説明

明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物

【課題】優れたアディポネクチン産生誘導作用を有する組成物を提供すること。
【解決手段】本発明により明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物が提供される。本発明の組成物は、優れたアディポネクチン産生誘導作用を奏するため、食品、医薬の分野において有用であり、特に肥満や肥満に伴う循環器系疾患(動脈硬化症、高脂血症等)及び糖尿病等の生活習慣病の予防、改善、及び/又は治療に有用である。また、本発明は、明日葉のカルコンを高濃度で含有する明日葉由来抽出物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する機能性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国では食生活が豊かになり、動脈硬化や糖尿病のような生活習慣病が急増している。加齢によって基礎代謝量が減少しているにも拘わらず脂肪や糖類を過剰摂取し、さらには運動不足の要因も重なり、肥満体型になることが、生活習慣病の原因として指摘されている。
【0003】
アディポネクチンは、脂肪細胞から特異的に産生、分泌される244残基のアミノ酸からなるタンパク質である。アディポネクチンは、糖や脂肪の代謝に密接に関与しており、肥満や肥満に伴う循環器系疾患(動脈硬化症、高脂血症等)及び糖尿病等の生活習慣病の患者においては血中のアディポネクチン濃度が低下していることが知られている。これらのことから、アディポネクチンの産生を促進することが、肥満、循環器系疾患、及び糖尿病等の予防又は治療に有効であると考えられている。
【0004】
一方、明日葉のカルコンにはさまざまな健康促進効果があることが知られており、明日葉のカルコンには抗糖尿病作用、脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化誘導作用、及び脂肪細胞へのグルコース取り込み促進作用があることが知られている(特許文献1)。また、明日葉のカルコンがアディポネクチン産生促進作用を有することも知られている(特許文献2)。また、イソフラボンは、抗酸化作用と植物エストロゲン作用を併せ持つことが広く知られており、大豆由来のイソフラボンがアディポネクチンの分泌亢進作用を有することも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/096198号パンフレット
【特許文献2】特開2008−31076号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「大豆たん白質研究」、2006年、第9巻、p.96−101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れたアディポネクチン産生誘導作用を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような状況下において、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、明日葉のカルコンとイソフラボンとを同時に用いることにより、それぞれを単独で使用した場合に比べて著しく高い、相乗的なアディポネクチン産生誘導作用を示すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
[1]明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物、
[2]明日葉のカルコン及び大豆由来のイソフラボンを含有する組成物である[1]の組成物、
[3]大豆由来のイソフラボンが、ダイゼイン、ビオカニンA、グリシテイン、ダイジン、グリシチン及びゲニスチンからなる群より選択された少なくとも一種である[2]の組成物、
[4]明日葉抽出物及びイソフラボンを含有する組成物である[1]の組成物、
[5]明日葉抽出物が、含水エタノールを溶媒とした固液抽出によって明日葉から得られた抽出物である[4]の組成物、
[6]明日葉からの滲出物及びイソフラボンを含有する組成物である[1]の組成物、
[7]明日葉のカルコンが4−ヒドロキシデリシン及び/又はキサントアンゲロールである[1]の組成物、
[8][1]〜[7]のいずれかの組成物を含有する食品、
[9][1]〜[7]のいずれかの組成物を含有する医薬、並びに
