説明

昇降装置

【課題】一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用している昇降装置において、上側に配した部材がその可動範囲の下端に達した際の衝撃の発生を抑制する装置を提供する。
【解決手段】一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒たる下部要素21と、この下部要素21の他端側から該下部要素21に上下スライド可能に挿入される内部材たる上部要素22と、この上部要素22の挿入端に設けられ空気の流量の制御を行う流量制御弁25とを備え、前記流量制御弁25が、前記上部要素22の挿入端側に前記下部要素21との間に隙間を形成した状態で設けられる弁座26と、下部要素21の内面21bに密着し、弁座26に着座して上下方向の空気の流れを抑制する閉弁位置Sと弁座26から離間し上下方向の空気の流れを許可する開弁位置Oとの間で移動可能な環状弁体27とを備えている昇降装置Lを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用した昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用している昇降装置が種々考えられている。このような昇降装置の一例として、移動可能な脚ベースに支柱を支持させ、その支柱に輸液パックを掛けるための輸液パック保持部を設けてなる点滴スタンドに用いられるものであって、前記外筒が前記脚ベースに立設され前記支柱を構成する下部要素であるとともに、前記内部材が前記下部要素に上下スライド可能に嵌め合わされ前記輸液パック保持部を支持する上部要素であるものが考えられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかして、このような点滴スタンドの輸液パック保持部に輸液パックを掛けた際に、この輸液パックの重さ及び前記内部材の自重により内部材が急激に下降し、内部材がその可動範囲の下端に達した際に衝撃が発生し、大きな音が発生する等の不具合が発生することがある。
【0004】
このような不具合は、点滴スタンドの支柱に限らず、一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用している昇降装置全般において発生しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−204793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に着目し、一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用している昇降装置において、内部材又は外筒のうち上側に配した部材がその可動範囲の下端に達した際の衝撃の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る昇降装置は、一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒の他端側から該外筒に上下スライド可能に挿入される内部材と、この内部材の挿入端に設けられ空気の流量の制御を行う流量制御弁とを備え、前記流量制御弁が、前記内部材の挿入端側に前記外筒との間に隙間を形成した状態で設けられる弁座と、外筒の内面に密着し、弁座に着座して上下方向の空気の流れを抑制する閉弁位置と弁座から離間し上下方向の空気の流れを許可する開弁位置との間で移動可能な環状弁体とを備えていることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、前記環状弁体は外筒の内面に密着しているので、内部材がその露出部位が大きくなる側にスライドする際には、弁座が内部材と一体的に移動する一方で環状弁体は外筒との間の摩擦により少なくとも弁座が移動を開始した時点では外筒との間の相対位置を変化させないので、この環状弁体が前記弁座から離間して開弁位置をとり、外筒と弁座及び環状弁体との間の隙間を介した上下方向の空気の流れが許可される。一方、内部材がその露出部位が小さくなる側にスライドする際には、環状弁体は外筒との間の摩擦により外筒との間の相対位置を変化させない一方、弁座が内部材と一体的に移動して環状弁体に接近し、次いでこの環状弁体が前記弁座に着座して閉弁位置をとることにより、外筒と弁座及び環状弁体との間の隙間を介した上下方向の空気の流れが抑制される。すなわち、内部材が外筒に収納される際の移動速度を抑制することができる。従って、内部材又は外筒のうち上側に配した部材がその可動範囲の下端に達した際の衝撃の発生を抑制することができる。
