説明

早発型の腎尿細管細胞障害を検出するための方法およびキット

【課題】NGALを早期尿バイオマーカーとして利用する、早発型の腎尿細管細胞障害を検出するための方法およびキットを提供する。
【解決手段】NGALは、小さな分泌ポリペプチドであり、プロテアーゼ耐性があることから、腎尿細管細胞障害後の尿中で容易に検出される。NGALタンパク質の発現は、主に近位尿細管細胞中で、分泌タンパク質によく似た点状細胞質分布中に認められる。尿中でのNGALの出現は、腎虚血および腎毒症の投薬量および持続時間に関連しており、腎尿細管細胞障害および腎不全の診断となる。NGALの検出は、薬物または他の治療薬の腎毒性副作用をモニターするマーカーとしても有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
虚血障害または腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害に続発する急性腎不全(ARF)は、支持療法が飛躍的に進歩したにもかかわらず、死亡率および罹病率があいかわらず高いままであり、臨床医学および腎臓病学での一般的かつ潜在的に計り知れない大きな問題のままである。数十年にわたる先駆的研究によって、ARFの病因における持続性の血管収縮、尿細管閉塞、細胞構造および代謝変化、ならびに炎症性応答の役割が明らかにされてきている。これらの研究は、動物モデルにおいて可能な治療方法を提唱してきたが、ヒトでのトランスレーショナル・リサーチの努力は、期待はずれの結果を生み出した。このことの理由として、虚血障害および腎毒素に対する腎臓の多面的な応答と、結果として生ずる治療開始の遅れを伴うARF用の早期バイオマーカーの不足とを挙げることができる。
【0002】
人が急性腎不全に罹ったと考えられるのは、その患者の血清クレアチニン値が、(1)基線血清クレアチニン値が2.0mg/dl未満であったときに少なくとも0.5mg/dl増加したとき;(2)基線血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上であったときに少なくとも1.5mg/dl増加したとき;または(3)X線撮影造影剤への曝露の結果として、基線血清クレアチニン値に関係なく少なくとも0.5mg/dl増加したときのいずれかである。
【0003】
疾病経過の初期に治療を導入することで、ARFに関連する死亡率が低下し、様々なタイプの腎尿細管障害、例えば限定されるものではないが虚血性および腎毒性の腎障害の処置に要する時間が短縮されると、考えられる。腎尿細管細胞障害用の信頼性が高い早期バイオマーカーの同定は、早期治療介入を容易にする上で有用であり、また腎毒性の指標を提供することで医薬開発を導くのを助ける上で有用である。
【0004】
腎疾患を発見するための従来の研究手法として、血清クレアチニン、血液尿素窒素、クレアチニンクリアランス、尿電解質、尿沈殿物鏡検、および放射線分析が含まれる。これらの指標は非感受性かつ非特異性であることのみならず、本疾患を早期に発見することを可能とさせるものではない。実際、血清クレアチニンの上昇がARF検出のための「ゴールドスタンダード」として広く思われている一方で、血清クレアチニンの変化が生ずる頃には、腎機能の50%ほどが既に失われることが現在明らかである。
【0005】
虚血性腎障害用のいくつかの尿バイオマーカーが以前に記載され、腎障害分子−1(KIM−1)およびシステイン・リッチ・タンパク質61(Cyr61)を含む。KIM−1は、腎臓再生に関与する推定上の接着分子である。虚血−再灌流障害のラット・モデルで、KIM−1が最初の傷害の24−48時間後に上方制御され、このことはKIM−1の信頼性が高いことを示すが、尿細管細胞障害にとっては幾分遅発性のバイオマーカーであることがわかった。最近の研究は、KIM−1が虚血性急性尿細管壊死を呈する患者の腎生検および尿において検出され得ることを示した。しかし、この検出は、確立した虚血性腎障害の患者で、疾患の後期であると実証された。これまでのところ、早期ARFまたは無症状の腎障害を検出するための尿KIM−1測定の有用性は、確認されていない。
【0006】
タンパク質Cyr61が、動物モデルで虚血性腎障害の3ないし6時間後に尿で検出可能である、システインが豊富な分泌タンパク質であることがわかった。しかし、この検出はヘパリン−セファロース・ビーズによる生体親和性精製および濃縮ステップとそれに続くウエスタンブロット法プロトコルを必要とした。たとえ生体親和性精製後であっても、非特異的交叉反応ペプチドが明瞭に見られた。このように、尿中のCyr61を検出することは、特異性ならびに手順の扱いにくい性質に関して問題である。
【0007】
したがって、早期虚血性および腎毒性腎障害に対する改善されたバイオマーカーの同定が、依然として差し迫った必要としてある。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、哺乳類での腎尿細管細胞障害を検出するための方法に関し、該方法は、(1)哺乳類の被検体から尿試料を得るステップ;(2)尿試料とNGALを含む腎尿細管細胞障害バイオマーカーに対する抗体とを接触させて、抗体と腎尿細管細胞障害バイオマーカーとの複合体を形成させるステップ;そして(3)抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップを含んでなる。
【0009】
本発明は、腎尿細管細胞障害に対する処置の効果を観察する方法に関し、該方法は、(1)虚血性腎障害に罹った哺乳類被験体に対して処置をおこなうステップ;(2)被験体から少なくとも1つの処置後の尿試料を得るステップ;そして(3)処置後の尿試料での腎尿細管細胞障害のバイオマーカーの存在を検出するステップを含んでなる。
【0010】
本発明はさらに、腎尿細管細胞障害に対する即時型または早発型のバイオマーカーの存在を被検体の尿液体中で検出するのに用いられるキットに関し、該キットは、(1)一定量の尿試料を取得する手段;(2)腎尿細管細胞障害バイオマーカーと複合体を形成することが可能な捕捉抗体が加えられ、該バイオマーカーがNGALである、培地;そして(3)腎尿細管細胞障害バイオマーカーと捕獲抗体との複合体を検出するためのアッセイを含んでなる。
【0011】
本発明はまた、哺乳類の被検体の腎尿細管細胞障害の状態を決定するための競合的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)に関し、該キットは、被検体の尿試料中での腎尿細管細胞障害バイオマーカーの存在を検出するための、該マーカーに特異的な第1の抗体を含んでなる。
【0012】
本発明はさらに、事象によって引き起こされる腎尿細管細胞障害の程度を特定するための方法に関し、該方法は、(1)哺乳類の被験体から少なくとも1個の尿試料を得るステップ;(2)尿試料中の腎尿細管細胞障害のバイオマーカーの存在を検出するステップ;そして(3)事象の時間に比例して、尿試料中のIRIバイオマーカーの存在が発現される時間に基づいて、尿細管細胞傷害の程度を決定するステップを含んでなる。
【0013】
本発明はさらに、哺乳類での腎尿細管細胞障害を検出するための方法に関し、該方法は、(1)腎尿細管細胞障害の疑いのあった哺乳類の被検体から1ml以下の第1の尿を含む尿試料を得るステップ;(2)尿試料と腎尿細管細胞障害バイオマーカーに対する抗体とを接触させて、抗体とバイオマーカーとの複合体を形成させるステップ;そして(3)抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップを含んでなる。
【0014】
好ましい腎尿細管細胞障害バイオマーカーは、NGALである。
【0015】
図面の簡単な説明
図1は、虚血後のマウス腎臓NGAL mRNAの誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(C)マウスの腎臓から抽出したRNAを用いて、または図示したような種々の再灌流期間(時間)後に抽出したRNAを用いて、マウス・アクチンおよびNGALに対するプライマーによる代表的なRT−PCRを示す。レーンMは、分子量標準マーカーを含有する。下段のパネルは、対照(CON)から、種々の時点でのNGAL mRNA発現の倍増加を示す。マイクロアレイ(実線)対RT−PCR(点線)によって得られた値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【0016】
図2Aは、片側虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(Con)マウスからまたは図に示した再灌流期間(時間)後得た全腎試料の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体(タンパク質ローディングが等しいことを示すために)で探索した代表的なウエスタン・ブロットを示す。分子量マーカーは、左側にある。下段のパネルは、対照(CON)からの種々の時点でのNGALタンパク質発現の倍増加を示す。デンシトメトリーによって得られる値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【0017】
図2Bは、両側虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(Con)マウスからまたは図に示した再灌流期間(時間)後得た全腎試料の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体(タンパク質ローディングが等しいことを示すために)で探索した代表的なウエスタン・ブロットを示す。分子量マーカーは、左側にある。下段のパネルは、対照(CON)からの種々の時点でのNGALタンパク質発現の倍増加を示す。デンシトメトリーによって得られる値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【0018】
図3は、虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。代表的な免疫組織化学は、対照マウスから得たまたは図示するように還流期間(時間)を変えた後のマウス腎臓の凍結切片を、NGALに対するポリクローナル抗体で探索して、得られる。「G」は糸球体を意味する。「G」は糸球体を意味する。最も右側のパネルは拡大率100倍であり、他のパネルは拡大率20倍である。
【0019】
図4Aは、片側虚血ARFを有するマウスの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。片側腎動脈クランピングに続いて、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーは、右側に示す。ブロットを、NGAL(最上段)またはβ2−マイクログロブリン(Beta2−M)(中段)で探索した。図示したように種々の再灌流期間での、5匹の動物に対する5匹の動物から得た尿のN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)測定。値は、平均値±SDである。各時点での対照に対してP < 0.05、ANOVA。
【0020】
図4Bは、両側虚血ARFを有するマウスの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。両側腎動脈クランピングに続いて、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーは、右側に示す。ブロットを、NGAL(最上段)またはβ2−マイクログロブリン(Beta2−M)(中段)で探索した。図示したように種々の再灌流期間での、8匹の動物に対する5匹の動物から得た尿のN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)測定。値は、平均値±SDである。各時点での対照に対してP < 0.05、ANOVA。
【0021】
図5は、無症状の腎虚血を有するマウスから得た尿におけるNGALタンパク質の検出を示す図である。両側腎動脈クランピングを5、10、または20分おこなった後に、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーを左側に示す。これらの動物は、還流24時間で正常な血清クレアチニンを示した。
【0022】
図6は、虚血性ARFを有するラットの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。ラットに両側腎動脈クランピングを30分間おこなった後に、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーを左側に示す。これらの動物は、還流24時間で血清クレアチニンの顕著な増加を示した。
