説明

昆虫の幼虫から脂肪酸を得る方法

昆虫の幼虫から抽出された飽和脂肪酸、MUFAおよびPUFAを含む油を含む飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油の抽出物、および、このような油の抽出物を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一価および多価不飽和脂肪酸の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
n−3脂肪酸は、一般的にはオメガ−3脂肪酸と呼ばれており、これは不飽和脂肪酸のファミリーに属するものであって、典型的なものとしては、アルファリノレン酸(ALA,18:3,n−3)、エイコサぺンタエン酸(EPA,20:5,n−3)ドコサヘキサエン酸(DHA,22:6,n−3)が挙げられる。また、オメガ−6脂肪酸(例えばガンマリノレン酸(18:3、n−3))、および、アラキドン酸(20:4、n−6))も挙げられる。また一般的には、英語表記のポリ不飽和脂肪酸(Polyunsaturated Fatty Acid)からPUFAとも名づけられている。用語「n−3」または「オメガ−3」は、分子のメチル末端から三番目からの炭素間結合として存在する二重結合を意味するものとして用いられる。同様にオメガ−7およびオメガ−9という用語は、一価不飽和脂肪酸ファミリー全体、または、英語表記(Monounsaturated Fatty Acid,一価不飽和脂肪酸)に基づくMUFAに対して用いられている。
【0003】
オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸のような分子は、生物学的および生理学的なレベルで生物が適切に機能するのに極めて重要な生体分子前駆体であることから、これら分子は生物学的に重要性なことに栄養学的に必須であることとが判明しており、このような分子のなかでも特に、プロスタグランジン(現在はエイコサノイドとして知られる)、加えてトロンボキサン、プロスタサイクリン、および、ロイコトリエンが挙げられ、これらはいずれも、生物系の多数の代謝および生化学機能における重要な分子である。これらの分子は炎症性プロセスおよび血液凝固プロセスに関与しており、その場合、これらの分子は、なかでも関節炎、血小板障害およびその他の血液疾患、狼瘡、および、喘息のような病気に直接関連する可能性がある。
【0004】
摂取した食物の健康状態に対する恩恵は、その他多くのなかでも、循環器系および心臓血管系、コレステロールおよびトリグリセリドレベル、抑うつ障害、癌、アテローム性動脈硬化症および糖尿病に現れる。
【0005】
魚や魚の油は脂肪酸オメガ−3、エイコサぺンタエン酸(EPA)、および、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含むことから、健康的な食事のためにこれらを摂取することが推奨されている(Moghadasian, 2008)。これらの脂肪酸は、エイコサノイドの前駆体であって、炎症を軽減し、多くの健康上の利点のなかでも血管神経系の機能を改善する(McKenney & Sica 2007, Kris-Etherton et al. 2002, De Deckere, 1999)。近年の研究では、魚の油は、自殺の重要な要因の一つであるうつ病に作用する可能性があることが示唆されている(Huan et al 2004)。これらの研究の一つで、自殺を試みたことのある100人の患者から血液サンプルを採取し、血液サンプルをコントロールと比較したところ、エイコサぺンタエン酸(EPA)のレベルが自殺を試みた患者において有意に低かったことが見出された。一方で、ある研究では、オメガ−3は、パーキンソン病において神経保護作用を働かせることが示された。実験モデルを用いたところ、これらは(まさにアルツハイマー病の場合でみられるのと同様に)予防効果を示す(Bousquet et al. 2007, Lukiw, 2005)。これらの結果に従って、アメリカ心臓学会は、心疾患を有する患者において毎日1gの魚の油の消費、好ましくはそれに相当する比率の魚の消費を推奨している(American Heart Association, 2007)。
【0006】
