説明

日焼けの原因遺伝子

【課題】本発明は、紫外線感受性症候群の原因となる遺伝子異常を解明することを目的とし、さらにNER欠損を伴う疾患の診断剤や、検査・診断方法を提供すること、並びにNER欠損の改善剤、NER欠損を伴う疾患の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【解決手段】紫外線感受性症候群の原因遺伝子としてのKIAA1530遺伝子の提供。KIAA1530に対する抗体、KIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部を含む核酸、またはKIAA1530をコードする塩基配列若しくはその一部に相補的な塩基配列を含む核酸を含有してなる、NER欠損を伴う疾患(特に紫外線感受性症候群)の診断剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線感受性症候群、具体的には日焼けの原因遺伝子に関する。詳細には、ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の診断剤や検査・診断方法、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質のスクリーニング方法、ヌクレオチド除去修復欠損の改善剤、並びにヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の予防・治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオチド除去修復(NER)には、日光誘導性紫外線(UV)光傷害や種々の付加型DNA損傷を取り除く働きがある。NER機構にはゲノム全体の損傷を修復するグローバルゲノムNER(GG−NER)機構と、転写されている遺伝子の転写鎖上の損傷を効率良く修復する転写共役NER(TC−NER)機構の2つのサブパスウェイが存在する。
ヒトでは、NER機構の欠落は光線過敏症を招くことが知られている。未修復のDNA損傷はRNA転写を妨害し、また、調整された遺伝子発現を妨げ、色素性乾皮症(XP)やコケーン症候群(CS)等で観察されるような、発達異常や全身異常をもたらす。
一方、紫外線感受性症候群(UVS)は、皮膚の光線過敏症及びしみ・そばかすによって特徴づけられる常染色体性劣性遺伝性皮膚疾患であるが、XPで報告されているような、皮膚がん等の酷い症状は認められない(非特許文献1、及び2)。
臨床的特徴が極めて軽度であるにも関わらず、UVS由来の線維芽細胞は重度のUV感受性を示し、転写と共役したNER(TC−NER)を欠いている(非特許文献2〜4)。UVS患者の細胞で見られるUV照射に対するこれらの応答は、TC−NER欠損したCS患者の細胞で見られるものと区別がつかない(非特許文献2〜4)。
UVSは、臨床的徴候が軽度であるので、積極的な研究が為されておらず、信頼できる報告が極めて限られているのが現状である。従ってUVSは過小診断されている傾向にある。1994年に初めて二人のUVS患者が報告され、確固たる根拠を持って報告されたものは世界中で7例のみである。
【0003】
近年の研究から、7例の患者のうち3例で、UVSの原因となる変異が、コケーン症候群CSA遺伝子又はCSB遺伝子において同定された。残りの4例は、XP又はCSの相補性群のいずれにも属していなかったが、別の相補性群(UVSS−A)を形成していた(非特許文献1、5及び6)。しかしながら、その原因遺伝子(UVSA)はいまだ同定されていない。
【0004】
NER活性の測定には、核酸の取り込みを指標とした修復機能を測定する方法が開発されている(特許文献1、非特許文献7)。当該方法は、非放射性核酸を用いて放射性核酸を使用する従来法と同等の精度と感度を確保し、NERのUDS(Unscheduled DNA Synthesis)及びRRS(Recovery RNA synthesis)活性の両方を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−24468号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Spivak, G. Mutat Res 577, 162-169 (2005).
【非特許文献2】Itoh, T. et al., AM J Hum Genet 56, 1267-1276 (1995)
【非特許文献3】Itoh, T. et al., Mutat Res 314, 233-248 (1994)
【非特許文献4】Spivak, G. et al., DNA Repair (Amst) 1, 629-643 (2002)
【非特許文献5】Cleaver, J. E. & Thomas, G. H., Arch Dermatol 129, 348-350 (1993)
【非特許文献6】Itoh, T. et al., J Invest Dermatol 114, 1022-1029 (2000)
【非特許文献7】Nakazawa, Y. et al., DNA Repair (Amst) 9, 506-516 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、NER欠損、特に紫外線感受性症候群、具体的には日焼けの原因となる遺伝子異常を解明することにある。さらに本発明の目的は、紫外線感受性症候群等のNER欠損を伴う疾患の診断剤や、検査・診断方法を提供することにある。さらに本発明の別の目的は、NER欠損の改善剤、NER欠損を伴う疾患の予防・治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、親族関係にない2名のUVS−A患者の全エクソームの配列を決定し、UVSA遺伝子がKIAA1530遺伝子(NM_020894)であることを見出した。KIAA1530遺伝子は、ヒトcDNAを解析する過程で報告された遺伝子であり、染色座4p16に位置し、709アミノ酸(NP_065945)をコードしている。本発明者らは、さらにKIAA1530蛋白質の欠如/異常がTC−NERにおける欠陥をもたらすことを確認した。siRNAによる遺伝子発現抑制、疾患症例の検証、相補性試験、蛋白質発現解析等を行って、当該遺伝子の欠損/異常が紫外線感受性症候群の原因であることを証明し、本発明を完成するに至った。当該遺伝子は、「日焼け」の原因遺伝子であり、この遺伝子が欠損していると光線過敏症になるが、これまでにXPのように皮膚がんが発生した事象は報告がない。
本願発明は、以下に示す通りである。
【0009】
[1]配列番号1の塩基配列からなる、紫外線感受性症候群の原因遺伝子。
[2]紫外線感受性症候群が日焼けである、上記[1]記載の原因遺伝子。
[3]配列番号2のアミノ酸配列からなる、紫外線感受性症候群の原因蛋白質。
[4]配列番号2の1〜163番目のアミノ酸配列を含む、紫外線感受性症候群の原因蛋白質。
[5]KIAA1530に対する抗体またはKIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部を含む核酸を含有してなる、ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の診断剤。
[6]ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患が、紫外線感受性症候群である、上記[5]記載の診断剤。
[7]KIAA1530のVHS領域における変異を検出することを特徴とする、紫外線感受性症候群の検査方法。
[8]KIAA1530を産生する能力を有する細胞における該蛋白質及び/又は遺伝子の発現を、試験化合物の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質のスクリーニング方法。
[9]ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質が、紫外線感受性症候群を改善する物質である、上記[8]記載のスクリーニング方法。
[10]ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質が、日焼けを予防または改善する物質である、上記[8]記載のスクリーニング方法。
[11]下記(a)〜(c)の工程を含む、上記[8]〜[10]のいずれか1項に記載の方法:
(a)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養する工程、
(b)両条件下における該蛋白質をコードするmRNAの量を、本発明の核酸を用いて測定、比較する工程、
(c)試験化合物の存在下での該蛋白質をコードするmRNAの量が、試験化合物非存在下の場合と比較して有意に上昇した場合に、該試験化合物を、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質として選択する工程。
[12]下記(a)〜(c)の工程を含む、上記[8]〜[10]のいずれか1項に記載の方法:
(a)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養する工程、
(b)両条件下における該蛋白質の量を、本発明の抗体を用いて測定、比較する工程、
(c)試験化合物の存在下での該蛋白質の量が、試験化合物非存在下の場合と比較して有意に上昇した場合に、該試験化合物を、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質として選択する工程。
[13]KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質を含有してなる、ヌクレオチド除去修復欠損の改善剤。
[14]KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質が、下記(a)〜(c)から選ばれる、上記[13]記載の改善剤。
(a)KIAA1530蛋白質
(b)KIAA1530をコードする核酸
(c)KIAA1530に対してアゴニスト活性を示す低分子化合物
[15]ヌクレオチド除去修復欠損が転写と共役したタイプのものである、上記[13]または[14]記載の改善剤。
[16]上記[13]記載の改善剤を含む、ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の予防・治療剤。
[17]ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患が、紫外線感受性症候群である、上記[16]記載の剤。
[18]ヌクレオチド除去修復欠損が、皮膚がんを後発しない、上記[13]記載の剤。
[19]上記[13]記載の改善剤を含む、紫外線防護用の化粧品。
【発明の効果】
【0010】
日焼けの原因遺伝子が解明できたことにより、紫外線感受性症候群のような日焼けが症状として出る疾病の診断や日焼け予防薬のスクリーニングが可能になる。また、NER機構の解明の有力なツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1a】p.K123X未成熟停止変異を引き起こす、c.367A>T変異を図示したものである。この変異は、UVS−A患者(Kps3)で同定された。
【図1b】キャピラリーサンガー配列解析の結果を図示したものである。アスタリスクは変異が生じた位置を示している。KIAA1530エクソン3におけるc.367A>Tの一塩基変異(SNV)が、エクソーム配列解析を行ったUVS−A患者(XP24KO及びKps3)においてホモ接合性であることがわかった。同じ変異がKp3の兄弟(姉妹)であるKps2にも見られた。
【図1c】キャピラリーサンガー配列解析の結果を図示したものである。アスタリスクは変異が生じた位置を示している。c.87delGフレームシフト変異が、UVS−A患者(UVS24TA)で同定された。リジンコドン29の3番目の位置の欠失が未成熟停止(p.I31FfsX9)をもたらす。
【図1d】KIAA1530遺伝子のゲノム構造及びUVS−A患者における変異の位置を示している。
【図1e】上段:UVS−A患者(XP24KO、Kps3、Kps2、及びUVS24TA)間で共有されているROH(run of homozygous)セグメントを図示したものである。各患者で全ゲノムのSNP遺伝子型決定を行い、ROH(>1Mbp)を抽出した。4名の患者全てで重複するROH領域を緑色で、KIAA1530遺伝子を含む重複領域を赤色で示した。中段:各患者において同定されたROHを図示したものである。下段:染色体4で見られる重複領域を拡大した図である。AA:ホモ接合性、BB:ホモ接合性、AB:ヘテロ接合性、NC:ノーコール
