説明

早漏治療薬のスクリーニング方法

【課題】ラット交尾行動評価系を用いた優れた早漏治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】本発明は、被験物質を雄性ウィスター-イマミチラットに投与する工程、該ラットの射精潜時を測定する工程、及び該射精潜時を延長させた物質を選択する工程を含む早漏の治療薬又は予防薬のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、被験物質を投与した雄性ウィスター-イマミチラットを自然発情雌性ラットと同居させる工程をさらに含む早漏の治療薬又は予防薬のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラット交尾行動評価系を用いた早漏治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
男性の性機能障害の一つである射精障害(ejaculatory dysfunction)には、早漏(premature or rapid ejaculation)、遅漏(delayed ejaculation)、射精不能(complete inability to ejaculate)、逆行性射精(retrograde ejaculation)および射精痛(painful ejaculation)などが含まれる。その中で早漏は最も一般的な射精障害であり、性的活動のある男性の5%〜40%に認められると報告されている。(例えば、非特許文献1参照)
早漏は性行為時、毎回または、ほぼ毎回、膣内挿入前もしくは挿入後1分以内に射精してしまい、射精をコントロールするできないことによるストレス、悩み、いらいらなど精神的な負担を感じている男性性機能障害と定義されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
早漏の治療法としては薬物療法、心理療法及び行動療法等が知られている。早漏治療を目的として使用される薬剤としては、陰茎亀頭に塗布する局所麻酔剤、三環型抗うつ剤および選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)といった経口剤などが用いられている(例えば、非特許文献3、4参照)。しかし、これらの薬剤には、効果、利便性、副作用等の点において問題があった(例えば、非特許文献4、5参照)。
【0004】
最近、SSRIの主効果を維持したまま、副作用を軽減させることを目的として、血中半減期を短くしたSSRIのダポキセチン(dapoxetine)が開発され、世界で初めて早漏を適応症とした薬剤としてヨーロッパで承認された。本薬剤は臨床試験において単回投与で射精潜時を2倍から3倍に延長することが報告されているが、一般的なSSRIと比較すると低頻度であるものの、副作用が認められている(例えば、非特許文献6参照)。そのため、副作用の少ない早漏治療薬の開発が求められている。
【0005】
早漏治療薬のヒトでのプライマリーエンドポイントとしては、問診あるいはストップウォッチを用いた膣内射精潜時(Intravaginal ejaculation latency time)の測定が用いられる(非特許文献7、8参照)。動物を用いた評価においては、ヒトと同様に膣内挿入から射精するまでの時間(射精潜時)を簡便に測定することが可能なラットを用いた交尾行動評価系が挙げられる。雄性ラットと発情雌性ラットを同居させると、雄性ラットは発情雌性ラットに興味を示し、乗駕行動(マウント)、挿入行動(イントロミッション)を複数回繰り返した後に射精に至る。これらの行動は、非常に特徴的であり、識別が容易である。射精潜時は雄性ラットと雌性ラットを同居後、最初の挿入行動から射精に至るまでの時間と定義される。通常、一定時間(例えば1時間)の同居中に、雄性ラットは複数回の交尾行動を行うため、一回の交尾行動試験において複数の射精潜時が得られるが、薬剤評価には一般的に初回射精潜時が用いられている(例えば、非特許文献9、10、11参照)。
【0006】
交尾行動評価に用いられるラットの系統としては、一般的にウィスター(Wistar)、エスディー(SD)、ロング-エバンス(Long-Evans)といった系統のラットが挙げられるが、これらの系統の射精潜時の平均値は300秒以上と長く、また、個体間のばらつきも大きい(例えば、非特許文献12,13、14参照)。そのためこれらのラットの系統を用いた交尾行動評価系は、早漏治療薬のスクリーニングを実施する評価系としては必ずしも適切な評価系とはいえない。
【0007】
