説明

日本脳炎ウイルス抗原

【目的】現行の日本脳炎ワクチンに用いられている不活化日本脳炎ウイルスの代わりとなる、マウス脳を使わない、ウイルスを使わない、コスト安の日本脳炎ワクチンを提供する。
【構成】日本脳炎ウイルス様粒子を包含してなる日本脳炎ウイルス抗原であって、該ウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ該ウイルス様粒子は赤血球凝集活性を示すことを特徴とする日本脳炎ウイルス抗原。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本脳炎ウイルス抗原に関する。更に詳細には、日本脳炎ウイルス様粒子を包含してなる日本脳炎ウイルス抗原であって、該ウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ該ウイルス様粒子は赤血球凝集活性を示すことを特徴とする日本脳炎ウイルス抗原に関する。更に本発明は、日本脳炎ワクチン及び診断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本脳炎は、フラビウイルス属に分類される日本脳炎ウイルスによって引き起こされる重篤なウイルス感染症であり、その主症状は、発熱、髄膜刺激症状、脳炎症状である(Clinical Virology 13: 166-172, 1985)。感染しても大部分の人は不顕性感染で終わるが、一旦発症したら死亡率は高く、予後も中枢神経損傷による知能障害や運動障害等の後遺症が残る確率が高い。
【0003】
日本脳炎ウイルスは、直径が約50nmの球型ウイルスであり、構造タンパク質はキャプシド(C)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質と膜(M)タンパク質である。全長約11kbの(+)鎖の一本鎖RNAゲノムはEタンパク質のスパイクで覆われている(Annu. Rev. Microbiol. 44: 649-88, 1990)。Eタンパク質は細胞への吸着に関与し、赤血球凝集能を持ち、中和抗体を誘導するなど、感染防御に重要な役割を果たしている(Virology 44(1): 108-24, 1971; J. Virol. 14(3): 631-9, 1974; J. Gen. Virol. 70 (Pt 8): 2037-49, 1989及びActa Virol. 26(5): 312-20, 1982)。
【0004】
日本では近年流行の兆しを見せていないものの、1960年代には年間数千人の患者が日本脳炎を発症し、約千人が死亡し、社会問題にまで発展した難病である。最近は、主に中国、東南アジアで流行し、WHOも厳重に動向を監視している疾病のひとつである(Clinical Virology 13: 135-143, 1985)。日本脳炎に対する予防法は現在のところワクチン接種のみで、有効な治療法はない。
【0005】
現在の日本脳炎ワクチンは、ウイルス感染マウスの脳乳剤を原材料とするものしか存在しない(“Japanese encephalitis vaccine” in Minimum requirements for biological products, Association of Biologicals Manufactures of Japan ed., pp. 99-101, 1993)。現行の日本脳炎ワクチンはこれまで何度か精製方法が検討された極めて安全性の高い不活化ワクチンであるが(Appl. Environ. Microbiol. 39: 54-7, 1980及びVaccine. 9(12): 865-7, 1991)、日本脳炎ウイルス感染マウスの脳が原材料であるため(BIKEN J. 11: 25-39, 1968)、残存しているかもしれない脳物質や、マウス由来の迷入ウイルスによる副反応のおそれがある。また、ウイルス自体を扱うため、製造工程には危険な作業が伴い、従って製造コストも高い(Vaccine. 18: 26-32, 2000及びLancet. 337(8748): 1044, 1991)。結果として、発展途上国ではワクチンの入手が難しいといった問題が生じている。このような状況を鑑みて、WHOはマウス脳を使わない、ウイルスを使わない、コスト安のワクチンの開発を緊急課題として要請した。これを受けて、世界中の研究室で、次世代日本脳炎ワクチンの開発研究が様々な手法によって進められている(Intervirology. 44(2-3): 176-97, 2001)。
【0006】
組換えDNA技術により、日本脳炎ウイルスの構造遺伝子を導入した組換え細胞に抗原を発現させるという方法がある。しかし、日本脳炎ウイルスのEタンパク質は細胞にとって毒性が強いため、動物細胞発現系では、産生したEタンパク質によって発現細胞自身が死滅してしまうことがある(J. Virol. 75(5): 2204-12, 2001)。また、酵母発現系では粒子抗原が開裂してしまい、中和抗体を誘導できないという報告がある(Bull. World Health Organ. 65(3): 303-8, 1987)。ワクシニアウイルスのゲノム中に日本脳炎ウイルスの構造遺伝子を組み込み、この組み換えワクシニアウイルスに抗原を発現させる方法(特開昭62−44178と64−74982、特開平5−276941と6−181792及びJ. Virol. 64(6): 2788-95, 1990)や、バキュロウイルスの発現系を用いて抗原を発現させる方法(特許第2511494号と特開2000−60567号)も試みられたが、いずれも現行の不活化日本脳炎ウイルスに取って代わる抗原を発現することには成功していない。
【0007】
特開2001−299336号は、変異を導入したフラビウイルスの前駆膜(prM)タンパク質遺伝子及びEタンパク質遺伝子を含むcDNAを動物細胞にトランスフェクトして得たウイルス様粒子を発現する動物細胞と、その動物細胞が発現するウイルス様粒子を開示している。フラビウイルスにおいては、prMタンパク質がフリンによって切断されて膜(M)タンパク質に成熟することで、Eタンパク質の配置転換が起こり、赤血球凝集反応や膜融合活性が出現し、細胞障害性を示すと考えられている。特開2001−299336号においては、prMタンパク質遺伝子に変異を導入して、prMタンパク質の切断を阻害することで、ウイルス様粒子によって生じる細胞障害を低減した。しかし、この公報の開示する細胞の抗原発現量は非常に低く、実用には適していない。
【0008】
また、日本脳炎ウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子を用いた、非感染性の粒子抗原を産生するようなDNAワクチンも開示されている(国際公開公報WO99/63095、J. Virol. 73(12): 10137-45, 1999、Vaccine 18(1-2): 68-75, 1999及びJ. Virol. 73(7): 5527-34, 1999)。この方法はマウスもウイルスも使わないものの、免疫誘導能や安全性に様々な議論があり、未だに国際的なコンセンサスが得られていない(Vaccine 19(2-3): 155-7, 2000)。
【非特許文献1】Clinical Virology 13: 166-172, 1985
【非特許文献2】Annu. Rev. Microbiol. 44: 649-88, 1990
【非特許文献3】Virology 44(1): 108-24, 1971
【非特許文献4】J. Virol. 14(3): 631-9, 1974
【非特許文献5】J. Gen. Virol. 70 (Pt 8): 2037-49, 1989
【非特許文献6】Acta Virol. 26(5): 312-20, 1982
【非特許文献7】Clinical Virology 13: 135-143, 1985“Japanese encephalitis vaccine” in Minimum requirements for biological products, Association of Biologicals Manufactures of Japan ed., pp. 99-101, 1993
【非特許文献8】Appl. Environ. Microbiol. 39: 54-7, 1980
【非特許文献9】Vaccine. 9(12): 865-7, 1991
【非特許文献10】BIKEN J. 11: 25-39, 1968
【非特許文献11】Vaccine. 18: 26-32, 2000
【非特許文献12】Lancet. 337(8748): 1044, 1991
【非特許文献13】Intervirology. 44(2-3): 176-97, 2001
【非特許文献14】J. Virol. 75(5): 2204-12, 2001
【非特許文献15】Bull. World Health Organ. 65(3): 303-8, 1987
【特許文献1】特開昭62−44178
【特許文献2】特開昭64−74982
【特許文献3】特開平5−276941
【特許文献4】特開平6−181792
【非特許文献16】J. Virol. 64(6): 2788-95, 1990
【特許文献5】特許第2511494号
【特許文献6】特開2000−60567号
【特許文献7】特開2001−299336号
【特許文献8】国際公開公報WO99/63095
【非特許文献17】J. Virol. 73(12): 10137-45, 1999
【非特許文献18】Vaccine 18(1-2): 68-75, 1999
【非特許文献19】J. Virol. 73(7): 5527-34, 1999
【非特許文献20】Vaccine 19(2-3): 155-7, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