【図1f】正常細胞、CS患者由来細胞及びUVS−A患者由来細胞におけるKIAA1530蛋白質の発現の有無を調べた結果を図示したものである(ウェスタンブロット像)。正常細胞及びCS患者由来細胞には、〜90kDaのKIAA1530遺伝子産物が存在するが、UVS−A患者由来細胞にはKIAA1530蛋白質が存在しない。正常細胞:1BR及び48BR、CS−A患者細胞:CS2AW、CS−B患者細胞:CS10LO、UVS−A患者細胞:Kps2、Kps3、UVS24TA、及びXP24KO、アスタリスクは非特異的なバンドであることを示している。
【図2a】UVS−A患者由来細胞ではUVC照射後のRRSレベルが低下していることを示したグラフである。細胞にUVC照射(■;10J/m 254nm UVC、□;UV照射せず)し、続いてRNA合成回復の為に12時間インキュベートした。RRSレベルは、蛍光に基づくエチニルウリジン(EU)取り込みアッセイにより測定した。
【図2b】UVC照射したUVS−A患者由来細胞のUDSレベルは殆ど正常であった。細胞をUVC照射(■;20J/m UVC、□;UV照射せず)し、続いて、デオキシチミジンアナログであるエチニルデオキシウリジン(EdU)で4時間インキュベートした。EdU取り込みレベルを、EUに基づくRRSアッセイと同様の蛍光に基づく検出システムによって測定した。
【図2c】UVC照射後のRNA合成回復は、KIAA1530遺伝子発現をsiRNA(small-RNA interference)で抑制することによって完全に消失した。48BR細胞をmock siRNAでトランスフェクトするか、あるいはKIAA1530あるいはXPA遺伝子をターゲッティングしたsiRNAでトランスフェクトした。RRSレベルは図2aで述べたのと同様にして測定した(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)。
【図2d】UDSレベルは、KIAA1530遺伝子発現をsiRNAノックダウンしても影響を受けなかった。UDSレベルは図2bで述べたのと同様にして測定した(■;20J/m UVC)。
【図2e】KIAA1530遺伝子のノックダウン効率をウェスタンブロットで確認した図である。検出には、マウス抗ヒトKIAA1530抗体を用いた。アスタリスクは非特異的なバンドであることを示している。
【図2f】UVS−A患者細胞における、組換えレンチウイルス感染によるKIAA1530cDNAの異所性発現によってRRS欠如が完全に回復することを示したグラフである。LacZ又はV5−タグされた野生型KIAA1530cDNAを発現するレンチウイルス粒子を調製した。Mock感染(W/O)、又は表示のウイルスで感染させた細胞を48時間培養し、続いてUVC照射した(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)。RRSレベルは図2aで記載したようにして測定した。RRSレベルは、照射処理しなかった細胞のRRSレベルに対して標準化した。UDSレベルは、正常な48BR細胞に対して(図2b参照)、あるいはmock siRNAで処理した細胞に対して(図2d参照)標準化した。エラーバーは、5サンプルの平均値の標準誤差を示している。正常細胞:48BR、UVS−A患者細胞:Kps2、Kps3、及びXP24KO、CS−A患者細胞:CS2AW、CS−B患者細胞:CS10LO
【図2g】UVC照射後のRNA合成回復は、KIAA1530遺伝子発現をsiRNA(small-RNA interference)で抑制することによって完全に消失した。48BR細胞をmock siRNAでトランスフェクトするか、あるいはKIAA1530あるいはXPA遺伝子をターゲッティングしたsiRNAでトランスフェクトした。RRSレベルは図2aで述べたのと同様にして測定した(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)。
【図3a】KIAA1530蛋白質が核TFIIH−CAK複合体と相互作用することを示した図である。mockでトランスフェクトした、あるいはC末端がV5−タグされたKIAA1530cDNAでトランスフェクトしたHEK293T細胞から粗ライセートを調製した。アガロースをコンジュゲートしたウサギ抗V5タグ抗体で抽出物を免疫沈降した。相互作用をV5−タグ(KIAA1530)、核−TFIIH構成要素(XPB、XPD、及びp62)、及びCAK構成要素(cdk7、cyclin H、及びMAT1)に対する抗体で検出した。CL:粗ライセート(10%ロード)、IP:免疫沈降
【図3b】図3cのRRSアッセイで用いるKIAA1530のトランケーション変異体の配置図である。VHS:VHS(Vps−27、Hrs、及びSTAM)ドメインとの相同性を有する、KIAA1530蛋白質のN末端部位の三次構造、DUF2043:機能未知の保存されたドメイン
【図3c】インタクト(フル)な、またはトランケートされた、V5−タグされたKIAA1530cDNAを発現するレンチウイルスをKps3細胞に感染させた。感染後48時間で、細胞にUVC照射し(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)、続いて回復させる為に12時間インキュベートした。RRSレベルは図2aで記載したのと同様にして測定した。
【図3d】図3e、図3fで使用するためのKIAA1530アミノ酸置換変異体の配置図である。CS患者で同定されたヘテロ接合性の変異を緑色で示している。非同義SNPが正常なコントロール対象で認められた(オレンジ色)。黒及び赤で示された変異はヒト〜線虫で保存されている残基に対して設計されたアミノ酸置換である。赤色で示した2つの変異体はKps3細胞におけるRRS欠如を相補することができなかった(図3e参照)。
【図3e】V5−タグされたKIAA1530cDNAのアミノ酸置換変異体を発現しているレンチウイルスをKps3細胞に感染させた。感染48時間後、細胞にUVC照射し(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)、続いて回復させる為に12時間インキュベートした。RRSレベルは図2aで記載したのと同様にして測定した。
【図3f】V5−タグされたKIAA1530cDNAのアミノ酸置換変異体を発現しているレンチウイルスをKps3細胞に感染させた。感染48時間後、細胞にUVC照射し(■;10J/m UVC、□;UV照射せず)、続いて回復させる為に12時間インキュベートした。RRSレベルは図2aで記載したのと同様にして測定した。
【図3g】正常細胞(48BR)、UVS−A(Kps3、XP24KO、UVS24TA)、UVS/CS−B(UVS1KO)、及びCS−B(CS10LO)患者由来の細胞を、100μMのシクロヘキシミド(CHX)を含む培地中で1時間前培養し、次いで10J/m UVCを照射した。次いで、細胞を表示の時間、CHX含有培地中でインキュベートした。全細胞ライセートをH5(CTD−Ser2/5−P)抗体を用いたイムノブロッティングに付した。これによりRNA polIIの伸長型が検出される。
【図4】KIAA1530変異体蛋白質が、core−THIIH及びCAK複合体と相互作用することを示した図(イムノブロット像)である。W120A変異体(a)及びVHSドメインのトランケーション変異体(図3bのtruncation 4)(b)について調べた。mockでトランスフェクトした細胞、野生型細胞、あるいは変異を有するKIAA1530cDNA(V5−タグされている)でトランスフェクトしたHEK293T細胞から粗ライセートを調製した。得られた抽出物を、アガロースをコンジュゲートしたウサギ抗V5タグ抗体で免疫沈降した。相互作用は、V5タグ(KIAA1530)、core−THIIH構成要素(XPB、XPD、及びp62)及びCAK構成要素(cdk7、cyclin H、及びMAT1)に対する抗体を用いてイムノブロッティングすることにより検出した。CL:粗ライセート(10%ロード)、IP:免疫沈降
【発明を実施するための形態】
【0012】
[紫外線感受性症候群の原因遺伝子としてのKIAA1530遺伝子]
本発明は、日焼けの原因遺伝子をKIAA1530遺伝子であると同定したことに基づく。KIAA1530遺伝子は、ヒトcDNA解析の過程で見出された遺伝子であり(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 202, 99(26): 16899-16903)、染色座4p16に位置し、709アミノ酸(NP_065945)をコードしている。N.muscules(NP_001074570)、E.caballus(XP_001488394)、B.taurus(XP_587703)、X.tropicalis(NP_001107306)、G.gallus(XP_420845)、C.elegans(NP_505012)等がオルソログとして知られている。配列は確認されているもののその機能は未知であり、他の遺伝子との相同性は全くない。
本発明におけるKIAA1530蛋白質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質である。
KIAA1530は、例えば、温血動物(例:ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリ等)の細胞[例:肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞等]、あるいはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは臓器[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋等]等から単離・精製される蛋白質であってもよい。また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成された蛋白質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換え蛋白質であってもよい。
【0013】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列等が挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)等の同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
より好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0014】
配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、前記の配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質等が好ましい。ここで「活性」とは、NER活性をいう。かかる活性の有無は、不定期DNA合成(UDS)活性やRNA合成回復(RRS)活性を測定することによって調べることができる。
UDS活性の測定は、細胞周期に非依存的な微量のDNA合成を検出するもので、現在、UDS量を測定する種々の方法が確立されている。NER活性の評価においては、一般的に、DNA損傷を誘発するために波長254nmの紫外線(UV)照射を行い、ヌクレオチド取り込みレベルの測定のために、DNA損傷を誘導した細胞を放射性チミジン又はヌクレオシドアナログのいずれかの存在下で培養することによって行う。
RRS活性の測定は、NERのうちRNAの転写と共役したDNA修復(TCR)の活性のみを対象とした測定方法である。RRSの測定には、放射性ウリジン等が用いられ、DNA損傷処理後にRNA合成がどの程度回復したかを、液体シンチレーションカウンターを用いたバッチアッセイにより測定することができる。
UDS活性の測定やRRS活性の測定として、上記した従来の測定方法に加え、本発明者らが以前に開発した非放射性核酸を用いた測定方法(特許文献1)を用いることもできる。
【0015】
「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的または薬理学的)に同じであることを示す。したがって、NER活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例えば、約0.1〜約10培、好ましくは約0.5〜約2倍)や蛋白質の分子量等の量的要素は異なっていてもよい。
