説明

日和見感染症の治療のための同種異系細胞治療

【課題】本発明は、日和見感染症を治療および予防するために免疫無防備者の免疫系を強化する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により、日和見感染症を治療するために免疫無防備患者の免疫系を刺激する方法が提供される。本発明に係る方法は、意図的にミスマッチにした同種異系細胞を注入することを含む。移植片対宿主病(GVHD)の合併症を予防するために、本同種異系細胞には注入前に放射線を照射することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患を治療するための同種異系細胞注入の使用に関する。より具体的には、本発明は、免疫無防備宿主における細胞性免疫を刺激するための同種異系細胞療法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫系は、種々の細菌性、原虫性、真菌性およびウイルス性病原体による感染から個体を防御する能力を有する。しかし、年齢もしくは疾患(例えば、HIV感染症)、薬剤(コルチコステロイド、化学療法)、または臓器もしくは骨髄移植患者の拒絶反応の予防治療により免疫系が弱体化すると、通常は臨床疾患を引き起こさないこれらの病原体が、感染を引き起こす可能性がある。一般的な日和見病原体には、真菌、トリ結核菌細胞、ウイルス、特にサイトメガロウイルス感染症(CMV)、およびニューモシスチスカリニがある。HIV感染患者、ならびに臓器および骨髄移植患者は、特に日和見感染症に感染しやすい。
【0003】
免疫抑制者は、内因性および外因性の両微生物に感染しやすい。日和見感染症は、特に毒性の強い病原体(例えば、髄膜炎菌性髄膜炎または肺炎球菌性肺炎)の外因性獲得、内因性潜在微生物(例えば、単純疱疹ウイルス(HSV)、帯状疱疹ウイルス(HZVもしくは帯状疱疹)または結核菌)の再活性化、および通常は共生または腐生の微生物(例えば、細菌、ウイルス、真菌もしくは原虫/寄生虫)の内因性侵入により生じる可能性がある。発生する日和見感染症の正確な型は、免疫学的変化(細胞性、体液性、食細胞性または複合的欠陥であるかを問わない)の型および程度、ならびに内外環境に存在する微生物により異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日和見感染症は、抗ウイルス剤、抗真菌剤または抗生剤を使用した治療を行ったとしても致命的となることが多い。したがって、日和見感染症を治療かつ予防するために免疫無防備者の免疫系を強化する方法を開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、日和見感染症を治療するために免疫無防備患者の免疫系を刺激する方法を含む。本方法は、意図的にミスマッチにした同種異系細胞を注入することを含む。また、移植片対宿主病の合併症を予防するために、本同種異系細胞には注入前に放射線を照射することができる。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
日和見感染症の治療法であって、感染性病原体を有する免疫無防備宿主にミスマッチ同種異系細胞の少なくとも1回の注入を提供して、前記感染性病原体に対する免疫応答を前記宿主に生じるようにすることを含む、治療法。
(項目2)
前記感染性病原体がアスペルギルス属のメンバーである、項目1に記載の治療法。
(項目3)
前記ミスマッチ同種異系細胞の注入によりTh1サイトカインの産生がもたらされる、項目1に記載の治療法。
(項目4)
前記Th1サイトカインが、IFN−γ、TNF−α、IL−1、IL−2、IL−12もしくはIL−18、またはそれらのいずれかの組み合わせを主に含む、項目3に記載の治療法。
(項目5)
前記同種異系細胞の注入により樹状細胞の活性化がもたらされる、項目1に記載の治療法。
(項目6)
前記免疫応答によりCD40L表面マーカーの発現がもたらされる、項目1に記載の治療法。
(項目7)
前記CD40Lの発現により増強樹状細胞ILI2の産生がもたらされる、項目6に記載の治療法。
(項目8)
前記免疫応答がTh1細胞の活性化である、項目1に記載の治療法。
(項目9)
前記Th1細胞の活性化がTh1サイトカインの産生によってもたらされる、項目8に記載の治療法。
(項目10)
