説明

日内リズム正常化組成物

【課題】 概日リズムを調整するための新規な組成物の提供。
【解決手段】 アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概日リズムの調整に関する組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする生体が持つさまざまな機能は、ある限られた範囲内で増殖し、その変動は規則正しい周期性が認められる。それらは一般に生体リズムと総称されている。生体リズムの中で最も基本的なものは、ほぼ1日を周期とする変動であって概日リズムと呼ばれる。概日リズムはまた、生体自身がそなえている「自律的に時を測る仕組み」、いわゆる内因性の時計機構(生物時計、体内時計とも呼ばれる)によって働かされる内因性のリズムであり、生体をとりまく外界の物理的変化(地球の自転並びに公転に伴う昼夜の別、気温、湿気、気圧の変化など)に全面的に依存して生じる外因性リズムとは区別される。
両者は外界からの影響因子を可能な限り取り除いた場合、それでもなおリズムが存在するかどうかで見分けることができる。外界から隔離された実験室など環境の周期性の影響が及ばないところではヒトは24時間より長い周期を示す。この周期をフリーラン周期といい、内因性周期又は体内時計と考える(ヒトのフリーラン周期は24.2時間)。
【0003】
24時間とは異なるフリーラン周期をもつ体内時計が、外界の物理的変化に同調して、一般には昼夜変化に一致して24時間周期となり、これをリズム同調といい、得られた24時間周期のリズムを日内リズムという。ただし、リズム同調は単に周期が一致して24時間になるということだけでなく、より重要なことは、体内時計の特定位相と環境周期の特定位相に1対1の時間的関係を確立することである。例を挙げると、動物の活動期の開始時間は体内時計によって決められている。昼行性動物ではリズム同調によって、環境周期の特定位相である日の出と体内時計に特定位相である活動期の開始時間が一致する。
【0004】
日内リズムは、単純に睡眠や食事だけでなく、体温、血圧、心拍、内分泌の多くにみられ、心・血管系の病気の治療・予防において自律神経系、内分泌系、血行動態等の日内リズムを理解し正常に保つことが重要であるとされている。交代勤務、長距離のジェット飛行、高齢化社会、生活様式の多様化などによる人為的で不規則な生活が恒常化しつつある現代社会にあって、日内リズム睡眠障害をはじめとする生体リズム障害に起因した種々の疾患が急速に増加しており、その有効な治療対策が急がれている。
【0005】
日内リズムの乱れによる非同期症候群(時差ぼけ)では、夜に不眠に陥り、昼に睡魔に襲われるばかりでなく、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢に悩まされ、判断力・集中力低下の症状が現れる。また睡眠相後退症候群 (DSPS) は思春期での発病率が最も高く(Diagnostic Classification Steering Committee, Thorpy M J: International Classification of Sleep Disorders : Diagnostic and Coding Manual. American Sleep Disorders Association, Rochester, 1990)、こうした若年者での日内リズム睡眠障害は社会適応を困難にし、患者の有する能力の発揮を阻害する(Kajimura N et al:日本臨床, Vol.56, No.2, p.404, 1998)。
【0006】
このような症状をもたらす日内リズムの乱れを調節する方法として、精神療法的アプローチ、非薬物療法、薬物療法がある。非薬物療法には高照度光照射があり、現在では、季節性感情障害や日内リズム睡眠障害の治療に積極的に用いられている。薬物療法に用いられる睡眠薬には、バルビツール系、非バルビツール系、ベンゾジアゼピン系に大きく分けることができる。バルビツール系薬剤は強い睡眠誘導作用がある反面、治療域と中毒域が接近していることから、血中濃度の上昇に伴い呼吸中枢・血管中枢抑制作用が強くなり、使用に注意が必要となる。
【0007】
非バルビツール系薬剤では、呼吸抑制、吐き気、嘔吐、昏眠を生じ、依存を誘発する危険性がある。そこで、現在ではベンゾジアゼピン系薬剤が安全性の面で主流となっているが、抗不安作用、抗痙攣作用、筋弛緩作用などの副作用が発現すると考えられている。また、睡眠、ふらつき、めまい、倦怠感、脱力感が残る「持ち越し効果」や「健忘作用」を強く発現することが知られており、その使用には十分な注意が必要である。つまり、安全で有効な日内リズムの正常化作用を持つ優れた化合物がないのが現状である。ただし、睡眠薬は睡眠を誘導するだけであって、概日リズムの同調作用はない。例えば、概日リズムを同調すれば時差ボケ状態を解消することができるが、睡眠薬では解消することができない。
【0008】
概日リズムを同調させる化合物としてメラトニンが期待されている。メラトニンは主に松果体で産生されるホルモンで、その産生は著明な日内変動を示す。夜間の産生量は日中の50〜100倍にも達する。
【0009】
夜間のメラトニン分泌をβ−ブロッカー投与により抑制すると、夜間の中途覚醒の増加などの睡眠の低質化(Brismar et. al.: Acta. Med. Scand., 223, p.525, 1988)および日中の覚醒水準の低下(Dimenas et. al.: J. Clin. Pharmacol., 30, s103, 1990)など睡眠・覚醒リズム障害が生じる。老年者の睡眠障害の背景にはメラトニン分泌の減少があり、メラトニン補充療法が有効(Garfinkel et. al.: Lancet, 346, p.541, 1995)とされている。また、メラトニンの生理的分泌が低下する高齢者でも、良眠できる高齢者にはメラトニンの分泌量が多い(Haimov et. al.: Sleep. 18, p.598, 1995)。このような事実から内因性メラトニンは睡眠・覚醒リズムの調節に関与する生理的な催眠物質であるとされている。
【0010】
したがって、概日リズムの同調を目的に、外因性メラトニンによる催眠作用について、多様な結果が報告されている。しかし、メラトニンの投与により入眠潜時の短縮、中途覚醒の減少、不眠の改善等の睡眠良質化がみとめられたとする報告(Zhdanova et. al.: Clin. Pharmacol. Ther., 57, p.552, 1995)がある一方で、睡眠調節効果、睡眠障害改善効果を否定する報告(James et. al.: Neuropsychopharmacology, 3, p.19, 1990)もある。
【0011】
【非特許文献1】Brismar et. al.: Acta. Med. Scand., 223, p.525, 1988
【非特許文献2】Dimenas et. al.: J. Clin. Pharmacol., 30, s103, 1990
【非特許文献3】Garfinkel et. al.: Lancet, 346, p.541, 1995
【非特許文献4】Haimov et. al.: Sleep. 18, p.598, 1995
【非特許文献5】Zhdanova et. al.: Clin. Pharmacol. Ther., 57, p.552, 1995
【非特許文献6】James et. al.: Neuropsychopharmacology, 3, p.19, 1990
【発明の開示】
【0012】
これら相対する結果が得られた理由の一つに、投与時刻依存性が指摘されており(Mishima: 日本臨床, Vol.56, No.2, p.302, 1998)、投与時刻に依存しない、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する化合物は全く知られていない。
したがって、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調を促進させ、医薬、さらには食品への適応に優れた副作用の少ない化合物の開発が強く望まれている。
【0013】