【0009】
内部材を外筒に収納する際に前記環状弁体を閉弁位置により安定して保持させるための構成として、前記外筒の内部に配され該外筒との間で相対移動可能であるとともに前記内部材を外筒に収納する際に環状弁体を閉弁位置に向けて付勢する付勢手段を備えているものが挙げられる。
【0010】
このような付勢手段を容易に実現するための態様の一例として、前記付勢手段が、前記外筒内に配した状態で外方に向かう弾性力を蓄積しているリング状部材であるものが挙げられる。
【0011】
また、上述したような付勢手段を容易に取り付けることができるようにするための態様の一例として、前記付勢手段が、その一部を切り欠いた環状をなす部材であるものが挙げられる。
【0012】
内部材又は外筒の上昇移動をよりスムーズに行うことができるようにするための態様として、前記付勢手段であるリング状部材が、その外面に、前記外筒の内面に優先して衝き当たる突起を有するものが挙げられる。このようなものであれば、リング状部材の外面全体が外筒に弾性接触する態様と比較してリング状部材と外筒との接触面積が小さく、上昇移動の際にこれらリング状部材と外筒との間に発生する摩擦力を小さくできるからである。
【0013】
そして、このような昇降装置の好適な実施の態様の一例として、移動可能な脚ベースに支柱を支持させ、その支柱に輸液パックを掛けるための輸液パック保持部を設けてなる点滴スタンドに用いられるものであって、前記外筒が前記脚ベースに立設され前記支柱を構成する下部要素であるとともに、前記内部材が前記下部要素に上下スライド可能に嵌め合わされ前記輸液パック保持部を支持する上部要素であるものが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パイプ状をなす外筒と、この外筒内に上下スライド可能に嵌め合わされる内部材とを利用している昇降装置において、内部材又は外筒のうち上側に配した部材がその可動範囲の下端に達した際の衝撃の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る点滴スタンドを示す全体斜視図。
【図2】同実施形態に係る点滴スタンドを示す正面図。
【図3】同実施形態に係る点滴スタンドを示す左側面図。
【図4】同実施形態に係る点滴スタンドを示す平面図。
【図5】図2におけるA−A断面図。
【図6】図2におけるB−B断面図。
【図7】図2における要部を破断して示す図。
【図8】同実施形態に係る昇降機構の取付態様を示す分解斜視図。
【図9】図2における要部を破断して示す図。
【図10】同実施形態に係る昇降機構を示す作用説明図。
【図11】同実施形態に係る輸液フックの取付態様を示す分解斜視図。
【図12】同実施形態に係る点滴スタンドのネスティング態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の一実施形態を、図1〜図12を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る点滴スタンドSは、図1〜図4に示すように、移動可能な脚ベース1に支柱2を支持させ、その支柱2に輸液パックPを掛けるための輸液パック保持部である輸液フック3及び左右両側及び前側からそれぞれ把持可能なハンドル4を設けてなる。なお、図2及び図3においては、支柱2を一部省略して示している。
【0018】
脚ベース1は、図1〜図6に示すように、キャスタ11と、キャスタ11を支持する支持部材12とを具備してなる。支持部材12は、樹脂により一体に成形されたもので、前記支柱2を支持するための左右方向に延びる中心フレーム121と、この中心フレーム121の左右両端から前方に延出する前側の2本の脚フレーム122と、前記中心フレーム121の中間部から後方に延出する後側の2本の脚フレーム123とを備えており、平面視略H字状をなしている。前記中心フレーム121の中央には、前記支柱2が立設されている。前記中心フレーム121及び前記前側の2本の脚フレーム122は、略同一平面上に配置されている。また、前記後側の2本の脚フレーム123は、前記中心フレーム121から後方斜め下方に延びるように配置されたものであり、その基端がこれら中心フレーム121及び前側の2本の脚フレーム122と略同一平面上に配置されている。換言すれば、前記後側の2本の脚フレーム123の先端部123aの高さ位置は、前側の2本の脚フレーム122の先端部122aの高さ位置よりも下方に設定されている。そして、この支持部材12の高さ寸法H1は、一般的な病室用ベッド下方の隙間に挿入可能な大きさに設定されている。