【0016】
また、本発明のKIAA1530には、例えば、(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは、1〜100個程度、好ましくは1〜50個程度、さらに好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜100個程度、好ましくは1〜50個程度、さらに好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜50個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは、1〜50個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質等も含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。
【0017】
本発明のKIAA1530は、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するヒトKIAA1530蛋白質(GenBankアクセッション番号:NP_065945)、あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログである。
【0018】
本明細書において、蛋白質およびペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。配列番号2で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質をはじめとする、本発明のKIAA1530は、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステルの何れであってもよい。
【0019】
KIAA1530の部分ペプチド(以下、単に「本発明の部分ペプチド」と略称する場合もある)は、上記したKIAA1530の部分アミノ酸配列を有するペプチドであり、且つKIAA1530と実質的に同質の活性を有する限り、何れのものであってもよい。ここで「実質的に同質の活性」とは上記と同意義を示す。また、「実質的に同質の活性」の測定はKIAA1530の場合と同様に行なうことができる。
具体的には、本発明の部分ペプチドとして、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、NER活性に重要と考えられる領域(例えばヒトKIAA1530の場合、配列番号2で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜163で示される、いわゆるVHS領域)を含む部分アミノ酸配列を有するもの等が用いられる。ここで、VHS領域とはVps−27/Hrs/STAMドメインの3D構造と顕著な相同性を有するモチーフを意図する。VHSは、ユビキチン結合及び一般的な細胞内膜輸送に関与していることが近年明らかになった。
本発明の部分ペプチドは、そのサイズに特に制限はないが、好ましくは上記のVHS領域を含む300個以上の部分アミノ酸配列を含むもの、より好ましくは500個以上の部分アミノ酸配列を含むものが挙げられる。該部分アミノ酸配列は一個の連続した部分アミノ酸配列であってもよく、あるいは不連続な複数の部分アミノ酸配列が連結されたものであってもよい。
【0020】
また、本発明の部分ペプチドはC末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステルの何れであってもよい。
【0021】
本発明で用いられるKIAA1530またはその部分ペプチドは塩の形態であってもよい。例えば、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例:塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例:酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が用いられる。
【0022】
KIAA1530またはその部分ペプチドは、前述した哺乳動物の細胞または組織から自体公知の蛋白質の精製方法によって製造することができる。具体的には、哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈澱させ(必要に応じて密度勾配遠心等により細胞膜画分を精製し)、該画分を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィー等に付すことによりKIAA1530またはその部分ペプチドを調製することができる。
【0023】
KIAA1530またはその部分ペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる(以下、これらの化学合成の説明においては、特にことわらない限り、KIAA1530およびその部分ペプチドを包括して、単にKIAA1530という)。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。KIAA1530を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする蛋白質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
【0024】
このようにして得られたKIAA1530は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせ等が挙げられる。
上記方法で得られるKIAA1530が遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にKIAA1530が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0025】
KIAA1530の合成には、通常市販の蛋白質合成用樹脂を用いることができる。当該樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするKIAA1530の配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂から蛋白質等を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のKIAA1530またはそのアミド体を取得する。
【0026】
KIAA1530のアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いた蛋白質(ペプチド)とC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去した蛋白質(ペプチド)とを製造し、この両蛋白質(ペプチド)を上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護蛋白質(保護ペプチド)を精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗蛋白質(粗ペプチド)を得ることができる。この粗蛋白質(粗ペプチド)は既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のKIAA1530のアミド体を得ることができる。
KIAA1530のエステル体は、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、上記KIAA1530のアミド体の場合と同様にして得ることができる。
【0027】
本発明の部分ペプチドは、KIAA1530の全長蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
【0028】
さらに、KIAA1530は、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からKIAA1530を分離精製することによって製造することもできる。KIAA1530またはその部分ペプチドをコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、温血動物(例:ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、トリ等)のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞等]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋等]由来のcDNA、合成DNA等が挙げられる。
【0029】
KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT−PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法等により、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド等いずれであってもよい。
【0030】
KIAA1530をコードするDNAとしては、例えば、配列番号1で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記したKIAA1530と実質的に同質の活性(例:NER活性)を有する蛋白質をコードするDNA等が挙げられる。
配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAと約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNA等が用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0031】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法等に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄等が挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0032】
KIAA1530をコードするDNAは、好ましくは配列番号1で表される塩基配列で示されるヒトKIAA1530蛋白質をコードする塩基配列を含有するDNA(GenBankアクセッション番号:NM_020894)、あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログである。
【0033】
本発明の部分ペプチドをコードするDNAは、配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドをコードする塩基配列を含むものであればいかなるものであってもよい。具体的には、本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(1)配列番号1で表される塩基配列の部分塩基配列を有するDNA、または(2)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、前記したKIAA1530と実質的に同質の活性(例:NER活性)を有するペプチドをコードするDNA等が用いられる。
【0034】
KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAは、該KIAA1530またはその部分ペプチドをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、KIAA1530蛋白質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法等に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0035】
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM−super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM−K(宝酒造(株))等を用いて、ODA−LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
