説明

昇降駆動用噛合チェーン

【課題】チェーン幅方向におけるチェーン全体の重量バランスを均一に保って被昇降物などの重量に対する荷重バランスを向上し、昇降駆動用噛合チェーンと昇降用スプロケットとの間およびチェーン相互間における円滑な噛合状態を実現し、ブシュの耐久性を向上させる昇降駆動用噛合チェーンを提供する。
【解決手段】内歯プレート110とブシュ120と外歯プレート140と連結ピン150とを備え、内歯プレート110同士および外歯プレート140同士をそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇し、内歯プレート110と外歯プレート140とが、共通の金型を用いて打ち抜き加工され、プレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態およびフック部111,141を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されている昇降駆動用噛合チェーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製造分野の製造設備、運輸分野の移送設備、医療福祉分野の介護設備、芸術分野の舞台設備などに用いて昇降テーブルを設置面に対して平行に昇降動させる昇降装置に組み込まれる昇降駆動用噛合チェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降装置として、相互に噛み合って一体的に昇降する一対の噛合チェーン、所謂、チャックチェーンを用いて重量物などの被昇降物を昇降移動させる昇降装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような噛合チェーン500は、図6および図7に示すように、左右一対で離間配置されたフック状の内プレート510に前後一対のブシュ520を圧入嵌合してなる内リンクユニット530がチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外プレート540の前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピン550によりチェーン長手方向に多数連結され、前記ブシュ520と噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内プレート510同士および外プレート540同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇駆動するようになっている。
【0004】
そして、このような噛合チェーン500では、一般に、生産効率を向上させるために共通の金型を用いて外プレート540および内プレート510を打ち抜いて成形しており、また、このような外プレート540および内プレート510のプレート切断面には、図7に示すように、平滑面状の剪断面Xが打ち抜き方向後方に形成されているとともに粗面状の破断面Yが打ち抜き方向前方に形成されている。
【特許文献1】特許第3370928号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の噛合チェーン500では、図6に示すように、内プレート510および外プレート540に形成されたフック部511、541を同一のプレート長手方向に向けた状態かつ同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態で内プレート510および外プレート540をそれぞれ配置しており、その結果、図7に示すように、各プレート内における剪断面Xおよび破断面Yのプレート厚み方向への並び順が全てのプレートに共通して同じ並び順になるため、重量の軽い破断面Y側と重量の重い剪断面X側との間に生じた重量差に起因してプレート厚み方向、すなわち、チェーン幅方向に亘るチェーン全体の重量バランスに片寄りが生じ、このように重量バランスの片寄りが生じることで噛合チェーン500の上昇駆動時に被昇降物の重量に対するチェーン幅方向における荷重バランスが悪化して、チェーン耐久性が低下したり駆動騒音が発生してしまうという問題があった。
【0006】
また、特に噛合チェーン500をチェーン長手方向に長くして被昇降物の上昇高度を高く設定した場合に、前述したような噛合チェーン500の荷重バランスの悪化に伴って上昇駆動時に噛合チェーンが一定の方向に傾斜するため、一対の噛合チェーン500の内プレート510同士および外プレート540同士が噛み外れて座屈を生じることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、チェーン幅方向におけるチェーン全体の重量バランスを均一に保って被昇降物などの重量に対する荷重バランスを向上するとともに、昇降駆動用噛合チェーンと昇降用スプロケットとの間およびチェーン相互間における円滑な噛合状態を実現して、しかも、ブシュの耐久性を向上させる昇降駆動用噛合チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、前記ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに前記一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐する昇降駆動用噛合チェーンにおいて