魚の食物連鎖の結果として、我々は、健康によいオメガ−3脂肪酸含量を示す魚肉を摂取することにより食物を得る。例えばサバ、マス、マグロおよびサケなどの魚は高レベルのオメガ−3脂肪酸を含むが、これらの種は食物連鎖において上位にあるため、有毒物質を蓄積する可能性がある(生物濃縮)。そのためFDA(アメリカ食品医薬品局)は、水銀、ダイオキシン、PCBおよびクロルデンのような毒性汚染物質が高レベルであるために、特定の種の魚(捕食魚、例えばマグロ、サメおよびメカジキ)の消費を制限することを推奨している(環境保護庁(EPA : Environmental Protection Agency), 2007)。一方で、捕食魚はオメガ−3を生産できないためそれらを餌から得ているということから、オメガ−3は、世界的に商業的な魚の養殖において重要な原材料となる。
【0007】
栄養補助食品において、バランスの取れた食物に十分な量のオメガ−3脂肪酸を取り入れるために魚の油のサプリメントを用いるという傾向があり、これは、健康的なダイエットまたは知的なダイエットと呼ばれている。ここ数年、警告レベルのPCBまたはその他の有害物質が報告されているために、魚の油のサプリメントの研究が続けられている。これは、魚油および抽出物の生産工程における生成物の精製技術の探求および提供のきっかけとなった。
【0008】
魚油の大半は、ペルーやチリのような国々が原産である。これらの地域産の魚は、スカンジナビアの国々などのその他の地域やその他の魚油(約20%)と比較してほぼ30%もの高いオメガ−3含量を示すため、ますます需要が増えている。これらの魚油は、工業レベルで製薬および栄養補助食品製品を生産するのに用いられる。それにもかかわらず、魚(サケ、マスなど)の養殖の餌のためのオメガ−3類の生産および消費は増加し続けている。植物および微生物源由来のオメガ−3製品がいくつかあるが、これらは、漁業によって一年で生産される量が大量なのに比べて極めて少量である。
【0009】
魚の油の生産は、世界的にペルー、デンマーク、スペイン、チリ、アイスランドおよびノルウェイなどの国々がリードしている。それにもかかわらず、世界的に2004年から生産量が低下しており、2004年から2005年の間には約12%もの低さを記録したことが知られいるが、このような低下傾向は今もって続いている。それとは別に、2007年から2008年の間に魚粉の価格は低下しているが、一方で魚の油の価格は同じ期間で2倍になっており(http://www.pescaaldia.cl/articulos/?id=107)、植物油のケースで説明されているのと同様に、その価格は一定の増加を示し続けている。
【0010】
食物におけるポリ不飽和脂肪酸の主要な源は様々であり、例えば、これらの化合物の含量が高いほうから順に魚(魚の油)、アマニ(アマニ油)、卵およびその他の植物油、動物プランクトンおよび微生物(まれ)が挙げられる。
【0011】
一方で、世界的に魚粉の生産量だけでなく魚の油の生産もここ数年低下していることが一般的に知られており、この低下傾向は今でも続いている。さらに、生物燃料の製造において植物油の使用が伸びており、加えて一価不飽和(オメガ−7およびオメガ−9、または、MUFA)、および多価不飽和(主としてオメガ−3およびオメガ−6、PUFA)脂肪酸源が不足しているために、この種の分子を供給する問題を招いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Moghadasian MH. May 2008. “Advances in dietary enrichment with n-3 fatty acids”. Critical Reviews in Food Science and Nutrition 48 (5): 402-10. DOI:10.1080/10408390701424303. PMID 18464030
【非特許文献2】McKenney & Sica 2007, Kris-Etherton et al. 2002, De Deckere, 1999
【非特許文献3】Huan M, Hamazaki K, Sun Y, Itomura M, Liu H, Kang W, Watanabe S, Terasawa K, Hamazaki T. (2004). “Suicide attempt and n-3 fatty acid levels in red blood cells: a case control study in China”. Biological psychiatry 56 (7): 490-6. DOI:10.1016/j.biopsych.2004.06.028. PMID 1540784
