説明

日影シミュレーションシステム

【課題】検証対象建物が受ける日影の時間的変化を簡易に検証可能とする日影シミュレーションシステムを提供する。
【課題手段】最初に3Dモデリング・ソフトA1を立ち上げ、対象建物周辺の二次元地図データD1(含む階数情報)及び階高設定値D2を読み込む。次に、同ソフトA1の3D化機能を用いて、当該地域の3D化を行う。次いで、実際の建物外観や追加建造物(例えば電柱等)に合わせて追加修正処理を行う。さらに、CADソフトA2上で建築予定地に検証対象建物(集合住宅)を追加作成する。以上の処理を施した対象地域の3Dデータを、CADソフトA2に読み込ませる。次いで、CADソフトA2上で検証対象建物の各戸ベランダ面に集熱パネルを垂直設置する画像処理を行う。CADソフトA2に地点情報、方位角等の情報を入力して、日影シミュレーション演算を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は日影シミュレーションシステムに係り、特に、検証対象建物が受ける日影の時間的変化を簡易に検証可能とする日影シミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周辺建物等の外部環境が対象建物に与える日影の影響を検証可能とするシミュレーションシステムが開示されている(例えば特許文献1)。
特許文献1の日影シミュレーションシステムは、検証対象建物周辺の位置情報を含む顧客情報データベースと、指定された位置情報に対応する地図情報を出力可能とする地図情報データベースと、該地図情報データベースに基づいて対象地域周辺の建物立体形状を自動的に生成し、かつ他の建物から延びる日影を生成する日影生成手段と、を備えている。
この場合、建物立体形状の生成に際して、地図情報に付帯する建築規制情報(周辺建物の斜線制限や日影規制、あるいは都市計画図に基づく用途の制限等)に基づいて、近隣高さ情報を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−265833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
文献1の技術によれば、周辺建物の高さ等を実際に測定することなく地図上の建物の立体形状化が可能となる。
しかしながら建築規制情報を用いているため、建物高さは対象地域一律に規定されることになる。このため実際の建物高さとは異なるケースが多く、シミュレーション結果も誤差が大きくなるという問題がある。
一方、都市部等ごく一部の地域については、商品化されている三次元地図情報を利用することにより建物高さ情報の取得が可能ではあるが、利用料が高いという問題がある。また、この情報を利用できない地域については適当な代替手段もないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは鋭意研究の結果、既存の住宅地図情報及びソフトウエアを利用して簡易かつ低コストで、実際の外部環境に近い日影情報を作成可能とする日影シミュレーションシステムを発明した。
本発明は、以下の内容を要旨とする。すなわち、本発明に係る日影シミュレーションシステムは、
【0006】
(1)検証対象地点を含む周辺地域を抽出可能とし、かつ、地図上の各建物に関する図形ポリゴンデータ及び階数データを備えた住宅地図情報と、
該住宅地図情報を用いて、抽出した周辺地域の三次元地図を作成可能とする三次元地図作成手段と、
該三次元地図作成手段により作成された三次元地図に基づいて、該周辺地域の建造物等が検証対象の建築又は建築予定の建物(以下、検証対象建物という)に与える日影の時間的変化を取得可能とする手段と、
を備えて成ることを特徴とする。
【0007】
(2)上記発明において、前記周辺地域の建造物等による日影が、前記検証対象建物に設置される太陽エネルギー収集装置の日照量に与える影響の時間的変化を取得する手段を、
さらに備えたことを特徴とする。
本発明において「太陽エネルギー収集装置」とは太陽熱、太陽光等の太陽から供給されるエネルギーを集めて利用する装置をいう。
【0008】
(3)上記発明において、前記太陽エネルギー収集装置が、前記検証対象建物のベランダ面に設置される太陽熱集熱装置であり、前記日照量に与える影響が、該太陽熱集熱装置の集熱量である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、三次元化に際して周辺地域の階高情報を含む二次元地図データを利用するため容易かつ低コストで、実際の外部環境に近似した日影シミュレーションが可能という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第一の実施形態に係る日影シミュレーションシステム1の構成を示す図である。