【0023】
図7は、インビトロでの虚血後のNGAL mRNAの誘導を示す。最上段のパネルは、図示のように、様々な時期(時間)に部分的なATP欠乏を生じさせた後に腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)から抽出されたRNAを用いたヒトNGALに対するプライマーによる代表的なRT−PCRを示す。レーンMは、100bpのDNAラダーを含む。中段のパネルは、対照(O)から得た種々の時間点でのNGAL mRNA発現の倍増加を示し、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現について正規化してある。値は、各点について、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。下段側パネルは、等量の細胞ペレット(Pel)または培地(Sup)から得た、図示のように、様々な時期に部分的なATP欠乏を生じさせた後のRPTEC試料による、NGALに対するポリクローナル抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット(3通りの異なる実験のもの)を示す。分子量マーカーは左側にある。
【0024】
図8Aは、シスプラチン誘導障害を有するマウスで、尿中のNGALタンパク質の早期検出が検出されたことを示す。シスプラチン投与後の図に示す日数で得た未処理の尿試料(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の、β−2−マイクログロブリン(最上段のパネル)およびNGAL(中段のパネル)に対する抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット。分子量マーカーを左側に示す。
【0025】
図8Bは、図8Aのシスプラチン投与後(n=4)に種々の日数での尿NAG測定を示す。値は、平均値±SDである。0日目に対しP < 0.05。
【0026】
図9は、シスプラチン投与が尿細管細胞の壊死およびアポトーシスをもたらすことを示す図である。ヘマトキシリン‐エオジン染色によって、シスプラチン処置腎臓(最上段中央のパネル)における尿細管膨張(tubular dilatation)、管腔破片(luminal debris)、および平坦化した上皮(flattened epithelium)が示された。高倍率では、星印で記された尿細管が、アポトーシスを表す強く濃く染色された核(矢印)を示した(最上段右側パネル)。シスプラチン処置腎臓のTUNEL陽性核を示すTUNEL染色(下段中央パネル)。高倍率では、星印で示した尿細管は、アポトーシスの特徴である濃く、断片化した核(矢印)を示した(下段右側パネル)。高倍率と標識されたパネルは、拡大率100倍であり、他のパネルは20倍である。対照マウスで得られた結果を最上段および下段の左側パネルに示す。
【0027】
図10は、シスプラチン投与が腎臓NGALの急激な誘導をもたらすことを示す図である。図示したような種々の時間点(時間)で得られた、腹腔内シスプラチン(20μg/kg)による処置を受けたマウス由来の腎臓溶解産物の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット。分子量マーカーは左側にある。
【0028】
図11は、シスプラチン投与が尿細管上皮細胞でNGALの急激な誘導をもたらすことを示す図である。代表的な免疫組織化学は、腹腔内シスプラチン(20μg/kg)で処置し、図に示すような種々の時点(時間)で得たマウス由来の凍結腎臓切片を、NGALに対するポリクローナル抗体で探索して、得る。G、糸球体。HPと標識されたパネルは、拡大率が100倍であり、他は20倍である。
【0029】
図12は、シスプラチン20μg/kgの投与が尿中でのNGALの急激な発現をもたらすことを示す図である。図に示すように、シスプラチン注射前または該注射後の種々の時点で得た未処理の尿試料(3〜5μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の代表的なウエスタン・ブロット(上段パネル)。同一尿試料をNAG分泌について分析し(中央パネル)、そしてクレアチニン測定にかけた同一の動物から得た血清についても分析をおこなった(下段パネル)。対照に対してP < 0.05。
【0030】
図13は、シスプラチン5μg/kgの投与が尿中でのNGALの急激な発現をもたらすことを示す図である。図に示すように、シスプラチン注射前または該注射後の種々の時点で得た未処理の尿試料(3〜5μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の代表的なウエスタン・ブロット(上段パネル)。同一尿試料をNAG分泌について分析し(中央パネル)、またクレアチニン測定にかけた同一の動物から得た血清についても分析をおこなった(下段パネル)。対照に対してP < 0.05。
【0031】
図14は、シスプラチン後の尿NGALの定量化を示す図である。既知量の組換え体精製NGALのクーマシー・ブルー(CB)染色(上段左側パネル)およびエンハンスド・ケミルミネセンス(ECL)分析(上段右側パネル)。ウエスタン・ブロットのデンシトメトリー分析および同一条件下で実施された精製NGALの確定された基準のウエスタン・プロットとの比較とによって測定された、シスプラチン20μg/kgまたは5μg/kg後の種々の時点での尿NGAL排出の定量。
【0032】
図15は、パネルAで、死体腎臓移植をした患者(CAD、n=4)と生存血縁ドナー腎臓移植をした患者(LRD、n=6)での尿NGALの測定とを示す(p<0.005)。パネルBは、冷却虚血時間とCADの尿NGALとの相関を示す(p<0.001、r=0.98、スピアマン分析)。パネルCは、ピーク血清クレアチニンとCADの尿NGALとの相関を示す(p<0.001、r=0.96、スピアマン分析)。
【0033】
図16は、開心術後の患者での尿NGALの連続測定結果を、バイパス後の時(時間)に対してプロット(n=15)して、パネルAに示す。パネルBは、ARFを発症した患者でのバイパス時間と2時間尿NGALとの相関を示す(n=5)(p<0.01、r=0.76、スピアマン分析)。パネルCは、血清クレアチニンの変化とARFを発症した患者の2時間尿NGALとの相関を示す(p<0.01、r=0.66、スピアマン分析)。
【発明の詳細な説明】
【0034】
本明細書全体を通して、種々の刊行物および未発表の原稿を括弧内で言及する。刊行物の開示は、この発明が関係する当技術分野の状況をより完全に説明するために、全体として、参照により本明細書の一部とする。これらの参考文献についての完全な書誌引用は、本明細書の終わりの部分に見いだすことができる。
【0035】
本発明は、早発型腎尿細管細胞障害での被検体の尿に存在する腎尿細管細胞障害バイオマーカーの存在をアッセイするための方法およびキットを提供する。上記障害の発症を早期検出することで、そのような障害を措置するための時間を減らすことができ、そして臨床的急性腎不全(ARF)を発症する危険度を減らすことができる。腎尿細管障害として、限定されるものではないが、虚血性腎障害(IRI)または腎毒性腎障害(NRI)とが挙げられる。
【0036】
幅広く用いられている妊娠尿検査キットに類似した原理を用いる簡素なポイント・オブ・ケア・キットは、ベッドサイドで尿NGALを迅速に検出するために、臨床医が素早くARFを診断し、証明され、かつ有効な治療および予防処置を素早く実施することを可能にするだろう。このキットの使用は、ARFを発症する危険にさらされている全ての患者に対する治療基準(standard of care)を意味し得、そのような使用として、心臓外科、腎移植、脳卒中、外傷、敗血症、脱水、および腎毒素(抗生物質、抗炎症剤、放射線造影剤、および化学療法剤)での使用が挙げられる。現在の医療では、ARFがこれらの素因となる異常の経過中に生ずる場合、診断がかなり遅れ、関連死亡率および罹病率が、容認できないほどに高くなる。皮肉にも、さらに悲劇的にも、効果的な予防的および治療的処置が広く利用できるが、ARFの初期バイオマーカーが欠如していることから、適時投与されることはほとんどない。初期腎障害を診断および定量化するためのみならず、早期処置に対する応答を追跡するためにも、また長期転帰を予測するためにも、NGALの複数の一連の測定が不可欠になる。
【0037】
腎尿細管細胞障害のバイオマーカー(RTCIバイオマーカーとも言う)を即時型のRTCIバイオマーカー(例えば、NGAL)とすることができ、このバイオマーカーは腎尿細管細胞障害発症の2時間以内に、尿に出現可能である。即時型のRTCIバイオマーカーは、NGALの場合と同様に、腎尿細管細胞障害の発症後直ちに被検体から排尿された第1の尿に存在し得る。RTCIバイオマーカーを早発型のRTCIバイオマーカーとすることもでき、このバイオマーカーは腎尿細管細胞障害発症の最初の24時間以内に出現可能である。それ自体として、NGALもまた、早発型のRTCIバイオマーカーの一例である。
【0038】
効果的RTCIバイオマーカーは、概して分泌タンパク質であることから、腎臓から尿へ排泄されることがある。効果的RTCIバイオマーカーもまた、一般的にプロテアーゼ耐性タンパク質(例えば、NGAL)である。しかし、例えば、後述するように、NGALに対する抗体によって、タンパク質の安定フラグメントが尿中に検出できる限り、RTCIバイオマーカーをプロテアーゼ感受性タンパク質とすることもできる。
【0039】
RTCIバイオマーカーを、虚血性腎障害バイオマーカー(IRIバイオマーカー)、腎毒性腎障害バイオマーカー(NRIバイオマーカー)、またはそれらの混合物とすることができる。NGALは、IRIバイオマーカーおよびNRIバイオマーカーの両方の一例である。
【0040】
本発明の方法を、腎尿細管細胞障害の発症を検出し、その処置を観察するために、あらゆる種類の腎臓への血液供給減少、心機能障害、外科的処置、集中治療室の患者、ならびに被検体への医薬品、造影剤、または他の薬物の投与を含み得る多種多様な事象に対して、用いることができる。腎尿細管細胞障害は、虚血性腎障害、腎毒性障害、または腎臓の尿細管細胞に影響を及ぼす他の障害であり得る。上記事象として、多種多様な腎毒素の投与または摂取を含むことができ、該腎毒素として、限定されるものではないが、癌化学療法剤(シスプラチン、シクロホスファミド、イフォスファミド(isosfamide)、メトトレキセート)、抗生物質(ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン)、抗真菌薬(アンホテリシン)、抗炎症剤(NSAID)、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)、ならびに放射線造影剤が挙げられる。この方法を用いて、新規に開発された化合物および周知の化合物の腎毒性を評価することができる。
【0041】
本発明は、腎尿細管細胞障害のまさしく開始から臨床ARFに及び得る障害の程度と、被検体からの尿に存在するNGAL量との間の比例関係に基づいて、腎障害の程度を評価するための方法およびキットも提供する。本発明は、臨床医が、最初の評価の段階で腎障害の程度を推定し、検出された尿中NGAL量に基づいて上記障害の状態の変化(悪化、改善、またはそのまま)を観察するための手段を提供する。
【0042】
一般に、臨床医は、選択された間隔で、一定量の新鮮な尿試料を、患者から集めて分析をおこなうプロトコルを確立するであろう。概して、定められた期間中に試料を断続的に得る。被験体の状態によって、断続的な試料採取間の期間を指示することができ、この期間は、24時間毎に試料を採取することから、連続的に試料を採取、より一般的には4時間ないし30分毎に試料を採取することにまで及ぶ。
【0043】
本明細書に記載されている方法および技術を用いることで、尿中に存在するRTCIバイオマーカーの定性的レベルを分析および評価すること、ならびに尿中に存在するRTCIバイオマーカーの定量的レベルを分析および測定することの両方を、実施することができる。臨床医は、定性的方法、定量的方法、または両方を、患者の状態に応じて選択する。概して、採取される尿の量は、1ml、およびより一般的には10μl未満である。典型的な試料は、約1μlから約1mlにまで及ぶ。該して、より多量の尿試料(約1ml)を用いて定量的アッセイがおこなわれる。一般に、小量の尿は容易にかつ直ぐに、ARF発症傾向にあるか、もしくはARFを発症したかのいずれかの臨床被検体から得られる。
【0044】