また、この脚ベース1は、前側の左右に隣接する2つのキャスタ11間の距離w1を前側の左のキャスタ11に隣接する後側の左のキャスタ11と前側の右のキャスタ11に隣接する後側の右のキャスタ11との間の距離w2よりも大きく設定してある。さらに、この脚ベース1は、前側の左右のキャスタ11間に前方に開放された前の起立空間1s1が形成され、前側の左のキャスタ11と後側の左のキャスタ11との間に左側方及び後方に開放された左の起立空間1s2が形成され、前側の右のキャスタ11と後側の右のキャスタ11との間に右側方及び後方に開放された右の起立空間1s3が形成されるように構成されたものである。すなわち、脚フレーム122、123の先端部122a、123a以外の部分が、少なくとも前側の左のキャスタ11と後側の左のキャスタ11とを結ぶ直線、前側の右のキャスタ11と後側の右のキャスタ11とを結ぶ直線よりも内側に位置している。また、前側の脚フレーム122の先端部122a以外の部分が、前側の左のキャスタ11と前側の右のキャスタ11とを結ぶ直線よりも内側に位置している。具体的には、前記脚ベース1は、先端にキャスタ11を有した4本の脚フレーム122、123を有する。前側のキャスタ11を支持する2本の脚フレーム122は平面視において先端側が拡開するハの字状に配されている。後側のキャスタ11を支持する2本の脚フレーム123は、平面視において先端側がそれぞれ中心フレーム121の延出方向に対して直交する方向に配されている。換言すれば、後側のキャスタ11を支持する2本の脚フレーム123は、互いに平行に配されている。前側の脚フレーム122の下に同一構造をなす他の点滴スタンドSの後側の脚フレーム123を重ねることが可能な空間が形成されるように構成されている。換言すれば、前後に隣接する点滴スタンドSの後側の脚フレーム123同士を上下方向に重ねることが可能に構成されている。この構成によって、図5及び図12に示すような態様で、本変形例に係る特定の点滴スタンドS(1)の前方に同一構造をなす他の点滴スタンドS(2)をネスティングすることができる。前記前の起立空間1s1は、平面視において前方に開放されたもので、この点滴スタンドSの前側に起立した使用者が当該点滴スタンドSを後方に、すなわち使用者の進行方向に押しながら歩行することが可能な大きさに設定されている。前記左の起立空間1s2は、平面視において左側方及び後方に開放されたもので、この点滴スタンドSの左側に起立した使用者が当該点滴スタンドSを前方に押しながら歩行することが可能な大きさに設定されている。前記右の起立空間1s3は、平面視において右側方及び後方に開放されたもので、この点滴スタンドSの右側に起立した使用者が当該点滴スタンドSを前方に押しながら歩行することが可能な大きさに設定されている。そして、前記支持部材12を構成する前側の2本の脚フレーム122の下に、前記前の起立空間1s1及び前記左右の起立空間1s2、1s3にそれぞれ連通する蹴り込み空間1s4が形成されている。この蹴り込み空間1s4は、正面視、側面視及び背面視において視認可能に開口したもので、その高さ寸法H2は、一般的な体格を有する成人のつま先が歩行中に進入可能な大きさに設定されている。一方、前記キャスタ11は、双輪タイプのもので、その幅寸法はエレベータと該エレベータの乗り口との間の隙間の幅寸法よりも大きい。具体的には、前記キャスタ11の幅寸法は30mm以上であることが望ましく、本実施形態では60mmに設定されている。
【0019】
前記支柱2は、伸縮可能なもので、図1〜図3及び図7に示すように、前記脚ベース1に立設された外筒たる下部要素21と、この下部要素21に上下スライド可能に嵌め合わされ前記輸液フック3を支持する内部材たる上部要素22とを備えたものである。前記下部要素21は、脚ベース1の前記中心フレーム121に立設された金属パイプ材製のものである。また、この下部要素21の下端には、雌ねじ孔21xを有するナット21nを溶接等により固着していて、このナット21nに雄ねじ部材211を螺着しているとともに、この雄ねじ部材211の頭部と前記ナット21nとの間にOリング212を介在させ、この下部要素21の下端側を密閉している。前記上部要素22は、前記下部要素21の内周にスライド可能に嵌合された金属パイプ材製のものである。この上部要素22を緊締機構23により前記下部要素21に対して上下位置変更可能に固定している。この緊締機構23は、前記輸液フック3よりも下方に位置する部位に設けられている。前記緊締機構23は、図7に示すように、前記支柱2に設けられた雌ねじ231aを有するフレーム231と、このフレーム231の雌ねじ231aに螺着された雄ねじ232aを有するグリップ232と、前記雄ねじ232aが外部に露出することを防止するカバー233とを具備する。