説明

昇降駆動用噛合チェーン

【課題】チェーン相互間における円滑な噛合状態を達成するとともに昇降用スプロケットと円滑に噛み合って、ブシュの耐久性を向上させ、チェーン幅方向に生じがちな座屈を抑制する昇降駆動用噛合チェーンを提供すること。
【解決手段】内歯プレート110とブシュ120と外歯プレート150と連結ピン160とを備え、昇降用スプロケットSにより水平方向から垂直方向へ偏向しながら一体に自立状態で上昇するとともに垂直方向から水平方向へ偏向しながら分岐し、内歯プレート110のブシュ間ピッチWiが、上昇駆動時に先行する内歯プレート110の下方側のブシュ120の中心と前記内歯プレート110に後続する内歯プレート110の上方側のブシュ120の中心との相互間隔Xに等しくなるように設定された昇降駆動用噛合チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製造分野の製造設備、運輸分野の移送設備、医療福祉分野の介護設備、芸術分野の舞台設備などに用いて昇降テーブルを設置面に対して平行に昇降動させる昇降装置に組み込まれる昇降駆動用噛合チェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降装置として、相互に噛み合って一体的に昇降する一対の噛合チェーン、所謂、チャックチェーンを用いて重量物などの被昇降物を昇降移動させる昇降装置がある(例えば、特許文献1参照。)。そして、このような噛合チェーン500は、図7に示すように、左右一対のフック状の内プレート510と内プレート510に圧入嵌合された前後一対のブシュ520とブシュ520に対して回転自在に外嵌された前後一対のローラ570とブシュ520内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピン560と連結ピン560の両端に圧入嵌合させ内プレート510をチェーン長手方向に連結する左右一対のフック状の外プレート550とを備えており、内プレート510同士および外プレート550同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇駆動するようになっている。
【特許文献1】特開平11−278797号公報(特に、第1頁、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の噛合チェーン500では、一般に内プレート510のブシュ間ピッチWiと外プレート550のピン間ピッチWoはWo=Wi−(Wb−Wp)の式を満足する間隔でそれぞれ設定されており、図7に示すように、上昇駆動時に昇降テーブルや被昇降物の重量等の荷重がチェーンに対して作用した場合、連結ピン560がブシュ520に対して各内プレート510内におけるチェーン長手方向内側に偏在して、上昇駆動時に先行する内プレート510aの下方側に圧入嵌合されたブシュ520aの中心と前記内プレート510aに後続する内プレート510bの上方側に圧入嵌合されたブシュ520bの中心との相互間隔Xが内プレート510のブシュ間ピッチWiよりも狭く、すなわち、前記相互間隔XがX=Wo−(Wb−Wp)の式を満たす間隔になるため、チェーン長手方向に亘る各ブシュ520の相互間隔が不均等になってスプロケットSとの噛合時にガタツキが発生してしまうという問題があった。
さらに、前述したように上昇駆動時にはチェーン長手方向に亘る各ブシュ520の相互間隔が不均等になるため、一対の噛合チェーン500の一方を構成する外プレート550および内プレート510と他方の噛合チェーン500を構成する外プレート550および内プレート510との相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係にバラツキが発生してチェーン相互間における噛合状態にズレが生じてしまうという問題があった。
【0004】
また、前述したような従来の噛合チェーン500では、ローラ570がブシュ520に対して回転自在に遊嵌されているため、スプロケットSとの噛み合い時に連結ピン560もしくはブシュ520の中心に対してローラ570の中心が偏在して、ローラ570とスプロケットSとの間で噛合振動や噛合騒音が発生するという問題があり、また、このようなローラ570とスプロケットSとの間での噛合振動に起因してチェーン相互間における噛合状態にズレが生じて、その結果、このような噛合状態のズレに起因して発生した振動が被昇降物に伝わってしまうことがあるという問題があった。
【0005】
そして、前述したような噛合チェーン500では、ローラ570がブシュ520と別体で成形されて充分な肉厚を確保できていないため、重量物などの被昇降物を上昇させる際にローラ570とスプロケットSとの間にかかる高負荷によってローラ570の疲労破壊が生じやすいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、チェーン相互間における円滑な噛合状態を達成するとともにガタツキや噛合振動などを生じさせることなく昇降用スプロケットと円滑に噛み合って、しかも、ブシュの耐久性を向上させるとともにチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制する昇降駆動用噛合チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、前記ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに前記一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐する昇降駆動