前記免疫応答により、前記宿主が生成する同種異系抗原に特異的なTh1記憶細胞がもたらされる、項目9に記載の治療法。
(項目11)
前記免疫応答がNK細胞およびT細胞の活性化をもたらす、項目1に記載の治療法。
(項目12)
前記同種異系細胞が注入前に放射線照射される、項目1に記載の治療法。
(項目13)
前記同種異系細胞がTh1リンパ球である、項目1に記載の治療法。
(項目14)
Th1サイトカインの産生をもたらす免疫無防備宿主への同種異系細胞の注入により、ナチュラルキラー細胞および樹状細胞を活性化する方法。
(項目15)
同種異系細胞注入が、CD40L表面マーカーの発現をもたらす前記T細胞の活性化をもたらす、項目14に記載の方法。
(項目16)
出会った同種異系抗原に特異的なTh1記憶細胞プールの発生をもたらす、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記Th1記憶細胞が、ケモカイン受容体CCR5、CCR2もしくはCCR3、またはそれらのいずれかの組み合わせを発現する、項目16に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0006】
アスペルギルスは始原型の日和見微生物であり、自然界に広く分布する汎存種の糸状菌である。この菌は一般的に土壤、植物の残骸、および室内空気環境から隔離されている。アスペルギルス症は、アスペルギルス属の菌によって引き起こされる広範な疾患である。一般的にアスペルギルスは、あらゆる糸状菌の中でも侵襲性感染症において隔離されることが最も多い菌であり、日和見真菌の中でもカンジダに次いで2番目に回復することが多い真菌である(Kwon−Chung 1992)。また、アスペルギルスフミガーツスは、侵入性アスペルギルス症(IA)の最も一般的な原因でもある。
【0007】
IAは、免疫無防備患者に一般的な劇症型の高致死性感染症である(Bodey and Vartivarian 1989;Denning 1998)。免疫抑制は、日和見感染症を発症しやすくする主要な要因である(Ho and Yuen 2000)。気道定着がきわめて一般的である。この感染症は、免疫無防備患者が分生子(真菌胞子)を吸入することで発症する。健常者であれば分生子は肺から効果的に除去されるが、免疫無防備患者の場合は、分生子が発芽し、周囲組織に侵入する菌糸を形成して、重度の進行性肺炎を発症し、ひいてはこれが他の臓器にまで播種する可能性がある。この疾患の臨床症状と重症度は、患者の免疫状態により異なる(Bennett 1995)。潜在的な消耗性疾患、化学療法誘発好中球減少症、正常細菌叢の分裂、または抗菌剤およびステロイドの使用による炎症反応などの要因によって宿主抵抗性が低下することにより、患者は細菌定着、侵襲性疾患、またはそれらの両方に罹患しやすくなる可能性がある(Morrison,Haake et al.1993)。
【0008】
IAの療法は、全死亡率が約60%の不良の結果に関連する(Stevens,Kan et al.2000)。ステロイド誘発性免疫抑制および化学療法誘発性好中球減少症により、IAは、骨髄移植(BMT)後に生じる特に深刻な問題である(Peterson,McGlave et al.1983;Meyers 1990)。
【0009】
IAの治療に認可された抗真菌剤は、33%〜52%の反応率を有する(Patterson 2002)。現在のIAの療法には、ボリコナゾール(Herbrecht,Denning et al.2002);患者の80%に腎毒性を引き起こすアンホテリシンB(Wingard,Kubilis et al.1999);低腎毒性製剤であるが、肝毒性になる可能性があり、非常に高価なリポソームアンホテリシンB(Walsh,Finberg et al.1999);多くの薬物相互作用を有するイトラコナゾール(Caillot 2003);梗塞組織の外科切除(Matt,Bernet et al.2003);および他の療法に対して不応性または不耐性であるIA患者へのサルベージ療法として最近米国食品医薬品局に認可されたカスポファンギンが含まれる。しかし、積極的な抗真菌性療法があるにもかかわらず、BMT患者のIAの予後は、依然として極めて不良であり、死亡率は90%以上に達している(Denning and Stevens 1990;Denning 1996)。
【0010】