、前記内歯プレートと外歯プレートとが、共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態および各プレートに形成されたフック部を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記ブシュが内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部と該プレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記内歯プレートのブシュ間ピッチが、前記昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と前記内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
なお、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで言うところの「内歯プレートのブシュ間ピッチ」とは、内歯プレートに前後一対で圧入嵌合されたブシュの中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで言うところの「外歯プレートのピン間ピッチ」とは、外歯プレートに前後一対で圧入嵌合された連結ピンの中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
【発明の効果】
【0012】
そこで、本発明の昇降駆動用噛合チェーンは、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐することにより、昇降用スプロケットの回転に合わせて被昇降物の昇降動作を等速かつ迅速に達成できるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0013】
請求項1に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、内歯プレートと外歯プレートとが共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態でそれぞれ配置されていることにより、内歯プレートおよび外歯プレートが、打ち抜き方向後方に形成された剪断面側と打ち抜き方向前方に形成された破断面側との間に生じた重量差に起因してプレート厚み方向へ重量の片寄りをそれぞれ生じた場合であっても、チェーン幅方向に亘るチェーン全体の重量バランスを均一に維持するので、昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向への傾斜を抑制して被昇降物の重量などに対するチェーン幅方向における荷重バランスを向上できる。
【0014】
また、このようにチェーン幅方向への荷重バランスを向上することで、昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向への傾倒や座屈を生じさせることなく被昇降物をより高い位置にまで安定して上昇できるとともに、昇降駆動用噛合チェーンに対して部分的な過負荷が作用することを回避してチェーン耐久性を向上できる。
【0015】
そして、内歯プレートと外歯プレートとが、各プレートに形成されたフック部を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されていることにより、この各プレートのフック部を介して一対の昇降駆動用噛合チェーンの内歯プレート同士および外歯プレートをそれぞれ噛み合わせることができるので、座屈等を生じることなく昇降駆動用噛合チェーンによる被昇降物の確実な昇降動作を実現できる。
【0016】
請求項2に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、請求項1記載の昇降駆動用噛合チェーンが奏する効果に加えて、ブシュが内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部とプレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることにより、本発明の昇降駆動用噛合チェーンではブシュと一体に成形されたスプロケット噛合部の特定された外周面で昇降用スプロケットと安定して接触するので、ローラを用いたチェーンのように昇降用スプロケットとの噛み合い時に連結ピンもしくはブシュの中心軸に対してローラの中心軸が偏在して昇降用スプロケットとの間で接触振動や接触騒音が発生することを防止でき、また、このようにしてブシュと昇降用スプロケットとの間での接触振動の発生を防止することで、一対の昇降駆動用噛合チェーンの相互間での噛合状態にズレが生じることを回避できるので、このような噛合状態のズレに起因して発生する振動を被昇降物に与えることなく安定した昇降動作を実現できるとともに、昇降用スプロケットの回転力を効率良く昇降駆動用噛合チェーンに伝達することができる。
【0017】