【非特許文献4】Bousquet M, Saint-Pierre M, Julien C, Salem N.Jr., Cicchetti F, Calon F. (2007). Beneficial effects of dietary omega-3 polyunsaturated fatty acid on toxin-induced neuronal degeneration in an animal model of Parkinson’s disease”. The Federation of American Societies for Experimental Biology 22: 1213. doi:10.1096/fj.07-9677com. PMID 18032633
【非特許文献5】Lukiw W.J. (2005). “A role for docosahexaenoic acid-derived neuroprotectin D1 in neural cell survival and Alzheimer disease”. J. Clin. Invest 115: 2774-2783. doi:10.1172/JCI25420. 2007-02-09
【非特許文献6】American Heart Association. 2007-02-09. “Fish and Omega-3 Fatty Acids”
【発明の概要】
【0013】
本発明は、一価および多価不飽和脂肪酸、それぞれMUFAおよびPUFAの生産に関する。本発明は、昆虫の幼虫から高品質の油を抽出することに基づいており、これは、新しい油の源、具体的には不飽和脂肪酸豊富なタイプの油の源、従って現在利用されている海洋資源とはまったく異なる持続可能な源を提供するものである。本発明の根本的な目的は、不飽和油および脂肪酸を得る革新的で代替となる形態を構築することである。
【0014】
発明の説明
本発明が解明する主要な問題は、一価不飽和(オメガ−7およびオメガ−9、または、MUFA)および多価不飽和(主としてオメガ−3およびオメガ−6、または、PUFA)脂肪酸を生成し抽出することであり、加えて、一価不飽和脂肪酸の融点と多価不飽和脂肪酸の融点とが異なることを利用してそれらの分離を達成することによって、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が濃縮された油を生成できるようにすることである。このような状況において、本発明は以下のことを解決する:
・本発明は、一価不飽和脂肪酸(オメガ−7およびオメガ−9、または、MUFA)含量が高い原材料の製造方法を提供する。
・本発明は、多価不飽和脂肪酸(オメガ−3およびオメガ−6、または、PUFA)が豊富な原材料の製造方法を提供する。
・本発明は、生産を制御できるようにするための原材料供給の制御を提供する。
・本発明は、簡単で廉価で迅速な抽出方法によって脂肪酸豊富な油を得ることを提供する。
・油の生産方法にはこの種の脂肪酸の濃縮工程が考慮されていることから、本発明は、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が高濃度の油を得ることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、昆虫の幼虫が包含する脂肪および脂質分画の抽出について記載する。この場合において、それらが発生するのに適した培地上に生じたイエバエ(Musca domestica)の幼虫を加工することが選択された。これらの幼虫の収集または回収は、昆虫の生活環において油抽出の対象となる分子がより多く含まれるような所定の時期に行われる。
【0016】
本発明を達成するために選択されたハエは、門:節足動物、網:昆虫、目:双翅目、亜目:環縫亜目、上科:イエバエ上科、科:イエバエ科、属:イエバエ属、種:イエバエに属する。このハエの生活環は以下の段階からなる:1匹の雌は、1群あたりおよそ500個の卵を産むことができる。これらの卵は白色であり、長さがおよそ1.2mmである。最大の産卵は、10℃〜40℃の範囲内の適度な温度で起こる。1日目の8〜20時間経過したところで、卵から幼虫が孵化し、それらは原則的に生ごみまたは便などの有機性廃棄物上で生活し摂食する。それらは薄い白みがかった、または、黄色がかった色を有し、長さは3〜12mmである。それらは細長く、口を有するが、足はない。幼虫の成長に最適な温度は35〜38℃である。幼虫は最適な温度では4〜13日で成長を終えるが、12〜17℃の温度では14〜30日かかる。栄養豊富な培地、例えばタンパク質豊富な野菜粉末および動物粉末からなる動物用飼料のような人工培地、野菜の断片をベースとした培地、および、肉加工プラントからの残りもの、または、動物性の堆肥をベースとした培地は、優れた幼虫の成長培地を提供する。モデルとして動物性堆肥を考慮すると、幼虫の成長のために少量の糞便が必要となる。幼虫段階の最後に、それらは赤色または茶色のさなぎに変態し、長いは8mmになる。さなぎは、32〜37℃の範囲の温度では2〜6日で成長を終えるが、約14℃の温度では17〜27日かかる。さなぎの状態で変態が起こる期間インキュベートした後、それらはさなぎの状態から成熟したハエにになる。