【0036】
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0037】
KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、KIAA1530をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322、pBR325、pUC12、pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110、pTP5、pC194);酵母由来プラスミド(例:pSH19、pSH15);昆虫細胞発現プラスミド(例:pFast−Bac);動物細胞発現プラスミド(例:pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージ等のバクテリオファージ;バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクター(例:BmNPV、AcNPV);レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス等の動物ウイルスベクター等が用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV−TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター等が用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーター等が好ましい。
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーター等が好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が好ましい。
宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が好ましい。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター等が好ましい。
【0038】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40 oriと略称する場合がある)等を含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAの5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列等が;宿主がバチルス属菌である場合、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列等が;宿主が酵母である場合、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列等が;宿主が動物細胞である場合、インスリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列等がそれぞれ用いられる。
【0039】
上記したKIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、KIAA1530またはその部分ペプチドを製造することができる。
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞等が用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、Escherichia coli K12・DH1、Escherichia coli JM103、Escherichia coli JA221、Escherichia coli HB101、Escherichia coli C600等が用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、Bacillus subtilis MI114、Bacillus subtilis 207-21等が用いられる。
酵母としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、Schizosaccharomyces pombe NCYC1913、NCYC2036、Pichia pastoris KM71等が用いられる。
【0040】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞等が用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N細胞;BmN細胞)等が用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞等が用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫等が用いられる。
【0041】
動物細胞としては、例えば、サルCOS−7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr)細胞と略記)、マウスL細胞、マウスAtT−20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞、ヒトHEK293T細胞等が用いられる。
【0042】
形質転換、それにより得られた形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
【0043】
前記形質転換体を培養して得られる培養物からKIAA1530またはその部分ペプチドを自体公知の方法に従って分離精製することができる。
例えば、KIAA1530またはその部分ペプチドを培養菌体あるいは細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解等によって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法等が適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジン等の蛋白質変性剤や、トリトンX−100TM等の界面活性剤を含んでいてもよい。一方、膜画分からKIAA1530またはその部分ペプチドを抽出する場合は、上記と同様に菌体あるいは細胞を破壊した後、低速遠心で細胞デブリスを沈澱除去し、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈澱させる(必要に応じて密度勾配遠心等により細胞膜画分を精製する)等の方法が用いられる。また、KIAA1530またはその部分ペプチドが菌体(細胞)外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取する等の方法が用いられる。
このようにして得られた可溶性画分、膜画分あるいは培養上清中に含まれるKIAA1530またはその部分ペプチドの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法;等が用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0044】
かくして得られる蛋白質またはペプチドが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって、該遊離体を塩に変換することができ、蛋白質またはペプチドが塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により、該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、形質転換体が産生するKIAA1530またはその部分ペプチドを、精製前または精製後に適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去したりすることもできる。該蛋白修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼ等が用いられる。
かくして得られるKIAA1530またはその部分ペプチドの存在は、KIAA1530に対する抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウェスタンブロッティング等により確認することができる。
【0045】
さらに、KIAA1530またはその部分ペプチドは、上記のKIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等からなる無細胞蛋白質翻訳系を用いてインビトロ合成することができる。あるいは、さらにRNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、KIAA1530またはその部分ペプチドをコードするDNAを鋳型としても合成することができる。無細胞蛋白質転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法に準じて調製することもできる。
【0046】
[ヌクレオチド除去修復(NER)欠損を伴う疾患の診断剤]
紫外線感受性症候群の原因遺伝子がKIAA1530遺伝子である、という本発明において得られた知見に基づいて、本発明は、NER欠損を伴う疾患の診断剤を提供する。
具体的には、本発明の診断剤は、KIAA1530に対する抗体、KIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部を含む核酸、またはKIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部に相補的な塩基配列を含む核酸を含有してなる。
【0047】
NER機構にはゲノム全体の損傷を修復するグローバルゲノムNER(GG−NER)機構と、転写されている遺伝子の転写鎖上の損傷を効率良く修復する転写共役NER(TC−NER)機構の2つのサブパスウェイが存在する。本発明の診断剤が対象とするNER欠損は、いずれの機構の欠損でもあり得るが、好ましくはTC−NERである。特に、紫外線感受性症候群(UVS)、特に皮膚がんを後発しないような、日焼けを主たる特徴とするようなUVSの診断に好適である。
【0048】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。
【0049】
結合性断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab’)、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents,Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
【0050】
抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0051】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、既知の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバントとともに、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに、モノクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスターに免疫する。
【0052】
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清が取得される。
【0053】
血清をポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより単離および/または精製される。
【0054】
モノクローナル抗体は、上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた免疫原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
【0055】
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞を取得する。
