説明

日焼け止め化粧料

【課題】 UVBのみならずUVAからも有効に防御でき、しかもみずみずしく清涼感のある使用性を有し、なおかつ安定性にも優れ、塗布した際には紫外線防御効果の高い皮膜を形成できる日焼け止め化粧料を提供する。
【解決手段】 (a)油溶性紫外線吸収剤の水分散体、及び(b)寒天ミクロゲル
を含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。前記油溶性紫外線吸収剤の水分散体が、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンと有機ポリマーとの複合体粒子の水分散体であるのが好ましい。また、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール及び非揮発性ジメチコンをさらに配合するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に関し、より詳細には、油溶性紫外線吸収剤を外相(水相)に配合した安定で高い紫外線防御能を持つ水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼け止め化粧料は、太陽光線中の紫外線をカットし、紫外線による悪影響から肌を守ることを目的とする。その基剤としては、乳化タイプ、ローションタイプ、オイルタイプ等が挙げられるが、中でも水中油型乳化タイプは、みずみずしい使用感触を持ち、低SPFから高SPF製品までの製剤化が可能であることから広く用いられている(非特許文献1)。
【0003】
一方、日焼け止め化粧料に配合される紫外線吸収剤には油溶性のものと水溶性のものがあり、UVA領域(波長320〜400nm)及びUVB領域(波長290〜320nm)における紫外線を吸収して高い防御能を得るためには、UVB吸収剤とUVA吸収剤をバランス良く配合する必要がある。
【0004】
しかしながら、UVBに比べて長波長のUVAを吸収するためにはエネルギーを一時的に吸収する共役結合が長くなりがちであるため、一般的にUBA吸収剤はUVB吸収剤に比較して分子量が大きくなり、結果的に油に対して難溶性のものが多くなる。それを溶解させるには多量の高極性油分の配合が必要になり水中油型乳化物に特有のみずみずしい使用感触が失われたり、油相中で低温において紫外線吸収剤が析出してしまうといった安定性の問題が生じることがあった。
【0005】
特許文献1には、難溶性の紫外線吸収剤をスチレン等からなる球状ポリマー粒子に内包させて球状粉末とすることにより油溶性を向上させ、油相中への高配合を可能にしたことが記載されているが、当該紫外線吸収剤が配合されているのは油中水型乳化粧料あるいは固形化粧料であり、水中油型乳化物の水相(外相)には配合されていない。
【0006】
また、特許文献2には、寒天、カラギーナン、カードラン、ゼラチン、ジェランガム、アルギン酸などのゲル化能を有する親水性化合物を水又は水性成分に溶解した後、放置冷却して形成させたゲルを粉砕して得られるミクロゲルを増粘剤として配合することにより、使用性に優れた安定な化粧料が得られると記載されているが、当該ミクロゲルを上記したような難溶性の紫外線吸収剤と共配合した例なく、ミクロゲルが紫外線防御効果に与える影響については開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−91307号公報
【特許文献2】特許第3531735号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「新化粧品学 第2版」光井武夫編、南山堂、2001年、第497−504頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって本発明における課題は、UVBのみならずUVAからも有効に防御でき、しかもみずみずしく清涼感のある使用性を有し、なおかつ安定性にも優れ、塗布した際には紫外線防御効果の高い皮膜を形成できる日焼け止め化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本発明は、(a)油溶性紫外線吸収剤の水分散体及び(b)寒天ミクロゲルを組み合わせて配合したことを特徴とする水中油型乳化組成物を提供する。
本発明において、前記成分(a)は、油溶性紫外線吸収体と有機ポリマーとの複合体粒子の水分散体であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の日焼け止め化粧料は、油分に難溶性の紫外線吸収剤を水相に配合することにより系の安定性を向上させることができた。また、同じ紫外線吸収剤を油相に配合した場合に比較して紫外線防御能が向上するという有利な効果も奏する。また、寒天ミクロゲルを配合することにより系が安定化され、水中油型乳化物としてのみずみずしい使用感触を持ち、なおかつ優れた紫外線防御能を有する日焼け止め化粧料として使用するのに特に適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1、2及び比較例1、2の組成物の紫外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例3及び比較例3、4の組成物の紫外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の日焼け止め化粧料は、油溶性紫外線吸収剤の水分散体(成分a)を水相に含有していることを特徴とする。
油溶性紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、水に不溶性で油に難溶性の紫外線吸収剤から選択するのが好ましい。但し、メチレンビスベンゾトリアゾールテトラメチルブチルフェノール等の実質的に油不溶性のものは含まれない。油不溶性の紫外線吸収剤の水分散物を用いて水中油型乳化組成物を調製し、それを皮膚に適用した場合には、塗布した皮膚が不自然に白っぽくなることがある。
難溶性の紫外線吸収剤には、前記特許文献1に記載されるものが含まれ、具体的には、ベンゾフェノン誘導体、トリアジン誘導体等が挙げられるが、特にトリアジンン誘導体、中でも2、4−ビス−{[4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ]フェニル}−6−(4−メトキシフェニル)−(1、3、5)−トリアジン(以下、本明細書では「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン」とする)が好ましい。このビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは、BASF社からチノソーブSという商品名で市販されており、当該市販品を使用することができる。