治療結果は依然としてIAに最適とまでは言えないことから、新規の治療法が必要とされており、細胞性(Th1)免疫を刺激できる方法が、日和見ウイルス性および真菌性感染症の治療に最も効果的であると考えられる。
【0011】
Th1/Th2免疫
適応免疫は、応答に関与するCD4+T細胞の優勢型によって、Th1またはTh2の特徴を有する。Th1細胞およびTh2細胞によって産生されるサイトカインの均衡が、免疫応答の特徴に影響を及ぼす主要な要因である。CD4+リンパ球からTh1およびTh2サブセットへの機能的分割は、これらの細胞のサイトカインプロファイルに基づいている。Th1細胞は、ガンマインターフェロン(IFN−γ)およびインターロイキン−2(IL−2)を産生するが、IL−4は産生しない。Th2細胞は、IL−4およびIL−10を産生するが、IFN−γは産生しない(Mosmann and Coffman 1989;Romagnani 1991)。これらの2つのサブセットによって産生されるサイトカインは、相互に阻害的であり、逆交差調節を確立する。Th1細胞はTh2細胞の増殖を阻害し、Th2細胞はTh1細胞のサイトカイン産生を阻害する(Fiorentino,Bond et al.1989)。この逆交差調節により、病原体に対するTh1またはTh2の極性化された免疫応答がもたらされ、これによって感染症に対する宿主の抵抗性または感受性を決定することができる。Th1細胞は、樹状細胞(DC)から分泌される(その後IL−18によって増強される)IL−12の存在下で分化するのに対して、Th2細胞は、NKT細胞、好塩基球、好酸球および肥満細胞によって産生されるIL−4の影響下で分化する。また、原虫性、ウイルス性または真菌性感染症におけるTh1の応答は抵抗性に関係するのに対して、同病原体に対するTh2の応答は疾患に関係する(Kawakami 2003)。
【0012】
自然感染対策
自然免疫および適応免疫の両機序の活性化は、真菌性感染症の宿主制御に不可欠である。自然免疫系のエフェクター機序は、IAに対する主な防御機序である(Roilides,Katsifa et al.1998)。感染抵抗性には、IL−2およびIFN−γを産生する間質T細胞の存在だけでなく、TNF−αおよびIL−12が豊富なサイトカイン環境で作用する肺胞食細胞の正常な先天性抗真菌活性が必要となる(Cenci,Mencacci et al.1998)。常在する肺胞マクロファージが、休眠分生胞子を摂取および殺滅するのに対して、好中球はマクロファージの監視を回避する分生胞子から発芽する菌糸を攻撃する(Schaffner,Douglas et al.1982)。この免疫応答の有効性は、多くの分生胞子による攻撃を受けても免疫適格動物では疾患が発症しないという所見から明らかである(Dixon,Polak et al.1989)。
【0013】
樹状細胞(DC)は、アスペルギルスを含めた病原体に対する免疫応答のイニシエーターとして認識される自然免疫細胞であり、自然免疫と適応免疫との間の橋渡しをする役割を果たす。DCは、粘膜表面の病原体を監視する重要な役割を果たす(Banchereau and Steinman 1998)。DCの緻密なネットワークについては、すでに気道の部分で説明されている(Pollard and Lipscomb 1990)。休眠状態にある気道のDCは、摂取やプロセシングに特化しているものの、抗原(Ag)の提示には特化しておらず、後者の場合にはサイトカインの成熟シグナルが必要となる(Stumbles,Thomas et al.1998)。
【0014】
気道の未熟DCは、真菌を認識し、貪食する。TNFなどの炎症性サイトカインからの食作用とシグナル伝達により、DCは活性化された後、成熟DCとしてリンパ節に移動する(Bozza,Gaziano et al.2002;Bauman,Huffnagle et al.2003)。次いで、副刺激分子の発現と同時に、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子との関連で真菌抗原が提示されることにより、成熟DCがリンパ節内のナイーブT細胞を活性化する。こうしたDCによるサイトカインの産生により、Th1またはTh2のいずれかの適応免疫応答の発生が決定される(Huffnagle and Deepe 2003)。
【0015】
