説明

昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル活性に関わる有害生物の生理状態に変化を与える薬剤

【課題】標的を明確にした農薬の探索手法、即ち、有害生物を制御しうる標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化合物をスクリーニングする方法等を提供すること。
【解決手段】有害生物の生理状態に変化を与える薬剤であり、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤、並びに、被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における前記線虫の摂食行動活性を測定する第一工程、及び(2)第一工程により測定された摂食行動活性と、被験物質を含まない系内における前記線虫の摂食行動活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質の有害生物防除能力を評価する第二工程を有することを特徴とする方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル活性に関わる有害生物の生理状態に変化を与える薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
電位依存性カリウムチャネルは膜電位に応答してカリウムイオンを選択的に透過させる膜タンパク質で、動物・植物・微生物など広く存在し、多数の分子種が存在する。構造や生理機能の特徴から複数のファミリー、即ち、Shaker型、EAG(ether-a-go-go)型、KvLQT等に分類されている(例えば、非特許文献1参照)。
電位依存性カリウムチャネルの中で、EAGファミリーのメンバーであるヒトERG(hERG)の昆虫におけるホモログとしてseizureが存在する。EAGファミリーは、EAG(ether-a-go-go)、ERG(EAG-related gene)、ELK(EAG-like gene)から構成される。国際薬理学会議(IUPHAR)の分類名によれば、EAGはKv10.x、ERGはKv11.x、ELKはKv12.xであり、ヒトEAGファミリーはKCNHファミリーとしてもまた知られている。
seizure遺伝子産物は、6回膜貫通型電位依存性イオンチャネルスーパーファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルサブユニット(voltage-gated potassium channel(subunit:VGKC))である。一般的に、カリウムチャネル機能の低下は細胞の過剰興奮性を引き起こし、カリウムチャネル機能の活性化は細胞の低興奮性を引き起こす。
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のseizure null変異体は、活動亢進性の表現型を示し、高温条件下における麻痺症状といった付加的な表現型も示す(例えば、非特許文献2参照)。
モデル生物として知られるCaenorhabditis elegans(以下、線虫)のseizureオルソログであるunc-103の機能喪失型変異体に著しい異常は認められなかったが、機能獲得型変異体は重度の運動異常と産卵異常が認められた(例えば、非特許文献3参照)。この結果は、seizure様カリウムチャネルの活動亢進もまた顕著な神経筋異常の要因となることを示している。
ところで、農薬は、従来、化合物を昆虫、菌類、植物等の対象生物(有害生物)に直接作用させ、その生物学的活性を検定するランダムスクリーニングによって見出されてきた。この場合、農薬の安全性や環境への負荷を予測するため、有用な生物活性を有する化合物が特定された後に、該化合物が効力を示す作用機構や、該化合物が作用する標的等を分子レベルで詳細に研究する必要があった。
【非特許文献1】Gutman et al., Pharmacol. Reviews, 55(4):583-586, 2003
【非特許文献2】Wang et al., J. Neurosci., 17(3):882-890, 1997
【非特許文献3】WormBase, http://www.wormbase.org/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような農薬開発の問題点を解決するために、標的を明確にした農薬の探索手法、即ち、有害生物を制御しうる標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化合物をスクリーニングする方法等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者は、このような状況下鋭意検討を行った結果、有害生物の生理状態に変化を与える薬剤であり、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤が有害生物を防除することを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1. 有害生物の生理状態に変化を与える薬剤であり、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel)の活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤;
2. 昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、EAGファミリーに属する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする項1記載の薬剤;
3. EAGファミリーに属する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする項2記載の薬剤;
4. 昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが、ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする項3記載の薬剤;
5. 有害生物の生理状態に変化を与える薬剤が、有害生物防除剤であることを特徴とする項1記載の薬剤;
6.昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を変化させる能力、又は、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞において、電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性を変化させる能力であることを特徴とする項1記載の薬剤;
7. 有効成分として、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする有害生物防除剤;
8. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を変化させる能力を有する化学物質であることを特徴とする項7記載の有害生物防除剤;
9. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該化学物質の存在濃度が30μM以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりも当該線虫の摂食行動活性が低下するように阻害する能力を有する化学物質であることを特徴とする項8記載の有害生物防除剤;
10. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を50%低下させる有効濃度が100μM以下となるように阻害する能力を有する化学物質であることを特徴とする項8記載の有害生物防除剤;
11. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該化学物質の存在濃度が30μM以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりも当該線虫の摂食行動活性が増加するように活性化する能力を有する化学物質であることを特徴とする項8記載の有害生物防除剤;
12. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該線虫の摂食行動活性を50%増加させる有効濃度が100μM以下となるように活性化する能力を有する化学物質であることを特徴とする項8記載の有害生物防除剤;
13. 前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞において、電位依存性カリウムチャネルの電気生理的な活性を変化させる能力を有する化学物質であることを特徴とする項7記載の有害生物防除剤;
14. 被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における当該線虫の摂食行動活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された摂食行動活性と、被験物質を含まない系内における前記線虫の摂食行動活性とを比較することにより得られる差異に基づき当該被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
15. 被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における当該細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性と、被験物質を含まない系内における前記細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
16. 項14又は15記載の検定方法により評価された有害生物防除能力を有する物質を選抜することを特徴とする有害生物防除能力を有する物質の探索方法;
17. 項16記載の探索方法により選抜された物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする有害生物防除剤;
18. 項7乃至13又は17記載の有害生物防除剤の有効量を、保護すべき作物、有害生物又は有害生物の生息場所に施用することを特徴とする有害生物防除方法;
19. 項14又は15記載の検定方法により評価された有害生物防除能力を有する物質を特定し、特定された当該物質と有害生物とを接触させることを特徴とする有害生物防除方法;
20. 下記の群Bのいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル。
<群B>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するアミノ酸配列
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列に対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
21. 有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の使用;
22. 有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の使用;
23. 有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の使用;
24. 項20記載の電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド;
25. 配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列からなることを特徴とする項24記載のポリヌクレオチド;
26. 項24又は25記載のポリヌクレオチドが有する塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド;
27. 項24又は25記載のポリヌクレオチドの部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド;
28. 配列番号11乃至15で示される塩基配列からなることを特徴とする項27記載のポリヌクレオチド;
29. 電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であって、項27又は28記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅する工程、増幅された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、を有することを特徴とする方法;
30. 電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であって、項26、27又は28記載のポリヌクレオチドをプローブとして用いたハイブリダイゼーションにより所望のポリヌクレオチドを検出する工程、検出された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、を有することを特徴とする方法;
31. 項24又は25記載のポリヌクレオチドを、宿主生物又は宿主細胞で発現可能なプロモーターに機能可能な形で連結してなることを特徴とする環状ポリヌクレオチド;
32. 項24又は25記載のポリヌクレオチドを、線虫由来のプロモーターに機能可能な形で連結してなることを特徴とする環状ポリヌクレオチド;
33. 線虫由来のプロモーターが、myo-2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする項32記載の環状ポリヌクレオチド;
34. 項31、32又は33記載の環状ポリヌクレオチドであって、宿主細胞内で自己複製の為の複製開始点を有することを特徴とする環状ポリヌクレオチド。
35. 項24又は25記載のポリヌクレオチドをベクターに連結することを特徴とする環状ポリヌクレオチドの製造方法;
36. 項24又は25記載のポリヌクレオチドが導入されてなることを特徴とする形質転換体;
37. 昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの一過性発現細胞であり、項24又は25記載のポリヌクレオチドの転写産物が導入されてなることを特徴とする発現細胞;
38. 形質転換体が形質転換大腸菌であることを特徴とする項36記載の形質転換体;
39. 形質転換体が形質転換線虫であることを特徴とする項36記載の形質転換体;
40. 線虫がCaenorhabdtis elegansであることを特徴とする項39記載の形質転換体;
41. 項24又は25記載のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体の製造方法;
42. 項36、38、39又は40記載の形質転換体を培養し、産生された昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを回収する工程を有することを特徴とする電位依存性カリウムチャネルの製造方法;
43. 研究ツールとしての、項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル或いは項24乃至28のいずれかの項記載のポリヌクレオチドの使用;
44. 研究ツールが有害生物防除剤をスクリーニングするための研究ツールであることを特徴とする項43記載の使用;
45. 被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における当該細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電気生理活性と、被験物質を含まない系内における前記発現細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
46. 細胞がアフリカツメガエル由来の卵母細胞であることを特徴とする項45記載の方法;
47. 被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における当該線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電気生理活性と、被験物質を含まない系内における前記発現線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
48. 線虫がCaenorhabdtis elegansであることを特徴とする項47記載の方法。
49. 被験物質について、当該被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段、当該データ情報を所望の条件に基づき照会・検索する手段、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段を具備することを特徴とするシステム;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、標的を明確にした農薬の探索手法、即ち、対象生物を制御しうる標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化合物をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、詳細に本発明を説明する。
本発明において「有害生物」とは、人畜に直接害を与え、又は、作物等を害することによって人間生活に害や不快感を与える小動物を示し、例えば、昆虫やダニ等の節足動物及び線虫等の線形動物があげられ、具体的には例えば、以下に示すものがあげられる。
【0007】
半翅目害虫:ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、セジロウンカ(Sogatella furcifera)等のウンカ類、ツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)、チャノミドリヒメヨコバイ(Empoasca onukii)等のヨコバイ類、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)等のアブラムシ類、カメムシ類、オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、シルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolii)等のコナジラミ類、カイガラムシ類、グンバイムシ類、キジラミ類等;
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、ヨーロピアンコーンボーラー(Ostrinia nubilalis)、シバツトガ(Parapediasia teterrella)等のメイガ類、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、トリコプルシア属(Trichoplusia spp.)、ヘリオティス属(Heliothis spp.)、ヘリコベルパ属(Helicoverpa spp.)、エアリアス属(Earias spp.)等のヤガ類、モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora)等のシロチョウ類、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana fasciata)、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta)、コドリングモス(Cydia pomonella)等のハマキガ類、モモシンクイガ(Carposina niponensis)等のシンクイガ類、モモハモグリガ(Lyonetia clerkella)等のチビガ類、キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoniella)等のホソガ類、ミカンハモグリガ(Phyllocnistis citrella)等のコハモグリガ類、コナガ(Plutela xylostella)等のスガ類、ピンクボールワーム(Pectinophora gossypiella)等のキバガ類、ヒトリガ類、ヒロズコガ類等;
双翅目害虫:アカイエカ(Culex pipiens pallens)、コガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)、ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)等のイエカ類、(Aedes aegypti)、(Aedes albopictus)等のエーデス属、(Anopheles sinensis)等のアノフェレス属、ユスリカ類、イエバエ(Musca domestica)、オオイエバエ(Muscina stabulans)等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ヒメイエバエ類、タネバエ(Delia platura)、タマネギバエ(Delia antiqua)等のハナバエ類、ミバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、ブユ類、アブ類、サシバエ類、ハモグリバエ類等;
鞘翅目害虫:ウエスタンコーンルートワーム(Diabrotica virgifera virgifera)、サザンコーンルートワーム(Diabrotica undecimpunctata howardi)等のコーンルートワーム類、ドウガネブイブイ(Anomala cuprea)、ヒメコガネ(Anomala rufocuprea)等のコガネムシ類、メイズウィービル(Sitophilus zeamais)、イネミズゾウムシ(Lissorhoptrus oryzophilus)、アズキゾウムシ(Callosobruchuys chienensis)等のゾウムシ類、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)等のゴミムシダマシ類、イネドロオイムシ(Oulema oryzae)、ウリハムシ(Aulacophora femoralis)、キスジノミハムシ(Phyllotreta striolata)、コロラドハムシ(Leptinotarsa decemlineata)等のハムシ類、シバンムシ類、ニジュウヤホシテントウ(Epilachna vigintioctopunctata)等のエピラクナ類、ヒラタキクイムシ類、ナガシンクイムシ類、カミキリムシ類、アオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes)等;
アザミウマ目害虫:ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)等のスリップス属、ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)等のフランクリニエラ属、チャノキイロアザミウマ(Sciltothrips dorsalis)等のシルトスリップス属等のアザミウマ類、クダアザミウマ類等;
膜翅目害虫:ハバチ類、アリ類、スズメバチ類等;
網翅目害虫:ゴキブリ類、チャバネゴキブリ類等;
直翅目害虫:バッタ類、ケラ類等;
隠翅目害虫:ヒトノミ等;
シラミ目害虫:ヒトジラミ等;
シロアリ目害虫:シロアリ類等;