換言すれば、前記緊締機構23は、前記支柱2の下部要素21の上端部に設けられた雌ねじ231aを有するフレーム231と、このフレーム231の雌ねじ231aに螺着されその先端で上部要素22の外周を押し付けることによりこの上部要素22を前記下部要素21に固定するための雄ねじ232aを有するグリップ232と、前記雄ねじ232aが外部に露出することを防止するカバー233とを具備する。前記フレーム231は、前記支柱2の下部要素21の上端部21aと、この上端部21aに外嵌させた合成樹脂製の外嵌部材231bとを備えてなるもので、前記下部要素21の上端部21a及び外嵌部材231bのいずれか一方に雌ねじ231aを有している。また、このフレーム231には、外方に延出し中心部に雄ねじ232aが通過可能な孔を有するボス部231cを設けている。前記グリップ232は、前記雄ねじ232aを保持する軸部232bと、この軸部232bに回転力を付与するための把持部232cとを備えたものである。このグリップ232の外径は支柱2から遠ざかるにつれ漸次大きくなるように形成されている。すなわちこのグリップ232の外周面は滑らかな曲面形状をなしている。前記カバー233は、前記グリップ232と一体に設けられた薄肉円筒体状で前記フレーム231のボス部231cの外周に相対回転可能に外嵌するものである。そして、このカバー233の外周面233aは前記グリップ232の外周面232eと滑らかに連続するとともに、前記フレーム231のボス部231cの外周面231c1と大きな段差を伴うことなく略連続するように構成されている。また、このカバー233は、前記下部要素21との間の相対回転を抑止すべく雄ねじ部材234を介して前記下部要素21にねじ止めされている。そして、この支柱2の上端には、各輸液フック3に掛けられた輸液パックP同士が干渉しないように複数の前記輸液フック3が放射状に設けられている。この実施形態においては、4本の前記輸液フック3を着脱自在に取り付けることができるようになっているが、図面では2本の輸液フック3を装着した状態を示している。
【0020】
さらに本実施形態では、図8〜図10に示しように、前記下部要素21と、前記上部要素22と、この上部要素22の挿入端すなわち下端に設けられ空気の流量の制御を行う流量制御弁25とを備えた昇降装置Lを設けている。前記流量制御弁25は、前記上部要素22の下端に設けられこの上部要素22の下端に接するとともに前記下部要素21との間に隙間を形成した状態で設けられる弁座26と、前記下部要素21の内面21bに密着し、弁座26に着座して上下方向の空気の流れを抑制する閉弁位置Sと弁座26から離間し上下方向の空気の流れを許可する開弁位置Oとの間で移動可能な環状弁体27と、前記上部要素22を下部要素21に収納する際すなわち上部要素22が下降する際に環状弁体27を閉弁位置に向けて付勢する付勢手段たるCリング28とを備えている。より具体的には、前記弁座26は、図9及び図10に示すように、前記上部要素22の下端22aに添接しているとともに前記下部要素の内面21bとの間にわずかな隙間を形成している弁座本体26aと、この弁座本体26aの上方に設けられ前記上部要素22の内部に挿入してなるとともに該上部要素22に雄ねじ部材261を介してねじ止め固定されてなる固定部26bとを備えている。また、この弁座26からは芯材26cを下方に延伸させて設けている。さらに、この芯材26cの下端から互いに周方向に離間した状態でそれぞれ外方に伸びる複数、具体的には4枚の羽根26dを設けている。この羽根26dは、上部要素22が昇降する際に発生する空気の流れを整え上部要素22の揺れ止めを行うようにすべく設けられている。前記環状弁体27は、樹脂等により形成された弾性変形可能なもので、断面形状が直径2.5mmの円形状のOリングである。また、この環状弁体27は、外部から作用を受けない状態では前記下部要素21の内径よりもわずかに大きな外径を有する。前記Cリング28は、図8〜図10に示すように、樹脂等により形成された弾性変形可能なもので、外部から作用を受けない状態では前記下部要素21の内径よりもわずかに大きな外径を有し、下部要素21の内部に挿入した状態では外方に向かう弾性力を蓄積している。また、このCリング28の外面28aには、下部要素21の内面に優先して衝き当たる突起281を3箇所に設けている。ここで、上部要素22が上昇する際には、弁座本体26a及び羽根26dは上部要素22と一体的に上昇する一方、環状弁体27及びCリング28はいずれも外方に向かう弾性力を蓄積した状態であるので、上昇開始直後には上昇開始前の上下位置を保つ。すなわち、環状弁体27は弁座26から離間した開弁位置Oをとる。