【0017】
本発明に関して、飼育したハエまたは昆虫の幼虫の状態は特に重要であり、具体的に言えば、成熟した幼虫、または、さなぎの前の状態であり、または、成長中のさなぎ、または、さなぎになったばかりの状態も含まれる。これは、全ての昆虫において生活環にさなぎの状態が含まれており、この状態は食物を摂取しない唯一の状態であるためために重要である。従ってこれらの幼虫は、新たに成虫になるまで変態を誘導してそれを維持できるように、カロリーが豊富な高品質の脂肪および脂質を保持しているはずである。
【0018】
本発明の主要な目的であるオメガ−7、オメガ−9(MUFA)、および、オメガ−3、オメガ−6(PUFA)分子が豊富な油の抽出を行うために、以下の主要な工程を考慮すべきである:
1.この目的に適した培地上にハエの繁殖システムを確立する。
2.成熟した幼虫、成長中のさなぎ、または、変態したばかりのさなぎを集める。
3.回収した材料は、凍結状態で保存することができる。
4.回収された幼虫およびさなぎを脱水する。
5.脱水した材料をすりつぶす。
6.抽出溶媒を用いて油を抽出する。
7.抽出溶媒を蒸発させ、および/または、再利用する。
8.抽出した油を低温で保存する。
9.任意に、抽出した油の長期保存を改善するために、抽出した油に抗酸化剤を添加してもよい。
10.任意に、対象となっている油性成分の分子の精製工程を追加してもよい。
【0019】
収量の説明
油抽出工程の収量を計算する場合、以下のように説明することができる:
湿潤状態に基づく場合、回収された幼虫の質量の3〜5質量%が、抽出可能な油である。
【0020】
乾燥状態に基づく場合、脱水した材料の13〜16質量%が、抽出可能な油に相当する。
パーセンテージの変動は幼虫を発生させる培地によるものであるが、主として幼虫が収集または回収されたときの成熟状態によるものであり、これはなぜなら、回収中に成熟した幼虫またはさなぎ前の幼虫が優勢に得られれば、得られる可能性のある最適な油の含量になるためである。これは、油含量が低下し始める状態である変態したばかりのさなぎを回収した場合とは対照的である。
【0021】
得られた油が示す典型的な組成のパーセンテージは、15%の飽和脂肪酸、 40%の一価不飽和脂肪酸、および、27%の多価不飽和脂肪酸であり、これは、栄養価において市場で現在出回っている魚油やその他の源と比べても遜色のない改善された値である。
【0022】
油の説明(解析)
本発明は、油を構成する脂肪酸の種類およびパーセンテージに関して典型的な組成を示す。
【0023】
この事柄に関して、表1は飽和脂肪酸含量を示し、表2は一価不飽和脂肪酸含量を示し、表3は多価不飽和脂肪酸含量を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
加工工程の説明
ハエの繁殖
ハエは、様々な培地上で繁殖させることができ、このような培地としては、堆肥(人間および/または動物)、有機性の残留物、都市廃水の生物処理または生物変換反応によって生じたもの、コムギのふすま、分解した野菜くず、および、これらの混合物から選択することができる。ハエの繁殖システムがすでに説明されており、いくつか特許になっているものがあるが、これが、本発明においてハエ繁殖のあらゆる形態が試験されない理由である。
【0028】
それにもかかわらず、成熟した幼虫および変態したばかりのさなぎの回収は、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油を抽出するための原材料を得ることにおいて主要なポイントを構成する。この意味において、ハエの生活環の所定の条件を利用することが、本発明の一部を構成する。
【0029】
脱水
幼虫およびさなぎを回収してハエの繁殖システム中に住み着かせたら、それらを脱水しなければならない。脱水工程の前に、一時的に幼虫およびさなぎを貯蔵する必要があるが、貯蔵は、凍結状態で(0℃未満の冷凍室で)行われれなければならない。脱水工程は、それらを60℃で16〜24時間インキュベートすることによって達成される。この工程は、よく換気された電気加熱式のオーブンで達成してもよいし、または、熱風の流れをベースとした脱水システムで達成してもよい。
【0030】
抽出