ダニ目害虫:ナミハダニ(Tetranychus urticae)、カンザワハダニ(Tetranychus kanzawai)、ミカンハダニ(Panonychus citri)、リンゴハダニ(Panonychus ulmi)、オリゴニカス属等のハダニ類、ミカンサビダニ(Aculops pelekassi)、リンゴサビダニ(Aculus schlechtendali)等のフシダニ類、チャノホコリダニ(Polyphagotarsonemus latus)等のホコリダニ類、ヒメハダニ類、ケナガハダニ類、フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)、ヤマトチマダニ(Haemaphysalis flava)、タイワンカクマダニ(Dermacentor taiwanicus)、ヤマトマダニ(Ixodes ovatus)、シュルツマダニ(Ixodes persulcatus) 、オウシマダニ(Boophilus microplus)等のマダニ類、ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)等のコナダニ類、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides ptrenyssnus)等のヒョウヒダニ類、ホソツメダニ(Cheyletus eruditus)、クワガタツメダニ(Cheyletus malaccensis)、ミナミツメダニ(Cheyletus moorei)等のツメダニ類、ワクモ類等;
線虫類:ミナミネグサレセンチュウ(Pratylenchus coffeae)、キタネグサレセンチュウ(Pratylenchus fallax)、ダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)、ジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)、キタネコブセンチュウ(Meloidogyne hapla)、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)等。
【0008】
本発明において「有害生物の生理状態に変化を与える」とは、有害生物において、生きていくために維持されている様々な体内での現象、例えば、呼吸・消化・排泄・体液循環・代謝・神経伝達等の働き、又はその仕組み等の状態を、通常の状態から逸脱した状態に変化させることを示す。例えば、呼吸を停止させることによって有害生物の体内代謝に必要な酸素等が供給されなくなるように変化させること、又は、有害生物の神経伝達の働きを停止させることによって有害生物の種々の運動等を停止させるよう変化させること、等である。
【0009】
本発明において「有害生物の生理状態に変化を与える薬剤」とは、有害生物に投与することによって有害生物の生理状態に変化を与えることができる薬剤である。
【0010】
本発明において「昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル」とは、様々な生物に存在する電位依存性カリウムチャネルの中で、昆虫に存在する電位依存性カリウムチャネルを示す。電位依存性カリウムチャネルとして、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のEAGファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルであり、より望ましくは、昆虫由来のEAGファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネル(seizure)であり、さらに望ましくは、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが、ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネル(seizure)であることが挙げられる。
【0011】
「昆虫」とは、動物界、節足動物門、昆虫綱の属する動物であり、例えば、原尾目、粘菅目、双尾目、総尾目、蜉蝣目、蜻蛉目、積翅目、欠翅目、直翅目、ナナフシ目、革翅目、蟷螂目、網翅目、シロアリ目、紡脚目、噛虫目、食毛目、シラミ目、アザミウマ目、半翅目、脈翅目、長翅目、毛翅目、鱗翅目、鞘翅目、双翅目、膜翅目、隠翅目、撚翅目等に属する節足動物が挙げられる。
【0012】
イオンチャネルは、細胞の生体膜にある膜貫通タンパク質の一種であり、その中央に形成されたポアと呼ばれる親水性の通路を介してイオンを透過させる。イオンチャネルは、細胞の内外における各種イオンの濃度あるいは膜電位の維持、神経細胞など電気的興奮性細胞での活動電位の発生、シグナル伝達などに関与する。
【0013】
イオンチャネルの活性は、一般に、電気生理学的手法により測定が可能である。従って、電位依存性カリウムチャネルの活性は、例えば、Bruggemannらの報告(Nature 365 (6445), 445-448, 1993)に記載されるように、目的のイオンチャネルを発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を用いた二電極膜電位固定法(TEVC法)による測定や、Schonherrらの報告(European Journal of Neuroscience 11 (3), 753-760, 1999)に記載されるように、目的のイオンチャネルを発現させた培養細胞を用いたパッチクランプ法により測定することが可能である。これらの方法では、電極を用いてイオンの流れを直接読み取り、イオンチャネルの活性を測定する。また、モデル生物として知られるCaenorhabditis elegans(以下、線虫)では、RaizenaとAveryの報告(Neuron 12 (3), 483-495, 1994)に記載されるように、咽頭電位図(electropharyngeogram)と呼ばれる電気生理学的手法を用いて、咽頭部の収縮運動(ポンピング)に伴う電位変化を計測することができる。咽頭電位図の波形は、咽頭の収縮に関係する咽頭筋等の部位に発現するイオンチャネルやトランスポーターの活性を反映する。従って、目的のイオンチャネルを咽頭部に発現させた遺伝子組み換え線虫の咽頭電位図を記録することで、後述のように間接的に目的のイオンチャネルの活性を測定することができる。
【0014】
昆虫由来の電位依性カリウムチャネルの活性を測定する方法は、上記の電気生理学的手法と同様な方法で実施することができる。
【0015】
本発明において、「昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する」とは、電位依存性カリウムチャネルがカリウムイオンを透過させる活性を有する状態で発現し、上記の種々の電気生理学的手法によって活性を測定することが可能であることを意味する。
【0016】
本発明において、「EAGファミリー」とは、電位依存性カリウムチャネルの中で、EAG(ether-a-go-go)、ERG(EAG-related gene)、ELK(EAG-like gene)から構成される。国際薬理学会議(IUPHAR)の分類名によれば、EAGはKv10.x、ERGはKv11.x、ELKはKv12.xである。ヒトEAGファミリーはKCNHファミリーとしてもまた知られている。
【0017】
本発明において、「ERG型電位依存性カリウムチャネル」とは、EAGファミリーのメンバーである前記のERG(EAG-related gene)相同遺伝子産物を指す。ヒトERG(hERG)の昆虫におけるホモログとして、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)ではseizureが存在する。また、線虫(Caenorhabditis elegans)のseizureオルソログはunc-103である。
【0018】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの中で、ERG型電位依存性カリウムチャネルもしくはseizureのアミノ酸配列は、これまでに、
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster、accession No. NP_476713)、
コクヌストモドキ(Tribolium castaneum、accession No. XP_973853)、
ミツバチ(Apis mellifera、accession No. XP_393977)、
ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae 、accession No. XP_308166)等
のものが公共のデータベースに開示されている。
一方、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの中で、ERG型電位依存性カリウムチャネルもしくはseizureの塩基配列は、これまでに、
キイロショウジョウバエ(Drosophila. melanogaster、accession No. NM_057365)、
コクヌストモドキ(Tribolium castaneum、accession No. XM_968760)、
ミツバチ(Apis mellifera、accession No. XM_393977)、
ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae、accession No. XM_308166)等
のものが公共のデータベースに開示されている。
また、後述の方法によって、これまで未知であったワタアブラムシ由来のseizureのアミノ酸配列と遺伝子の塩基配列を明らかにすることが可能となり、それらの方法によって得られたアミノ酸配列を配列番号1、3、5、7に、遺伝子の塩基配列を配列番号2、4、6、8にそれぞれ開示している。
配列番号3で示すワタアブラムシ由来のseizureのアミノ酸配列に対する既知配列との同一性を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
本発明において、「昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力」とは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を増加又は減少させる能力をさし、即ち、電位依存性カリウムチャネルの活性化能力又は活性阻害能力を意味する。そして、前記の電気生理学的手法を用いた電位依存性カリウムチャネルの活性測定反応系に被験物質を添加して、被験物質が電位依存性カリウムチャネルの開閉やイオンの透過に与える影響を調べることができる。
【0021】
また、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力は、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を用いて、電位依存性カリウムチャネルの電気生理的な活性を次のように測定することも可能である。
【0022】
例えば、実施例6記載の方法で、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞に、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの遺伝子を導入し一過的に卵母細胞内で発現させることによって、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を調製することができる。この昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを発現する卵母細胞を用いて、二電極膜電位固定法で電位依存性カリウムチャネルの電気生理的な活性を測定することができる。
【0023】
また、動物由来の培養細胞に昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの遺伝子を導入し一過的に培養細胞内で発現させることによって、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を調製することができる。或いは、動物由来の培養細胞に昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの遺伝子を導入し形質転換された培養細胞集団から、恒常的に電位依存性カリウムチャネルを発現する培養細胞を選抜することによっても電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を調製することができる。ここで、動物由来の培養細胞として、哺乳類動物であるハムスター由来のCHO細胞やヒト由来のHEK293細胞等が、昆虫であるショウジョウバエ由来のS2細胞、鱗翅目昆虫Spodoptera frugiperda 卵巣細胞由来のSf9細胞等が使用できる。この昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを発現する動物由来の培養細胞を、例えば、実施例7記載のホールセルパッチクランプ法で電位依存性カリウムチャネルの電気生理的な活性を測定することができる。
【0024】
また、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力は、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する遺伝子組み換え線虫を用いて、次のように測定することも可能である。
【0025】
モデル生物として知られる線虫は、咽頭の収縮運動(ポンピング)によって食物であるバクテリア等を腸内へ移行させる。線虫の咽頭は、筋肉や神経等の組織から成り、神経情報伝達や膜興奮性のモデル系として確証されている。例えば、Davisらの報告(Science 286 (5449), 2501-2504, 1999)に記載されるように、線虫に存在する電位依存性カリウムチャネルの一つであるexp-2は、咽頭筋細胞の活動電位の波形と持続時間に影響する。exp-2の機能欠損変異体では、咽頭の活動電位において、再分極が遅れ、活動電位の持続時間が延長した。一方、exp-2の機能付加変異体では、再分極が早まり、活動電位の持続時間が短縮された。
【0026】
活動電位の脱分極や再分極を制御する基本的なイオンチャネルは、動物界において広く保存されているため、線虫の咽頭におけるイオンチャネルの構成を改変し、注目したイオンチャネルに特化した機能モデルを開発することが可能である。例えば、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの中で、ワタアブラムシ由来のseizureを線虫の咽頭にイオンチャネルとして機能可能な形で発現させると、咽頭における電位依存性カリウムチャネルの存在量が増加し、即ち、細胞外へのカリウム流出総量が増加する。結果として、後述の実施例10に記載のとおり、咽頭活動電位の再分極が早まり、活動電位の持続時間が短縮された。これは、前記のexp-2機能付加変異体の表現型と同様であり、exp-2機能欠損変異体の表現型と逆の結果であった。この結果は、遺伝子改変された咽頭が、ワタアブラムシ由来のseizureによって制御されていることを示している。
【0027】
遺伝子改変した咽頭の活動を制御する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルは、薬剤によって活性を変化させることが可能である。例えば、後述の実施例6および実施例7に示すように、ヒトERGあるいはヒトEAGの遮断薬として知られているclofiliumは、ワタアブラムシ由来のseizureの活性を阻害した。clofilium存在下におけるワタアブラムシ由来のseizureの活性は、従来の電気生理学的手法により測定することが可能であった。一方、この電気生理実験におけるワタアブラムシ由来のseizureの阻害と一致するように、ワタアブラムシ由来のseizureを機能可能な形で咽頭に発現する線虫をclofiliumに曝露させると、実施例10に示すように短縮された活動電位の持続時間が再び延長され、遺伝子改変に起因する表現型は正常な活動電位の持続時間に戻った。
【0028】
遺伝子改変された咽頭を制御する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルにおける電気生理的活性の変化は、咽頭の活動即ち食物の取り込みに影響を与える。従って、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を、遺伝子組み換え線虫の食物の取り込みを変化させる能力として測定することができる。
【0029】
本発明において、「線虫の摂食行動」とは、食物であるバクテリア等を腸内へ移行させるために、咽頭の収縮運動(ポンピング)によって食物を取り込む行動を意味する。
「線虫の摂食行動」即ち「食物の取り込み」を測定する方法としては、例えば、次のような蛍光色素を用いた方法が挙げられる。線虫を含む培地中に蛍光色素前駆体を添加すると、線虫が経口摂取した蛍光色素前駆体は、結果として腸内で酵素的に蛍光色素に変換され、遺伝子組み換え線虫が発する蛍光シグナルが増加する。従って、線虫の食物の取り込みを線虫が発する蛍光シグナルとして測定することができる。この原理は、WO00/63425公報に記載されるように、Drinking Assayと呼ばれ、市販の試薬を用いて検証されている。具体的には、WO01/88532公報に記載されるように、駆虫薬のイベルメクチンが線虫の食物の取り込みを阻害する。Drinking Assayにおいて、蛍光色素前駆体の取り込みが強く阻害されると、結果的に蛍光シグナルが非常に小さくなる。他の例としては、抗うつ剤のクロミプラミンが挙げられ、線虫の食物の取り込みを増大させる。Drinking Assayにおいて、蛍光色素前駆体の取り込みが強く亢進されると、結果的に、蛍光シグナルが非常に大きくなる。この技術を昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを機能可能な形で発現する遺伝子組み換え線虫に適用することで、被験物質がイオンチャネルの活性に与える影響を調べることができる。
【0030】
また、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有する可能性のある物質を選抜する方法として、RI標識したリガンドを用いる結合実験法や膜電位感受性色素を用いた蛍光色素法などが挙げられる。
【0031】
以上のような電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法の中で、多検体の電位依存性カリウムチャネルの活性を機械的に効率よく測定する方法としては、前記の遺伝子組み換え線虫を用いたDrinking Assayが望ましい。例えば、被験物質が摂食行動活性に与える影響をイオンチャネルの活性に与える影響として評価する方法等が挙げられる。具体的には、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを機能可能な形で発現する線虫を含む液体培地中に被験物質を共存させ、蛍光色素前駆体を培地中に添加する。線虫が経口摂取した蛍光色素前駆体の取り込みを、線虫が発する蛍光シグナルとして検出する。蛍光色素前駆体の取り込みを摂食行動活性とした時、被験物質が摂食行動活性に与える影響をイオンチャネルの活性に与える影響として評価する。
【0032】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを機能可能な形で発現する線虫として、望ましくは、ワタアブラムシ由来のseizureを機能可能な形で発現する線虫が挙げられ、蛍光色素前駆体として、望ましくは、カルセインAMが挙げられる。
【0033】
また、多数の電位依存性カリウムチャネル遮断薬の中で、ヒトERGおよびヒトEAGの遮断薬としてclofilium(Gessner and Heinemann, Br. J. Pharmaco., 138:161-171, 2003)が知られており、不整脈治療のモデル薬剤である(Greene et al., Am. Heart J., 106:492-501, 1983)。clofiliumはこれまで昆虫由来のEAGファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルに作用することは報告されていないが、実施例6および実施例7に記載のとおり、ワタアブラムシ由来のseizureの活性を阻害した。
【0034】
Drinking Assayにおける被験物質のEC50値とは、線虫の蛍光色素前駆体の取り込みを摂食行動活性とした時、その摂食行動活性を50%低下あるいは増加させる被験物質の濃度を意味する。被験物質のEC50値は、前記のDrinking Assay系に異なる濃度の被験物質を添加して、各添加濃度(用量)での線虫の摂食行動活性(応答)を算出し、用量-応答曲線(dose response curve)を作成して、摂食行動活性を50%低下あるいは増加する被験物質の添加濃度を算出することによって決定できる。より具体的には、4パラメーターロジスティックモデル(4 Parameter Logistic Model)或いは、シグモイド用量-反応モデル(Sigmoidal Dose-Response Model)
f(x) = (A+((B-A)/(1+((C/x)^D)))

を用いて用量-応答曲線を作成し、EC50を算出することができる。また実務的には、市販の計算ソフトウェアであるXLfit (IDBS社製)を用いて算出することが可能である。
【0035】
電気生理学的手法における被験物質のEC50値も同様の方法で算出することが可能であり、電気生理的活性を50%低下あるいは増加させる被験物質の濃度を意味する。被験物質のEC50値は、前記の電気生理実験系に異なる濃度の被験物質を添加して、各添加濃度(用量)での電気生理的活性(応答)を算出し、用量-応答曲線(dose response curve)を作成して、電気生理的活性を50%低下あるいは増加する被験物質の添加濃度を算出することによって決定できる
【0036】
本発明において、「昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤」とは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル活性を変化させる能力を有する物質を有効成分とする薬剤である。
【0037】
本発明において、「有害生物の生理状態に変化を与える薬剤であり、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤」とは、前記の測定方法で昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を特定された薬剤であり、有害生物の生理状態に変化を与えることができる薬剤を意味する。
【0038】
該薬剤として、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のEAGファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルであり、より望ましくは、昆虫由来のEAGファミリーに属する電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルであり、さらに望ましくは、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが、ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルである薬剤が挙げられる。
【0039】
また、該薬剤として、望ましくは、有害生物の生理状態に変化を与える薬剤が、有害生物防除剤である薬剤が挙げられる。
【0040】
また、該薬剤として、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、前記の電気生理学的手法によって測定した時、イオンチャネルの電気生理的活性を変化させる能力である薬剤が挙げられる。
【0041】