ウィスター-イマミチ(Wistar-Imamichi)ラットは、1938年にウイスター研究所より東京大学農学部家畜生理学教室に導入されたWistar Institute Standard Strain Lot No.1359に由来し、雌性ラットの性周期が4日で安定して供給可能であることなどから主に本邦において交尾行動評価に使用されている系統である(例えば、非特許文献10、15、16、17)。Wistar-Imamichiラットを用いた交尾行動評価において、薬物等が交尾行動に及ぼす影響を評価することを目的として射精潜時を測定したことが報告されているが(非特許文献15、16、18、19参照)、早漏治療薬の開発を目的とした、Wistar-Imamichiラットを用いた薬物の射精潜時延長作用の評価は報告されていない。
【0008】
また、交尾行動試験の実施には発情した雌性ラットを用意する必要があるが、自然発情の周期を合わせた雌性ラットを用意することが困難、または繰り返し使用する事が不可能といった理由から、あらかじめ卵巣を摘出した雌性ラットを用意し、発情させたい日に合わせてエストロゲン及びプロゲステロンを投与し、強制的に発情させた雌性ラットを繰り返し使用するという手法が一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature Clinical Practice Urology, 2008年, 第5巻, p93-103
【非特許文献2】Journal of Sexual Medicine 2008年, 第5巻, p1590-1606
【非特許文献3】Journal of Sexual Medicine 2006年, 第3巻, 補巻4, p309-317
【非特許文献4】Current Drug Therapy 2006年, 第1巻, p37-46
【非特許文献5】European Urology 2004年, 第46巻, p510-516
【非特許文献6】Journal of Sexual Medicine 2011年, 第8巻, p524-539
【非特許文献7】International Journal of Impotence Research 2006年, 第18巻, p236-250
【非特許文献8】Journal of Sexual Medicine 2005年, 第2巻, p498-507
【非特許文献9】Journal of Reproduction and Fertility 1977年, 第51巻, p351-354
【非特許文献10】Experimental Animals 1991年, 第40巻, p337-341
【非特許文献11】Experimental Animals 1993年, 第42巻, p579-583
【非特許文献12】European Journal of Pharmacology 2005年, 第509巻, p49-59
【非特許文献13】Cellular and Molecular Life Sciences 1979年, 第35巻, p524-525
【非特許文献14】Behavioral Neurosciences 2003年, 第117巻, p69-75
【非特許文献15】Experimental Animals 1991年, 第40巻, p447-452
【非特許文献16】Experimental Animals 1994年, 第43巻, p427-430
【非特許文献17】Experimental Animals 1994年, 第43巻, p535-539
【非特許文献18】Physiology & Behavior 2000年, 第68巻, p707-713
【非特許文献19】Journal of Veterinary Medical science, 1998年, 第60巻, p281-285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、ラット交尾行動評価系を用いた優れた早漏治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、優れた早漏治療薬のスクリーニング方法の開発のために鋭意検討した。その結果、WistarラットとWistar-Imamichiラットの初回射精潜時を直接比較することにより、Wistar-Imamichiラットが先天的に短い射精潜時を有していることを見出した。さらに、強制発情雌性ラットと自然発情雌性ラットを用いた交尾行動試験を直接比較することで、雌性ラットの発情方法の違いが初回射精潜時に及ぼす影響を検討した。その結果、強制発情雌性ラットよりも自然発情雌性ラットと同居させる方が初回射精潜時が安定かつ短いことを見出した。加えて、これらの知見をもとに構築したWistar-Imamichiラット交尾行動評価系を用いた早漏治療薬の評価系において、ヒトで射精潜時延長作用を示すことが報告されている三環系抗うつ剤のクロミプラミン(Journal of Clinical Psychiatry 1995年, 第56巻, p402-407、Journal of International Medicine 1980年, 第8巻, p53-59)が用量依存的に射精潜時を延長したことから本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] 早漏の治療又は予防に有効な物質を選択する方法であって、