用噛合チェーンにおいて、前記内歯プレートのブシュ間ピッチが、前記昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と前記内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記外歯プレートのピン間ピッチが、前記内歯プレートのブシュ間ピッチにブシュの内周と連結ピンの外周との径差を加えた長さに等しくなるように設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記ブシュが内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部と該プレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記内リンクユニットがチェーン幅方向に複数配置されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
なお、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで言うところの「内歯プレートのブシュ間ピッチ」とは、内歯プレートに前後一対で圧入嵌合されたブシュの中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで言うところの「外歯プレートのピン間ピッチ」とは、外歯プレートに前後一対で圧入嵌合された連結ピンの中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
【発明の効果】
【0012】
そこで、本発明は、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐することにより、昇降用スプロケットの回転に合わせて被昇降物の昇降動作を等速かつ迅速に達成できるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0013】
請求項1に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、内歯プレートのブシュ間ピッチが、昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることにより、被昇降物などの荷重に起因して連結ピンがブシュに対して各内歯プレート内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、チェーン長手方向に亘る各ブシュの相互間隔がそれぞれ等しくなるので、各ブシュの相互間隔が不均等である場合に昇降用スプロケットとの間で生じがちなガタツキを抑制して、昇降用スプロケットとの円滑な噛合状態を実現できる。
また、前述したように上昇駆動時における各ブシュの相互間隔をそれぞれ等しくすることで、一対の昇降駆動用噛合チェーンの一方を構成する外歯プレートおよび内歯プレートと他方の昇降駆動用噛合チェーンを構成する外歯プレートおよび内歯プレートとの相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係を半ピッチずらした状態で適切に調整できるので、チェーン相互間における円滑な噛合状態を実現できる。
【0014】
請求項2に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、請求項1記載の昇降駆動用噛合チェーンが奏する効果に加えて、外歯プレートのピン間ピッチが、内歯プレートのブシュ間ピッチにブシュの内周と連結ピンの外周との径差を加えた長さに等しくなるように設定されていることにより、被昇降物などの荷重に起因して連結ピンがブシュに対して各内歯プレート内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、内歯プレートのブシュ間ピッチが、上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなり、チェーン長手方向に亘る各ブシュの相互間隔がそれぞれ等しくなるので、各ブシュの相互間隔が不均等である場合に昇降用スプロケットとの間で生じがちなガタツキを抑制して昇降用スプロケットとの円滑な噛合状態を実現できる。
また、前述したように上昇駆動時における各ブシュの相互間隔をそれぞれ等しくすることで、一対の昇降駆動用噛合チェーンの一方を構成する外歯プレートおよび内歯プレートと他方の昇降駆動用噛合チェーンを構成する外歯プレートおよび内歯プレートとの相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係を半ピッチずらした状態で適切に調整できるので、チェーン相互間における円滑な噛合状態を実現できる。
【0015】
請求項3に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の昇降駆動用噛合チェーンが奏する効果に加えて、ブシュが内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部とプレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることにより、本発明の昇降駆動用噛合チェーンではブシュと一体に成形されたスプロケット噛合部の特定された外周面で昇降用スプロケットと安定して接触するので、ローラを用いた従来の噛合チェーンのようにスプロケットとの噛み合い時に連結ピンもしくはブシュの中心に対してローラの中心が偏在してスプロケットとの間で噛合振動や噛合騒音が発生することを防止でき、また、このようにしてブシュと昇降用スプロケットとの間での噛合振動の発生を防止することで、チェーン相互間における噛合状態にズレが生じることを回避できるので、このような噛合状態のズレに起因して発生する振動を被昇降物に与えることなく安定した昇降動作を実現できるとともに、昇降用スプロケットの回転力を効率良く昇降駆動用噛合チェーンに伝達することができる。