【0056】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature, Vol.256, p.495-497, 1975)およびそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により調製される。
【0057】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11またはCEM-T15を使用することができる。
【0058】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫原に対する反応性を、例えばELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
【0059】
前記ハイブリドーマは、培地(例:10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、本ハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様に、単離および/または精製されることが好ましい。
【0060】
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。
【0061】
ファージディスプレイによる抗体作製は、抗体スクリーニング用に作製されたファージライブラリーから、例えば、バイオパニングにより抗原に親和性を有するファージを回収、濃縮することにより、Fab等の抗体等を容易に得ることができる。ファージディスプレイによる抗体作製については、「Nature, Vol.348, p.552-554, 1990」、「“Phage display a laboratory manual” In cold spring harbor laboratory press, 2001」、「Antibody Engineering - a Practical Approach, IRL Press, Oxford, 1996」を参照のこと。
【0062】
F(ab’)およびFab’は、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンまたはパパインで処理することによりそれぞれ製造することができる。Fabは、Fab発現ファージライブラリーを上記ファージディスプレイによる抗体作製法と同様にスクリーニングすることにより、製造することができる。
【0063】
本発明の抗体は、KIAA1530を特異的に認識することができるので、被験試料中のKIAA1530の検出・定量に使用することができる。
すなわち、本発明は、
(i)本発明の抗体と、被験試料および標識化されたKIAA1530とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたKIAA1530の割合を測定することを特徴とする被験試料中のKIAA1530の検出・定量法、および
(ii)被験試料と、担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された別の本発明の抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することを特徴とする被験試料中のKIAA1530の検出・定量法を提供する。
【0064】
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はKIAA1530の異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体がKIAA1530のN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体としてKIAA1530のC端部と反応するものを用いることができる。
本発明の抗体を用いるKIAA1530の検出・定量法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体を化学的または物理的手段により検出し得る方法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられるが、感度、特異性の点で、後述するサンドイッチ法を用いるのが特に好ましい。
【0065】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質等が用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔H〕、〔14C〕等が用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等が用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等が用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等が用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
【0066】
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常蛋白質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロース等の不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0067】
サンドイッチ法においては不溶化した本発明の抗体に被験試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより被験試料中のKIAA1530量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
サンドイッチ法によるKIAA1530の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられる本発明の抗体は、KIAA1530の結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。例えば、上述のように、2次反応で用いられる抗体が、KIAA1530のC端部を認識する場合、1次反応で用いられる抗体としては、好ましくはC端部以外、例えばN端部を認識する抗体が用いられる。
【0068】
以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、KIAA1530を感度よく検出することができる。
【0069】
したがって、被験温血動物由来の生体試料(例:皮膚組織、血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、関節液、精液、尿、生検サンプル等)を被験体とし、本発明の抗体を用いて該被験体中のKIAA1530の有無を調べることによって、UVSを罹患しているか、あるいは将来罹患する可能性が高いか、さらには日焼けを起こしやすい体質であるかどうかを診断することができる。
例えばKIAA1530が検出されない場合にはKIAA1530欠損であると認定され、UVSを罹患しているか、あるいは将来罹患する可能性が高いか、さらには日焼けを起こしやすい体質であると判定され得る。
【0070】
また、本発明の診断剤には、KIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部を含む核酸(以下、「本発明のセンス核酸」という場合がある)およびKIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部に相補的な塩基配列を含む核酸(以下、「本発明のアンチセンス核酸」という場合がある)を含めることができる。これらの核酸をプローブやプライマーとして使用することにより、ヒトまたは他の温血動物(例:ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリ等)におけるKIAA1530をコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができるので、例えば、該DNAまたはmRNAの損傷、突然変異あるいは発現低下や機能欠損等の遺伝子診断剤として有用である。
実施例にて後述するが、紫外線感受性症候群におけるTC−NER欠損の回復にはUVSA遺伝子であるKIAA1530遺伝子のVHS領域が重要であるので、かかる領域に対応するDNAまたはmRNAの損傷、突然変異あるいは発現低下や機能欠損等を診断することがより好ましい。従って、本発明の診断剤において用いる核酸は、かかる部位を検出し得るものであることが好ましく、その設計は配列に基づき適宜行うことができる。
【0071】
本発明のセンスまたはアンチセンス核酸を用いる上記の遺伝子診断は、例えば、自体公知のノーザンハイブリダイゼーションやPCR−SSCP法等により実施することができる。
例えば、ノーザンハイブリダイゼーション等によりKIAA1530の発現低下が検出された場合は、例えば、KIAA1530の機能不全が関与する疾患に罹患している可能性が高いか、あるいは将来罹患する可能性が高いと診断することができる。KIAA1530の機能不全が関与する疾患としては、例えば、UVS等が挙げられる。
【0072】
[NER欠損を改善する物質のスクリーニング方法]
本発明はまた、KIAA1530を産生する能力を有する細胞における該蛋白質(遺伝子)の発現を、試験化合物の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、NER欠損を改善する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0073】
KIAA1530の発現量は、前記した本発明のセンス核酸または本発明のアンチセンス核酸(以下、これらを包括して「本発明の核酸」という)を用いて、KIAA1530のmRNAを検出することにより、RNAレベルで測定することができる。あるいは、該発現量は、前記した本発明の抗体を用いて、KIAA1530蛋白質を検出することにより、蛋白質レベルで測定することもできる。
従って、より具体的には、本発明は、
(a)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該蛋白質をコードするmRNAの量を、本発明の核酸を用いて測定、比較することを特徴とする、NER欠損を改善する物質のスクリーニング方法、および
(b)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該蛋白質の量を、本発明の抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、NER欠損を改善する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0074】
KIAA1530のmRNA量または蛋白質量の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト哺乳動物(例:マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)から採取した細胞を紫外線又は変異原(好適には紫外線)で処理する。
処理後の細胞等に含まれるKIAA1530 mRNAは、例えば、通常の方法により該細胞等からmRNAを抽出し、例えば、TaqMan PCR等の手法を用いることにより定量することができ、自体公知の手段によりノーザンブロットを行なうことにより解析することもできる。一方、KIAA1530蛋白質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)KIAA1530またはその部分ペプチドを発現する形質転換体を前述の方法に従って作製し、該形質転換体に含まれるKIAA1530またはその部分ペプチドあるいはそれをコードするmRNAを同様にして定量、解析することができる。
【0075】
試験化合物としては、例えば蛋白質、ペプチド、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿等が挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
【0076】
KIAA1530の発現量を変化させる物質のスクリーニングは、