WHOの要請を受け、世界中で多種多様な次世代日本脳炎ワクチンの開発が進んでいる。その一つに、遺伝子組換え細胞に日本脳炎ウイルス様粒子を産生させる方法があるが、ウイルス様粒子自体が細胞障害性を有するため、高発現系の確立はこれまで不首尾であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製された、prMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含するcDNAを提供し、β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、そして該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形成した形質転換細胞は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ赤血球凝集活性を示すウイルス様粒子を発現することを知見した。このウイルス様粒子は、不活化日本脳炎ウイルスの代わりにワクチンなどの有効成分として使用するのに十分な免疫原性を有していた。また、上述の形質転換細胞は、無血清培地に馴化し、無血清培地においても、培養上清1ml当たり6μgを超える大量の抗原を52代以上継代しても発現した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、日本脳炎ウイルス様粒子を包含してなる日本脳炎ウイルス抗原であって、該ウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ該ウイルス様粒子は赤血球凝集活性を示すことを特徴とする日本脳炎ウイルス抗原が提供される。本発明の抗原を用いることにより、現行の日本脳炎ワクチンに用いられている不活化日本脳炎ウイルスの代わりとなる、マウス脳を使わない、ウイルスを使わない、コスト安の日本脳炎ワクチンおよび診断剤の製造が可能となる。
【0012】
従って、本発明の目的は、現行の日本脳炎ワクチンの有効成分(抗原)として用いられている不活化日本脳炎ウイルスの代わりとなる、日本脳炎ウイルス様粒子を包含する日本脳炎ウイルス抗原を提供することにある。
【0013】
本発明の更なる1つの目的は、マウス脳を使わない、ウイルスを使わない、コスト安の日本脳炎ワクチン及び診断剤を提供することにある。
【0014】
次に、本発明の理解を容易にするために、まず本発明の基本的特徴及び好ましい態様を列挙する。
【0015】
1.日本脳炎ウイルス様粒子を包含してなる日本脳炎ウイルス抗原であって、該ウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ該ウイルス様粒子は赤血球凝集活性を示すことを特徴とする日本脳炎ウイルス抗原。
【0016】
2.該ウイルス様粒子が、以下の工程からなる方法で得られたことを特徴とする、前項1に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
(a)日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製されたcDNAを提供し、該cDNAはprMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含し、
(b)β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、
(c)該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形質転換細胞を形成せしめ、
(d)該形質転換細胞を親細胞から選別し、
(e)該形質転換細胞を培地中で培養し、該形質転換細胞に該cDNAを発現させてウイルス様粒子を培地中に放出させ、そして
(f)培地から該ウイルス様粒子を単離する。
【0017】
3.該cDNAが、配列表の配列番号4の塩基配列であることを特徴とする、前項2に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【0018】
4.該動物細胞が、RK13細胞であることを特徴とする、前項2又は3に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【0019】
5.該培地が、無血清培地であることを特徴とする、前項2〜3のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【0020】
6.前項1〜5のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原を、有効成分として免疫を奏する量含有してなる日本脳炎ワクチン。
【0021】
7.前項1〜5のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原を、有効成分として含有する診断剤。
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
「従来技術」の項で説明したように、日本脳炎ウイルスのEタンパク質はウイルス粒子の受容体結合や膜融合を担い、多くの抗原防御エピトープを有しており、分子集合して粒子構造を形成した時に初めて免疫原性を発揮する。成熟したウイルス粒子においては、粒子表面にEタンパク質とMタンパク質とが結合した形で存在し、この時の立体配置を取ったEタンパク質が細胞障害を引き起こすことが知られている。一方、細胞内の未成熟のウイルス粒子においては、Eタンパク質はMタンパク質のグリコシル化前駆体であるprMタンパク質とへテロダイマーを構成している。このような未成熟ウイルス粒子の感染性、赤血球凝集(HA)活性、融合活性などのウイルス生物活性は低い。細胞内に存在する酵素フリンによってprMタンパク質が切断されてMタンパク質に成熟し、Eタンパク質の配置転換が起こると(即ち、ウイルス粒子が成熟すると)、ウイルス生物活性が発揮されると考えられている。
【0023】
特開2001−299336号においては、prMタンパク質がEタンパク質と結合している未成熟ウイルス粒子のウイルス生物活性が低い点に着目して、Eタンパク質抗原発現細胞株の樹立を試みた。具体的には、prMタンパク質をコードする遺伝子に変異を導入してprMタンパク質のMタンパク質への切断を阻害して、Eタンパク質が細胞障害性を有する立体配置を取るのを抑制した。しかしながら、この細胞株が発現する抗原はprMタンパク質とEタンパク質からなるものであるから、Mタンパク質とEタンパク質からなる本来のウイルス粒子とは明らかに構造の異なる抗原であり、しかも、抗原の発現量は、5日間の培養での蓄積量が200ng/mlと非常に低い。
【0024】
また、Huntらの研究(J. Virol. Methods 97: 133-149, 2001)においては、日本脳炎ウイルスのprMタンパク質及びEタンパク質をコードする遺伝子を含有する組み換えDNAでCOS−1細胞を形質転換し、形質転換細胞に組み換え粒子状抗原を発現させた。しかし、形質転換細胞が発現する抗原の抗原性は非常に低く、アジュバントなしでマウスを免疫することはできない。
【0025】
本発明者らはこのような問題点を解決するために鋭意研究した結果、日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製された、prMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含するcDNAを提供し、β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、そして該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形成した形質転換細胞は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ赤血球凝集活性を示すウイルス様粒子を大量且つ持続的に発現することを知見した。
【0026】
本発明の日本脳炎ウイルス抗原に含まれるウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体である。本発明で用いるウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのゲノムRNAを含有しないタンパク質抗原であることから、感染の心配はない。このウイルス様粒子がEタンパク質とMタンパク質を包含することはSDS−PAGE及びアミノ酸配列の解析で確認されている。具体的には、全長Eタンパク質とその断片及び全長Mタンパク質とその断片を包含しており、prMタンパク質は検出されなかった。このことから、prMタンパク質はウイルス様粒子中に全く含まれていないか、又は含まれていても少量であると考えられる。上述したように、日本脳炎ウイルスにおいては、prMタンパク質が切断されてMタンパク質に成熟するので、ウイルス粒子表面にはEタンパク質とMタンパク質が存在する。本発明で用いるウイルス様粒子は、Eタンパク質とMタンパク質を包含するものの、prMタンパク質を包含していないと考えられるので、本来の日本脳炎ウイルスと同様にprMタンパク質が発現細胞の細胞内で処理されてMタンパク質に成熟すると考えられる。
【0027】
また、本発明の日本脳炎ウイルス抗原に含まれるウイルス様粒子は、赤血球凝集(hemagglutination,HA)活性を示す。HA活性とは、ウイルスや抗体などが赤血球を凝集させる活性である。HA活性は、赤血球凝集反応を認めた最も高い希釈倍数で表示され、単位はHAU(HA unit)である。本発明の日本脳炎ウイルス抗原は、タンパク質含量1μg/mlに150HAU以上、好ましくは500HAU以上のHA活性を有する。このHA活性は本願実施例2に記載の方法に基づき、至適pHで測定した値である。具体的には、0.4%卵アルブミン加ホウ酸苛性ソーダ緩衝食塩液(pH9.0)で希釈したウイルス液を調製し、等量の0.33%ガチョウ赤血球浮遊液(至適pHのリン酸緩衝液で調製したもの)と混和し、37℃、1時間静置した後、赤血球凝集の有無を判定した。なお、実施例2においては、HA活性の至適pHは5.8〜6.0であったが、ウイルス様粒子産生細胞の株やその継代数によっても至適pHは多少異なるので、上記のHAU値は、至適pHで測定した値とする。
【0028】
現行の日本脳炎ワクチンに含まれる抗原はホルマリンなどで不活化したウイルスであるが、不活化したウイルスはEタンパク質とMタンパク質を包含するものの、その表面構造が変化しているので、HA活性を示さない。本発明の抗原に含まれるウイルス様粒子は、Mタンパク質とEタンパク質を包含し、HA活性を有することから、本来の日本脳炎ウイルスの表面構造に類似した構造と抗原性を有すると考えられる。
【0029】
本発明の日本脳炎ウイルス抗原の免疫原性を検討するために、精製抗原を4週齢の雌ddYマウスに一週間隔で2回投与し、プラーク減少法でマウス血清中の中和抗体価を測定した。その結果、現行日本脳炎ワクチンと同等もしくはそれ以上、具体的には3.15以上の中和抗体力価(log10)が認められた(本願明細書の実施例6を参照)。この結果から明らかなように、本発明の抗原は、現行ワクチンと同等かそれ以上の免疫原性を示すことが明らかになった。従って、Eタンパク質とMタンパク質を包含するタンパク質集合体であり、且つHA活性を示すウイルス様粒子を包含する本発明の抗原は、本来のウイルス由来の抗原と同様の免疫原性を有することから、不活化日本脳炎ウイルスの代わりにワクチンや診断様抗原として用いることができる。
【0030】