ひとたび腎尿細管細胞障害または急性腎不全の徴候が検出されると、疾患または状態に対する介入または処置が開始され、臨床医は本発明の方法およびキットを用いて処置または介入の経過を観察することができる。概して、腎障害の処置が開始されて持続するにつれて、後続の処置後の尿試料を1つ以上取り、RTCIバイオマーカーの存在について分析をおこなう。処置は、後に続く処置後の尿試料中にRTCIバイオマーカーの存在が検出されなくなるまで続く。上記処置および介入が状態を改善するにつれて、RTCIバイオマーカーの発現とその尿中での存在とが同様にして減少する。改善の程度は、同様にして、試料中に検出されたNGAL等のRTCIバイオマーカーのレベルが対応して減少することによって表現される。腎障害がほぼ完全に治癒に近づくにつれて、前記方法は、処置の過程が完了したことのシグナルであるRTCIバイオマーカーの完全な欠如を検出するために使用し得る。
【0045】
RTCIバイオマーカーに結合するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体はいずれも、本発明の方法およびキットで有用である。上記抗体は、当技術分野で知られている方法によって製造することができる。好ましいRTCIバイオマーカーであるNGALに対するモノクローナル抗体は、例えば、“Characterization of two ELISAs for NGAL, a newly described lipocalin in human neutrophils” Lars Kjeldsen et al., (1996) Journal of Immunological Methods, Vol. 198, 155−16に記載されており、これを参照により本明細書の一部とする。NGALに対するモノクローナル抗体の例は、Antibody Shop、Copenhagen、Denmarkから、HYB−211−01、HYB−211−02、およびNYB−211−05として得ることができる。一般的には、共に還元または非還元の形態で、HYB−211−01およびHYB−211−02をNGALとともに用いることができる。NGALに対するポリクローナル抗体の例は、“An Iron Delivery Pathway Mediated by a Lipocalin” Jun Yang et al., Molecular Cell, (2002), Vol. 10, 1045−1056に記載されており、これを参照により本明細書の一部とする。このポリクローナル抗体を製造するために、ウサギを組換え体ゲル濾過NGALタンパク質で免疫した。血清をGST−セファロース4Bビーズとともにインキュベートして汚染物を除去し、出願人がJun Yang et al., Molecular Cell (2002)で記載したように、血清中にポリクローナル抗体を生じた。
【0046】
典型的には、上記捕捉抗体とRTCIバイオマーカーとの複合体を検出するステップは、上記複合体と上記バイオマーカーを検出するための第2の抗体とを接触させることを含む。
【0047】
RTCIバイオマーカーと一次抗体との複合体を検出する方法は、捕獲抗体−バイオマーカー複合体から、尿試料の任意の未結合物質を分離するステップ;捕捉抗体−バイオマーカー複合体とRTCIバイオマーカーを検出するための第2の抗体とを接触させて、RTCIバイオマーカーと第2の抗体との間の複合体の形成を可能とするステップ;任意の未結合の第2の抗体をRTCIバイオマーカー−第2の抗体複合体から分離するステップ;そして、RTCIバイオマーカー−第2の抗体複合体の第2の抗体を検出するステップを含んでなる。
【0048】
上記方法で使用されるキットは、一般的には、捕捉抗体が結合した培地を含み、尿試料を培地と接触させて、その捕捉抗体を試料中に含まれるNGALにさらす。このキットは、培地を含む面を有する装置、例えばスパーテルまたは簡素な棒を含むことができる、取得手段を含む。上記取得手段は、尿試料を受け入れるための容器を含むこともでき、該容器は培地を含む尿接触面を有する。別の典型的な態様において、RTCIバイオマーカーと抗体との複合体を検出するためのアッセイはまた、ELISAを含むことができ、そして尿試料中のNGAL量を定量化に使用され得る。他の態様において、上記取得手段は、上記培地を含むカセットを含む装置を含み得る。
【0049】
RTCIバイオマーカーの早期検出は、短時間で尿試料中のタンパク質の存在の指標を、提供することができる。通常、本発明の方法およびキットは、腎尿細管細胞障害の後、4時間以内、より一般的には2時間以内、最も一般的には1時間以内で、尿の試料中のRTCIバイオマーカーを検出することができる。好ましくは、RTCIバイオマーカーを腎尿管細管細胞障害の後、約30分以内に検出することができる。
【0050】
RTCIバイオマーカーを検出するための本発明の方法およびキットは、生物学的試料における他のタンパク質およびリガンドの迅速検出について当技術分野で知られている方法およびキットを適応させることにより、作られ得る。本発明に適応可能な方法およびキットの例は、米国特許第5,656,503号(Mayら、1997年9月12日公開)、米国特許第6,500,627号(O’Connerら、2002年12月31日公開)、米国特許第4,870,007号(Smith−Lewis、1989年8月26日公開)、米国特許第5,273,743号(Ahlemら、1993年12月28日公開)、および米国特許第4,632,901号(Valkersら、1986年12月30日公開)に記載されており、これら全ての参照文献を参照により本明細書の一部とする。
【0051】
RTCIバイオマーカーを検出する迅速なワン・ステップ法は、腎尿細管細胞障害を検出するための時間を短縮することができる。典型的な方法は、RTCIバイオマーカーを含むことが疑われる尿試料を得るステップ;RTCIバイオマーカーに特異的に結合する検出抗体と試料の一部とを混合し、その試料中のRTCIバイオマーカーに対する検出抗体の結合を開始させるステップ;試料と検出抗体との混合物を、検出抗体と交叉反応しない、RTCIバイオマーカーと特異的に結合する固定された捕捉抗体と接触させることで、検出抗体がRTCIバイオマーカーと結合し、RTCIバイオマーカーが捕捉抗体と結合して、検出可能な複合体を形成させるステップ;未結合の検出抗体および任意の未結合試料を前記複合体から除去するステップ;そしてこの複合体の検出抗体を検出するステップを、含んでなる。上記検出可能な抗体は、当技術分野で周知のとおり、検出可能なマーカー(例えば放射性標識、酵素、生物学的染料、磁気ビーズ、またはビオチン)によって標識され得る。
【0052】
腎尿細管細胞障害(例えば虚血性および腎毒性の腎障害)で最も初期の発症に付随し、かつ標識する潜在的な遺伝子と該遺伝子のタンパク質を同定するために、cDNAマイクロアレイ・アッセイを、多数の潜在的な遺伝子標的のうちどれが著しく上方制御されるかを検出するために使用し得る。このスクリーニング技術を利用して、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)を、マウス・モデルで虚血性腎障害の後最初の数時間のうちに10倍より多く発現が上方制御される遺伝子として同定した。
【0053】
NGALは、β−樽型(barreled)腎杯の中の種々のリガンドを輸送すると考えられている20を上回る構造的に関連した分泌タンパク質のリポカリン・スーパーファミリーに属する。ヒトNGALは、ヒト好中球からゲラチナーゼと共有結合する、25kDaのタンパク質としてもともとは同定され、好中球二次顆粒タンパク質のうちの1つを表す。分子クローニング研究は、増殖するように誘導されたマウス腎臓の初代培養で最初に同定されたマウス24p3遺伝子と類似しているヒトNGALを明らかにした。NGALは、腎臓、気管、肺、胃、および大腸などの他のヒト組織では、非常に低いレベルの発現がなされる。NGAL発現は、刺激された上皮で顕著に誘発される。例えば、それは炎症または新形成の領域で、結腸上皮細胞で上方制御されるが、介入に関与していない領域あるいは転移病巣内には存在しない。NGAL濃度は、急性細菌性感染を有する患者の血清中、喘息または慢性閉塞性肺疾患を有する被験体の痰、ならびに気腫性の肺からの気管支の体液の中で、上昇する。全てのこれらのケースにおいて、NGAL誘導は、好中球と上皮との両方で明らかであるNGAL発現の上方制御を有する、炎症細胞と上皮ライニングの間の相互作用の結果であると仮定される。
【0054】
検出されたNGAL誘導が、虚血および腎毒性障害の両方を含む腎尿細管細胞障害に対する腎臓近位尿細管細胞の新規固有の反応を表し、単に活性化好中球だけに由来しないと考えられている。第1に、腎動脈閉塞の後にまさしく最初の尿排出による上記障害の2時間以内に尿に出現するNGALによって上記反応が迅速に起こり、その一方で虚血ARFのこのモデルにおける腎臓好中球の蓄積が通常、障害後4時間で最初に気づかれる。第2に、NGAL誘導と好中球蓄積との一時的なパターンは多岐にわたる。NGAL mRNAとタンパク質発現とが還流12時間で最大限に気がつかれたのに対して、好中球蓄積は、時間NGAL発現が著しく減少する24時間でピークに達する。第3に、NGAL発現好中球が存在しないことは、試験した腎臓試料での免疫蛍光検査法によって、検出可能であった(図3)。第4に、好中球が完全に欠乏している系で、ATP欠乏の1時間以内に培地に分泌されたNGALによって、インビトロでの虚血後にNGAL mRNAおよびタンパク質誘導が培養ヒト近位尿細管細胞で生ずることが実証された。それにもかかわらず、観察されたNGAL上方制御に対する浸透好中球からの何らかの貢献が起きているかもしれない。腎尿細管細胞でのNGALの上方制御が、虚血障害後、すぐに微小循環にトラップされた好中球からのサイトカインの局所的放出によって誘導可能である。
【0055】
刺激された上皮によるNGALの誘導についての十分な説明が不足しており、そしてNGALが障害に対して保護的もしくは近位であるか、または無害なバイスタンダー(innocent bystander)であるかどうかが不明のままである。最近の証拠は、少なくとも細胞型のサブセットにおいて、NGALがプロ・アポトーシスの分子を表すことができることを示唆する。マウスの前Bリンパ球細胞株では、サイトカイン退薬によって、アポトーシスの開始と同様に、NGALの顕著な導入が生じた。精製されたNGALが、Baxの活性化を含むサイトカイン欠乏と同様のプロアポトーシス反応を生じ、NGALがプログラム細胞死と直近であることが示唆される。NGALは、生殖組織でのアポトーシスにも関係がある。退縮している乳腺および子宮の上皮細胞は、高レベルのNGALを発現し、アポトーシスが最大となる時期と一時的に一致する。NGALがアポトーシスを誘発することによって細胞集団の一部が調節される可能性がある。刺激された上皮は、好中球を浸透させるアポトーシスを誘発するために、NGALを上方制御することが可能であり、それによって常在の細胞が炎症反応による破壊を逃れることができる。あるいは、上皮細胞は自分自身の終焉を調整するために、この機構を利用することができる。しかし、腎虚血−再潅流傷害後のNGAL誘導が近位尿細管細胞に主に起こる点に言及することは興味深く、同じ状況下のアポトーシスは主に遠位尿細管細胞現象である。
【0056】
他の最近の研究では、NGALが上皮表現型を増すことが明らかになった。NGALは穿通性のラット尿管芽によって発現され、腎臓上皮への間葉細胞の転換を刺激することによって、腎発生を誘発する。別のリポカリンであるグリコデリンは、ヒト乳癌細胞で発現したとき、上皮表現型を誘導することが示された。これらの発見はとりわけ成熟した腎臓に関係し、虚血障害に対する十分に実証された応答の1つが、近位尿細管の内側を覆う脱分化上皮細胞の顕著な出現である。虚血障害の後の腎臓再生と修復の重要な局面は、上皮表現型の再獲得(正常な発現のいくつかの局面を反復するプロセス)を含む。このことは、NGALが再上皮形成を誘導するために、損傷した尿細管によって発現され得ることを示唆している。このような見解は、腎発生の過程でトランスフェリンと相補的である鉄輸送タンパク質として、最近、NGALが同定されたことによって、支持されている。細胞への鉄の送達は、細胞の成長および増殖に取ってきわめて重大であり、このことは、まさに個体発生の過程であることから、虚血後の腎臓再生におそらく重要と思われる。NGALが鉄と結合して輸送するように思われることから、NGALが損傷を受けた近位尿細管上皮細胞から流れ落ちる鉄のシンクとして用いられる場合もある。NGALがエンドサイトーシスによって近位尿細管に取り込まれることが観察されているので、上記タンパク質によって、潜在的に生細胞が鉄を再利用する可能性がある。このことは、増殖および成長を刺激すると共に、鉄(反応性分子)が組織損傷部位から取り除かれ得、それにより鉄媒介細胞毒性が制限される。