【0016】
また、ブシュがプレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部を備えていることにより、ブシュと別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラを採用した従来の噛合チェーンと比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーンではスプロケット噛合部をブシュと一体に成形して充分な肉厚を確保しているので、重量物などの被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対してスプロケット噛合部が高い耐負荷性能を発揮して、ブシュに疲労破壊を生じることを防止できる。
そして、本発明の昇降駆動用噛合チェーンでは、ローラを用いておらずチェーンの部品点数を低減できるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業負担を軽減できる。
【0017】
請求項4に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の昇降駆動用噛合チェーンが奏する効果に加えて、内リンクユニットがチェーン幅方向に複数配置されていることにより、一対の昇降駆動用噛合チェーンの一方を構成する外歯プレートと内歯プレートが、これに対向する他方の昇降駆動用噛合チェーンを構成する外歯プレートと内歯プレートに対してチェーン方向の複列に亙ってそれぞれフック状、所謂、チャック状に多重かつ強固に噛み合うので、昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制して優れたチェーン耐久性を実現でき、また、チェーン幅方向における昇降用スプロケットとの噛合バランスを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐する昇降駆動用噛合チェーンにおいて、内歯プレートのブシュ間ピッチが、昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と前記内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されて、チェーン相互間における円滑な噛合状態を達成するとともにガタツキや噛合振動などを生じさせることなく昇降用スプロケットと円滑に噛み合って、しかも、ブシュの耐久性を向上させるとともにチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制するものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0019】
例えば、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで用いる内歯プレート、外歯プレート、および、中間歯プレートの具体的な形状については、相互に対向する同種のプレート同士が相互に噛み合って水平方向から垂直方向へ偏向しながら一体に自立状態で上昇するとともに垂直方向から水平方向へ偏向しながら相互に噛み外れて分岐するものであれば如何なる形状を呈するものであっても良い。
また、本発明の昇降駆動用噛合チェーンにおいてチェーン幅方向に並列配置する内リンクユニットの列数は、単列、または、2列や3列などの複列のいずれであっても良く、内リンクユニットがチェーン幅方向に複数配置されている場合には、一対の昇降駆動用噛合チェーンの一方を構成する外歯プレートと内歯プレートが、これに対向する他方の昇降駆動用噛合チェーンを構成する外歯プレートと内歯プレートに対してチェーン方向の複列に亙ってそれぞれフック状、所謂、チャック状に多重かつ強固に噛み合うので、昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制して優れたチェーン耐久性を実現でき、また、チェーン幅方向における昇降用スプロケットとの噛合バランスを向上できる。
【0020】
そして、本発明の昇降駆動用噛合チェーンが組み込まれる噛合チェーン式昇降装置は、設置面が据え置き設置形態となる床面であっても、吊り下げ設置形態となる天井面であっても昇降動作に何ら支障はなく、さらには、片持ち支持形態となる垂直壁面であっても前述した昇降動作に相当する進退動作に何ら支障はない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーンを用いた使用態様図であり、図2は、図1から昇降テーブルとパンタアームを除いた状態の斜視図であり、図3は、昇降駆動用噛合チェーンの一部拡大図であり、図4は、昇降駆動用噛合チェーンの一部断面図であり、図5は、昇降駆動用噛合チェーンに被昇降物の負荷が作用した状態を示す説明図であり、図6は、対向配置された一対の昇降駆動用噛合チェーンに被昇降物の負荷が作用した状態を示す説明図である。
【0022】
まず、本発明の第1実施例である昇降駆動用噛合チェーン100は、図1に示すように、重量物などの被昇降物(図示しない)を搭載する昇降テーブルTを設置面に対して平行に昇降させるために、作業床面に据え置き状態で設置された噛合チェーン式昇降装置Eに組み込まれて使用されるものである。