また、ブシュがプレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部を備えていることにより、ブシュと別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラを採用したチェーンと比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーンではスプロケット噛合部をブシュと一体に成形して充分な肉厚を確保しているので、重量物などの被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対してスプロケット噛合部が高い耐負荷性能を発揮して、ブシュに疲労破壊を生じることを防止できる。
【0018】
そして、ブシュの外周にローラを遊嵌状態で外嵌したチェーンではローラがチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在してチェーン全体の重量バランスに片寄りを生じさせていたが、本発明の昇降駆動用噛合チェーンでは内歯プレートに圧入嵌合されたブシュにスプロケット噛合部を一体に成形してしているので、チェーン幅方向におけるチェーン全体の重量バランスを均一に保つことができる。
【0019】
請求項3に係る本発明の昇降駆動用噛合チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の昇降駆動用噛合チェーンが奏する効果に加えて、内歯プレートのブシュ間ピッチが、昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることにより、被昇降物などの荷重に起因して連結ピンがブシュに対して各内歯プレート内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、チェーン長手方向に亘る各ブシュの相互間隔がそれぞれ等しくなるので、各ブシュの相互間隔が不均等である場合に昇降用スプロケットとの間で生じがちなガタツキを抑制して、昇降用スプロケットとの円滑な噛合状態を実現できる。
【0020】
また、前述したように上昇駆動時における各ブシュの相互間隔をそれぞれ等しくすることで、一対の昇降駆動用噛合チェーンの一方を構成する外歯プレートおよび内歯プレートと他方の昇降駆動用噛合チェーンを構成する外歯プレートおよび内歯プレートとの相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係を半ピッチずらした状態で適切に調整できるので、チェーン相互間における円滑な噛合状態を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の昇降駆動用噛合チェーンは、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐し、内歯プレートと外歯プレートとが、共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態および各プレートに形成されたフック部を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されて、チェーン幅方向におけるチェーン全体の重量バランスを均一に保って被昇降物などの重量に対する荷重バランスを向上するとともに、昇降駆動用噛合チェーンと昇降用スプロケットとの間およびチェーン相互間における円滑な噛合状態を実現して、ブシュの耐久性を向上させるものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0022】
例えば、本発明の昇降駆動用噛合チェーンで用いる内歯プレートおよび外歯プレートの具体的な形状については、相互に対向する同種のプレート同士が相互に噛み合って水平方向から垂直方向へ偏向しながら一体に自立状態で上昇するとともに垂直方向から水平方向へ偏向しながら相互に噛み外れて分岐するものであれば如何なる形状を呈するものであっても良い。
【0023】
そして、本発明の昇降駆動用噛合チェーンが組み込まれる噛合チェーン式昇降装置は、設置面が据え置き設置形態となる床面であっても、吊り下げ設置形態となる天井面であっても昇降動作に何ら支障はなく、さらには、片持ち支持形態となる垂直壁面であっても前述した昇降動作に相当する進退動作に何ら支障はない。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーンを用いた使用態様図であり、図2は、図1から昇降テーブルとパンタアームを除いた状態の斜視図であり、図3は、昇降駆動用噛合チェーンを示す一部拡大図であり、図4は、昇降駆動用噛合チェーンを示す斜視図であり、図5は、昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向への重量バランスを説明する模式図である。
【0025】
まず、本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーン100は、図1に示すように、重量物などの被昇降物(図示しない)を搭載する昇降テーブルTを設置面に対して平行に昇降させるために、作業床面に据え置き状態で設置された噛合チェーン式昇降装置Eに組み込まれて使用されるものである。
【0026】
前述した噛合チェーン式昇降装置Eは、図1および図2に示すように、前述した昇降テーブルTが平行に昇降する設置面に据え付けたベースプレートPと、このベースプレートPに対して平行に併置された一対の回転軸を中心に同一面内で相互に対向して反対方向に正逆回転する一対の昇降用スプロケットSと、これらの一対の昇降用スプロケットSと噛み外れることによって昇降テーブルTを昇降する一対の昇降駆動用噛合チェーン100と、この昇降駆動用噛合チェーン100の上端に固着されて一体に昇降する前述した昇降テーブルTと、一対の昇降用スプロケットSを駆動する駆動モータMとを基本的な装置構成として備えている。
