説明

既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井

【課題】老朽化し、強度の低下した既設集水井を解体することなく設置した状態で更生することができる既設集水井の更生工法を提供すること。
【解決手段】既設集水井1の内側に空間をあけて合成樹脂製の更生管2を立設する更生管設置工程と、更生管2の管壁を貫通する延長集水管21を既設集水井1の集水管11に接続する延長集水管延設工程と、既設集水井1と更生管2の間の空間に充填材3を打設する充填材打設工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化し、強度の低下した既設集水井を解体することなく設置した状態で更生するようにした既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地すべりの原因となる地盤中の地下水を取り除くために、地すべりが起こりやすい地盤に集水井を構築して地下水を集め、河川等に放水する集水井工が用いられている(例えば、特許文献1−2参照。)。
この集水井工は、通常、鋼製のライナープレートによって坑壁の崩壊を防止して直径3m以上の縦坑を掘削し、この掘削した縦坑内からライナープレートを貫通して集水管を設置し、この集水管を介して地盤中の地下水を集水井に集め、集水井から排水管等を通して河川等に放水するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−184094号公報
【特許文献2】特開2008−19679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のとおり、従来の集水井は、鋼製のライナープレートからなるため、経年変化による腐食によって強度が低下し、坑壁の崩壊によって集水井の機能を果たせなくなる等の問題があった。
【0005】
このように強度が低下した集水井の更生方法として、強度が低下したライナープレートを新しいライナープレートに交換することが考えられるが、地すべりが起こりやすい軟弱な地盤に構築されている集水井の強度が低下したライナープレートの交換は、安全性の点で問題があった。
また、集水井の内側に必要な強度を有する鋼管やコンクリート管からなる更生管を設置することも考えられるが、この工事は、地すべりが起こりやすい軟弱な地盤に大型の重機を持ち込んで行う必要があるという工事上の問題や、既設の集水井よりも内径が縮小する更生管を貫通して集水管を設置することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の既設集水井の実情に鑑み、老朽化し、強度の低下した既設集水井を解体することなく設置した状態で更生することができる既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の既設集水井の更生工法は、既設集水井の内側に空間をあけて合成樹脂製の更生管を立設する更生管設置工程と、該更生管の管壁を貫通する延長集水管を既設集水井の集水管に接続する延長集水管延設工程と、既設集水井と更生管の間の空間に充填材を打設する充填材打設工程とからなることを特徴とする。
【0008】
この場合において、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を、1サイクルとして、複数サイクル繰り返すことにより、1つの既設集水井を更生することができる。
【0009】
また、更生管に、形状保持可能な自立型の管材を用いることができる。
【0010】
また、更生管の管壁の既設集水井の集水管に対応する位置に現場で貫通孔を形成するようにすることができる。
【0011】
また、既設集水井の集水管を更生した後、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を実施するようにすることができる。
【0012】
また、本発明の更生集水井は、上記既設集水井の更生工法によって構築されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井は、以下の利点を有する。
(1)老朽化し、強度の低下した既設集水井を解体することなくそのまま設置した状態で更生することができるため、工事の安全性が高い。
(2)合成樹脂製の更生管は、鋼管やコンクリート管からなる更生管と比較して著しく軽量であるため、地すべりが起こりやすい軟弱な地盤に大型の重機を持ち込んで工事を行う必要がなく、また、経年変化による腐食に強く、耐久性がある。
(3)更生管の管壁を貫通する延長集水管を既設集水井の集水管に接続することにより、既設の集水井よりも内径が縮小する更生管を用いても、集水管を容易に設置することができ、また、既設集水井と更生管の間の空間に打設する充填材層の厚さを更生管と合わせて必要な強度を発揮する任意の厚さに設定することができる。
(4)更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を、1サイクルとして、複数サイクル繰り返すことができ、これにより、深度の大きい既設集水井を容易に更生することができる。
(5)更生管に形状保持可能な自立型の管材を用いることにより、充填材打設のための補強工事が必要なく、仮設工を作業足場等の簡易な構造のものとすることができる。
(6)合成樹脂製の更生管は、更生管の管壁の既設集水井の集水管に対応する位置に現場で貫通孔を形成するようにすることができ、既設集水井に容易に対応することができる。
(7)既設集水井の集水管を更生(清掃及び補強並びに新設を含む。)した後、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を実施するようにすることにより、集水井の集水機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1−1】本発明の既設集水井の更生工法の作業工程の一実施例を示す説明図である。