従って本発明は、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を有効成分とする、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する飲食品及びその製造方法を提供しようとするものである。より詳細には、アラキドン酸、アラキドン酸のアルコールエステル並びに構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質及び糖脂質の群から選ばれた少なくとも1種を有効成分とする日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害、睡眠障害、睡眠相後退症候群、さらに、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに対する障害(時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下)の改善作用を有する飲食品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0014】
本発明者等は、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物の、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を明らかにする目的で鋭意研究した結果、ラットの概日リズムの同調に及ぼす効果を評価することで、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物の効果を行動薬理で明らかにした。
さらに、本発明等は、アラキドン酸を10重量%以上含有するトリグリセリドの微生物による工業生産に成功し、本発明の効果試験に供することが可能となり、該トリグリセリドの効果を明らかにした。
【0015】
さらに、本発明者等は、酵素法により1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを含む油脂を製造することに成功し、本発明の効果試験に供することが可能となり、該トリグリセリドの効果を明らかにした。
従って本発明は、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を有効成分とする、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する飲食品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0016】
より詳細には、アラキドン酸、アラキドン酸のアルコールエステル並びに構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質及び糖脂質の群から選ばれた少なくとも1種を有効成分とする日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害、睡眠障害、睡眠相後退症候群、さらに、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに対する障害(時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下)の改善作用を有する飲食品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0017】
本発明により、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を有効成分とする、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する飲食品及びその製造方法を提供しようとすることができ、現代社会の人類において特に有用である。
【0018】
従って本発明は、(1)アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物を提供する。前記のアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物は、好ましくはアラキドン酸のアルコールエステル又は構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸である、トリグリセリド、リン脂質もしくは糖脂質である。この構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドは、好ましくは、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドである。前記の中鎖脂肪酸は、好ましくは、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものであり、例えば、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれる。
【0019】
本発明はまた、(2)構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドを含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物を提供する。前記構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドの、アラキドン酸の割合は、好ましくは、トリグリセリドを構成する全脂肪酸に対して10重量%以上である。前記構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドは、好ましくはモルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物から抽出したものである。前記構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドは、好ましくは、エイコサペンタエン酸を含まない又は含んだとしても1%以下のトリグリセリドである。
【0020】
本発明は更に、(3)1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを5モル%以上含有するトリグリセリドを含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物を提供する。前記中鎖脂肪酸は、好ましくは、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものであり、例えば、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれたものである。
【0021】
上記(1)〜(3)の組成物は、好ましくは、日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害の予防又は改善作用を有する。この生体リズム障害としては、例えば睡眠障害、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに対する障害、概日リズム(生物時計)の同調の遅れによる時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下、睡眠相後退症候群、などが挙げられる。
【0022】
上記(1)〜(3)の組成物の形態としては、例えば、食品組成物又は医薬組成物が挙げられる。成人1日当たりの摂取量は、好ましくは、アラキドン酸量に換算して0.001〜20gである。アラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物は、好ましくは、アラキドン酸のアルコールエステル又は構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸である、トリグリセリド、リン脂質もしくは糖脂質である。前記の構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドは、好ましくは、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドである。この中鎖脂肪酸は、好ましくは、炭素数6〜12個を有する脂肪酸、例えば炭素数8個を有する脂肪酸である。
【0023】
本発明はまた、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを0.001重量%以上含有することを特徴とする食品組成物を提供する。前記の中鎖脂肪酸は、好ましくは、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれ、例えば炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれる。この食品組成物は、例えば、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品又は老人用食品である。
【0024】