あるいは、該薬剤として、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、前記の遺伝子組み換え線虫を用いたDrinking Assayにおける線虫の摂食行動活性を変化させる能力である薬剤が挙げられる。
【0042】
本発明において「有害生物防除剤」とは、前記有害生物を防除する能力を有する薬剤を示す。
【0043】
有害生物防除能力を測定する方法の一つとして、本発明で開示される方法の他に、例えば、前記有害生物に対する殺虫活性を測定する方法が挙げられる。具体的には、例えば、以下の方法に従い、測定することができる。
【0044】
下記の組成(表2)からなる滅菌済み人工飼料を調製し、供試薬剤のDMSO溶液を該人工飼料の0.5%容量添加し、混合する以外は、Handbook of Insect Rearing Vol.1 (Elsevier Science Publisers 1985) 35頁〜36頁に記載される方法に準じてワタアブラムシを飼育し、6日後にワタアブラムシの生存数を調査し、次の式により防除価を求める。
【0045】
【表2】

防除価(%)={1−(Cb×Tai)/(Cai×Tb)}×100
尚、式中の文字は以下の意味を表す。
Cb:無処理区の処理前の虫の生存数
Cai:無処理区の観察時の虫の生存数
Tb:処理区の処理前の虫の生存数
Tai:処理区の観察時の虫の生存数
有意に高い防除価を示す供試薬剤については、有害生物防除活性があると言える。また、より好ましくは、該防除価が30%以上の供試薬剤は実質的な殺虫活性があると判断でき、該防除価が30%未満の供試化合物は実質的な殺虫活性が無いと判断できる。
【0046】
本発明における有害生物防除剤は、有効成分として昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有する化学物質又はその農学的に許容される塩を含んでいてもよい。
【0047】
本発明において、「農学的に許容される塩」とは、防除剤としての製造、及び該製造物の施用に関して、その製造及び施用が不可能とならない形態の塩を指し、どのような形態の塩でもあってもよい。かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム等の無期塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基、リジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
本発明において、「有効成分として、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする有害生物防除剤」とは、前記の測定方法で昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を特定された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することにより有害生物を防除することができる薬剤を意味する。
【0049】
該薬剤として、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、前記の電気生理的手法によって測定した時、イオンチャネルの電気生理的活性を変化させる能力である薬剤が挙げられる。
【0050】
あるいは、該薬剤として、望ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、前記の遺伝子組み換え線虫を用いたDrinking Assayにおける線虫の摂食行動活性を変化させる能力である薬剤が挙げられる。
【0051】
遺伝子組み換え線虫を用いたDrinking Assayにおいて、より望ましくは、化学物質の存在濃度が30μM以上の場合に、該化学物質が存在しない場合よりも線虫の摂食行動活性が低下するように阻害する能力を有する化学物質、あるいは、該化学物質が存在しない場合よりも線虫の摂食行動活性が増加するように活性化する能力を有する化学物質が挙げられる。
【0052】
また、遺伝子組み換え線虫を用いたDrinking Assayにおいて、更に望ましくは、線虫の摂食行動活性を50%低下させる有効濃度が100μM以下となるように阻害する能力を有する化学物質、あるいは、線虫の摂食行動活性を50%増加させる有効濃度が100μM以下となるように活性化する能力を有する化学物質を挙げることができる。
【0053】
本発明において「被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における前記線虫の摂食行動活性を測定する第一工程と、第一工程により測定された摂食行動活性と被験物質を含まない系内における前記線虫の摂食行動活性とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程を有することを特徴とする方法」とは、被験物質が有する有害生物防除能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法を示す。
【0054】
また、本発明において「被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における当該細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性を測定する第一工程と、第一工程により測定された電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性と被験物質を含まない系内における前記発現細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程を有することを特徴とする方法」とは、被験物質が有する有害生物防除能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法を示す。
ここで、群Aとは、
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
を示す(以下、群Aと記す。)。
第一工程とは、「前記の様々な電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性測定反応系に被験物質を添加することによって、当該線虫と被験物質を接触させた状態とし、当該線虫の摂食行動活性を測定する工程」あるいは「前記の様々な電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の電気生理的活性測定反応系に被験物質を添加することによって、当該細胞と被験物質を接触させた状態とし、当該細胞の電気生理的活性を測定する工程」である。
【0055】
また、第二工程は、被験物質を測定した時の活性と対照における活性を比較しその差異に基づいて有害生物防除能力を評価する工程である。
【0056】
ここで対照とは、例えば被験物質を溶媒に溶解した状態で反応系に添加した場合には、被験物質を溶解した該溶媒のみを添加した試験区を意味する。
【0057】
第一工程及び第二工程を有する、被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法に使用される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫は、前記群Aに示す蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫である。
【0058】
また、第一工程及び第二工程を有する、被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法に使用される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞は、前記群Aに示す蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞である。
【0059】
上記の群Aの蛋白質のうち、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)に示される蛋白質のアミノ酸配列において、(a)に示されるアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記の(a)で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
【0060】
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、「電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性」あるいは「電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の電気生理的活性」を見出すことのできる範囲内の数であれば良い。
【0061】
また、アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
【0062】
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。
【0063】
ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
【0064】
また、アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対してランダムに変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするDNAを鋳型とし、それぞれのDNAの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
【0065】
ここで「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。該「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
【0066】
また、前述の最適な状態にアライメントされた2つのアミノ酸配列において、同類アミノ酸置換によって配列が異なる場合、置換されたアミノ酸の同類性を調整するために、「配列類似性」が用いられる。同類アミノ酸置換によって差異が生じる配列同士は、配列類似性を持つとされる。このような配列類似性は、例えば、前述のようなFASTA等のプログラムを用いて算出することができる。アミノ酸は、疎水性アミノ酸、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸の4グループに分けることができ、各グループ内のアミノ酸で置換されることを同類アミノ酸置換という。
疎水性アミノ酸:アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)
中性アミノ酸:グリシン(G)、セリン(S)、トレオニン(T)、システイン(C)、チロシン(Y)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
酸性アミノ酸:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
塩基性アミノ酸:リジン(K)、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)
(f)に記載される「ストリンジェントな条件」としては、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行われるハイブリダイゼーションにおいて、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSC(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSC(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
(h)記載の「蛋白質」は、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの中で、ワタアブラムシに存在するERG型電位依存性カリウムチャネル(seizure)を示し、(a)記載のアミノ酸配列からなる蛋白質も含まれる。
【0067】
また、群Aの蛋白質には、(c)記載の「配列番号1で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質」が含まれるが、より望ましくは、「配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質」が用いられる。
【0068】
有害生物防除能力を有する物質は、例えば前記の有害生物に対する殺虫活性又は防除効果を測定することによる有害生物防除能力の検定方法を用いることによって探索することができる。
【0069】
また、前記の電位依存性カリウムチャネルを用いた有害生物防除能力の検定方法によっても有害生物防除能力を有する物質を探索することが可能である。具体的には、前記の電位依存性カリウムチャネルを用いた有害生物防除能力の検定方法を用いて、被験物質の有害生物防除能力がある一定値以上、又は一定値以下であることが特定された場合、該物質を選抜することによって有害生物防除能力を有する物質を探索できる。
【0070】
また該探索方法によって選抜された物質は、有害生物防除能力を有することから、その物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有する有害生物防除剤となり得る。
【0071】
有害生物の防除は、通常、有害生物防除剤の有効量を保護すべき作物、有害生物又は有害生物の生息場所に施用することにより行われる。
【0072】
有害生物防除剤を農林用として用いる場合には、その施用量は通常1000m2有害生物防除剤の量で0.1〜1000gである。有害生物防除剤が乳剤、水和剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等に製剤化されたものである場合には、通常有効成分濃度が1〜10000ppmとなるように水で希釈して散布することにより施用し、有害生物防除剤が粒剤、粉剤等に製剤化されたものである場合には、通常そのまま施用する。
【0073】
有害生物防除剤は有害生物から保護すべき作物等の植物に対して茎葉処理することにより使用することができ、作物の苗を植え付ける前の苗床や植付けの時に植穴や株元に処理することにより使用することもできる。また、有害生物による摂食等の被害から保護しようとする作物の種子、種芋または球根等に直接あるいはその近傍に有害生物防除剤を処理することにより使用することもできる。更に、耕作地の土壌に生息する有害生物を防除する目的で該土壌に処理することにより使用してもよい。また、シート状やひも状等に加工した樹脂製剤を作物に巻き付ける、作物の近傍に張り渡す及び/又は株元の土壌表面に敷く等の方法で使用することもできる。
【0074】
有害生物防除剤を防疫用害虫防除剤として用いる場合には、乳剤、水和剤、フロアブル等は、通常、有効成分濃度が0.01〜10000ppmになるように水で希釈して施用し、油剤、エアゾール、燻煙剤、毒餌等についてはそのまま施用する。
【0075】
有害生物防除剤の用途の一つとして、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ等の家畜、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の小動物の外部寄生虫防除があげられ、この場合は獣医学的に公知の方法で動物に投与する事ができる。具体的な投与方法としては、全身的抑制(systemic control)を目的とする場合には、例えば錠剤、飼料混入、坐薬、注射(筋肉内、皮下、静脈内、腹腔内等)等により投与され、非全身的抑制(non-systemic control)を目的とする場合には、例えば油剤若しくは水性液剤を噴霧する、ポアオン若しくはスポットオン処理を行う、シャンプー製剤で動物を洗う又は樹脂製剤を首輪や耳札にして動物につける等の方法により用いられる。動物体に投与する場合の有害生物防除剤の量は、通常動物1kgに対して、化合物Aと化合物Bとの合計量で、0.1〜1000mgの範囲である。
【0076】
これらの施用量、施用濃度は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、有害生物の種類、被害程度の等の状況によって異なり、上記の範囲にかかわることなく増減させることができ、適宜選択することができる。
【0077】
以上に示した有害生物防除の方法に、前記の有害生物防除剤を用いることができる。
【0078】
また一方、前記の「群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫を用いた第一工程、第二工程を有する、被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法」あるいは「群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を用いた第一工程、第二工程を有する、被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法」、によって評価された有害生物防除能力を有する物質を特定し、特定された有害生物防除能力を有する物質と有害生物とを接触させることによって有害生物を防除することも可能である。
ここで特定された有害生物防除能力を有する物質と有害生物とを接触させる方法としては、前記の製剤方法、施用方法等を用いることが出来る。
【0079】
群Bで示されるアミノ酸配列は、下記の(a)〜(i)いずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列である。
<群B>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するアミノ酸配列
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列に対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
※配列番号
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列:配列番号1、3、5、7
ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルの塩基配列:配列番号2、4、6、8
PCR5'プライマー塩基配列:配列番号11、13、15
PCR3'プライマー塩基配列:配列番号12、14;
【0080】
上記の群Bのに示されるアミノ酸配列のうち、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)に示される蛋白質のアミノ酸配列において、(a)に示されるアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記の(a)で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
【0081】
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、「電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性」あるいは「電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の電気生理的活性」を見出すことのできる範囲内の数であれば良い。また、アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
【0082】
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
【0083】
また、アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対してランダムに変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするDNAを鋳型とし、それぞれのDNAの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
【0084】
ここで「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
【0085】
また、前記の最適な状態にアライメントされた2つのアミノ酸配列において、同類アミノ酸置換によって配列が異なる場合、置換されたアミノ酸の同類性を調整するために、「配列類似性」が用いられる。同類アミノ酸置換によって差異が生じる配列同士は、配列類似性を持つとされる。このような配列類似性は、例えば、前述のようなFASTA等のプログラムを用いて算出することができる。アミノ酸は、疎水性アミノ酸、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸の4グループに分けることができ、各グループ内のアミノ酸で置換されることを同類アミノ酸置換という。
疎水性アミノ酸:アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)
中性アミノ酸:グリシン(G)、セリン(S)、トレオニン(T)、システイン(C)、チロシン(Y)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
酸性アミノ酸:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
塩基性アミノ酸:リジン(K)、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)
(f)に記載される「ストリンジェントな条件」としては、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行われるハイブリダイゼーションにおいて、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSC(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSC(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
(h)記載の「蛋白質」は、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの中で、ワタアブラムシに存在するERG型電位依存性カリウムチャネル(seizure)を示し、(a)記載のアミノ酸配列からなる蛋白質も含まれる。
【0086】
また、群Bの蛋白質には、(c)記載の「配列番号1で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質」が含まれるが、より望ましくは、「配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質」が用いられる。
【0087】
群Bに示されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、例えば、群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて後述の方法に従い調製することができる。
【0088】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫は、有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして使用することができる。具体的には、例えば昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫は、前記の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫を用いた有害生物防除能力を検定する方法において用いる電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫として使用することによって、有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして使用することが可能である。また、より具体的な方法については、前記の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性測定方法に従い実施できる。