【図1−2】本発明の既設集水井の更生工法の作業工程の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の既設集水井の更生工法に使用する合成樹脂製の更生管の一例を示し、(a)は全体説明図、(b)は接合部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、本発明の既設集水井の更生工法の作業工程の一実施例を示す。
この既設集水井の更生工法は、既設集水井1の内側に空間をあけて合成樹脂製の更生管2を立設する更生管設置工程と、該更生管2の管壁を貫通する延長集水管21を既設集水井1の集水管11に接続する延長集水管延設工程と、既設集水井1と更生管2の間の空間に充填材3を打設する充填材打設工程とからなる。
【0017】
この既設集水井の更生工法においては、更生管設置工程に先だって、図1−1(1)及び(2)に示す前処理工程において、既設集水井1の更生に障害となる既設集水井1のタラップ等の付帯設備12を撤去し(集水管11については、長さを整えるとともに、端部に延長集水管21との接続のためのソケットを取り付けておく。)、既設集水井1の底部を掘削し、コンクリートを打設することにより更生管2を立設するための基礎4を構築する。
この場合、測量によって既設集水井1の集水管11の位置等の詳細な内部構造を測定するとともに、集水管11の目詰まりや破損状況を確認し、逆洗等を行うことによって集水管11の目詰まりを解消したり、新たな集水管11を敷設することにより、集水管11の更生を行うことができ、これにより、集水井の集水機能を高めることができる。
そして、このように、老朽化し、強度の低下した既設集水井1を解体することなく、ライナープレートをそのまま設置した状態(既設集水井1の上部のライナープレートについては、後述の上部覆蓋23を設置する関係等から撤去する場合がある。)で更生することができるため、工事の安全性が高いものとなる。
【0018】
次に、図1−1(3)に示す更生管設置工程及び延長集水管延設工程において、基礎4の上に既設集水井1の内側に空間をあけて合成樹脂製の更生管2を立設する。
更生管2には、形状保持可能な自立型の管材を用いることにより、充填材打設のための補強工事が必要なく、仮設工5を作業足場等の簡易な構造のものを更生管2の内側に設置することに止めることができ、仮設工5の組み立て及び解体を簡易に行うことができる。
ここで、合成樹脂製の更生管2は、鋼管やコンクリート管からなる更生管と比較して著しく軽量であるため、地すべりが起こりやすい軟弱な地盤に大型の重機を持ち込んで工事を行う必要がなく、また、経年変化による腐食に強く、耐久性がある。
【0019】
合成樹脂製の更生管2には、既存の合成樹脂製の管を使用することができるが、図2に示す耐圧ポリエチレンリブ管(JISK6780)(ハウエル管。例えば、大日本プラスチックス社製ハウエル管)を好適に用いることができる。
この耐圧ポリエチレンリブ管は、中空リブ構造を有することによって剛性と軽量性を兼ね備えたもので、必要に応じて、繊維強化したものを用いることができる。
また、耐圧ポリエチレンリブ管は、ゴム製のガスケット2aのほか、溶接、エレクトロフュージョン等によって接合することができ、深度の大きい既設集水井1にも容易に対応することができる。
【0020】
延長集水管延設工程は、前処理工程において測量によって測定した既設集水井1の集水管11の位置に、更生管2の管壁に削孔を行い(合成樹脂製の更生管2は、現場で削孔を行うことが可能で、更生管2の管壁の既設集水井1の集水管11に容易に対応することができるが、削孔を工場で事前に行うこともできる。)、更生管2の管壁を貫通させて延長集水管21を敷設し、既設集水井1の集水管11に接続する。
この場合において、削孔箇所の位置出しは、前処理工程において行った測量の測定結果を利用するほか、地上に計測機器を据え付け、更生管2の上端が計測できる位置まで立ち上がった状態で、更生管2の立設位置の計測を行い、既設集水井1の集水管11と更生管2が重なるポイント(削孔箇所)の座標を算出し、当該ポイントにマーキングを施し、削孔を行うようにする。
既設集水井1の集水管11と延長集水管21の接続は、事前に集水管11の端部にソケットを取り付けておくことによって、更生管2の内側から延長集水管21を操作することによって行うことができる。
また、更生管2の管壁を貫通させて敷設した延長集水管21を、汎用の仕舞い部材を用いて更生管2の管壁に固定するようにする。
このように、更生管2の管壁を貫通する延長集水管21を既設集水井1の集水管11に接続することにより、既設の集水井1よりも内径が縮小する更生管2を用いても、延長集水管21を容易に設置することができ、また、既設集水井1と更生管2の間の空間に打設する充填材層の厚さを更生管2と合わせて必要な強度を発揮する任意の厚さに設定することができる。
【0021】
次に、図1−2(4)に示す充填材打設工程において、既設集水井1と更生管2の間の空間に充填材注入プラント6を用いて充填材3を打設する。
充填材3の打設は、更生管2が浮力を受けて浮き上がらないように、数回に分けて行うようにすることが望ましい。
充填材3には、コンクリート、エアーモルタル、セメントベントナイト等の任意の充填材を使用することができる。
また、充填材3の強度を補強するために、延長集水管21の敷設に先だって、既設集水井1と更生管2の間の空間に鉄筋籠(図示省略)を設置することもできる。
【0022】
次に、図1−2(5)に示す仕上げ工程において、仮設工5を解体、撤去するとともに、タラップ、中間ステージ等の付帯設備22及び上部覆蓋23を設置して工事を完了する。
【0023】
なお、本実施例においては、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程をそれぞれ1回の施工で完了するようにしたが、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を、1サイクルとして、複数サイクル繰り返すこともできる。
これにより、深度の大きい既設集水井1を容易に更生することができる。
【0024】
以下、既設集水井1と、合成樹脂製の更生管2との関係について、より具体的な実施例に基づいて説明する。
・既設集水井1の径:φ3500、φ3000