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト哺乳動物に対して、紫外線や変異原処理を施す一定時間前(30分前ないし24時間前、好ましくは30分前ないし12時間前、より好ましくは1時間前ないし6時間前)もしくは一定時間後(30分後ないし3日後、好ましくは1時間後ないし2日後、より好ましくは1時間後ないし24時間後)、または紫外線や変異原処理を施すと同時に試験化合物を投与し、投与後一定時間経過後(30分後ないし3日後、好ましくは1時間後ないし2日後、より好ましくは1時間後ないし24時間後)、該動物から単離した細胞に含まれるKIAA1530をコードするmRNA量、あるいはKIAA1530蛋白質量を定量、解析することにより、あるいは
(ii)形質転換体を常法に従い培養する際に試験化合物を培地中に混合させ、一定時間培養後(1日後ないし7日後、好ましくは1日後ないし3日後、より好ましくは2日後ないし3日後)、該形質転換体に含まれるKIAA1530をコードするmRNA量、あるいはKIAA1530蛋白質量を定量、解析することにより行うことができる。
【0077】
上記(b)のスクリーニング方法におけるKIAA1530蛋白質の量の測定は、具体的には、例えば、
(i)本発明の抗体と、被験試料および標識化されたKIAA1530蛋白質とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された蛋白質を検出することにより該試料中のKIAA1530蛋白質を定量する方法、
(ii)被験試料と、担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された別の本発明の抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、該試料中のKIAA1530蛋白質を定量する方法等が挙げられる。
具体的な測定は、前記した本発明の抗体を用いた診断剤と同様にして行うことができる。
【0078】
例えば、上記のスクリーニング方法において、試験化合物の存在下におけるKIAA1530の発現量が、試験化合物の非存在下における発現量に比べて、約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上増大した場合に、該試験化合物を、KIAA1530の発現を増強する物質として選択することができる。
【0079】
[NER欠損の改善剤]
紫外線感受性症候群の原因遺伝子がKIAA1530遺伝子である、という本発明において得られた知見に基づいて、本発明は、NER欠損の改善剤を提供する。本発明の改善剤は、KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質を含有してなる。
【0080】
本発明において「KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質」は、KIAA1530遺伝子の転写レベル、転写後調節のレベル、蛋白質への翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質としては、例えば、KIAA1530蛋白質、KIAA1530をコードする核酸、KIAA1530に対してアゴニスト活性を示す低分子化合物等が挙げられる。
【0081】
KIAA1530蛋白質及びKIAA1530をコードする核酸は上述の通りである。KIAA1530に対してアゴニスト活性を示す低分子化合物は、上記本発明のスクリーニング方法によって得られる種々の化合物が挙げられる。
【0082】
これらの物質のKIAA1530蛋白質の発現もしくは活性を賦活化する作用は、KIAA1530遺伝子欠損株、KIAA1530遺伝子を欠失させた形質転換体、生体内や生体外のKIAA1530遺伝子発現系、または生体内や生体外のKIAA1530蛋白質翻訳系を用いて調べることができる。KIAA1530遺伝子を欠失させた形質転換体は、KIAA1530遺伝子のsiRNAによるKIAA1530ノックダウン等の手法によって得ることができる。
前記siRNAは、KIAA1530の遺伝子発現抑制に使用するため、KIAA1530遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を引き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖RNA、または当該二本鎖RNAを生体内で供給することのできるベクターをいう。本発明のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターを使用することにより、KIAA1530の発現を低下させ、UV感受性を高めることができる。siRNAまたはsiRNA発現ベクターの構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500)。siRNAの長さは、19〜27bpが好ましく、21〜25bpがより好ましい。
【0083】
本発明の改善剤は、NER欠損、特にTC−NER欠損を改善するので、NER欠損を伴う疾患の予防・治療剤として用いることができる。NER欠損を伴う疾患としては、例えば紫外線感受性症候群(UVS)、特に皮膚がんを後発しないような、日焼けを主たる特徴とするようなUVSが挙げられる。
本発明の改善剤は日焼けが主たる症状となるUVSの原因遺伝子であるKIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質を含有するので、NER欠損を伴う疾患の予防・治療剤(以下、本発明の医薬とも称する)や日焼けを防ぐ、いわゆる紫外線防護用の化粧品等として提供され得る。
【0084】
本発明の改善剤を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の温血動物(例:マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリ等)に対して経口的または非経口的(例:血管内投与、皮下投与等)に投与することができる。
【0085】
本発明の改善剤を医薬として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。例えば、本発明の改善剤として、KIAA1530をコードする核酸を用いる場合には、該核酸を、単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクター、レンチウイルスベクター等の適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソーム等の担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
【0086】
本発明の改善剤は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の改善剤と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0087】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の改善剤を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例:エタノール)、ポリアルコール(例:プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例:ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記アンチセンス核酸を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0088】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0089】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明の医薬組成物は、例えば、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
【0090】
本発明の改善剤を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルート等によっても異なるが、例えば、成人のUVSの治療・予防のために使用する場合には、本発明の改善剤を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0091】
なお、前記した各組成物は、本発明の改善剤との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
【0092】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0093】
(材料と方法)
1.ヒトでの研究
患者およびコントロール対象のサンプルは機関内での倫理認可を受けて得られたものである(長崎大学ELSI委員会)。
【0094】
2.エクソーム解析
親族関係にない2名のUVS−A患者(Kps3及びXP24KO)のゲノムDNAを断片化し(150〜200bp)、アダプターをライゲートした。次いで、断片をPCRで増幅し、SureSelect Human All Exon Kit (Agilent Technologies)を用いて濃縮した。捕捉されたゲノム断片についてIllumina GAII sequencerで配列解析した。各サンプルについて、1レーン、75bp pair-end readsで行った。
【0095】
3.バイオインフォマティック解析
解読した配列をhg18リファレンスゲノムにMAQソフトウェア(version 0.7.1)(http://maq.sourceforge.net/)を用いてアラインした。一塩基変異(SNVs)及びsmall insertion deletions(indels)をNAQによって同定した。read coverage <8×及びphred-like consensus quality <20を有する全てのベースコールをフィルタリングアウトした。アラインしたデータをdbSNP130、1000 Genomes SNP calls (March 2010)、及び自家データベースと比較して、ANNOVARソフトウェア(http://www.openbioinformatics.org/annovar/)を用いて、新規なSNVs及びindelsを拾い出した。cSNPsにおける注釈は、NCBI及びUCSCデータベースに基づいたものであり、非同義SNPsについてのSIFT予測で補足した。
【0096】
4.ROH解析
UVS−A患者の全ゲノムSNP遺伝子型決定をGenome-Wide Human SNP Array 6.0 (Affymetrix)を用いて行った。遺伝子型データをGenotyping Console 4.0 (Affymetrix)から作成した。ホモ接合性マッピング及びコピー数の解析はPartek Genomics Suite v6.5 (Partek)を用いて行った。同定されたSNPのゲノム位置はヒトゲノム(hg18)に基づいている。
【0097】
5.高解像度融解曲線解析(HRMA)
親族関係にない576人のコントロール対象(日本人)についてKIAA1530のエクソン2及びエクソン3のHRMAを行い、UVS−A患者で同定されたstop-gain SNVである、p.K123X及びp.I31FfsX9のアレル頻度を求めた。HRMAプロファイルをLightCycler 480 Real-Time PCR system (Roche)により回収した。融解曲線はLightCycler 480 Gene Scanning software (Roche)により解析した。
【0098】
6.RRSアッセイ
既報に従って行った(特許文献1、非特許文献7参照)。細胞をプラスチック製の96ウェルプレートに播種した。siRNAトランスフェクション又はウイルス感染を行い、48時間後にアッセイを行った。細胞にUV照射(10J/m、254nm UVC)し、RNA合成回復の為に12時間インキュベートした。RRSレベルは蛍光標識したエチニルウリジン(EU)取り込みアッセイによって測定した。回収した細胞を5−EU(100μM)含有培養液中で2時間インキュベートし、蛍光アジド(Alexa Fluor 488-azide)を用いてEUを検出した。蛍光像とそのデータ処理はIn-Cell-Analyzerシステム(GE)を用いて行った。
【0099】
7.UDSアッセイ