本発明はまた、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物の製造方法であって、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を単独で、あるいはアラキドン酸を実質的に含有しない、あるいは含有していても僅かな量である食品原料とともに配合することを特徴とする食品組成物の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含む、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する飲食品及びその製造方法に関するものである。
【0026】
本発明の組成物は、日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害、睡眠障害、睡眠相後退症候群、さらに、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに起因する障害(時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下)の予防又は改善作用を有し、飲食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、乳幼児用食品、老人用食品医薬品、医薬部外品などとして有効である。
【0027】
本発明の有効成分としては遊離のアラキドン酸の他に、アラキドン酸を構成脂肪酸とするすべての化合物も利用することができる。アラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物には、アラキドン酸塩、例えばカルシウム塩、ナトリウム塩などを挙げることができる。また、アラキドン酸のアルコールエステル、例えばアラキドン酸メチルエステル、アラキドン酸エチルエステルなどを挙げることができる。また、構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、さらには糖脂質などを利用することができる。
【0028】
食品への適応を考えた場合には、アラキドン酸はトリグリセリドやリン脂質の形態、特にトリグリセリドの形態にすることが望ましい。アラキドン酸を含有するトリグリセリド(構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドと同義)の天然界の給源はほとんど存在していなかったが、本発明者等によりアラキドン酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリドを工業的に利用することが可能となり、ラットの概日リズムの同調に及ぼす効果を評価することで、本発明の有効成分の効果を明らかにし、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有することを明確にした。
【0029】
従って本発明においては、本発明の有効成分である構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリド(アラキドン酸を含有するトリグリセリド)を使用することができる。アラキドン酸を含有するトリグリセリドとしては、トリグリセリドを構成する全脂肪酸のうちアラキドン酸の割合が20重量(W/W)%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上である油脂(トリグリセリド)が食品に適用する場合には望ましい形態となる。したがって、本発明において、アラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)を生産する能力を有する微生物を培養して得られたものであればすべて使用することができる。
【0030】
アラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)の生産能を有する微生物としては、モルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium)属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium)属、クロドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、エントモフトラ(Entomophthora)属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、サプロレグニア(Saprolegnia)属に属する微生物を挙げることができる。
【0031】
モルティエレラ(Mortierella)属モルティエレラ(Mortierella)亜属に属する微生物では、例えばモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等を挙げることができる。具体的にはモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)IFO8570、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)IFO8571、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568、ATCC16266、ATCC32221、ATCC42430、CBS219.35、CBS224.37、CBS250.53、CBS343.66、CBS527.72、CBS529.72、CBS608.70、CBS754.68等の菌株を挙げることができる。
【0032】
これらの菌株はいずれも、大阪市の財団法人醗酵研究所(IFO)、及び米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection, ATCC)及び、Central Bureau voor Schimmelcultures(CBS)からなんら制限なく入手することができる。また本発明の研究グループが土壌から分離した菌株モルティエレラ・エロンガタSAM0219(微工研菌寄第8703号)(微工研条寄第1239号)を使用することもできる。
【0033】
本発明に使用される菌株を培養する為には、その菌株の胞子、菌糸、又は予め培養して得られた前培養液を、液体培地又は固体培地に接種し培養する。液体培地の場合に、炭素源としてはグルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール等の一般的に使用されているものが、いずれも使用できるが、これらに限られるものではない。
【0034】
窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を用いることができる。この他必要に応じリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩及びビタミン等も微量栄養源として使用できる。これらの培地成分は微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。実用上一般に、炭素源は0.1〜40重量(W/V)%、好ましくは1〜25重量(W/V)%の濃度するのが良い。初発の窒素源添加量は0.1〜10重量(W/V)%、好ましくは0.1〜6重量(W/V)%として、培養途中に窒素源を流加しても構わない。
【0035】
さらに、培地炭素源濃度を制御することでアラキドン酸を45重量(W/W)%以上含有する油脂(トリグリセリド)を本発明の有効成分とすることもできる。培養は、培養2-4日目までが菌体増殖期、培養2-4日目以降が油脂蓄積期となる。初発の炭素源濃度は1-8重量%、好ましくは1-4重量%の濃度とし、菌体増殖期および油脂蓄積期の初期の間のみ炭素源を逐次添加し、逐次添加した炭素源の総和は2-20重量%、好ましくは5-15重量%とする。なお、菌体増殖期および油脂蓄積期初期の間での炭素源の逐次添加量は、初発の窒素源濃度に応じて添加し、培養7日目以降、好ましくは培養6日目以降、より好ましくは培養4日目以降の培地中の炭素源濃度を0となるようにすることで、アラキドン酸を45重量%以上含有する油脂(トリグリセリド)を得ることができ本発明の有効成分とすることができる。
【0036】
アラキドン酸生産菌の培養温度は使用する微生物により異なるが、5〜40℃、好ましくは20〜30℃とし、また20〜30℃にて培養して菌体を増殖せしめた後5〜20℃にて培養を続けて不飽和脂肪酸を生産せしめることもできる。このような温度管理によっても、生成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合を上昇せしめることができる。培地のpHは4〜10、好ましくは5〜9として通気攪拌培養、振盪培養、又は静置培養を行う。培養は通常2〜30日間、好ましくは5〜20日間、より好ましくは5〜15日間行う。