アスペルギルス症のマウスモデルでは、Th1サイトカインが疾患防御と相関するのに対して、Th2サイトカインは罹病性と相関する(Nagai,Guo et al.1995;Cenci,Perito et al.1997)。防御適応免疫の発生は、IFN−γを産生するTh1細胞とIL−12を産生するマクロファージの活性化に関係する。この所見と一致して、Th2のサイトカインであるIL−4の中和や、Th1のサイトカインであるIFN−γの注入により、アスペルギルス感染症に対する治療効果がもたらされるのに対して、IFN−γの中和や、Th2のサイトカインであるIL−10の産生増加により、症状の増加を招く(Nagai,Guo et al.1995)。また、Th1の免疫応答は、血液悪性腫瘍患者におけるIAの制御が可能であることも明らかにされている(Hebart,Bollinger et al.2002)。
【0016】
移植後免疫
細胞性免疫応答障害患者は、癌や感染症に罹患しやすい傾向がある。細胞性免疫障害は、悪性もしくはウイルス性疾患の存在によって引き起こされる場合もあれば、免疫抑制剤、移植、化学療法もしくは放射線照射によって医原的に引き起こされる場合もある。細胞性免疫障害および疾患は、Th2免疫やエフェクター機能に有利なTh1/Th2サイトカインの不均衡と相関する(Shurin,Lu et al.1999;Kidd 2003)。免疫抑制状態を生成するTh2応答の増強は、慢性C型肝炎ウイルス感染症(Fan,Liu et al.1998)、ハンセン病(Yamamura 1992)、蠕虫、原虫およびレトロウイルス感染症(Gazzinelli,Makino et al.1992;Sher,Gazzinelli et al.1992)、AIDS(Clerici and Shearer 1993)などの感染症おいて、および老化プロセスの一部として(Deng,Jing et al.2004)見られる。
【0017】
同種異系BMTの環境下では、同種異系細胞の注入により、Th1免疫の増強によって媒介される移植片対腫瘍(GVT)作用と呼ばれる抗腫瘍作用が誘発される(Jung,Foley et al.2003)。また、同種異系BMT後のTh1免疫増強は、癌再発の予防または遅延に効果的な免疫監視と相関する(Guo,Qiao et al.2004)。しかし、この有益なGVT作用も、依然として同種異系BMTの合併症として最も多い移植片対宿主病(GVHD)が発症することで相殺されてしまうことが多い。
【0018】
GVHDは、宿主の外来HLA(ヒト白血球抗原)抗原を認識する同種異系反応性ドナーT細胞によって発症する。GVHDの主要な原因は、サイトカインネットワークの調節異常である(Krenger and Ferrara 1996)。GVHDではTh1サイトカインの放出が顕著であるのに対して(Rus,Svetic et al.1995;Ochs,Blazar et al.1996;Das,Imoto et al.2001)、Th2細胞はGVHDの致死性を阻害する(Fowler,Kurasawa et al.1994)。慢性GVHDの療法は、きわめて免疫抑制作用が強く、長期間継続しなければならない。慢性GVHDの治療に最も広く使用されている第一選択治療は、サイクロスポリンA(CSA)およびプレドニゾンの処方である。CSA(Kim,Cho et al.2000)およびプレドニゾン(Elenkov 2004)の治療はいずれも、Th1免疫を阻害し、Th2免疫を促進する傾向がある。
【0019】
GVHDの制御には、細胞性免疫機序の抑制とTh2免疫の増強が必要となる。GVHDを制御する免疫抑制によって、患者は広範な病原体に由来する日和見感染症に罹患しやすくなる。アスペルギルス感染症を含めたこれらの感染症が、GVHDに次ぐ主要な死因であり、これに慢性GVHD免疫応答による進行性臓器不全が続く。
【0020】
免疫抑制患者は、血漿中のIL−10の濃度が高い。IL−10は、Th2リンパ球、マクロファージ、肥満細胞およびB細胞によって産生され(Moore,O’Garra.et al.1993)、Th2免疫応答を増強しかつTh1応答の分化を阻害することができる強力な免疫抑制作用を有する(de Vries 1995)。グルココルチコイドによるGVHDの治療によって、IL−10産生T細胞の誘導が直接増強される。IL−10は、IL−12の産生、ならびにマクロファージ、単球および種々の樹状細胞によるMHCクラスII抗原および副刺激分子の発現を阻害することが知られている(Moore,de Waal Malefyt et al.2001)。さらに、IL−10による樹状細胞の治療は、同種異系抗原活性化T細胞のアネルギー状態にも寄与する(Groux,Bigler et al.1996;Steinbrink,Wolfl et al.1997)。アスペルギルスは、IL−10の産生を直接刺激する能力を有する(Clemons,Grunig et al.2000)。粒子状アスペルギルス抗原は、Balb/cマウスにおいてTh2応答を誘発することが明らかにされている(Kurup,Seymour et al.1994)。
