説明

早期重合に対するモノマーエマルションの安定化

本発明は、モノマーエマルションの安定な調製物、その製造方法及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマーエマルションの安定な調製物、その製造方法及びその使用に関する。
【0002】
モノマーの貯蔵の際には、大半は、不所望な重合の問題が生じる。ラジカル捕捉性の有機の又は無機の物質による安定化は公知である。従って、Tuedos et al.[Tuedos, E., Foeldes-Berezsnich, T., Prog. Polym. Sci., Vol 14, 1989, 717]は、ラジカルと反応して安定な化合物を生じることができ、かつ、従って不所望な重合を有効に抑制する、複数の抑制剤を記載する。例えば、とりわけキノン、芳香族ニトロ化合物、ニトロソ化合物、フェノール及び芳香族アミンである。
【0003】
特許公報US 3,082,262中には、3−クロロ−1,3−ブタジエンの乳化重合の際の安定剤としてのNaNO2が記載される。ここでは、pH値6〜13.5の有利な作用も示唆されているが、常に、前述した安定剤との関連においてである。エマルションの標準的な試験は実施されず、この安定性の作用は単に、重合の経過に関して観察される。
【0004】
全ての記載されたラジカル安定剤は、これが熱可塑性成形材料中で使用される場合には、これが、成形材料を加工条件で分解により変色させることであり、これにより通常は、黄色値の不所望な上昇が生じる欠点を有する。
【0005】
同様に、重合槽中へのエマルションの供給の際の及び後の所望される重合の抑制は不利である。ここでは、前記安定剤を"無視する"ために、相応して多くの開始剤が使用されなくてはならない。この必要とされる多量の開始剤は、多くの分解生成物を生じ、これは一部が又は全部が生成物中に残存し、かつ、開始剤と同様に、とりわけこの光学性に不利に影響を及ぼす。
【0006】
課題は、早期の、制御されていない重合に対して有効にモノマーエマルションを安定化することであった。反応生成物としてこの分散体から獲得される成形材料は可能な限り無色でかつ明澄であることが望ましいので、ラジカル安定剤がほとんど使用されないことが望ましく、というのはこれらは加工の際に、この生成物の黄変を生じるからである。
【0007】
この課題は、pH値9〜14に調整された安定化されたモノマーエマルションにより解決された。
【0008】
少量の塩基により、このモノマーエマルションはpH値9〜14に調整される。
【0009】
意外にも、これにより重合が抑制され、かつ、濃縮化されたエマルションを用いた確実な取り扱いが保証されることができることが見出された。
【0010】
pH値調整の有効性は比較の目的で使用されるフェノール性安定剤Irganox 1076 (Ciba)の有効性をも上回ることが見出された。
【0011】
更に、安定化されたモノマーエマルションの製造方法が提供される。
【0012】
耐衝撃性改良剤−分散体は、2つのエマルション供給を用いたエマルション重合により製造される。後貯蔵(nachlagern)された工程においてこの固形物質が単離され、かつ成形材料として加工される。この固形物質の収率を高めるべく、この分散体の固形物質含有量は高められることが望ましい。このために、供給エマルション中のモノマー割合の向上が必要である。モノマー及び乳化剤の他に両方のフィード中に開始剤として有機ペルオキシドを含有し、これは、既に重合槽中にある還元剤とレドックス反応において反応し、かつこの際ラジカルを生じる。この分解反応は触媒作用され、例えば、やはりこの容器中に少量で存在する鉄(II)イオンによって触媒作用される。この第2の重合相の際にこの分子量は制御されることが望ましいので、この供給エマルション中には更にメルカプタンが調節剤として存在する。全てのメルカプタンと同様にこの調節剤は還元剤として作用し、かつ既に、この供給エマルションの調製の際に不所望の開始剤分解を生じ、かつ、従って早期重合が開始する。所望の特性を有する生成物を得るために、調節剤も開始剤も供給エマルション中に存在することが必ず必要であり、第2の、並行した供給は選択肢ではない。
【0013】
2供給エマルションを用いた確実な取り扱いを保証するために、エマルション標準試験が確立され、この際この製造の間の臨界的な機能障害がシミュレーションされる。フィードポンプの故障及びエマルション槽中での撹拌がシミュレーションされる。この条件下でも、モノマーエマルションの制御されていない重合は存在してはならない。実験室試験ではこのエマルションは10ppmのFe(II)−イオンの存在下で撹拌下で45℃に温度処理され、かつ次いで撹拌無しに8時間45℃に維持される。しかしながらCr、Mn及び類似の材料が使用されることもでき、これは一般的な汚染物質を作出する。この鉄イオンは、この槽の及び管導通部の壁からの鉄の溶出物であるとシミュレーションされるものであり、かつ、この試験をその触媒作用により先鋭化する。熱発生(内側温度及び外側温度の温度差ΔTとして測定)及び8時間の経過後のポリマー含有量が測定される。より少ない熱が発生し、かつ、より少ないこのポリマー含有量が確認される程、このエマルションはより安定である。
【0014】
このpH値は9〜14、有利には9〜11に、特にとりわけ有利には10に調整される。
【0015】
pH調整のために任意の塩基が使用されることができる。有利には、アンモニア、水溶性アミン、アルカリ金属カルボナート及びアルカリ金属ヒドロゲンカルボナート並びにアルカリ金属水酸化物、特に有利には水酸化ナトリウムが使用される。
【0016】
pH値調整のためには、使用される塩基に依存して、0.0001〜10質量%である。NaOHのためには有利には0.001〜5質量%、特に有利には塩基0.005質量%が添加される。
【0017】
このバッチの安定化は、乳化剤及び/又は保護コロイドを用いて行われる。低い分散体粘度を得るために、乳化剤による安定化が有利である。この乳化剤の全量は、有利には、このモノマーの全質量に対して0.1〜5質量%、特に0.5〜3質量%である。特に適した乳化剤は、アニオン性又は非イオン性乳化剤又はその混合物、特に、次のものである:
*アルキルスルファート、有利にはアルキル残基中に8〜18個の炭素原子を有するアルキルスルファート、8〜18個の炭素原子をアルキル残基中に及び1〜50個のエチレンオキシド単位を有するアルキル−及びアルキルアリールエーテルスルファート;
*スルホナート、有利には8〜18個の炭素原子をアルキル残基中に有するアルキルスルホナート、8〜18個の炭素原子をアルキル残基中に有するアルキルアリールスルホナート、1価のアルコール又はアルキルフェノールとの、アルキル残基中に4〜15個の炭素原子を有するスルホコハク酸のエステル及び半エステル;場合によりこのアルコール又はアルキルフェノールは1〜40個のエチレンオキシド単位でもエトキシル化されていてよい;