[10][1]〜[7]のいずれかの組成物を含有するアディポネクチン産生誘導剤、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、優れたアディポネクチン産生誘導作用を奏するため、肥満や肥満に伴う循環器系疾患(動脈硬化症、高脂血症等)及び糖尿病等の生活習慣病の予防、改善、及び/又は治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の組成物は、明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有し、明日葉のカルコンやイソフラボンをそれぞれ単独で使用した場合に比べて著しく高い、相乗的なアディポネクチン産生誘導作用を示す。
【0012】
明日葉(学名Angelica keiskei)とは、八丈芹とも呼ばれる主に太平洋岸に自生する日本固有のセリ科の大型多年草である。また、カルコンとは、カルコン骨格を有する化合物のことを意味する。明日葉のカルコンとしては、本発明を特に限定するものではないが、4−ヒドロキシデリシン(以下、4HDと記載することがある)、及びキサントアンゲロールが好適に例示される。本発明の組成物は明日葉のカルコンを高濃度で含有する。組成物中のカルコンの含量は、ODSカラムを用いたHPLCにより、標準品とのUV吸収面積比によって測定することができる。なお、アシタバ中のカルコンはキサントアンゲロールと4−ハイドロキシデリシンがその大部分を占めるため、本願においては、キサントアンゲロールと4−ハイドロキシデリシンの総含有量を特定することでカルコンの含量の指標とする。本発明の組成物中の明日葉のカルコンの含量としては、0.1〜60重量%が好適に例示され、0.5〜40重量%がより好適に例示され、1〜20重量%がさらにより好適に例示される。
【0013】
本発明の組成物に含まれる明日葉のカルコンは、明日葉のいずれの部位に含まれるものであってもよく、果実、種子、種皮、花、葉、茎、根、根茎及び/又は植物全体に由来するカルコンが使用でき、葉及び/又は茎に由来するカルコンが好適に使用できる。また、明日葉のカルコンは、カルコンを含有する明日葉の処理物として本発明の組成物に含まれていてもよい。明日葉の処理物は、特に本発明を限定するものではないが、例えば、原料の明日葉に対して何らかの加工を施したものであればよく、磨砕物、乾燥粉末、粉砕物、搾汁液、破砕物、抽出物、明日葉からの滲出物が例示される。すなわち、明日葉抽出物及びイソフラボンを含有する組成物や、明日葉からの滲出物及びイソフラボンを含有する組成物、あるいは明日葉の葉及び/又は茎並びにイソフラボンを含有する組成物も、本発明の組成物として例示される。
【0014】
本明細書において抽出物とは、例えば固液抽出工程を経て得られる抽出液、並びに当該抽出液からさらに分離工程、精製工程、及び/又は乾燥工程等を経て得られた物質のことをいう。固液抽出は、公知の方法により以下のように行うことができる。例えば原料を粉砕もしくは裁断した後、溶媒を用いてバッチ式もしくは連続式で行うことができる。抽出に用いる抽出溶媒としては、特に限定はないが、水、クロロホルム、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等の親水性もしくは親油性の溶媒を挙げることができ、所望により単独で、もしくは適宜混合液として用いることができる。混合液を抽出溶媒として用いる例としては、特に限定はないが、例えば各種水溶液を用いることができ、例えば10〜95%、好適には15〜90%、さらに好適には20〜85%のアルコール水溶液を使用することができる。特に本発明を限定するものではないが、上記のアルコール水溶液としては、含水エタノール水溶液が好ましい。
【0015】
抽出溶媒の量は適宜決定すればよいが、通常、原料植物に対し、使用時の原料植物の形態そのまま(例えば原料植物が生の植物であれば生の植物)の重量の、好ましくは2〜100倍量の抽出溶媒を使用すれば良い。抽出温度も適宜、目的に応じて決定すれば良いが、水抽出の場合は通常、好ましくは4〜130℃、より好ましくは25〜100℃である。また、溶媒中にエタノールが含まれる場合は安全性の観点から4〜60℃の範囲が好適である。抽出時間も、抽出効率を考慮し決定すればよいが、通常、好ましくは数秒〜数日間、より好ましくは5分〜24時間の範囲となるように、原料、抽出溶媒、抽出温度を設定するのが好適である。抽出操作は、たとえば、攪拌しながら又は静置して行えばよく、また、必要に応じて数回繰り返してもよい。