その後、図9に示すように、Cリング28が羽根26dに衝き当たってこの羽根26dにより上方に付勢され、さらにこのCリング28に環状弁体27が衝き当たってこれらCリング28及び環状弁体27が弁座本体26a及び羽根26dと一体的に上昇する。このとき、弁座本体26aと下部要素21の内壁21bとの間にはわずかな隙間が存在するので、下部部材21の内部において空気がこの弁座本体26aを越えて上方から下方に自由に流通する。一方、上部要素22が下降する際には、弁座本体26a及び羽根26dは上部要素22と一体的に下降する一方、環状弁体27及びCリング28はいずれも外方に向かう弾性力を蓄積した状態であるので、上昇開始直後には上昇開始前の上下位置を保ち、その後、図10に示すように、環状弁体27が弁座26に着座して閉弁位置Sをとり、さらにこの環状弁体27にCリング28が衝き当たり、環状弁体27が弁座26に着座しつつ弁座本体26aとCリング28とにより挟持された状態で下降する。すなわち、環状弁体27は弁座26に着座したままこの弁座26により下方に向けて付勢されているとともに、Cリング28により上方すなわち閉弁位置S側に付勢されている。また、上部要素22が下降する際には下部要素21内部における密閉側端部の空気が環状弁体27及び弁座本体26aを越えて上方に流通するが、この空気の流通が前記流量制御弁25により抑制されている。
【0021】
前記各輸液フック3は、図1及び図2に示すように、支柱2に設けたフック取付部材5から外方に延出する延出桿31と、この延出桿31の延出端部に設けられたフック本体32とを備えている。これら延出桿31と前記フック本体32とは、連続した細長い素材により作られたものであり、同一平面に沿って配置されている。前記フック本体32は、前記延出桿31の延出端に連続して設けられ下方に延びる上下延出部321と、この上下延出部321の延出端に連続して設けられ支柱2側に折り返す折り返し部322とを具備してなり、その折り返し部322の先端322xと前記延出桿31との間に形成される開口3sが、支柱2側から輸液パックPを挿脱し得る方向に開放されている。前記上下延出部321は、延出桿31の延出端から下方に垂下するもので、病室で一般的に用いられているカーテンの網目の寸法よりも大きな上下方向寸法h3を有している。本実施形態では、輸液フック3は、その全体が前記上下延出部321の上下方向寸法h3の範囲内に配されている。前記折り返し部322は、上下延出部321の延出端に連続して設けられ前記輸液パックPを掛け止める略U字状をなす掛け止め部分322aと、この掛け止め部分322aから連続して上方に延びる上向き部分322bと、この上向き部分322bの上端に連続して設けられ支柱2に向かって延びる先端部分322cとを備えたものであり、この先端部分322cと前記延出桿31との間に輸液パックPを挿脱するための前記開口3sが形成されている。前記折り返し部322の先端322xは、支柱2に向けて延出している。すなわち、前記折り返し部322の先端部分322cは、前記延出桿31と平行である。前記延出桿31は、図8に示すように、その基端に下方に屈曲して垂下する垂下部311を備えている。前記フック取付部材5は、支柱2の上端部に装着されたもので、その上面に、中心ボルト挿通孔51と、この中心ボルト挿通孔51の近傍から放射状に形成された複数本の延出桿保持溝52と、これら各延出桿保持溝52の基端に連続させて設けられた縦穴53とが設けられている。前記延出桿31は、その垂下部311を前記縦穴53に挿入するとともに、その垂下部311に連続する基端部312を前記延出桿保持溝52に嵌め合わせることによりフック取付部材5に保持されるようになっている。なお、フック取付部材5の上面には、前記中心ボルト挿通孔51に対応する中心孔61と、前記延出桿保持溝52に対応する保持溝62とを有したキャップ6が装着されるようになっており、このキャップ6の中心孔61と前記フック取付部材5の中心ボルト挿通孔51に挿通させたボルト63を支柱2の内部に固設した図示しないナットに螺着することにより前記各延出桿31を前記フック取付部材5に固定するようにしてある。以上のような輸液フック3の下方に、手を掛けることができるハンドル4を設けている。
【0022】