【0014】
また、本発明における油溶性紫外線吸収剤の水分散体は、油溶性紫外線吸収剤と有機ポリマーとの複合体粒子の水分散体であるのが特に好ましい。複合体粒子とすることにより、水分散体を含む水相と油とが共存する場合に油溶性紫外線吸収剤が水相から油相に溶出してしまうことが抑制される。
油溶性紫外線吸収体と有機ポリマーとの複合体粒子の水分散体は、例えば、WO2009/007264に記載されている方法に従って調製することができる。簡潔に言えば、紫外線吸収剤と有機モノマーの混合物を水中に分散させた状態で乳化重合させることにより紫外線吸収剤と有機ポリマーとの複合体粒子が分散した水性分散体として得ることができる。
有機モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有するモノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、スチレンモノマー、ナイロンモノマー等が好ましく使用される。
【0015】
このような複合粒子の水分散体としては、BASF社からチノソーブSアクアの商品名で市販されているものを使用できる。チノソーブSアクア(Tinosorb S aqua)は、水に分散されたビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(チノソーブS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との複合粒子を含み、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンとPMMAの含有量は、各々20質量%と19質量%である。
【0016】
本発明の化粧料における油溶性紫外線吸収剤の配合量は、乾燥質量として5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.01〜3質量%とする。配合量が0.01質量%未満であると十分な紫外線吸収能が得られず、5質量%を越えて配合するとべたつくといった使用性に問題を生ずる傾向がある。
なお、例えば20質量%の紫外線吸収剤を含有する水分散体(成分a)の配合量として換算すれば、当該分散体は25質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは0.05〜15質量%で配合することになる。
【0017】
本発明の化粧料は、寒天ミクロゲル(成分b)を必須成分として含有している。寒天ミクロゲルを配合することにより系が安定化され、塗布した際には紫外線防御効果に優れた皮膜が形成される。
本発明における寒天ミクロゲルは、寒天を水又は水性成分に溶解した後、放置冷却して固化させることにより形成したゲルを、ホモジナイザー、ディスパー、メカニカルスターラー等を用いて破砕することにより調製することができる。寒天としては、アガロースを主成分とするものであれば特に制限されず、市販品をそのまま使用してもよい。
【0018】
本発明における寒天ミクロゲルは、寒天含有率が0.4〜1質量%のものが好ましく用いられる。
寒天ミクロゲルの大きさは、特に限定されないが、平均粒径が10〜100μm程度のものが好ましい。平均粒径が10μm未満であるとゲル化能が十分でなくなり、100μmを越えると安定化効果が発揮されにくい場合がある。
【0019】
本発明の化粧料における寒天ミクロゲル(成分b)の配合量は、90質量%以下、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜80質量%である。配合量が10質量%未満であると安定な乳化物が得られにくく、90質量%を越えて配合するとべたつくといった使用性の問題が生ずる場合がある。
【0020】
さらに本発明の化粧料では、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを水相に配合するのが好ましい。メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを配合することにより、紫外線防御効果が更に向上する。
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールは、水に不溶性であるため、水相中に分散させて廃合させるのが好ましい。例えば、BASF社から「チノソーブM(Tinosorb M)」という商品名で市販されているメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの水分散物を使用することができる。
【0021】
本発明の化粧料におけるメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールの配合量は20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1〜9質量%である。20質量%を越えて配合すると、塗布時にキシミを生じる等の問題を生じる場合がある。
【0022】
さらに本発明の化粧料は、非揮発性ジメチコンを配合するのが好ましい。非揮発性ジメチコンを配合することにより、いっそうみずみずしく清涼感が増し、べたつきもなく、使用性に優れた日焼け止め化粧料となる。
非揮発性ジメチコンの具体例としては、ジメチルシリコーンオイルが用いられ、信越化学工業株式会社のKF−96A−5cs、KF−96A−6cs、KF−96A−20cs、KF−96A−100cs、KF−96A−300cs等が挙げられる。
【0023】
本発明の化粧料における非揮発性ジメチコンの配合量は20質量%以下であり、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは2〜4質量%である。20質量%を越えて配合すると、著しく安定性を損なう場合がある。
【0024】
また、本発明の組成物は、水相に配合する前記油溶性紫外線吸収剤の水分散体(成分a)及びメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールに加えて、さらに他の紫外線吸収剤を含有してもよい。
