説明

日射遮蔽膜形成用塗布液および日射遮蔽膜ならびに日射遮蔽機能を有する基材

【課題】既存の基材に適応でき、常温での塗膜形成が可能で、高い日射遮蔽能と優れた膜強度を得ることができること。
【解決手段】バインダー成分、希釈溶媒、硬化触媒および近赤外線遮蔽成分とを含有する日射遮蔽膜形成用塗布液であって、前記バインダー成分の少なくとも1種がグリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランを混合反応させてなる反応物であり、かつ前記近赤外線光遮蔽成分が、平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子を混合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、プラスチック、その他の日射遮蔽機能を必要とする透明基材を始めとする各種の基材に適用可能な、常温における塗膜形成が可能な日射遮蔽膜形成用塗布液、および該日射遮蔽膜形成用塗布液が硬化した日射遮蔽膜、ならびに該日射遮蔽膜が少なくとも片面に形成された日射遮蔽機能を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外線、可視光線、紫外線の3つに大きく分けることができる。このうち、長波長領域の近赤外線(熱線)は、熱エネルギーとして人体に感じる波長領域の光であり、室内、車内の温度上昇の原因ともなる。一方、短波長領域の紫外線は、日焼け、しみ、そばかす、発癌、視力障害など人体への悪影響があり、物品の機械的強度の低下、色褪せなどの外観の劣化、食品の劣化、印刷物の色調の低下なども引き起こすものである。
【0003】
これらの不要な近赤外線(熱線)や有害な紫外線のうち、近赤外線(熱線)を遮蔽するために、該近赤外線を遮蔽する日射遮蔽膜を基材上に形成して、日射遮蔽機能を持たせたガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材が使用されている。そして、従来から、前記日射遮蔽膜として、金、銀、銅、アルミニウムなどのような伝導電子を多量に持つ金属材料の薄膜を日射遮蔽材料とした日射遮蔽膜が用いられている。
【0004】
一方、日射遮蔽材料を含有する塗布液を適宜な透明基材上に塗布することで、日射遮蔽膜を当該基材上に形成し、簡単かつ低コストに日射遮蔽機能を持たせた透明基材を製造することも提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、六ホウ化物が、自由電子を多量に保有しており、これらを微粒子化し高度に分散させることによって可視光領域に透過率の極大を持つとともに、可視光領域に近い近赤外領域に強いプラズマ反射を発現して透過率の極小を持つようになることが開示されている。
また、特許文献2には、バインダー中に日射遮蔽材料として六ホウ化物を含有した日射遮蔽膜形成用塗布液が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、日射遮蔽機能を有する微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.0<z/y<3.0)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、および/または、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子を含む中間層を、板ガラス、プラスチックおよび日射遮蔽機能を有する微粒子を含むプラスチックから選ばれた2枚の合わせ板間に介在させて成る日射遮蔽用合わせ構造体が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−693984号公報
【特許文献2】特開2001−262061号公報
【特許文献3】国際公開第WO2005/087680A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、基材上に日射遮蔽膜として金属の薄膜を形成する場合、スパッタリング法や蒸着法が用いられる場合がある。しかし、これらの方法は、大がかりな真空装置を必要とするため生産性が劣り、日射遮蔽膜の製造コストが高くなり、また大面積の成膜が困難であった。
【0009】
他方、日射遮蔽材料を含有する塗布液を適宜な基材上に塗布して、日射遮蔽膜を得る場合がある。該方法においては、日射遮蔽材料として金属材料を用いたときには微粒子化に伴う酸化が問題となる。そこで、金属としてAuを用いたときには原料コストが高くなるという問題があった。また、日射遮蔽材料として六ホウ化物を用いたときには、優れた日射遮蔽能を得ようとして六ホウ化物の添加量を増やすと、可視光透過率まで低下してしまうという問題があった。
さらに、いずれの日射遮蔽膜においても、上記課題を解決したうえで同様の優れた機械的強度を維持することが求められていた。
【0010】