【0057】
NGALは、前述したバイオマーカーよりも感度が高い、シスプラチン誘導腎毒性腎障害に対する新規の尿バイオマーカーである。その一例が、腎臓再生に関係している推定上の接着分子である腎臓障害分子−1(すなわちKIM−1)である。シスプラチン腎毒性のラット・モデルにおいて、KIM−1は最初の傷害の24〜48時間後に定性的に検出可能であったことから、それは尿細管細胞障害の幾分後期マーカーと解釈される。対照的に、NGALは、腎不全を生ずることが知られている用量でシスプラチンを投与後3時間以内に、容易にかつ定量的に検出される。加えて、尿NGAL検出は、NAG等、尿中の他のマーカーの出現に先行する。尿中のNGALの出現はまた、腎毒性腎不全を診断するために広く使われている血清クレアチニンの増加に先行する。
【0058】
血清クレアチニン・レベルが正常であるにもかかわらず、尿NGALは、穏やかな「臨床用量より少ない(sub−clinical)」用量のシスプラチン投与後であっても、顕著である。したがって、本発明は、シスプラチン治療を受けている患者の臨床管理にとって重要な意味を持っている。シスプラチンの有効性は用量依存的であるが、腎毒性が発生することが、しばしばその抗新生物能を最大にする高用量の使用を妨げる。シスプラチン処置後の腎毒性は一般的であり、急性腎不全を伴い単回投与後に現れる場合がある。動物でのシスプラチン誘導腎毒性に対する処置で、いくつかの治療的な手技が有効であると判明したにもかかわらず、成功したヒトでの経験は、ほとんど逸話的なままである。この理由の1つは、腎毒性急性腎不全のための初期のマーカーが欠如していること、したがって治療開始が遅れてしまうことであり得る。現在の臨床現場において、急性腎障害は一般的に血清クレアチニンの測定により診断される。しかし、クレアチニンが、腎機能の急激な変化の過程で信頼性のない遅延性の指標であることは、有名である。第1に、約50%の腎機能がすでに失われるまで、血清クレアチニン濃度が変化し得ない。第2に、定常状態に達するまで、血清クレアチニンは腎機能を正確に反映せず、それは数日を必要とし得る。したがって、血清クレアチン測定を用いることは、腎障害の初期相の間の腎臓の障害の検出および定量化の両方の能力を損なう。しかし、動物試験によれば、腎毒性急性腎不全が予防および/または処置され得るが、このことを達成する狭い「好機の窓(window of opportunity)」が存在し、そして傷害を受け始めてからかなり早い段階で処置が開始されなければならない。腎障害に対する早期バイオマーカーの欠如は、タイムリーな方法で潜在的に有効な治療を開始するための臨床医の能力を損なう。アッセイ系でのNGALの使用は、既存または出現してくる治療上または予防上の介入を試験するための、および他の医薬品の腎毒性の可能性を早期評価するための価値も有する。NGAL検出は、シスプラチン誘導腎臓障害に対する新規かつ非侵襲的な早期尿バイオマーカーである。早期検出は、臨床医がタイムリーに治療介入を施して、明白な腎毒性腎不全の進行を予防する手技を設けることを可能にする。
【0059】
マウスおよびラットの両方で腎虚血後の最初に排出される未処理の尿のわずか1μlでのウエスタン・ブロットで、比較的きれいな免疫応答性のペプチドとして、NGALが容易かつ迅速に検出されたことがわかった。さらに、かなり軽度の「無症状性(subclinical)」腎虚血後であっても、血清クレアチン・レベルが正常であるにもかかわらず、尿NGALが顕著であった。尿NGAL検出も、β2−ミクログロブリンおよびNAGを含む従来からのマーカーが尿中で出現するよりもかなり先行した。
【0060】
NGALの上方制御および尿中排泄は、種々の傷害に対する腎臓尿細管細胞の迅速な反応を象徴することができ、尿中のNGALの検出は尿細管細胞障害の早期診断のための広く適用できる非侵襲的診断ツールであることを意味し得る。
【0061】
NGALは、腎虚血と腎毒症とを含む腎尿細管細胞障害にとって感度が高く非侵襲性の尿バイオマーカーである。本発明の迅速かつ単純な検出方法およびキットを用いて、腎尿細管細胞障害の急性、軽度、かつ早期の形態を有する患者の尿のNGAL発現を検査することは、臨床医に対して注意を喚起し、急性腎不全を患っている患者でのタイムリーな介入性の効果を起こすことを可能にし、かつ、僅かで無症状性腎尿細管細胞障害(例えば、腎毒素、腎臓移植、血管手術、および心血管事象)を有する患者での明白なARFへの進行を防ぐことを目的とした手技を設けるように注意を喚起できる。
【0062】
米国単独では、約16,000件の腎臓移植が毎年おこなわれている。この数は、毎年、着実に増加している。これらのうち、約10,000件が死体腎臓移植であり、ARFの危険がある。これらの患者の各々は、ルーチン・ケアを表し得る連続的なNGAL測定から途方もなく利益を得る。
【0063】
虚血性腎障害は、開心術(この方法に固有の血流の短時間の中断のため)とも関連している。毎年実行される開心術の数を推定することができる。適度に忙しいいずれの成人病院でも、そのような手術が約500件、毎年行われている。そのような適度に忙しい病院が米国のみで少なくとも400あると考えると、控えめに推定したとしても毎年、200,000件の開心術が実施されている。また、連続NGAL測定はこれらの患者で大変貴重であり、治療基準に相当するだろう。
【0064】
実験手順
1.腎虚血再灌流障害のマウス・モデル
我々は、十分に確立されている腎虚血再灌流障害のマウス・モデルを利用した。腎虚血の短期間に及ぶ構造的および機能的な結果については既に報告されている(3〜7)。手短に言うと、体重25〜35gの雄スイス・ウェブスター・マウス(Taconic Farms、Germantown、NY)を12:12時間の光:暗周期で飼育し、飲食が自由におこなえるようにした。該動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg腹腔内)で麻酔し、加温テーブル上に置いて直腸温度を37℃に保った。3通りの異なるプロトコルを用いた。すなわち、(a)片側虚血、(b)ARFを伴う両側虚血、および(c)両側軽度無症状虚血である。実験の第1セット(片側虚血)のために、左腎茎を45分間にわたって非外傷性血管鉗子で閉塞し、その間に腎臓を暖かく、湿潤に保った。次いで、鉗子を取り外し、腎臓を血流の復帰について観察し、切開部を縫合した。暖められたケージでマウスを回復させた。再灌流の0、3、12、または24時間後、動物を再び麻酔して腹腔を開き、定量的比色アッセイ・キット(Sigma、St. Louis、MO)による血清クレアチニンの測定のために下大静脈の穿刺を介して血液を採取した。マウスを腹腔内ペントバルビタール投与で殺した。次いで、左心室を10mlの1xPBSで灌流し、次いで10mlのPBS中4%パラホルムアルデヒドで灌流することで、腎臓のインサイチュでの固定をおこなった。両方の腎臓を収集した(各動物で、右側の腎臓を対照として用いた)。少なくとも3匹の異なる動物で、各灌流期間で検討した。各々の腎臓の2分の1を液体窒素で急速凍結し、さらに処理するまで−70℃に保存した。すなわち、試料をホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切断した(4μm)。パラフィン切片をヘマトキシリン・エオシンで染色し、組織学的に調べた。クランプで止めた腎臓は、他者(3〜6)および我々(2)によって既に公表されたように、虚血再灌流障害から生ずる特徴的な形態学的変化を示した。各腎臓の残りの半分をOCT化合物(Tissue−Tek)に包埋し、免疫組織化学用に得た切片(4μm)を凍結した。
【0065】
実験の第2のセット(両側虚血)のために、両方の腎臓を30分間にわたって締め付け、上で詳述したのと同様に種々の還流期間で検討した。8匹の動物からなるこのグループをARFを表すように設計し、上記障害後24時間で血清クレアチニンの著しい上昇が見られた。
【0066】
実験の第3のセット(両側軽度無症状虚血)のために、異なる動物の両方の腎臓を5、10、または20分間だけクランプで止め、上記のように種々の再灌流期間で検討した。この非常に軽度の障害は、無症状腎虚血をシミュレーションするように設計され、このグループのマウスは上記障害後24時間で測定した血清クレアチニンに上昇がいっさい見られなかった。
【0067】
2.腎虚血再灌流障害のラット・モデル
我々は、腎虚血再潅流障害(2)の十分確立された齧歯目モデルを利用した。手短に言うと、マウス・プロトコルで詳述されるように、体重200〜250gの雄スプラーグ・ドーリー・ラット(Taconic Farms、Germantown、NY)をケタミン(150μg/g)とキシラジン(3μg/g)とによって麻酔し、微小血管用鉗子を用いて両側心動脈閉塞を、30分間にわたって行った。3、6、9、12、および24時間の再灌流時に一定時間の尿を得、血液を殺害時(24時間)に、クレアチニン測定用に採血した。
【0068】
3.RNA単離
マウス全腎臓組織(または、培養されたヒト近位尿細管細胞、下記参照)を、Tissue Tearor(Biospec Products、Racine、WI)で粉砕した。対照および虚血腎臓の全RNAを、RNeasy Mini Kit (Qiagen、Valencia、CA)を用いて単離し、分光測光法で定量した。
【0069】
4.マイクロアレイ手順
マイクロアレイ・ハードウエアおよび手順についての詳細な説明は、既に公表されている(3)。手短に言うと、各々の実験のために、精製された100μgの完全マウス腎臓RNAに対して、対照の場合はCy3−dUTP (Amersham、Piscataway、NJ)存在下で、虚血試料の場合はCy5−dUTP存在下で、Superscript II 逆転写酵素(Life Technologies、Rockville、MD)による逆転写をおこなった。cDNA試料をMicrocon YM−50フィルタ(Millipore、Madison、WI)を用いて精製し、8,979ユニーク配列確認マウス・プローブ(3)を含むマイクロアレイ・スライドにハイブリダイズさせた。還流期間の各々について、3匹の異なる動物を試験し、またそれらの動物の各々に対して単独のマイクロアレイ実験を少なくとも2回おこなった。マイクロアレイ・スキャナ(GenePix 4000B、Axon Instruments、Foster City、CA)を用いて、上記アレイ・スライドを走査し、Cy3およびCy5蛍光について別々のTIFF画像を得た。Cy3およびCy5の信号の強さは、GenePix Pro 3.0データ抽出ソフトウエア(Axon Instruments)を用いて、個々の遺伝子について測定した。品質管理およびデータ分析は、既に記述(3)されたようにして完了した。
【0070】
5.半定量的逆転写ポリメラーゼ鎖反応(RT−PCR)
対照および実験マウス腎臓から得た全RNAの等量(1μg)を、製造元の指示に従ってランダム・ヘキサマーの存在下、Superscript II 逆転写酵素(Life Technologies)による逆転写をおこなった。PCRは、キット(Roche、Indianapolis、IN)および以下のプライマーを用いておこなった。すなわち、
マウスNGALセンス5’−CACCACGGACTACAACCAGTTCGC−3’;
マウスNGALアンチセンス5’−TCAGTTGTCAATGCATTGGTCGGTG−3’;
ヒトNGALセンス5’−TCAGCCGTCGATACACTGGTC−3’;および
ヒトNGALアンチセンス5’−CCTCGTCCGAGTGGTGAGCAC−3’である。
【0071】
マウスおよびヒトβ−アクチンと、グリセルアルデヒド−3−リン酸塩デヒドロゲナーゼ(GAPDH)とのプライマー対をClontech(La Jolla、CA)から得た。cDNAを欠いた擬反応を、負の対照として用いた。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した後、エチジウム・ブロマイドで染色し、さらにデンシトメトリーによって定量化した。対照対虚血腎臓でNGAL mRNA発現の変化の倍率を、β−アクチンまたはGAPDH増幅について正規化した後に表した。
【0072】
6.免疫組織化学
凍結切片を、PBS中0.2%トリトンX−100で10分間の透過化処理をおこない、ヤギ血清で1時間ブロックし、NGALに対する一次抗体(1:500希釈)で1時間インキュベートした。次に、スライドを暗所で30分間、Cy5(Amersham、Arlington Heights、IL)とコンジュゲートした二次抗体にさらし、ローダミン・フイルターを備えた蛍光顕微鏡(Zeiss Axiophot)で視覚化した。