他の紫外線吸収剤は、油溶性であって油相に溶解するものが好ましく、水相に存在する前記紫外線吸収剤と相乗的に紫外線を吸収するものが好ましい。
そのような紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、メトキシケイ皮酸誘導体、ジフェニルアクリル酸誘導体、サリチル酸誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンザルマロナート誘導体、アントラニル誘導体、イミダゾリン誘導体、4 , 4 − ジアリールブタジエン誘導体、及びフェニルベンズイミダゾール誘導体系が挙げられる。具体的には、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、ホモサレート、オクチルサリシレート、オキシベンゾン、4−t−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、ビスエチルヘキシルフェノールメトキシフェニルトリアジン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸−2’−エチルヘキシルエステル、ポリシリコーン−15、ドロメトリゾールポリシロキサン等が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物には、上述した成分の他に、通常、化粧料等の外用組成物に用いられている他の成分を、本発明の所期の効果を実質的に妨げない限度内において含有させることができる。
【0026】
本発明の組成物は、例えば、油相を構成する成分と水相を構成する成分とを別々に混合し、水相に油相を加えて乳化することにより調製することができる。
【0027】
本発明の組成物は、水中油型乳化物が元来有するみずみずしい使用感触を持ち、低温及び高温での安定性に優れ、なおかつ優れた紫外線防御能を発揮するため、水中油型乳化タイプの日焼け止め化粧料としての用途に特に適したものである。
【実施例】
【0028】
以下に具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例等における配合量は特に断らない限り質量%を示す。
【0029】
下記表1に掲げた組成を有する水中油型乳化組成物を調製した。具体的には、水相成分及び油相成分を各々70℃に加熱して完全に溶解させ、次いで水相に油相を添加して乳化機で乳化することにより各例の組成物を得た。(寒天は、イオン交換水に溶解してゲルを作成し、寒天ミクロゲルとして配合した。)
実施例1、2及び比較例1、2の各組成物のサンプル18.87μLをPMMA製の膜(5cm×5cm)の表面に0.75mg/cmの割合で均一に塗布した。15分放置した後、分光光度計(U−4100:日立製作所製)を用いて各サンプルの吸光度を測定した。それらの結果を図1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
図1に示すように、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンを水相に配合した実施例1は、油相に溶解させた比較例2に比べて紫外線防御効果が向上した。さらに、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールを配合した実施例2では、紫外線防御効果が更に向上した。
【0032】
下記表2に掲げた組成を有する水中油型乳化組成物を調製した。具体的には、水相成分及び油相成分を各々70℃に加熱して完全に溶解させ、次いで水相に油相を添加して乳化機で乳化することにより各例の組成物を得た。
実施例3及び比較例3、4の各組成物を調整後、25℃と40℃の恒温層にて1か月静置し、乳化組成物の安定性を観察した。観察結果を表2に示す。また使用感(みずみずしさ)の評価結果も併せて示す。使用感(みずみずしさ)の評価方法は以下の通りである。
各組成物を女性パネル(N=10)の肌に塗布してもらい、塗布時のみずみずしさを以下の基準で評価した。
○:7名以上がみずみずしさを感じると評価した。
△:3名〜6名がみずみずしさを感じると評価した。
×:みずみずしさを感じると評価したのが2名以下。
また、実施例1、2及び比較例1、2と同様にして各サンプルの吸光度を測定した。それらの結果を図2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
寒天ミクロゲルにより増粘した実施例3の日焼け止め化粧料は安定性良好であり、みずみずしい使用感であった。また、驚くべきことに、キサンタンガム・カルボキシビニルポリマー・アクリル酸・アクリル酸アルキルコポリマーのみで増粘した場合(比較例3、4)に比べて紫外線防御効果が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)油溶性紫外線吸収剤の水分散体、及び
(b)寒天ミクロゲル
を含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。
【請求項2】
前記成分(a)が、油溶性紫外線吸収剤と有機ポリマーとの複合体粒子の水分散体であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
前記油溶性紫外線吸収剤がトリアジン誘導体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
前記油溶性紫外線吸収剤が、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記油溶性紫外線吸収剤の配合量が0.01〜3質量%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールをさらに配合したことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
非揮発性ジメチコンをさらに配合したことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201664(P2012−201664A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70342(P2011−70342)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】