【0089】
有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫を使用する場合において、より好ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルは、前記の群Bに示されるアミノ酸配列を有する電位依存性カリウムチャネルであることが望ましい。
【0090】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞は、有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして使用することができる。具体的には、例えば昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞は、前記の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を用いた有害生物防除能力を検定する方法において用いる電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞として使用することによって、有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして使用することが可能である。また、より具体的な方法については、前記の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の電気生理学的手法による活性測定方法に従い実施できる。
【0091】
有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとして昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を使用する場合において、より好ましくは、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルは、前記の群Bに示されるアミノ酸配列を有する電位依存性カリウムチャネルであることが望ましい。
【0092】
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド群Bと記すこともある。)は、生物の細胞内或いは試験管内の翻訳系において、該群Bに示されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生成できる塩基配列を持つ。ポリヌクレオチド群Bとしては、自然界からクローニングされたDNAであってもよいし、自然界からクローニングされたDNAに、例えば部位特異的変異導入法やランダム変異導入法等によって塩基の欠失、置換又は付加が導入されたDNAであってもよく、また、人為的に合成されたDNAであってもよい。具体的には、配列番号2、4、6、8で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。
【0093】
<第1の取得方法>
例えば、ポリヌクレオチド群Bに含まれる配列番号2、4、6、8を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドの取得方法を以下に示す。工程としては、ワタアブラムシから全RNAを取得し、cDNAライブラリーを合成して、PCR増幅を行うことによって目的のポリヌクレオチドを取得できる。
ポット植えのキュウリ葉上で飼育されたワタアブラムシ(Aphis gossypii)の成虫及び幼虫の混合した集団630mgを葉上から細筆又は小さなハケでかきとり、これを液体窒素中で乳鉢及び乳棒を用いて粉末状になるまで破砕し、凍結された破砕粉体からRNA抽出試薬ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを単離する。次に乳鉢中の凍結された破砕粉体に10mlのISOGENを加え10分間磨砕する。この時、乳鉢は氷上に置いた状態で操作する。磨砕後、液体状の試料をピペットにて15mlチューブに移し、2mlのクロロホルム(和光純薬工業社製)を加え、直ちに15秒間激しく混和し、室温で3分間静置する。4℃、15分間、12,000×gで遠心分離後、上層の水相を5mlずつ2本の新しいチューブに移し、ぞれぞれのチューブにISOGENを5ml加え、直ちに15秒間激しく混和し、室温で3分間静置する。4℃、15分間、12,000×gで再度遠心分離後、上層の水相10mlをそれぞれ新しい50mlチューブに移し、続いて、イソプロパノール(和光純薬工業社製)を10ml加え、氷上で30分間静置する。次に4℃、10分間、12,000×gで遠心分離し、RNAを沈殿させ、上清を除いて20mlの70%エタノールを加えて、4℃、5分間、10,000×gで遠心分離する。上清を除き、チューブの口を下にして3分間静置し、沈殿した全RNAを軽く乾燥させてから、市販のRNase-free water(ナカライテスク社製)1mlに沈殿を溶解させる。こうして調製した全RNAは260 nmの吸光度を測定し、常法に従い濃度を算出する。
前記の方法で得られたワタアブラムシの全RNA鋳型として、ランダムプライマー(Invitrogen社製)及びSuperscript III(Invitrogen社製)を用いて、該試薬に付属される説明書に従いRT−PCRを実施し、cDNA第1鎖を合成する。
前記の方法で得られたワタアブラムシのcDNA第1鎖を鋳型として、配列番号11及び12で示されるオリゴヌクレオチドプライマーとExpand Long Template PCR System(Roche社製)とを用いてかつ前述のcDNAを鋳型として、該試薬に付属される説明書に従ってPCR増幅を行う。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に94℃、2分間、続いて94℃、30秒間、70℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い61℃まで変化させて30秒間、68℃、4分間を10サイクルとし、その後、更に94℃、30秒間、60℃、30秒間、68℃、30秒間から1サイクルにつき10秒の増加を伴い25サイクルとし、最後に68℃、7分間とする。
以上のようにして配列番号2、4、6、8を含む塩基配列を含むからなるポリヌクレオチドを取得することが可能である。
【0094】
<第2の取得方法>
ポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドは、配列番号2、4、6、8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを基にして、前記の部位特異的変異導入法であるアンバー変異を利用する方法、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等によって変異が導入されたポリヌクレオチドを作製することによっても得ることが可能である。
【0095】
<第3の取得方法>
ポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドは、配列番号2、4、6、8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド等をプローブとしたハイブリダイゼーション法によっても取得可能である。より具体的には、前記のSambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行われるハイブリダイゼーション法に従い実施可能である。
【0096】
<第4の取得方法>
ポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドは、既知の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列を基にプライマーを作製し、PCRによって取得することも可能である。具体的には、チャバネゴキブリ(Blatella germanica)等の他の昆虫種における電位依存性カリウムチャネル相同遺伝子を得るために、Codehop program(Fred Hutchinson Cancer Research Center が運営するBlocks Protein Analysis Server のウェブサイトから公的に利用可能 http://blocks.fhcrc.org/blocks/codehop.html)を利用してディジェネレートプライマーを設計する。この時、前述のワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネル(seizure)遺伝子配列及び既に公知であるヒト(NCBI accession number Q12809およびQ9H252)、線虫 Caenorhabditis elegans(NP_49782)、キイロショウジョウバエ(AAM68296)、ガンビエハマダラカ(XP_308166)等のアミノ酸配列を参考にする。選択した昆虫種における電位依存性カリウムチャネル相同遺伝子の部分配列は、該昆虫種由来のcDNA第1鎖を鋳型とした一連のPCRにより増幅する。ここで、鋳型とするcDNA第1鎖は前述のSuperscript IIIを用いた方法により調製する。PCRには、フォワード及びリバースプライマーとしてそれぞれのディジェネレートプライマーと、Amplitaq Gold (Applied Biosystems社製)とを用いて、該試薬に付属される説明書に従って行う。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に94℃、5分間、続いて94℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い51℃まで変化させて30秒間、72℃、1分30秒間を10サイクルとし、更に94℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分30秒間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。PCR産物はアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、塩基配列を決定する。
次に、得られた昆虫の電位依存性カリウムチャネル相同遺伝子の部分配列に対する特異的プライマーを設計し、全長配列を獲得するために3' RACE PCR 又は5' RACE PCRを行う。
5’RACE反応には、5’/3’RACE Kit, 2nd Generationに同梱されているOligo-d(T)-anchor primer1をフォワードプライマーとし、目的の遺伝子配列に特異的なリバースプライマーを用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い51℃まで変化させて30秒間、72℃、40秒間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、40秒間から1サイクルにつき20秒の増加を伴いを25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
1回目のPCRで明確な増幅産物が得られない場合には、1回目のPCR産物を鋳型としてnested PCRを行う。プライマーは、5’/3’RACE Kit, 2nd Generationに同梱されているPCR Anchor Primerをフォワードプライマーとし、1回目のPCRに用いた特異的プライマーよりも内側に設計された特異的なリバースプライマーを用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い51℃まで変化させて30秒間、72℃、40秒間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、40秒間から1サイクルにつき20秒の増加を伴い25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
3’RACE反応には、目的の遺伝子配列に特異的なフォワードプライマーと、SMART PCR cDNA Synthesis Kitに同梱されているuniversal primer mix (UPM)をリバースプライマーとして用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い51℃まで変化させて30秒間、72℃、1分間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
1回目のPCRで明確な増幅産物が得られない場合には、1回目のPCR産物を鋳型としてnested PCRを行う。プライマーは、1回目のPCRに用いた特異的プライマーよりも内側に設計された特異的なフォワードプライマーと、SMART PCR cDNA Synthesis Kitに同梱されているNUP primerをリバースプライマーとして用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い51℃まで変化させて30秒間、72℃、1分間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
以上の配列決定により、昆虫の電位依存性カリウムチャネルのN末端領域をコードする5'末端配列及びC末端領域をコードする3'末端配列を明らかにする。
このようにして、ポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドは、既知の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列を基にプライマーを作製し、PCRによって取得することができる。
ポリヌクレオチド群Bの塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション法を用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得に使用することができる。
【0097】
本発明における取得方法には、ハイブリダイゼーションにより所望のポリヌクレオチドを検出する工程、検出された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、が含まれる。以降に各工程を具体的に説明する。
【0098】
ハイブリダイゼーションにより所望のポリヌクレオチドを検出する工程、及び検出された所望のポリヌクレオチドを特定する工程は、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載される方法に準じて、ポリヌクレオチド群Bの塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いることによって実施可能である。
具体的には例えば、配列番号2で示される塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有するDNAを、Random Primed DNA Labelling Kit(ベーリンガー社製)、Random Primer DNA Labelling Kit Ver.2(宝酒造社製)、ECL Direct Nucleic Acid Labelling and Ditection System(Amersham biosciences社製)、Megaprime DNA-labelling system(Amersham biosciences社製)等を用いた公知の方法によってラジオアイソトープ標識又は蛍光標識することによって、これをプローブとして使用することができる。
【0099】
ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、ストリンジェントな条件をあげることができ、具体的には例えば、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中で、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、更に0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温する条件をあげることができる。
【0100】
より具体的には、例えば、ポリヌクレオチド群Bの塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドを鋳型にしてMegaprime DNA-labelling system(アマシムファルマシアバイオテク社製)を用いてキット指定の反応液を用いることにより32Pでラベルしたプローブを作成することが出来る。このプローブを用いて定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中で、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、更に0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温することでハイブリダイズするポリヌクレオチド(を含むコロニー)を検出することができる。こうして、ハイブリダイゼーションにより所望のポリヌクレオチドを検出し、また検出された所望のポリヌクレオチドを特定することができる。
【0101】
特定された所望のポリヌクレオチドを回収するためには、前記の方法で検出、特定されたポリヌクレオチドを含むコロニーから、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されるアルカリ法等の方法に準じて、プラスミドDNAを回収することによって実施することができる。尚、回収された所望のポリヌクレオチド(プラスミドDNA)の塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載される)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載される)により確認することができる。この際、例えば市販のTermo Seqenase II dye terminator cycle sequencing kit(Amersham biosciences社製)、Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(Applied Biosystems社製)等を用いることができる。
【0102】
ポリヌクレオチド群Bの塩基配列の部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドは、PCRを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得に使用することができる。より具体的には、配列番号11乃至15で示される塩基配列からなるポリペプチドが挙げられる。本発明における取得方法には、PCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅する工程、増幅された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、が含まれる。以降に各工程を具体的に説明する。
【0103】
PCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅する工程では、具体的には、ポリヌクレオチド群Bの塩基配列の部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列から、約20bpから約40bp程度の塩基配列、例えば配列番号2、4、6、8及び配列番号2、4、6、8に対して相補性を有する配列から選択した塩基配列に基づいて設計、合成したDNAをプライマーのセットとして用いることができ、例えば、配列番号13で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号14で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとのセットをプライマーのセットとして挙げることができる。PCR反応液は例えば前記のような方法で調製したcDNAライブラリーに市販のPCRキット指定の反応液を添加して調製する。反応条件は使用するプライマーセットによって変えることができるが、例えば、94℃で10秒間保温した後、94℃で15秒間、60℃で15秒間、72℃で3分間のサイクルを40サイクル程度繰り返し、更に72℃で3分間保温する条件や、94℃で2分間保温し、その後約8℃で3分間保温した後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間のサイクルを40サイクル程度繰り返す条件、或いは、94℃で5秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5から10サイクル行い、更に、94℃で5秒間次いで70℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを20から40サイクル程度行う条件を使用することができる。かかるPCRには、例えば、PfuUltra High Fidelity polymerase (Stratagene社製)、Amplitaq Gold (Applied Biosystems社製)、Takara HeraculaseTM(宝酒造社製)、Advantage cDNA PCR Kit(クロンテック社製)に含まれるDNAポリメラーゼ、TaKaRa Ex Taq(宝酒造社製)、PLATINUMTM PCR SUPER Mix(ライフテックオリエンタル社製)等を用いることができる。
【0104】
PCRによって増幅された所望のポリヌクレオチドを特定するためには、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載される方法等に準じたアガロースゲル電気泳動によって分子量を測定することにより実施することが可能である。また、増幅された所望のポリヌクレオチドを、市販のDNAシーケンシング反応キット、例えば、Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(Applied Biosystems社製)等を用いて、該キットに付属される説明書に従ってシーケンシング反応を行い、DNAシーケンサー3100(Applied Biosystems社製)等を用いて解析することによって、増幅断片の塩基配列を読解することもできる。
【0105】
特定された所望のポリヌクレオチドを回収する方法としては、例えば前記のアガロースゲル電気泳動によって特定されたポリヌクレオチドを、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載される方法等に準じてアガロースゲルから精製、回収することができる。また、こうして回収されたポリヌクレオチドやPCRによって増幅された所望のポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、や「Current Protocols In Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載される通常の方法に準じてベクターにクローニングすることができる。用いるベクターとしては例えば、pUCA119(宝酒造社製)、pTVA118N(宝酒造社製)、pBluescriptII (東洋紡社製)、pCR2.1-TOPO(Invitrogen社製)等を利用することができる。尚、クローニングされた前記DNAの塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載される)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載される)により確認することができる。この際、例えば市販のTermo Seqenase II dye terminator cycle sequencing kit(Amersham biosciences社製)、Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(Applied Biosystems社製)等を用いることができる。
