説明

早期錆熟成耐候性鋼材及びその製造方法

【課題】早期に意匠性に優れた錆を生成する方法とその耐候性鋼材を提供する。
【解決手段】鋼材表面にpHが2以上2.6未満、モル比が0.1≦Cu/P≦20である、硫酸銅(CuSO 4)およびリン酸(H3PO4)を含む溶液を塗布乾燥させることにより、早期に錆が熟成した外観の耐候性鋼材。また、鋼材に前記方法で処理した後、さらに当該鋼材に水または水道水を散布暴露し、自然乾燥を繰り返すことによる早期錆熟成耐候性鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性鋼材の新しい表面処理方法に関し、特に、耐候性鋼に、意匠性付与で用いる目的の良外観の錆を早期に形成させる方法およびその鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐候性鋼は、Cu、Ni、Cr、P、Mo等の元素が少量含有された低合金鋼であり、大気中で腐食する過程で、耐候性鋼表面に腐食要因の透過を抑制する保護性の強い錆層が形成する。保護性の錆が形成された耐候性鋼の腐食速度は著しく低下する特徴を有しているため、近年は、構造物のライフサイクルコストを抑える材料として注目されている。
【0003】
また、保護性の錆色は、落ち着いた褐色の外観を呈し、建築物などの意匠性の材料として使用するニーズも有るが、落ち着いた錆外観になるには時間を要するため、あらかじめ錆色の材料を用意しなければならないという問題がある。
錆を促進させる方法としては、腐食性の物質を塗布することが考えられるが、塗布後に生じる錆を耐腐食性の低い錆に変化させないために、暴露環境で水を散布する方法が安全である。
しかしながら、冬季のように雨量の少ない乾燥した季節における水の散布を行う場合、耐候性鋼の錆の促進が思うように進まない場合が多い。
【0004】
特許文献1ではpHが 2.3以下の酸性腐食液を1回塗布し乾燥させて錆層を生成させ、その後にリン酸塩被膜を形成させることを必須としている。しかし、リン酸塩被膜は簡易な防錆処理(防錆プライマー処理)として知られているものであり、むしろ錆の生成が抑制されてしまう。
【0005】
特許文献2には、鋼材表面をpH2.5 以上7未満の溶液0.10〜5mg/cm2で5〜60分湿潤し次いで乾燥する工程を繰り返すという方法が提案されているが、湿潤と乾燥を繰り返すために、特別な設備が必要とするとともに生産効率が悪いという欠点が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-142088号公報
【特許文献2】特開2001-172773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、鋼材表面に簡単な方法で処理を施し、屋外に数日曝すだけで、早期に意匠性に優れた錆を生成する方法とその耐候性鋼材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため、鉄の錆を促進するには、鉄を溶解させるためにpHを下げること、錆を促進させるために適当な酸化作用を併用すること検討し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
(1)鋼材表面に、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCu、PおよびFeの成分を含む錆層で覆われていることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材。
【0010】
(2) 鋼材表面にpHが2以上2.6未満、モル比が0.1≦Cu/P≦20である、硫酸銅(CuSO 4)およびリン酸(H3PO4)を含む溶液を塗布乾燥させることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
【0011】
(3) (2)の方法により得た早期錆熟成耐候性鋼材に水または水道水を散布暴露し、自然乾燥を繰り返すことを特徴とする、早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の錆付き耐候性鋼材は、早期に意匠性のある錆付き耐候性鋼として提供されるため、景観や意匠性を求められる建築材や構造物に広く利用でき、産業価値を高くする効果を有する。ここで、早期とは2日から遅くとも2週間程度のことを云う。また、意匠性とは、建築物の壁などに、塗装せずにそのまま用いても美麗な褐色(焦げ茶色)の落ち着いた錆外観をもたらすものを云う。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明による耐候性鋼材は、鋼材表面に、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCu、PおよびFeからなる錆で覆われていることを特徴とする、早期錆熟成耐候性鋼材である。
【0015】
本発明の表面処理耐候性鋼材は、保護性および意匠性の観点から均一に錆を形成させるために、処理剤塗布の前に鋼材表面のミルスケールや脆い錆を除去しておくことが望ましい。ミルスケールはショットブラストやグリットブラストまたはサンドブラストによって除去すればよい。脆い錆の除去はワイヤブラシなどを用いて行えばよい。また、ブラスト処理後の錆びた鋼材については、錆びのうち表面の浮き錆のみを除去しこれに処理を行うことも可能である。
【0016】
このように随意的に表面処理をして得られる鋼材表面に、pHが2以上2.6未満、モル比が0.1≦Cu/P≦20である、リン酸および硫酸銅を含む水溶液を塗布乾燥させることにより、早期錆熟成耐候性鋼材を得ることができる。
【0017】
この処理液の塗布の方法は、スプレーあるいはローラー、または刷毛塗りなど、一般に塗装などに用いられる方法が適用可能である。
塗布する量は、鋼材が均一に濡れる塗布量であれば、例えば0.1〜5mg/cm(鋼材表面1cm当たり0.10〜5mg)、十分な効果が発現できる。乾燥は、室温、例えば25℃±15℃、で行うのが良い。加熱乾燥すると、鋼材との充分な反応がしない可能性があるからである。
【0018】