本発明の目的は、上述の状況を考慮してなされたものであり、既存の各種の基材に適応でき、20℃から25℃程度の常温における塗膜形成も可能で、高い日射遮蔽能と優れた膜強度を得ることができる日射遮蔽膜形成用塗布液、およびこれを用いて形成された日射遮蔽能が高く表面硬度の高い日射遮蔽膜、ならびに日射遮蔽機能を有する透明基材を始めとする各種の日射遮蔽機能を有する基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランを混合反応させてなる反応物をバインダー成分として用い、さらに近赤外線遮蔽成分として、平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物から選ばれた少なくとも1種以上を含み、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種からなる微粒子、平均粒径200nm以下のアンチモンドープ酸化錫(以下、ATOと記載することがある)、平均粒径200nm以下の錫ドープ酸化インジウム(以下、ITOと記載することがある)のうちから選ばれる少なくとも1種以上の微粒子を含有し、該近赤外線遮蔽成分の含有量が15重量%以下であり、このうち、前記複合タングステン酸化物が1〜10重量%であり、前記六ホウ化物微粒子が0.5重量%以下である日射遮蔽膜形成用塗布液を製造し、該日射遮蔽膜形成用塗布液を適宜な基材上で硬化させることで前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、第1の構成は、
バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒とを含有する日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記バインダー成分の少なくとも1種として、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランとをモルで比2:1〜1:1の範囲で反応させてなる一般式(化1)で表される反応物を含有し、
前記近赤外線遮蔽成分として、平均粒径200nm以下の、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物から選ばれた少なくとも1種以上の微粒子を含有し、
さらに前記近赤外線遮蔽成分として、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種からなる微粒子と、平均粒径200nm以下のアンチモンドープ酸化錫、平均粒径200nm以下の錫ドープ酸化インジウムのうちから選ばれる少なくとも1種以上の微粒子とを含有し、
該近赤外線遮蔽成分の含有量が15重量%以下であり、このうち、前記複合タングステン酸化物が1〜10重量%であり、前記六ホウ化物微粒子が0.5重量%以下であることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【化1】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、a、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【0013】
第2の構成は、
第1の構成に記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【0014】
第3の構成は、
第1または第2の構成に記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【0015】
第4の構成は、
第1から第3の構成のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、前記近赤外線遮蔽成分が1〜10重量%含まれ、且つ、前記バインダー成分が10〜40重量%含まれることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【0016】
第5の構成は、
第1から第4の構成のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
さらに、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、またはこれらの混合物から選択される、1種類以上の有機紫外線吸収剤を含有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【0017】
第6の構成は、
第1から第5の構成のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
さらに、紫外線吸収剤として、CeO2、ZnO、Fe23、FeOOHから選択される少なくとも1種類以上の無機紫外線遮蔽成分で、平均粒径が100nm以下の微粒子を含有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液である。
【0018】
第7の構成は、
第1から第6の構成いずれかに記載された日射遮蔽膜形成用塗布液が、硬化したものであることを特徴とする日射遮蔽膜である。
【0019】
第8の構成は、
第7の構成に記載の日射遮蔽膜が少なくとも片面に形成され、かつ透明性を有することを特徴とする日射遮蔽機能を有する基材である。
【発明の効果】
【0020】
第1から第6の構成のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液は、常温であっても硬化し得るものであり、平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子を混合使用しており、高い日射遮蔽能と表面強度とを有する日射遮蔽膜を形成することができる。
【0021】
第7の構成に記載の日射遮蔽膜は、上述のように、平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子を混合使用しており、上記複合タングステン酸化物の添加量の一部を六ホウ化物、ATO、ITOの微粒子に置き換えることによって、膜の色調を幅広く制御することが可能となる。具体的には、六ホウ化ランタン(以下LaB6と記載)がグリーンの色調を、ATOがニュートラルな色調を、またITOが薄いブルーの色調をそれぞれ有する近赤外遮蔽材料であるため、当該日射遮蔽膜は、膜の色調を幅広く制御でき、高い日射遮蔽能を有する。さらに、高い機械的強度も有する。