【0037】
さらに、アラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)中のアラキドン酸の割合を高める手だてとして、培地炭素源濃度を制御する以外に、アラキドン酸含有油脂に選択的加水分解を行ってアラキドン酸高含有油脂を得ることもできる。この選択的加水分解に用いられるリパーゼはトリグリセリドの位置特異性はなく、加水分解活性は二重結合の数に比例して低下するため、高度不飽和脂肪酸以外の脂肪酸のエステル結合が加水分解される。そして、生じたPUFA部分グリセリド間でエステル交換反応が起こるなどして、高度不飽和脂肪酸が高められたトリグリセリドとなる(「Enhancement of Archidonic: Selective Hydrolysis of a Single-Cell Oil from Mortierella with Candida cylindracea Lipase」:J. Am. Oil Chem. Soc., 72, 1323-1327 (1998))。
【0038】
このように、アラキドン酸含有油脂に選択的加水分解を行って得たアラキドン酸を高含有する油脂(トリグリセリド)を本発明の有効成分とすることができる。本発明のアラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)の全脂肪酸に対するアラキドン酸の割合は、他の脂肪酸の影響を排除する目的で高いほうが望ましいが、高い割合に限定しているわけでなく、実際には、食品に適応する場合にはアラキドン酸の絶対量が問題になる場合もあり、10重量%以上のアラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)であっても実質的には使用することができる。
【0039】
さらに、本発明では構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドとして、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを使用することができる。また、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを5モル%以上、好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、最も好ましくは30モル%以上含む油脂(トリグリセリド)を使用することができる。上記トリグリセリドの1,3-位に結合する中鎖脂肪酸は、炭素数6-12個を有する脂肪酸から選ばれたものを利用できる。炭素数6-12個を有する脂肪酸として、例えば、カプリル酸又はカプリン酸等を挙げられ、特に1,3-カプリロイル-2-アラキドノイル-グリセロール(以後「8A8」とも称す)が好ましい。
【0040】
これら、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドは、乳幼児及び高齢者を対象した場合には、最適な油脂(トリグリセリド)となる。一般に油脂(トリグリセリド)を摂取し、小腸の中に入ると膵リパーゼで加水分解されるが、この膵リパーゼが1,3-位特異的であり、トリグリセリドの1,3-位が切れて2分子の遊離脂肪酸ができ、同時に1分子の2-モノアシルグリセロール(MG)が生成する。この2-MGは非常に胆汁酸溶解性が高く吸収性が良いため、一般に2-位脂肪酸の方が、吸収性が良いと言われる。
【0041】
また、2-MGは胆汁酸に溶けると界面活性剤的な働きをして、遊離脂肪酸の吸収性を高める働きをする。次に遊離脂肪酸と2-MGはコレステロールやリン脂質等と一緒に胆汁酸複合ミセルを生合成して小腸上皮細胞に取り込まれ、トリアシルグリセロールの再合成が起こり、最終的にはカイロミクロンとしてリンパに放出されていく。ところが、この膵リパーゼの脂肪酸特性は飽和脂肪酸に高く、アラキドン酸は切れにくい特徴を持っている。さらに問題なのは、膵リパーゼ活性が乳幼児及び高齢者は低いことから、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドは最適な油脂(トリグリセリド)となる。
【0042】
1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリド具体的な製造法のひとつとして、アラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)及び中鎖脂肪酸の存在下で、トリグリセリドの1,3-位のエステル結合にのみ作用するリパーゼを作用させることで製造することができる。
【0043】
原料となる油脂(トリグリセリド)はアラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドであり、トリグリセリドを構成する全脂肪酸に対するアラキドン酸の割合が高い場合には、未反応油脂(原料トリグリセリド並びに1,3-位の脂肪酸のうち一方のみが中鎖脂肪酸となったトリグリセリド)の増加による反応収率の低下を防ぐため、通常の酵素反応温度20-30℃より、高く30-50℃、好ましくは40-50℃とする。
【0044】
トリグリセリドの1,3-位のエステル結合に特異的に作用するリパーゼとして、例えば、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、アスペルグルス(Aspergillus)属などの微生物が産生するもの、ブタ膵臓リパーゼなどを挙げることができる。かかるリパーゼについは、市販のものを用いることができる。例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製、タリパーゼ)、リゾムコール・ミーハイ(Rhizomucor miehei)のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)社製、リボザイムIM)、アセペルギルス・ニガー(Apergillus niger)のリパーゼ(天野製薬(株)、リパーゼA)等が挙げられるが、これら酵素に限定しているわけではなく、1,3-位特異的リパーゼであればすべて使用することができる。
【0045】
上記リパーゼの使用形態は、反応効率を高める目的で反応温度を30℃以上、好ましくは40℃以上とするため、酵素の耐熱性を付加する目的で固定化担体に固定化したリパーゼを使用することが望ましい。固定化担体として多孔室(ハイポーラス)樹脂であって、約100オングストローム以上の孔径を有するイオン交換樹脂担体、例えばDowex MARATHON WBA(商標、ダウケミカル)等が挙げられる。
【0046】
固定化担体1に対して、1,3-位特異的リパーゼの水溶液0.5-20倍重量に懸濁し、懸濁液に対して2-5倍量の冷アセトン(例えば-80℃)を攪拌しながら徐々に加えて沈殿を形成させる。この沈殿物を減圧下で乾燥させて固定化酵素を調製することができる。さらに簡便な方法では、固定化担体1に対して、0.05-0.4倍量の1,3-位特異的リパーゼを最小限の水に溶解し、撹拌しながら固定化担体を混ぜ合わせ、減圧下で乾燥させて固定化酵素を調製することができる。この操作により約90%のリパーゼが担体に固定化されるが、このままではエステル交換活性は全く示さず、水1-10重量(W/V)%を加えた基質(原料油脂と中鎖脂肪酸)中で、好ましくは水1-3重量%を加えた基質中で前処理することで固定化酵素は最も効率よく活性化することができ製造に供することができる。
【0047】
酵素の種類によっては、本反応系に加える水分量は極めて重要で、水を含まない場合はエステル交換が進行しにくくなり、また、水分量が多い場合には加水分解が起こり、グリセリドの回収率が低下する(加水分解が起こればジグリセリド、モノグリセリドが生成される)。しかし、この場合、前処理により活性した固定化酵素を使用することで、本反応系に加える水分量は重要ではなくなり、全く水を含まない系でも効率よくエステル交換反応を起こすことができる。さらに酵素剤の種類を選択することで前処理を省略することも可能である。
【0048】
このように、耐熱性を有する固定化酵素を使用し、酵素反応温度を上げることで、1,3-位特異的リパーゼに反応性の低いアラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)においても、反応効率を低下させることなく、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを効率的に製造することができる。
【0049】