【図2(a)】太陽熱集熱装置10の断面構成を示す図である。
【図2(b)】集熱パネル11の正面構成を示す図である。
【図3】第一の実施形態における日影シミュレーションのフローを示す図である。
【図4(a)】3Dモデリング・ソフトA1上で対象建物周辺の二次元地図データを表示した図である。
【図4(b)】同ソフトA1の3D化機能による当該地域の3D化を施した状態を表示した図である。
【図4(c)】実際の建物外観等に合わせて、図4(b)に追加修正処理を施した状態を表示した図である。
【図4(d)】CADソフトA2上で対象建物を追加作成した状態を表示した図である。
【図4(e)】CADソフトA2上で対象建物の各戸ベランダ面に集熱パネルを設置処理した状態を表示した図である。
【図4(f)】日影シミュレーションの演算結果の表示画面例を示す図である。
【図5】第二の実施形態における集熱量評価のフローを示す図である。
【図6】集熱パネル11の日影画像ビットデータを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至6を参照してさらに詳細に説明する。重複説明を回避するため、各図において同一構成には同一符号を付している。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0012】
<第一の実施形態>
本実施形態は、新築予定の検証対象建物(集合住宅)の各戸ベランダ面への太陽熱集熱パネル設置を想定した、日影シミュレーションシステムに関する。
図1を参照して、本実施形態に係る日影シミュレーションシステム1は、主制御部2a、データベース(DB)2b、及びプログラムメモリ部2cを備えた管理サーバ2と、通信回線3を介して管理サーバ2との間で情報の授受を行う各端末装置4と、を主要構成として備えている。
【0013】
主制御部2aは、以下の制御フロー実行に必要な演算処理及び各部に対する制御指令等を行う機能を有している。
DB2bには、検証対象建物周辺地域を含む公知の二次元住宅地図データD1が格納されている。なお、当該二次元地図データには、地図上の建物ごとの図形ポリゴンデータ及び階数データが含まれている。
また、後述する演算に際して用いる定数データD2(階高設定値(単位階の高さ:例えば3m/階))が格納されている。
【0014】
プログラムメモリ部2cには、
(a)二次元住宅地図データD1から三次元地図を作成可能とする三次元モデリング・ソフトA1(例えばGoogle社製 SketchUp(登録商標))
(b)(a)により得た三次元地図に基づいて日照計算を行うプログラムをアドオンしたCADソフトA2(例えばGRARHISOFT(登録商標)社製 ArchiCAD)
(c)周辺地域の標準気象・日照データ(METPV-3)を取得可能とするソフトA3
(d)ソフトの演算を行う表計算ソフトA4(例えばMicrosoft(登録商標)社製 EXCEL)
等を含み、さらに以下の制御に必要なプログラム、アプリケーションソフト等が格納されている。
【0015】
端末装置4はPC、PDA等のデータ入出力及び表示機能を有する装置であり、操作者が管理サーバ2に対してシミュレーション実行に必要な入力を行い、結果の出力を得ることができるように構成されている。
【0016】
次に図2(a),2(b)を参照して、本実施形態に係る太陽熱集熱装置10の構成について説明する。太陽熱集熱装置10は、各戸ベランダ手すり14に垂直に設置され、太陽熱を熱媒(不凍液)を介して集熱する複数の集熱パネル11と、集熱した太陽熱を温水として蓄熱する貯湯ユニット12と、集熱パネル11と貯湯ユニット12間を結び熱媒を循環させる循環配管13と、により構成されている。
貯湯ユニット12は、貯湯タンク12aと、補助給湯器12bと、貯湯タンク12a内部に配設される熱交換器12cと、循環配管13内の熱媒を循環させる循環ポンプ12dと、を主要構成として備えている。
【0017】
各集熱パネル11は、外側の保護用ガラス板11eと、その内側に上下ヘッダー管11b、11cと、両ヘッダーに接続し垂直方向に熱媒を通過させる集熱管11dと、集熱管11dの裏側に充填される保温用断熱材11fと、これら全体を覆う外側カバー11aと、循環配管13に接続する往管11h及び戻り管11iと、により構成されている。