【0022】
第8の構成に記載の日射遮蔽機能を有する基材は、高い日射遮蔽能と機械的強度と透明性とを有する日射遮蔽膜を具備した基材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態の日射遮蔽膜形成用塗布液は、バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒と、紫外線吸収材とを含有して構成される。そこで、1.近赤外線遮蔽成分、2.近赤外線遮蔽成分(複合タングステン酸化物微粒子)の製造方法、3.近赤外線遮蔽成分の添加方法、4.バインダー成分、5.バインダー成分の製造方法、6.希釈溶媒、7.硬化触媒、8.紫外線吸収剤、9.日射遮蔽膜形成用塗布液の調製、10.日射遮蔽膜の形成と日射遮蔽機能を有する基材、の順に説明する。
【0024】
1.近赤外線遮蔽成分
本実施形態において近赤外線遮蔽成分として用いられる近赤外線吸収材料は、平均分散粒子径が200nm以下である複合タングステン酸化物の微粒子を含んでいる。
当該複合タングステン酸化物は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子であり、十分な量の自由電子が生成されるため近赤外線吸収成分として有効に機能する。
【0025】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましい。さらに、例えば、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子の場合であれば、好ましいM元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素から選択される1種類以上の元素を含む複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。
【0026】
このとき、添加されるM元素の添加量xは、x/yの値で0.001以上、1.0以下が好ましく、更に好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるxの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。一方、酸素の存在量は、z/yの値で2.2以上3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3などを挙げることができるが、y,zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
【0027】
以上説明した複合タングステン酸化物微粒子は、単独で使用してもよいが、二種類以上を混合して使用することも好ましい。本発明者らの実験によれば、これらの微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、かつ波長700〜1800nmの間に極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0028】
複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下とすることが好ましい。その理由は、平均粒径が200nm以下であると微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中における微粒子の沈降が回避できるからであり、また平均粒径が200nm以下の微粒子は、光散乱による可視光透過率の低下の原因とならないからである。
【0029】
なお、平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下と小さいほど好ましい。現在の技術において、粒径2nm程度までの微粒子は商業的に容易に製造できる。また、複合タングステン酸化物微粒子の含有量は、1〜10重量%以下が好ましい。その理由は、含有量が1重量%未満では日射遮蔽効果がほとんど得られず、含有量が10重量%を超えると塗膜強度が低化したり、後述する塗膜に筋状の外観不良が生じたりするからである。
【0030】
2.近赤外線遮蔽成分(複合タングステン酸化物微粒子)の製造方法
上記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を、不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0031】
複合タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれた、いずれか一種類以上であることが好ましい。
【0032】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましい。さらに、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一に混合することが可能となる観点から、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることが好ましい。これらの原料を用い、これらを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理することで、上述した粒径の複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0033】