*リン酸部分エステル及びそのアルカリ−及びアンモニウム塩、有利にはアルキル−又はアルキルアリール残基中に8〜20個の炭素原子及び1〜5個のエチレンオキシド単位を有するアルキル−及びアルキルアリールホスホファート;
*アルキルポリグリコールエーテル、有利にはアルキル残基中に8〜20個の炭素原子及び8〜40個のエチレンオキシド単位を有するアルキルポリグリコールエーテル;
*アルキルアリールポリグリコールエーテル、有利にはアルキル−又はアルキルアリール残基中に8〜20個の炭素原子及び8〜40個のエチレンオキシド単位を有するアルキルアリールポリグリコールエーテル;
*エチレンオキシド/プロピレンオキシド−コポリマー、有利にはブロックコポリマー、好ましくは8〜40個のエチレンオキシド−又はプロピレンオキシド単位を有するもの。
【0018】
場合により、前記乳化剤は、保護コロイドと混合しても使用されることができる。適した保護コロイドは、特に、部分鹸化されたポリビニルアセタート、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチル−、メチル−、ヒドロキシエチル−、ヒドロキシプロピル−セルロース、デンプン、タンパク質、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸、メラミンホルムアルデヒドスルホナート、ナフタレンホルムアルデヒドスルホナート、スチレン−マレイン酸−及びビニルエーテルマレイン酸−コポリマーを含む。保護コロイドが使用される場合には、これは有利には、モノマーの全量に対して0.01〜1.0質量%の量で行われる。この保護コロイドは、重合の開始前に装入されるか又は計量供給されることができる。
【0019】
この鎖長の調整は、モノマー又はモノマー混合物の、分子量調節剤の存在下での重合により行われることができ、例えば特に、このために公知のメルカプタンのうち、例えばn−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール又は2−エチルヘキシルチオグルコラート、ペンタエリトリトールテトラチオグリコラート;その際、この分子量調節剤は、一般的にはこのモノマー混合物に対して0.05〜5質量%の量で、有利には、このモノマー混合物に対して0.1〜2質量%の量で、特に有利には0.2〜1質量%の量で使用される(参照、例えば、H. Rauch-Puntigam, Th. Voelker, "Acryl- und Methacrylverbindungen", Springer, Heidelberg, 1967; Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, XIV/1巻. 66頁, Georg Thieme, Heidelberg, 1961又はKirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 第1巻, 296頁〜, J. Wiley, New York, 1978)。有利には、分子量調節剤としてn−ドデシルメルカプタンが使用される。
【0020】
この開始は、エマルション重合のために慣用の開始剤を用いて行われる。適した有機開始剤は、例えばアゾ化合物又はヒドロペルオキシド、例えばtert−ブチル−ヒドロペルオキシド又はクモールヒドロペルオキシドである。適した無機開始剤は、過酸化水素並びにペルオキソ二硫酸のアルカリ金属−及びアンモニウム塩、特にペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸カリウムである。前述の開始剤は単独でも混合物でも使用可能である。これらは有利には、そのつどの工程のモノマーの全質量に対して0.05〜3.0質量%の量で使用される。
【0021】
(メタ)アクリラートとの書き方は、(メタ)アクリル酸のエステルを意味し、かつ、ここでは、メタクリラート、例えばメチルメタクリラート、エチルメタクリラートその他、また同様にアクリラート、例えばメチルアクリラート、エチルアクリラートその他、並びにこの両者からの混合物である。
【0022】
モノマーとして例えば次のものが使用されることができる:1〜40個のC原子を有する直鎖の、分枝した又は脂環式のアルコールのアルキル(メタ)アクリラート、例えばメチル(メタ)アクリラート、エチル(メタ)アクリラート、n−ブチル(メタ)アクリラート、i−ブチル(メタ)アクリラート、t−ブチル(メタ)アクリラート、ペンチル(メタ)アクリラート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、ステアリル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、シクロヘキシル(メタ)アクリラート、イソボルニル(メタ)アクリラート;アリール(メタ)アクリラート、例えばベンジル(メタ)アクリラート又はフェニル(メタ)アクリラート(これはそのつど非置換であるか又は1〜4回置換されたアリール残基を有することができる);他の芳香族置換された(メタ)アクリラート、例えば、ナフチル(メタ)アクリラート;5〜80個のC原子を有するエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はこの混合物のモノ(メタ)アクリラート、例えばテトラヒドロフルフリルメタクリラート、メトキシ(メタ)エトキシエチルメタクリラート、1−ブトキシプロピルメタクリラート、シクロヘキシルオキシメチルメタクリラート、ベンジルオキシメチルメタクリラート、フルフリルメタクリラート、2−ブトキシエチルメタクリラート、2−エトキシエチルメタクリラート、アリルオキシメチルメタクリラート、1−エトキシブチルメタクリラート、1−エトキシエチルメタクリラート、エトキシメチルメタクリラート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリラート及びポリ(プロピレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリラート。
【0023】
この安定化されたモノマーエマルションは、良好な貯蔵安定性により優れている。このエマルションは有利にはポリマー分散体へと重合される。このポリマー分散体は有利には成形材料中で、特に耐衝撃性成形材料中で使用される。
【0024】
以下に記載される実施例は、本発明のより良い説明のために記載されたものであり、しかしながら、本発明をここに開示された特徴に限定するために適していない。
【0025】
実施例
【表1】

