説明

昆虫誘引剤及び昆虫誘引剤製造キット

【課題】使用開始後に早期に昆虫の誘引効果を発揮する昆虫誘引剤と、この昆虫誘引剤を簡易に製造することが可能な昆虫誘引剤製造キットとを提供する。
【解決手段】糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母を配合してなる昆虫誘引剤。また、糖、アルコール、カルボン酸及び酵母を有する昆虫誘引剤製造キットであって、少なくとも前記糖と前記酵母とが反応不能な隔離状態とされており、使用時に前記糖と前記酵母との隔離状態を解消可能とされている昆虫誘引剤製造キット。本発明では、水の他に、糖、アルコール、カルボン酸、及び酵母の4成分を配合する。これにより、これら4成分のいずれかを省略した場合と比べて、より昆虫の誘引性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫誘引剤と、この昆虫誘引剤を簡易に製造することが可能な昆虫誘引剤製造キットとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹液を摂食する昆虫を捕獲するために、バナナ等の樹液の代替品を用いることがあるが、十分に昆虫を誘引することができない。
非特許文献1には、クヌギ、アベマキ及びアキニレの樹液の構成成分のNMRによる分析結果が記載されている。これらの樹液には、果糖やブドウ糖等の糖と、エタノールやグリセリン等のアルコールと、酢酸や乳酸等のカルボン酸と、セリンやグルタミン酸等のアミノ酸とを含んでいる。そこで、これら成分を配合した人工樹液を用いて昆虫を誘引することが考えられる。しかしながら、当該人工樹液では、早期に十分に昆虫を誘引することができない。
【0003】
ところで、特許文献1には、一般家庭の台所等にいるハエを誘引するために、水と糖と酵母とを含む誘引組成物を用いることが記載されている。また、特許文献2には、家畜に害をおよぼす蚊やハエ等の害虫を誘引するために、酵母と糖とを混合してなる害虫誘引剤が記載されている。これらの誘引組成物ないし害虫誘引剤は、樹液と比べて成分が大きく異なる。また、これら誘引組成物ないし害虫誘引剤は誘引性を有するが、さらなる誘引性が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−206211号公報
【特許文献2】特開昭52−99217号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hisashi Omura, Keiichi Honda, "Feeding responses of adult butterflies, Nymphalis xanthomelas, Kaniska canace and Vanessa indica, to components in tree sap and rotting fruits: synergistic effects of ethanol and acetic acid on sugar responsiveness", Journal of Insect Physiology 49 (2003) 1031-1038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、使用開始後に早期かつ十分に昆虫の誘引効果を発揮する昆虫誘引剤と、この昆虫誘引剤を簡易に製造することが可能であり且つ保存性に優れる昆虫誘引剤製造キットとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、樹液の主要成分と類似の成分を含む組成物に対して、さらに酵母を強制的に配合することにより、早期かつ十分に昆虫の誘引効果が発現することを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1]糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母を配合してなる昆虫誘引剤。
[2]前記昆虫誘引剤全体に対する前記糖の配合割合が0.1〜30w/v%であり、前記昆虫誘引剤全体に対する前記酵母の配合割合が0.02w/v%以上である[1]に記載の昆虫誘引剤。
[3]糖、アルコール、カルボン酸及び酵母を有する昆虫誘引剤製造キットであって、少なくとも前記糖と前記酵母とが反応不能な隔離状態とされており、使用時に前記糖と前記酵母との隔離状態を解消可能とされている昆虫誘引剤製造キット。
[4]前記酵母が開封可能な酵母用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、その他の成分が混合状態とされている[3]に記載の昆虫誘引剤製造キット。