さらに元素Mも、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものとすることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0034】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し複合タングステン酸化物微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上、650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上、1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合には、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0035】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な近赤外線遮蔽特性を示し、この状態で近赤外線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、複合タングステン酸化物微粒子中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む複合タングステン酸化物微粒子を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定なものとすることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N2、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、複合タングステン酸化物微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0036】
上述したようにして得られた複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0037】
3.近赤外線遮蔽成分の添加方法
本実施形態においては、上記平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種と、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子とを混合して使用する。上記複合タングステン酸化物の添加量の一部を、これらの微粒子に置き換えることによって、膜の色調を幅広く制御することが可能となる。具体的には、例えば六ホウ化ランタン(以下LaB6と記載)はグリーンの色調を、ATOはニュートラルな色調を、またITOは薄いブルーの色調を、有する近赤外線遮蔽材料である。
【0038】
複合タングステン酸化物微粒子に添加される近赤外線遮蔽成分である六ホウ化物微粒子としては、CeB6、GdB6、TbB6、DyB6、HoB6、YB6、SmB6、EuB6、ErB6、TmB6、YbB6、LuB6、SrB6、CrB6、LaB6、PrB6、NdB6微粒子が挙げられ、これら微粒子は単独あるいは2種以上を混合して使用することもできる。これら六ホウ化物微粒子は、暗い青紫などに着色した粉末であるが、粒径が可視光波長に比べて十分に小さく、薄膜中に分散した状態では膜に可視光透過性が生じるが、近赤外線遮蔽能は十分強く保持できる。
【0039】
本発明者の実験によれば、この六ホウ化物微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、かつ波長700〜1800nmの間に極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0040】
六ホウ化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下とする必要がある。その理由は、平均粒径が200nm以下であれれば、微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中に微粒子の沈降が生じ難いからであり、また平均粒径が200nm以下の微粒子もしくはそれらが凝集した粒子であれば、それによる光散乱によっても可視光透過率の低下の原因とならないので好ましい。なお平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下と小さいほど好ましいが、現在の技術では商業的に製造できる最小粒径はせいぜい2nm程度である。
【0041】
また、本実施形態で用いるITO微粒子やATO微粒子は、可視光領域で光の吸収や反射がほとんど無く、波長1000nm以上の領域でプラズマ共鳴に由来する反射・吸収が大きい。尚、これらの透過プロファイルでは、近赤外領域で長波長側に向かうに従って透過率が減少する。一方、六ホウ化物の透過プロファイルでは、上述のごとく波長1000nm付近に極小値をもち、それより長波長側では徐々に透過率の上昇を示す。このため、六ホウ化物とITOやATOとを組み合わせて使用することにより、可視光透過率は減少させずに、近赤外領域の熱線を遮蔽することが可能となり、それぞれ単独で使用するよりも熱線遮蔽特性が向上する。
【0042】
ITO微粒子やATO微粒子の微粒子も、上述と同様の理由で平均粒径200nm以下が好ましい。尚、透光性材料の一部の用途においては、透明性よりも不透明な光透過性を要求されることがあり、その場合は粒径を大きくして散乱を助長する構成が望ましいが、粒径が大きすぎると赤外線吸収能そのものも減衰するため、やはり200nm以下の平均粒径が好ましい。
【0043】
六ホウ化物微粒子の単位重量当たりの熱線遮蔽能力は非常に高く、ITO微粒子やATO微粒子と比較して30分の1以下の使用量で同等の効果を発揮する。従って、六ホウ化物微粒子を添加することによって、少量でも好ましい熱線遮蔽効果が得られるうえ、ITO微粒子やATO微粒子と併用した場合にはこれらの微粒子を削減してコスト低下を図ることが可能となる。また、全微粒子の使用量を大幅に削減できるので、基材である樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性の低下を防ぐことができる。これらの理由から、六ホウ化物微粒子の含有量は0.5重量%以下が好ましい。