【0021】
したがって、移植後BMT環境においてIAやその他の日和見感染症を治療する免疫療法を計画するにあたっては、GVHDを悪化させることなく、免疫抑制されたTh2バイアス環境下で抗病原性Th1免疫を増強する方法を計画することが課題とされている。
【0022】
同種異系細胞療法
移植後BMT環境におけるIAや他の日和見感染症に効果的な免疫療法を開発するためには、まず自然免疫を刺激した後、免疫抑制剤のバックグラウンドに対する真菌特異性(または他の病原体に特異的な)Th1適応免疫応答、ならびに現存しかつインプリントされた、原因病原体に対するTh2バイアス免疫を誘導することが必要となる。その他の課題としては、Th1媒介性GVHDを同時に刺激することなく、このバックグラウンドでTh1抗真菌性(またはその他の病原体に特異的な)免疫を誘発することが必要とされる。
【0023】
一般的に、効果的なTh1適応免疫応答を生成するには、厳密に制御された条件下で発生することが必要となる所定の一連の免疫学的事象が必要となる。免疫無防備宿主にHLAミスマッチ同種異系細胞を注入することで、この一連の事象を引き起こす能力を有する強力な宿主同種異系認識応答が誘発される。これらの事象には、以下が含まれる:(i)真菌(またはその他の)抗原(Ag)の排出を引き起こす先天性エフェクター機序の活性化;(ii)肺中の樹状細胞による真菌(またはその他の)抗原の摂取およびプロセシング;(iii)排出リンパ節への樹状細胞の移動と、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子との関連におけるナイーブT細胞への真菌(またはその他の)抗原のその後の提示;(iv)Th1エフェクター細胞の分化のためのリンパ節微環境の調整;(v)プライミングされた真菌特異性(またはその他の)Th1エフェクター細胞の感染部位への移動および溢出;ならびに(vi)エフェクター細胞の認識と、組織からの真菌(または他の病原体)の除去。これらの事象はすべて、持続性炎症性Th1サイトカイン環境下で発生しなければならない。適切なサイトカイン環境下でこれらの事象のいずれかが発生しないと、不適切な抗真菌性(またはその他の)免疫応答が生じることになる。
【0024】
したがって、新しくTh1抗真菌性(またはその他の)免疫の発生を助長する環境を生成するためには、まずTh1サイトカインの発現を誘導し、自然免疫エフェクター細胞の活性化時や、抗真菌性(またはその他の)Th1適応免疫応答の確立まで、このサイトカイン環境を維持することが必要となる。Th1サイトカインの存在により、既存のTh2サイトカインが下方調節される。
【0025】
真菌に感染した免疫無防備宿主における既存のTh2優勢免疫環境を最初に変化させるためには、HLAミスマッチ同種異系リンパ球、好ましくは高密度のCD40Lを発現する活性化Th1リンパ球を注入する。HLAミスマッチ同種異系細胞を注入することで、宿主免疫細胞からのTh1サイトカインの噴出が拒絶反応の一部として誘発される。同種異系細胞の注入後にTh1サイトカインの優位性が生じることが知られている(Carayol,Bourhis et al.1997)。さらに、混合リンパ球反応では、同種異系刺激細胞によってキラー細胞からのTh1サイトカインの産生が誘発されることが発見されている(DuPont and Hansen 1976;Toungouz,Denys et al.1995)。さらに、アカゲザルにおける複数のHLAミスマッチによるT細胞の刺激により、移植レシピエントにおけるin vitroおよびin
vivoでの炎症性Th1様応答への極性化が促進される(Lobashevsky,Wang et al.1998)。また、同種異系細胞の注入により誘発されるヒトGVHDの発症では、Th1型サイトカインの優位性も見られる(Das,Imoto et al.2001)。