[5]前記糖が開封可能な糖用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、その他の成分が混合状態とされている[3]に記載の昆虫誘引剤製造キット。
[6]前記酵母が開封可能な酵母用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、前記糖が開封可能な糖用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、その他の成分が混合状態とされている[3]に記載の昆虫誘引剤製造キット。
[7]前記糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母の合計に対する前記糖の配合割合が0.1〜30w/v%であり、前記糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母の合計に対する前記酵母の配合割合が0.02w/v%以上である[3]〜[6]のいずれか1項に記載の昆虫誘引剤製造キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、早期かつ十分に昆虫の誘引効果を発現することが可能な昆虫誘引剤及び昆虫誘引剤製造キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は本発明の昆虫誘引剤製造キットの一例を示す斜視図であり、(b)は本発明の昆虫誘引剤製造キットの他の一例を示す斜視図である。
【図2】昆虫誘引剤中における酵母含有量とハエの寄り付き数との関係を示すグラフである。
【図3】測定容器の模式図である。
【図4】経過時間とCO2発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<昆虫誘引剤>
本発明の昆虫誘引剤は、糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母を配合してなるものである。
このように本発明の昆虫誘引剤は、水の他に、糖、アルコール、カルボン酸、及び酵母の4成分を配合してなるものである。これにより、後述するとおり、これら4成分のいずれかを省略した場合と比べて、より昆虫の誘引性に優れる。
【0012】
[糖]
糖としては、単糖、単糖2分子〜20分子が結合したオリゴ糖、及び単糖が21分子以上結合した多糖のいずれでもよいが、単糖であることが好ましく、ブドウ糖及び果糖の1種又は2種を含むものであることがより好ましい。
【0013】
この糖は、酵母によりアルコール発酵されて、アルコールと二酸化炭素を発生する。この揮発したアルコールにより、昆虫が誘引されるものと考えられる。
しかし、この糖を省略する代わりにアルコール量を増加したとしても、昆虫の誘引性は本発明の昆虫誘引剤と比べて劣るものとなる。そのため、糖の発酵により生じるアルコールが誘引性に寄与することの他に、糖の発酵過程で生じる成分と空気中に存在する種々の微生物との反応などにより誘引成分が生じ、昆虫の誘引性に寄与しているものと考えられる。従って、本発明の昆虫誘引剤において、糖は必須の配合成分であり、アルコールで代替することはできない。
【0014】
昆虫誘引剤中における糖の配合割合は、好ましくは0.1〜30w/v%であり、より好ましくは0.1〜10w/v%である。0.1w/v%以上であると、昆虫の誘引性が良好になる。30w/v%よりも多くしても、誘引性の向上にさほど寄与しない。
糖として、ブドウ糖及び果糖を用いる場合、例えば、昆虫誘引剤中におけるブドウ糖の配合割合は0.1〜30w/v%特に0.1〜10w/v%であり、昆虫誘引剤中における果糖の配合割合は0.1〜30w/v%特に1〜10w/v%である。
【0015】
[アルコール]
アルコールとしては、樹液に含まれる成分と同様、エタノール、ブタン−2,3−ジオール、グリセリン等が好適に用いられる。
【0016】
上記のとおり、昆虫誘引剤中における糖のアルコール発酵により、アルコールが発生する。しかしながら、本発明の昆虫誘引剤からアルコールを省略したものは、本発明の昆虫誘引剤と比べて誘引性に劣る。このため、アルコールは本発明の昆虫誘引剤にとって必須の配合成分である。
【0017】
昆虫誘引剤中におけるアルコールの配合割合は、好ましくは0.1〜20w/v%であり、より好ましくは1〜5w/v%である。0.1w/v%以上であると、昆虫の誘引性が良好になる。20w/v%よりも多くしても、誘引性の向上にさほど寄与しない。
アルコールとして、エタノールを用いる場合、例えば、昆虫誘引剤中におけるエタノールの配合割合は0.5〜3w/v%特に0.7〜2.5w/v%である。また、このエタノールと共にブタン−2,3−ジオールを配合する場合には、昆虫誘引剤中におけるブタン−2,3−ジオールの配合割合は0.01〜3w/v%特に1〜2w/v%である。