【0044】
4.バインダー成分
本実施形態において用いられるバインダー成分の少なくとも1種は、グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとを混合反応させて得られた反応物である。グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとしては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどを挙げることができ、またアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとしては、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0045】
5.バインダー成分の製造方法
上記反応においては、グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとの配合比は、モル比で2:1〜1:1とするのが好ましい。グリシドキシプロピル基を含有するアルコキシシランとアミノプロピル基を含有するアルコキシシランとの配合比が、モル比で2:1以下であれば膜の硬化が速く、強度も強くなり、1:1以上であれば膜が白化することがないからである。
【0046】
得られる反応物の基本構造は下記の一般式(化2)で示される。
【化2】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、またa、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【0047】
上記反応物を得るためには、常温で2週間程度の熟成が必要である。ここで、混合後に加熱することによって、熟成時間を短縮することも可能である。その際の加熱温度は40〜80℃が好ましい。加熱温度が40℃以上あれば、熟成時間短縮の効果があり、80℃以下であれば反応物が着色することがないからである。
【0048】
本実施形態におけるバインダー成分は、前記一般式(化1)の基本構造に示すように、分子両端にアルコキシル基を持ち、分子内にフレキシブルなメチレン鎖を持つ。このアルコキシル基は室温で加水分解して反応性の高いシラノールを生じ、これが縮合重合することによって自身で高分子化、あるいは他の成分と結合することができる。また分子中のメチレン鎖は、前記縮合重合時の歪みを吸収し塗膜のクラック発生を抑制する。
【0049】
さらに、本実施形態における日射遮蔽膜形成用塗布液の硬化は、バインダー成分中のアルコキシル基の加水分解と、それに続くシラノールの縮合重合による高分子化とによって起こる。このとき形成されたシロキサン結合は強固であり、堅牢な塗膜を形成することができる。
【0050】
6.希釈溶媒
日射遮蔽膜形成用塗布液中の希釈溶媒は、特に限定されるものではなく塗布条件や、塗布環境、塗布液中の固形分の種類に合わせて選択可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類など各種溶媒が使用可能である。また用途によって、前記1種または2種以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0051】
7.硬化触媒
上述のバインダー成分には湿気硬化性があるが、常温での硬化速度を実用的なものとするために、日射遮蔽膜形成用塗布液に硬化触媒の添加を行う。そして、この硬化触媒としては、三弗化ホウ素などが好適に用いられる。さらに、当該硬化触媒の添加量を調整することによって、硬化時間を制御することが可能となる。この結果、当該日射遮蔽膜形成用塗布液の応用範囲が広がることとなる。ここで、硬化触媒の含有量は0.01〜3重量%が好ましい。
【0052】
8.紫外線吸収剤
形成される日射遮蔽膜の紫外線遮蔽能を強化するために、日射遮蔽膜形成用塗布液に、紫外線吸収剤として有機紫外線吸収剤および/または無機紫外線遮蔽成分を含有させることもできる。
【0053】
有機紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系(例えば、ベンゾフェノン)とべンゾトリアゾール系(例えば、ベンゾトリアゾール)の有機紫外線吸収剤のいずれか一方、または両方を含有させることができ、その含有量は0.5〜7重量%が好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.5重量%以上あれば、形成される日射遮蔽膜の紫外線遮蔽能が十分であり、一方、7重量%以下であれば紫外線吸収剤が日射遮蔽膜の表面に滲み出したり、日射遮蔽膜に曇りが生じたりするのを回避できるからである。
【0054】
また用途によっては、紫外線吸収剤として無機紫外線遮蔽成分を含有させてもよい。この場合の無機紫外線遮蔽成分として、平均粒径が100nm以下のCeO2、ZnO、Fe23、FeOOH微粒子の中から選ばれた1種もしくは2種以上を選択することができる。平均粒径を100nm以下とした理由は、粒径が100nm以下であれば微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中における微粒子の沈降が生じ難いこと、また粒径が100nm以下であれば、当該微粒子に起因する光散乱によっても可視光透過率の低下の原因とならないからである。
【0055】