脱水した材料をミルですりつぶした;実験室のスケールでは、これは、手動のキッチン用グラインダーまたはブレンダーで達成することができ、一方で工業スケールでは、穀物から粉末を製造するのに用いられるものと類似したミルを用いるか、または、工業用のすりつぶし用具を用いることによって達成することができる。すりつぶした材料を、使用予定の抽出システムのサイズにあった適切な量にする。抽出は、ソックスレーシステムを用いて行われ、このシステムにおいては、ヘキサンまたはその他の純粋な有機溶媒を用いてもよいし、または、ヘキサンとジクロロメタンとで構成される抽出剤の混合物(ヘキサンとジクロロメタンの比率は1:1、1:2であってもよく、または多くの場合は3:1である)を用いてもよい;この混合物は、中度の極性を有する分子および極性分子の抽出を改善する。抽出剤と抽出させようとする材料との調合物は、抽出剤ブレンド(200g/L)250mLあたり50gの粉砕した材料の比率を有していなければならない。
【0031】
抽出は、(サイフォンで)すりつぶした材料に沸騰する抽出剤を通す抽出サイクルを8〜10回行うことによって達成される。すりつぶした材料を分離して抽出剤の残りを蒸発させた後、このタンパク質および炭水化物が豊富な材料は、食物源として用いられる可能性があるため、すりつぶした材料は蒸留で回収される。
【0032】
その後、抽出した油を含む抽出剤を、油から抽出剤を分離するための簡単な蒸留で処理した。この方法を用いれば、抽出剤は回収されて再使用され、抽出剤非含有の純粋な油が得られる。この蒸留の後に、油はそのまま8〜16時間かけて室温に冷却され、最終的に本発明の油抽出物が提供される。
【0033】
貯蔵
得られた純粋な油は、ビン詰めにして抗酸化剤を添加すれば長期間保存することができる。
【0034】
用途および機能の説明
表4で、本発明の各種脂肪酸に関する通常入手できる植物油、魚の油および濃度の比較を説明する。
【0035】
【表4】

【0036】
参考文献
1. Simopoulos A.P., Salem N.Jr. (1989). Purslane: a terrestrial source of omega-3 fatty acids. N. Engl. J. Med. 315, 833.
2. McGill A.S. & Moffat C.F. (1992). A Study of the Composition of Fish Liver and Body Oil Triglycerides. Lipids. Vol. 27, No. 5. 360-370.
オメガ−3およびオメガ−6、加えてオメガ−7およびオメガ−9が豊富な油は、本発明の主題である幼虫の油の場合と同様に、多数の消耗性疾患を緩和するのに役立つ化合物として医薬産業で広く用いられている。食物および栄養補助食品産業において、これらは、健康によい食物および疾患の治療法のための補助食における食品用サプリメントとして、または、健康によく機能的な食物としてますます利用されている。
【0037】
一方で、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸の主要な用途の一つは、家畜の餌における用途である。この用途は、上述した動物の衛生条件を改善することに加えて、これらの脂肪酸は、魚、鳥肉および豚肉の品質、牛乳の品質、および、脂肪の品質、ならびに卵の組成を改善することによる。
【0038】
幼虫から抽出された油は、より低い飽和脂肪酸含量、より高い一価不飽和脂肪酸含量(二倍)、および、類似の多価不飽和脂肪酸含量を有することから、幼虫から抽出された油は、その他の油の基準として原材料として最も広く用いられている魚の油と比較した場合、極めて魅力的であることがわかった。従ってこの油の用途は無数にあると言える。
【0039】
最後に、重要なことに、魚油中の多価不飽和脂肪酸を高める化学的手法、加えて、例えば飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸分画のような未加工の抽出物中に存在する様々な分画の精製を達成する化学的メカニズムおよび手順を説明し、それらを特許請求する。このような状況において、幼虫の油そのものが、様々なタイプの脂肪酸から純粋な分画を達成するための原材料として用いられる可能性があると予想されるが、これも、化学工業規模で環境に対するさらなる用途を構成するものであり、なかでも食品、製薬および栄養補助食品産業において副産物の多様な用途がある。
【0040】
参考文献
1. Moghadasian MH. May 2008. “Advances in dietary enrichment with n-3 fatty acids”. Critical Reviews in Food Science and Nutrition 48 (5): 402-10. DOI:10.1080/10408390701424303. PMID 18464030.