更に本発明の抗原に含まれるウイルス様粒子は、以下の工程からなる方法で得られたウイルス様粒子が好ましい。(a)日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製されたcDNAを提供し、該cDNAはprMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含し、(b)β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、(c)該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形質転換細胞を形成せしめ、(d)該形質転換細胞を親細胞から選別し、(e)該形質転換細胞を培地中で培養し、該形質転換細胞に該cDNAを発現させてウイルス様粒子を培地中に放出させ、そして(f)培地から該ウイルス様粒子を単離する。具体的には、後述する本発明の形質転換細胞を用いて調製したウイルス様粒子が好ましい。
【0031】
また、本発明の日本脳炎ウイルス抗原に含まれるウイルス様粒子は無血清培地から単離したものがより好ましく、本発明の形質転換細胞のように無血清培地に馴化した細胞を無血清培地で培養し、その培養上清から単離したウイルス粒子であることが更に好ましい。通常、細胞を培養する際には、生存に必要な栄養素を補充するために培地に血清を添加して用いるが、血清は不純物として精製タンパク質に残留する可能性が高い。従って、無血清培地から単離したウイルス様粒子のほうが、通常の血清添加培地から単離したウイルス様粒子よりも純度の高いウイルス様粒子である。具体的には、無血清培地から単離したウイルス様粒子には、血清由来のタンパク質のみならず、血清に含まれる危険性のあるウイルスや異常プリオン等が混入する可能性は低く、ワクチンや診断剤として使用するときに精製及び品質管理が容易であり、しかも低いコストで生産することができる。
【0032】
ウイルス様粒子の単離に用いる無血清培地としては、無血清培地に馴化した形質転換細胞の培地として後述する無血清培地を用いればよい。ウイルス様粒子を培地から単離する方法に特に限定はなく、一般的に用いられているタンパク質抗原の精製方法に準じて行えばよい。具体的な方法については、後述する本発明の日本脳炎ウイルス抗原の製造方法と共に説明する。
【0033】
更に本発明は、(a)日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製されたcDNAを提供し、該cDNAはprMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含し、(b)β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、(c)該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形質転換細胞を形成せしめ、(d)該形質転換細胞を親細胞から選別し、そして(e)該形質転換細胞を無血清培地に馴化させることを包含する方法によって得られる形質転換細胞を提供する。
【0034】
上述したように、prMタンパク質が切断されてMタンパク質に成熟し、Eタンパク質の配置転換が起こると、HA活性や膜融合活性が出現し、細胞障害を引き起こす。このような現象が生じるために、Eタンパク質とMタンパク質を包含する、本来の日本脳炎ウイルスの表面構造に近い構造を有するウイルス様粒子を動物細胞に発現させるのは難しいと考えられていた。また、Huntらの研究のように、動物細胞による日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含する粒子状抗原の発現に成功しても、アジュバントなしではPBSと同等の抗原価しか示さないほどに粒子状抗原の抗原性は低くかった。しかし、本発明においては、動物細胞を形質転換して、β−アクチンプロモーターの制御下で日本脳炎ウイルスのprMタンパク質及びEタンパク質をコードするcDNAを発現させると、驚くべきことに、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であって、赤血球凝集活性を示すことを特徴とするウイルス様粒子、即ち、本来の日本脳炎ウイルスの表面構造に類似した構造と抗原性を有するウイルス様粒子を大量に発現することに成功した。本発明の形質転換細胞は、図3から明らかなように、培養上清1ml当たり6μgを超える(最大時には12μgを超える)ウイルス様粒子を産生し、ウイルス様粒子の産生量は、52代以上継代しても低下することはなかった。例えば、特開2001−29936号における抗原発現量は200ng/mlなので、本願においては、その30倍を超える抗原発現量を達成した。
【0035】
本発明においては、日本脳炎ウイルスの表面構造と同様の構造を有するウイルス様粒子を得るために、日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製されたcDNAであって、prMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含するcDNAを用いる。本発明で用いるcDNAは、その5’末端から3’末端の方向に、prMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片を包含している。cDNAの塩基配列に特に限定はないが、prMタンパク質をコードするcDNA断片の上流(5’側)にシグナルペプチドをコードする塩基配列も包含することが好ましい。DNAの塩基配列は、日本脳炎ウイルスとして同定されているどのようなウイルス株の塩基配列でもよいが、抗原の安全性や有効性を考慮すると、現行の日本脳炎ワクチンに用いられている日本脳炎ウイルス株、例えば北京株、の塩基配列を用いることが好ましい。例えば、配列表の配列番号4に記載した日本脳炎ウイルス北京株のシグナルペプチド〜Eタンパク質までをコードするcDNA配列を用いることができる。配列番号4の塩基配列においては、第10〜78番塩基が23アミノ酸残基からなるシグナルペプチド(配列番号5)をコードし、第79〜579番塩基が167アミノ酸残基からなるprMタンパク質(配列番号6)をコードし、このうち第355〜579番塩基がprMタンパク質の切断によって生じる75アミノ酸残基からなるMタンパク質(配列番号7)をコードし、第580〜2079番塩基が500アミノ酸残基からなるEタンパク質(配列番号8)をコードする。
【0036】
次に、β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに上述のcDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築する。組換えDNAは、日本脳炎ウイルスのcDNAをβ−アクチンプロモーターの制御下で発現させる限り特に限定はなく、β−アクチンプロモーターを含有する発現ベクターに日本脳炎ウイルスcDNAを挿入したり、発現ベクターの制御領域をβ−アクチンプロモーターと日本脳炎ウイルスDNAを含む発現カセットなどで置き換えて作製することができる。このような組換えDNAとしては、配列表の配列番号4に記載した塩基配列を包含する、図1の組み換え体プラスミドpCAGJ12bsrが挙げられる。この組み換え体プラスミドは、ブラストサイジン耐性を指標として形質転換細胞を選択するために、ブラストサイジン耐性遺伝子も含んでいる。
【0037】
次に、上述の複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換する。本発明において形質転換する動物細胞は、血清濃度の低い培養液で培養可能であり、日本脳炎ウイルス感染に低感受性であり、且つタンパク質分泌能が高い細胞であれば特に限定はない。このような動物細胞としてはRK13細胞が挙げられる。RK13細胞は、ウサギ正常腎細胞由来の細胞株であり、American Type Culture Collection(ATCC)より入手可能である(ATCC No. CCL−37)。RK13細胞は、血清濃度の低い培養液で培養可能であり、更に長期間維持培養が可能な細胞株である。また、日本脳炎ウイルスの感染に低感受性であることから、Eタンパク質のもたらす細胞障害性に対して抵抗性であると考えられる。また、ラットの正常腎細胞においてはゴルジ装置が発達しており、タンパク質の分泌能が高いことが知られている (The Journal of Cell Biology, 144, 1135-1149, 1999)ので、ウサギ正常腎細胞であるRK13細胞も同様にタンパク質分泌能が高いと考えられる。本願の実施例1においては、このような特徴を有するRK13細胞に、β−アクチンプロモーターの制御下で日本脳炎ウイルスのcDNAを発現させた。その結果として得られた形質転換細胞は、Eタンパク質による細胞障害を受けることなく、本来の日本脳炎ウイルスの表面構造に類似した構造と抗原性を有する日本脳炎ウイルス粒子を大量且つ持続的に発現した。
【0038】
形質転換細胞を親細胞から選別するには、組換えDNAに含まれる選択因子に基づいて行えばよい。本願の実施例1においてはブラストサイジン耐性を選択因子として用いたが、適当な選択因子、例えば薬物耐性や栄養要求性を付与するように組換えDNAを構築し、それに基づいて形質転換細胞を選別することができる。
【0039】
本発明の形質転換細胞を維持し、培養するための培地は、形質転換細胞が生育することが可能な培地であれば特に限定はなく、RK13細胞の培養に通常用いられている培地を用いることができる。例えば、イーグルMEM(Eagle’s Minimal Essential Medium)に10%のFBSを添加したものを培地として用いることができる。細胞の培養温度は35〜38℃、好ましくは36〜37℃が適している。
【0040】
更に形質転換細胞を無血清培地に馴化させる。通常、細胞を培養する際には、血清を添加した培地を用いるが、血清を培地に添加しないと、細胞の接着性が弱くなり、培地pH緩衝能、CO2保持能力、毒性物質から細胞を保持する力が低くなるため、細胞が分裂しなくなったり、抗原を産生しなくなるなどの障害が発生する。日本脳炎ウイルス抗原のように、抗原そのものに細胞障害性があるのでその発現さえも困難な場合には、形質転換細胞に多大なストレスを与える無血清培地での培養など考えられなかった。例えば、特開2001−299336号においては、日本脳炎ウイルス抗原を産生する細胞株の培地に含まれる10%FBSを0.1%BSAに変更したところ、抗原発現量が約1/3に低下した。
【0041】