日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する飲食品の製造法であって、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を単独で、あるいはアラキドン酸を実質的に含有しない、あるいは含有していても僅かな飲食品原料とともに配合することができる。ここで、僅かな量とは、飲食品原料にアラキドン酸が含まれていたとしても、それを配合した食品組成物を人が摂取しても、後述する本発明の1日当たりのアラキドン酸の摂取量に達していない量を意味する。
【0050】
特に構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドの場合には、油脂(トリグリセリド)の用途に関しては無限の可能性があり、食品、飲料、医薬品、医薬部外品の原料並びに添加物として使用することがでる。そして、その使用目的、使用量に関して何ら制限を受けるものではない。
【0051】
例えば、食品組成物としては、一般食品の他、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦食品又は老人用食品等を挙げることができる。油脂を含む食品例として、肉、魚、またはナッツ等の本来油脂を含む天然食品、スープ等の調理時に油脂を加える食品、ドーナッツ等の熱媒体として油脂を用いる食品、バター等の油脂食品、クッキー等の加工時に油脂を加える加工食品、あるいはハードビスケット等の加工仕上げ時に油脂を噴霧または塗布する食品等が挙げられる。さらに、油脂を含まない、農産食品、醗酵食品、畜産食品、水産食品、または飲料に添加することができる。さらに、機能性食品、医薬品、医薬部外品の形態であっても構わなく、例えば、経腸栄養剤、粉末、顆粒、トローチ、内服液、懸濁液、乳濁液、シロップ等の加工形態であってもよい。
【0052】
また本発明の組成物は、本発明の有効成分以外に、一般に飲食品、医薬品または医薬部外品に用いられる各種担体や添加物を含んでいてよい。特に本発明の有効成分の酸化防止を防ぐ目的で抗酸化剤を含むことが望ましい。抗酸化剤として、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、フィロズルシン類、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキン類、フキ酸、ゴシポール、ピラジン誘導体、セサモール、グァヤオール、グァヤク酸、p-クマリン酸、ノールジヒドログァヤテッチク酸、ステロール類、テルペン類、核酸塩基類、カロチノイド類、リグナン類などのような天然抗酸化剤およびアスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、モノ-t-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、4-ヒドロキシメイル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール(HMBP)に代表されるような合成抗酸化剤を挙げることができる。
【0053】
トコフェロール類では、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、ε-トコフェロール、ξ-トコフェロール、η-トコフェロールおよびトコフェロールエステル(酢酸トコフェロール等)等を挙げることができる。さらに、カロチノイド類では、例えば、β-カロチン、カンタキサンチン、アスタキサンチン等を挙げることができる。
【0054】
本発明の組成物は、本発明の有効成分以外に、担体として、各種キャリアー担体、イクステンダー剤、希釈剤、増量剤、分散剤、賦形剤、結合剤溶媒(例、水、エタノール、植物油)、溶解補助剤、緩衝剤、溶解促進剤、ゲル化剤、懸濁化剤、小麦粉、米粉、でん粉、コーンスターチ、ポリサッカライド、ミルクタンパク質、コラーゲン、米油、レシチンなどが挙げられる、添加剤としては、例えば、ビタミン類、甘味寮、有機酸、着色剤、香料、湿化防止剤、ファイバー、電解質、ミネラル、栄養素、抗酸化剤、保存剤、芳香剤、湿潤剤、天然の食物抽出物、野菜抽出物などを挙げることができるが、これらに限定しているわけではない。
【0055】
アラキドン酸およびアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物の主薬効成分はアラキドン酸にある。アラキドン酸の一日あたり食事からの摂取量は関東地区で0.14g、関西地区で0.19-0.20gとの報告があり(脂質栄養学4, 73-82, 1995)、相当量、さらにはそれ以上、アラキドン酸を摂取する必要がある。したがって、本発明のアラキドン酸およびアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物の成人(例えば、体重60kgとして)一日当たりの摂取量は、アラキドン酸量換算として、0.001g-20g、好ましくは0.01g-10g、より好ましくは0.05-5g、最も好ましくは0.1g-2gとする。
【0056】
本発明の有効成分を実際に飲食品に適用する場合には、食品に配合するアラキドン酸の絶対量も重要となる。ただし、飲食品に配合する絶対量も、配合する飲食品の摂取量によって変化することから、構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドを食品に配合する場合には、アラキドン酸として0.0003重量%以上、好ましくは0.003重量%以上、より好ましくは0.03重量%以上となるように配合する。さらに、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを飲食品に配合する場合には、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドとして、0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上とする。
【0057】
本発明の組成物を医薬品として使用する場合、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。
本発明の組成物を医薬品として使用する場合、組成物中の有効成分の配分量は、本発明の目的が達成される限り特に限定されず、適宜適当な配合割合で使用が可能である。
【0058】
本発明の組成物を医薬品として使用する場合、投与単位形態で投与するのが望ましく、特に、経口投与が好ましい。本発明の組成物の投与量は、年令、体重、症状、投与回数などにより異なるが、例えば、成人(約60kgとして)一日当たり本発明のアラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を、アラキドン酸量換算として、通常約0.001g〜20g、好ましくは約0.01g-10g、より好ましくは約0.05〜5g、最も好ましくは約0.1g〜2gを一日1回〜3回に分割して投与するのがよい。
【0059】
生物時計は脳内の視床下部視交叉上核に存在する。脳のリン脂質膜の主要な脂肪酸はアラキドン酸並びにドコサヘキサエン酸であり、バランスを考えた場合、本発明の組成物は、アラキドン酸にドコサヘキサエン酸との組み合わせが望ましい。一般にアラキドン酸(n-6系 不飽和脂肪酸)とドコサヘキサエン酸(n-3系 不飽和脂肪酸)は、それぞれリノール酸とα-リノレン酸から同一の酵素により生合成される。したがって、アラキドン酸を単独で投与した場合には、ドコサヘキサエン酸の生合成を抑制する。また、逆にドコサヘキサエン酸を単独で投与した場合には、アラキドン酸の生合成を抑制する。
【0060】
このような弊害を防ぐためにも、アラキドン酸とドコサヘキサエン酸を組み合わせて摂取することが望ましい。また、脳のリン脂質膜にはエイコサペンタエン酸の割合が非常に低いことから、ほとんどエイコサペンタエン酸を含まないことが望ましい。また、エイコサペンタエン酸をほとんど含まず、しかもアラキドン酸とドコサヘキサエン酸を含有する組成物がより望ましい。そして、アラキドン酸とドコサヘキサエン酸の組み合わせにおいて、アラキドン酸/ドコサヘキサエン酸比(重量)が0.1〜15の範囲、好ましくは0.25〜10の範囲にあることが望ましい。また、アラキドン酸の5分の1(重量比)を超えない量のエイコサペンタエン酸の配合した飲食物が最も望ましい。
【実施例】
【0061】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0062】