2. Kris-Etherton P.M, Harris W.S, Appel L.J. (2002). Fish Consumption, Fish Oil, Omega-3 Fatty Acids, and Cardiovascular Disease. Circulation 2002; 106; 2747 - 2757. DOI: 10.1161/01. CIR.0000038493.65177.94.
3. McKenney J.M. & Sica D. (2007). “Prescription omega-3 fatty acids for the treatment of hypertriglyceridemia”. American Journal of Health-System Pharmacy 64 (6): 595-605. PMID 17353568.
4. De Deckere, E.A. (1999). “Possible beneficial effect of fish and fish n-3 polyunsaturated fatty acids in breast and colorectal cancer”. European Journal of Cancer Prevention 8 (3): 213-221. PMID 10443950.
5. Huan M, Hamazaki K, Sun Y, Itomura M, Liu H, Kang W, Watanabe S, Terasawa K, Hamazaki T. (2004). “Suicide attempt and n-3 fatty acid levels in red blood cells: a case control study in China”. Biological psychiatry 56 (7): 490-6. DOI:10.1016/j.biopsych.2004.06.028. PMID 1540784.
6. Bousquet M, Saint-Pierre M, Julien C, Salem N.Jr., Cicchetti F, Calon F. (2007). Beneficial effects of dietary omega-3 polyunsaturated fatty acid on toxin-induced neuronal degeneration in an animal model of Parkinson’s disease”. The Federation of American Societies for Experimental Biology 22: 1213. doi:10.1096/fj.07-9677com. PMID 18032633.
7. Lukiw W.J. (2005). “A role for docosahexaenoic acid-derived neuroprotectin D1 in neural cell survival and Alzheimer disease”. J. Clin. Invest 115: 2774-2783. doi:10.1172/JCI25420. 2007-02-09.
8. American Heart Association. 2007-02-09. “Fish and Omega-3 Fatty Acids”.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫の幼虫から抽出された飽和、MUFAおよびPUFA脂肪酸を含む油を含む、飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油の抽出物。
【請求項2】
請求項1に記載の飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油の抽出物であって、昆虫の幼虫から抽出された飽和、MUFAおよびPUFA脂肪酸を含む油を含み、これら脂肪酸の含量は、最終的な油の組成でそれぞれ11〜16%、32〜42%および25〜30%である、前記抽出物。
【請求項3】
前記抽出物は、昆虫の幼虫から抽出された飽和、MUFAおよびPUFA脂肪酸を含む油を含み、これら脂肪酸の含量は、最終的な油の組成でそれぞれ15%、40%および27%である、請求項1または2に記載の飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油の抽出物。
【請求項4】
前記飽和脂肪酸が、C12:0ドデカン酸、C14:0テトラデカン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C20:0エイコサン酸、C22:0ドコサン酸、C24:0テトラコサン酸で構成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油の抽出物。
【請求項5】
前記C12:0ドデカン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.093gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項6】
前記C14:0テトラデカン酸の含量が、油の抽出物100gあたり2.606gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項7】
前記C16:0パルミチン酸の含量が、油の抽出物100gあたり9.696gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項8】
前記C18:0ステアリン酸の含量が、油の抽出物100gあたり2.004gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項9】
前記C20:0エイコサン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.135gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項10】
前記C22:0ドコサン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.045gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項11】