被験物質を雄性ウィスター-イマミチラットに投与する工程、
該雄性ラットの初回射精潜時を測定する工程、及び
該初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する工程を含む方法、
[2] 前記雄性ウィスター-イマミチラットを自然発情雌性ウィスター-イマミチラットと同居させる工程をさらに含む、[1]に記載の方法、
[3] 被験物質投与前に初回射精潜時を測定し、被験物質投与後に測定した初回射精潜時と比較する工程をさらに含む、[1]又は[2]に記載の方法、
[4] 前記初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する工程において、被験物質投与後の初回射精潜時を被験物質投与前の初回射精潜時と比較して2倍以上増加させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する、[1]乃至[3]に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ラットにおいて、射精潜時の延長を簡便かつ正確に評価する方法を提供でき、早漏治療薬を開発する手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】強制発情雌性ラット及び自然発情雌性ラットを用いた交尾行動試験回数毎の初回射精潜時の推移を示した図である。
【図2】強制発情雌性ラット及び自然発情雌性ラットを用いた交尾行動試験における初回射精潜時の個別値の推移を示した図である。
【図3】Wistar-Imamichi及びWistarラットにおける交尾行動試験回数毎の初回射精潜時の推移を示した図である。
【図4】Wistar-Imamichi及びWistarラットにおける5回目の交尾行動試験における初回射精潜時の比較を示した図である。図中、**は、Wistarラット群に対する有意差(P<0.01)を表わす(** P<0.01 vs Wistar rat group (Student's t-test)。
【図5】雄性Wistar-Imamichiラットと自然発情雌性Wistar-Imamichiラットを用いた10バッチ(Batch)の交尾行動試験における、交尾行動試験5回目(Pre)と6回目(Post)の初回射精潜時の比(Post/Pre ratio)を示した図である。
【図6】雄性Wistar-Imamichiラットと自然発情雌性Wistar-Imamichiラットを用いた10バッチ(Batch)の交尾行動試験において、交尾行動試験5回目(Pre)と6回目(Post)の初回射精潜時の比(Post/Pre ratio)が2倍以上を超えた個体数の割合(Response rate)を示した図である。
【図7】クロミプラミン(Clomipramine)が、雄性Wistar-Imamichiラットと自然発情雌性Wistar-Imamichiラットを用いた交尾行動試験における、群分け時(Pre)と薬剤投与後(Post)の初回射精潜時の比(Post/Pre ratio)に及ぼす影響を示した図である。
【図8】クロミプラミン(Clomipramine)が雄性Wistar-Imamichiラットと自然発情雌性Wistar-Imamichiラットを用いた交尾行動試験における、群分け時(Pre)と薬剤投与後(Post)の初回射精潜時の比(Post/Pre ratio)が2を超えた個体数の割合(response rate)に及ぼす影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本明細書において「射精潜時」とは、交尾行動において、最初の挿入行動から射精に至るまでの時間をいう。
本明細書において「初回射精潜時」とは、一回の交尾行動試験において、一又は複数回の交尾行動が行われた場合における初回の交尾行動時の射精潜時をいう。通常、ラットの場合、雄性ラットと発情雌性ラットを一定時間同居させると、雄性ラットは複数回の交尾行動を行うため、一回の交尾行動試験において複数の射精潜時が得られるが、薬剤評価には初回射精潜時を用いることが一般的である。