【0016】
固液抽出工程により得られた抽出液に対して、必要に応じてろ過、遠心分離、濃縮、限外ろ過、分子ふるい等の処理を施すことで、アディポネクチン産生誘導作用を有する有効成分が濃縮された抽出物を調製することができる。また、抽出物は溶媒に溶解した溶液のまま、濃縮液もしくは固形化物として本発明に使用することができる。濃縮、固形化には公知の手段が使用できる。例えば、国際公開第2004/112817号パンフレットに記載されるように、含水エタノール水溶液により固液抽出して得られた抽出液を乾燥させ、さらに粉砕機を使用して粉砕することで、明日葉のカルコンを含有する明日葉抽出物の乾燥粉末を得ることができる。また、凍結粉砕や、凍結乾燥後粉砕することにより乾燥粉末を得てもよい。
【0017】
明日葉の滲出物は、例えば発芽してから開花前までの明日葉の茎から滲出する黄色の液体(アシタバ黄汁)を採取することにより得ることができる。明日葉の滲出物は、必要に応じて濾過、加熱殺菌などの処理を施してもよい。明日葉からの滲出物を粉末化して本発明の組成物に用いる場合には、明日葉の滲出物をそのまま乾燥・粉砕して用いてもよく、デキストリン、乳糖、結晶セルロース、二酸化ケイ素、環状オリゴ糖、サイクロデキストリン等の賦形剤を滲出物に加えた後に粉末化してもよい。明日葉からの滲出物と賦形剤との混合にあたっては、均一な混合を行うためにエタノール等の適当な溶媒を加えても良く、また、発泡を防ぐために適量の消泡剤を加えてもよい。
【0018】
本明細書においてイソフラボンとは、イソフラボン骨格を有する化合物のことを言い、例えばダイジン(Daidzin)、ゲニスチン(Genistin)、グリシチン(Glycitin)、それらのマロニル化体、アセチル化体、サクシニル化体、及びそれらのアグリコンであるダイゼイン(Daidzein)、ゲニステイン(Genistein)、グリシテイン(Glycitein)、並びにビオカニンA(Biochanin A)及びフォルモノネチン(Formononetin)等が例示される。本発明の組成物に含まれるイソフラボンとしては、大豆イソフラボンが好適に例示され、ダイゼイン、ビオカニンA、グリシテイン、ダイジン、グリシチン及びゲニスチンがより好適に例示される。本発明の組成物中のイソフラボン含量としては、0.1〜60重量%が好適に例示され、0.5〜40重量%がより好適に例示され、1〜20重量%がさらにより好適に例示される。組成物中のイソフラボン含量は、「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品などの取り扱いに関する指針について」(食安発第0823001号)にて定められた試験法によって測定することができる。本発明に使用可能な市販の大豆イソフラボンとしては、本発明を特に限定するものではないが、フジフラボンP10(フジッコ社製)、フジフラボンS(フジッコ社製)、フジフラボンP40(フジッコ社製)、フジフラボンC(フジッコ社製)、及びソヤフラボン(不二製油社製)が例示される。
【0019】
本発明の組成物は、明日葉のカルコンとイソフラボンとを混合することにより得ることができる。本発明の組成物中の明日葉のカルコンとイソフラボンの含有量比としては100:1〜1:100が好適に例示され、10:1〜1:10がより好適に例示され、2:1〜1:2.5がさらにより好適に例示される。
【0020】
本発明の組成物中には、これまでに例示した成分の他に、賦形剤、増粘剤、油性成分、医薬品添加剤、食品成分等の任意の成分が含まれていてもよい。本発明の組成物にこれら任意の成分が含まれる場合、その含有率は組成物の全重量に対して通常、1〜99.9重量%、好ましくは70〜99重量%、より好ましくは80〜95重量%である。また、本発明の組成物は、好ましくは経口での摂取が可能な形状とされる。その製造にあたっては、固形状、液状の適当な担体、好ましくは薬学的に許容される担体と混合し、加工すればよい。さらに、アディポネクチン産生誘導作用やその他の生理作用を有する他の成分を添加することもできる。その形状には、特に限定はなく、固形状(粉末状、顆粒状の組成物を包含する)、液状(油状組成物を包含する)のいずれであってもよい。前記組成物は公知の加工方法により、任意の形状で製造することができる。本発明を特に限定するものではないが、例えば、明日葉のカルコンとイソフラボンとを公知の方法で造粒して粒状の固形物として使用することができる。