【0106】
尚、ポリヌクレオチド群Bの塩基配列の部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドは、PCR法のみならず、前記のハイブリダイゼーション法を用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得にも使用することが可能である。より具体的には、配列番号11乃至15で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0107】
群Bに示されるアミノ酸配列を有する蛋白質を製造する方法としては、ポリヌクレオチド群Bが導入された形質転換体を培養し、産生された該蛋白質を回収する方法があげられる。また、ここで用いられる形質転換体を作製するためには、ポリヌクレオチド群Bを宿主生物又は宿主細胞で発現可能なプロモーターに機能可能な形で連結した断片を含む環状ポリヌクレオチドを作製する等の作業が必要である。以下、当該方法について詳細に説明する。
【0108】
また、前記電位依存性カリウムチャネルを用いた有害生物防除能力の検定方法に用いる電位依存性カリウムチャネルも、用いる電位依存性カリウムチャネルをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いて、同様の方法で群Aに示される蛋白質を製造、取得することが可能である。
【0109】
宿主生物又は宿主細胞で発現可能なプロモーターとは、目的の遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入した宿主生物又は宿主細胞内で、目的の遺伝子が使用する転写系において転写され、遺伝子産物が発現する能力を有するプロモーターを意味する。例えば、宿主が大腸菌の場合、バクテリオファージ由来のプロモーターであるT7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼ遺伝子のプロモーター等が挙げられる。また、宿主が哺乳類細胞の場合、サイトメガロウィルス由来のIE(immediate early)遺伝子のプロモーターであるCMVプロモーター等が挙げられる。宿主が線虫の場合は、線虫由来のミオシン遺伝子(myo-2やmyo-3)のプロモーター等が挙げられる。線虫において、myo-2遺伝子のプロモーターは咽頭特異的な発現を示し、myo-3遺伝子のプロモーターは体壁特異的な発現を示す。
【0110】
本発明において「機能可能な形で連結する」とは、目的の遺伝子が使用する転写系において転写され得るように、プロモーター配列を含むポリヌクレオチド断片の下流に目的の遺伝子を含むポリヌクレオチド断片を連結させることを意味する。具体的には、例えば、CMVプロモーターを使用する場合には、CMVプロモーターの下流に目的の遺伝子を含むポリヌクレオチド断片を連結すればよい。また、例えば、CMVプロモーター以外のプロモーターを用いる場合には、CMVプロモーター以外のプロモーター配列を含むポリヌクレオチド断片の下流に目的の遺伝子を含むポリヌクレオチドを連結することも可能である。より具体的には、例えばCMVプロモーターを利用したプラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen社製)ベクターを用いる場合には、CMVプロモーターの下流に位置するNheI、PmeI、AflII、HindIII 、Asp718I、KpnI、BamHI、BstXI、EcoRI、EcoRV、NotI、XhoI、XbaI、DraII、ApaI等の制限酵素サイトに目的の遺伝子を連結することによって、機能可能な形で連結することができる。
【0111】
本発明において「環状ポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチド鎖の端が結合して環状になったポリヌクレオチドであり、具体例として、プラスミドDNA、バクミドDNA等の他に多くの細菌の染色体DNA、があげられる。
【0112】
プラスミドDNAは、比較的低分子の環状ポリヌクレオチドであり、例としては、大腸菌での遺伝子クローニングや遺伝子発現に用いられるpET(Novagen社製)やpBluescriptII(Stratagene社製)等が挙げられる。また、哺乳類細胞での遺伝子発現に用いられるpcDNA(Invitrogen社製)等が挙げられる。
【0113】
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを宿主生物又は宿主細胞で発現可能なプロモーターに機能可能な形で連結してなる環状ポリヌクレオチドは、具体的には、例えば、バクテリオファージのT7RNAポリメラーゼ遺伝子のプロモーター、サイトメガロウィルスのCMVプロモーター、線虫のmyo-2遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片を含む環状ポリヌクレオチドであり、例えば以下に示す方法に従い製造、取得することが可能である。
【0114】
前述の方法に従ってクローニングされたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むプラスミドDNAを鋳型として、EcoRV制限酵素サイトを付加したワタアブラムシのseizure遺伝子に特異的なプライマーとXhoI制限酵素サイトを付加したワタアブラムシのseizure遺伝子に特異的なプライマーを用いて、ワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅する。得られたPCR産物をEcoRV及びXhoIで切断し、得られるワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片を、あらかじめEcoRV及びXhoIで処理したプラスミドベクターpcDNA3(+)(Invitrogen社製)とライゲーションする。こうして得られるプラスミドは、CMVプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片を含む環状ポリヌクレオチドの一例である。
【0115】
また、同様に前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチドをベクターに連結して環状ポリヌクレオチドを製造することができる。
【0116】
本発明において「複製開始点」とは、宿主細胞内で自らを複製するために必要とされる特定のDNA配列である。複製開始点の例として、細菌のプラスミドでは、colE1、f1、pUC等が挙げられる。
【0117】
形質転換体とは、外来のポリヌクレオチドが細胞に導入されることによって遺伝的に改変された真核生物(真核生物細胞)或いは原核生物(原核生物細胞)である。形質転換体としては、例えば、大腸菌での遺伝子クローニングや遺伝子発現に用いられるpET(Novagen社製)やpBluescriptII(Stratagene社製)等のプラスミドが導入されて形質転換された大腸菌細胞等が挙げられる。また、哺乳類細胞での遺伝子発現に用いられるpcDNA(Invitrogen社製)等のプラスミドが導入されて形質転換されたCHO細胞やHEK293細胞といった哺乳類培養細胞等が挙げられる。あるいは、昆虫細胞での遺伝子発現に用いられるpMT(Invitrogen社製)やpAC(Invitrogen社製)等のプラスミドが導入されて形質転換されたショウジョウバエ由来のS2細胞や鱗翅目昆虫Spodoptera frugiperda 卵巣細胞由来のSf9細胞といった昆虫培養細胞等が挙げられる。モデル生物の線虫では、線虫由来のプロモーターに目的の遺伝子を連結したプラスミドが導入されて形質転換された線虫等が挙げられる。
【0118】
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体とは、例えば、バクテリオファージのT7RNAポリメラーゼ遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が導入された形質転換大腸菌、サイトメガロウィルスのCMVプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が導入された形質転換哺乳類細胞、線虫のmyo-2遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が導入された形質転換線虫、等が挙げられる。
【0119】
宿主生物又は宿主細胞へのDNAの導入技術としては、トランスフォーメーション、トランスフェクション、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポーレーション、マイクロインジェクション、パーティクルガン等が挙げられる。線虫では、Melloらの報告(EMBO J. 10 (12), 3959-3970, 1991)やMelloとFireの文献(Methods in Cell Biology 48, 451-482)に記載されるように、主にマイクロインジェクションにより外来遺伝子を導入して形質転換体が作製されているが、Praitisらの報告(Genetics 157, 1217-1226, 2001)やWO99/49066公報に記載されるようにパーティクルガンによる形質転換法も開発されている。
【0120】
線虫の形質転換体は、目的の遺伝子と同時にマイクロインジェクションするマーカー遺伝子の表現型で区別する。マーカー遺伝子は2種類に分けられる。一つは、線虫の動きや形態などの見分けやすい表現型に変化を与えるものである。例えば、右回りのローラー(Rol)表現型を付加するrol-6のように線虫に新たな表現型を付与する変異型の遺伝子と、dpy-20、lin-15、unc-76、unc-4、pha-1、unc-119などのように変異体を宿主に用いて、野生型の遺伝子で表現型をレスキューするものがある。もう一つは、線虫由来のプロモーターの下流に緑色蛍光蛋白質(GFP)などの蛍光蛋白質の遺伝子を連結した蛍光レポーター遺伝子である。
【0121】
pha-1を選抜マーカーとした変異体のレスキューによる形質転換体の選抜は、Granatoらの報告(Nucleic Acids Res. 22, 1762-1763, 1994)に記載のpBXベクターを用いた方法等が挙げられる。pha-1変異体は、20℃以上で成育することができないが、マーカーに用いた野生型の遺伝子が導入された形質転換体は、表現型がレスキューされて20℃以上でも成育することが可能となる。
【0122】
unc-119を選抜マーカーとした変異体のレスキューによる形質転換体の選抜は、Praitisらの報告(Genetics 157, 1217-1226, 2001)に記載のpDPMM#016bベクターを用いた方法等が挙げられる。線虫は、L1幼虫期に個体密度が高く餌が不足した場合、耐性幼虫になり、餌のない状態でも6ヶ月程度生存することができる。unc-119変異体は耐性幼虫になることができないため、飢餓状態では生存することができない。マーカーに用いた野生型の遺伝子が導入された形質転換体は、表現型がレスキューされて飢餓状態でも生存が可能となる。
【0123】
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体は、具体的には、以下の方法に従って作製することが可能である。
【0124】
前記ワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドベクターpET(Novagen社製)やpBluescriptII(Stratagene社製)は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載される方法に従い大腸菌細胞に導入することによって形質転換大腸菌を作製することができる。また、前記の、バクテリオファージのT7RNAポリメラーゼ遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドDNAを用いて、大腸菌DH5αやBL21(DE3)のコンピテントセル(Invitrogen社製)に付属される説明書に記載される方法に従い、大腸菌を形質転換することによって、形質転換大腸菌を得ることが可能である。
【0125】
前記のサイトメガロウィルスのCMVプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドDNAを用いて、リポフェクタミン(Invitrogen社製)、リポフェクチン(Invitrogen社製)、セルフェクチン(Invitrogen社製)等に付属される説明書に記載される方法に従い、CHO細胞やHEK293細胞といった哺乳類細胞に導入することによって形質転換細胞を得ることが可能である。
【0126】
また、前記の線虫のmyo-2遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むDNA断片が導入されたプラスミドDNAを用いて、前述のマイクロインジェクションやパーティクルガンにより外来遺伝子を導入し、形質転換線虫を作製することが可能である。
【0127】
また、前記電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫、あるいは電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞を用いた有害生物防除能力の検定方法に用いる電位依存性カリウムチャネルも、用いる電位依存性カリウムチャネルをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いて、同様の方法で群Aに示される蛋白質を発現する線虫あるいは細胞を製造、取得することが可能である。
【0128】
前記の方法で作製された形質転換体を培養して、産生された昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを回収することによって電位依存性カリウムチャネルを製造することができる。
【0129】
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの転写産物が導入された一過性発現細胞とは、例えば、ワタアブラムシのseizure遺伝子のcRNAを導入されたアフリカツメガエルの卵母細胞が挙げられる。
【0130】
宿主細胞へのRNAの導入技術としては、主にマイクロインジェクションが挙げられる。
前記群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの転写産物が導入された一過性発現細胞は、具体的には、以下の方法に従って作製することが可能である。
雌のアフリカツメガエルを麻酔し、氷冷しながら下腹部を小さく切開して、卵母細胞を含む卵巣を取り出す。卵胞を一部切除し、カルシウムイオンを含まない OR2溶液(82.5mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、5mM HEPES、pH7.4)で洗浄後、16℃で2mg/mlコラゲナーゼ処理を行い、卵母細胞の表面から濾胞細胞を除去する。バクテリオファージのT7RNAポリメラーゼ遺伝子のプロモーターに機能可能な形で連結されたワタアブラムシのseizure遺伝子を含むプラスミドを制限酵素で消化して直鎖上にしたDNA断片を鋳型として、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra(Ambion社製)を用いて、付属の説明書に従ってcRNAを合成する。調製したcRNAは、Drummond Scientific社(Broomall, PA, USA)製のナノリッターインジェクターを用いて、1つの卵母細胞あたり10ng注入する。cRNA注入後の一過的に発現させる。
【0131】
前記群Bに示されるアミノ酸配列からなる昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルは、研究ツールとして使用することができる。例えば、前記の有害生物防除能力の検定や、有害生物防除能力を有する化学物質の探索、等の研究を実施するための研究ツールとして使用することができる。また、例えば、電位依存性カリウムチャネルに作用する薬剤の作用機構を解析する研究においても、電位依存性カリウムチャネルは研究ツールとして利用可能である。
【0132】
また、前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドやそれらに対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、また前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号11乃至15で示される塩基配列からなるポリペプチドは、研究ツールとして使用することができる。例えば、これらの一部は、前記のように電位依存性カリウムチャネルの製造法に用いられるポリヌクレオチドとして機能する。また一部は、前記のようにして、PCRを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、或いは、ハイブリダイゼーションを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、等を実施するための重要な研究ツールとして使用できる。
【0133】
本発明において、「被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における前記細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程と、第一工程により測定された電気生理活性と被験物質を含まない系内における前記細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程を有することを特徴とする方法とは、被験物質が有する電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法を示す。
ここで、群Aとは、前記のアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0134】
第一工程とは、「前記の様々な電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の電気生理的活性測定反応系に被験物質を添加することによって、当該細胞と被験物質を接触させた状態とし、当該細胞の電気生理的活性を測定する工程」である。
【0135】
また、第二工程は、被験物質を測定した時の活性と対照における活性を比較しその差異に基づいて電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する工程である。
【0136】
ここで対照とは、例えば被験物質を溶媒に溶解した状態で反応系に添加した場合には、被験物質を溶解した該溶媒のみを添加した試験区を意味する。
【0137】
第一工程及び第二工程を有する、被験物質が有する電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力の検定方法に使用される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞は、前記群Aに示すアミノ酸配列からなる蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞である。
【0138】
前記群Aに示すアミノ酸配列からなる蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞として、具体的には、前記群Aに示すアミノ酸配列からなる蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現するアフリカツメガエル由来の卵母細胞が挙げられる。
【0139】
本発明において、「被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における前記線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程と、第一工程により測定された電気生理活性と被験物質を含まない系内における前記線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程を有することを特徴とする方法とは、被験物質が有する電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法を示す。
ここで、群Aとは、前記のアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0140】
第一工程とは、「前記の様々な電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の電気生理的活性測定反応系に被験物質を添加することによって、当該線虫と被験物質を接触させた状態とし、当該線虫の電気生理的活性を測定する工程」である。
【0141】
また、第二工程は、被験物質を測定した時の活性と対照における活性を比較しその差異に基づいて電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する工程である。
【0142】
ここで対照とは、例えば被験物質を溶媒に溶解した状態で反応系に添加した場合には、被験物質を溶解した該溶媒のみを添加した試験区を意味する。
【0143】
第一工程及び第二工程を有する、被験物質が有する電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力の検定方法に使用される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫は、前記群Aに示すアミノ酸配列からなる蛋白質をイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫である。
【0144】
前記群Aに示すアミノ酸配列からなる蛋白質ををイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫として、具体的には、前記群Aに示すアミノ酸配列をイオンチャネルとして機能可能な形で発現するCaenorhabdtis elegansが挙げられる。
【0145】
特に、有害生物防除剤のスクリーニングを実施するにあたっては、スクリーニングのために実施する実験の実験ツールとして使用できる。具体的には、前記の有害生物防除能力の検定や、有害生物防除能力を有する化学物質の探索、等を実施するにあたって行う実験のための実験ツールとして使用することができる。
【0146】
更に本発明は、被験物質について、該被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力に係るデータ情報を入力、蓄積又は管理する手段(以下、手段aと記すこともある。)、前記データ情報を所望の条件に基づき照会又は検索する手段(以下、手段bと記すこともある。)、及び、照会又は検索された結果を表示又は出力する手段(以下、手段cと記すこともある。)を具備することを特徴とするシステム(以下、本発明システムと記すこともある。)をも含むものである。