本発明においては、上記のような問題を生じることなく、無血清培地に馴化した形質転換細胞を得るために、5μg/mlのブラストサイジンを含む培地の血清濃度を順次1/2ずつ減少させた培地に形質転換細胞を継代し、最終的には培地を完全に無血清培地に切り替えた。具体的には、10%FBS−MEMで培養した形質転換細胞を、1代〜8代を5%FBS−MEMで培養し、9代〜16代を2.5%FBS−MEMで培養し、17代〜18代を1.25%FBS−MEMで培養し、19代〜20代を1.25%FBS−VP−SFM[VP−SFM(米国、Gibco BRL製)に1.25%のFBSを添加したもの]で培養した。次に血清を含まないVP−SFMで形質転換細胞を継代し、無血清培地馴化抗原発現細胞を得た。このようにして得られた無血清培地馴化細胞は、非馴化細胞に比べてウイルス様粒子の生産量が多少劣るものの、従来の日本脳炎ウイルス抗原産生細胞よりも大量にウイルス様粒子を産生し、しかもそのウイルス様粒子産生能は継代しても失われることはない(本願明細書の図2と図3を参照)。また、血清添加培地の場合、血清のロット間に違いがあることから均一な培地を大量に供給することは難しいが、無血清培地の場合にはそのような問題はない。
【0042】
形質転換細胞を馴化させる無血清培地は、本発明の形質転換細胞が増殖し、ウイルス様粒子を発現することができる限り特に限定はない。例えば、基礎培地としてイーグルMEMを用い、添加血清の濃度を減らした培地で継代することができる。また、無血清培地馴化細胞を培養する無血清培地としては、イーグルMEMに、血清に変わる添加物としてインシュリン、ヒドロコルチゾン等のホルモン、上皮増殖因子(epidermal growth factor,EGF)、血小板由来増殖因子(platelet derived growth factor,PDGF)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor,FGF)などの成長因子、フィブロネクチン等の細胞接着・進展因子、低密度リポタンパク質(LDL)、トランスフェリン、リン脂質等を適宜添加した培地を用いることができる。これらの添加物はヒト及び動物由来でないことが望ましい。また、VP−SFM(米国、GIBCO BRL社製)、EX−CELL 525(米国、JRH Bioscience社製)等の合成培地を用いることも可能である。
【0043】
また、組換えDNAが外れて抗原を産生しなくなった細胞の生育を制限するために、形質転換細胞を培養する際には、組換えDNAに導入してある選択因子で常に細胞を選択的に培養する必要がある。本願の実施例1で作製した形質転換細胞はブラストサイジン耐性遺伝子をマーカーとして導入した組換えDNAで形質転換されているので、抗原産生性の細胞を維持するためには、ブラストサイジンをS塩酸塩を5μg/ml添加した培地で形質転換細胞を培養した。
【0044】
更に本発明は、(a)本発明の形質転換細胞を無血清培地で培養して、日本脳炎ウイルス様粒子を培養液に放出させ、(b)該培養液から培養上清を取得し、(c)該培養上清から該ウイルス様粒子を単離・精製することを包含する、日本脳炎ウイルス抗原の製造方法を提供する。はじめに、無血清培地に馴化した形質転換細胞を無血清培地で培養する。本発明の形質転換細胞を培養する無血清培地は、形質転換細胞が増殖し、ウイルス様粒子を発現することができる限り特に限定はないが、形質転換細胞を無血清培地に馴化させる際に用いた培地を用いればよい。具体的には、イーグルMEMに血清に代わる添加物(成長因子、細胞接着・進展因子など)を添加したものや、合成培地を用いることができる。形質転換細胞の培養は、動物細胞を培養する方法であれば特に限定はないが、培養温度は35〜38℃、好ましくは36〜37℃である。
【0045】
次に培養液から細胞を除去して培養上清を取得する。培養上清の取得方法に特に限定はなく、通常用いられる方法、例えば遠心分離やろ過を用いることができる。
【0046】
取得した培養上清からウイルス様粒子を精製する。ウイルス様粒子を精製する方法に特に限定はなく、抗原などのタンパク質の精製に用いる様々な手法を組み合わせて実施すればよい。日本脳炎ウイルスのEタンパク質は分子集合して粒子構造を形成した時に初めて免疫原性を発揮することが知られており、本発明の抗原に含まれるウイルス様粒子もまた、日本脳炎ウイルス粒子と同様に遠心力・浸透圧などの物理的力、酸・アルカリなどの極端なpH条件下、可溶化剤やEDTA、有機溶媒などには不安定で、粒子構造を消失して抗原性を失ってしまう可能性がある。従って、温和な精製条件下で、簡便な方法でかつ高収率でウイルス様粒子を単離・精製できることが望ましい。具体的な精製方法としては、物理的な低速遠心、超遠心、濾過、分子ふるい、膜濃縮等、化学的な沈殿剤、可溶化剤、脱吸着剤、分散剤等、物理化学的な電気泳導、カラムクロマトグラフィー、透析、塩析などを組み合わせて用いることができ、たとえば、培養上清を限外濾過膜で遠心濃縮し、ゲルクロマトグラフィーとショ糖密度勾配遠心法を組み合わせることができる。また、これらの手段の適用においては、温度、圧力、pH、イオン強度等の物理化学的条件を適宜設定できる。
【0047】
例えば、本願明細書の実施例3では、培養上清を限外濾過膜で遠心濃縮し、ゲルクロマトグラフィーとショ糖密度勾配遠心法を組み合わせた方法でウイルス様粒子を精製し、最終的に40%以上の高い、抗原回収率を達成した。SDS−PAGE後のタンパク質蛍光染色及びウェスタンブロットによる純度検定実験で、産生抗原は高度に精製されていることが明らかになり、また、精製された抗原を電子顕微鏡で観察したところ、精製したウイルス様粒子は小型球形粒子状の形態であることが判明した。このことからも、ウイルス様粒子の粒子構造を消失させることなく、高収率かつ簡便にウイルス様粒子を精製することができた。
【0048】
更に本発明は、本発明の日本脳炎ウイルス抗原を、有効成分として免疫を奏する量含有してなる日本脳炎ワクチンを提供する。本発明の日本脳炎ウイルス抗原は、本願明細書の実施例6の中和抗体試験及び実施例7の防御試験などの結果から明らかなように、現行の日本脳炎ワクチンと同様にマウスに抗体を誘導し、日本脳炎ウイルスによる感染を防ぐことができる。従って、本発明の日本脳炎ウイルス抗原を有効成分として含有するワクチンは、不活化日本脳炎ウイルスを有効成分として含有する現行の日本脳炎ワクチンの代わりになるワクチンである。
【0049】
日本脳炎ワクチンは、以下のようにして製造することができる。
精製した本発明の抗原を、等張の塩類溶液、緩衝液、組織培養液などの溶媒、例えばPBS(phosphate buffer saline)に浮遊し、ワクチン原液を調製する。必要であれば、ワクチン抗原を常用の固定化剤で固定することにより、その立体構造を固定化することもできる。固定化剤としては、例えば、ホルマリン、フェノール、グルタルジアルデヒド、β−プロピオラクトン等があげられる。固定化剤は、ワクチン原液を調製する前に抗原に添加するか、又はワクチン原液に添加することができる。
【0050】
次に、ワクチン原液を希釈して、ワクチン溶液を調製する。ワクチン原液は、例えば、PBSを用いて、ワクチン中の抗原量が、抗体産生を誘導して免疫を奏するのに必要な量、例えばタンパク質含量で1〜20μg/ml、好ましくは10μg/mlとなるように希釈する。例えば、タンパク質含量を10μg/mlに調製したときのHA価は、1,500〜24,000HAU、好ましくは5,000〜10,000HAUである。ワクチン溶液を調製する際に、ワクチンの耐熱性を増強する安定化剤や、免疫原性を高める補助剤としてのアジュバントを添加混合してもよい。安定化剤としては、糖類やアミノ酸類が挙げられ、アジュバントとしては、鉱物油、植物油、ミョウバン、アルミニウム化合物、ベントナイト、シリカ、ムラミルジペプチド誘導体、サイモシン、インターロイキン等が挙げられる。
【0051】
ワクチン溶液を適当な容量の容器、例えば約0.5〜20ml容のバイアルに分注し、密栓・密封した後に、ワクチンとして使用に供する。かかるワクチンは、液状のみならず、分注後に凍結乾燥を行うことにより、乾燥製剤として使用に供することもできる。
【0052】
本発明のワクチンは、現行の日本脳炎ワクチンと同様に被接種者に接種すればよい。例えば、1ドーズ約0.2〜0.5mlのワクチンを、約1〜4週間隔で1〜3回皮下接種すればよい。尚、乾燥製剤は接種前に滅菌蒸留水などで溶解してもとの体積に戻して使用する。
【0053】
更に本発明の抗原は診断用の抗原として、従来用いられている抗原の代わりに用いることができる。本願明細書の実施例8に示したように、ELISA法などで実施する日本脳炎ウイルス感染の診断に本発明の抗原を用いることができる。具体的には、本発明の抗原は、ELISA法や赤血球凝集抑制(Hemagglutination Inhibition,HI)試験等に利用可能である。
【0054】
診断用抗原の濃度に特に限定はないが、タンパク質含量が1μg/mlの溶液が適当である。例えば、タンパク質含量を1μg/mlに調製したときのHA価は、150〜2,400HAU、好ましくは500〜1,000HAUである。
【0055】
本発明のワクチン用の抗原や診断用の抗原は、無血清培地から単離したウイルス様粒子を包含する抗原が好ましい。上述したように、無血清培地から単離したウイルス様粒子は、血清由来のタンパク質のみならず、血清に含まれる危険性のあるウイルスや異常プリオン等の混入の可能性が低く、血清等のタンパク質を含んでいないので、ワクチンや診断剤として使用するときに精製及び品質管理が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0057】
以下に本願におけるELISA法、総タンパク質の定量法、SDS−PAGE、ウエスタンブロット、プラーク法及び中和抗体価の測定の実施方法について記載する。
【0058】
ELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法
96穴のイムノプレート(米国、CoasterR製)上に、日本脳炎ウイルスに高い中和活性を持つ抗Eタンパク質モノクローナル抗体(Group-8, Clone 503, IgG)(J. Immunol. 141(10): 3606-10, 1988;東京都神経科学総合研究所 保井孝太郎博士より分与)(以下、屡々、「503モノクローナル抗体」と称する)の1μg/ml溶液を各ウェルに50μlずつアプライし、4℃で一晩インキュベートすることで抗体を固相化した。プレートをPBS−T(8.0gのNaCl、0.2gのKCl、2.88gのNa2HPO4/12H2O、0.2gのKH2PO4、0.5mlのTween 20を蒸留水に溶解して得た、終容量1リットルの溶液)で4回洗浄し、1回の洗浄は約8秒間行った。洗浄後に、50μl/ウエルの希釈抗原をアプライし、37℃で1時間インキュベートした。希釈抗原としては、標準抗原としても使用する(財)阪大微生物病研究会より分与を受けた精製不活化ウイルス抗原(TJP**012)をPBS−Tで2倍に段階希釈したものを用いた。希釈倍率は、標準抗原希釈液で作成した検量線の直線領域に相当する倍率を用いた。