本明細書において「自然発情雌性ラット」とは、強制的に発情させていない雌性ラットをいう。具体的には、例えば、交尾行動評価当日に発情前期にある雌性ラットをいう。 本明細書において「交尾行動試験」とは、雄性動物を雌性動物と一定期間同居させて交尾行動を観察することをいう。「交尾行動」とは、雌雄動物の同居後、雄性動物が発情雌性動物に興味を示し、乗駕行動(マウント)、挿入行動(イントロミッション)を複数回繰り返した後に射精に至るまでの一連の行動をいう。本明細書では、交尾行動は射精に至るまでの行動を一回として数えるため、通常、一回の交尾行動試験において複数回の交尾行動が認められる。
【0016】
本発明に用いるラットとしては、ウィスター-イマミチ(Wistra-Imamichi)ラットが挙げられる。Wistra-Imamichiラットは、例えば、財団法人動物繁殖研究所(茨城)より入手可能である。
【0017】
本発明において、「初回射精潜時を測定する」場合、測定方法は交尾行動を正確に測定できる方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば、目視で観察して測定することができる。別の態様としては、赤外線下で撮影した映像を解析して測定することもできる。また別の態様としては、交尾行動観察に用いることのできる測定機器を使用して測定することもできる。
射精潜時の測定は、雄性ラットと発情雌性ラットを同居させ、交尾行動を観察することにより行う。雄性ラットと発情雌性ラットの同居後、雄性ラットは発情雌性ラットに興味を示し、乗駕行動(マウント)、挿入行動(イントロミッション)を複数回繰り返した後に射精に至る。これらの行動は、非常に特徴的であり、識別が容易である。射精潜時の測定は、「最初の挿入行動」及び「射精」を目視やそれに代わる方法で識別し、「最初の挿入行動」及び「射精」に至るまでの時間を計測することにより行う。
一定時間の同居中に、雄性ラットは複数回の交尾行動を行うため、一回の交尾行動試験において複数の射精潜時が得られるが、薬剤評価には一般的に初回射精潜時が用いられていることから、本発明においても初回射精潜時を測定して評価を行う。
【0018】
本発明において、「雄性ラットの初回射精潜時を測定する」場合、初回射精潜時が安定した雄性ラットを選択して測定に用いることができる。ここで、「初回射精潜時が安定した」とは、例えば、交尾行動試験回数の増加に従って短縮する初回射精潜時がプラトーに達した状態が挙げられる。具体的には、交尾行動試験のための雌性ラットとの同居を一定回数、具体的には1〜10回、別の態様としては3〜7回、又別の態様としては5回観察して初回射精潜時が安定した雄性ラット選択することが挙げられる。交尾行動試験のための雌性ラットとの同居は、例えば1日1回で週に1〜2回実施することができる。また、被験物質を評価する際には、初回射精潜時の平均値が溶媒投与群や被験物質投与群の間で等しくなるように群分けすることが好ましい。各群の例数は、被験物質が評価できる例数であれば特に限定されない。
【0019】
本発明において、「自然発情雌性ラットと同居させる」場合、交尾行動を観察するのに十分な期間同居させることが好ましい。例えば、約10〜30分以上、別の態様としては約30分〜1時間、また別の態様としては約1時間同居させることが挙げられる。同居は、暗室で行うことが好ましい。
雄性ラットに被験物質を投与する場合は、自然発情雌性ラットと同居させる前に、例えば、1時間前に投与することが挙げられる。
【0020】
本発明において、「初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療又は予防に有効な物質として選択する」場合、例えば、被験物質投与前の初回射精潜時と比較して被験物質投与後の初回射精潜時が延長した場合に、当該被験物質を選択することが挙げられる。別の態様としては、被験物質の代わりに溶媒を投与したラットと比較して初回射精潜時が延長した場合に、当該被験物質を選択することが挙げられる。
【0021】
本発明において、「初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療又は予防に有効な物質として選択する」場合、被験物質投与後の初回射精潜時を被験物質投与前の初回射精潜時と比較して2倍以上増加させた物質を「初回射精潜時を延長させた物質」として選択することが挙げられる。具体的には、同一個体において被験物質投与前に実施した交尾行動試験における初回射精潜時及び被験物質投与後に実施した交尾行動試験における初回射精潜時をそれぞれ測定し、被験物質投与後の初回射精潜時の被験物質投与前の初回射精潜時に対する比を算出して比較し、被験物質投与群において当該比の平均値を算出して比が2以上の場合に、当該被験物質を「初回射精潜時を延長させた物質」として選択することが挙げられる。