既報に従って行った(特許文献1、非特許文献7参照)。細胞をプラスチック製の96ウェルプレートに播種した。siRNAトランスフェクション又はウイルス感染を行い、72時間後にアッセイを行った。UDSレベルは蛍光標識したエチニルデオキシウリジン(EdU)取り込みアッセイによって測定した。細胞にUV照射(20J/m、254nm UVC)し、4時間インキュベートした。回収した細胞を5−EdU(100μM)含有培養液中で2時間インキュベートし、蛍光アジド(Alexa Fluor 488-azide)を用いてEdUを検出した。蛍光像とそのデータ処理はIn-Cell-Analyzerシステム(GE)を用いて行った。
【0100】
8.共免疫沈降
KIAA1530蛋白質とTC−NER要素との相互作用を調べる為に、V5タグされたKIAA1530cDNA発現プラスミド(野生型、W120A変異体、VHSドメインのトランケーション変異体)で293細胞をトランスフェクトし、次いで24時間インキュベートした。全細胞ライセートをCelLytic Nuclear Extraction Kit (Sigma)を用いて調製した。共免疫沈降を、ウサギ抗V5抗体をコンジュゲートしたアガロースビーズ(MBL)を用いて行った。
【0101】
9.イムノブロッティング
全細胞ライセート(CL)及び免疫沈降したサンプル(IP)をSDS−PAGE(5〜20%勾配ゲル)で展開した。展開した蛋白質サンプルをPVDF膜に転写して免疫検出した。
【0102】
10.抗体
本実施例では以下の抗体を用いた。
・抗KIAA1530抗体(ウサギポリクローナル抗体):ヒトKIAA1530蛋白質のN末端VHSドメインに対する抗体
・抗KIAA1530抗体(マウスポリクローナル抗体):ヒトKIAA1530蛋白質の全長に対する抗体
・抗V5タグ抗体(マウスモノクローナル抗体):1H6(MBL)
・抗V5タグ抗体(ウサギポリクローナル抗体):PM003(MBL)
・抗p89/XPB抗体(マウスモノクローナル抗体):AB3(CRUK)
・抗p89/XPB抗体(ウサギポリクローナル抗体):S−19(Santa Cruz)
・抗XPD抗体(マウスモノクローナル抗体):2F6(CRUK)
・抗p62抗体(マウスモノクローナル抗体):G10(Santa Cruz)
・抗cdk7抗体(マウスモノクローナル抗体):MO1(MBL)
・抗MAT1抗体(ウサギポリクローナル抗体):FL−309(Santa Cruz)
・抗cyclin H抗体(マウスモノクローナル抗体):1B8(Abnova)
・抗CSB抗体(マウスモノクローナル抗体):553C5a(BMR)
・抗XAB2抗体(マウスモノクローナル抗体):5−17(Santa Cruz)
・抗XPG抗体(マウスモノクローナル抗体):8H7(CRUK)
・抗RNAポリメラーゼIIラージサブユニットC末端ドメイン(Ser−2リン酸化)(マウスモノクローナル抗体):H5(Covance)
【0103】
11.UV照射後のRNAポリメラーゼIIの伸長型の検出
細胞を100μMのシクロヘキシミド(CHX)を含有する培地中で1時間培養した後、UV照射した。細胞に10J/mのUVCを照射し、次いで、CHX含有培地中で所定時間インキュベートした。全細胞ライセートを6%SDS−PAGEで展開しPVDF膜に転写した。伸長モードにあるRNAポリメラーゼIIは、H5抗体によって検出した。
【0104】
12.細胞及び培養
本実施例では以下の細胞を用いた。
・48BR及び1BR:正常なヒトの初代線維芽細胞
・Kps2、Kps3、XP24KO、UVS24TA:UVS−A患者由来の初代線維芽細胞
・UVS1KO:UVS/CS−B患者由来の初代線維芽細胞
・CS2AW:CS−A患者由来の初代線維芽細胞
・CS10LO:CS−B患者由来の初代線維芽細胞
・XP15BR:XP−A患者由来の初代線維芽細胞
・293T及び293FT:ヒト胚性腎HEK293T細胞系
特に断りのない限り、いずれの細胞も、10%ウシ胎児血清(FCS、Hyclone)及び抗生物質を補充したDMEM(WAKO)中で維持した。
【0105】
13.RNA干渉
KIAA1530及びXPAをターゲッティングするsiRNAオリゴ(Nippon EGTにて作製)を準備した。各遺伝子について3つの異なるsiRNAオリゴを設計した。特に断りのない限り、それら3つのsiRNAオリゴの混合物を実験には用いた。siRNAトランスフェクションはX-tremeGENE(Roche)トランスフェクション試薬を用い、マニュアルに従って行った。典型的な実験では、5nMのsiRNAオリゴを懸濁液中でトランスフェクトし、続いて最初のトランスフェクションの24時間後にもう一度トランスフェクトした。最初にsiRNAトランスフェクションをしてから72時間後に実験を行った。ノックダウン効率はウェスタンブロットによって行った。
【0106】
14.レンチウイルスの作製
ヒトKIAA1530cDNAをc末端にV5タグを有したフレームで、pLenti6/V5-D-TOPO(Invitrogen)にクローニングし、pLenti6/KIAA1530-V5を作成した。同様にしてトランケーション変異体やアミノ酸置換変異体も作成した。レンチウイルスを産生させるには、293FT細胞をpLP1、pLP2及びPLP/VSVGを含有するViraPower Packaging Mix(Invitrogen)とともにKIAA1530プラスミドでリポフェクトアミン2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間でウイルス粒子を回収し、PEG-it Virus Precipitation Solution (System Biosciences)を用いて濃縮した。
【0107】
実施例1:UVS−A患者におけるKIAA1530遺伝子のトランケーション変異体の特徴づけ
親族関係にない2名のUVS−A患者(Kps3及びXP24KO)の全エクソームの配列決定を、Agilent SureSelect Target Enrichment System及びIllumina GAIIx sequencerを用いて行った(Kps3及びXP24KOの両方において、平均54倍のカバレージを達成し、ターゲット塩基の95%を4回以上測定した)。各患者について6万を超えるSNVs及びIndelsが同定された。さらにフィルタリングを繰り返した結果、新規且つ機能的に顕著なSNVs及びIndelsを見出した。患者間で共通している、潜在的な機能欠損(loss-of-function)を有する12遺伝子を同定した(表1)。
【0108】
【表1】

【0109】
Chr;クロモソーム(染色体)、SNV;一塩基変異、hom;アレルに対してホモ接合性、het;アレルに対してヘテロ接合性
Kps3及びXP24KOで共通している変異体は、dbSNP130、1000 Genomes SNP calls (March 2010)、及び6例(日本人)の自家エクソームデータには存在しなかった。
マッピングを精密化し、適当なフィルタリング方法と組み合わせてアッセンブリすることにより、染色体4p16に位置し、709アミノ酸をコードするKIAA1530(NM_020894)を同定した。かかる遺伝子のUVSA遺伝子の第一候補としての機能は知られていない。両患者のゲノムはエクソン3にホモ接合c.367A>T変異を有し、中途終止となるp.Lys123Xをもたらした(図1a〜c)。
続いて、本発明者らは、4名のUVS−A患者全てのKIAA1530遺伝子の全14エクソンについてPCRを用いたキャピラリー内でのサンガー配列決定法を実施した。結果、本発明者らは、さらに、Kps2とKps3の兄弟(姉妹)に同じホモ接合変異を認め、さらにエクソン2に別の新規なホモ接合c.87delGフレームシフト変異を認めた。かかる変異は親族関係にないイスラエル人の患者(UV24TA)において中途終止となるp.Ile31PhefsX9をもたらした(図1b及びc)。UV24TAは、UDS活性は正常であるが、生存レベル及びRRS活性は顕著に低下(減少)するという、UVSの細胞に典型的な表現型を示す。直接的な配列決定又は高分解融解曲線解析(HRMA)によって評価したところ、ヘテロ接合p.Lys123X変異は、576名の親族関係にないコントロール対象のうち、一名に(アレル頻度0.09%)観察された。一方、p.Ile31PhefsX9変異はこれらのコントロール対象からは検出されなかった。Kps2及びKps3の両親には臨床的徴候は認められなかったので、KIAA1530に対するハプロ不全はほとんど問題にならないと考えられる。
KIAA1530遺伝子のゲノム構造及びUVS−A患者における変異(p.Lys123X、p.Ile31PhefsX9)の位置を図1dに示す。
いずれの患者にも、2つの非同義一塩基多型(SNP)(R391H、rs2276904;P620L、rs77731309)以外のさらなる一塩基変異(SNV)も挿入も欠失(indel)も認められなかった。同定された変異及びエクソンをコードするKIAA1530遺伝子の残りの部分について全ての患者が同型であったので患者のうち何名かは近親結婚の末に生まれたものと推測した。本発明者らは、患者間で共通しているホモ接合領域(ROH)(>1.0Mbps)を同定するために全ゲノムSNP遺伝子型決定を行った。患者のエクソーム配列決定データの同型接合性と合致して、本発明者らは常染色体上に9つの重複するROHを同定し、そのうちの1つにKIAA1530遺伝子座が含まれていた(図1e、表2及び3)。
【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
染色体コピー数多型がKIAA1530遺伝子座に検出された(データ示さず)。UVS−A患者では、80kDa程度のKIAA1530遺伝子産物をイムノブロッティングによって検出することはできなかった(図1f)。
【0113】
実施例2:UVC照射後のRNA合成の回復におけるKIAA1530遺伝子の有用性
実施例1の結果はUVS−A患者におけるKIAA1530遺伝子の停止変異がこの疾患の原因であることを強く示唆している。そこで、さらなる証拠を得るために、UVS−A患者の細胞、KIAA1530が発現していない正常な細胞、及び異所性にKIAA1530cDNAを発現しているUVS−A患者の細胞を用いてNER活性を調べた(図2)。
NERには2つのサブパスウェイが存在する。1つはゲノム全体の修復(GGR)であり、ダメージを受けたDNAの除去が比較的遅い工程である。もう1つは、転写共役修復(TCR)であり、活発に転写される遺伝子の転写された鎖上で排他的に排除される迅速な工程である。GGRはNER活性のおよそ90%を占め、非S期の修復DNA合成である「不定期DNA合成(UDS)」の程度を測定することによって評価することができる。XPやCSを併発しているXP(XP/CS)患者の多くはGGRを欠いている。対照的に、UVS患者とCSのみの患者(CS−A、CS−B)では、GGR活性はほぼ正常であるが、TCRが著しく損なわれている。未修復のDNA損傷はRNAポリメラーゼの進行を妨害するので、DNA損傷後のRNA合成のレベルは低下する。TCR活性は、UV照射後の「RNA合成の回復(RRS)」率により評価することができる。UDS及びRRSを本発明者らが最近開発した迅速且つ非放射性のシステム(特許文献1参照)で測定した。結果、全てのUVS−A患者の細胞及びRRSを欠いたコントロール対象となるCS患者の細胞では、UV照射後にRRS率の低下が認められ(図2a)、一方UDSレベルはかなり正常に維持されていた(図2b)。そこで、本発明者らは、正常なヒト初代線維芽細胞においてsiRNAを用いたノックダウンによりKIAA1530遺伝子発現の排除効果を調べた。KIAA1530ノックダウン細胞におけるRRSレベルはXPAノックダウン細胞と同程度に低かった(図2c、g)。一方、同じKIAA1530ノックダウン細胞でもUDSレベルの顕著な低減は観察されなかった(図2d)。ノックダウン効率はイムノブロットにより確認した(図2e)。UVS−A患者の細胞においてKIAA1530cDNAの異所性に発現させると、RRSは正常な状態に戻った(図2f)。正常な細胞、あるいはCS細胞にKIAA1530を発現させてもそれらのRRSレベルに影響はなかった。以上の結果より、KIAA1530がUVSAであり、UVS−Aの原因遺伝子であることが示された。
【0114】
実施例3:N末端のVHSドメインはKIAA1530蛋白質に必須である