造粒方法としては、特に限定はないが、転動造粒、攪拌造粒、流動層造粒、気流造粒、押出し造粒、圧縮成型造粒、解砕造粒、噴射造粒又は噴霧造粒等が例示される。粉状の当該処理物を液体、例えば水やアルコール等に溶解又は懸濁して液状とし、本発明の組成物として使用することもできる。さらに、タブレット状、顆粒状、カプセル状(ソフトカプセル状を含む)等の形状の経口的に摂取が容易な形状物としてもよい。本発明の組成物をカプセルに内包させる場合、公知の製剤助剤、例えばゼラチン、グリセリン、ミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル等を用いてもよく、公知の賦形剤、例えば乳糖、コーンスターチ、加工デンプン、ビール酵母エキス、食用油脂、ショ糖脂肪酸エステル等を用いてもよい。また、本発明の組成物を顆粒状とする場合、その製造方法に特に限定はないが、例えば本発明の組成物に賦形剤として乳糖、還元麦芽糖、結晶セルロース、デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル等を適宜混合し、流動層造粒機や押出し造粒機により造粒し、振動篩で整粒することにより製造することができる。
【0021】
また、本発明の組成物は、アディポネクチン産生誘導効果、体脂肪や内臓脂肪の低減効果及び/又は脂質代謝の改善効果が知られている物質をさらに含有してもよい。例えば、
(A)明日葉のカルコン及びイソフラボン、並びに
(B)カテキン、カプサイシン、トゲドコロ処理物、アスタキサンチン、エルカンプーレ、カツオペプチド、ガルシニア、カワラケツメイ、柑橘系フルーツエキス、キウイ果皮抽出物、キノコキトサン、共役リノール酸、黒大豆種皮抽出物、桑葉、ケツメイシ、コタラヒム、米ケフィラン、コレウスフォルスコリ、シッサスクアドラングラリス、ジャガイモ抽出物、植物ステロール、植物油脂乳化物(ファビュレス)、タマネギケルセチン、チアシード、ツルアラメ抽出物、DHA結合リン脂質、ニーム、フェヌグリーク(コロハ)、ブドウレスベラトロール、ポリコサノール、マイタケ抽出物(グリスリン)、マカエキス、マンゴージンジャー、L−カルニチン酒石酸塩、α−リポ酸、α−リノレン酸、中鎖脂肪酸及びリン脂質からなる群より選択された少なくとも1種の物質を含有する組成物も本発明の態様の一つである。
【0022】
本発明の組成物が示すアディポネクチン産生誘導作用は、例えば実施例1に示すように、脂肪細胞に本発明の組成物を作用させた後、リアルタイムRT−PCR等によりアディポネクチンのmRNAの発現率を調査することによって確認することができる。
【0023】
本発明の食品は、本発明の組成物を含む。本発明の食品は、その種類に特に限定はなく、穀物加工品、油脂加工品、大豆加工品、食肉加工品、水産製品、乳製品、野菜・果実加工品、菓子類、アルコール飲料、嗜好飲料、調味料、香辛料などの農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品などが挙げられる。前記食品は液体形状であってもよい。すなわち、前記の食品は飲料を包含する。本発明の組成物を含有する食品の製造法に特に限定はない。例えば、配合、調理、加工等は一般の食品のものに従えばよく、それらの製造法により製造することができ、得られた食品に前述の本発明の組成物が含有されていればよい。特に本発明を限定するものではないが、本発明の食品は、1日あたりの明日葉のカルコンの摂取量が好ましくは0.5mg〜100mg、より好ましくは2mg〜25mgになるように、1日あたりのイソフラボンの摂取量が好ましくは0.5mg〜100mg、より好ましくは2mg〜25mgとなるように調製するのが好ましい。
【0024】
本発明の医薬は、本発明の組成物を含む。本発明の医薬は、優れたアディポネクチン産生誘導作用を有することから、低アディポネクチン血症治療剤又は予防剤、シンドロームX若しくはメタボリックシンドロームの治療剤又は予防剤、並びに低アディポネクチン血症に起因する、糖尿病、糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経症、白内障、冠動脈疾患を含む)、高血圧症、肥満、及び/又は動脈硬化症の治療剤又は予防剤として有用である。
【0025】
本発明のアディポネクチン産生誘導剤は、本発明の組成物を含む。本発明のアディポネクチン産生誘導剤は、食品、医薬、飼料、及び研究用試薬のいずれの用途にも用いることができ、好適には医薬として用いることができる。
【0026】