なお、飲食品、健康食品、機能性食品、特定保険用食品、乳幼児用食品、老人用食品などの本発明の食品組成物には、該食品組成物及び/又は該食品組成物中の成分が、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有し、日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害、睡眠障害、睡眠相後退症候群、さらに、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに対する障害(時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下)の予防又は改善作用を有することを該食品組成物の包装用容器及び/又は該食品組成物の販売を促進するためのツール(例えばパンフレット等)に記載又は表示するなどして販売するものも含まれる。
【0063】
実施例1. アラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドの製造方法
アラキドン酸生産菌としてモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)を用いた。グルコース1.8%、脱脂大豆粉3.1%、大豆油0.1%、KH2PO4 0.3%、Na2SO4 0.1%、CaCl2・2H2O 0.05%及びMgCl2・6H2O 0.05%を含む培地6kLを、10kL培養槽に調製し、初発pHを6.0に調整した。前培養液30Lを接種し、温度26℃、通気量 360m3/h、槽内圧200kPaの条件で8日間の通気撹拌培養を行った。なお、攪拌数は溶存酸素濃度を10-15ppmを維持するように調整した。さらに、グルコース濃度を4日目までは流加法によって培地中のグルコース濃度が1-2.5%の範囲内となるように、それ以降は0.5-1%を維持した(上記の%は、重量(W/V)%を意味する)。
【0064】
培養終了後、ろ過、乾燥によりアラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含有する菌体を回収し、得られた菌体からヘキサン抽出により油脂し、食用油脂の精製工程(脱ガム、脱酸、脱臭、脱色)を経て、アラキドン酸含有トリグリセリド(アラキドン酸はトリグリセリドの任意な位置に結合)150kgを得た。得られた油脂(トリグリセリド)をメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析したところ、全脂肪酸に占めるアラキドン酸の割合は40.84%であった。
【0065】
なお、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸などが、それぞれ11.63%、7.45%、7.73%、9.14%、2.23%、3.27%であった。さらに、上記アラキドン酸含有油脂(トリグリセリド)をエチルエステル化し、アラキドン酸エチルエステルを40%含む脂肪酸エチルエステル混合物から、常法の高速液体クロマトグラフィーによって、99%アラキドン酸エチルエステルを分離・精製した。
【0066】
実施例2. 1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリド(8A8)を5%以上含むトリグリセリドの製造
イオン交換樹脂担体(Dowex MARATHON WBA:ダウケミカル、商標)100gを、Rhizopus delemarリパーゼ12.5%水溶液(タリパーゼ現末:田辺製薬(株))80mlに懸濁し、減圧下で乾燥させて固定化リパーゼを得た。
次に、実施例1で得たアラキドン酸を40重量%含有するトリグリセリド(TGA40S)80g、カプリル酸160g、上記固定化リパーゼ12g、水4.8 mlを30℃で48時間、撹拌(130rpm)しながら反応させた。反応終了後、反応液を取り除き、活性化された固定化リパーゼを得た。
【0067】
次に、固定化リパーゼ(Rhizopus delemarリパーゼ、担体:Dowex MARATHON WBA、商標)10gをジャケット付きガラスカラム(1.8 x 12.5cm、容量31.8ml)に充填し、実施例1で得たTGA40Sとカプリル酸を1:2に混合した混合油脂を一定の流速(4ml/h)でカラムに流し、連続反応を実施することで、反応油脂を400gを得た。なお、カラム温度は40-41℃とした。得られた反応油脂から未反応のカプリル酸及び遊離の脂肪酸を分子蒸留により取り除き、食用油脂の精製工程(脱ガム、脱酸、脱臭、脱色)を経て、8A8を含有する油脂(トリグリセリド)を得た。
【0068】
そして、ガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより、得られた8A8含有油脂(トリグリセリド)中の8A8の割合を調べたところ、31.6%であった(なお、8P8、808、8L8、8G8、8D8の割合はそれぞれ0.6、7.9、15.1、5.2、4.8%であった。トリグリセリドの2-位結合する脂肪酸P、O、L、G、Dはそれぞれパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸を表し、8P8は1,3-カプリロイル-2-パルミトレイル-グリセロール、8O8は1,3-カプリロイル-2-オレオイル-グリセロール、8L8は1,3-カプリロイル-2-リノレオイル-グリセロール、8G8は1,3-カプリロイル-2-γ-リノレノイル-グリセロール、8D8は1,3-カプリロイル-2-ジホモ-γ-リノレノリル-グリセロールをいう)。なお、得られた8A8含有油脂(トリグリセリド)から定法の高速液体クロマトグラフィーによって、96モル% 8A8を分離・精製した。
【0069】
実施例3. アラキドン酸含有油脂の明暗周期の位相変化に対する同調促進作用
実施例1で調製したアラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド(アラキドン酸含有油脂)の明暗周期の位相変化に及ぼす影響をラットを用いて調べた。
ラットは明期に主に休息(睡眠)し、暗期に活動する習性を持つ。そこで、明暗周期を前後6時間変えることで、新たな明暗周期に同調するまでの日数で同調に対する作用を調べた。なお、同調の評価はラットの日内リズムは1日の運動量を連続的に測定し、明期(休息期)と暗期(活動期)の運動量の経時変化を測定することで調べた。
【0070】
ラット日内運動量の計測は、ラットを赤外線センサーを設置したボックス内で個別に飼育し、その運動量を赤外線センサーによりカウントした。つまり、動物がその赤外線センサーを一回越える毎に1カウントとして数え、その数を積算して運動量(カウント)として表わした。統計処理は、ANOVAおよびstudent t-testを用いて行った。
18ヶ月齢雄性Fischer系ラット20匹を対照飼料群(10匹:OC(18M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(10匹:OA(18M)群)の2群に分け、それぞれの群に、表1に示した対照飼料およびアラキドン酸含有油脂配合飼料を2週間の予備飼育後から与えた。
【0071】
【表1】

【0072】
ラットの摂餌量は約20gで、アラキドン酸含有油脂のラット一匹あたりの一日の摂取量は0.1gとなる。実施例1で調製したアラキドン酸含有油脂に結合する全脂肪酸の内、40%がアラキドン酸であることから、ラット一匹あたりの一日のアラキドン酸の摂取量は40mgとなる。この40mgは人の摂取量に換算すると133mg/60kg/日に相当する。動物は室温23.5±1℃、湿度55±5%に保った動物舎内で飼育し、飼料および水は自由摂取とした。12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時)を明暗周期とした。
【0073】
実験食摂取後2週間目から、日内運動量を連続的に計測した(位相記録開始)。1日毎に総運動量ならびに総運動量に対する明期の運動比率(明期運動量/総運動量×100(%))で算出した。そして、位相記録開始10日目(飼育開始から40日目、実験食の摂取開始から26日目)に、明暗周期の位相を6時間後退させ(12時間暗期(7-19時)−12時間明期(19-7時))、概日リズムが同調するまでの日数を求めた。次に、さらに10日後(位相記録開始から20日目)に、明暗周期の位相を6時間前進させ(12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時))、概日リズムが同調するまでの日数を求めた。
【0074】
同様の実験を、2ヶ月齢雄性Fischer系ラット8匹を対照飼料群(4匹:YC(2M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(4匹:YA(2M)群)の2群に分け、さらに、22ヶ月齢雄性Fischer系ラット8匹を対照飼料群(4匹:OC(22M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(4匹:OA(22M)群)の2群に分けて実施した。