また、無機紫外線遮蔽成分の含有量は0.1〜5重量%が好ましい。無機紫外線遮蔽成分の含有量が0.1%以上あれば形成される日射遮蔽膜の紫外線遮蔽能が十分に発揮され、一方、5重量%以下であれば該無機紫外線遮蔽成分に起因する可視光透過率の低下や塗膜のムラが顕著になることを回避できるからである。
【0056】
さらに、無機紫外線遮蔽成分としてFe23、FeOOH微粒子を選択することによって、塗布膜に赤味や黄色味を持たせることも可能である。そして、これらの無機紫外線遮蔽成分は経時変化が少ない。なお、無機紫外線遮蔽成分の平均粒径は小さいほど好ましい。無機紫外線遮蔽成分においても現在の技術において、粒径2nm程度までの微粒子は商業的に容易に製造できる。
【0057】
9.日射遮蔽膜形成用塗布液の調製
本実施形態における日射遮蔽膜形成用塗布液の調製において、近赤外線遮蔽成分の含有量を15重量%以下、好ましくは1〜10重量%となるように添加し、このうち、複合タングステン酸化物微粒子を1〜10重量%とし、六ホウ化物微粒子を0.5重量%以下とし、また、バインダー成分を10〜40重量%となるように添加し、所望により紫外線吸収剤を0.1〜7重量%となるように添加し、硬化触媒を0.01〜3重量%となるように添加し、さらに希釈溶剤を添加することによって、総計で100重量%となるように秤量して混合する。
【0058】
ここで、近赤外線遮蔽成分の含有量が15重量%以下であれば、日射遮蔽膜の透明性および良好な膜外観を確保できる。更に、近赤外線遮蔽成分の含有量が1重量%以上あれば、形成される日射遮蔽膜の近赤外線遮蔽能を十分に確保でき、10重量%以下であれば、日射遮蔽膜の透明性および良好な膜外観をより一層確保できる。
また、バインダーの含有量が10重量%以上あれば、形成される日射遮蔽膜の表面硬度を十分に確保でき、40重量%以下であれば、塗布液の粘度が過剰に高くなるのを回避でき、均一な塗布が容易である。
また、紫外線吸収剤の含有量が0.1重量%以上あれば、形成される日射遮蔽膜の紫外線遮蔽能を十分に確保でき、7重量%以下であれば、良好な膜外観を確保できる。
【0059】
さらに、硬化触媒の含有量が0.01重量%以上あれば、形成される日射遮蔽膜の硬化に対して促進効果が得られ、3重量%以下であれば、塗布時の液のレベリング性が確保され、混合した塗布液が塗布前に硬化してしまうこともない。
尤も、硬化触媒が日射遮蔽膜形成用塗布液に添加されると、バインダー成分の硬化が開始するので、該日射遮蔽膜形成用塗布液の塗布の直前に添加することが好ましい。
さらに、該硬化触媒は、メタノール、エタノール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類などの各種溶媒に、予め溶解させておくことが好ましい。溶液の形態であれば、添加が容易で且つ直ちに均一化できるからである。
【0060】
10.日射遮蔽膜の形成と日射遮蔽機能を有する基材
本実施形態における日射遮蔽膜形成用塗布液を、ガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材を始めとする所定の基材の片面あるいは両面に塗布し、常温で硬化させることによって、前記透明基材の表面上に表面硬度の高い日射遮蔽能を持つ日射遮蔽膜を形成することができる。日射遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法は特に限定されるものではなく、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、布や刷毛による塗布方法など、処理液を平坦で、薄く、かつ均一に塗布できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。この結果、日射遮蔽膜の形成の生産性は非常に高いものとなった。
得られた日射遮蔽膜は、表面硬度が高く透明性に優れながら、高い日射遮蔽機能を有している。
【0061】
また、本実施形態においては、平均粒径200nm以下の複合タングステン酸化物に加え、さらに、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種、平均粒径200nm以下のATO、平均粒径200nm以下のITOのうち少なくとも1種以上の微粒子を混合して使用する。上記複合タングステン酸化物の添加量の一部をこれらの微粒子に置き換えることによって、六ホウ化ランタンがグリーンの色調を、ATOがニュートラルな色調を、またITOが薄いブルーの色調を有する近赤外線遮蔽材料であることから、膜の色調を幅広く制御することが可能となる。
【0062】
さらに、当該日射遮蔽膜が片面あるいは両面に形成された透明基材は、高い機械的耐久性と透明性とを有し、高い日射遮蔽機能を有している。当該日射遮蔽膜が紫外線吸収剤を含有する場合には、紫外線遮蔽能も発揮する他、前記基材自体の紫外線による劣化を抑制することも可能となる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。
当該実施例および比較例に用いた日射遮蔽膜形成用塗布液の構成成分の概要を表1に示し、該日射遮蔽膜形成用塗布液を用いて形成した日射遮蔽膜の特性を表2に示す。
【0064】
[実施例1]
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60gとアミノプロピルトリエトキシシラン40gとを混合し、マグネティックスターラーで1時間撹拌後、室温で14日間熟成させて目的のバインダー成分(以下、「合成液」と記載する場合がある。)100gを得た。