別の態様としては、被験物質投与群における、被験物質投与後の初回射精潜時の被験物質投与前の初回射精潜時に対する比の平均値が2以上であり、かつ、被験物質投与後の初回射精潜時の被験物質投与前の初回射精潜時に対する比が2以上である個体の被験物質投与群における割合が一定以上の場合に、当該被験物質を「初回射精潜時を延長させた物質」として選択することが挙げられる。ここで、「被験物質投与後の初回射精潜時の被験物質投与前の初回射精潜時に対する比が2以上である個体の被験物質投与群割合が一定以上の場合」とは、具体的には例えば、溶媒投与群における割合よりも多い場合であり、あるいは、具体的な下限値を定めることもでき、例えば割合の下限値が10%以上40%以下の態様があげられ、また別の態様としては20%以上35%以下があげられ、さらに別の態様としては30%以上35%以下が挙げられ、またさらに別の態様としては、33%の場合が挙げられる。
本発明において、「被験物質投与前の初回射精潜時」とは、例えば、被験物質投与時点より1回前、すなわち群分け時の交尾行動試験における初回射精潜時が挙げられる。例えば、週に1〜2回交尾行動試験を行う場合は、被験物質投与日以前であって最も近い日に観察した交尾行動における初回射精潜時が挙げられる。別の態様としては、初回射精潜時がプラトーに達して安定したラットにおいて、被験物質投与日以前であって、プラトーに達した以降の交尾行動試験における初回射精潜時が挙げられる、
【0022】
本発明において、「被験物質」としては、例えば、医薬又は動物薬、およびそれらの候補化合物などが挙げられる。被験化合物としては、合成物の場合、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Tetrahedron, 51, 8135-8137 (1995))等によって合成された化合物群、又はファージ・ディスプレイ法(J. Mol. Biol., 222, 301-310 (1991))などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、天然物の場合、例えば、微生物、植物、海洋生物、又は動物由来の成分(例えば、培養上清、組織抽出物等)を用いることもできる。
【0023】
本発明において、被験物質をラットに投与する方法は、標的組織に十分量の被験物質が到達するように、被験物質を該動物に投与するものであれば特に制限はない。投与形態については、被験に適した方法であればいずれの投与方法を選択することもできるが、例えば、被験化合物を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的もしくは非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内、気道内、脊髄腔内、脳室内等)に投与することができる。被験化合物の投与量は、化合物の種類、体重、投与形態などによって異なり、例えば、ラットが生存し得る範囲で、標的組織が機能し得る最高濃度以下の被験化合物に一定時間以上曝露され得るのに必要な量などが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1.ラット交尾行動試験における強制発情雌性ラットと自然発情雌性ラットの比較
スクリーニングに用いる雌性ラットとして、一般的に使用されている強制発情雌性ラットと自然発情雌性ラットのどちらの雌性ラットが適切かを明らかにする目的で検討を実施した。
9週齢の雄性Wistar-Imamichiラット(動物繁殖研究所、茨城)と7週齢の雌性Wistar-Imamichiラット(動物繁殖研究所、茨城)を用いた。強制発情雌性ラットはイソフルラン麻酔下に卵巣を摘出し、術後1週間以上の回復期間の後に交尾前48時間にエストロゲン(25 mg/0.2 mL/rat, sc)を,交尾前4時間にプロゲステロン(500 mg/0.2 mL/rat, sc)を投与し作成した。自然発情雌性ラットは交尾実験当日に発情前期状態となる雌性ラットを入手し実験に供した。イヤーウイリングにより発情状態と判定された雌性ラットと雄性ラットを暗室で観察ケージ(45 cm×40 cm×35 cm、夏目製作所、東京)に同居させ、同居後1時間の交尾行動を赤外線下でCCDカメラ(WAT-902H2 ULTIMATE、ワテック、山形)にて撮影し、DVDレコーダー(DMR-XP12、Panasonic、大阪)に記録した。実験後に記録した映像を解析した。雄性ラットの交尾行動試験は週1〜2回、合計7回実施した。
【0025】