前記ハンドル4は、図1〜図5に示すように、支柱2を囲う環状のハンドル本体41と、このハンドル本体41を支柱2に支持させるためのボス部42とを備えてなる。このハンドル4は、左右両側及び前側からそれぞれ把持可能であり、このハンドル本体41の内周面41a側に全周に亘って連続した環状空間を形成している。本実施形態では、前記ハンドル本体41の内周面41a、上面41b及び外周面41cが全周に亘って途切れることなく連続している。前記ハンドル本体41は、環状をなす持ち手部411と、この持ち手部411の下面411aと前記ボス部42とを連結する連結部412とを備えており、その上面41bが略水平となるように前記支柱2に取り付けられている。前記持ち手部411は、平面視において長軸を左右方向に向けて支柱2に取り付けられた楕円形状をなし、その断面形状は手を掛けやすくすべく略円形状に設定されている。前記環状空間は、この持ち手部411の内周に沿って環状をなすように連続したものである。前記連結部412は、前記持ち手部411の左右両端の下面411aからそれぞれ前記ボス部42に向かい延びる帯状のもので、持ち手部411に手を掛けた際に手と干渉しにくい位置に配している。前記ボス部42は平面視において前記持ち手部411の中心に位置されている。このボス部42は、支柱2に対して上下方向に取付位置を変更可能に取り付けられており、このハンドル4のボス部42を緊締機構43により前記支柱2に対して上下位置変更可能に固定している。この緊締機構43は、前記ハンドル4の持ち手部411よりも下方に位置する部位に設けられている。前記緊締機構43は、前記ハンドル4のボス部42により構成される雌ねじを有するフレーム431と、このフレーム431の雌ねじに螺着された雄ねじを有するグリップ432と、前記雄ねじが外部に露出することを防止するカバー433とを具備する。この緊締機構43は、前述した支柱2の上部要素22を下部要素21に固定するための緊締機構23に準じた構成をなすものであるため、図示及び詳細な説明は省略する。
【0023】
そして、この点滴スタンドSは、図5及び図12を参照しつつ以下に述べるような手順によりネスティング可能である。まず、特定の点滴スタンドS(1)のハンドル4と、この特定の点滴スタンドS(1)と同一構造をなす他の点滴スタンドS(2)のハンドル4との上下方向相対位置を持ち手部411の上下方向寸法以上異ならせておく。次いで、特定の点滴スタンドS(1)の前方から、この点滴スタンドS(1)の中心フレーム121に他の点滴スタンドS(2)の中心フレーム121が平行となるように他の点滴スタンドS(2)を接近させる。このとき、特定の点滴スタンドS(1)の前側の脚フレーム122の下方に形成された蹴り込み空間1s4を他の点滴スタンドS(2)の後側の脚フレーム123が通過する。そして、特定の点滴スタンドS(1)の支柱2に他の点滴スタンドS(2)のハンドル4の持ち手部411が接近又は当接し、特定の点滴スタンドS(1)の前側に他の点滴スタンドS(2)をネスティングさせることができる。
【0024】
なお、以上の実施形態において、前後左右の概念は説明の便宜上用いたものであり、使用者Uの使用方向を規定するものではない。
【0025】
以上に述べたように、本実施形態の構成によれば、前記環状弁体27が下部要素21の内面21bに密着しているので、上部要素22が上昇する際にはこの環状弁体27は前記弁座26の弁座本体26aから離間する開弁位置Oをとり、下部要素21内部の流量制御弁25を越える空気の流れ、すなわち下部要素21と弁座26及び環状弁体27との間の隙間を介した空気の流れが許可される一方、上部要素22が下降する際にはこの環状弁体27が前記弁座26に着座して閉弁位置Sをとり、これら環状弁体27及び弁座26により構成される流量制御弁25を越える下部要素21内部の上下方向の空気の流れが抑制される。従って、上部要素22をスムーズに上昇させることができる一方、上部要素22の下降の際には下降の速度すなわち上部要素22が下部要素21に収納される際の速度を抑制することができる。従って、上部要素22が可動範囲の下端に達した際の衝撃の発生を抑制することができる。
【0026】
また、前記下部要素21の内部に配され該下部要素21との間で相対移動可能であるとともに前記上部要素22を下降させる際に環状弁体27を閉弁位置Sに向けて付勢する付勢手段たるCリング28を備えているので、上部要素22が下降する際に前記環状弁体27が前記弁座26と前記Cリング28との間で挟持され、前記環状弁体27をより効果的に閉弁位置Sに保持させることができる。さらに、このCリング28の切り欠き部分を拡開させた状態でこの切り欠き部分を芯材26cが通過することにより、このCリング28を芯材26cの外方に容易に取り付けることができる。
【0027】
そして、前記Cリング28の外面28aに、前記下部要素21の内面21bに優先して衝き当たる突起281を設けているので、Cリング28の外面28a全体が下部要素21に弾性接触する態様と比較して、Cリング28と下部要素21との接触面積が小さく、上昇移動の際にこれらCリング28と下部要素21との間に発生する摩擦力を小さくできる。従って、上部要素22の上昇移動をよりスムーズに行うことができる。