【0059】
未結合のタンパク質を洗浄除去後、西洋ワサビパーオキシダーゼ(horse radish peroxidase)で標識した503モノクローナル抗体を各ウエルに50μlずつアプライし、37℃で1時間インキュベートした。標識抗体を洗浄除去後、発色基質としてTMB+(デンマーク国、DAKO社製)を各ウエルに50μlずつ加えて15分間室温に放置し、酵素反応を行った。酵素反応は、1mol/リットルの硫酸を各ウエルに50μlずつ加えて停止した。プレートリーダー(Multiskan MS)(米国、Thermo Labsystems Inc.製)を用いて450/690nmの波長で吸光度を測定した。
【0060】
標準抗原としては、精製不活化ウイルス抗原 (TJP**012) を用いた。この抗原を2倍に段階希釈したもののELISAを上記と同様に実施し、検量線を求めた。検量線よりサンプルの抗原量(ELISA価)を算出した。
【0061】
総タンパク質定量法
サンプルに等量の10%(w/v)TCA溶液を加えて混合後、氷中で10分インキュベートした。4℃、12,000rpmの条件で20分遠心し、上澄み液を取り除いた。残った沈殿に5%(w/v)のTCA溶液を加えて洗浄し、4℃、12,000rpmの条件で10分遠心して沈殿を回収した。この沈殿を0.1NのNaOHで可溶化し、タンパク質の定量に用いた。定量には、BCA Protein Assay(米国、Pierce Chemical Company製)の発色系を用いた。マイクロプレート中でサンプル12.5μlと希釈試薬液100μlを混合し、37℃中で30分インキュベートした。プレートリーダーを用いて波長570nmで吸光度を測定した。
【0062】
ウシ血清アルブミン (2mg/ml)(米国、Pierce Chemical Company製)を標準タンパク質として用いて検量線を作製し、検量線からサンプルのタンパク質濃度を算出した。
【0063】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
サンプルの電気泳動を12%SDS−ポリアクリルアミドゲルで行った。各サンプルを等量のサンプルバッファー[0.5M Tris−HCl(pH6.8)、4% SDS、14mM 2−メルカプトエタノールを含む溶液]と混合し、100℃で10分加熱して、サンプル中のタンパク質を変性させて泳動用の検体を得た。得られた検体を10μl/レーンでゲルにアプライした。濃縮ゲル中では10mA、分離ゲル中では20mAの定電流で泳動バッファー[25mM Tris−HCl(pH8.8)、192mM グリシン、0.1% SDS]を用いて電気泳動を行った。標準抗原には、現行日本脳炎ワクチンに使用されている不活化精製抗原を用い、分子量マーカーにはPrestained SDS-PAGE Standards, low range(米国、BIO-RAD Laboratories製)を用いた。タンパク質はSYPROR Orange Protein gel stain (米国、Molecular Probes社製)を用いて蛍光染色した。具体的には、SYPROR Orange Protein gel stainを7.5%酢酸溶液で5,000倍に希釈した染色液にゲルを浸漬し、40分室温でインキュベートした。蛍光の検出にはイメージアナライザー LAS-1000(日本国、富士フィルム社製)を用いた。
【0064】
ウェスタンブロット
上述のようにSDS−PAGEを行ったゲルから泳動分離したタンパク質をpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。転写は、25mM Tris−HCl(pH8.8)、192mM グリシン−20% メタノールを含むバッファー中、氷冷下で、180mAの定電流を1時間通電することで行った。PVDF膜は、室温で10分間メタノールによる前処理を施したImmobilonTM(米国、Millipore社製)を用いた。転写後の膜を2%スキムミルク−PBSでブロッキングした後、1次抗体として用いるウサギ抗−日本脳炎ウイルス(北京株)ポリクローナル抗体をPBS−Tで100倍希釈した溶液に浸し、室温で1時間振盪した。非特異吸着抗体をPBS−0.05% Tween 20で洗浄除去後、Alkaline phosphatase標識抗-ウサギIgG抗体(ALI 3405)(米国、BioSource Interna-tional社製)をPBS−Tで5,000倍〜10,000倍に希釈した溶液に浸漬し、さらに1時間室温で振盪した。発色基質系には、BCIP/NBT Phosphatase Substrate(3-Component system)(米国、Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.製)を用いた。
【0065】
プラーク法
培養したVero細胞(10%FBS−MEMで培養したもの)にウイルス液検体を接種し、CO2インキュベーター中で90分インキュベートした。15分毎にプレートを揺すり、細胞にウイルスを均等に吸着させた。検体液を除去した細胞上に2%メチルセルロースと2%FBSを含むMEMを重層し、CO2インキュベーター中で3日間培養した。プラーク形成の有無を倒立顕微鏡下で確認後、培養4日目に10%ホルマリン溶液で細胞を1時間処理し、ウイルスの不活化と細胞の固定を行った。冷水中でホルマリンとメチルセルロースを洗浄除去し、0.038%のメチレンブルーで染色した。ウイルスに感染して変性・壊死した細胞群は染色されないので、プラークとして測定される。
【0066】
中和抗体価の測定
血清を段階希釈し、等量の日本脳炎ウイルス検体と混合した。37℃で90分間インキュベートして、日本脳炎ウイルス検体中のウイルスを抗体で処理した(即ち、中和反応を行った)。中和反応後の日本脳炎ウイルス検体に残存する感染性ウイルスの数をプラーク法で測定した。中和抗体価は、抗体非処理の日本脳炎ウイルスを感染させたプレートにおける、各ウェルの平均プラーク数を100%とし、プラーク数を50%に減少させるのに必要な最大の血清希釈倍率とした。
【実施例1】
【0067】
日本脳炎ウイルス抗原を持続的に発現する形質転換細胞の樹立

(1)日本脳炎ウイルス RNAの調製
日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)(以下、屡々“JEV”と略す)は、阪大微生物病研究会で日本脳炎ウイルスワクチンとして製造された精製JEVを用いた。
【0068】
精製JEV100μlを1.5mlのサンプリングチューブに取り、この中にあらかじめ調製しておいたChaos/2ME Buffer(4.2M グアニジンチオシアネート、0.5% ザルコシル及び25mM Tris−HCl(pH8.0)からなるChaos Buffer 400μlに25μlの2−メルカプトエタノールを加えたもの)400μlを加えてピペッティングで混和してウイルスサンプルを得た。
【0069】
得られたウイルスサンプルのRNA抽出を以下のようにして行った。400μlのTE飽和フェノール[フェノールをTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA(pH8.0))で飽和したもの]及び50μlのフェノール抽出バッファー[100mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA及び1% SDS]を加え、Vortexで混合した。その後、15,000rpmで10分遠心し、65℃で30分静置した。さらに200μlのクロロフォルムを加えてVortexで混合し、15、000rpmで10分遠心し、上層(RNA含有TE層)と下層(フェノール・クロロフォルム層)に分離した。上層は別のサンプリングチューブに移した。残ったフェノール・クロロフォルム層にTEバッファー100μlを加えて混合物を得た。得られた混合物からRNAを上記と同様に再抽出し、RNA含有TE層を得た。1回目に得たRNA含有TE層と合わせて粗RNAサンプルとした。
【0070】
粗RNAサンプルに対し、フェノール・クロロフォルム抽出を2回、クロロフォルム抽出を1回実施した。フェノール・クロロフォルム抽出は、サンプルに等量の1mM Tris−HCl(pH8.0)飽和フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を加えてvortexし、12,000rpmで5分遠心した後、上層を別のサンプリングチューブに移した。クロロフォルム抽出は、サンプルと等量のクロロホルムを加えてvortexし、12,000rpmで5分遠心した後、上層を別のサンプリングチューブに移した。最後に得た上層に1/10量の3M 酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールを加えてvortexし、12,000rpmで15分遠心し、上清を捨てた。残った沈渣を80%エタノールで洗浄し、12,000rpmで5分遠心した後に上清を捨て、沈殿したRNAを風乾し、精製水に溶解してJEVのRNAとした。
【0071】
(2)cDNAの作製、PCR及びクローニング
上記(1)の方法を繰り返し、合計で900μlの精製JEVからRNAを回収し、cDNAの合成に用いた。
【0072】
cDNAの合成は、米国、Gibco BRL社製のcDNA合成キット(superscript choice system for cDNA synthesis)を使用し、添付のマニュアルに従ってPCRで行った。1st 鎖の合成には、キットに添付のランダムプライマーと共に、Virology 161: 497-510, 1987又はGenBank Accession No. NC001437 に公開されている日本脳炎ウイルスゲノムの全RNA配列を基に、約500塩基ごとに作成した合成プライマーを使用した。PCRは、cDNAを10μl(1回のcDNA合成反応で得たものの1/20)、プライマー濃度各1μlで行い、反応条件は94℃で1分、55℃で45秒、72℃で2分を35サイクル行った。
【0073】
Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Lab.2001,9.66-9.75に記載の方法に従って又はMegalabel(日本国、TaKaRa製)を利用して、合成したJEV cDNAの5’末端をリン酸化し、それをpUC18(日本国、TaKaRa製)のSmaI部位またはpBlueScript SK(+)(米国、STRATAGEN社製)のSrfI部位にライゲーションして組換えプラスミドを得た。得られた組み換えプラスミドで大腸菌コンピテントセルを形質転換して形質転換菌を得、得られた形質転換菌を寒天プレートで生育し、Virology, 161: 497-510, 1987に報告された日本脳炎ウイルスの塩基配列をもとに作製した、以下の3本のオリゴヌクレオチド(配列番号1〜3):