また、明日葉のトウ茎の裁断乾燥物を抽出原料とした固液抽出工程を包含することを特徴とする、カルコン含有抽出物の製造方法や、当該製造方法によって得られるカルコン含有抽出物、及び当該抽出物を含有するカルコン含有オイルも本発明の一態様である。本明細書において明日葉のトウ茎とは、草齢を重ねてトウ(花茎)が伸びきって固くなった明日葉の茎のことをいう。トウが伸びきった明日葉の茎は、その固さのために食用としては適さず、未利用であった。ところが驚くべきことに、本願発明者らは、明日葉のカルコンを含有する抽出物の原料として明日葉のトウ茎を用いることにより、これまで明日葉のカルコンを含有抽出物の原料として用いられてきた明日葉の葉と比べてもむしろ高い濃度のカルコンを含有する抽出物が得られることを見出した。
【実施例】
【0027】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの例により限定されない。
【0028】
実施例1 明日葉カルコンとイソフラボンによるアディポネクチンmRNA発現増強作用
前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化誘導はRubin C.S.らの方法(JBC.255 7570−7578,1978)を一部改良して行った。200μMアスコルビン酸を含む10%ウシ血清(大日本製薬社製)含有ダルベッコ改良イーグル培地(シグマ社製,D6046)に前駆脂肪細胞株3T3−L1(ヒューマンサイエンス研究資源バンク JCRB9014)を0.8×10個/mLになるように懸濁し、12穴マイクロタイタープレートのウェルに2mLずつ加えて5%炭酸ガス存在下、37℃で7日間培養した。なお、2日目と4日目には同培地による培地交換を行った。7日間の培養終了後、200μMアスコルビン酸を含む10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)含有ダルベッコ改良イーグル培地(以下A−D−MEM培地)にて培地交換を行った後、デキサメタゾンを終濃度0.25μMとなるように添加した。さらに、明日葉のカルコンとして国際公開第2005/074906号パンフレットの実施例1及び2に記載の方法に従って調製した4−ヒドロキシデリシン(4HD)を下記の表1〜7に示す終濃度となるように、イソフラボンとしてダイゼイン(SIGMA社製)、ビオカニンA(AXXORA社製)、ダイジン(LC Laboratories社製)、ゲニスチン(LC Laboratories社製)、グリシテイン(長良サイエンス社製)、グリシチン(長良サイエンス社製)及び市販のイソフラボン含有粉末〔大豆抽出物(ダイゼインを約17重量%、ゲニステインを約4重量%、及びグリシテインを約13重量%含有)〕をそれぞれ表1〜7に示す終濃度となるように添加した。なお、陰性対照としてジメチルスルホキシド添加の区分を設定した。2日後にA−D−MEM培地にて培地交換を行った後、再度表1〜7に示す終濃度となるように4HD及び/又はイソフラボンを各培養物に対してそれぞれ添加(陰性対照にはジメチルスルホキシドを添加)し、さらに3日間培養した。
【0029】
培養終了後、培地を除き0.5mLのRNAiso Plus(タカラバイオ社製)を加え、細胞を1.5mLのエッペンチューブに回収した。室温で5分間放置した後、0.1mLのクロロホルムを加え、乳白色になるまでよく振り混ぜた。さらに室温で5分間放置した後、10,000rpm、15分間、4℃で遠心し、上清を別のエッペンチューブに移した。これに0.25mLのイソプロパノールを加え、よく混合し、室温で10分間放置した。10,000rpm、10分間、4℃で遠心し、得られた沈殿を0.5mLの75%EtOHで洗浄した。10,000rpm、5分間、4℃で遠心後、沈殿を乾燥させた。15μLの注射用水で溶解し、total RNA水溶液を得た。
【0030】
逆転写反応およびリアルタイムPCRは、PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いて行った。リアルタイムPCRは、SYBR(登録商標)Premix ExTaq II(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いて行った。リアルタイムPCRは、mouse Adiponectin遺伝子に特異的なプライマー対と、対照としてmouse β−Actin遺伝子に特異的なプライマー対を用いた。mouse Adiponectin遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:1及び配列番号:2に、mouse β−Actin遺伝子に特異的なプライマー対の配列を配列番号:3及び配列番号:4に示す。測定は、Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System(タカラバイオ社製)を用いて行った。測定は、全て3連で行った。なお、各mRNAの発現量は、陰性対照区分のmRNA発現量に対する相対量として下記の式により算出した。