【0073】
NGALをRab11と共局在化させるために、連続切片を最初にNGAL抗体またはRab11に対するモノクローナル抗体(1:500希釈、Transduction Laboratories)とインキュベートし、続いてCy5(NGAL用)またはCy3(Rab11用)のいずれかとコンジュゲートした二次抗体とインキュベートし、さらにローダミンまたはフルオレセイン・フィルターでそれぞれ視覚化した。NGALを増幅細胞核抗原(PCNA)と共局在化させるために、切片をNGAL抗体およびPCNAに対するモノクローナル抗体(1:500希釈、上述)と共にインキュベートし、免疫ペルオキシダーゼ染色(ImmunoCruz Staining System、Santa Cruz Biotechnology)によって検出をおこなった。TUNELアッセイのために、ApoAlert DNAフラグメンテーション/アッセイキット(Clontech)を用いた。パラフィン切片をキシレンおよび濃度が順々に下がる一連のエタノールに通して脱パラフィン化し、4%ホルムアルデヒド/PBSで4℃、30分間固定し、プロテアーゼKで室温、15分間および0.2%トリトンX−100/PBSで4℃、15分間透過処理をおこない、ヌクレオチドとTdT酵素との混合物と37℃、60分間インキュベートした。反応を2xSSCで停止させ、切片をPBSで洗浄し、クリスタル/マウント(Biomeda、Foster City、CA)でマウントした。TUNEL陽性のアポトーシス核を、蛍光顕微鏡で視覚化することによって検出した。
【0074】
7.尿採取
マウスおよびラットを代謝ケージ(Nalgene、Rochester、NY)に入れて、両側腎動脈閉鎖前および該両側腎動脈閉鎖後の時間毎に尿を採取した。尿試料を5,000xgで遠心して破片を除去し、上清をウエスタン・ブロットで分析した。尿クレアチニンを、定量的比色アッセイ・キット(Sigma)を用い、尿NGAL測定用に試料を正規化して測定した。尿中のN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)を測定するための比色アッセイ・キットは、ロッシュ(Roche)から入手した。
【0075】
8.細胞培養
ヒト腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)をクロネティックス(Clonetics)(San Diego、CA)から入手した。製造元が推奨するように、細胞を、REGM複合体(0.5μl/mlのヒドロコルチゾン、10pg/mlのhEGF、0.5μg/mlのエピネフリン、6.5pg/mlのトリヨードチロニン、10μg/mlのトランスフェリン、5μg/mlのインシュリン、1μg/mlの硫酸ゲンタマイシン、および2%のFBS)が添加された腎上皮細胞基本培地で増殖させた。
【0076】
9.培養細胞の軽度のATP欠乏
我々は、既に記載したインビトロの虚血のプロトコルを、酸化的リン酸化反応の阻害剤(8、9)によるATP欠乏によって改変した。コンフルエンスに達してから2日目に、RPTEC細胞を1μmのアンチマイシンA(Sigma)で、最大6時間まで時間を変えてインキュベートした。我々は、このことが軽度の部分的可逆的ATP欠乏をもたらすこと、そして細胞の生存度に損失が生じないことを、培養腎上皮細胞の他の種類、例えばMDCK細胞(8)および786−O細胞(9)で、既に示した。ATPレベルは、ルシフェラーゼをベースとしたアッセイ・キット(Sigma)を使用して観察し、対照値の割合として表した。細胞をATP欠乏の種々の時点で収集し、RT−PCRによってNGAL mRNA発現およびウエスタン分析によってNGALタンパク質発現について分析した。培地へのNGALの分泌をまた、観察した。
【0077】
10.シスプラチン腎臓毒性のマウス・モデル
我々は、シスプラチンによって誘導された腎臓毒性の構造的かつ機能的な帰結が既に報告された(12〜14、18)、十分確立されたマウスのモデルを利用した。手短に言うと、体重25〜30gの雄スイス・ウェブスター・マウス(Taconic Farms、Germantown、NY)を12:12時間の光:暗周期で飼育し、飲食が自由におこなえるようにした。マウスに、5μg/kgまたは20μg/kg体重の用量で、シスプラチンの単回腹腔内注射を与えた。高用量では、尿細管細胞壊死およびアポトーシスが生じ、シスプラスチン注射後、3〜4日以内に腎機能が損なわれた(12〜14、18)。動物を代謝ケージ(Nalgene、Rochester、NY)に入れ、シスプラチン前および後の種々の時点(3、12、24、48、72、および96時間)で、尿を採取した。同様の時点で、動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg腹腔内)で麻酔し、腹腔を開き、定量的比色アッセイ・キット(Sigma,St. Louis、MO)による血清クレアチニンの測定のために、下大静脈の穿刺を介して血液を採取した。マウスを殺し、PBS中4%パラホルムアルデヒドで腎臓をインサイチュで灌流固定し、両方の腎臓を取得した。各々の腎臓の2分の1を液体窒素で急速凍結し、さらに処理するまで−70℃に保存した。すなわち、試料をホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切断した(4mm)。パラフィン切片をヘマトキシリン−エオシンによって染色し、TUNELアッセイにかけた。残りはウエスタン・ブロットのために処理した。全腎臓を氷冷溶解緩衝液(20mM トリス、pH7.4、250mM スクロース、150mM NaCl、1% NP−40、および1xコンプリート(Complete)(登録商標)プロテアーゼ阻害剤)中で、ポリトロン(Polytron)ホモジナイザーを使用して、ホモゲナイズした。ホモジネートを氷上で30分間インキュベートし、1,000xgで4℃、5分間遠心分離して核および細胞片を取り除き、タンパク質含有量についてブラッドフォード・アッセイ(Bio−Rad、Hercules、CA)で分析した。各腎臓の残りの半分をOCT化合物(Tissue−Tek)に包埋し、免疫組織化学用に得た切片(4μm)を凍結した。
【0078】
11.組み換え型マウスNGALの発現、精製、およびウエスタン・ブロット
完全長マウスNGAL cDNAをpGEX発現ベクター(Pharmacia、Nutley、NJ)にクローニングし、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として細菌で発現させ、グルタチオン−セファロース・カラム(Amersham)で精製後、既に記載したようにトロンビン切断をおこなった(16、19、20)。タンパク質をSDS−PAGE、その後クーマシー・ブルー染色、またはNGALタンパク質に対するポリクローナル抗体によるウエスタン・ブロットにより、分析した。タンパク質濃度を、ブラッドフォード・アッセイ(Bio−Rad、Hercules、CA)を用いて測定した。
【0079】
12.ウエスタン・ブロットによる尿NGALの定量
尿中のNGAL量を、組換え型精製NGALの所定の標準と比較することによって測定した。既知濃度の組換え体NGALおよび既知量の尿を用いてウエスタン・ブロットによる濃度測定分析を、同一の移動および露出条件下で、実行した。
【0080】
全ての化学製品を、特に明記しない限りシグマ(Sigma)から購入した。ウエスタン・ブロットのために、タンパク質濃度をブラッドフォード・アッセイ(Bio−Rad、Hercules、CA)で測定し、等量の総タンパク質を各々のレーンにロードする。等量のタンパク質ローディングを確認するために、特に明記しない限り、αーチューブリン(Sigma)に対するモノクローナル抗体を1:10,000希釈で用い、NGALに対するポリクローナル抗体を1:500(15)で用いた。移されたタンパク質の免疫検出を、特に明記しない限り、強化された化学ルミネセンス(Amersham)を使用して達成した。
【実施例】
【0081】
実施例1
NGALは、尿中で検出可能である小さなプロテアーゼ耐性の分泌ポリペプチドである。NGAL mRNAおよびタンパク質レベルの顕著な上方制御が、早期虚血後マウス腎臓で示された。分泌タンパク質を暗示する点状細胞質分布状態で、NGALタンパク質発現が近位尿細管細胞で主に検出された。実際、ARFのマウスおよびラットの両モデルでの虚血障害後に、NGALが尿中に(まさしく最初の尿排出物で)容易かつ迅速に検出され、この際、腎臓の白血球浸潤は観察されなかった。尿細管細胞からのNGALの起源はインビトロで虚血障害にさらされた培養ヒト近位尿細管細胞で、さらに確認され、ここではNGAL mRNAは細胞で顕著に、かつ即座に誘導され、NGALタンパク質が軽度のATP欠乏の1時間以内に、培地で容易に検出可能であった。我々の結果は、NGALが虚血性腎障害のために新規の早期尿バイオマーカーを示し得ることを示す。
【0082】
腎虚血−再灌流障害後、早期に上方制御された新規遺伝子の同定:
マウス・モデルでの腎虚血−再灌流障害の後すぐに誘導された転写産物に対するゲノム・ワイドな検索によって、7つの早期バイオマーカーが同定された。3匹の異なるマウスを、再灌流期間(3、12、および24時間)の各々で検討し、少なくとも2つの別々のマイクロアレイ実験を各検討した動物について実施した。対照および虚血腎臓のトランスクリプトーム・プロフィールの比較は、一貫して10倍より多く誘導された7つの遺伝子の小さなサブセットを生じた。これらの転写産物のうちの1つ(システイン・リッチ・タンパク質61(Cyr61))は、腎虚血(1)によって誘導されることがごく最近になって確認された。驚くべきことに、その他の6つの異なって発現された遺伝子の挙動は、ARF文献に対して新規である。我々は、以前には認識されなかった遺伝子の1つ、すなわち、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)を、さらに特徴づけるために、選択した。
【0083】
早期腎不全の動物モデルの特徴付け:
短時間の腎虚血の構造および機能的帰結が報告されている(3〜7)虚血−再灌流障害マウス・モデルを用いた。虚血障害の固有の組織病理学的な特徴は、片側(45分)および両側(30分)の両方の虚血の後に、24時間再灌流試料で容易に明らかであった。これらは、刷子縁膜、尿細管拡張、平坦化尿細管上皮、管腔破片、および間質性の浸透物(図1)の損失を含んだ。アポトーシスの細胞の存在は、TUNELアッセイを使用して報告されている。アポトーシスは、付着細胞と同様に管腔内の脱離細胞にある遠位尿細管細胞とヘンレ係蹄上行脚とに主に局所化した。偶発的な近位尿細管細胞もアポトーシスであったが、糸球体はアポトーシスが基本的に欠けていた。TUNEL陽性細胞は、対照腎臓、または虚血性試料ではTdTが除去されたとき虚血性試料で検出された(図示せず)。上記の組織学的およびアポトーシス変化は、より軽度の虚血にさらされた腎臓には無かった(両側虚血の5、10、または20分、図示せず)。血清クレアチニン・レベルは、観察される組織病理学的な変化を反映した。このように、「片側腎虚血または軽度の無症状性両側虚血を有するマウスは、対照動物と区別のつかない血清クレアチニン・レベルを示した。その一方で、30分間にわたる両側虚血を有するマウスは血清クレアチニンの著しい増加を示した(図1)。
【0084】
NGAL mRNAは、早期の虚血後腎臓で著しく誘導された:
マイクロアレイ分析によって、NGALは、同じ動物から得た対照腎臓と比較したとき(各々の時点で3匹の動物で得た平均値±SD)、虚血性マウス腎臓での3、12、および24時間の再灌流で、一貫して3.2±0.5倍、11.1±1.2倍、および4.3±0.6倍誘導されることがわかった。この発見は、β−アクチンおよびGAPDHの両方で正規化プロトコルを使用することで、半定量的なRT−PCRによって確認された。既に報告されているように(3)、試験したいずれの再灌流期間であっても、βーアクチンまたはGAPDHのいずれかのmRNA発現において顕著な変化がないことが示された。しかし、マウス特異的プライマーを用いることで、我々はNGAL mRNA発現の著しい上方制御を検出した(再灌流の3、12、および24時間で、それぞれ4.1±0.5倍、9±0.6倍、および4.2±0.4倍、ここで値は3匹の異なる動物から得た平均値±SDを表す)。これらの結果を図1に示し、トランスクリプトーム分析よって検出された変化に全体にわたって一致している。
【0085】
NGALタンパク質は、初期の虚血性マウス腎臓の近位尿細管で、著しく過剰発現される:
腎臓のNGALタンパク質の虚血後発現は、mRNAのそれに対応する。ウエスタン分析によれば、NGALはまさしく、対照マウス腎臓で25kDaの免疫反応性ペプチドとして検出可能だった。NGALとしてのこの帯域の同一性は、異なる実験セットで確立された。ここで、組み換えマウス・リポカリンによる一次抗体のプレ・インキュベーションがこの免疫応答性を完全にブロックした(図示せず)。片側の虚血性実験では、図2(パネルA)で示すように、NGAL発現は、損傷の3時間以内で3匹の別々の動物に由来する虚血腎で、NGAL発現がデンシトメトリーによって3−4倍に誘導された。この反応は、8匹の異なる動物に由来する両側の虚血で、著しく高められた。これらのマウスのNGALを、再灌流の3時間後に3倍に誘導し、24時間で12倍を上回る大きさでピークに達し、72時間の回復期間で正常のレベルに落ちた(図2、パネルB)。
【0086】
免疫組織化学法を使用して、NGALタンパク質は対照マウス腎臓でかろうじて検出可能であったが、図3で例示されるように、虚血の3時間以内で、近位尿細管内で主に上方制御される。これらの切片での近位尿細管の同定は、刷子縁膜の存在、細胞寸法に対する核の比率、および細胞形態学に基づいた。誘導されたNGALは、近位尿細管細胞内で点状細胞質分布中に現れ、分泌タンパク質であることを暗示した。この発現パターンは、虚血−再灌流障害の片側および両側の両方のモデルで同一であり、研究した全ての動物において、一貫して明らかだった。糸球体はNGAL発現が欠けており、NGALを発現している好中球は、はっきりとは確認されなかった。NGALが培養ウィルムス腫瘍腎臓細胞で、エンドソームと少なくとも部分的に共局在する(11)ことから、NGALおよびRab11(後期再循環エンドソームのマーカー)の分布を、連続腎臓切片で検討した。組み合わせた画像は、Rab11とのNGALの重要な共局在性を表した(図示せず)。虚血の後で強化されたNGAL発現の機能的な有意性を測定するために、連続腎臓切片は、NGAL発現、TUNEL陽性の核またはPCNA陽性の核について調べられた。NGALを過剰発現している尿細管細胞がTUNEL陽性ではなかった(図示せず)のに対して、NGALとPCNAの顕著な共局在性は、48時間の還流期間で増殖および再生する細胞で明らかだった(図示せず)。
【0087】
NGALタンパク質は、マウスでARFの誘導直後に尿に容易に検出される:
この実験は、虚血性腎障害の早期非侵襲性バイオマーカーとして尿NGALを検出することの有用性を示す。試料のローディングを等しくするために尿クレアチニン濃度を用いることで、NGALは、虚血前の尿には存在しなかった。著しい対照をなすものとして、NGALは、図4Aおよび図4Bに示すように、試験した全ての動物で上記障害(虚血後のまさしく最初の尿排出物で)の2時間以内に25kDa帯域として顕在化した。NGALとしてのこの帯域の同一性は、実験の別々のセットで確立され、組み換えマウス・リポカリンによる一次抗体のプレ・インキュベーションがこの免疫応答性を完全にブロックした(図示せず)。NGALは、ウエスタン分析によって、未処理の尿のわずか1μlほどで、容易に検出され、検討される全ての期間(24時間の再灌流)の間持続した。次に、我々は尿NGAL排出を、既に確立された障害マーカー(例えば、β2−ミクログロブリンおよびNAG)のものと比較した。尿NGALが虚血の2時間以内に明白であったにもかかわらず、β2−ミクログロブリンは、12時間の片側虚血(図4、パネルA)および8時間の両側虚血(図4、パネルB)の後のみに、同一尿試料で検出可能であった。同様に、尿NAG排出は、非虚血性対照動物と比較して、片側虚血(図4の下段、パネルA)の12時間後および両側虚血(図4の下段、パネルB)の8時間後に著しく増加した。
【0088】
NGALタンパク質は、マウスでの軽度の腎虚血後でさえ、尿中で容易に検出される:
明白なARFが存在しない場合、尿NGAL検出の感度を決定するために、我々は、マウスの異なるセットが5、10、または20分間の両側腎動脈閉塞のみにさらされるプロトコルを用いた。これらの研究を、軽度の無症状腎虚血後に尿NGAL排出を評価するように設計した。24時間還流後に測定した血清クレアチニンは、全てのこれらのマウスで正常範囲内であった。目立つことには、NGALはこれらの動物で未処理の尿のわずか1μlほどで、容易に検出され(図5)、その出現はARFを有する動物と比較して、いくらか遅れていた。したがって、このように、30分の両側虚血が2時間以内で尿NGAL排出に帰着する(図4)一方で、20または10分の両側虚血を有するマウスは4時間後に尿NGALを示し、そして5分の虚血を有するものは6時間後のみにNGALを排出した(図5)。このように、尿のNGAL出現は、腎虚血のドーズおよび持続時間に関連があるように見える。
【0089】
実施例2
NGALタンパク質は、ラットでのARF誘導直後に、尿で容易に検出される:
腎動脈閉鎖に対する反応に種差があることについての議論(10)が存在することから、我々は次に、異なる動物モデル(すなわち、腎虚血−再潅流障害の十分確立されたラット・モデル)でのNGALの挙動を調べた。試料のローディングを等しくするために尿クレアチニン濃度を用いることで、NGALは、虚血前の尿には存在しなかった。著しい対比において、図6に示すように、NGALは上記障害の3時間以内(虚血後のまさしく最初の尿排出物で)に、25kDaの免疫応答性ペプチドとして明らかであった。比較として、虚血障害のこのモデルでの血清クレアチニンが、24時間の再灌流のみで上昇した(図示せず)。再び、NGALを1μlの未処理尿で検出可能であり、試験した継続期間全体(24時間の再灌流)で持続した。
【0090】
実施例3
NGAL mRNAは、早期の軽度の虚血後の培養ヒト近位尿細管細胞で誘導される:
虚血性近位尿細管細胞からNGALの起源を確認するために、我々は、既に記載したインビトロでの虚血のプロトコルを、培養ヒト近位尿細管細胞(RPTEC)でのATP欠乏によって改変した。1μmアンチマイシンでのインキュベーションは、1時間以内の対照の約83±3%への軽度の部分的ATP欠乏をもたらし、より漸進的なな減少が6時間で対照の約75±3%であった(4回の実験の平均値±SD)。この軽度のATP欠乏がもたらす形態学的な帰結は、識別可能でなかった。NGAL mRNAは、休止細胞で検出可能であっただけである。しかし、部分的なATP欠乏の後に、図7に示すように、急激かつ期間依存型のNGAL mRNAの誘導が、RT−PCRによって明らかになった。
【0091】
NGALタンパク質は、インビトロで早期虚血後の培地中で容易に検出される:
我々は、軽度のATP欠乏後に、RPTEC細胞およびその培地中でのNGALタンパク質発現を検討した。NGALタンパク質は、対照RPTEC細胞では検出可能であり、図7で示すように、その発現は期間依存型のかたちで、ATP欠乏後に増加した。対照細胞からのNGAL免疫応答性タンパク質は培地中で見つからなかったが、NGALは軽度のATP欠乏の1時間以内に容易に検出可能であった。さらに、NGALタンパク質存在量のさらなる増加が、ATP欠乏期間に関係していることに注目した。これらの結果は、誘導されたNGALタンパク質が培地中に急速に分泌され、インビボでの腎虚血後の尿中でのNGALの敏速な出現に類似していることを、示唆する。
【0092】
実施例4
NGALタンパク質は、マウスでの軽度の腎臓腎毒症の後の早期に尿中で容易に検出される:
腎毒症が尿中でのNGALタンパク質の発現をもたらすかどうかを決定し、それによって腎毒性腎障害の早期非侵襲性バイオマーカーとしての有用性が示唆され、シスプラチンによって誘発された腎毒症がマウスで誘導された。シスプラスチン腎毒性の確立されたマウス・モデルでは、NGALはシスプラスチン投与の1日以内に尿中に容易に検出された(図8A、最下部トラック)。それとは対照的に、尿β2−ミクログロブリンは、2日後にかろうじて検出可能であり、シスプラスチン後4ないし5日目まで容易に検出ことはできなかった(図8、パネルA、最上部トラック)。同様に、増加した尿NAG排出は、シスプラスチン投与後4および5日目まで、明らかにならなかった(図8、パネルB)。
【0093】
シスプラチン腎毒性は、腎尿細管細胞でのアポトーシスと壊死とによって特徴づけられる:
マウスに対して、シスプラチンを5mg/kgまたは20mg/kg体重のいずれかの用量で、単回腹腔内注射をおこなった。対照マウスでの結果と、より高用量のシスプラチンを与えられたものでの結果とを図9に示す。より高用量のものは、尿細管細胞壊死をもたらし、このことはヘマトキシリン−エオシンにより染色した切片で、尿細管拡張、管腔破片、および平坦化上皮が存在することで明らかである(上側中央パネル)。同様に証明されたことは、尿細管細胞がプログラム化された細胞死を遂行したことであり、濃く強く染色された核によって示した(上側右パネル)。このことは、アポトーシスの特徴である濃縮化およびフラグメント化した核を示すTUNELアッセイによって確認された(下側中央および右パネル)。対照腎臓では壊死またはアポトーシスは検出されなかった(上側および下側左パネル)。より少ない用量のシスプラチンで処置したマウスから得た腎臓はまた、未処理の対照(図示せず)と同様に、正常に見えた。図9は、5つの別々の実験を表す。
【0094】
NGALタンパク質は、シスプラチンによって腎臓尿細管で迅速に誘導される:
腎臓に対する虚血障害の後でNGALが誘導される(17)ので、シスプラチン誘導腎毒性障害に対する反応が決定された。ウエスタン分析によって、図10で例示されるように、NGALは対照マウスから腎臓溶解産物でかろうじて検出可能であったが、3時間のシスプラチン投与(20mg/kg)中に急速に誘導された。期間依存型の増加が腎臓NGAL発現で見られ、48時間でピークがあり、また最大で96時間まで持続的な上方制御を示した。これらの結果は、図11に示すように、免疫蛍光染色によって確認された。シスプラチン注射後、3時間(3h)(最上段右側パネル)および12時間(12h)(下段左側パネル)で収集した腎臓は、NGALタンパク質の誘導を示した。また、図11に示すものは、12時間(HP)で収集した切片の高倍率拡大像である(下段右側パネル)。左下パネルの矢印は、HP画像に示される領域を示す。NGALを、シスプラチン注射の3時間以内に、主に近位尿細管細胞で誘導したが、対照マウス由来の細胞(Con)では存在していなかった(最上段左側パネル)。これらの切片での近位尿細管の同定は、刷子縁膜の存在、細胞寸法に対する核の比率、および細胞形態学に基づいた。誘発されたNGALは、近位尿細管細胞内で点状細胞質分布の状態で現れ、分泌タンパク質であることを暗示した。誘発されたNGALは、近位尿細管細胞内で点状細胞質分布の状態で現れ、分泌タンパク質であることを暗示した。この発現パターンは、虚血−再灌流障害マウス・モデルで観察されたもの(17)と類似していた。糸球体はNGAL発現が欠けており、NGAL発現好中球は明白ではなかった。図11は、核時点での5匹の動物を示す。
【0095】
NGALタンパク質は、高用量シスプラチンの後、尿中で容易に検出される:
NGALタンパク質を、高用量シスプラチン(20mg/kg)の後に、尿中で検出し、それによって腎毒性腎障害の早期非侵襲性バイオマーカーとしてその有用性が示された。試料のローディングを等しくするために尿クレアチニン濃度を用いることで、NGALは、虚血前の尿には基本的には存在しなかった。著しい対比において、尿NGALを、図12(最上段のパネル)に示すように、試験した動物の全てで、シスプラスチン障害(20μg/kg)の3時間以内に容易に検出した。NGALとしてのこの帯域の同一性は、実験の別々のセットで確立され、組み換えマウス・リポカリンによる一次抗体のプレ・インキュベーションがこの免疫応答性を完全にブロックした(図示せず)。NGALは、ウエスタン分析によって、未処理の尿のわずか5μlほどで、容易に検出可能であった。期間依存型の増加が尿NGAL排出で見られ、48時間でピークがあり、また最大で96時間まで持続的な上方制御を示した。次いで、我々は、尿NGAL排出を、既に確立された障害マーカー(例えばNAG)のものと比較した。尿NGALがシスプラチンの3時間以内に顕在化したのに対して、尿NAG排出は障害の96時間後にのみ、著しく増加した(中央パネル)。さらに、血清クレアチニン測定による腎機能の評価は、シスプラチンの96時間後のみに顕著な変化を示した(下段側パネル)。図は、各々の時点での5つの独立した実験を示す。
【0096】
NGALタンパク質は、低用量シスプラチンの後でさえ尿中に検出される:
異なるセットのマウスを、図13で示す無症状腎毒性障害後に、尿NGAL測定の感度を決定するために、5μg/kgのシスプラチン注射のみにさらした。NGALは、これらの動物で、未処理の尿のわずか5μlで検出可能であった(最上段のパネル)が、その出現は20μg/kgシスプラチンによる動物と比較して量的により少ないように思われた(図12、最上段のパネル)。したがって、尿中でのNGALの出現は、腎毒素の用量に相関する。尿NGAL排出がシスプラチン3時間以内で顕在化したのに対して、動物のこのグループにおける尿NAG排出は、障害の96時間後でも著しい増加はなかった(中央パネル)。さらにまた、血清クレアチニン測定による腎機能の評価は、低用量シスプラチンの96時間後であっても著しい変化はないことを示した(下段側パネル)。この例は、NGALが、現在使用しているものよりも感度の高い腎臓腎毒性マーカーであることを示している。
【0097】
シスプラチン後の尿NGAL排出は、用量および期間依存型である:
図14に示すように、シスプラチン投与後の腎障害の重症度の指標としてのその有用性を測定するために、尿NGAL排出を定量化した。このことは、標準として使用する既知量のNGALの発現および精製を必要とした。SDS−PAGEによる組み換えNGALタンパク質の分析とそれに続くクーマシー・ブルー染色は、適当な大きさの単一のタンパク質バンドを示した(最上段左側パネル)。既知濃度のアリコートのウエスタン・ブロットは、3〜100ng/mlの範囲で信号の強さの直線的増加を示した(上端右側パネル)。次に、尿中のNGAL量を、組換え体精製NGALの所定の標準と比較することで、測定した。20μg/kgシスプラチンに続いて、尿NGAL排出に期間依存型の増加が認められた(下段側パネル)。同様の、しかしいくらかは鈍くなった反応が、無症状腎毒性障害をもたらすシスプレチン用量で処置された動物で顕在化した。
【0098】
実施例5
腎移植後2時間の患者から尿試料を得た。これは虚血性腎障害の予測可能なヒト・モデルであり、図15に示す。生体血縁ドナーから腎臓を受け取った患者(n=6)と比較して、移植に先だって一定時間にわたって氷上で保存した死体腎臓を受け取った患者(n=4)は、ウエスタン・ブロットおよびELISAによって容易に定量化される尿NGALの増加を示した(パネルA)。尿NGALと冷却虚血時間との間に有意な相関があり、NGAL排出が腎障害の度合いに比例していることを示した(パネルB)(r=0.98、スピアマン分析)。有意な相関は、尿NGALとピーク血清クレアチニンとの間にもあった(パネルC)(r=0.96、スピアマン分析)。移植後2時間以内に測定された尿NGALが、血清クレアチニン・ピークによって反映されるように、数日後に起こるARFの前兆であることを強調することは重要である。正常ヒト対照または慢性腎不全の患者から得た尿は、ほぼ検出不可能な量のNGALを含むことから、尿NGALの上方制御が急性腎障害に特異的であることが示される(図示せず)。また、尿路感染症および腎移植拒絶(2種類の好中球関連疾患)を有する患者から得た尿は、最小限の量のNGAL(図示せず)を含むのみであるから、死体腎臓移植組織に含まれる著しく多量(>100ng/ml)のものと容易に区別される。これらのデータは、NGALが腎移植後の急性腎障害のための新規な早期尿バイオマーカーであることを示す。
【0099】
実施例6
図16の結果に示すように、開心術の後の15人の患者から予め、一連の尿試料を得た。尿NGALをウエスタン・ブロットおよびELISAによって定量したところ、それら15人の患者のうち5人で上昇することがわかった(パネルA)。各線は、1人の患者を表す。基線からの血清クレアチニンの%変化をパネルAの右側に示す。同じ5人の患者が、血清クレアチニンが基線から50%以上増加したとして定義される術後の急性腎不全を発症したことで、約33%の罹患率を生じた。急性腎不全を発症しなかった10人の患者では、尿NGAL排出について、術後12時間以内にほとんど検出不可能なレベルへと急激に正常化する、わずかな早期増加(6.0±2.0ng/mgクレアチニンの2時間値)が認められた(パネルA)。顕著な対比では、急性腎不全をその後発症した患者は、尿NGALの2時間値が10倍を上回る増加(75±10ng/mgクレアチニン)と尿NGALの4時間値が20倍を上回る増加(120±12ng/mgクレアチニン)を示した。尿NGALの量と心肺バイパス時間との間の相関が存在することから、NGAL排出が腎障害の度合いに比例することが示される(パネルB)(r=0.76、スピアマン分析)。また、尿NGALとピーク血清クレアチニンとの間に有意な相関が認められた(パネルC)(r=0.66、スピアマン分析)。心臓手術の2時間以内に測定された尿NGALが血清クレアチニン・ピークによって反映されるような、数時間または数日後でさえ生じるARFの予兆であったことを、もう一度強調することは重要である。これらのデータは、NGALが開心術後の急性腎障害のための新規な早期尿バイオマーカーであることを示し、その定量化は、この非常に感受性の高い集団での急性腎不全の予兆である。
【0100】
本発明が好ましい実施形態に関連して記載される一方で、前述した明細書を読解した後で当業者は種々の変更、等価物の置換、および本明細書中に述べられる被検体物質に対する変更をもたらすことが可能である。それ故、本発明は、本明細書中に具体的に記載されたもの以外の方法で実行することができる。したがって、本明細書中での保護が添付された特許請求の範囲とその等価物とによってのみ制限されることが、意図される。
【0101】
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【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】虚血後のマウス腎臓NGAL mRNAの誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(C)マウスの腎臓から抽出したRNAを用いて、または図示したような種々の再灌流期間(時間)後に抽出したRNAを用いて、マウス・アクチンおよびNGALに対するプライマーによる代表的なRT−PCRを示す。レーンMは、分子量標準マーカーを含有する。下段のパネルは、対照(CON)から、種々の時点でのNGAL mRNA発現の倍増加を示す。マイクロアレイ(実線)対RT−PCR(点線)によって得られた値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【図2A】片側虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(Con)マウスからまたは図に示した再灌流期間(時間)後得た全腎試料の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体(タンパク質ローディングが等しいことを示すために)で探索した代表的なウエスタン・ブロットを示す。分子量マーカーは、左側にある。下段のパネルは、対照(CON)からの種々の時点でのNGALタンパク質発現の倍増加を示す。デンシトメトリーによって得られる値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【図2B】両側虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。最上段のパネルは、対照(Con)マウスからまたは図に示した再灌流期間(時間)後得た全腎試料の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体(タンパク質ローディングが等しいことを示すために)で探索した代表的なウエスタン・ブロットを示す。分子量マーカーは、左側にある。下段のパネルは、対照(CON)からの種々の時点でのNGALタンパク質発現の倍増加を示す。デンシトメトリーによって得られる値は、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。
【0106】
【図3】虚血後のマウス腎臓NGALタンパク質の誘導を示す図である。代表的な免疫組織化学は、対照マウスから得たまたは図示するように還流期間(時間)を変えた後のマウス腎臓の凍結切片を、NGALに対するポリクローナル抗体で探索して、得られる。「G」は糸球体を意味する。「G」は糸球体を意味する。最も右側のパネルは拡大率100倍であり、他のパネルは拡大率20倍である。
【図4A】片側虚血ARFを有するマウスの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。片側腎動脈クランピングに続いて、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーは、右側に示す。ブロットを、NGAL(最上段)またはβ2−マイクログロブリン(Beta2−M)(中段)で探索した。図示したように種々の再灌流期間での、5匹の動物に対する5匹の動物から得た尿のN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)測定。値は、平均値±SDである。各時点での対照に対してP < 0.05、ANOVA。
【図4B】両側虚血ARFを有するマウスの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。両側腎動脈クランピングに続いて、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーは、右側に示す。ブロットを、NGAL(最上段)またはβ2−マイクログロブリン(Beta2−M)(中段)で探索した。図示したように種々の再灌流期間での、8匹の動物に対する5匹の動物から得た尿のN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)測定。値は、平均値±SDである。各時点での対照に対してP < 0.05、ANOVA。
【0107】
【図5】無症状の腎虚血を有するマウスから得た尿におけるNGALタンパク質の検出を示す図である。両側腎動脈クランピングを5、10、または20分おこなった後に、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーを左側に示す。これらの動物は、還流24時間で正常な血清クレアチニンを示した。
【図6】虚血性ARFを有するラットの尿におけるNGALタンパク質の早期検出を示す図である。ラットに両側腎動脈クランピングを30分間おこなった後に、図に示すような再灌流期間(時間)で得た未処理尿試料の代表的なウエスタン・ブロット(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)。分子量マーカーを左側に示す。これらの動物は、還流24時間で血清クレアチニンの顕著な増加を示した。
【図7】インビトロでの虚血後のNGAL mRNAの誘導を示す。最上段のパネルは、図示のように、様々な時期(時間)に部分的なATP欠乏を生じさせた後に腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)から抽出されたRNAを用いたヒトNGALに対するプライマーによる代表的なRT−PCRを示す。レーンMは、100bpのDNAラダーを含む。中段のパネルは、対照(O)から得た種々の時間点でのNGAL mRNA発現の倍増加を示し、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現について正規化してある。値は、各点について、少なくとも3回の実験から得た平均値±SDである。下段側パネルは、等量の細胞ペレット(Pel)または培地(Sup)から得た、図示のように、様々な時期に部分的なATP欠乏を生じさせた後のRPTEC試料による、NGALに対するポリクローナル抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット(3通りの異なる実験のもの)を示す。分子量マーカーは左側にある。
【0108】
【図8A】シスプラチン誘導障害を有するマウスで、尿中のNGALタンパク質の早期検出が検出されたことを示す。シスプラチン投与後の図に示す日数で得た未処理の尿試料(1〜2μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の、β−2−マイクログロブリン(最上段のパネル)およびNGAL(中段のパネル)に対する抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット。分子量マーカーを左側に示す。
【図8B】図8Aのシスプラチン投与後(n=4)に種々の日数での尿NAG測定を示す。値は、平均値±SDである。0日目に対しP < 0.05。