さらに、夏季の屋外での使用時のように蒸発を抑制する必要がある場合には、エタノール及びブタン−2,3−ジオールの1種又は2種と共にグリセリンを配合することが好ましい。この観点からは、昆虫誘引剤中におけるグリセリンの配合割合は、好ましくは0.1〜10w/v%であり、より好ましくは0.2〜2w/v%である。
【0018】
[カルボン酸]
カルボン酸としては、樹液に含まれる成分と同様、酢酸、乳酸等が好適に用いられる。
本発明の昆虫誘引剤からカルボン酸を省略したものは、本発明の昆虫誘引剤と比べて誘引性に劣る。このため、カルボン酸は本発明の昆虫誘引剤にとって必須の配合成分である。
昆虫誘引剤中におけるカルボン酸の配合割合は、好ましくは0.01〜3w/v%であり、より好ましくは0.01〜1w/v%である。0.01w/v%以上であると、昆虫の誘引性が良好になる。3w/v%よりも多くしても、誘引性の向上にさほど寄与しない。
カルボン酸として、酢酸を用いる場合、例えば、昆虫誘引剤中における酢酸の配合割合は、好ましくは0.01〜3w/v%であり、より好ましくは0.01〜1w/v%である。また、この酢酸と共に乳酸を配合する場合には、昆虫誘引剤中における乳酸の配合割合は0.01〜1w/v%特に0.01〜0.2w/v%である。
【0019】
[酵母]
本発明では、昆虫誘引剤中に酵母を強制的に配合する点に大きな特徴を有する。
すなわち、自然界においても、樹液の存在する環境には、空気中に酵母が存在しており、この酵母が糖を分解することにより、アルコール発酵が生じる。自然界では、この空気中における酵母の濃度が低いため、緩やかにアルコール発酵が生じるものと考えられる。これに対して本発明では、昆虫誘引剤中に酵母を強制的に配合する。これにより、アルコール発酵が迅速に進み、早期に昆虫の誘引性が向上するものと考えられる。このため、酵母は本発明の昆虫誘引剤にとって必須の配合成分である。
【0020】
この酵母の種類には特に限定は無く、パン酵母、清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母等を用いることができる。中でも、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、発酵食品製造の過程で長い年月をかけて選抜されてきた優秀な品種であるため好ましい。
【0021】
昆虫誘引剤中における酵母の配合割合は、好ましくは0.02w/v%以上であり、より好ましくは0.1w/v%以上であり、更に好ましくは0.5w/v%以上である。0.02w/v%以上であると、発酵を迅速に行うことが可能となり、早期に昆虫の誘引性が良好になる。一方、10w/v%よりも多くしても、誘引性の向上にさほど寄与しないことから、酵母の配合割合は、好ましくは10w/v%以下である。更に、昆虫誘引剤の誘引効果を長時間(例えば2日以上)維持させる観点からは、酵母の配合割合は、好ましくは3w/v%以下であり、より好ましくは1.5w/v%以下であり、更に好ましくは0.5w/v%以下である。
【0022】
[アミノ酸]
本発明の昆虫誘引剤は、アミノ酸を含んでいてもよい。このアミノ酸としては、樹液中に含まれるものと同様のものが好適である。具体的には、アミノ酸としては、アスパラギン酸(Asp)、セリン(Ser)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、アルギニン(Arg)、トレオニン(Thr)、アラニン(Ala)、プロリン(Pro)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、リシン(Lys)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)等が挙げられる。
昆虫誘引剤中におけるアミノ酸の配合割合は、好ましくは500〜5000μMであり、より好ましくは1000〜4000μMである。
【0023】
[その他の成分]
本発明の昆虫誘引剤は、殺虫を目的とする場合には、殺虫活性成分を含んでいてもよい。この殺虫活性成分の具体例としてはダイアジノン、マラチオン、アセフェート、エトフェンプロックス、エキスリン、d−レスメトリン、dl−レスメトリン、ペルメトリン、サイフェノトリン、サイパーメスリン、アレスリン、ピナミンフォルテ、バイオアレスリン、フタルスリン、セビン、オンコル、バイゴン、メトプレン、ハイドロプレン、ピリプロキシフェン、フェノキシカルブ、メトキサシジアゾン、ヒドラメチルノン、ホウ酸、スルフルラミド、アドマイヤー、メタアルデヒド、ヘキサフルムロンなどが挙げられこれらに限定されるものではない。昆虫誘引剤中における殺虫活性成分の配合割合は、好ましくは0.05〜30w/v%であり、より好ましくは0.1〜20w/v%である。なお、昆虫の採集や飼育を目的とする場合には、昆虫誘引剤中に上記殺虫活性成分は含めない。