【0027】
なお、図1および図2に示す符号Dは、駆動モータMの出力軸側に同軸配置した一対の駆動側スプロケットであり、符号Cは、駆動側スプロケットDから一対の昇降用スプロケットS側へ動力伝達するためのローラチェーンからなる一対の動力伝達チェーンであり、符号Gは、一対の動力伝達チェーンCから一対の昇降用スプロケットSへ相互に反対方向に正逆回転するように動力伝達するための同期ギア群であり、符号Aは、昇降テーブルTと設置面側のベースプレートPとの間に設置されたX字状のパンタアームと称するインナーアームA1とアウターアームA2とからなる上下2段連結形態の昇降補助ガイド手段であり、符号Rは、インナーアームA2の下端が昇降動作に応じて摺動するスライドレールであり、符号Bは、相互に噛み外れて分岐した一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を収納する巻き取り型のチェーン収納ボックスである。
【0028】
そして、噛合チェーン式昇降装置Eにおいて一対で用いられる本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100は、所謂、チャックチェーンと称するものであって、図3乃至図5に示すように、左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレート110に前後一対のブシュ120を圧入嵌合してなる内リンクユニット130がチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレート140の前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピン150によりチェーン長手方向に多数連結されている。
【0029】
また、一対の昇降駆動用噛合チェーン100は、図3乃至図5に示すように、前述した一対の昇降用スプロケットSにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート110同士および外歯プレート140同士を半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するようになっており、また、前述した一対の昇降用スプロケットSにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート110同士および外歯プレート140同士をそれぞれ噛み外して分岐するようになっている。
【0030】
そこで、本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100が最も特徴とする内歯プレート110、外歯プレート140、およびブシュ120の具体的な形態について図3乃至図5により詳しく説明する。
まず、本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100では、内歯プレート110と外歯プレート140とが、図3乃至図5に示すように、共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態および内歯プレート110および外歯プレート140に形成されたフック部111、141を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されている。
そして、このように内歯プレート110と外歯プレート140とを配置した場合、各プレート内における平滑面状の剪断面Xと粗面状の破断面Yのプレート厚み方向への並び順、すなわち、打ち抜き方向後方に形成された剪断面Xと打ち抜き方向前方に形成された破断面Yのプレート厚み方向への並び順は、図5に示すように、内歯プレート110と外歯プレート140とで相互に逆転しており、そのため、チェーン幅方向に亘るチェーン全体の重量バランスは均一になるように設計されている。
なお、図5における内歯プレート110および外歯プレート140のプレート切断面に関しては、その剪断面Xおよび破断面Yに起因にして生じた傾斜を大幅に誇張して示している。
【0031】
また、ブシュ120は、図3乃至図5に示すように、内歯プレート110に圧入嵌合するプレート側圧入部121と、このプレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122とを一体に備えている。
このようにしてブシュ120を成形したことにより、スプロケット噛合部122の特定された外周面で昇降用スプロケットSと安定して接触するので、ローラを用いたチェーンのように昇降用スプロケットSとの噛み合い時に連結ピン150もしくはブシュ120の中心に対してローラの中心が偏在して昇降用スプロケットSとの間で噛合振動や噛合騒音が発生することを防止できるようになっている。
【0032】
さらには、ブシュ120と別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラを採用したチェーンと比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではスプロケット噛合部122がブシュ120と一体に成形されて充分な肉厚を確保でき、その結果、このスプロケット噛合部122が重量物などの被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対して高い耐負荷性能を発揮するようになっている。