【0031】
【数1】

【0032】
この結果を以下の表1〜7に示す。すなわち、表1〜7は明日葉のカルコンおよび各種イソフラボンを添加した細胞におけるAdiponectinのmRNA発現の量比を示すものであり、明日葉のカルコンと各種イソフラボンを共添加することでAdiponectinのmRNA発現量が相乗的に増加することが明らかとなった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
比較例 明日葉の葉からのカルコン粉末の調製
収穫した生明日葉(草齢0.5〜1.5年)の葉を裁断後、熱風で乾燥した。乾燥した明日葉50gを熱水0.6Lで、30分間抽出した。残渣の明日葉について、90%エタノール0.6Lで4時間の還流抽出を行った。抽出液と残渣に分け、抽出液に対固形量30%の活性炭を添加し、1時間処理を行った。珪藻土を用いて濾過を行い、カルコン抽出脱色液を得た。このカルコン抽出脱色液を減圧濃縮し、約1/10になったところで加工澱粉を対固形量で等量添加した。さらに当初の1/20まで減圧濃縮を行い、得られた濃縮液を減圧乾燥した。乾燥後11.3gのカルコン粉末を得た。このカルコン粉末のカルコン濃度は、7.0mg/gであった。
【0041】
実施例2 明日葉トウ茎からのカルコン粉末の調製
収穫した生明日葉(草齢1〜3年)のトウ茎を裁断後、熱風で乾燥した。乾燥した明日葉100gを熱水2Lで、45分間抽出した。残渣の明日葉について、90%エタノール3000mLで4時間の還流抽出を行った。抽出液と残渣に分け、抽出液に対固形量5%の活性炭を添加し、1時間処理を行った。珪藻土を用い濾過を行い、カルコン抽出脱色液を得た。このカルコン抽出脱色液を減圧濃縮し、約1/10になったところで加工澱粉を対固形量で等量添加した。さらに当初の1/20まで減圧濃縮を行い、得られた濃縮液を減圧乾燥した。乾燥後16.7gのカルコン粉末を得た。このカルコン粉末のカルコン濃度は、17.1mg/gであった。
【0042】
本実施例により、明日葉のトウ茎を原料として用いることによって、明日葉の葉を原料として用いる従来の方法に比べて倍以上高い濃度のカルコンを含有する明日葉由来の組成物が得られることが明らかになった。
【0043】
実施例3 明日葉トウ茎からのカルコンオイルの調製
収穫した生明日葉(草齢1〜3年)のトウ茎を裁断後、熱風で乾燥した。乾燥した明日葉270gを熱水5Lで、45分間抽出した。残渣の明日葉について、90%エタノール8Lで、4時間の還流抽出を行った。抽出液と残渣に分け、抽出液に対固形量5%の活性炭を添加し、1時間処理を行った。珪藻土を用い濾過を行い、カルコン抽出脱色液を得た。このカルコン抽出脱色液に中鎖脂肪酸トリグリセライドを対固形量で2倍量添加した。エタノール及び水がなくなるまで減圧濃縮を行い、静置後、50gのカルコンオイルを得た。このカルコンオイルのカルコン濃度は、18.1mg/gであった。
【0044】
実施例4 明日葉トウ茎からのカルコン粉末の調製2
収穫した生明日葉(草齢1〜3年)のトウ茎を裁断後、熱風で乾燥した。乾燥した明日葉10gを熱水800mLで、30分間抽出した。残渣の明日葉について、90%エタノール200mLで1時間の抽出を行った。抽出液と残渣に分け、残渣についてさらに70%エタノール200mLで1時間の抽出を行った。抽出液と残渣に分け、2回分の抽出液を合わせ、カルコン抽出液とした。このカルコン抽出液に乳化剤を対固形量で0.1割添加し、減圧濃縮を行った。約1/10になったところで加工澱粉を対固形量で等量添加した。得られた濃縮液を凍結乾燥した。乾燥後1.3gのカルコン粉末を得た。このカルコン粉末のカルコン濃度は、27.7mg/gであった。
【0045】
実施例5 明日葉トウ茎からのカルコンオイルの調製2