5'-GGGAGCCCTCTCAAAGCTTCTGCC-3' (配列番号1)
5'-CCCCGCTCTTTGGAGGCACATTGC-3' (配列番号2)
5'-CCCATCTTCCCTATACCCTTTCGC-3' (配列番号3)
をプローブとしたコロニーハイブリダイゼーション法によってスクリーニングした。陽性を示したコロニーの大腸菌を培養し、プラスミドDNAを抽出した。抽出したプラスミドDNAを適当な制限酵素で処理し、アガロース電気泳動でプラスミドに組み込まれていたDNAのサイズを調べた。目的の大きさのクローニングされたDNAの塩基配列を、配列番号1〜3のオリゴヌクレオチドをプローブに用いたサザンハイブリダイゼーションで確認した。
【0074】
塩基配列の確認は、プラスミドDNAをテンプレートとし、32Pを使用したサンガー法(Sequenase V.2)(米国、Amersham Bioscience社製)あるいはPCR−蛍光シーケンサー法により実施した。JEV cDNAについて、独立にクローニングされている複数(1領域3クローン以上)のクローンの配列を調べた。シーケンス用のプライマーは、上記のPCRに用いたものと同じ合成プライマーを使用した。
【0075】
目的の日本脳炎ウイルスcDNA、即ち、シグナルペプチドをコードするcDNA断片、prMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で連係し、日本脳炎ウイルス北京株のシグナルペプチド、prMタンパク質及びEタンパク質をコードするJ12 cDNAを得た。
【0076】
(3)複製可能な組換えDNAの構築
上記で得たJ12cDNAをpCAGGS発現ベクター(Gene 108: 193-199 1991)のXho Iサイトに挿入し、組み換えプラスミドpCAGJ12を得た。得られたpCAGJ12からCMV−IE、β−アクチンプロモーター、イントロン及びJ12cDNAを含む断片を回収し、pEFBOSbsr[pSV2bsr(日本国、科研製薬製)のbsr部位をFE−BOSプロモーターを有するプラスミドに挿入したもの;M. Tatsumiより分与]の制御領域の替わりに挿入し、ブラストサイジン耐性を有する組換えDNA pCAGJ12bsrを得た。得られたpCAGJ12bsrを図1に示す。
【0077】
(4)日本脳炎ウイルス様粒子持続発現性細胞(J12#26細胞)の作製
RK13細胞(ATCC No.CCL−37)を36〜37℃において、10% ウシ胎仔血清(fetal bovine serum,FBS)添加イーグル最少培地(minimal essential medium,MEM)で単層になるまで培養し、FuGENE6(フランス国、Roche Diagnostic Co.製)を用いてpCAGJ12bsrで形質転換した。細胞を2日間培養し(途中で1回培地交換を行い)、次に培養液を除き、0.2%トリプシンを含むPBS(―)を培養液の約1/10量加えて処理した。次にピペッティングにより細胞を剥離・分散させて浮遊させ、10μg/mlのブラストサイジン(blasticidin)(日本国、科研製薬製)を含む培地で元の培養液量の6倍に希釈し、φ10のプレートにおいて10日間培養することでブラストサイジン耐性株を選択した。培地交換は、4日目と7日目に行った。10日目には、23株のブラストサイジン耐性株を選択して、培地0.5mlを含む24穴のプレートに移して培養した。培地は、上記と同じブラストサイジン含有MEMを用いた。24穴のプレートでの培養開始から4日目には0.5mlの新しい培地を加え、更に2日〜5日間培養した。各細胞株について、培養液の一部をサンプリングし、培地に抗原が含まれるか否かをELISA法で確認した。
【0078】
また、24穴のプレートで増殖した細胞から順次φ6又はφ10のプレートに移して培養スケールを拡大して3日〜6日間培養し、続いてφ10のプレートから75cm2のフラスコに移して更に3日〜6日間培養した。培養スケールの拡大は、次の方法で行った。細胞が単層になったら培養液を除き、0.2%トリプシンを含むPBS(―)を培養液の約1/10量加えて処理した。次にピペッティングにより細胞を剥離・分散させて浮遊させ、培地で元の培養液量の6倍に希釈し、新しい容器に移した。
【0079】
培養した細胞は−80℃で凍結保存した。この保存した細胞の一部を25cm2のフラスコを用いて更に培養し、培養液を超遠心に付して培養上清を得、得られた培養上清に含まれる日本脳炎ウイルス抗原をウエスタンブロットで確認した。培養細胞についても、細胞溶解物を調製し、日本脳炎ウイルス抗原の存在をウエスタンブロットで確認した。
【0080】
ELISAの結果及びウエスタンブロットの結果によると、23株の形質転換体(#1〜#23)のうち、#10と#20が大量の抗原を発現していた。
【0081】
(5)形質転換体のクローニング
96穴のマイクロプレートを用い、細胞株#10と#20をそれぞれ0.2細胞/100μlになるように培地で希釈し、それを各ウエルに100μlずつ分注して培養した。培養開始から4日目に新しい培地100μlを加え、培養開始から8日、12日及び15日目には培地の半分を新しい培地に交換した。培養開始から12日〜20日目には、増殖した細胞から順次24穴のプレートに移して培養スケールを拡大し、細胞株#10については20クローン、細胞株#20については27クローン(J12#20.01〜J12#20.27)を得た。これらのクローンは、培養開始から17日〜29日にかけて、φ6のプレート、次いで75cm2のフラスコに培養スケールを拡大した。培養スケールの拡大は上述の方法で行い、培養した細胞は−80℃で凍結保存した。途中で培養液の抗原価をELISA法で確認した。細胞株#20のクローンであるJ12#20.14が最も高いELISA価を示したので、このクローンを2回目のクローニングに付した。
【0082】
細胞株J12#20.14について、96穴のマイクロプレートを用い、0.2細胞/100μl培地で培養した。培養開始から8日目に新しい培地100μlを加え、培養開始から14日、19日及び22日目には培地の半分を新しい培地に交換した。培養開始から18日〜27日目には、増殖した細胞から順次24穴のプレートに移して培養スケールを拡大し、51クローンを得た。更に培養開始から23日〜34日にかけて、φ6のプレート、次いでφ10のプレートから75cm2のフラスコに培養スケールを拡大し、培養した細胞は−80℃で凍結保存した。培養開始から19日目には培地を50μlサンプリングして抗原価をELISA法で確認した。また、培養途中の細胞の増殖状況と細胞形態を肉眼で観測した。その結果、J12#20.14の51クローンのうち、クローン26を抗原発現細胞として選択し、J12#26細胞と命名した。
【0083】
(6)J12#26細胞の無血清培地への馴化
10%FBS−MEMで36代まで継代し、凍結保存したJ12#26細胞を以下の実験に用いた。凍結保存した細胞を解凍し、36〜37℃において、10%FBS−MEMで培養した。以下、馴化に用いた培地には5μg/mlのブラストサイジンを添加した。添加血清濃度を5%、2.5%、1.25%と1/2ずつ順次減少させた培地を用いて細胞を継代することで、J12#26細胞を無血清培地に馴化させた。具体的には、1代〜8代を5%FBS−MEMで培養し、9代〜16代を2.5%FBS−MEMで培養し、17代〜18代を1.25%FBS−MEMで培養し、19代〜20代を1.25%FBS−VP−SFM[VP−SFM(米国、Gibco BRL製)に1.25%のFBSを添加したもの]で培養した。次に血清を含まないVP−SFMでJ12#26細胞を継代し、無血清培地馴化抗原発現株であるJ12#26SF細胞を得た。
【0084】
(7)ELISAによる抗原産生量の確認
J12#26SF細胞の抗原産生量を確認するために、VP−SFMで継代し、その培養上清の抗原価をELISA法で測定した。対照として、非馴化細胞(10% FBS−MEMで継代したJ12#26細胞)の培養上清の抗原価も同様に測定した。結果を図2及び図3に示す。
【0085】
図2及び図3から明らかなように、無血清培地に馴化したJ12#26SF細胞(図3)は、10%FBS−MEMで継代した非馴化細胞J12#26細胞(図2)に比べて劣るものの、十分量の抗原を産生した。又、抗原産生量は、継代しても減衰しないことが明らかとなった。
【実施例2】
【0086】
J12#26SF細胞の発現するウイルス様粒子のHA価とELISA価の経時変化
J12#26SF細胞の発現する抗原がHA活性を示すことを確認するために、HA価とELISA価を測定し、その経時変化について検討した。
【0087】
HA価及びELISA価の測定には、5μg/mlブラストサイジン含有VP−SFMで38代継代したJ12#26SF細胞を用い、対照としては、培養後4日目のVero細胞に、日本脳炎ウイルス(北京株)を感染させたもの(JEV感染Vero細胞)を用いた。J12#26SF細胞は5μg/mlのブラストサイジンを含むVP−SFMで培養し、培養開始から1日、2日、3日、4日、5日、6日、10日、14日及び17日目に培養上清をサンプリングした。なお、10日目には培地交換を行った。JEV感染Vero細胞は2%牛血清を含むMEMで培養し、培養開始から1日〜7日目までの毎日、培養上清をサンプリングした。
【0088】
(1)HA価の測定
HA価の測定には、ガチョウ赤血球を用いた。ガチョウ血液に、血液とACD(acid-citrate-dextrose)の割合が10:1.5となるようにACDを加えた。そこに2.5容量のDGV(dextrose-gelatin-veronal)を加えて混合し、得られた混合物を1,000rpmで15分遠心分離した。上清を廃棄し、残った沈渣に上記と同量のDGVを加えて縣濁し、再度遠心分離を行った。この操作を計4回繰り返して沈渣を得た。得られた沈渣を生理食塩水に縣濁して8%赤血球浮遊液を得た。
【0089】