・合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)の呼び径:φ2400、φ2000
・合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)の外径:2700mm(φ2400)、2300mm(φ2000)
・合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)の長さ:5m、2m、1.5m
・合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)の重量:2600〜500kg
・合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)の自立高さ:18m(φ2400)、50m(φ2000)
【0025】
次に、構造計算(座屈及び圧縮力)の検討結果の一例を示す。
(1)座屈
(1−1)充填材の注入完了時
円環が等分布荷重を受けた時の許容座屈荷重qaは、次式によって算出する。
側圧に対しては、合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)及び充填材3によって支持するとして計算する。
qa=2×(EP×IP十EC×IC)/r
qa:許容座屈荷重
EP:合成樹脂製の更生管2(大日本プラスチックス社製ハウエル管)のヤング係数 9.8×10(kN/m
IP:ハウエル管の断面二次モーメント
管厚t=0.086(m)
I=t/12 5.31×10−5(m/m)
EC:充填材3のヤング係数10×10(kN/m
IC:裏込充填材の断面二次モーメント
管厚t=(2.8−2.4−0.086×2)/2=0.11(m)
I=t/12 1.11×10−4(m/m)
r:立坑半径(ハウエル管の内径1/2) 1.2(m)
qa=2×(9.8×10×5.31×10−5+10×10×1.11×10−4)/(1.2)=188.7(kN/m
Ph:設計側圧 155(kN/m
許容座屈荷重qaが設計側圧Phよりも大きいため、構造計算(座屈)を満足する。
(1−2)充填材の注入時
Pc:充填材3の側圧(kN/m
H:充填材3の打設高さ 15(m)
γc:充填材3の比重 11(kN/m
Pc=H×γc=15×11=165(kN/m
qa=2×(9.8×10×5.31×10−5)/(1.2)=60.22(kN/m
許容座屈荷重qaが充填材3の側圧Pcよりも小さいため、構造計算(座屈)を満足しない。
よって、充填材3の1回の打設高さH2の上限は、
H2=qa/γc=5.47(m)となる。
(2)圧縮力
N=Ph×r
N:軸力(kN/m)
Ph:設計側圧155(kN/m
r:立坑半径(ハウエル管の内径1/2) 1.2(m)
N=155×1.2=186(kN/m)
ハウエル管の圧縮応力度の検討
σ1=N/A1≦σ0
σ1:ハウエル管の圧縮応力度
N:軸力 186×10(kN/m)
σ0:ハウエル管の許容応力度 16.2(N/mm
A1:ハウエル管の断面積 86×10(mm
σ1=186/86=2.16(N/mm
ハウエル管の曲げ降伏応力 32.4(N/mm
ハウエル管の圧縮応力度σ1がハウエル管の曲げ降伏応力の1/2よりも小さいため、構造計算(圧縮力)を満足する。
【0026】
以上、本発明の既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の既設集水井の更生工法及び該工法によって構築された更生集水井は、老朽化し、強度の低下した既設集水井を解体することなく設置した状態で更生することができることから、老朽化し、強度の低下した既設集水井を更生する用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 既設集水井
11 集水管
12 付帯設備
2 更生管
2a ガスケット
21 延長集水管
22 付帯設備
23 上部覆蓋
3 充填材
4 基礎
5 仮設工
6 充填材注入プラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設集水井の内側に空間をあけて合成樹脂製の更生管を立設する更生管設置工程と、該更生管の管壁を貫通する延長集水管を既設集水井の集水管に接続する延長集水管延設工程と、既設集水井と更生管の間の空間に充填材を打設する充填材打設工程とからなることを特徴とする既設集水井の更生工法。
【請求項2】
更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を、1サイクルとして、複数サイクル繰り返すことにより、1つの既設集水井を更生することを特徴とする請求項1記載の既設集水井の更生工法。
【請求項3】
更生管に、形状保持可能な自立型の管材を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の既設集水井の更生工法。
【請求項4】
更生管の管壁の既設集水井の集水管に対応する位置に現場で貫通孔を形成するようにすることを特徴とする請求項1、2又は3記載の既設集水井の更生工法。
【請求項5】
既設集水井の集水管を更生した後、更生管設置工程、延長集水管延設工程及び充填材打設工程を実施するようにすることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の既設集水井の更生工法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の既設集水井の更生工法によって構築された更生集水井。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−202120(P2012−202120A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67985(P2011−67985)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(505354095)タキロンエンジニアリング株式会社 (5)
【出願人】(502003574)株式会社エムテック (5)