メタタングステンアンモニウム水溶液(WO3換算で50wt%)と塩化セシウムの水溶液とを、WとCsとのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合して混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cs0.33WO3の粉末を製造した。この粉末の比表面積は20m2/gであった。また、当該Cs0.33WO3粉末についてX線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0065】
このCs0.33WO3粉末20重量%と、トルエン75重量%と、分散剤5重量%とを混合し分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(A液)とした。
LaB6粉末7重量%、トルエン86重量%および分散剤7重量%とを混合し分散処理を行い、平均粒径90nmの分散液(B液)とした。
ATO粉末25重量%、プロピレングリコールメチルエーテル65重量%および分散剤10重量%とを混合し分散処理を行い、平均粒径80nmの分散液(C液)とした。
ITO粉末25重量%、プロピレングリコールメチルエーテル65重量%および分散剤10重量%とを混合し分散処理を行い、平均粒径80nmの分散液(D液)とした。
20gの合成液と、15gのA液と、40gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、5gのB液と、5gのC液と、5gのD液を混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0066】
この日射遮蔽膜形成用塗布液を、厚さ3mmのソーダライム系ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布し、常温で放置して日射遮蔽膜を得た。
得られた日射遮蔽膜における光の透過率を、日立製作所(社)製の分光光度計を用いて測定し、JIS R 3106にしたがって可視光透過率(τv)、日射透過率(τe)を算出し、ISO 9050にしたがって紫外線透過率(τuv)を算出した。またテーバー摩耗試験機に摩耗輪CS10fを用い、荷重250g、50回転の摩耗試験を行い、試験前後のへイズの変化量(ΔH)で膜の表面硬度を評価した。なおへイズは村上色彩技術研究所(社)製の反射・透過率計で測定した。
実施例1により得られた日射遮蔽膜のτvは81.5%、τeは54.3%であり、可視光透過性があって日射遮蔽能があることが分った。τuvは52.5%であった。またΔHは4.8%であり表面硬度が非常に高く、機械的強度が良好な膜が形成されていた。
【0067】
[実施例2]
FeOOH微粒子15重量%と、プロピレングリコールモノエチルエーテル80重量%と、分散剤5重量%とを混合して分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(E液)を製造した。
実施例1に記載した20gの合成液と、30gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gのA液と、5gのB液と、5gのC液と、5gのD液と、8gのE液と、べンゾトリアゾール系有機紫外線吸収剤2gとを混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。実施例2により得られた日射遮蔽膜のτvは77.8%、τeは45.6%であり、可視光透過性があって日射遮蔽能があることが分った。τuvは0.5%であり紫外光の遮蔽能が優れていた。またΔHは5.3%であり表面硬度が非常に高く、機械的強度が良好な膜が形成されていた。
【0068】
[比較例1]
比較のため、3mmのソーダライム系ガラス基板のみを試料として、実施例1と同様の測定を行った。
その結果、当該ソーダライム系ガラス基板のτvは90.3%、τeは87.3%、τuvは70.7%であった。
【0069】
[比較例2]
実施例1に記載した20gの合成液と、5gのイソブチルアルコールと、65gのA液とを混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成した。しかし、比較例2により得られた日射遮蔽膜は、濃淡ムラが生じ不均一となり、筋状の欠陥が生じた。
【0070】
[比較例3]
実施例1に記載した20gの合成液と、2gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、20gのA液と、24gのC液と、24gのD液を混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成した。しかし、比較例3により得られた日射遮蔽膜は、濃淡ムラが生じ不均一となり、筋状の欠陥が生じた。
【0071】
[比較例4]
実施例1に記載した20gの合成液と、30gのイソブチルアルコールと、37.5gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、2.5gのA液とを混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。比較例4により得られた日射遮蔽膜のτvは86.7%、τeは70.1%であり、可視光透過性はあるものの日射遮蔽能は不十分であることが分った。またΔHは2.8%であった。
【0072】
[比較例5]
実施例1に記載した50gの合成液と、5gのイソブチルアルコールと、5gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gのA液と、5gのB液と、5gのC液と、5gのD液を混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。比較例5により得られた日射遮蔽膜形成用塗布液は粘度が著しく高く、均一な塗布が行えなかった。