KIAA1530蛋白質の役割を研究するため、まず、KIAA1530のTC−NERファクターとの関連性を調べた。V5−タグされたKIAA1530蛋白質を免疫沈降し、各ファクターとの相互作用をイムノブロットを用いて調べた。KIAA1530は、core−TFIIH複合体の幾つかのサブユニット(XPB、XPD、p62)、CAK複合体の幾つかのサブユニット(cdk7、cyclin H、MAT1)、コケーン症候群タンパク質(CSB)、及びXPA結合蛋白質(XAB2)と相互作用したが、XPGに対しては明確な相互作用は認められなかった(図3a)。UV照射によって相互作用に顕著な変化は生じなかった。以上の結果より、KIAA1530が、TFIIH/CAK複合体と関連した新規なTC−NERファクターであることが示唆された。さらに、免疫沈降物の質量分析によって多機能シャペロン/シャトルタンパク質(該タンパク質はまた、DNA修復の制御においても機能する)であるヌクレオフォスミン23を同定した。
ヒトKIAA1530のアミノ酸配列及びそのオルソログに、他のタンパク質ファミリーとの顕著な相同性はない。KIAA1530ファミリータンパク質に保存されている、機能が不明なドメインDUF2043(IPR018610, EMBL-EBI database)は、KIAA1530タンパク質のC末端に位置している。KIAA1530タンパク質の他の潜在的に機能性を有するモチーフを同定するために、PHYREプログラムを用いて3D構造データベースをスクリーニングすることによって3次元構造予測を行った。VHS(Vps−27、Hrs、and STAM)ドメインの3D構造と顕著な相同性を有する、KIAA1530タンパク質のN末端に位置する143〜163個のアミノ酸のモチーフを同定した。VHSは、ユビキチン結合及び一般的な細胞内膜輸送に関与していることが近年明らかになっている。同様のVHSドメインがRNAポリメラーゼIIラージサブユニットのC末端ドメイン(CTD)にも同定されている。これら2つのドメインのTC−NERにおける重要性を調べるために、トランケーション変異体をUVS−A細胞に導入し、RRS相補性をアッセイした(図3b)。VHSドメインあるいはDUF2043のいずれかを欠いた切断変異体では、UVS−A患者由来細胞のRRS活性を回復させることはできなかった(図3c)。次に、ヒト〜線虫で保存されている残基(CLUSTAL Wアラインメントにより予測)を変異させ(図3d)、UVS−A細胞でRRS欠損を相補できない変異体をスクリーニングした。18ある変異体のうち、W120A及びR157K158R159EEEの2つ(両変異体とも変異位置がVHSドメイン中に存在する)のみが、RRS活性を回復することができなかった。一方、変異位置がDUF2043ドメイン中に存在する変異体や、潜在的な核局在シグナル(NLS)変異体(R376K377AA、R683R684AA、及びK695K696VA)等の他の全ての変異体はRRS活性を回復した(図3e)。これらの知見は、KIAA1530蛋白質のVHSドメインがTC−NER活性に極めて重要であるということを示している。本発明者らは、VHSドメイン変異体(W120A)についてcore−TFIIH構成要素(XPB、XPD)との相互作用における効果を調べた。変異体蛋白質はTFIIHとの相互作用を保持していた。このことは、VHSドメインの機能がTFIIH複合体との相互作用とは異なることを示唆している(図4)。
【0115】
実施例4:コケーン症候群(CS)患者におけるKIAA1530遺伝子における変異
最近の研究で、コケーン症候群におけるUVSの原因となる変異が同定された。CSB遺伝子において、2例(UV1KO及びCS3AM)は、同じホモ接合性の停止変異(c.308C>T)を有していた。この変異により140KDaのCSBタンパク質のN末端付近で幾つかの切断が起こる(p.Arg77X)。このことは、CSB遺伝子における他の変異がより深刻なCSの特徴を引き起こし得るにもかかわらず、CSBタンパク質のヌル変異を有する個体は、UVSの徴候を有し得ることを示している。CSA遺伝子にホモ接合性変異を有する別の例(c.1083X>X)では、40KDaのCSAタンパク質のC末端にミスセンスの変化(p.Trp361Cys)をもたらす。
これらの知見より、KIAA1530蛋白質の中ほど、あるいはC末端部分で起こる有害なアミノ酸置換、あるいは切断変異がUVSよりもより深刻な臨床上の徴候を示す疾患を引き起こすかもしれないと考えた。この可能性を確かめる為に、本発明者らは、まだその相補群が割り当てられていない61名のコケーン症候群の患者のKIAA1530遺伝子のコーディングエキソンの配列決定を行った。
【0116】
【表4】

【0117】
どの患者においても、KIAA1530遺伝子においてホモ接合性のアミノ酸変化も複合ヘテロ接合性の新規なアミノ酸変化も観察されなかった。しかしながら、61名のCS患者のうち4名に新規なヘテロ接合性のアミノ酸変化が確認された。これらの変化及びSNP(R391H及びP620L、及び新しい変化でR330H)の効果を、コントロール個体及びUVS−A個体の細胞で調べた。RRS活性に影響するアミノ酸変化はなかった(図3f)。
総合すれば、これらの結果は、KIAA1530蛋白質における変異がCSの臨床所見をもたらすわけではなさそうであり、CSA/CSB又はXPB/XPD/XPGの機能とは異なる(しかし重複する)機能を暗示している。重要なことは、61名のCS患者由来の細胞をスクリーニングしたところ、CSA遺伝子、CSB遺伝子、あるいはKIAA1530遺伝子に原因変異を有さない患者が5名いたことであり(データ示さず)、このことは、TCRにかかわるさらに1以上の遺伝子がまだ発見されずに残っている可能性を暗示している。
【0118】
実施例5:RNAポリメラーゼに対するKIAA1530の役割
KIAA1530の、NER機構におけるRNAポリメラーゼII(RNApolII)の作用にどのような役割を有するのか調べた。NERの過程で、伸長型のRNApolIIがユビキチン化されることが知られているので、正常な細胞、CS患者由来の細胞、及びUVS患者由来の細胞におけるUV照射後のRNAポリメラーゼIIの動態を比較した(図3g)。UV照射後は、新しいRNApolII分子が合成されるのを阻害するためにシクロヘキシミドを培地中に添加した。正常細胞とCSBに変異を有するUVS細胞では、UV照射後、RNApolIIはユビキチン化され、ユビキチン化RNApolIIのバンドが次第に減少した。一方、KIA1530を欠損するUVS細胞では、ユビキチン化RNApolIIは殆ど検出されず、ユビキチン化されていないRNApolII自体も6時間にわたって次第に減少していった(CS−B細胞ではこのような減少は観察されなかった)。
これらの結果よりKIAA1530は、UV損傷を受けた部位でのRNAポリメラーゼ分子の働きに重要な役割を担っていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
日焼けの原因遺伝子が解明できたことにより、紫外線感受性症候群のような日焼けが症状として出る疾病の診断や日焼け予防薬のスクリーニングが可能になる。また、NER機構の解明の有力なツールを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列からなる、紫外線感受性症候群の原因遺伝子。
【請求項2】
紫外線感受性症候群が日焼けである、請求項1記載の原因遺伝子。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列からなる、紫外線感受性症候群の原因蛋白質。
【請求項4】
配列番号2の1〜163番目のアミノ酸配列を含む、紫外線感受性症候群の原因蛋白質。
【請求項5】
KIAA1530に対する抗体またはKIAA1530をコードする塩基配列もしくはその一部を含む核酸を含有してなる、ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の診断剤。
【請求項6】
ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患が、紫外線感受性症候群である、請求項5記載の診断剤。
【請求項7】
KIAA1530のVHS領域における変異を検出することを特徴とする、紫外線感受性症候群の検査方法。
【請求項8】
KIAA1530を産生する能力を有する細胞における該蛋白質及び/又は遺伝子の発現を、試験化合物の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質が、紫外線感受性症候群を改善する物質である、請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質が、日焼けを予防または改善する物質である、請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
下記(a)〜(c)の工程を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法:
(a)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養する工程、
(b)両条件下における該蛋白質をコードするmRNAの量を、本発明の核酸を用いて測定、比較する工程、
(c)試験化合物の存在下での該蛋白質をコードするmRNAの量が、試験化合物非存在下の場合と比較して有意に上昇した場合に、該試験化合物を、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質として選択する工程。
【請求項12】
下記(a)〜(c)の工程を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法:
(a)KIAA1530を産生する能力を有する細胞を試験化合物の存在下および非存在下に培養する工程、
(b)両条件下における該蛋白質の量を、本発明の抗体を用いて測定、比較する工程、
(c)試験化合物の存在下での該蛋白質の量が、試験化合物非存在下の場合と比較して有意に上昇した場合に、該試験化合物を、ヌクレオチド除去修復欠損を改善する物質として選択する工程。
【請求項13】
KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質を含有してなる、ヌクレオチド除去修復欠損の改善剤。
【請求項14】
KIAA1530の発現もしくは活性を賦活化する物質が、下記(a)〜(c)から選ばれる、請求項13記載の改善剤。
(a)KIAA1530蛋白質
(b)KIAA1530をコードする核酸
(c)KIAA1530に対してアゴニスト活性を示す低分子化合物
【請求項15】
ヌクレオチド除去修復欠損が転写と共役したタイプのものである、請求項13または14記載の改善剤。
【請求項16】
請求項13記載の改善剤を含む、ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患の予防・治療剤。
【請求項17】
ヌクレオチド除去修復欠損を伴う疾患が、紫外線感受性症候群である、請求項16記載の剤。
【請求項18】
ヌクレオチド除去修復欠損が、皮膚がんを後発しない、請求項13記載の剤。
【請求項19】
請求項13記載の改善剤を含む、紫外線防護用の化粧品。

【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3c】
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【図3f】
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【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2e】
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【図2f】
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【図2g】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3g】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200251(P2012−200251A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71082(P2011−71082)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】