで前記支柱を外嵌抱持しボルトによって前記支柱に締結固定してなることを特徴とする請求項5に記載の農業用温室の嵩上げ方法に使用する継手部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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