前記C24:0テトラコサン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.065gである、請求項4に記載の油の抽出物。
【請求項12】
前記一価不飽和脂肪酸がオメガ−7およびオメガ−9分画で構成され、ここでオメガ−7分画は、C16:1パルミトレイン酸に相当し、オメガ−9分画は、C14:1テトラデセン酸、C18:1オレイン酸、C20:1n9エイコサエン酸、C22:1n9エルカ酸、および、C24:1テトラコサン酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油の抽出物。
【請求項13】
前記C16:1パルミトレイン酸の含量が、油の抽出物100gあたり14.019gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項14】
前記C14:1テトラデセン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.309gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項15】
前記C18:1オレイン酸の含量が、油の抽出物100gあたり23.147gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項16】
前記C20:1n9エイコサエン酸の含量が、油の抽出物100gあたり1.686gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項17】
前記C22:1n9エルカ酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.157gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項18】
前記C24:1テトラコサン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.209gである、請求項12に記載の油の抽出物。
【請求項19】
前記多価不飽和脂肪酸がオメガ−3およびオメガ−6分画で構成され、ここでオメガ−3分画は、C18:3n3リノレン酸(ALA)、C20:5n3エイコサぺンタエン酸(EPA)、および、C22:6n3ドコサヘキサエン酸(DHA)を含み、オメガ−6分画は、C18:2n6リノール酸、C20:2n6エイコサジエン酸、C20:4n6エイコサトリエン酸、C22:5n3ドコサペンタエン酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油の抽出物。
【請求項20】
前記C18:3n3リノレン酸(ALA)の含量が、油の抽出物100gあたり0.444gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項21】
前記C20:5n3エイコサぺンタエン酸(EPA)の含量が、油の抽出物100gあたり12.902gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項22】
前記C22:6n3ドコサヘキサエン酸(DHA)の含量が、油の抽出物100gあたり8.091gである。、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項23】
前記C18:2n6リノール酸の含量が、油の抽出物100gあたり1.913gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項24】
前記C20:2n6エイコサジエン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.122gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項25】
前記C20:4n6エイコサトリエン酸の含量が、油の抽出物100gあたり0.131gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項26】
前記C22:5n3ドコサペンタエン酸の含量が、油の抽出物100gあたり2.369gである、請求項19に記載の油の抽出物。
【請求項27】
飽和、一価不飽和および多価不飽和脂肪酸が豊富な油の抽出物を得る方法であって、該方法は、以下の工程:
−ハエ、好ましくはMusca domesticaを、堆肥(人間および/または動物)、有機性の残留物、都市廃水の生物処理または生物変換反応によって生じたもの、コムギのふすま、分解した野菜くず、および、これら全ての混合物から選択される培地上で、幼虫が発生するまで成長させることができる10〜40℃の範囲の温度で繁殖させる工程;
−ハエの繁殖中に成長した幼虫およびさなぎを回収する工程、
−換気を行いながらの電気加熱システムで、または、熱風の流れに基く脱水システムで、回収された幼虫およびさなぎを脱水する工程、
−脱水した材料をグラインダーですりつぶす工程、
−前の工程で得られた、すりつぶされ、脱水された材料を、純粋な有機溶媒、ヘキサン、または、ヘキサン:ジクロロメタンが1:1もしくは1:2もしくは3:1の混合物を用いたソックスレーシステムで抽出すること(ここで、溶媒としての抽出剤ブレンド250mL当たり、すりつぶした材料50gの割合が用いられる)、
−8〜10回の抽出サイクルを行って抽出を繰り返す工程、
−すりつぶした材料を分離する工程、
−残った抽出剤を蒸発させる工程、
−蒸留によって回収する工程、
−抽出した油を含む抽出剤を蒸留して、それから油を分離する工程、
−抽出剤非含有の純粋な油を得る工程、
−8〜16時間そのまま室温に冷却させる工程、
−任意に抗酸化剤を添加する工程、
−生成物を保存する工程、
を含む、上記方法。

【公表番号】特表2012−532964(P2012−532964A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519863(P2012−519863)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/CL2010/000022
【国際公開番号】WO2011/006276
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(512110662)レンタス・エ・インベルシオネス・エコテクノス・ソシエダッド・アノニマ (1)
【Fターム(参考)】