2.交尾行動試験の結果
雄性ラットの初回射精潜時は、強制発情メスとの交尾行動試験(N=14(2〜7回目)〜23(1回目))においても自然発情雌性ラットとの交尾行動試験(N=16)においても、交尾行動試験回数が増えるに従い短縮し、それぞれ5回目の交尾試験以降で十分にプラトーに達した。5回の交尾試験以降の初回射精潜時(プラトー値)は、自然発情雌性ラットを用いた場合には70秒程度にまで短縮したが、強制発情雌性ラットを用いた場合は300秒程度に留まった(図1)。個体別に見ると、強制発情雌性ラットを用いた場合には、一旦初回射精潜時が安定したと考えられたラットの初回射精潜時が次の交尾時には再び増加するという例が散見され、非常に不安定であったが、自然発情雌性ラットを用いた場合にはそのような事象は認めれなかった(図2)。以上のような結果から、スクリーニングに供する雌性ラットとしては、自然発情雌性ラットの方が強制発情雌性ラットよりも優れていると考えられた。
【0026】
実施例2
1.Wistar-ImamichiラットとWistarラットの初回射精潜時の比較
Wistar-Imamichiラットが、他のラットの系統と比較してスクリーニングに適しているかを明らかにする目的で雄性Wistar-Imamichiラットと報告されているラットの系統の中ではより短い初回射精潜時を示す雄性Wistarラットとの比較試験を実施した。
9週齢の雄性 Wistar-Imamichiラット(動物繁殖研究所、茨城)及び雄性Wistarラット(日本チャールズ・リバー、神奈川)と発情前期状態にある9週齢の雌性Wistar-Imamichi ラット(動物繁殖研究所、茨城)を暗室で観察ケージ(45 cm×40 cm×35 cm、夏目製作所、東京)に同居させ、同居後1時間の交尾行動を赤外線下でCCDカメラ(WAT-902H2 ULTIMATE、ワテック、山形)にて撮影し、DVDレコーダー(DMR-XP12、Panasonic、大阪)に記録した。実験後に記録した映像を解析した。雄性ラットの交尾試験は週1〜2回、合計7回実施した。
【0027】
2.データ解析
初回射精潜時は平均値±標準誤差で示した。また、Studentのt検定によって、5回目の交尾行動におけるWistar-Imamichiラットの初回射精潜時とWistarラットの初回射精潜時に対する有意差検定を実施した(Graphpad PRISM 5.0, USA)。有意水準は両側5%とした。
【0028】
3.Wistar-ImamichiラットとWistarラットの初回射精潜時の比較
両ラットの初回射精潜時は交尾行動試験回数が増えるに従い短縮し、両ラットの初回射精潜時は5回目の交尾行動試験以降でプラトーに達した(図3)。5回目の交尾行動試験時のWistar-Imamichiラットの初回射精潜時はWistarラットに比べ有意に短く、個体間のばらつきも小さかった(図4)。Wistar-ImamichiラットがWistarラットよりもスクリーニングに適したラットの系統であることが示された。
【0029】
実施例3
1.Wistar-Imamichiラットを用いた交尾行動試験における射精潜時延長作用を有する化合物の選定方法
実施例1及び2から交尾行動評価に最適な組み合わせと考えられる雄性Wistar-ImamichiラットとWistar-Imamichi自然発情雌性ラットを用いて、被験物質評価のクライテリアを明確にする事を目的とし、検討を行った。
9週齢の雄性Wistar-Imamichiラット(動物繁殖研究所、茨城)と発情前期状態にある9週齢の雌性Wistar-Imamichiラット(動物繁殖研究所、茨城)を暗室で観察ケージ(45 cm×40 cm×35 cm、夏目製作所、東京)で同居させ、同居後1時間の交尾行動を赤外線下でCCDカメラ(WAT-902H2 ULTIMATE、ワテック、山形)にて撮影し、DVDレコーダー(DMR-XP12、Panasonic、大阪)に記録した。実験後に記録した画像を解析した。雄性ラットの交尾試験は週1〜2回、合計6回実施した。この一連の交尾試験を10バッチ(Batch)(合計112匹)(N=6〜14/Batch)について実施し、交尾試験5回目の初回射精潜時(Pre値)と6回目の初回射精潜時(Post値)の比を比較した。雄性ラットには交尾試験の1時間前に溶媒(0.5%メチルセルロース溶液)を5 mL/kgの容量で経口投与した。
【0030】
2.データ解析
各バッチにおいて、交尾試験5回目(Pre)と6回目(Post)の初回射精潜時の比(Post/Pre ratio)を算出した(全てのバッチで初回射精潜時は5回目以降にプラトーになることは確認済み)。
【0031】
3.溶媒投与によるPost/Pre ratioの変動