【0023】
前述した噛合チェーン式昇降装置Eは、図1および図2に示すように、前述した昇降テーブルTが平行に昇降する設置面に据え付けたベースプレートPと、このベースプレートPに対して平行に併置された一対の回転軸を中心に同一面内で相互に対向して反対方向に正逆回転する一対の昇降用スプロケットSと、これらの一対の昇降用スプロケットSと噛み外れることによって昇降テーブルTを昇降する一対の昇降駆動用噛合チェーン100と、この昇降駆動用噛合チェーン100の上端に固着されて一体に昇降する前述した昇降テーブルTと、一対の昇降用スプロケットSを駆動する駆動モータMとを基本的な装置構成として備えている。
【0024】
なお、図1および図2に示す符号Dは、駆動モータMの出力軸側に同軸配置した一対の駆動側スプロケットであり、符号Cは、駆動側スプロケットDから一対の昇降用スプロケットS側へ動力伝達するためのローラチェーンからなる一対の動力伝達チェーンであり、符号Gは、一対の動力伝達チェーンCから一方向の回転を変速させるとともに一対の昇降用スプロケットSへ相互に反対方向に正逆回転するように動力伝達するための変速ギア群であり、符号Aは、昇降テーブルTと設置面側のベースプレートPとの間に設置されたX字状のパンタアームと称するインナーアームA1とアウターアームA2とからなる上下2段連結形態の昇降補助ガイド手段であり、符号Rは、インナーアームA2の下端が昇降動作に応じて摺動するスライドレールであり、符号Bは、相互に噛み外れて分岐した一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を収納する巻き取り型のチェーン収納ボックスである。
【0025】
そして、噛合チェーン式昇降装置Eにおいて一対で用いられる本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100は、所謂、チャックチェーンと称するものであって、図3乃至図6に示すように、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレート110に前後一対のブシュ120を圧入嵌合してなる内リンクユニット130がチェーン幅方向に2枚のフック状の中間歯プレート140を介して並列配置されているとともに、内リンクユニット130がチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレート150の前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピン160によりチェーン長手方向に多数連結されたものである。
また、中間歯プレート140は、図4に示すように、連結ピン160に対して圧入嵌合、所謂、シマリ嵌めして組み付けられており、昇降駆動用噛合チェーン100に被昇降物などの重量に起因した高負荷が作用した際にも、連結ピン160の湾曲を抑制して、連結ピン160が湾曲することで発生しがちな疲労破壊を防止できるように設計されている。
また、前述したように中間歯プレート140のピン孔と連結ピン160との間の間隙を無くしたことで連結ピン160の湾曲を抑制して、中間歯プレート140側に配置された各プレート、例えば、中間歯プレート140や該中間歯プレート140に近接する内歯プレート110なども被昇降物などの重量に起因した高負荷を負担して、チェーン幅方向の荷重負担バランスを著しく向上させるように設計されている。
【0026】
また、一対の昇降駆動用噛合チェーン100は、図3乃至図6に示すように、前述した一対の昇降用スプロケットSにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート110同士および外歯プレート150同士および中間歯プレート140同士を半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するようになっており、また、前述した一対の昇降用スプロケットSにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート110同士および外歯プレート150同士および中間歯プレート140同士をそれぞれ噛み外して分岐するようになっている。
【0027】
そこで、本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100が最も特徴とする内歯プレート110、外歯プレート150、およびブシュ120の具体的な形態について図3乃至図6により詳しく説明する。
まず、外歯プレート150のピン間ピッチWo、内歯プレート110のブシュ間ピッチWi、ブシュ120の内径Wb、および連結ピンの外径Wpは、Wo=Wi+(Wb−Wp)を満足するようにそれぞれ形成されている。
そのため、図5および図6に示すように、上昇駆動時に先行する内歯プレート110aの下方側に圧入嵌合されたブシュ120aの中心と前記内歯プレート110aに後続する内歯プレート110bの上方側に圧入嵌合されたブシュ120bの中心との相互間隔Xは、内歯プレート110のブシュ間ピッチWiに等しくなり、その結果、上昇駆動時において、チェーン長手方向に亘る各ブシュ120の相互間隔はそれぞれ等しくなるように設定されている。
なお、前述した式「Wo=Wi+(Wb−Wp)」は、「Wo」と「Wi+(Wb−Wp)」とが完全に等しいことを意味するものではなく、一定の誤差等を許容するものであることは言うまでもない。
【0028】