【0147】
まず、手段aについて説明する。手段aは、前記のとおり、前記被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力に係るデータ情報を入力した後、入力された該情報を蓄積又は管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。
【0148】
入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の該情報の入力可能なものが挙げられる。該情報の入力及び蓄積又は管理が完了すれば、次の手段bに進む。尚、該情報の蓄積又は管理には、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウェアとを用いて、データ構造を有する情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0149】
手段bについて説明する。手段bは、前記のとおり、手段aにより蓄積又は管理された前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会又は検索する手段である。かかる情報は、入力手段1により照会又は検索のための条件が入力され、通常記憶手段2に記憶された上記情報の中で該条件に合致したものを選択すれば、次の手段cに進む。選択された結果は、通常、記憶手段2に記憶され、更に表示出力手段3により表示可能となっている。
【0150】
手段cについて説明する。手段cは、前記のとおり、照会又は検索された結果を表示又は出力する手段である。表示出力手段3としては、例えばディスプレイ、プリンタ等が挙げられ、該結果をコンピュータのディスプレイ装置に表示するか、印刷等により紙上に出力するか等すればよい。
【実施例】
【0151】
以下、実施例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0152】
実施例1 (ワタアブラムシ及びチャバネゴキブリからの全RNAの抽出)
(1)ワタアブラムシからの全RNAの抽出
ポット植えのキュウリ葉上で飼育されたワタアブラムシ(Aphis gossypii)の成虫及び幼虫の混合した集団630mgを葉上から細筆又は小さなハケでかきとり、これを液体窒素中で乳鉢及び乳棒を用いて粉末状になるまで破砕した。凍結された破砕粉体からRNA抽出試薬ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを単離した。
乳鉢中の凍結された破砕粉体に10mlのISOGENを加えた後、前記破砕粉体を10分間磨砕した。この時、乳鉢は氷上に置いた状態で操作した。磨砕後、液体状の試料をピペットにて15mlチューブに移し、これに2mlのクロロホルム(和光純薬工業社製)を加えた。直ちに該混合物を15秒間激しく混和した後、これを室温で3分間静置した。次いで静置された混和物を4℃、15分間、12,000×gで遠心分離した後、上層の水相を5mlずつ2本の新しいチューブに移した。ぞれぞれのチューブにISOGENを5ml加え、直ちに該混合物を15秒間激しく混和した後、これを室温で3分間静置した。次いで静置された混和物を4℃、15分間、12,000×gで再度遠心分離した後、上層の水相10mlをそれぞれ新しい50mlチューブに移した。続いて、ぞれぞれのチューブにイソプロパノール(和光純薬工業社製)を10ml加えた後、該混合物を氷上で30分間静置した。静置された混合物を4℃、10分間、12,000×gで遠心分離することにより、RNAを沈殿させた。上清を除去した後、残渣に20mlの70%エタノールを加えた。得られた混合物を4℃、5分間、10,000×gで分離した。上清を除き、チューブの口を下にして3分間静置し、沈殿した全RNAを軽く乾燥させてから、該沈殿を市販のRNase-free water(ナカライテスク社製)1mlに溶解させた。このようにして調製された全RNAの濃度(260 nmの吸光度から算出)は6.9mg/mlであった。
(2)ゴキブリからの全RNAの抽出
人工飼育されたチャバネゴキブリ(Blattella germanica)を成虫、幼虫、卵鞘の3種類の試料として準備した。成虫としては雄10頭及び雌(卵鞘を取り除いた個体)10頭で1.1g、幼虫としては雄10頭及び雌10頭で1.0g、卵鞘としては26個で1.0gを用いた。3種類の試料を別々の乳鉢及び乳棒を用いて、液体窒素中で粉末状になるまで破砕した。凍結された破砕粉体からRNA抽出試薬ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを単離した。乳鉢中の凍結された破砕粉体に10mlのISOGENを加えた後、前記破砕粉体を10分間磨砕した。この時、乳鉢は氷上に置いた状態で操作した。磨砕後、液体状の試料をピペットにて15mlチューブに移し、更に2mlのクロロホルム(和光純薬工業社製)を加えた。直ちに該混合物を15秒間激しく混和した後、これを室温で3分間静置した。次いで静置された混和物を4℃、15分間、12,000×gで遠心分離した後、上層の水相を5mlずつ2本の新しいチューブに移した。ぞれぞれのチューブにISOGENを5ml加え、直ちに該混合物を15秒間激しく混和した後、これを室温で3分間静置した。次いで静置された混和物を4℃、15分間、12,000×gで再度遠心分離した後、上層の水相10mlをそれぞれ新しい50mlチューブに移した。続いて、ぞれぞれのチューブにイソプロパノール(和光純薬工業社製)を10ml加えた後、該混合物を氷上で30分間静置した。静置された混合物を4℃、10分間、12,000×gで遠心分離することにより、RNAを沈殿させた。上清を除去した後、残渣に20mlの70%エタノールを加えた。得られた混合物を4℃、5分間、10,000×gで遠心分離した。上清を除去した後、チューブの口を下にして3分間静置し、沈殿した全RNAを軽く乾燥させてから、該沈殿を市販のRNase-free water(ナカライテスク社製)1mlに溶解させた。このようにして調製された全RNAの濃度(260 nmの吸光度から算出)は、成虫由来の全RNAの場合には1.1mg/ml、幼虫由来の全RNAの場合には2.5mg/ml、卵鞘由来の全RNAの場合には1.4mg/mlであった。
【0153】
実施例2 (ワタアブラムシのseizure遺伝子の単離)
ワタアブラムシ全RNAからのcDNA第1鎖は、RT-PCR用のRandom Primers (Invitrogen社製)及びSuperscript III (Invitrogen社製)を用いて、該試薬に付属される説明書に従って合成した。
ワタアブラムシのseizurecDNA全長は、該遺伝子配列に特異的なプライマーである配列番号11に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号12に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとExpand Long Template PCR System(Roche社製)とを用いて、かつ実施例1に示したワタアブラムシのcDNAを鋳型として、該試薬に付属される説明書に従ってPCRにより増幅した。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとした。即ち、最初に94℃、2分間、続いて94℃、30秒間、70℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、68℃、4分間を10サイクルとし、その後、更に94℃、30秒間、60℃、30秒間、68℃、30秒間から1サイクルにつき10秒の増加を伴い25サイクルとし、最後に68℃、7分間とした。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得した。更にこのようにして取得されたDNA断片を、TOPO XL vector(Invitrogen社製)にクローニングした後、塩基配列を決定したところ、D1、D2、E1、E2の4種類のスプライスバリアントが存在した(D1:配列番号2、D2:配列番号4、E1:配列番号6、E2:配列番号8)。4種類の塩基配列を模式的に図1に示した。DとEでは5'末端の塩基配列が異なり、Eの方が約270bpほど長かった。また、D1とE1は、3'末端から1kb上流に配列番号9で示す96bpの挿入配列を含んでいた。配列番号2、4、6、8の塩基配列から推定されるアミノ酸配列は、配列番号1、3、5、7に示されるアミノ酸配列であった。なお、5'末端および3'末端の非翻訳領域は共通であり、非翻訳領域を含むD1の塩基配列を配列番号10で示した。
【0154】
実施例3 (ゴキブリのseizure遺伝子の単離)
チャバネゴキブリ(Blatella germanica)等の他の昆虫種におけるseizure相同遺伝子を得るために、Codehop program(Fred Hutchinson Cancer Research Center が運営するBlocks Protein Analysis Server のウェブサイトから公的に利用可能 http://blocks.fhcrc.org/blocks/codehop.html)を利用してディジェネレートプライマーを設計する。この時、前述のワタアブラムシseizureのアミノ酸配列及び既に公知であるヒト(NCBI accession number Q12809およびQ9H252)、線虫 Caenorhabditis elegans(NP_49782)、キイロショウジョウバエ(AAM68296)、ガンビエハマダラカ(XP_308166)等のアミノ酸配列を参考にする。
選択された昆虫種におけるseizure相同遺伝子の部分配列は、該昆虫種由来のcDNA第1鎖を鋳型とした一連のPCRにより増幅する。ここで、鋳型とするcDNA第1鎖は、前述のSuperscript IIIを用いた方法により調製する。PCRには、フォワードプライマー及びリバースプライマーとしてそれぞれのディジェネレートプライマーとAmplitaq Gold (Applied Biosystems社製)とを用いて、該試薬に付属される説明書に従ってPCRにより増幅する。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に94℃、5分間、続いて94℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、1分30秒間を10サイクルとし、更に94℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分30秒間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、塩基配列を決定する。このようにして、チャバネゴキブリのseizure相同遺伝子の部分配列を取得する。
次に、得られた昆虫のseizure相同遺伝子の部分配列に対する特異的プライマーを設計し、該遺伝子の全長配列を獲得するために、3' RACE PCR 又は5' RACE PCRを実施する。3’RACE PCRは、SMART PCR cDNA Synthesis Kit (Clontech社製)を用いて、昆虫の全RNAより調製されたcDNA第1鎖を鋳型として、該キットに付属の説明書に従って行う。5’RACE PCRは、5’/3’RACE Kit, 2nd Generation (Roche社製)を用いて、昆虫の全RNAより調製されたcDNA第1鎖を鋳型として、該キットに付属の説明書に従って行う。
5’RACE反応には、5’/3’RACE Kit, 2nd Generationに同梱されているOligo-d(T)-anchor primer1をフォワードプライマーとし、目的の遺伝子配列に特異的なリバースプライマーを用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、40秒間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、40秒間から1サイクルにつき20秒の増加を伴いを25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
1回目のPCRで明確な増幅産物が得られない場合には、1回目のPCR産物を鋳型としてnested PCRを行う。プライマーは、5’/3’RACE Kit, 2nd Generationに同梱されているPCR Anchor Primerをフォワードプライマーとし、1回目のPCRに用いた特異的プライマーよりも内側に設計された特異的なリバースプライマーを用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、40秒間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、40秒間から1サイクルにつき20秒の増加を伴い25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
3’RACE反応には、目的の遺伝子配列に特異的なフォワードプライマーと、SMART PCR cDNA Synthesis Kitに同梱されているuniversal primer mix (UPM)をリバースプライマーとして用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、1分間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
1回目のPCRで明確な増幅産物が得られない場合には、1回目のPCR産物を鋳型としてnested PCRを行う。プライマーは、1回目のPCRに用いた特異的プライマーよりも内側に設計された特異的なフォワードプライマーと、SMART PCR cDNA Synthesis Kitに同梱されているNUP primerをリバースプライマーとして用いる。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとする。即ち、最初に95℃、5分間、続いて95℃、30秒間、60℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、1分間を10サイクルとし、更に95℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とする。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析・精製することにより、目的のDNA断片を取得する。更にこのようにして取得されたDNA断片をpCR4-TOPO vector (Invitrogen社製)にクローニングした後、該DNA断片の塩基配列を決定する。
以上の配列決定により、昆虫のseizureのN末端領域をコードする5'末端配列及びC末端領域をコードする3'末端配列を明らかにする。
【0155】
実施例4 (組み換え線虫作製用プラスミドの構築)
組み換え線虫作製用ベクターにクローニングするワタアブラムシ由来のseizure遺伝子断片は、実施例2に示したTOPO XL vector(Invitrogen社製)にクローニングしたワタアブラムシ由来のseizureのスプライスバリアントD1、D2、E1、E2をそれぞれ鋳型として、各遺伝子配列に特異的なプライマーを用いてPCRにより増幅した。
D1の場合、遺伝子配列に特異的なプライマーである配列番号13に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号14に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、PerfectShot ExTaq(タカラバイオ社製)により該試薬に付属の説明書に従ってPCRにより増幅した。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとした。即ち、最初に94℃、5分間、続いて94℃、30秒間、80℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、4分間を10サイクルとし、その後、更に94℃、30秒間、70℃、30秒間、72℃、4分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とした。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析後、目的のDNA断片をTOPO XL vector(Invitrogen社製)にクローニングし、TOPO-XL-D1とした。
配列番号13で示すプライマーはNheI制限酵素サイトを含んでおり、配列番号14で示すプライマーはNcoI制限酵素サイトを含んでいるので、TOPO-XL-D1と線虫由来のmyo-2プロモーターを含む組み換え線虫作製用ベクターpDW2700(Devgen社製、WO2003097682公報に記載)をNheIとNcoIで切断した。ワタアブラムシのERG型電位依存性カリウムチャネルD1のNheI/NcoI DNA断片と、NheI/NcoIで消化した組み換え線虫作製用ベクターpDW2700をアガロースゲル電気泳動により分析し、Quiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)により精製した。Takara ligase I(タカラバイオ社製)を用いて、精製した両DNA断片をライゲーションし、pGBB010とした。
D2の場合、遺伝子配列に特異的なプライマーである配列番号13に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号14に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、PerfectShot ExTaq(タカラバイオ社製)により該試薬に付属の説明書に従ってPCRにより増幅した。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとした。即ち、最初に94℃、5分間、続いて94℃、30秒間、80℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、4分間を10サイクルとし、その後、更に94℃、30秒間、70℃、30秒間、72℃、4分間を25サイクルとし、最後に72℃、7分間とした。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析後、目的のDNA断片をTOPO XL vector(Invitrogen社製)にクローニングし、TOPO-XL-D2とした。
配列番号13で示すプライマーはNheI制限酵素サイトを含んでおり、配列番号14で示すプライマーはNcoI制限酵素サイトを含んでいるので、TOPO-XL-D2とmyo-2プロモーターを含む組み換え線虫作製用ベクターpDW2700(Devgen社製)をNheIとNcoIで切断した。ワタアブラムシseizureD2のNheI/NcoI DNA断片と、NheI/NcoIで消化した組み換え線虫作製用ベクターpDW2700をアガロースゲル電気泳動により分析し、Quiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)により精製した。Takara ligase I(タカラバイオ社製)を用いて、精製した両DNA断片をライゲーションし、pGBB014とした。
E1およびE2の場合、遺伝子配列に特異的なプライマーである配列番号15に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号14に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、Takara LA Taq(タカラバイオ社製)により該試薬に付属の説明書に従ってPCRにより増幅した。PCRの条件は後述のようなタッチダウンPCRとした。即ち、最初に94℃、5分間、続いて94℃、30秒間、70℃から1サイクルにつき1℃の減少を伴い30秒間、72℃、4分間を10サイクルとし、その後、更に94℃、30秒間、60℃、30秒間、72℃、30秒間から1サイクルにつき10秒の増加を伴い25サイクルとし、最後に72℃、7分間とした。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分析後、目的のDNA断片を、TOPO XL vector(Invitrogen社製)にクローニングし、TOPO-XL-E1-MUTおよびTOPO-XL-E2-MUTとした。しかし、シークエンス解析の結果、鋳型のE1およびE2の塩基配列と完全に一致するクローンが得られなかった。そこで、5'末端以外の領域の塩基配列が同一なD1とE1およびD2とE2の組み合わせを利用して、前述のTOPO-XL-D1およびTOPO-XL-D2を用いて次の操作によりTOPO-XL-E1-MUTおよびTOPO-XL-E2-MUTを改変した。
TOPO-XL-D1およびTOPO-XL-E1-MUTは、TOPO XL vector(Invitrogen社製)上のHindIII制限酵素サイトを含み、D1およびE1遺伝子の5'上流域にBsgI制限酵素サイトを含んでいるため、HindIIIおよびBsgI制限酵素サイトに挟まれた5'上流域断片の入れ替えを行った。まず、TOPO-XL-D1をHindIIIおよびBsgIで消化し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行って、D1の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片を除去した。続いて、TOPO-XL-E1-MUTをHindIIIおよびBsgIで消化し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行って、E1の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片を取得した。BsgI制限酵素サイトより下流の領域はD1とE1で共通であるため、Takara ligase I(タカラバイオ社製)を用いて、得られたE1の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片とD1の5'上流域を除去したTOPO-XL-D1をライゲーションし、正しいE1の塩基配列を有するTOPO-XL-E1とした。
TOPO-XL-D2およびTOPO-XL-E2-MUTは、TOPO XL vector(Invitrogen社製)上のHindIII制限酵素サイトを含み、D2およびE2遺伝子の5'上流域にBsgI制限酵素サイトを含んでいるため、HindIIIおよびBsgI制限酵素サイトに挟まれた5'上流域断片の入れ替えを行った。まず、TOPO-XL-D2をHindIIIおよびBsgIで消化し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行って、D2の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片を除去した。続いて、TOPO-XL-E2-MUTをHindIIIおよびBsgIで消化し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行って、E2の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片を取得した。BsgI制限酵素サイトより下流の領域はD2とE2で共通であるため、Takara ligase I(タカラバイオ社製)を用いて、得られたE2の5'上流域を含むHindIII/BsgI断片とD2の5'上流域を除去したTOPO-XL-D2をライゲーションし、正しいE2の塩基配列を有するTOPO-XL-E2とした。