【0026】
臨床的に言えば、好中球数の減少または機能障害は、侵入性アスペルギルス症において間違いなく最も特徴的な危険因子である(Wald,Leisenring et al.1997)。同種異系細胞の注入によるTh1サイトカインの産生は、他の抗真菌先天性エフェクター細胞を活性化する役割を果たす。同種異系細胞の注入とその拒絶反応により産生されるTh1サイトカイン(IFN−γ、TNF−α、IL−1、IL−2、IL−12およびIL−18が優勢)は、NK細胞およびDCなどの他の自然免疫エフェクター細胞を活性化し、さらにT細胞を活性化する(Antin and Ferrara 1992)。次いで、これらの細胞が、Th1サイトカインの産生を維持かつ増強する役割を果たすオートクラインおよびパラクリンサイトカインネットワークを生成するTh1サイトカインを産生する(Mailliard,Son et al.2003)。活性化自然免疫細胞はIL−12およびIL−18を産生し、これらがオートクラインフィードバックループで相乗的に作用して、IFN−γの産生を増強する(Micallef,Tanimoto et al.1997;Okamura,Kashiwamura et al.1998)。活性化NK細胞によるIFN−γの産生は、Th1細胞のプライミングプロセスで機能し、このプロセスがTh1適応免疫応答におけるCD8+CTLの増殖およびエフェクター機能を支持する(Trinchieri 1995)。
【0027】
同種異系細胞の注入に応答して産生されるTh1サイトカインによるNK細胞およびDCの活性化は、Th1ステアリング環境においてde−novo真菌性抗原の排出やT細胞への提示を引き起こす上で不可欠な要素である。NK細胞は、ウイルス、寄生虫、細菌および真菌に対する防御に不可欠である(Trinchieri 1989)。免疫無防備宿主では、肺へのNK細胞の補充が、IAに対する効果的な防御機序であることが明らかにされている(Morrison,Park et al.2003)。DCは肺の全体的な抗真菌性免疫耐性を調整することから、アスペルギルスに対するTh1応答の活性化に不可欠であることもin vivo(Bozza,Gaziano et al.2002)、およびin vitro(Grazziutti,Przepiorka et al.2001)で発見されている。
【0028】
DCは、Th1サイトカインの存在下で活性化される。その後、活性化されたDCは、真菌性抗原の摂取後に排出リンパ節へ移動する。これらのDCは、MHCクラスIおよびMHCクラスII経路を介してこれらの病原体の抗原産物をT細胞へ提示する能力が増強される。活性化されたDCは、真菌性抗原への曝露後にIL−12を産生する能力を有しており、また、DCによりIL−12が産生されることで、Th1免疫が誘発されることが明らかにされている(Heufler,Koch et al.1996)。さらに、同種異系細胞の拒絶反応により生じるTh1サイトカインによって活性化される宿主T細胞は、CD40L表面マーカーを発現することも仮定される。CD40Lは、活性化されたT細胞の表面に発現される。CD40L発現T細胞によるDCのCD40ライゲーションは、DCによるIL−12産生の増強を引き起こし、副刺激分子の上方調節と抗原提示能力を増強する(Cella,Scheidegger et al.1996;Kelsall,Stuber et al.1996)。CD40とCD40Lの相互作用は、Th1細胞のin vivoでのIL−12依存性プライミングにきわめて重要な作用である(Kelsall,Stuber et al.1996)。
【0029】
注入された同種異系細胞によって発現した外来MHC抗原は、従来の自らMHCを制限した方法で宿主APCにより取り込まれるか(間接的同種異系反応性)、宿主T細胞のT細胞受容体(TCR)によって注入細胞の表面で直接認識されるか(直接的同種異系反応性)、それらの両方が行われる。いずれかの機序による宿主の同種異系応答によって、注入細胞の拒絶反応や、同種異系抗原に特異的なTh1適応免疫の確立が生じる(Ciubotariu,Tsang et al.2002)。アジュバントTh1サイトカインの存在下においては、同種異系抗原に特異的なTh1記憶細胞プールが宿主内で発生することが仮定される。その後、同種異系細胞を注入することで、これらの発生した同種異系抗原に特異的な記憶細胞が活性化される。活性化された記憶細胞は、肺内皮の接着受容体の上方調節を刺激するケモカイン受容体CCR5、CCR2またはCCR3を発現し、局所性真菌感染部位への溢出を可能にする(Sallusto,Lanzavecchia et al.1998)。活性化されたTh1記憶細胞の真菌感染部位における非特異的な浸潤とサイトカインの産生は、真菌に応答する局所的な自然免疫細胞や適応免疫細胞に対して強力な促進作用を及ぼす。