また、ブシュ120は、図4に示すように、内歯プレート110に圧入嵌合するプレート側圧入部121と、このプレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122とを一体に備えている。
このようにしてブシュ120を成形したことにより、スプロケット噛合部122の特定された外周面で昇降用スプロケットSと安定して接触するので、ローラ570を用いた従来の噛合チェーン500のようにスプロケットSとの噛み合い時に連結ピン560もしくはブシュ520の中心に対してローラ570の中心が偏在してスプロケットSとの間で噛合振動や噛合騒音が発生することを防止できるようになっている。
さらには、ブシュ520と別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラ570を採用した従来の噛合チェーン500と比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではスプロケット噛合部122がブシュ120と一体に成形されて充分な肉厚を確保でき、その結果、このスプロケット噛合部122が重量物などの被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対して高い耐負荷性能を発揮するようになっている。
【0029】
そして、前述したように、内リンクユニット130は、チェーン幅方向に複数配置されている。
そのため、一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を構成する外歯プレート150と内歯プレート110と中間歯プレート140が、これに対向する他方の昇降駆動用噛合チェーン100を構成する外歯プレート150と内歯プレート110と中間歯プレート140に対してチェーン方向の複列に亙ってそれぞれフック状、所謂、チャック状に多重かつ強固に噛み合って、昇降駆動用噛合チェーン100のチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制し、また、チェーン幅方向における昇降用スプロケットSとの噛合バランスを向上できるようになっている。
【0030】
なお、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100で言うところの「内歯プレート110のブシュ間ピッチWi」とは、内歯プレート110に前後一対で圧入嵌合されたブシュ120の中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100で言うところの「外歯プレート150のピン間ピッチWo」とは、外歯プレート150に前後一対で圧入嵌合された連結ピン160の中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
【0031】
このようにして得られた本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100は、内歯プレート110のブシュ間ピッチWiが、昇降用スプロケットSによる上昇駆動時に先行する内歯プレート110aの下方側に圧入嵌合されたブシュ120aの中心と内歯プレート110aに後続する内歯プレート110bの上方側に圧入嵌合されたブシュ120bの中心との相互間隔Xに等しくなるように設定されている。
したがって、被昇降物などの荷重に起因して連結ピン160がブシュ120に対して各内歯プレート110内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、図6に示すように、チェーン長手方向に亘る各ブシュ120の相互間隔が等しくなるので、各ブシュ120の相互間隔が不均等である場合に昇降用スプロケットSとの間で生じがちなガタツキを抑制して、昇降用スプロケットSとの円滑な噛合状態を実現できる。
【0032】
また、前述したように上昇駆動時における各ブシュ120の相互間隔を等しくすることで、一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を構成する外歯プレート150および内歯プレート110と他方の昇降駆動用噛合チェーン100を構成する外歯プレート150および内歯プレート110との相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係を半ピッチずらした状態で適切に調整できるので、チェーン相互間における円滑な噛合状態を実現できる。
【0033】
また、ブシュ120が、内歯プレート110に圧入嵌合するプレート側圧入部121とプレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122とを一体に備えている。
したがって、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではブシュ120と一体に成形されたスプロケット噛合部122の特定された外周面で昇降用スプロケットSと安定して接触するので、ローラ570を用いた従来の噛合チェーン500のようにスプロケットSとの噛み合い時に連結ピン560もしくはブシュ520の中心に対してローラ570の中心が偏在してスプロケットSとの間で噛合振動や噛合騒音が発生することを防止でき、また、このようにしてブシュ120と昇降用スプロケットSとの間での噛合振動の発生を防止することで、チェーン相互間における噛合状態にズレが生じることを回避できるので、このような噛合状態のズレに起因して発生する振動を被昇降物に与えることなく安定した昇降動作を実現できるとともに、昇降用スプロケットSの回転力を効率良く昇降駆動用噛合チェーン100に伝達することができる。
【0034】