(1)C15−ナトリウムパラフィンスルホナート、Condea社
(2)tert−ブチルヒドロペルオキシドの70%のアルコール性水溶液、Akzo Nobel社
(3)メチルメタクリラート
(4)n−ブチルアクリラート
(5)Irganox 1076(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオナート、Ciba社)
室温でこの記載された出発物質を混合し、高い剪断(Ultraturrax, ローター−ステーター−剪断機 IKA T 25 ,5 min, 9000 U/min)下で乳化する。
【0026】
安定剤として、Irganox 1076(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオナート、Ciba社)、慣用のフェノール性ラジカル捕捉剤を使用する。
【0027】
全てのモノマーは同様に、少量のヒドロキノンモノメチルエーテルを用いて安定化されている。
【0028】
このエマルションを、内側温度センサ、撹拌機及び還流冷却機を有するガラスからなる丸底−平滑末端容器(Planschliffgefaess)中に添加し、前記容器は45℃に温度処理された水浴中に見出される。この内側温度が適合した後に、この撹拌機のスイッチを消し、かつ8時間45℃の外側温度に維持した。引き続き、このエマルションを新たな撹拌により均質化し、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.05gで安定化し、このポリマー含有量を非揮発性固形物質として乾燥天秤(Trockenwaage)を用いて算出した。
【表2】

(1)n.b.=測定可能でない、この測定正確性の範囲内では温度変化は確認されなかった。
(2)このエマルションが増粘される場合にはこの試験に合格せず、かつ、このポリマー含有量はもはや測定されない。
濃縮された63%のエマルションのポリマー含有量は貯蔵後に、pH調整の変形を用いて最少であり、即ち、不所望の重合に対する安定化は最も有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH値9〜14に調整されることを特徴とする、安定化されたモノマーエマルション。
【請求項2】
塩基を含有することを特徴とする、請求項1記載の安定化されたモノマーエマルション。
【請求項3】
前記モノマーエマルションがNaOH、KOH、Na2CO3又はK2CO3を含有することを特徴とする、請求項2記載の安定化されたモノマーエマルション。
【請求項4】
前記モノマーエマルションが塩基0.0001〜10質量%を含有することを特徴とする、請求項1記載の安定化されたモノマーエマルション。
【請求項5】
(メタ)アクリラートモノマーを乳化剤、塩基及び更なる助剤及び添加剤を用いて乳化することを特徴とする、安定化されたモノマーエマルションの製造方法。
【請求項6】
開始剤を添加することを特徴とする、請求項5記載の安定化されたモノマーエマルションの製造方法。
【請求項7】
ポリマー分散体への重合のための、請求項1記載の安定化されたモノマーエマルションの使用。
【請求項8】
成形材料への加工のための、請求項7記載のポリマー分散体の使用。

【公表番号】特表2009−518480(P2009−518480A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543754(P2008−543754)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066944
【国際公開番号】WO2007/065744
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】