【0033】
また、内歯プレート110のブシュ間ピッチは、昇降用スプロケットSによる上昇駆動時に先行する内歯プレート110の下方側に圧入嵌合されたブシュ120の中心と内歯プレート110に後続する内歯プレート110の上方側に圧入嵌合されたブシュ120の中心との相互間隔に等しくなるように設定されており、すなわち、外歯プレート140のピン間ピッチが、内歯プレート110のブシュ間ピッチにブシュ120の内周と連結ピン150の外周との径差を加えた長さに等しくなるように設定されている。
このようにブシュ間ピッチおよびピン間ピッチを設定することにより、被昇降物などの荷重に起因して連結ピン150がブシュ120に対して各内歯プレート110内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、チェーン長手方向に亘る各ブシュ120の相互間隔がそれぞれ等しくなるようになっている。
【0034】
なお、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100で言うところの「内歯プレート110のブシュ間ピッチ」とは、内歯プレート110に前後一対で圧入嵌合されたブシュ120の中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100で言うところの「外歯プレート140のピン間ピッチ」とは、外歯プレート140に前後一対で圧入嵌合された連結ピン150の中心がチェーン長手方向に相互離間する間隔のことを意味している。
【0035】
このようにして得られた本実施例の昇降駆動用噛合チェーン100は、内歯プレート110と外歯プレート140とが共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態でそれぞれ配置されている。
したがって、内歯プレート110および外歯プレート140が、打ち抜き方向後方に形成された剪断面側と打ち抜き方向前方に形成された破断面側との間に生じた重量差に起因してプレート厚み方向へ重量の片寄りをそれぞれ生じた場合であっても、チェーン幅方向に亘るチェーン全体の重量バランスを均一に維持するので、昇降駆動用噛合チェーン100のチェーン幅方向への傾斜を抑制して被昇降物の重量などに対するチェーン幅方向における荷重バランスを向上できる。
【0036】
また、このようにチェーン幅方向への荷重バランスを向上することで、昇降駆動用噛合チェーン100のチェーン幅方向への傾倒や座屈を生じさせることなく被昇降物をより高い位置にまで安定して上昇できるとともに、昇降駆動用噛合チェーン100に対して部分的な過負荷が作用することを回避してチェーン耐久性を向上できる。
【0037】
また、内歯プレート110と外歯プレート140とが、内歯プレート110および外歯プレート140に形成されたフック部111、141を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されている。
したがって、この内歯プレート110および外歯プレート140のフック部111、141を介して一対の昇降駆動用噛合チェーン100の内歯プレート110同士および外歯プレート140をそれぞれ噛み合わせることができるので、座屈等を生じることなく昇降駆動用噛合チェーン100による被昇降物の確実な昇降動作を実現できる。
【0038】
また、ブシュ120が、内歯プレート110に圧入嵌合するプレート側圧入部121とプレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122とを一体に備えている。
したがって、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではブシュ120と一体に成形されたスプロケット噛合部122の特定された外周面で昇降用スプロケットSと安定して接触するので、ローラを用いたチェーンのように昇降用スプロケットSとの噛み合い時に連結ピン150もしくはブシュ120の中心軸に対してローラの中心軸が偏在して昇降用スプロケットSとの間で接触振動や接触騒音が発生することを防止でき、また、このようにしてブシュ120と昇降用スプロケットSとの間での接触振動の発生を防止することで、一対の昇降駆動用噛合チェーン100の相互間での噛合状態にズレが生じることを回避できるので、このような噛合状態のズレに起因して発生する振動を被昇降物に与えることなく安定した昇降動作を実現できるとともに、昇降用スプロケットSの回転力を効率良く昇降駆動用噛合チェーン100に伝達することができる。
【0039】
また、ブシュ120が、プレート側圧入部121より大径のスプロケット噛合部122を備えている。
したがって、ブシュ120と別体で成形されて充分な肉厚を確保できないローラを採用したチェーンと比べて、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100ではスプロケット噛合部122をブシュ120と一体に成形して充分な肉厚を確保しているので、重量物などの被昇降物を上昇させる際にかかる負荷に対してスプロケット噛合部122が高い耐負荷性能を発揮して、ブシュ120に疲労破壊を生じることを防止できる。