TOPO-XL-E1およびTOPO-XL-E2に含まれるE1およびE2遺伝子は、NheI制限酵素サイトおよびNcoI制限酵素サイトに挟まれているので、TOPO-XL-E1およびTOPO-XL-E2をNheIとNcoIで切断した。組み換え線虫作製用ベクターpDW2700(Devgen社製)も同様にNheIとNcoIで切断した。E1およびE2のNheI/NcoI DNA断片とNheI/NcoIで消化したpDW2700をアガロースゲル電気泳動により分析し、Quiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)により精製した。E1のNheI/NcoIDNA断片とpDW2700、E2のNheI/NcoI DNA断片とpDW2700をそれぞれTakara ligase I(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションした。
【0156】
実施例5 (電気生理実験用プラスミドの構築)
実施例4に示したTOPO-XL-D1、TOPO-XL-D2、TOPO-XL-E1、TOPO-XL-E2を制限酵素NheIで処理し、粘着末端をKlenow酵素によって平滑化した。さらに制限酵素EcoRIで消化後、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行って、ワタアブラムシ由来の4種類のseizureスプライスバリアント(D1、D2、E1、E2)の各DNA断片を取得した。電気生理試験用ベクターpcDNA3.1(+)-X(IonGate社製、Invitrogen社製のベクターpcDNA3.1(+)にアフリカツメガエル由来の-blobin遺伝子の5'および3'非翻訳領域を挿入したベクター)を制限酵素BamHIで処理し、粘着末端をKlenow酵素によって平滑化した。さらに制限酵素EcoRIで消化し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行った。前述のD1、D2、E1、E2の各DNA断片とpcDNA3.1(+)-XをそれぞれTakara ligase I(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションし、pcDNA3.1X-D1、pcDNA3.1X-D2、pcDNA3.1X-E1、pcDNA3.1X-E2とした。これらの4種類のプラスミドはアフリカツメガエルの卵母細胞を用いたTwo-electrode voltage clamp法(TEVC法)による電気生理学実験に用いた。
実施例4に示したワタアブラムシのseizure D2を含むpGBB014を制限酵素NheIで処理し、粘着末端をMung Bean Nuclease(New England Biolabs社製)によって平滑化した。さらに制限酵素XhoIで消化後、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行った。一方、Invitrogen社製ベクターpcDNA3(+)を制限酵素EcoRVおよびXhoIで処理し、アガロースゲル電気泳動による分析およびQuiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)による精製を行った。D2のDNA断片とpcDNA3(+)をTakara ligase I(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションし、pGBB036とした。このプラスミドは、CHO細胞を用いたパッチクランプ法による電気生理学実験に用いた。
【0157】
実施例6 (アフリカツメガエル卵母細胞を用いたTEVC法による電気生理学的解析)
ワタアブラムシ由来の4種類のseizureスプライスバリアント(D1、D2、E1、E2)について、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いたTwo-electrode voltage clamp法(TEVC法)による電気生理学的解析により、遺伝子組み換え線虫の作製に最適な遺伝子を選抜した。
水の循環および清浄化を継続的に維持するために、エアーポンプと濾過装置を備えた水槽で雌のアフリカツメガエルを飼育した。アフリカツメガエルは、NASCO(Fort Atkinson, WI, USA)から実験室飼育系統を購入し、乾燥試料に順応させて実験に用いた。アフリカツメガエルは、水温を18℃に保った水道水中で飼育し、人工的に12時間ずつの明暗サイクルを与えた。2g/lのトリカイン水溶液を用いてアフリカツメガエルを麻酔し、続いて氷冷した。下腹部を小さく切開して、卵母細胞を含む卵巣を取り出した。卵胞を一部切除し、カルシウムイオンを含まない OR2溶液(82.5mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、5mM HEPES、pH7.4)で洗浄後、16℃で2mg/mlコラゲナーゼ処理を行い、卵母細胞の表面から濾胞細胞を除去した。コラゲナーゼ処理後、卵母細胞はOR2溶液で洗浄し、終濃度50mg/lのGentamycinを添加したOR2溶液中で保存した。
実施例5で作製した4種類の電気生理実験用プラスミド(pcDNA3.1X-D1、pcDNA3.1X-D2、pcDNA3.1X-E1、pcDNA3.1X-E2)を制限酵素XbaIで消化して直鎖上にしたDNA断片を鋳型として、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra(Ambion社製)を用いて、付属の説明書に従ってcRNAの合成を行った。調製したcRNAは、Drummond Scientific社(Broomall, PA, USA)製のナノリッターインジェクターを用いて、1つの卵母細胞あたり10ng注入した。cRNA注入後の卵母細胞は、Gentamycinを添加したOR2溶液中で、16℃、1-6日間培養し、目的の遺伝子を発現させた。
全ての電気生理実験は、ND96標準液(96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、pH7.4)中で行った。供試化合物は、100mMの濃度でDMSOに溶解し、使用直前にND96標準液で目的の濃度に希釈した。最高供試濃度(100μM)における試験系中のDMSO濃度は0.1%であった。このDMSO濃度は、電流の測定に影響を与えなかった。
npi electronics社(Tamm, Germany)製の増幅器TEC-03XおよびソフトウェアCellworksを用いて、Two-electrode voltage clamp法により電気生理測定を行った。実験データの記録は室温(20−25℃)で行った。微小電極は 3M KClで満たし、電気抵抗値は0.2-1.5MΩとした。記録中を通して、卵母細胞はND96で灌流された状態とした。電位パルスを与える間、卵母細胞は保持電位-80mVに固定した。試験プロトコールは図2に示した。protocol IVは標準的なプロトコールとして、イオンチャネルの電流電圧関係を記録するために用いた。protocol activationおよびprotocol hERG tail currentはチャネルがヒトERGと類似の挙動を示すか確認するために用いた。
化合物の活性は、protocol IVを用いて次の手順で測定した。まず、ND96で灌流された卵母細胞にprotocol IVの連続パルスを3回繰り返して与えた。次に、ND96に溶解した化合物存在下で、この連続パルスを卵母細胞に6回繰り返して与えた。実験条件が十分な場合には、続けて試験化合物の洗い出し実験を行った。洗い出し実験では、再びND96で卵母細胞を灌流し、この連続パルスを3−6回繰り返して与えた。
各試験濃度において、最後の3回の連続パルスにおける電流波形の振幅を平均し、算出された電流値を阻害度の算出に用いた。ND96のみで測定した時の電流値を基準として、データを補正した。データ解析は、Microsfot社(Redmond, WA, USA)製ソフトウェアExcelおよびOriginLac社(Northampton, MA, USA)製ソフトウェアOriginを用いた。IC50値はヒルの式を用いて求めた。
protocol IVを用いて、4種のスプライスバイアントが機能的なカリウムチャネルとして発現しているか確認した。表3に示すとおり、D1、D2、E2が機能的なカリウムチャネルとして発現したが、E1はこの試験系において活性を示さなかった。D2が最大の電流応答を示したため、化合物の選抜に用いる組み換え線虫の作製に最適であると判断した。
【0158】
【表3】


次に、protocol activationを用いて不活性化の有無を確認したところ、D1、D2、E2は不活性化をほとんど示さなかった。さらに、protocol hERG tail currentを用いてヒトERGと挙動を比較したところ、図3AのヒトERGの電気生理応答で認められるERG型チャネル特有のtail currentが、図3Bのワタアブラムシseizure D2の電気生理応答では認められなかった。この結果は、D1およびE2でも共通していた。ショウジョウバエseizureやヒトERGと相同性が高いにもかかわらず、ワタアブラムシseizureは電気生理学的にEAGチャネルに類似の挙動を示した。
そこで、チャネルの機能に関連するアミノ酸配列を比較した。表4に示すとおり、ヒトERGのSer620はワタアブラムシseizureにおいて保存されていたが、対照的にヒトEAGではAlaが位置していた。しかしながら、ヒトERGのSer631はワタアブラムシseizureにおいてAlaに置換されており、このAlaはヒトEAGにおいても確認された。前述のtail currentの有無とアミノ酸配列の比較から、ワタアブラムシseizureはERGとEAGを混合した特徴を有していた。
【0159】
【表4】


最後に、ワタアブラムシseizure D2について薬理学的解析を行った。hERGの選択的ブロッカーであるdofetilide(図4A)およびERG/EAGの両者にブロッカーとして作用するclofilium(図4B)を対照薬に用いた。dofetilideがワタアブラムシseizure D2に中程度の影響(IC50〜23μM)を与えたのに対し、ERG/EAGの両者にブロッカーとして作用するclofiliumは、D2に対して強力に作用した(IC50〜1μM)。このことは、D2がERG/EAGを混合した特徴を有することに一致していた。以上のことから、D2が電位依存性カリウムチャネルとして機能しており、ERG/EAG調節剤がD2の活性に影響を及ぼすことが示された。
【0160】
実施例7 (ホールセルパッチクランプ法による電気生理学的解析)
ワタアブラムシseizure D2を発現させたCHO細胞を用いて、ホールセルパッチクランプ法により電位依存性カリウムチャネル活性を測定した。
一般的な組織培養の手順に従って、実施例5で作製したpGBB036を一過的にCHO細胞に導入した。遺伝子導入が成功していることを確認するために、蛍光マーカーであるGFP遺伝子をCHO細胞に同時導入した。pGBB036とマーカー遺伝子の割合は10:1とした。遺伝子導入が成功した細胞は、落射型蛍光顕微鏡により簡便に同定することが可能であった。24時間培養した後、遺伝子導入した細胞は分注して凍結し、直ちに−150℃で凍結保存した。電気生理実験を実施する前日に、凍結保存した細胞を新鮮な培地に再び懸濁し、シャーレの中に敷いた12mm径のカバーガラス上に細胞を蒔いた。シャーレは、5%濃度のCO条件下で37℃に保温した。24時間後、培地を交換し、カバーガラスをパッチクランプ装置のチャンバー内に移した。
ホールセルパッチクランプ法による記録は、一つのCHO細胞に対して実施した。一般的なパッチクランプ用の微小電極は、ホウケイ酸ガラスキャピラリーから作製し、電気抵抗値は5−7MΩとした。ホールセル記録用の電極内液は、potassium gluconate 130 mM、Na-G-gluconate 2 mM、HEPES 20 mM、MgCl24 mM、Na2ATP 4 mM、NaGTP 0.4 mM、EGTA 5 mM、pH 7.3とした。記録したシグナルは全てWarner Instruments社(Hamden, CT, USA)製の増幅器PC-501Aによって増幅し、その後10kHzでデジタル化した。データの保存と解析は、WINWCPソフトウェア(Version 3.5.2, Dr. J. Dempster, University of Strathclyde Electrophysiology Software)、WINWDRソフトウェア (Version 2.7.0, Dr. J. Dempster, University of Strathclyde Electrophysiology Software) 、Microsoft Office Excel 2003を用いた。
D2を発現したCHO細胞にclofiliumを30μMで処理したところ、図5に示すとおり、無処理(青線)に対してclofilium処理(赤線)ではチャネルの活性が86%阻害された。
【0161】
実施例8 (マイクロインジェクションによる組み換え線虫の作製)
ワタアブラムシseizureD2を導入した遺伝子組み換え線虫を、次の手順に従って、マイクロインジェクションにより作製し、UG2242(遺伝子型:pha-1 (e2123ts) III; bgEx1259 [pha-1; myo-2 :: ahid seizure (D2) ; myo-3 :: gfp])とした。UG2242は、myo-2プロモーターの下流にワタアブラムシseizureを連結した遺伝子を染色体外DNAアレイとして保持していた。
マイクロインジェクションには、次の手順で作製するアガロースパッドを検体ホルダーとして用いた。電気泳動グレードのアガロース(GIBCO BRL社製)を2%になるように調製し、スライドグラス上に20μl滴下した。もう一枚のスライドグラスを滴下したアガロースの上に重ね、10秒後に上のスライドガラスを取り除いた。アガロースが薄いパッド状に広がったスライドガラスを65℃で一晩乾燥させた。ナリシゲ社製ニードルプラーPC-10を用いて、ホウケイ酸ガラスキャピラリーGC120F-10(SDR社製)からマイクロインジェクション用の針を作製した。針は0.5μlのDNAミックスで満たした。注入するDNAミックスは、導入するD2遺伝子を含むベクターpGBB014を5ng、選抜マーカーとしてpha-1遺伝子を含むベクターpBX(Granato et al., Nucleic Acids Res. 22, 1762-1763, 1994 に記載)を5ng、もう一つのマーカー遺伝子としてGFP遺伝子を含むベクターpDW2821(線虫由来のmyo-3プロモーターの下流にGFP遺伝子を連結したもの)を10ng、キャリアーDNAとして線虫ゲノムDNAを80ng、を全てM9バッファー1μl中に混合して作製した。
アガロースパッド上にミネラルオイル(Sigma社製、400-5)1滴落し、pha-1変異体の若い雌雄同体の線虫をオイルの中に置いた。マイクロインジェクション用の針はマイクロマニピュレーター(Leitz社製)に取り付けた。倒立型顕微鏡(Zeiss社製、Axiovert)で観察しながら、生殖巣と針の先端に焦点を合わせた。生殖巣へ針を突き刺し、Transjector 5246(エッペンドルフ社製)を用いてDNAミックスを注入した。マイクロインジェクション終了後、50μlのM9バッファーを滴下し、線虫を回復させた。最後に、線虫の餌である大腸菌OP50株を塗布した3cmのNGM(Nematode Growth Medium)寒天培地に移した。
pha-1選抜システムを用いるために、マイクロインジェクション後の線虫(P0世代)を15℃で飼育し、後代(F1世代)を取得した。次に、F1世代を集めて20−25℃に移し、生存した次世代を形質転換体として獲得した。この生存した次世代について、15℃から20℃に移して再び生存率を求め、pha-1選抜システムの存在を確認した。また、GFP蛍光による体壁筋の可視化により、myo-3::gfpマーカー遺伝子の存在を確認した。PCRにより、導入したワタアブラムシseizure遺伝子の存在を確認した。
同様の方法で、D1、E1、E2についても形質転換体の作製が可能である。
コントロール系統であるUG2234(遺伝子型:pha-1 (e2123ts) III; bgEx1253 [pha-1; myo-3 :: gfp])も上記と同様の方法で作製した。この系統は、pha-1選抜マーカー遺伝子とmyo-3::gfpマーカー遺伝子を持つため、これらのマーカーシステムが実施例10に示す線虫の咽頭電位図に影響を与えないことを確認するために用いた。
【0162】
実施例9(パーティクルガンによる組み換え線虫の作製)
次の手順に従って、パーティクルガンを用いてハイスループットスクリーニングに適した遺伝子組み換え線虫を作製し、UG2346(遺伝子型:+/+; bgls1289[myo-2 :: ahid seizure (D2) ; unc-119 unc-119])とした。UG2346は、ゲノム中に少コピー数のmyo-2 :: aphid seizure (D2)遺伝子が組み込まれた系統である。
UG2346は、パーティクルガン法によって作製された。この技術を用いて導入遺伝子がゲノムに組み込まれた系統を作製するために、unc-119変異体DP38(遺伝子型:unc-119 (ed3)III)にDNAをコーティングした金粒子を撃ち込んだ。コーティングしたDNAは、導入するワタアブラムシseizureD2遺伝子を含むpGBB014 (myo-2 :: aphid seizure (D2))と選抜システムであるunc-119断片を含むプラスミドpDPMM#016b(Praitis et al., Genetics 157, 1217-1226, 2001 に記載)を用いた。
unc-119変異体は液体培地中で培養した。培養液中の線虫の大部分が終齢幼虫(L4幼虫)または若い成虫の時点で、線虫を回収し、500mlのM9バッファーで少なくとも5回洗浄した。各洗浄操作の間に10〜15分間静置して、線虫を沈降させた。その後、線虫を50mlチューブに移し、再度、沈降させた。沈降させた線虫0.5mlを形質転換に用いた。
シリコン処理した1.5mlチューブ(Scientific Plastics社製)に1.5-3.0ミクロンの金粒子(Sigma-Aldrich社製)を15mg入れた。70%エタノールを1ml加え、ボルテックスミキサーを用いて少なくとも5分間攪拌した。15分間静置して金粒子を沈降させた。遠心機で手早く遠心沈殿させた後、上清を取り除いた。続いて、脱イオン水を1ml加え、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した後、1分間静置して金粒子を沈降させ、上清を取り除いた。この操作は3回繰り返した。最後に、250μlの50%グリセロールを添加し、ボルテックスミキサーを用いて1分間攪拌した。
pDPMM#016bおよびpGBB014の2種類のプラスミドをそれぞれ2.5μg用意し、直鎖状にしてからQuiaquick spin column(Qiagen社製)で精製した。1/10量の7.5M酢酸ナトリウムと2倍量の100%エタノールを添加し、遠心機を用いて30分間DNAを遠心沈殿させた。上清を取り除き、沈殿したDMAを200μlの70%エタノールで洗浄した。遠心機を用いて10分間DNAを遠心沈殿させた。上清を取り除き、沈殿したDMAを乾燥させた。DNAは終濃度が1μg/μlとなるように脱イオン水に溶解した。
10μlの金粒子に、DNA溶液1μl2.5MCaCl210μl、0.1Mスペルミジンを混合し、ボルテックスミキサーを用いて3分間攪拌した。遠心機で手早く遠心沈殿させた後、上清を取り除いた。金粒子の沈殿物を30μlの70%エタノールに再懸濁し、再び遠心機で手早く遠心沈殿させた後、上清を取り除いた。金粒子の沈殿物を10μlの100%エタノールに再懸濁した。
沈降させたunc-119変異体0.5mlを3mlのM9バッファーに再懸濁した。ピペットで300μlを抜き取り、4.5cmの寒天培地に広げた。
DNAをコーティングした金粒子をピペッティングおよびボルテックスミキサーを用いて再懸濁した。ステンレス製のスウィニーフィルターホルダー13 mm(ミリポア社製)に10μlの金粒子懸濁液を充填し、ヘリウムガスの圧力を利用した遺伝子撃ち込み装置に取り付けた。この装置を用いて、ガスの圧力(8bar、10ミリ秒間)で金粒子を加速させ、線虫に撃ち込んだ。線虫が回復するまで1時間静置した後、M9バッファーで線虫を回収し、9cmの寒天培地に移した。
寒天培地は20℃で12日間培養した。12日間の培養後、餌が枯渇し、線虫が飢餓状態になった。形質転換体は、耐性幼虫を経由してこの飢餓状態の期間を生存することができたが、非形質転換体は生存できなかった。
この選抜によって、生存可能な形質転換体をスクリーニングした。選抜した線虫が野生型と同様の運動を示すことを確認した。形質転換体を単離し、1匹ずつ別々のシャーレに移した。これらの線虫は、金粒子を撃ち込んだP0世代から見てF2世代であった。導入した遺伝子がゲノムに挿入された系統を同定するために、F2世代の次世代を繁殖させた。F2世代を親とした時、次世代(F3)における形質転換体の割合が75%(ヘテロ接合型)あるいは100%(ホモ接合型)の場合、導入遺伝子がゲノムに組み込まれた系統とみなした。UG2295(遺伝子型:unc-119; bgls1289 [myo-2 :: aphid seizure (D2); unc-119−unc-119])が選抜され、PCRによってpGBB014 (myo-2 :: aphid seizure (D2))が存在することを確認した。
このようにランダムにゲノムに導入遺伝子が組み込まれる手法では、複数のプラスミドが挿入されている系統や、不要な表現型を生じさせる遺伝子に導入遺伝子ga挿入された系統が出現する可能性があるため、UG2295を野生型線虫に対して戻し交配した。2度の戻し交配を経て、最終的にUG2346(遺伝子型:+ / +; bgls1289 [myo-2 :: aphid seizure (D2); unc-119−unc-119])を獲得した。
同様の方法で、D1、E1、E2についても導入遺伝子がゲノムに組み込まれた形質転換体の作製が可能である。
【0163】
実施例10 (組み換え線虫の咽頭電位図)
一過的な形質転換系統であるUG2242および安定な形質転換系統であるUG2346を用いて、咽頭電位図を記録することにより、導入したワタアブラムシseizure遺伝子が機能可能な形で発現していることを確認した。
20℃で飼育した線虫の成虫を準備した。ポンピングを促進する20mMセロトニンを含むDent’s 生理食塩水(composition in mM; D-glucose 10 mM, HEPES 10 mM, NaCl 140 mM, KCl 6 mM, CaCl2 3 mM, MgCl2 1 mM, pH 7.4)をチャンバー内液とし、線虫をチャンバー内へ入れた。マイクロピペット内の電極にチャンバー内液であるDent’s 生理食塩水が触れるまで吸引した。穏やかに吸引し、線虫の頭部を記録用ピペットの先端に挿入した。データはアンプ(Multiclamp 700-A, Axon instruments社)およびA/Dコンバータ(Digidata 1322A, Axon instruments社)により取得した。
コントロール系統であるUG2234(遺伝子型:pha-1 (e2123ts) III; bgEx1253 [pha-1; myo-3 :: gfp])の咽頭電位図を図6Aに示した。一方、ワタアブラムシseizure D2を導入した遺伝子組み換え線虫UG2242(遺伝子型:pha-1 (e2123ts) III; bgEx1259 [pha-1; myo-2 :: ahid seizure (D2) ; myo-3 :: gfp])の咽頭電位図を図6Bに示した。コントロール系統であるUG2234に比べ、ワタアブラムシseizure D2を導入したUG2242では、咽頭電位図において活動電位の持続時間が減少し、電位波形の長さが減少するという特長的な変化が引き起こされた。コントロール系統であるUG2234では活動電位の持続時間が200±50msであったのに対して、ワタアブラムシseizure D2を導入したUG2242においては50msまで減少した。安定な形質転換系統であるUG2346においても、同様の結果が得られた