本発明の昆虫誘引剤は、ゲル化剤を含んでいてもよい。このゲル化剤を添加することにより、容器が傾いたときに容器内の昆虫誘引剤がこぼれたり、屋外の樹木等の目的の場所に付着させた昆虫誘引剤が目的の場所からこぼれ落ちたりすることが抑制される。このゲル化剤としては、周知の天然系のもの、合成系のものが用いられ、とくに水系のゲル化剤が望ましい。天然系のゲル化剤としては、カラギーナン、ゼラチン、膠、寒天、アラビアガムなどがあり、合成系のゲル化剤としては、アクリル系吸水性高分子、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CMCのナトリウム塩等がある。昆虫誘引剤中におけるゲル化剤の配合割合は、好ましくは0.01〜10w/v%であり、より好ましくは0.1〜1.0w/v%である。
【0024】
<昆虫誘引剤製造キット>
本発明の昆虫誘引剤製造キットは、糖、アルコール、カルボン酸及び酵母を有する昆虫誘引剤製造キットであって、少なくとも前記糖と前記酵母とが反応不能な隔離状態とされており、使用時に前記糖と前記酵母との隔離状態を解消可能とされているものである。
本発明の昆虫誘引剤製造キットも、本発明の昆虫誘引剤と同様に、水の他に、糖、アルコール、カルボン酸、及び酵母の4成分を有している。これにより、これら4成分のいずれかを省略した場合と比べて、より昆虫の誘引性に優れている。
さらに本発明の昆虫誘引剤製造キットは、糖と酵母とが隔離されている。これにより、保存時に、糖が酵母によってアルコール発酵されることが防止され、保存性に優れる。なお、この昆虫誘引剤製造キットを使用する際には、これら糖と酵母とを混合すればよい。
【0025】
本発明の昆虫誘引剤製造キットにおける各成分の種類は、上記の昆虫誘引剤と同様である。また、本発明の昆虫誘引剤製造キットにおいて、各成分の合計に対する各成分の配合割合は、上記の昆虫誘引剤の合計に対する各成分の配合割合と同様である。
【0026】
[昆虫誘引剤製造キットの第1の例]
図1(a)は、本発明の昆虫誘引剤製造キットの一例を示す斜視図である。
この昆虫誘引剤製造キットは、糖、アルコール、カルボン酸及び水を配合してなる人工樹液10を収容する人工樹液用容器1と、酵母11を収容する酵母用容器4とを有する。
上記人工樹液用容器1は、有底円筒状の容器本体2と、蓋体3とからなっている。図示は省略するが、この容器本体2の上部外周面に雄螺子が刻設されていると共に、蓋体3の内周面に雌螺子が刻設されており、雌螺子に雄螺子を螺着することにより、蓋体3を容器本体2に着脱可能とされている。この人工樹液用容器1内に、人工樹液10が収容されている。
【0027】
上記酵母用容器4は、柔軟性を有する外観形状が方形の袋体よりなっている。この袋状の酵母用容器4により、酵母が真空パックされている。この酵母用容器4は、接着剤(図示略)を介して上記人工樹液用容器1の外周面に接着されている。この酵母用容器4内に、酵母11が収容されている。なお、図1(a)に示すとおり、この袋体4の左縁部及び右縁部は、袋体4を開封し易くするために鋸刃状とされている。
なお、容器本体2の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の樹脂やガラスが挙げられる。蓋体3及び袋体4の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の樹脂やアルミ等の金属が挙げられる。
【0028】
このように構成された昆虫誘引剤製造キットは、図1(a)の状態で保存される。このように、人工樹液10が人工樹液用容器1内に密封され、酵母11が酵母用容器4内に密封され、これら人工樹液10と酵母11とが隔離されているため、人工樹液10中の糖が酵母11によってアルコール発酵されることが防止され、長期保存が可能である。また、これら人工樹液用容器1と酵母用容器4とが接着剤によって一体化されているため、酵母用容器4が紛失することが防止される。また、酵母用容器4内には酵母のみが収容されているため、更にアルコール等の液体が収容されている場合と比べて、真空パックを容易に行うことができる。
【0029】
この昆虫誘引剤製造キットの使用時には、酵母用容器4を人工樹液用容器1から剥ぎ取り、これら人工樹液用容器1及び酵母用容器4を開封して、人工樹液10と酵母11とを混合すればよい。この際、酵母11を人工樹液用容器1内に添加し、人工樹液用容器1内で人工樹液10と酵母11とを混合してもよい。また人工樹液10と酵母11とを、人工樹液用容器1とは異なる場所で混合してもよい。
[昆虫誘引剤製造キットの第2の例]