【0040】
また、ブシュ120の外周にローラを遊嵌状態で外嵌したチェーンでは、ローラがチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在してチェーン全体の重量バランスに片寄りを生じさせていたが、本発明の昇降駆動用噛合チェーン100では内歯プレート110に圧入嵌合されたブシュ120にスプロケット噛合部122を一体に成形してしているので、チェーン幅方向におけるチェーン全体の重量バランスを均一に保つことができる。
【0041】
そして、内歯プレート110のブシュ間ピッチが、昇降用スプロケットSによる上昇駆動時に先行する内歯プレート110の下方側に圧入嵌合されたブシュ120の中心と内歯プレート110に後続する内歯プレート110の上方側に圧入嵌合されたブシュ120の中心との相互間隔に等しくなるように設定されている。
したがって、被昇降物などの荷重に起因して連結ピン150がブシュ120に対して各内歯プレート110内におけるチェーン長手方向内側に偏在した際においても、チェーン長手方向に亘る各ブシュ120の相互間隔がそれぞれ等しくなるので、各ブシュ120の相互間隔が不均等である場合に昇降用スプロケットSとの間で生じがちなガタツキを抑制して、昇降用スプロケットSとの円滑な噛合状態を実現できる。
【0042】
また、前述したように上昇駆動時における各ブシュ120の相互間隔をそれぞれ等しくすることで、一対の昇降駆動用噛合チェーン100の一方を構成する外歯プレート140および内歯プレート110と他方の昇降駆動用噛合チェーン100を構成する外歯プレート140および内歯プレート110との相互間におけるチェーン長手方向の位置関係、すなわち、高さ関係を半ピッチずらした状態で適切に調整できるので、チェーン相互間における円滑な噛合状態を実現できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例である昇降駆動用噛合チェーンを用いた使用態様図。
【図2】図1から昇降テーブルとパンタアームを除いた状態の斜視図。
【図3】昇降駆動用噛合チェーンを示す一部拡大図。
【図4】昇降駆動用噛合チェーンを示す斜視図。
【図5】昇降駆動用噛合チェーンのチェーン幅方向への重量バランスを説明する模式図。
【図6】従来の噛合チェーンを示す斜視図。
【図7】従来の噛合チェーンのチェーン幅方向への重量バランスを説明する模式図。
【符号の説明】
【0044】
100、500 ・・・ 昇降駆動用噛合チェーン
110、510 ・・・ 内歯プレート
111、511 ・・・ フック部
120、520 ・・・ ブシュ
121 ・・・ プレート側圧入部
122 ・・・ スプロケット噛合部
130、530 ・・・ 内リンクユニット
140、540 ・・・ 外歯プレート
141、541 ・・・ フック部
150、550 ・・・ 連結ピン
E ・・・ 噛合チェーン式昇降装置
S ・・・ 昇降用スプロケット
T ・・・ 昇降テーブル
P ・・・ ベースプレート
M ・・・ 駆動モータ
D ・・・ 駆動側スプロケット
C ・・・ 動力伝達チェーン
G ・・・ 同期ギア群
A ・・・ 昇降補助ガイド手段
A1 ・・・ インナーアーム
A2 ・・・ アウターアーム
R ・・・ スライドレール
B ・・・ チェーン収納ボックス
X ・・・ 剪断面
Y ・・・ 破断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対で離間配置されたフック状の内歯プレートに前後一対のブシュを圧入嵌合してなる内リンクユニットがチェーン幅方向の最も外側に配置されたフック状の外歯プレートの前後一対のピン孔に圧入嵌合する前後一対の連結ピンによりチェーン長手方向に多数連結され、前記ブシュと噛合う一対の昇降用スプロケットにそれぞれ対向配置させて水平方向から垂直方向へ偏向しながら相互に対向する内歯プレート同士および外歯プレート同士をチェーン長手方向に半ピッチずらした状態でそれぞれ噛み合わせて一体に自立状態で上昇するとともに前記一対の昇降用スプロケットにより垂直方向から水平方向へ偏向しながら内歯プレート同士および外歯プレート同士をそれぞれ噛み外して分岐する昇降駆動用噛合チェーンにおいて、
前記内歯プレートと外歯プレートとが、共通の金型を用いて打ち抜き加工されているとともにプレート厚み方向における表裏を相互に逆転させた状態および各プレートに形成されたフック部を同一のプレート高さ方向に向けて延出させた状態でそれぞれ配置されていることを特徴とする昇降駆動用噛合チェーン。
【請求項2】
前記ブシュが、前記内歯プレートに圧入嵌合するプレート側圧入部と該プレート側圧入部より大径のスプロケット噛合部とを一体に備えていることを特徴とする請求項1記載の昇降駆動用噛合チェーン。
【請求項3】
前記内歯プレートのブシュ間ピッチが、前記昇降用スプロケットによる上昇駆動時に先行する内歯プレートの下方側に圧入嵌合されたブシュの中心と前記内歯プレートに後続する内歯プレートの上方側に圧入嵌合されたブシュの中心との相互間隔に等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の昇降駆動用噛合チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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