集熱パネル11群の両端には、循環ポンプ12dの電源として太陽電池11gが取り付けられており、日射量が循環ポンプ12dの最低駆動電圧Vmin以上の起電力に達したときに、循環ポンプ12dが駆動して集熱管11dによる集熱を可能に構成されている。
【0018】
以上の構成により、太陽熱集熱装置10は所定の日射量以上の条件下で、給水配管12eを介して供給される貯湯タンク12a内の冷水と、集熱管11dにおいて太陽熱を吸熱した熱媒と、を貯湯タンク12a内の熱交換部12cで熱交換させて、温水として貯湯タンク12aに蓄える。
【0019】
日影シミュレーションシステム1は以上のように構成されており、次に図3及び図4(a)〜図4(f)を参照して、端末装置4からの入力に基づいて実行される日影シミュレーションのフローについて説明する。
最初に3Dモデリング・ソフトA1を立ち上げ、対象建物周辺の二次元地図データD1(含む階数情報)及び階高設定値D2を読み込む(S101、S102)。図4(a)はこの状態を示し、同図において斜線部分が検証対象物件の予定地である。
次に、同ソフトA1の3D化機能を用いて、当該地域の3D化を行う(S103)。3D化は階数情報、階高設定値を用いて同ソフトの機能に基づき自動的に処理され、建物ごとに実際の高さに近似した三次元地図が作成される。結果は、端末装置4側に表示される(図4(b)参照)。
【0020】
次いで、事前に準備した現場写真やストリートビュー等を参考にして、実際の建物外観や追加建造物(例えば電柱等)に合わせて、端末装置4の表示画面上で追加修正処理(図4(c)において枠内が修正部分)を行うことができる(S104)。さらに図4(d)を参照して、ソフトA1上で建築予定地に検証対象建物(例えば集合住宅)を追加作成する(S105)。
【0021】
以上の処理を施した対象地域の3Dデータを、CADソフトA2に読み込ませる(S106)。
次いで、CADソフトA2上で検証対象建物の各戸ベランダ面に集熱パネルを垂直設置する画像処理(図4(e)参照)を行う(S107)。
【0022】
CADソフトA2に地点情報、方位角等の情報を入力して、日影シミュレーション演算を実行する(S108)。結果は、端末装置4側に表示される(S109)(図4(f)参照)。
【0023】
S108の日影シミュレーション演算を日照時間帯の所定時間(例えば1時間)単位で行うことにより、周辺建造物が対象建物に及ぼす日影の時間的変化情報を得ることができる。また、変化情報を視覚化表示することにより、顧客等に対するプレゼンテーションツールとして利用することができる。
さらに、CADソフトA2のアドオン機能を用いて、集熱パネル11の日影部分をビットデータ化して演算処理することにより、各集熱パネル11の日照率の時間的変化データを得ることも可能である。これは後述の集熱量計算に用いることができる。
【0024】
なお、本実施形態ではクライアント・サーバー方式によるシステム例を示したが、これに限らず他の方式、例えばスタンドアロン方式によるシステムとすることもできる。
また、本実施形態では集熱パネルをベランダ面に設置した例を示したが、これに限らず屋上設置の集熱パネルにも適用可能である。さらに、太陽熱集熱パネルのみならず、太陽光パネルに関しても本シミュレーションを適用可能である。
また、本実施形態ではS106−S108の工程についてはCADソフトA2を用いて行う例を示したが、3Dモデリング・ソフトA1を用いて行うことも可能である。
【0025】
<第二の実施形態>
次に、図5を参照して本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態は、上述の実施形態で得られた集熱装置10の日影画像データを用いた集熱量評価に関する。
【0026】
[基礎情報入力]
演算処理に必要な基礎情報として以下の項目を入力する。
(a)CADソフトA2上で対象建物に集熱パネル設置情報入力(S201)。
(b)CADソフトA2に評価対象地域の標準気象・日射データ(METPV-3)から指定方位角度の垂直面日射量データ読み込み(S202)。
【0027】
(c)表計算ソフトA4に集熱量演算に必要な基礎計算式等の入力(S203)。
(c1)1日ごとの日射量I(D)と集熱量Q(D)の関係を実測して一次回帰式を求め、これを集熱量推定式((1)式)として用いる。
【数1】