図1(b)は、本発明の昆虫誘引剤製造キットの一例を示す斜視図である。図1(b)では、人工樹液用容器1の外周面に接着された袋体4Aが、小袋体4a及び小袋体4bの2つに区画されており、小袋体4a内に酵母11が封入され、小袋体4b内に糖12が封入されている。また、人工樹液用容器1内には、アルコール、カルボン酸及び水よりなる人工樹液10Aが封入されている。
図1(b)の昆虫誘引剤製造キットにおけるその他の構成は図1(a)の昆虫誘引剤製造キットと同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0030】
[昆虫誘引剤製造キットのその他の例]
図1の昆虫誘引剤製造キットは本発明の一例であり、本発明は図1の態様に限定されるものではない。例えば、蓋体3の天板部下面から垂下する棒状体を設けてもよい。これにより、人工樹液用容器1内に酵母11(図1(a))又は酵母11と糖12(図1(b))を添加した後、これらを棒状体を用いて撹拌混合することができる。また、この棒状体の先端に刷毛が設けられてもよい。この刷毛により、樹木の幹等にこの混合物(昆虫誘引剤)を容易に塗布することができる。
上記酵母用容器4及び4Aは、人工樹液用容器1の外周面に2袋以上設けられてもよい。この場合、昆虫誘引剤製造キットを2回以上に分けて使用することが容易である。
【0031】
[対象昆虫]
本発明の昆虫誘引剤及び昆虫誘引剤キットが適用される昆虫には特に限定はなく、例えば、甲虫目、ハエ目、ゴキブリ目、チョウ目、ハチ目等に適用される。
甲虫目としては、カブトムシ、ミヤマクワガタ、コクワガタ、スジクワガタ等のクワガタ、クロカナブン等のカナブン、ヨツボシケシキスイ、ヨツボシオオキスイ、キマワリ、ハネカクシ、ゴマフカミキリ等のカミキリなどが挙げられる。
ハエ目としては、キイロショウジョウバエ、キノコバエ、ニセケバエ、ウシアブなどが挙げられる。
ゴキブリ目としては、モリチャバネゴキブリ、ヤマトゴキブリなどが挙げられる。
チョウ目としては、オオムラサキ、サトキマダラヒカゲ、クロコノマチョウ、アカタテハなどが挙げられる。
ハチ目としては、オオスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ等のスズメバチ、ムネアカオオアリ、アミメアリ等のアリなどが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
[人工樹液の製造]
第1表に示す配合割合にて各成分を配合し、人工樹液を製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
[実施例1]
上記人工樹液20mlに対して、酵母(Saccharomyces sp.)5mgを混合し、24時間放置して昆虫誘引剤Aを得た(昆虫誘引剤A中における酵母の配合割合:0.025w/v%)。
ポリプロピレン製不織布(直径52mm×厚さ10mm)の入った容積100mlのポリカップを2個用意し、一方のポリカップには上記昆虫誘引剤A(酵母割合0.025w/v%)20mlを注入し、他方のポリカップには上記人口樹液(酵母無添加)20mlを注入した。
一般家屋を模した試験室(3.7m×3.7m×高さ2.5m、室温25℃。)の角に長机(高さ70cm)を置き、その上に、上記2個のポリカップを互いに30cm離して並置した。次いで、キイロショウジョウバエを試験室内に100匹放した。
10分後に、2個のポリカップのそれぞれについて、ポリカップ及び不織布に集まったキイロショウジョウバエの個数を測定し、測定後にキイロショウジョウバエをポリカップ及び不織布から追い払った。この測定を10分毎に4回繰り返し、その合計を、それぞれ、昆虫誘引剤のハエ累積個数及び人工樹液のハエ累積個数とした。そして、ハエの寄り付き指数を、以下の計算式により算出した。その結果を図2及び第2表に示す。
ハエの寄り付き指数=昆虫誘引剤のハエ累積個数/人口樹液のハエ累積個数
【0035】
[実施例2〜4]
上記人工樹液20mlに対して酵母(サッカロマイセス セレビシエ)を10mg、25mg、及び50mg混合して24時間放置することにより、それぞれ、昆虫誘引剤B、C、及びDを得た(これら昆虫誘引剤B、C、及びD中における酵母の配合割合は、それぞれ、0.05、0.125、及び0.25w/v%)。
昆虫誘引剤Aに代えてこれら昆虫誘引剤B〜Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして実験を行った。その結果を図2及び第2表に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
[実施例1〜4の結果]
図2から明らかなとおり、昆虫誘引剤中における酵母の含有量が0.025〜0.25w/v%である実施例1〜4は、人工樹液(酵母無添加)と比べて、キイロショウジョウバエの誘引効果が顕著であった。また、実施例1〜4の比較から明らかなとおり、酵母の含有量が多いほど、当該誘引効果は顕著であった。