10バッチのPost/Pre ratioの平均値はある程度のばらつきを示したが、2倍を超えるバッチは無かった(図5)。また、各バッチ(Batch)においてPost/Pre ratioが2倍を超えた個体数の割合(Response rate)を算出したところ、10バッチのResponse rateは33.3%以下であった(図6)。従って、被験物を投与した際にPost/Pre ratioが2倍を超え、かつresponse rateが33.3%以上を示した被験物は射精潜時延長作用を有すると判断できる事が明らかとなり、本クライテリアをスクリーニングのクライテリアに設定した。
【0032】
実施例4
1.ラット交尾行動試験における化合物評価
実施例3で設定したクライテリアの妥当性を明らかにする目的で、臨床で単回投与にて射精潜時延長作用が報告されているクロミプラミンの評価を実施した。実施例3の方法で交尾試験を5回実施し、初回射精潜時が安定した雄性Wistar-Imamichiラットを初回射精潜時の平均値が各群で等しくなるように群分け(N=7〜13/group)を行った。
2.被験物投与
発情前期状態にある9週齢の雌性Wistar-Imamichiラットと同居1時間前に、クロミプラミン(10、30及び100 mg/kg)もしくは溶媒(生理食塩水) を雄性ラットに皮下投与した。
【0033】
3.データ解析
クロミプラミン投与後の初回射精潜時(Post値)を群分け時(Pre値)の初回射精潜時(Pre値)で割り、Post/Pre ratioの平均値を算出した。また、各処置群における初回射精潜時のPost/Pre ratioが2倍以上に延長した個体数の割合(Response rate)を算出した。
【0034】
4.初回射精潜時に対するクロミプラミンの作用
溶媒投与群のPost/Pre ratioの平均値は1.1であり、2.0未満であった。一方、クロミプラミン(Clomipramine)(10、30及び100 mg/kg, sc)投与群のPost/Pre ratioの平均値はそれぞれ、1.3、2.7、2.9であった(図7)。また、Post/Pre ratioが2倍以上延長した個体の割合は溶媒投与群では8%であったが、クロミプラミン(Clomipramine)(10、30及び100 mg/kg, sc)投与群ではそれぞれ、11%、29%、44%と用量依存的な増加を示した(図8)。これらの結果から、クロミプラミンは、実施例3で設定したクライテリアを満たし、初回射精潜時延長作用を有する薬剤であると判断された。臨床で早漏治療薬として使用されている薬剤が本クライテリアを満たしたことから、本クライテリアが妥当である事、本評価系が早漏治療薬のスクリーニング評価系として妥当であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ラット交尾行動評価系を用いた早漏治療薬のスクリーニング方法に関する。本発明は、ラットにおいて、射精潜時の延長を簡便かつ正確に評価する方法を提供でき、早漏治療薬を開発する手段として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早漏の治療又は予防に有効な物質を選択する方法であって、
被験物質を雄性ウィスター-イマミチラットに投与する工程、
該雄性ラットの初回射精潜時を測定する工程、及び
該初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する工程を含む方法。
【請求項2】
前記雄性ウィスター-イマミチラットを自然発情雌性ウィスター-イマミチラットと同居させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験物質投与前に初回射精潜時を測定し、被験物質投与後に測定した初回射精潜時と比較する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記初回射精潜時を延長させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する工程において、被験物質投与後の初回射精潜時を被験物質投与前の初回射精潜時と比較して2倍以上増加させた物質を早漏の治療薬又は予防薬として選択する、請求項1乃至3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24626(P2013−24626A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157596(P2011−157596)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】