ワタアブラムシseizureを発現する組み換え線虫において、導入したワタアブラムシseizureの活性が薬理学的に調節することが可能であることを検証し、組み換え線虫が化合物のスクリーニングに活用するツールとなることを確認するために、ERG/EAGの両者にブロッカーとして作用するclofiliumをワタアブラムシseizure D2を導入したUG2242に処理した。咽頭電位図を記録したところ、clofilium処理前(図7A)では電位波形の長さが有意に減少していたが、5μM clofilium処理を5分間(図7B)行うと、電位波形の長さが有意に増加し、15分後(図7C)には野生型と同様の電位波形になった。これは、clofiliumが組み換え線虫で発現しているワタアブラムシseizureを遮断することが可能であり、薬理学的に組み換え線虫の正当性が確認されたことを示していた。
同様の方法で、組み換え線虫においてD1、E1、E2が機能可能な形で発現していることを確認することが可能である。
【0164】
実施例11 (組み換え線虫の摂食行動活性を阻害する化合物の選抜)
遺伝子改変した線虫の咽頭において、ワタアブラムシseizureにおける電気的活性の変化は、咽頭の活動即ち食物の取り込みに影響を与える。従って、ワタアブラムシseizureの活性を変化させる能力を、遺伝子組み換え線虫の食物の取り込みを変化させる能力として測定することができる。
線虫の食物の取り込みは、蛍光色素前駆体を培地中に添加する方法により測定した。具体的には、線虫が経口摂取した蛍光色素前駆体が、腸内で酵素的に蛍光色素に変換され、遺伝子組み換え線虫が発する蛍光シグナルが増加するため、線虫の食物の取り込みを線虫が発する蛍光シグナルとして測定することができた。
ワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を変化させる活性の測定は、ワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫を含む液体培地中に蛍光色素前駆体を添加し、線虫が経口摂取した蛍光色素前駆体の取り込みを、線虫が発する蛍光シグナルとして検出した。蛍光色素前駆体の取り込みを摂食行動活性とした時、被験物質が摂食行動活性に与える影響をワタアブラムシseizureの活性に与える影響として評価した。
ワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫は、実施例9で作製した組み換え線虫UG2346を用い、蛍光色素前駆体としてカルセインAM(Molecular Probes社製)を添加した。カルセインAMから変換される蛍光物質カルセインをexcitation 485nm、emission 535nmで測定し、線虫の摂食行動活性を算出した。
該活性測定に、最終濃度が30μMとなるようにDMSOに溶解されたclofiliumを含ませた時のワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を測定した。また、clofiliumの代わりにDMSOを含ませた時のワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を測定した。次いでclofiliumの代わりにDMSOを含ませた時の線虫の摂食行動活性測定値に対する、DMSOに溶解されたclofiliumを含ませた時の線虫の摂食行動活性測定値の割合(%)を算出し、阻害度(%)とした。
また上記の活性測定に、最終濃度が各々、100μM、30μM、10μM、3μM、1μM、0.3μM、0.1μM、0.03μMとなるような濃度でDMSOに溶解されたClofiliumを含ませた時のワタアブラムシseizureを機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を測定した。試験化合物における各濃度での結果から濃度依存性試験解析ソフトXL fit(IDBS社製)を用いてIC50(μM)を算出した。その結果を、実施例12の結果と合わせて実施例11における表6に示した。
上記と同様の方法で、複数の化合物の中からワタアブラムシseizureの活性を阻害する能力を有する化合物を選抜することが可能である。
【0165】
実施例12 (殺虫活性試験)
下記の組成(表5)からなる滅菌済み人工飼料を調製した。次いで、最終濃度が3.2ppmとなるようにDMSOに溶解された試験化合物を該人工飼料の0.5%容量添加・混合すること以外は、Handbook of Insect Rearing Vol.1 (Elsevier Science Publisers 1985) 35頁〜36頁に記載される方法と同様にしてワタアブラムシを飼育した。飼育6日後にワタアブラムシの生存数を調査し、次の式により防除価を求めることにより、有意な防除価(例えば、防除価が30%以上)を示したものを殺虫活性有りとして判定した。
防除価(%)={1−(Cb×Tai)/(Cai×Tb)}×100
尚、式中の文字は以下の意味を表す。
Cb:無処理区の処理前の虫の生存数
Cai:無処理区の観察時の虫の生存数
Tb:処理区の処理前の虫の生存数
Tai:処理区の観察時の虫の生存数
その結果を、実施例11の結果と合わせて、実施例12における表4に示した。
【0166】
【表5】

【0167】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明により、標的を明確にした農薬の探索手法、即ち、昆虫や有害生物を制御しうる標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化合物をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】実施例2の結果を示す図である。
【図2】実施例6の結果を示す図である。
【図3】実施例6の結果を示す図である。
【図4】実施例6の結果を示す図である。
【図5】実施例7の結果を示す図である。
【図6】実施例10の結果を示す図である。
【図7】実施例10の結果を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0170】
配列番号11
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号12
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号15
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害生物の生理状態に変化を与える薬剤であり、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel)の活性を変化させる能力を有することを特徴とする薬剤。
【請求項2】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、EAGファミリーに属する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
EAGファミリーに属する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルが、昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする請求項2記載の薬剤。
【請求項4】
昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが、ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルであることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項5】
有害生物の生理状態に変化を与える薬剤が、有害生物防除剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項6】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力が、
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を変化させる能力、又は、
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞において、電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性を変化させる能力であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項7】
有効成分として、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を有する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする有害生物防除剤。
【請求項8】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を変化させる能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項7記載の有害生物防除剤。
【請求項9】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該化学物質の存在濃度が30μM以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりも当該線虫の摂食行動活性が低下するように阻害する能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項8記載の有害生物防除剤。
【請求項10】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の摂食行動活性を50%低下させる有効濃度が100μM以下となるように阻害する能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項8記載の有害生物防除剤。
【請求項11】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該化学物質の存在濃度が30μM以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりも当該線虫の摂食行動活性が増加するように活性化する能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項8記載の有害生物防除剤。
【請求項12】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫において、当該線虫の摂食行動活性を50%増加させる有効濃度が100μM以下となるように活性化する能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項8記載の有害生物防除剤。
【請求項13】
前記化学物質が、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞において、電位依存性カリウムチャネルの電気生理的な活性を変化させる能力を有する化学物質であることを特徴とする請求項7記載の有害生物防除剤。
【請求項14】
被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における当該線虫の摂食行動活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された摂食行動活性と、被験物質を含まない系内における前記線虫の摂食行動活性とを比較することにより得られる差異に基づき当該被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
【請求項15】
被験物質が有する有害生物防除能力の検定方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における当該細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性と、被験物質を含まない系内における前記細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理的活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の有害生物防除能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
【請求項16】
請求項14又は15記載の検定方法により評価された有害生物防除能力を有する物質を選抜することを特徴とする有害生物防除能力を有する物質の探索方法。
【請求項17】
請求項16記載の探索方法により選抜された物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする有害生物防除剤。
【請求項18】
請求項7乃至13又は17記載の有害生物防除剤の有効量を、保護すべき作物、有害生物又は有害生物の生息場所に施用することを特徴とする有害生物防除方法。
【請求項19】
請求項14又は15記載の検定方法により評価された有害生物防除能力を有する物質を特定し、特定された当該物質と有害生物とを接触させることを特徴とする有害生物防除方法。
【請求項20】
下記の群Bのいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル。
<群B>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するアミノ酸配列
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列に対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルが有するアミノ酸配列
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有するアミノ酸配列
【請求項21】
有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の使用。
【請求項22】
有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、請求項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫の使用。
【請求項23】
有害生物防除能力を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、請求項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞の使用。
【請求項24】
請求項20記載の電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項25】
配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列からなることを特徴とする請求項24記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドが有する塩基配列に対し相補性を有する塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項27】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドの部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有することを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項28】
配列番号11乃至15で示される塩基配列からなることを特徴とする請求項27記載のポリヌクレオチド。
【請求項29】
電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であって、請求項27又は28記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅する工程、増幅された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、を有することを特徴とする方法。
【請求項30】
電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であって、請求項26、27又は28記載のポリヌクレオチドをプローブとして用いたハイブリダイゼーションにより所望のポリヌクレオチドを検出する工程、検出された所望のポリヌクレオチドを特定する工程、及び、特定された所望のポリヌクレオチドを回収する工程、を有することを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドを、宿主生物又は宿主細胞で発現可能なプロモーターに機能可能な形で連結してなることを特徴とする環状ポリヌクレオチド。
【請求項32】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドを、線虫由来のプロモーターに機能可能な形で連結してなることを特徴とする環状ポリヌクレオチド。
【請求項33】
線虫由来のプロモーターが、myo-2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする請求項32記載の環状ポリヌクレオチド。
【請求項34】
請求項31、32又は33記載の環状ポリヌクレオチドであって、宿主細胞内で自己複製の為の複製開始点を有することを特徴とする環状ポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドをベクターに連結することを特徴とする環状ポリヌクレオチドの製造方法。
【請求項36】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドが導入されてなることを特徴とする形質転換体。
【請求項37】
昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの一過性発現細胞であり、請求項24又は25記載のポリヌクレオチドの転写産物が導入されてなることを特徴とする発現細胞。
【請求項38】
形質転換体が形質転換大腸菌であることを特徴とする請求項36記載の形質転換体。
【請求項39】
形質転換体が形質転換線虫であることを特徴とする請求項36記載の形質転換体。
【請求項40】
線虫がCaenorhabdtis elegansであることを特徴とする請求項39記載の形質転換体。
【請求項41】
請求項24又は25記載のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなることを特徴とする形質転換体の製造方法。
【請求項42】
請求項36、38、39又は40記載の形質転換体を培養し、産生された昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルを回収する工程を有することを特徴とする電位依存性カリウムチャネルの製造方法。
【請求項43】
研究ツールとしての、請求項20記載の昆虫由来の電位依存性カリウムチャネル或いは請求項24乃至28のいずれかの請求項記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項44】
研究ツールが有害生物防除剤をスクリーニングするための研究ツールであることを特徴とする請求項43記載の使用。
【請求項45】
被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する細胞と被験物質との接触系内における当該細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電気生理活性と、被験物質を含まない系内における前記発現細胞の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
【請求項46】
細胞がアフリカツメガエル由来の卵母細胞又は動物由来の培養細胞であることを特徴とする請求項45記載の方法。
【請求項47】
被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を測定する方法であって、
(1)下記の群Aから選択される電位依存性カリウムチャネルをイオンチャネルとして機能可能な形で発現する線虫と被験物質との接触系内における当該線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された電気生理活性と、被験物質を含まない系内における前記発現線虫の電位依存性カリウムチャネルの電気生理活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列からなる蛋白質
(b)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列またはそれらのアミノ酸配列中のイオンチャネルとして機能する部分配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(c)配列番号1、3、5、又は7で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(d)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列と75%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(f)配列番号2、4、6、又は8で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
(g)昆虫由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(h)ワタアブラムシ由来のERG型電位依存性カリウムチャネルのアミノ酸配列からなる蛋白質
(i)ワタアブラムシのcDNAを鋳型とし、配列番号11、13、又は15で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドと、配列番号12又は14で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって増幅されうるポリヌクレオチドにコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質で、かつ電位依存性カリウムチャネル活性を有する蛋白質
【請求項48】
線虫がCaenorhabdtis elegansであることを特徴とする請求項47記載の方法。
【請求項49】
被験物質について、当該被験物質が有する昆虫由来の電位依存性カリウムチャネルの活性を変化させる能力に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段、当該データ情報を所望の条件に基づき照会・検索する手段、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段を具備することを特徴とするシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−75057(P2010−75057A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243846(P2008−243846)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】