【0073】
[比較例6]
実施例1に記載した5gの合成液と、30gのイソブチルアルコールと、40gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gのA液と、5gのB液と、5gのC液と、5gのD液を混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。比較例6により得られた日射遮蔽膜のτvは73.2%、τeは36.7%であり、可視光透過性があって日射遮蔽能があることが判明した。しかし、ΔHは25.5%で表面硬度が非常に低く、爪で擦ると傷がついた。
【0074】
[比較例7]
Cs0.33WO3として、平均粒径250nmの粗大粒子を用いた以外は、実施例2と同様の手順で日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。比較例7により得られた日射遮蔽膜のτvは77.8%、τeは48.9%であり、可視光透過性があって日射遮蔽能があることが判明した。τuvは50.5%であった。しかし、可視光の散乱が強く、曇りがあって実用には向かなかった。またΔHは7.5%であった。
【0075】
[比較例8]
実施例1に記載した20gの合成液と、30gのイソブチルアルコールと、35gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、5gのC液とを混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって日射遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
つぎに、実施例1と同様な手順で日射遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。比較例8により得られた日射遮蔽膜のτvは76.8%、τeは60.5%であり、可視光透過性があって日射遮蔽能があることが判明した。しかし、実施例1、2に比べ、日射遮蔽能が低くなった。またΔHは3.1%であった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒とを含有する日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記バインダー成分の少なくとも1種として、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランとをモルで比2:1〜1:1の範囲で反応させてなる一般式(化1)で表される反応物を含有し、
前記近赤外線遮蔽成分として、平均粒径200nm以下の、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物から選ばれた少なくとも1種以上の微粒子を含有し、
さらに前記近赤外線遮蔽成分として、平均粒径200nm以下の六ホウ化物の中から選ばれた少なくとも1種からなる微粒子と、平均粒径200nm以下のアンチモンドープ酸化錫、平均粒径200nm以下の錫ドープ酸化インジウムのうちから選ばれる少なくとも1種以上の微粒子とを含有し、
該近赤外線遮蔽成分の含有量が15重量%以下であり、このうち、前記複合タングステン酸化物が1〜10重量%であり、前記六ホウ化物微粒子が0.5重量%以下であることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【化1】

(式中、X1、X2はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、Y1、Y2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選択されるアルキル基を示し、a、b、c、dはそれぞれ1≦a≦3、a+b=3、1≦c≦3、c+d=3の関係を満たす数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項3】
請求項1または2に記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記近赤外線遮蔽成分が1〜10重量%含まれ、且つ、前記バインダー成分が10〜40重量%含まれることを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
さらに、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、またはこれらの混合物から選択される、1種類以上の有機紫外線吸収剤を含有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の日射遮蔽膜形成用塗布液であって、
さらに、紫外線吸収剤として、CeO2、ZnO、Fe23、FeOOHから選択される少なくとも1種類以上の無機紫外線遮蔽成分で、平均粒径が100nm以下の微粒子を含有することを特徴とする日射遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載された日射遮蔽膜形成用塗布液が、硬化したものであることを特徴とする日射遮蔽膜。
【請求項8】
請求項7に記載の日射遮蔽膜が少なくとも片面に形成され、かつ透明性を有することを特徴とする日射遮蔽機能を有する基材。

【公開番号】特開2008−101111(P2008−101111A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284833(P2006−284833)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】