2ヶ月齢、18ヶ月齢、22ヶ月齢の対照飼料群並びにアラキドン酸含有油脂配合飼料群の明期12時間の運動比率(%)を示した(図1)。アラキドン酸含有油脂の摂取により、老齢(18M及び22M)ラットにおいて明期12時間の運動比率(%)が有意に抑制され、日内リズムが適正化していることが明らかとなった。
【0075】
次に、図2に6時間の位相後退並びに6時間の位相前進に対する、2ヶ月齢、18ヶ月齢、22ヶ月齢の対照飼料群並びにアラキドン酸含有油脂配合飼料群の同調までの要する日数を示した(図2)。環境の明暗周期の位相移動時での活動の概日リズムの同調に要する時間(日数)は若齢(2M)ラットでは位相前進の方が、位相後退より長いが、老齢(18M及び22M)ラットでは逆に位相後退の方が位相前進より長くなる。しかし、アラキドン酸含有油脂の摂取により、同調に要する時間(日数)は有意に短縮した。特に老齢ラットで有効であることから、概日リズムの加齢による変化はリズム発信よりも光同調に求められることから、アラキドン酸に加齢変化を是正する作用が認められた。
【0076】
実施例4. 24時間暗条件で飼育(フリーラン)下でのラットへの光刺激による位相後退及び位相前進に対するアラキドン酸含有油脂の同調促進作用
24時間暗条件で飼育すると、外部情報(光)が得られなくなるため、ラットは固有の周期(生物時計)で活動する(同調から自由になったという意味でフリーラン、自由継続と呼ぶ)。この自由継続周期を24時間に換算して横軸に示し、概日時刻とすると、その前半の12時間を主観的昼(生物時計で昼の時間と判断しラットは休息する)、後半を主観的夜(生物時計で夜の時間と判断しラットは活動する)と呼ぶ。ラットに光を当てると、その時期によって自由継続リズムの位相が前進したり、後退したりする。実施例において、概日時刻15時に130ルックスの光を30分間照射し位相後退を、概日時刻20時に同様の光を照射し位相前進を調べた。
【0077】
18ヶ月齢雄性Fischer系ラット20匹を対照飼料群(10匹:OC(18M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(10匹:OA(18M)群)の2群に分け、それぞれの群に、実施例3と同様に表1に示した対照飼料およびアラキドン酸含有油脂配合飼料を2週間の予備飼育後から与えた。
【0078】
ラットの摂餌量は約20gで、アラキドン酸含有油脂のラット一匹あたりの一日の摂取量は0.1gとなる。実施例1で調製したアラキドン酸含有油脂に結合する全脂肪酸の内、40%がアラキドン酸であることから、ラット一匹あたりの一日のアラキドン酸の摂取量は40mgとなる。この40mgは人の摂取量に換算すると133mg/60kg/日に相当する。動物は室温23.5±1℃、湿度55±5%に保った動物舎内で飼育し、飼料および水は自由摂取とした。12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時)を明暗周期とした。
【0079】
実験食摂取後70日目から、24時間暗条件下での飼育(フリーラン)を開始し、日内運動量を連続的に計測した(位相記録開始)。フリーラン飼育から2週間目に、先に述べた概日時刻15時に130ルックスの光を30分間照射し、位相移動量(時間)を測定した。次に、さらに2週間後、概日時刻20時に同様に光を照射し、位相移動量(時間)を測定した。同様の実験を、2ヶ月齢雄性Fischer系ラット8匹を対照飼料群(4匹:YC(2M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(4匹:YA(2M)群)の2群に分けて実施した。
【0080】
さらに、22ヶ月齢雄性Fischer系ラット8匹の場合は、対照飼料群(4匹:OC(22M)群)とアラキドン酸含有油脂配合飼料群(4匹:OA(22M)群)の2群に分け、12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時)を明暗周期として8日間飼育後、実験食摂取開始と同時に、24時間暗条件下での飼育(フリーラン)を開始し、日内運動量を連続的に計測した(位相記録開始)。フリーラン飼育から12日目に、概日時刻15時に130ルックスの光を30分間照射し、位相移動量(時間)を測定し、さらに2週間後に概日時刻20時に同様に光を照射し、位相移動量(時間)を測定した。
【0081】
結果を図3に示す。2ヵ月齢、18ヶ月齢、22ヶ月齢の対照飼料群並びにアラキドン酸含有油脂配合飼料群の光照射による概日リズムの位相移動量は年齢による影響を余り受けないが、アラキドン酸含有油脂の摂取により位相移動量を増加させた。
【0082】
実施例5. 8A8(96モル%)の明暗周期の位相変化に対する同調促進作用
実施例2で調製した8A8(96モル%)の明暗周期の位相変化に及ぼす影響を実施例3と同様に実施した。
18ヶ月齢雄性Fischer系ラット20匹を対照飼料群(10匹:OC(18M)群)と8A8配合飼料群(10匹:OA(18M)群)の2群に分け、それぞれの群に、表2に示した対照飼料および8A8配合飼料を2週間の予備飼育後から与えた。
【0083】
【表2】

【0084】
ラットの摂餌量は約20gで、アラキドン酸含有油脂のラット一匹あたりの一日の摂取量は0.1gとなる。したがって、ラット一匹あたりの一日のアラキドン酸の摂取量はほぼ40mgとなる。この40mgは人の摂取量に換算すると133mg/60kg/日に相当する。動物は室温23.5±1℃、湿度55±5%に保った動物舎内で飼育し、飼料および水は自由摂取とした。12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時)を明暗周期とした。実験食摂取後2週間目から、日内運動量を連続的に計測した(位相記録開始)。1日毎に総運動量ならびに総運動量に対する明期の運動比率(明期運動量/総運動量×100(%))で算出した。
【0085】
そして、位相記録開始10日目(飼育開始から40日目、実験食の摂取開始から26日目)に、明暗周期の位相を6時間後退させ(12時間暗期(7-19時)−12時間明期(19-7時))、概日リズムが同調するまでの日数を求めた。次に、さらに10日後(位相記録開始から20日目)に、明暗周期の位相を6時間前進させ(12時間暗期(1-13時)−12時間明期(13-1時))、概日リズムが同調するまでの日数を求めた。同様の実験を、2ヶ月齢雄性Fischer系ラット8匹を対照飼料群(4匹:YC(2M)群)と8A8配合飼料群(4匹:YA(2M)群)の2群に分けて実施した。
【0086】
位相後退における同調日数では、2ヶ月齢ラットの対照飼料群及び8A8配合飼料群の同調までに要する日数は3.7日及び4.1日となり、18ヶ月齢ラットではそれぞれ7.28日及び5.72日となった。位相前進における同調日数では、2ヶ月齢ラットの対照飼料群及び8A8配合飼料群の同調までに要する日数は9.8日及び9.43日となり、18ヶ月齢ラットではそれぞれ5.63日及び3.32日となり、8A8摂取により、同調に要する時間(日数)は短縮した。
【0087】
実施例6. アラキドン酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)配合カプセルの調製例
ゼラチン100重量部及び食添グリセリン35重量部に水を加え50〜60℃で溶解し、粘度2000cpのゼラチン被膜を調製した。次に実施例1で得たアラキドン酸含有油脂(トリグリセリド)にビタミンE油0.05重量%を混合し、内容物1を調製した。実施例2で得た8A8を32モル%含有する油脂(トリグリセリド)にビタミンE油0.05重量%を配合し、内容物2を調製した。
【0088】
次に実施例1で得たアラキドン酸含有油脂(トリグリセリド)50重量%と魚油(ツナ油:全脂肪酸に占めるエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸の割合は、それぞれ5.1%および26.5%)50重量%で混合し、ビタミンE油0.05重量%を混合して内容物3を調製した。アラキドン酸含有油脂(トリグリセリド)80重量%と魚油(ツナ油:全脂肪酸に占めるエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸の割合は、それぞれ5.1%および26.5%)20重量%で混合し、ビタミンE油0.05重量%を混合して内容物4を調製した。実施例1で得た99%アラキドン酸エチルエステルに、ビタミンE油0.05重量%を混合し内容物5を調製した。これら内容物1から5を用いて、常法によりカプセル成形及び乾燥を行い、一粒200mgの内容物を含有するソフトカプセルを製造した。