【0030】
所与の病原体抗原に特異的な高頻度の記憶細胞によって免疫系にバイアス生じると、無関係の病原体への感染時にこれらの細胞が活性化されることで、無関係の感染症の除去を大幅に増強することができる(Selin,Varga et al.1998)。肺のウイルス感染症の病因は、無関係の病原体に対する宿主の経験に関係することが明らかにされている(Chen,Fraire et al.2003)。この免疫学的機序は、「異種免疫」として知られている(Selin,Varga et al.1998;Chen,Fraire et al.2003)。したがって、同種異系細胞を複数回注入することで記憶プールが生成され、この記憶プールが、同じまたは類似の機序によって抗真菌性(またはその他の日和見微生物)免疫を増強する。
【0031】
常在感染に対する既存のTh2免疫のTh1免疫への切り替えを引き起こす、こうした上述のような、同種異系抗原に対するTh1免疫の増強による日和見病原体に対する免疫の機序に関する背景情報は、いくつかの所見から裏付けが得られている。例えば、Th2免疫応答を誘発するマンソン住血吸虫感染症では、これとは逆の変化が生じる。この応答は、既存のTh1応答の下方調節と、無関係の外来免疫原に対するTh2応答の上昇を引き起こす(Kullberg,Pearce et al.1992)。疾患マウスモデルにおけるTh1媒介性病変は、Th2免疫を誘発する無関係な寄生虫への同時感染によって改善することができる(Whary and Fox 2004)。転移細胞が腫瘍抗原を認識できない場合でも、養子免疫療法により、Th1サイトカインの産生を介して抗腫瘍活性を誘導することができる。例えば、非免疫原性腫瘍に罹患するマウスにポリクローナルTh1細胞を注入すると、腫瘍の60〜90%に拒絶反応が生じた。治癒した動物は、腫瘍に特異的な記憶を生じ、同じ腫瘍の再発を拒絶することができた(Saxton,Longo et al.1997)。同様に、転移性腫瘍マウスモデルにPPD特異性Th1クローンとPPD抗原とを同時に注入することで、抗転移作用と抗腫瘍活性が生じた(Shinomiya,Harada et al.1995)。
【0032】
真菌に対するTh1免疫を免疫抑制宿主で誘導できることは、アスペルギルスフミガーツスの複数回注入によりコルチゾン免疫抑制マウスの免疫処置を行うことで、Th1サイトカイン産生の増大に伴う致死量の分生胞子による再発に対して防御作用がもたらされるという所見(Centeno−Lima,Silveira et al.2002)によって裏付けられている。さらに、Th1免疫は維持することができ(Williams,Adams et al.2003)、またキメラ宿主でも誘発することができる(Ildstad,Wren et al.1985;Ruedi,Sykes et al.1989)。
【0033】
結論として、HLAミスマッチ同種異系細胞、好ましくは高密度CD40Lを発現する活性化Th1細胞を、日和見感染症に感染した免疫無防備宿主に複数回注入することで、自然免疫および適応免疫の両免疫系の活性化細胞が、病原体に対するde−novo Th1免疫応答を引き起こす背景の役割を果たすTh1サイトカインの噴出が生じる。
【0034】
同種異系細胞注入剤は、好ましくはHLAミスマッチ供与体由来の活性化Th1細胞である。移植やGVHDを予防するためには、免疫無防備患者への注入前に、同種異系細胞に放射線を照射しなければならない。
【0035】
好ましいプロトコルは、1×10〜1×1010個の同種異系細胞を静脈内注入することによって最初に患者をプライミングするプロトコルである。そして少なくとも7日後に、病原体由来の抗原源(好ましくは凍結/解凍させた微生物)と混合した追加の同種異系細胞を注入し、その混合物を皮内に注入する。必要に応じて、同種異系抗原源のみか、または病原体抗原源と混合した同種異系抗原源のいずれかを、ブースター注射として追加的に皮内または静脈内注入することができる。