【0028】
加えて本実施形態では、環状弁体27としてOリングを採用しているので、この環状弁体27が閉弁位置Sをとる場合であっても、この環状弁体27が弾性変形し該環状弁体27と弁座26との間から空気をわずかな量流通させることができ、従って下部要素21の底部に空気を流通させるための手段を設けることなく、少ない加工工数でこの昇降装置をダンパとして機能させることができる。
【0029】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
【0030】
例えば、環状弁体は断面形状が円形をなすOリングに限らず、内部材の内面に密着可能なものであれば、断面形状が正方形状や菱形状の環状弁体を利用してもよい。また、環状弁体の断面の大きさ、例えば直径や辺の長さは任意に設定してよい。
【0031】
また、上述した実施形態では、脚ベースに支持された下部要素を外筒とし、この下部要素に上下スライド可能に嵌め合わされた上部要素を内部材としているが、逆に、脚ベースに支持された下部要素を内部材とし、この下部要素に上下スライド可能に嵌め合わされた上部要素を外筒とした構成の昇降装置に本発明を適用してもよい。
【0032】
さらに、上述した実施形態における付勢手段であるCリングに代えて、例えば環状弁体とは別のOリングを採用してもよい。すなわち、環状弁体及び付勢手段としてそれぞれ機能する複数のOリングを配する態様を採用してもよい。一方、付勢手段を省略する態様を採用してもよい。
【0033】
加えて、上述した実施形態においては付勢手段であるCリングの外面に外筒(下部要素)に優先的に衝き当たる突起を設けているが、その外面に潤滑油を塗布するなど、他の手段により外筒の内面との間の摩擦力を調節するようにしてもよい。
【0034】
さらに、内部材はパイプ状のものに限らず、中実の部材であってもよい。
【0035】
そして、上述したような点滴スタンドに限らず、一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒の他端側から該外筒に上下スライド可能に挿入される内部材とを備えた昇降装置全般に本発明を適用してもよい。
【0036】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変形してよい。
【符号の説明】
【0037】
L…昇降装置
21…下部要素(外筒)
22…上部要素(内部材)
25…流量制御弁
26…弁座
27…環状弁体
O…開弁位置
S…閉弁位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部を密閉されたパイプ状をなす外筒と、この外筒の他端側から該外筒に上下スライド可能に挿入される内部材と、この内部材の挿入端に設けられ空気の流量の制御を行う流量制御弁とを備え、
前記流量制御弁が、前記内部材の挿入端側に前記外筒との間に隙間を形成した状態で設けられる弁座と、外筒の内面に密着し、弁座に着座して上下方向の空気の流れを抑制する閉弁位置と弁座から離間し上下方向の空気の流れを許可する開弁位置との間で移動可能な環状弁体とを備えていることを特徴とする昇降装置。
【請求項2】
前記外筒の内部に配され該外筒との間で相対移動可能であるとともに前記内部材を外筒に収納する際に環状弁体を閉弁位置に向けて付勢する付勢手段を備えている請求項1記載の昇降装置。
【請求項3】
前記付勢手段が、前記外筒内に配した状態で外方に向かう弾性力を蓄積しているリング状部材である請求項2記載の昇降装置。
【請求項4】
前記付勢手段が、その一部を切り欠いた環状をなす部材である請求項2又は3記載の昇降装置。
【請求項5】
前記付勢手段であるリング状部材が、その外面に、前記外筒の内面に優先して衝き当たる突起を有する請求項3記載の昇降装置。
【請求項6】
移動可能な脚ベースに支柱を支持させ、その支柱に輸液パックを掛けるための輸液パック保持部を設けてなる点滴スタンドに用いられるものであって、前記外筒が前記脚ベースに立設され前記支柱を構成する下部要素であるとともに、前記内部材が前記下部要素に上下スライド可能に嵌め合わされ前記輸液パック保持部を支持する上部要素である請求項1、2、3、4又は5記載の昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−103013(P2013−103013A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249806(P2011−249806)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】