また、ブシュ120が、プレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122を備えている。
したがって、ブシュ520と別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラ570を採用した従来の噛合チェーン500と比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではスプロケット噛合部122をブシュ120と一体に成形して充分な肉厚を確保しているので、重量物等の被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対してスプロケット噛合部122が高い耐負荷性能を発揮して、ブシュ120に疲労破壊を生じることを防止できる。
そして、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100では、ローラを用いておらずチェーンの部品点数を低減できるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業負担を軽減することができる。
【0035】
そして、内リンクユニット130が、チェーン幅方向に複数配置されている。
したがって、一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を構成する外歯プレート150と内歯プレート110が、これに対向する他方の昇降駆動用噛合チェーン100を構成する外歯プレート150と内歯プレート110に対してチェーン方向の複列に亙ってそれぞれフック状、所謂、チャック状に多重かつ強固に噛み合うので、昇降駆動用噛合チェーン100のチェーン幅方向に生じがちな座屈を確実に抑制して優れたチェーン耐久性を実現でき、また、チェーン幅方向における昇降用スプロケットSとの噛合バランスを向上できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーンを用いた使用態様図。
【図2】図1から昇降テーブルとパンタアームを除いた状態の斜視図。
【図3】昇降駆動用噛合チェーンの一部拡大図。
【図4】昇降駆動用噛合チェーンの一部断面図。
【図5】昇降駆動用噛合チェーンに被昇降物の負荷が作用した状態を示す説明図。
【図6】対向配置された一対の昇降駆動用噛合チェーンに被昇降物の負荷が作用した状態を示す説明図。
【図7】従来の噛合チェーンに被昇降物の負荷が作用した状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0037】
100 ・・・ 昇降駆動用噛合チェーン
110 ・・・ 内歯プレート
120 ・・・ ブシュ
121 ・・・ プレート側圧入部
122 ・・・ スプロケット噛合部
130 ・・・ 内リンクユニット
140 ・・・ 中間歯プレート
150 ・・・ 外歯プレート
160 ・・・ 連結ピン
Wi ・・・ 内歯プレートのブシュ間ピッチ
Wo ・・・ 外歯プレートのピン間ピッチ
Wb ・・・ ブシュの内径
Wp ・・・ 連結ピンの外径
E ・・・ 噛合チェーン式昇降装置
S ・・・ 昇降用スプロケット
T ・・・ 昇降テーブル
P ・・・ ベースプレート
M ・・・ 駆動モータ
D ・・・ 駆動側スプロケット
C ・・・ 動力伝達チェーン
G ・・・ 変速ギア群
A ・・・ 昇降補助ガイド手段
A1 ・・・ インナーアーム
A2 ・・・ アウターアーム
R ・・・ スライドレール
B ・・・ チェーン収納ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、前記ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに前記一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐する昇降駆動用噛合チェーンにおいて、
前記内歯プレートのブシュ間ピッチが、前記昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と前記内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることを特徴とする昇降駆動用噛合チェーン。
【請求項2】
前記外歯プレートのピン間ピッチが、前記内歯プレートのブシュ間ピッチにブシュの内周と連結ピンの外周との径差を加えた長さに等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項1記載の昇降駆動用噛合チェーン。
【請求項3】
前記ブシュが、前記内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部と該プレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の昇降駆動用噛合チェーン。
【請求項4】
前記内リンクユニットが、チェーン幅方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の昇降駆動用噛合チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−137747(P2009−137747A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318623(P2007−318623)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)