U字型マイクロプレートのウエルに0.4% 卵アルブミン加ホウ酸苛性ソーダ緩衝食塩液(pH9.0)を50μlずつ分注した。希釈系列の隣のウエルにはサンプリングした培養上清100μl入れ、マルチチャンネルオートピペットを用いて原液試料から順に隣の穴に向かって50μlずつ移動とピペッティングを繰り返して希釈し、2倍に段階希釈した測定用サンプルを得た。至適pH(J12#26SF細胞の培養上清の場合はpH6.0、JEV感染Vero細胞の場合はpH6.2)のリン酸緩衝液で調製した0.33%赤血球浮遊液を各ウエルに50μlずつ添加し、直ちにマイクロミキサーで混和した。37℃で1時間静置した後、凝集反応の判定を行った。ウエルの底の中心に赤血球が沈降し、赤い点の塊のように見えるものを陰性とし、赤血球が底全体に広がって沈降し、傾けても赤血球が流れ出さないものを陽性とした。HA価は、赤血球凝集が陽性であるウイルス液の最高希釈倍数で表した。
【0090】
(2)ELISA価の測定
J12#26SF細胞(38代継代)の培養上清とJEV感染Vero細胞の培養上清は、PBS−Tを用いて2倍に段階希釈し、それぞれをサンプルとした。ELISA価は、503モノクローナル抗体を用いて測定した。ELISA価の基準として、精製不活化ウイルス抗原であるTJP**012も同様に測定し、TJP**012のELISA価を100としてサンプルのELISA価を換算した。また、78代継代したJ12#26SF細胞の培養上清についても、同様にELISA価を測定した。JEV感染Vero細胞のHA価及びELISA価を表1及び図4に示し、J12#26SF細胞のウイルス粒子のHA価及びELISA価を表2及び図5に示す。
【0091】
JEV感染Vero細胞の培養上清については、10倍に段階希釈したサンプルを用い、プラーク法により感染価を測定し、その結果を表1に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
Vero細胞を用いたウイルス培養では、ELISA価及びHA価は共に培養4日目に最高値を示し、5日目以降はウイルスによる細胞変性効果(cytopathic effect,CPE)が進み、ELISA価、HA価とも低下した。一方、J12#26SF細胞の培養においては、4日目以降もウイルス様粒子を発現し続け、ELISA価、HA価とも上昇した。また、10日目に培養上清を回収し、新しい培地を添加するとウイルス様粒子の発現は継続した。従って、適当な時期に培地交換することで、1回の細胞培養で大量のウイルス様粒子を発現させることが可能である。上記の結果から明らかなように、J12#26SF細胞の産生する抗原はHA価を示し、図5に見られるように、HA価とELISA価の間にはほぼ直線的な相関関係が見られた。また、表2から明らかなように、J12#26SF細胞は、日本脳炎ウイルスをVero細胞で増殖させた時の培養液に含まれる抗原量の2〜3倍量の抗原を産生することが判明した。本発明の形質転換細胞株であるJ12#26SF細胞は大量且つ持続的に抗原を発現しており、このような大量且つ持続的な抗原の発現は細胞の継代が進んでも(78代でも)衰えることはなかった。
【実施例3】
【0095】
無血清培地からのウイルス様粒子の精製
J12#26SF細胞を、直径15cmの培養ディッシュを用いて、無血清培地中で72時間大量培養した。抗原精製用無血清培地としては、VP−SFMに5μg/mlのブラストサイジンを添加して用いた。
【0096】
3,000rpmで10分培養液を遠心し、培養上清を回収した。回収した培養上清をBiomax-100限外濾過膜(MWCO100,000)(米国、Millipore社製)を装着したセントリコンプラス80を用いて3,000×g、4℃で30分の遠心を3回行い、容積を1/114まで濃縮した。
【0097】
濃縮液をSephacryl S-300を充填したHiprep 16/60カラム(1.6×60cm)(スウエーデン国、Pharmacia Biotech AB製)にアプライし、TBSバッファー[50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl]を用いて流速1ml/分で分子ふるいクロマトグラフィーを行い、1画分が3.75mlとなるように分画した。各画分の抗原価をELISA法で測定し、ピークフラクションを回収した。目的の抗原は、排除限界域で単一のピークとして溶出された。
【0098】
次に、このピーク画分を上部5%(w/w)、底部30%(w/w)となるように、Gradient MasterTM(model 106)(カナダ国、BIOCOMP Instruments, Inc.製)で調整したショ糖密度勾配液に重層し、SW28ローターおよび超遠心機L8−70M(いずれも米国、Beckman Instruments, Inc.製)を用いて、4℃、26,500rpmの条件で2時間のショ糖密度勾配遠心分画を行った。遠心後、チューブ底部中央に19ゲージの穴をあけ、滴下法で1画分が2mlとなるように分画した。各画分の抗原価をELISA法で測定し、抗原のピークフラクションを回収した。目的の抗原は単一のピークを形成して分画していた。各フラクションのショ糖濃度はほぼ単調減少直線を描いていた。
【0099】
最後に、ショ糖や低分子物質を除くために、このピーク画分をSephadex G-25を充填したHiprep desalting 26/10カラム(2.6×10cm)(スウエーデン国、Pharmacia Biotech AB製)にアプライし、PBS(−)を用いて流速5ml/分で分子ふるいクロマトグラフィーを行い、1画分が5mlとなるように分画した。この操作で抗原をショ糖や低分子物質から完全に分離し、同時に溶媒をPBS(−)に交換した。ショ糖の除去とバッファー交換を行った抗原画分を最終精製物であるウイルス様粒子とした。精製したウイルス様粒子は、J12#26抗原と命名した。なお、高速液体クロマトグラフィーシステムには、AKTA explorer 10S(スウエーデン国、Pharmacia Biotech AB製)を使用した。
【0100】
抗原の精製の各段階において、タンパク質量とELISA法による抗原量の測定を行った。結果を表3にまとめた。
【0101】
【表3】

【0102】
表3においては、無血清培地を用いた培養上清中の総抗原量をそれぞれ100%とし、各ステップにおける収量を基に回収率を算出した。タンパク質の回収率は6.3%であったが、ウイルス様粒子の回収率は43.5%だった。電気泳動の結果およびウェスタンブロットの結果と併せると、高精製度・高収率で抗原を精製することができた。
【0103】
各精製段階のサンプルの抗原量またはタンパク質量を等しくしてそれぞれSDS−PAGEに付した。泳動後、銀染色と同等の感度を持つ蛍光色素のSYPRO-Orangeで泳動分画されたタンパク質を染色した。結果を図6に示した。抗原量を等しく泳動した場合には、精製過程が進むにつれ、同等のシグナル強度を示す分子量53kDaのタンパク質バンドが等しく観察されたのに対して、その他の混入タンパク質のバンドは減少した。タンパク質量を等しくして泳動した場合には、精製が進むにつれ、上記53kDaのタンパク質バンドが徐々に強く観察された。更に、53kDaの主要なタンパク質バンドが日本脳炎ウイルスに特異的な中和抗原のEタンパク質であるか否かをウェスタンブロットで調べた。結果を図7に示した。日本脳炎ウイルスに対する特異的な抗体によって、53kDaの主要なタンパク質が認識された。
【0104】
J12#26抗原液のタンパク質濃度とHA価を測定した。その結果、タンパク質濃度は44μg/mlであり、HA価は25,600HAだった。従って、J12#26抗原のHA活性は、1μg/ml当たり582HAだった。
【実施例4】
【0105】
抗原粒子を構成するタンパク質のN末端アミノ酸解析
J12#26抗原がEタンパク質のみならず、Mタンパク質も包含することを確認するために、Eタンパク質に相当する53kDaのバンドの下流に存在するタンパク質のN末端のアミノ酸配列を解析した。
【0106】
上記で精製したウイルス様粒子に、終濃度が5%になるように50%トリクロロ酢酸を加えて攪拌し、室温で30分間静置した。3,000gで30分低速遠心後に上清を捨て、残った沈殿を風乾し、100μlの0.1% NaOHで溶解し、泳動用サンプルとした。泳動用サンプルの抗原量が20μg/レーンとなるようにゲルにアプライしてSDS−PAGEに付した。電気泳動後のゲルに銀染色を施し、タンパク質のバンドを視覚化した。次に、SDS−PAGE後のゲルからタンパク質のバンドをPVDF膜に転写した。結果を図8に示す。
【0107】
図8はSDS−PAGEおよびPVDF膜への転写を行った結果であり、左側が銀染色したポリアクリルアミドゲルであり、右側がPVDF膜にタンパク質を転写した転写象である。Eタンパク質に相当する53kDaのバンドの下流に存在するバンドのうち、JEVに由来すると思われる3本のバンド(図8のJEVLP01〜JEVLP03)、即ち、16.5kDa、14.9kDa及び6.8kDaのバンド、を転写膜から切り出し、メタノール、超純水、メタノールの順番でバンドを洗浄した。各バンドを構成するタンパク質のN末端から5残基のアミノ酸配列をシークエンサーを用いて解析した。プロテインシークエンサーにはG1000A(米国、Hewlett Packard Company製)、PTHアナライザーには1090型(米国、Hewlett Packard Company製)、分析プログラムにはRoutine 3.1 PVDFを用いた。結果を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
上記の表4から明らかなように、JEVLP01はMタンパク質(またはその断片)とEタンパク質断片の混合物であり、JEVLP02はEタンパク質断片であり、JEVLP03はMタンパク質であった。この結果から、J12#26抗原は、Eタンパク質と共にMタンパク質が含まれていることが明らかとなった。
【実施例5】
【0110】
ウイルス様粒子の電子顕微鏡観察
J12#26抗原の形状を電子顕微鏡で観察した。精製したJ12#26抗原を遠心濃縮し、前固定なしでネガティブ染色した。染色したウイルス様粒子を電子顕微鏡下で観察した。電子顕微鏡写真を図9に示す。
【0111】
ウイルス様粒子はほぼ均一なサイズの球型粒子状であり、平均直径は25nmであった。この結果から、精製の完了した抗原が粒子状構造を形成していることが直接的に証明された。また、一般に電子顕微鏡下では、不純物やウイルス様粒子の破壊によって生じた細かな不定形のゴミ様混在物が観察されるが、そのようなものがほとんど見られないことから、精製度はかなり高いものと考えられる。
【実施例6】
【0112】
日本脳炎ウイルス抗原による中和抗体誘導試験
4週齢雌ddYマウスを1群10匹に分け、PBSで希釈した精製J12#26抗原をマウス一匹に付き、総タンパク量で300ngを腹腔投与免疫した。免疫は1週間おきに2回繰り返した。対照群には5匹のPBS(−)接種群および現行ワクチン接種群をおいた。2回目の投与から7日目に半数のマウスから、14日目には残りマウスから無菌的に心臓全採血を行い、血液を37℃中に1時間放置して凝固させた。血餅を取り除いた後、4℃、5,000rpmで10分遠心し、血清を分離した。血清を回収し、56℃で30分血清の非働化を行った。5匹のマウスそれぞれの血清から50μlの非働化済み血清をプールして、中和抗体価の測定に用いた。結果は表5に示した。