【実施例】
【0036】
動物モデル
アスペルギルスフミガーツスをポテトデキストロース寒天斜面で、27℃にて5日間継代培養した。0.1%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)Tween 20を使用して、分生子を培養物から採取した。分生子懸濁液を13,000×gにて2分間遠心分離し、上清を取り除き、細胞数を数えた。20μL容量の滅菌PBS Tween 20でマウス1匹当たり10または10個の分生子を注入するように、濃度を調節した。酢酸コルチゾン250mg/kgを以下のように4回腹腔内注入することにより、マウスを免疫抑制した:(a)感染3日前、(b)感染日、および(c)感染2日後および4日後。アスペルギルスフミガーツス分生子の高接種に感染したコルチゾン治療マウスが致命的感染を発症したのに対して、同接種物に感染した免疫適格性マウスは真菌を制御することができた。
【0037】
同種異系Th1細胞
Balb/cマウスからTh1細胞を調製した。同マウスから脾臓細胞を採取し、ACKを溶解させた。10%のFBS、ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン、非必須アミノ酸(NEAA)、および2−メルカプトエタノール(2−ME;Life Technologies)を含有するRPMI 1640完全培地で、20IU/mLの組換えヒトIL−2、20ng/mLのrhIL−7、10ng/mLの組換えマウスIL−12、10μg/mLの抗マウスIL−4 mAb、および3.3mMのN−アセチル−システインとともに、抗CD3および抗CD28(CD3/CD28)でコーティングされた電磁ビーズをビーズ対T細胞比3:1で使用して、Tl細胞を生成した。0.2〜1.0×10個/mLに細胞濃度を維持するために、サイトカイン含有完全培地を2日目〜6日目に毎日添加した。ただし、rmIL−12は、培養日当日にのみ添加した。培養5日後に、細胞を抗CD3/抗CD28でコーティングされた生体磁性粒子(Miltenyi)と混合し、6日目に使用するために採取した。
【0038】
(実施例1)
免疫抑制C57BL/6マウスに致死量(分生子10個)の真菌を接種した。これらのマウスを未治療対照群、同種異系細胞単回注入群およびワクチン接種群に分けた(各群8匹)。
【0039】
同種異系細胞単回注入群には、接種後7日目に活性化同種異系CD4+Th1細胞(放射線照射済)1×10個を静脈内に注入した。
【0040】
ワクチン接種群には、接種後7日目にプライミング量の活性化同種異系CD4+Th1細胞(放射線照射済)1×10個を注入した。そして14日目には、あらかじめ冷凍・解凍サイクルを2回受けた10個の分生子に由来する上清と混合した活性化同種異系CD4+Th1細胞1×10個をマウスの後肢に皮内注入した。
【0041】
免疫抑制マウスが感染すると、5〜7日後に100%の死亡率が記録されたのに対して、免疫適格性感染マウスはすべて生存した。死亡マウスの臓器を死体解剖したところ、真菌の侵入や、観察した臓器(脳、肺および腎臓)の破壊が明らかになった。
【0042】
単回注入を受けたマウスは、感染後に平均22日(12〜28日)間生存した。
【0043】
ワクチン接種を受けたマウス8匹中5匹は、感染の兆候もなく30日以上生存した。
【0044】
これらのデータにより、同種異系細胞を注入することで、真菌の抑制やマウスの生存がもたらされることが実証される。
【0045】
以上において本発明を好ましい実施形態を参照しながら説明してきたが、本発明の趣旨および適用範囲から逸脱することなく、形式や詳細が変更される場合があることを、当業者であれば理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2012−176991(P2012−176991A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−137934(P2012−137934)
【出願日】平成24年6月19日(2012.6.19)
【分割の表示】特願2009−505345(P2009−505345)の分割
【原出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(508306233)イミュノバティブ セラピーズ, リミテッド (2)
【Fターム(参考)】