k:ガラス厚により定まる係数
α、β:回帰係数
【0028】
(c2)貯湯タンク内の貯湯温度T(D)(℃)は(2)式により推定する。
【数2】

V:貯湯タンク内容積(L)
J:熱量換算係数(×10−3MJ/kcal)
T0:給水温度(℃)
【0029】
(c3)循環ポンプ12dの最低作動電圧を充足する太陽電池11g起電力に相当する日射量閾値(Imin)を入力する。
【0030】
[日影影響なし条件の集熱量演算]
次に、日影影響なし条件で集熱装置設置場所における集熱量推定演算を行う(S204)。
上述の垂直面日射量データを用いて、単位時間t(例えば1時間)当たり日射量i(t)を求め、さらに1日単位で積算して年間日射量を演算する。なお、以下の各演算に際して、循環ポンプ12dの最低駆動電圧Vmin以下の日射量は除外する。
1日当たり積算量I(D)、年間積算量I(Y)はそれぞれ(3)、(4)式で示される。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

【0033】
[日影影響を考慮した集熱量推定]
次に、日影影響を考慮して集熱装置単位の集熱量(実質集熱量)推定演算を行う(S205)。
CADソフトA2により得た集熱パネル11の日影画像データを用いて、集熱装置への日影割合の時間的変化を算出する。図5を参照して、集熱部全面積S0、時刻tにおける影部面積S(t)とすると、有効集熱率r(t)は(5)式で推定される。
【数5】

【0034】
1日当たり積算量Is(D)、年間積算量Is(Y)はそれぞれ(6)、(7)式で示される。
【数6】

【0035】
【数7】

【0036】
集熱装置単位の実質集熱量Qs(D)は(1)、(6)式より、
【数8】

【0037】
さらに、日影影響を考慮した給湯温度Ts(D)は(2)、(8)式より、
【数9】

【0038】
<データ出力>
以上により求めた集熱器設置場所における日照データ、集熱量データ、貯湯温度データ等(表1参照)は、表、グラフ等任意のフォーマットで出力可能である(S206)。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、本実施形態では日射量I(D)と集熱量Q(D)の関係を、実測による一次回帰式により推定する例を示したが、これに限らず理論式又は他の実験式を用いて推定する態様とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、太陽熱集熱器装置のみならず、太陽光発電の評価システムとしても適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1・・・・日影シミュレーションシステム
2・・・・管理サーバ
2a・・・主制御部
2b・・・データベース(DB)
2c・・・プログラムメモリ部
3・・・・通信回線
4・・・・端末装置
10・・・太陽熱集熱装置
11・・・集熱パネル
12・・・貯湯ユニット
12d・・循環ポンプ
13・・・循環配管
A1・・・三次元モデリング・ソフト
A2・・・CADソフト
D1・・・二次元住宅地図データ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
検証対象地点を含む周辺地域を抽出可能とし、かつ、地図上の各建物に関する図形ポリゴンデータ及び階数データを備えた住宅地図情報と、
該住宅地図情報を用いて、抽出した周辺地域の三次元地図を作成可能とする三次元地図作成手段と、
該三次元地図作成手段により作成された三次元地図に基づいて、該周辺地域の建造物等が検証対象の建築又は建築予定の建物(以下、検証対象建物という)に与える日影の時間的変化を取得可能とする手段と、
を備えて成ることを特徴とする日影シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記周辺地域の建造物等による日影が、前記検証対象建物に設置される太陽エネルギー収集装置の日照量に与える影響の時間的変化を取得する手段を、
さらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の日影シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記太陽エネルギー収集装置が、前記検証対象建物のベランダ面に設置される太陽熱集熱装置であり、
前記日照量に与える影響が、該太陽熱集熱装置の集熱量である、
ことを特徴とする請求項2に記載の日影シミュレーションシステム。



【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図4(d)】
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【図4(e)】
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【図4(f)】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−37523(P2013−37523A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172903(P2011−172903)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】