【0089】
実施例7. 脂肪輸液剤への使用
実施例2で得た8A8を96%含有する油脂(トリグリセリド)400g、精製卵黄レシチン48g、オレイン酸20g、グリセリン100g及び0.1N 苛性ソーダ40mlを加え、ホモジナイザーで分散させたのち、注射用蒸留水を加えて4リットルとする。これを高圧噴霧式乳化機にて乳化し、脂質乳液を調製した。該脂質乳液を200mlずつプラスチック製バッグに分注したのち、121℃、20分間、高圧蒸気滅菌処理して脂肪輸液剤とする。
【0090】
実施例8. ジュースへの使用
β-シクロデキストリン2gを20%エタノール水溶液20mlに添加し、ここにスターラーで撹拌しながら、実施例1で得たアラキドン酸含有トリグリセリド(ビタミンEを0.05%配合)100mgを加え、50℃で2時間インキュベートした。室温冷却(約1時間)後、さらに撹拌を続けながら4℃で10時間インキュベートした。生成した沈殿を、遠心分離により回収し、n-ヘキサンで洗浄後、凍結乾燥を行い、アラキドン酸含有トリグリセリドを含有するシクロデキストリン包接化合物1.8gを得た。この粉末1gをジュース10Lに均一に混ぜ合わせ、アラキドン酸含有トリグリセリドを含有するジュースを調製した。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1はアラキドン酸含有油脂の明期12時間の運動比率(%)に及ぼす影響を示す図である。
【図2】図2はアラキドン酸含有油脂の6時間位相後退・前進に伴う概日リズム同調に及ぼす影響を示す図である。
【図3】図3はアラキドン酸含有油脂の24時間暗条件で飼育(フリーラン)下でのラットへの光刺激による位相後退及び位相前進に対する位相移動量(時間)に及ぼす影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物。
【請求項2】
アラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物が、アラキドン酸のアルコールエステル又は構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸である、トリグリセリド、リン脂質もしくは糖脂質である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドが、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドである請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
中鎖脂肪酸が、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
中鎖脂肪酸が、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドを含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物。
【請求項7】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドの、アラキドン酸の割合が、トリグリセリドを構成する全脂肪酸に対して10重量%以上であることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドが、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物から抽出したものである請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドが、エイコサペンタエン酸を含まない又は含んだとしても1%以下のトリグリセリドである請求項6〜8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを5モル%以上含有するトリグリセリドを含んで成る、日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物。
【請求項11】
中鎖脂肪酸が、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
中鎖脂肪酸が、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
日内リズムの乱れに起因する生体リズム障害の予防又は改善作用を有する請求項1〜12記載の組成物。
【請求項14】
生体リズム障害として、睡眠障害の予防又は改善作用を有する請求項13記載の組成物。
【請求項15】
生体リズム障害として、概日リズム(生物時計)の同調の遅れに対する障害の予防又は改善を有する請求項13記載の組成物。
【請求項16】
概日リズム(生物時計)の同調の遅れによる時差ボケ、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢、判断力・集中力の低下に対する予防又は改善作用を有する請求項15記載の組成物。
【請求項17】
生体リズム障害として、睡眠相後退症候群に対する予防又は改善作用を有する請求項13記載の組成物。
【請求項18】
組成物が、食品組成物又は医薬組成物である請求項1〜17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
成人1日当たりの摂取量がアラキドン酸量に換算して0.001〜20gとなるように、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含んで成る食品組成物。
【請求項20】
アラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物が、アラキドン酸のアルコールエステル又は構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸である、トリグリセリド、リン脂質もしくは糖脂質である請求項19に記載の食品組成物。
【請求項21】
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドが、1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドである請求項20に記載の食品組成物。
【請求項22】
中鎖脂肪酸が、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項21に記載の食品組成物。
【請求項23】
中鎖脂肪酸が、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項22に記載の食品組成物。
【請求項24】
組成物が1,3-位に中鎖脂肪酸が、2-位にアラキドン酸が結合したトリグリセリドを0.001重量%以上含有することを特徴とする食品組成物。
【請求項25】
中鎖脂肪酸が、炭素数6〜12個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項24に記載の食品組成物。
【請求項26】
中鎖脂肪酸が、炭素数8個を有する脂肪酸から選ばれたものである請求項25に記載の食品組成物。
【請求項27】
食品組成物が、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品又は老人用食品であることを特徴とする請求項19〜26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
日内リズムの正常化作用及び/又は概日リズム(生物時計)の同調促進作用を有する組成物の製造方法であって、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を単独で、あるいはアラキドン酸を実質的に含有しない、あるいは含有していても僅かな量である食品原料とともに配合することを特徴とする食品組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−521369(P2006−521369A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507691(P2006−507691)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004318
【国際公開番号】WO2004/084882
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】