【0113】
【表5】

【0114】
表5から明らかなように、J12#26抗原を現行ワクチンと同様に接種した群において、現行ワクチンより約3倍高い中和抗体価を誘導した。以上の結果から、本発明の日本脳炎ウイルス抗原は、現行ワクチンと同等の免疫原性を示すことが明らかになった。
【実施例7】
【0115】
日本脳炎ウイルス抗原による感染防御
実施例6と同様に、4週齢雌ddYマウスを1群10匹に分け、PBSで希釈した日本脳炎ウイルス抗原を腹腔投与免疫した。日本脳炎ウイルス抗原には、PBSで希釈したJ12#26抗原を用い、一匹につき抗原量(ELISAで求めた量)で300ngを投与した。対照群にはPBS(−)接種群および現行ワクチン接種群をおいた。免疫したマウスが6週齢になった時点で、2×106PFUの日本脳炎ウイルス[(財)阪大微生物病研究会から分与を受けた日本脳炎ワクチン生産用の種ウイルス株(北京−1株、JWS−P−4)]を腹腔内接種した。腹腔内接種と同時に、マウスに20μlのPBSを脳内注射し、血液脳関門を破壊した。接種後21日間にわたり、マウスの生存または死亡を調査し、生存率(%)を算出した。結果を表6に示した。
【0116】
【表6】

【0117】
表6から明らかなように、本発明の抗原粒子で免疫したマウスは、現行のワクチンで免疫したマウスと同じように100%の生存率を示した。従って、本発明の抗原様粒子は日本脳炎ワクチン用抗原として十分な感染防御能を有していた。
【実施例8】
【0118】
日本脳炎ウイルス抗原を用いた日本脳炎の診断
J12#26抗原及び組織培養日本脳炎ウイルス精製抗原(BM3)をそれぞれタンパク質量が1.0μg/mlとなるように、炭酸緩衝液(pH9.6)で希釈し、固相化抗原とした。抗原をELISA用プレートに100μl/ウエルずつ分注し、4℃で一晩放置して抗原を固相化した。PBS−Tでウエルを洗浄し、1%FBSを含むPBSを200μl/ウエルずつ分注し、37℃で2時間ブロッキングした。PBS−Tでウエルを洗浄し、200倍に希釈したヒトの血清を各ウエルに100μl加え、37℃で60分インキュベートした。ヒト血清には、日本脳炎ウイルス北京株に対する中和抗体価が陰性の血清2検体(S1とS2)と陽性の血清2検体(S3とS4)を用いた。
【0119】
PBS−Tでウエルを洗浄し、PBS−Tで1000倍希釈した標識抗体であるHRPO-anti human IgG goat IgG[米国、Rockland Immunochemicals社製(米)]を各ウエルに100μlずつ分注し、37℃で60分インキュベートした。洗浄後、各ウエルに100μlの発色液を加えて20分間放置して反応させた。発色液は、基質となる30%過酸化水素25μlと発色剤であるABTS [2,2'-Azino-bis(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonic acid) Diammonium Salt](米国、Sigma社製)20mgを100mlのクエン酸緩衝液(pH4.0)に溶解した溶液を用いた。次に、1.5%のシュウ酸を各ウエルに100μl加えて反応を停止し、415nmの吸光度を測定した。吸光度が0.2以上のものを陽性と判定した。結果は表7に示した。
【0120】
【表7】

【0121】
本発明の抗原を用いてヒト血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体との反応性の有無を試験したところ、中和抗体価及び組織培養日本脳炎ウイルス精製抗原を用いた試験結果の両方と相関した結果が得られた。従って、本発明の抗原は診断剤用の抗原としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】図1は、組換えDNA pCAGJ12bsrの模式図である。
【図2】図2は、10%FBS−MEMで継代した無血清培地非馴化細胞(J12#26細胞)の継代数と、培養上清中に発現されたウイルス様粒子量の関係を示すグラフであり、縦軸はELISA法で測定したウイルス様粒子量(μg/ml)であり、横軸は継代数である。
【図3】図3は、VP−SFM(無血清培地)で継代した無血清培地馴化細胞(J12#26SF細胞)の継代数と、培養上清中に発現されたウイルス様粒子量の関係を示すグラフであり、縦軸はELISA法で測定したウイルス様粒子量(μg/ml)であり、横軸は継代数である。
【図4】図4は、日本脳炎ウイルス感染Vero細胞の培養上清のHA価及びELISA価の経時変化を示すグラフであり、左の縦軸は精製不活化ウイルス抗原であるTJP**012のELISA価を100とした培養上清のELISA価であり、右の縦軸はHA価(HA活性が認められた最大希釈率)であり、横軸は培養日数であり、○はELISA価を表し、◆はHA価を表す。
【図5】図5は、38代培養したJ12#26SF細胞の培養上清のHA価及びELISA価の経時変化を示すグラフであり、左の縦軸は精製不活化ウイルス抗原であるTJP**012のELISA価を100とした培養上清のELISA価であり、右の縦軸はHA価(HA活性が認められた最大希釈率)であり、横軸は培養日数であり、○はELISA価を表し、◆はHA価を表す。
【図6】図6は、ウイルス様粒子のSDS−PAGEである。図中、レーン2〜6は等しい抗原量をアプライした結果であり、レーン8〜12は等しいタンパク質量をアプライした結果であり、レーン1と7は分子量マーカー、レーン2と8は限外ろ過で濃縮した培養上澄、レーン3と9はSephacryl S-300クロマトグラフィーのピークフラクション、レーン4と10はショ糖濃度勾配遠心法で得たピークフラクション、レーン5と11はSephadex G-25クロマトグラフィーのピークフラクション、そしてレーン6と12は市販の日本脳炎ワクチンである。
【図7】図7は、図6のSDS−PAGEに対してウサギ抗JEV抗血清を用いたウエスタンブロットの結果である。図中、レーン2〜6は等しい抗原量をアプライした結果であり、レーン8〜12は等しいタンパク質量をアプライした結果であり、レーン1と7は分子量マーカー、レーン2と8は限外ろ過で濃縮した培養上澄、レーン3と9はSephacryl S-300クロマトグラフィーのピークフラクション、レーン4と10はショ糖濃度勾配遠心法で得たピークフラクション、レーン5と11はSephadex G-25クロマトグラフィーのピークフラクション、そしてレーン6と12は市販の日本脳炎ワクチンである。
【図8】図8は、TCAで処理したウイルス様粒子のSDS−PAGEとSDS−PAGEで分画したタンパク質のバンドをPVDF膜に転写した結果であり、右側が銀染色したポリアクリルアミドゲルであり、左側がPVDF膜にタンパク質を転写した転写象であり、左端の数字は分子量マーカーであり、20.9kDaのバンドの下流に3本のバンド(JEVLP01〜JEVLP03)が存在する。
【図9】図9は、ネガティブ染色したウイルス様粒子を撮影した電子顕微鏡写真であり、スケールを示す横線は100nmに相当する。
【配列表のフリーテキスト】
【0123】
配列番号1は、Virology, 161: 497-510, 1987に記載された、日本脳炎ウイルスのヌクレオチド配列に基づく合成プローブである。
配列番号2は、Virology, 161: 497-510, 1987に記載された、日本脳炎ウイルスのヌクレオチド配列に基づく合成プローブである。
配列番号3は、Virology, 161: 497-510, 1987に記載された、日本脳炎ウイルスのヌクレオチド配列に基づく合成プローブである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本脳炎ウイルス様粒子を包含してなる日本脳炎ウイルス抗原であって、該ウイルス様粒子は、日本脳炎ウイルスのMタンパク質及びEタンパク質を包含するが、該粒子中にはRNAを含有していないタンパク質集合体であり、且つ該ウイルス様粒子は赤血球凝集活性を示すことを特徴とする日本脳炎ウイルス抗原。
【請求項2】
該ウイルス様粒子が、以下の工程からなる方法で得られたことを特徴とする、請求項1に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
(a)日本脳炎ウイルスのゲノムRNAから調製されたcDNAを提供し、該cDNAはprMタンパク質をコードするcDNA断片及びEタンパク質をコードするcDNA断片をこの順序で包含し、
(b)β−アクチンプロモーターを含む複製可能な発現ベクターに該cDNAを発現可能に組み込んでなる複製可能な組換えDNAを構築し、
(c)該複製可能な組換えDNAで動物細胞を形質転換して形質転換細胞を形成せしめ、
(d)該形質転換細胞を親細胞から選別し、
(e)該形質転換細胞を培地中で培養し、該形質転換細胞に該cDNAを発現させてウイルス様粒子を培地中に放出させ、そして
(f)培地から該ウイルス様粒子を単離する。
【請求項3】
該cDNAが、配列表の配列番号4の塩基配列であることを特徴とする、請求項2に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【請求項4】
該動物細胞が、RK13細胞であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【請求項5】
該培地が、無血清培地であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原を、有効成分として免疫を奏する量含有してなる日本脳炎ワクチン。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の日本脳炎ウイルス抗原を、有効成分として含有する診断剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−149650(P2009−149650A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329256(P2008−329256)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願2002−229597(P2002−229597)の分割
【原出願日】平成14年8月7日(2002.8.7)
【出願人】(000173692)財団法人阪大微生物病研究会 (23)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】