【0038】
[実施例5〜12]
(昆虫誘引剤A〜D及びE〜Hの作製)
実施例1〜4と同様にして、昆虫誘引剤A〜Dを作製した。
また、上記人工樹液20mlに対して酵母(サッカロマイセス セレビシエ)を75mg、100mg、200mg、及び400mg混合したこと以外は実施例1と同様にして、昆虫誘引剤E〜Hを作製した。なお、これら昆虫誘引剤E〜H中における酵母の配合割合は、それぞれ、0.375、0.5、1、及び2w/v%となる。
これら昆虫誘引剤A〜Hを、それぞれ、実施例5〜12の試料とした。
【0039】
(CO2発生量の測定)
上記昆虫誘引剤A〜Hを作製してから、1時間、6時間、1日、2日、3日、4日、7日、8日、及び9日の経過後に、各昆虫誘引剤A〜Hについて、図3に示す測定容器20及び図示しないCO2測定器を用いて、以下の操作にてCO2発生量を測定した。
なお、図3の測定容器20は、上端封止円筒状の本体21と、本体21の下端を封止可能な底板23と、本体21の天井面と当接可能な天板24とからなる。この本体21の天井面の中央に直径30mmの丸穴22が開口しており、上記天板24はこの丸穴22を封止可能となっている。この測定容器20の容積は100mlであり、材質はガラス製である。
【0040】
先ず、ポリプロピレン製不織布(直径52mm×厚さ10mm)の入った容積100mlのポリカップ30に、上記昆虫誘引剤20mlを注入した。
通常時(非測定時)は、このポリカップ30を上記底板23上に載置した状態で室内に放置した。
CO2発生量の測定を行う1時間前に、図3に示すとおり、上記ポリカップ30の載置された底板23上に本体21を載置し、さらに本体21の丸穴22を天板24で封止することにより、ポリカップ30を測定容器20で密閉した。
この密閉から1時間経過後に、天板24を取り外し、丸穴22からCO2測定器(VAISALA社製、機種名「GM70」)のプローブを挿入して、CO2発生量を測定した。その結果を図4に示す。
【0041】
[実施例5〜12の結果]
図4から明らかなとおり、昆虫誘引剤中の酵母含有量が多いほど、初期のCO2発生量が多く、また、早期にCO2発生量が低下することがわかった。
【符号の説明】
【0042】
1 人工樹液用容器
2 放棄本体
3 蓋体
4 酵母用容器
10 人工樹液
11 酵母
20 測定容器
22 丸穴
30 ポリカップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母を配合してなる昆虫誘引剤。
【請求項2】
前記昆虫誘引剤全体に対する前記糖の配合割合が0.1〜30w/v%であり、
前記昆虫誘引剤全体に対する前記酵母の配合割合が0.02w/v%以上である請求項1に記載の昆虫誘引剤。
【請求項3】
糖、アルコール、カルボン酸及び酵母を有する昆虫誘引剤製造キットであって、
少なくとも前記糖と前記酵母とが反応不能な隔離状態とされており、使用時に前記糖と前記酵母との隔離状態を解消可能とされている昆虫誘引剤製造キット。
【請求項4】
前記酵母が開封可能な酵母用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、その他の成分が混合状態とされている請求項3に記載の昆虫誘引剤製造キット。
【請求項5】
前記糖が開封可能な糖用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、その他の成分が混合状態とされている請求項3に記載の昆虫誘引剤製造キット。
【請求項6】
前記酵母が開封可能な酵母用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、
前記糖が開封可能な糖用密閉容器内に封入されることにより隔離状態とされており、
その他の成分が混合状態とされている請求項3に記載の昆虫誘引剤製造キット。
【請求項7】
前記糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母の合計に対する前記糖の配合割合が0.1〜30w/v%であり、
前記糖、アルコール、カルボン酸、水及び酵母の合計に対する前記酵母の配合割合が0.02w/v%以上である請求項3〜6のいずれか1項に記載の昆虫誘引剤製造キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18730(P2013−18730A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152163(P2011−152163)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【Fターム(参考)】