【図9】シスプラチン投与が尿細管細胞の壊死およびアポトーシスをもたらすことを示す図である。ヘマトキシリン‐エオジン染色によって、シスプラチン処置腎臓(最上段中央のパネル)における尿細管膨張(tubular dilatation)、管腔破片(luminal debris)、および平坦化した上皮(flattened epithelium)が示された。高倍率では、星印で記された尿細管が、アポトーシスを表す強く濃く染色された核(矢印)を示した(最上段右側パネル)。シスプラチン処置腎臓のTUNEL陽性核を示すTUNEL染色(下段中央パネル)。高倍率では、星印で示した尿細管は、アポトーシスの特徴である濃く、断片化した核(矢印)を示した(下段右側パネル)。高倍率と標識されたパネルは、拡大率100倍であり、他のパネルは20倍である。対照マウスで得られた結果を最上段および下段の左側パネルに示す。
【0109】
【図10】シスプラチン投与が腎臓NGALの急激な誘導をもたらすことを示す図である。図示したような種々の時間点(時間)で得られた、腹腔内シスプラチン(20μg/kg)による処置を受けたマウス由来の腎臓溶解産物の、NGALに対するポリクローナル抗体またはチューブリンに対するモノクローナル抗体で探索した代表的なウエスタン・ブロット。分子量マーカーは左側にある。
【図11】シスプラチン投与が尿細管上皮細胞でNGALの急激な誘導をもたらすことを示す図である。代表的な免疫組織化学は、腹腔内シスプラチン(20μg/kg)で処置し、図に示すような種々の時点(時間)で得たマウス由来の凍結腎臓切片を、NGALに対するポリクローナル抗体で探索して、得る。G、糸球体。HPと標識されたパネルは、拡大率が100倍であり、他は20倍である。
【図12】シスプラチン20μg/kgの投与が尿中でのNGALの急激な発現をもたらすことを示す図である。図に示すように、シスプラチン注射前または該注射後の種々の時点で得た未処理の尿試料(3〜5μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の代表的なウエスタン・ブロット(上段パネル)。同一尿試料をNAG分泌について分析し(中央パネル)、そしてクレアチニン測定にかけた同一の動物から得た血清についても分析をおこなった(下段パネル)。対照に対してP < 0.05。
【0110】
【図13】シスプラチン5μg/kgの投与が尿中でのNGALの急激な発現をもたらすことを示す図である。図に示すように、シスプラチン注射前または該注射後の種々の時点で得た未処理の尿試料(3〜5μl/レーン、クレアチニン含有量について正規化)の代表的なウエスタン・ブロット(上段パネル)。同一尿試料をNAG分泌について分析し(中央パネル)、またクレアチニン測定にかけた同一の動物から得た血清についても分析をおこなった(下段パネル)。対照に対してP < 0.05。
【図14】シスプラチン後の尿NGALの定量化を示す図である。既知量の組換え体精製NGALのクーマシー・ブルー(CB)染色(上段左側パネル)およびエンハンスド・ケミルミネセンス(ECL)分析(上段右側パネル)。ウエスタン・ブロットのデンシトメトリー分析および同一条件下で実施された精製NGALの確定された基準のウエスタン・プロットとの比較とによって測定された、シスプラチン20μg/kgまたは5μg/kg後の種々の時点での尿NGAL排出の定量。
【図15】パネルAで、死体腎臓移植をした患者(CAD、n=4)と生存血縁ドナー腎臓移植をした患者(LRD、n=6)での尿NGALの測定とを示す(p<0.005)。パネルBは、冷却虚血時間とCADの尿NGALとの相関を示す(p<0.001、r=0.98、スピアマン分析)。パネルCは、ピーク血清クレアチニンとCADの尿NGALとの相関を示す(p<0.001、r=0.96、スピアマン分析)。
【0111】
【図16】開心術後の患者での尿NGALの連続測定結果を、バイパス後の時(時間)に対してプロット(n=15)して、パネルAに示す。パネルBは、ARFを発症した患者でのバイパス時間と2時間尿NGALとの相関を示す(n=5)(p<0.01、r=0.76、スピアマン分析)。パネルCは、血清クレアチニンの変化とARFを発症した患者の2時間尿NGALとの相関を示す(p<0.01、r=0.66、スピアマン分析)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類での虚血性腎障害および腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害を検出するための方法であって、
(1)哺乳類の被検体から尿試料を得るステップ;
(2)前記尿試料とNGALを含む腎尿細管細胞障害バイオマーカーに対する抗体とを接触させて、前記抗体と前記バイオマーカーとの複合体を形成させるステップ;そして
(3)前記抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップ
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記被検体から断続的に複数の尿試料を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記尿試料が連続的に得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップが、前記複合体と前記バイオマーカーを検出するための第2の抗体とを接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳類被験体がヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
腎尿細管細胞障害に対する処置の効果を観察する方法であって、
(1)腎尿細管細胞障害に罹った哺乳類被験体に対して処置をおこなうステップ;
(2)前記被験体から少なくとも1つの処置後の尿試料を得るステップ;そして
(3)前記処置後の尿試料での前記腎尿細管細胞障害のバイオマーカーの存在を検出するステップ
を含んでなる、方法。
【請求項7】
前記バイオマーカーがNGALを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
後続の処置後の尿試料を1個以上得るステップをさらに有し、前記後続の処置後の尿試料に前記バイオマイーカーの存在が検出されなくなるまで、前記処置をおこなうステップが続けられる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記検出するステップが、
(i)前記尿試料と前記バイオマーカーに対する捕捉抗体とを接触させて、前記抗体と前記バイオマーカーとの複合体を形成させるステップ;そして
(ii)前記抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップ
を含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップが、
(1)前記捕獲抗体−バイオマーカー複合体から、前記尿試料の任意の未結合物質を分離するステップ;
(2)前記捕獲抗体−バイオマーカー複合体と前記バイオマーカーを検出するための第2の抗体とを接触させて、前記バイオマーカーと前記第2の抗体との間の複合体を形成させるステップ;
(3)前記バイオマーカー−第2の抗体複合体から、任意の未結合の第2の抗体を分離するステップ;そして
(4)前記バイオマーカー−第2の抗体複合体の前記第2の抗体を検出するステップ
を含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(i)が尿試料と前記第1の抗体が加えられた培地とを接触させるステップを含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
虚血性腎障害および腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害に対する即時型または早発型のバイオマーカーの存在を被検体の尿液体中で検出するのに用いられるキットであって、
(1)一定量の尿試料を取得する手段;
(2)腎尿細管細胞障害に対するバイオマーカーと複合体を形成することが可能な捕捉抗体が加えられ、該バイオマーカーがNGALを含む培地;
(3)前記バイオマーカーと前記捕獲抗体との複合体を検出するためのアッセイ
を含んでなる、キット。
【請求項13】
前記尿試料の量が1ml未満、より一般的には10μl未満である、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記取得手段が、表面を有する装置を含み、該表面が前記培地を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項15】
前記取得手段が、前記尿試料を受け取るための容器を含み、前記容器の尿接触面が培地を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項16】
前記アッセイがELISAを含む、請求項12に記載のキット。
【請求項17】
前記取得手段が、前記培地を含むカセットを有する装置を含んでなる、請求項12に記載のキット。
【請求項18】
ポイント・オブ・ケア・キットである、請求項12に記載のキット。
【請求項19】
前記尿試料の量が1ml未満、より一般的には10μl未満である、請求項18に記載のポイント・オブ・ケア・キット。
【請求項20】
前記取得手段が、ディップスティックを有する装置を含み、該ディップスティックの表面が前記培地を含む、請求項19に記載のポイント・オブ・ケア・キット。
【請求項21】
前記アッセイが、比色ディップスティック・アッセイを含んでなる、請求項19に記載のポイント・オブ・ケア・キット。
【請求項22】
哺乳類の被検体の虚血性腎障害および腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害の状態を測定するための競合的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)であって、前記被検体の尿試料中でのNGALの存在を検出するための、前記NGALに特異的な第1の抗体を含む、キット。
【請求項23】
前記尿試料の液量を約1ml以下とすることができる、請求項22に記載のELISAキット。
【請求項24】
事象によって引き起こされる虚血性腎障害および腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害の程度を特定するための方法であって、
(1)哺乳類の被験体から少なくとも1個の尿試料を得るステップ;
(2)前記尿試料中の腎尿細管細胞障害のバイオマーカーの存在を検出するステップ;
(3)前記事象の時間に比例して、前記尿試料中の前記バイオマーカーの存在が発現される時間に基づいて、前記尿細管細胞傷害の程度を決定するステップ
を含んでなる、方法。
【請求項25】
前記バイオマーカーがNGALを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記事象が外科的処置である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記事象が、腎臓への血液供給減少、心機能障害、外科的処置、集中治療室の患者、および前記被検体に対する医薬品、造影剤、または他の医薬物質の投与である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
哺乳類での虚血性腎障害および腎毒性障害を含む腎尿細管細胞障害を検出するための方法であって、
(1)哺乳類の被検体から1ml以下の第1の尿を含む尿試料を得るステップ;
(2)前記尿試料と腎尿細管細胞障害のバイオマーカーに対する抗体とを接触させて、前記抗体と前記バイオマーカーとの複合体を形成させるステップ;そして
(3)前記抗体−バイオマーカー複合体を検出するステップと、
を含んでなる、方法。
【請求項29】
前記バイオマーカーがNGALを含む、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−221033(P2011−221033A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137544(P2011−137544)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2006−509304(P2006−509304)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【出願人】(505361602)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (4)
【氏名又は名称原語表記】The Trustees of Columbia University in the City of New York