溶液のpHの適正範囲について、pHが2未満では、酸性が強くなりすぎて、鋼材表面に防食性のリン酸塩結晶が生成されるために本発明の目的を達成なくなる。
一方、pHが2.6を越えると、鋼材面の鉄の溶解性が悪くなり、処理液の濡れ性が劣るため、均一な処理となり難く、錆の生成が促進されないだけでなく、均一な錆形成がなされにくくなるからである。
【0019】
本発明で用いる硫酸銅は、鉄に対して酸化作用を示すCu2+イオンを供給するために選択したものである。塩化銅を用いた場合には、残留する塩素イオンが後にさびに対する悪影響をもたらすため、硝酸銅を用いた場合には、硝酸イオンが鉄の不動態化をもたらし、錆生成が早くならないこと、危険性の観点から本発明の対象から除外される。
鉄よりも電気化学的電位が貴のCu2+イオン以外の金属イオンも酸化作用のあるイオンとして用いる可能性は有るが、Ag+などは価格の面から望ましくない。
【0020】
CuとPのモル比について、0.1≦Cu/P≦20とすることで、鋼材に対して酸化作用を示すCuイオンと溶解作用をもたらす酸の割合の関係より、この範囲が好ましい範囲であることを明らかにした。
Cu/Pのモル比が0.1未満では、Cuイオンの量が少なく、錆を形成させるのに充分な促進作用が得られない。
一方、Cu/Pの比が20を超えると、鋼材表面の大部分が銅で覆われてしまうため、やはり錆の形成が抑制されるからCu/Pは20以下とする。
【0021】
リン酸および硫酸銅を含む水溶液を塗布乾燥させた後に立てかけて屋外などで水を散布乾燥させることにより2〜3日で、黄色錆を形成することなく均一な褐色の錆が形成される。
【0022】
以上のような処理をされた鋼材の形成過程を通しては、通常の鋼材暴露の過程で生成される黄色の流れ錆も形成されることなく、その表面には、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCu、PおよびFeからなる錆で覆われている褐色に近い鋼材を得ることができる。
【0023】
CuとPの錆中での分布は、鋼材の表面にCuとリンが濃縮した鉄錆層よりなっており、銅が鉄を酸化するために黄色い錆の形成が抑制されているものと考えられる。
【0024】
本発明に用いられる鋼材の組成は特に限定されないが、最終的な形態として無処理の状態で用いることが可能なJISのSMA、SPA-H、SPA-C、ニッケル系の耐候性鋼などが用いられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて、具体的に説明する。
【0026】
実施例1〜35、及び比較例1〜10に示す水準は、耐候性鋼材(JIS SMA 400AW)試験片(150mm×75mm×5mm)のミルスケール付き鋼材に、ブラスト処理によりミルスケールを除去したものに表1に示す組成の処理液を鋼材表面が均一に濡れるように刷毛塗りし、供試材とした。
【0027】
比較例1としては、ショットブラスト後の無処理耐候性鋼材を用いた。
【0028】
雨の影響の少ない1月〜2月の降雨の無い期間に評価を実施した。
評価方法は、垂直に暴露した試験材に、毎日目視観察し、その後に噴霧器又は霧吹きで水道水散布を行うサイクルを繰り返した。
【0029】
評価は目視により行い、評価基準としては、◎:全面に均一外観の褐色錆、○:全面に点状の褐色錆、△:黄色錆が生じた、×:ほとんど錆無し。
【0030】
表1の試験結果、比較例1より、ブラストしたままの鋼材では、冬季では水を散布しても2〜3日ではほとんど錆が生成しない。
比較例2〜3、銅イオンだけの場合は、鋼材表面での溶液のはじきが有るとともに、濡れている部分では銅が析出してめっきとなるために、暴露試験での良好な錆は得られにくいのがわかる。
比較例4〜7の、リン酸のみの場合は、pHが高い溶液の場合(比較例4)には、溶液のはじきが有り、比較例6、7の場合はリン酸塩と思われる白色の表面となり、錆の生成も促進されなかった。
比較例8〜12は、リン酸と銅が共存しても、Cu/Pの比が大きい場合には、銅が多く析出するために錆の生成が遅くなるのがわかる。
実施例1〜30で、Cu/Pの比が適当な範囲に有ると、1週間ほどで褐色の錆が形成されるのがわかる。さらに、pHが2〜2.6の範囲では、ほぼ均一な処理により、均一な外観となり、良外観が得られるのがわかる。
即ち、銅が多いと銅めっきの性質となり、銅が少ないと充分な錆の促進効果が無いと考えられる。
また、実施例26〜30のように、pHが低くなり、リン酸が多くなると、リン酸結晶の性質となるために、錆の生成が遅くなる結果となる事がわかる。
【0031】
【表1】

【表2】

【0032】
以上のように、pHの適正範囲(2〜2.6)かつ、適当な0.1≦Cu/P≦20の範囲であれば、ほぼ均一な意匠性の錆外観を数日で生成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による早期錆熟成耐候性鋼材は、暴露により、特に2〜数日間の水散布暴露により、季節の影響がなく、早期に意匠性の求められる建築物や土木構造物の鋼材として提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面に、モル比で0.1≦Cu/P≦20のCu、PとFeの成分を含む錆層で覆われていることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材。
【請求項2】
鋼材表面にpHが2以上2.6未満、モル比が0.1≦Cu/P≦20である、硫酸銅(CuSO 4)およびリン酸(H3PO4)を含む溶液を塗布乾燥させることを特徴とする早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により得た早期錆熟成耐候性鋼材に水または水道水を散布暴露し、自然乾燥を繰り返すことを特徴とする、早期錆熟成耐候性鋼材の製造方法。

【公開番号】特開2010−280939(P2010−280939A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134380(P2009−134380)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】