収穫した生明日葉(草齢1〜3年)のトウ茎を裁断後、熱風で乾燥した。乾燥した明日葉10gを熱水800mLで30分間抽出した。残渣の明日葉について、90%エタノール200mLで1時間の抽出を行った。抽出液と残渣に分け、残渣についてさらに70%エタノール200mLで1時間の抽出を行った。これを抽出液と残渣に分け、2回分の抽出液を合わせ、カルコン抽出液とした。このカルコン抽出液にオリーブオイルを対固形量で2倍量添加した。エタノール及び水がなくなるまで減圧濃縮を行った後、遠心分離(3000rpm、10分)を行い、1gのカルコンオイルを得た。このカルコンオイルのカルコン濃度は、32.7mg/gであった。
【0046】
実施例6 明日葉のカルコンとイソフラボンを含有する組成物の調製1
実施例2と同様にして、乾燥した明日葉トウ茎10kgから、カルコン粉末1.8kg(明日葉のカルコンを31g含有)を得た。このカルコン粉末18kgに対して大豆抽出物(ダイゼイン18重量%含有)をそれぞれ60g、190g、400g添加し、混合機により均一にして明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する3種類の組成物を得た。
【0047】
実施例7 明日葉のカルコンとイソフラボンを含有する組成物の調製2
実施例3と同様にして、乾燥した明日葉トウ茎10kgから、カルコンオイル1.9kg(明日葉のカルコンを36g含有)を得た。このカルコンオイル1.9kgにグリセリン脂肪酸エステルを150g添加したものに対して、さらに大豆抽出物(ダイゼイン18重量%含有)をそれぞれ65g、200g、410g添加し、撹拌機により均一にして明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する3種類の組成物を得た。
【0048】
実施例8 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する錠剤の調製
下記表8に、本発明の組成物を錠剤にする場合の配合例を挙げる。なお、明日葉のカルコンとイソフラボンの組成物は実施例6で調製した3種類から選択し、使用する。
【0049】
【表8】

【0050】
実施例9 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する顆粒状食品の調製
実施例6で調製した明日葉のカルコンとイソフラボンを含有する3種類の組成物に、賦形剤を混合し、流動層造粒機又は押出し造粒機により造粒し、振動篩で整粒して顆粒状食品を製造する。
【0051】
実施例10 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有するハードカプセル状食品の調製
実施例6で調製した明日葉のカルコンとイソフラボンを含有する3種類の組成物に、賦形剤を混合し、ハードカプセルに充填して製造する。
【0052】
実施例11 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有するソフトカプセルの調製
下記表9に、本発明の組成物をソフトカプセルに内包させる場合の配合例を挙げる。なお、明日葉のカルコンとイソフラボンを含有する組成物は前記の実施例7において調製した3種類から選択し、使用する。
【0053】
【表9】

【0054】
実施例12 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有するゼリー状パウチ食品の調製
下記表10のカルコンとイソフラボンを含有する組成物は実施例7で調製した3種類から選択し、使用する。
【0055】
【表10】

【0056】
実施例13 明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する食パンの作製
実施例2で調製したカルコン粉末500mgと大豆抽出物(ダイゼインを約17重量%、ゲニステインを約4重量%、及びグリシテインを約13重量%含有)60mgとを混合し、明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物を調製する。この組成物に対して、さらに強力粉200g、砂糖15g、脱粉(牛乳からパターをとった残りを乾燥粉末にしたもの)6g、食塩3g、天然酵母4g、水136gを加えて混合し、よく捏ねてパンの生地とし、定法に従って食パン一斤を作製する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物が提供される。当該組成物は、優れたアディポネクチン産生誘導作用を有するため、食品、医薬の分野において特に有用である。また、本発明により、明日葉のカルコンを高濃度で含有する明日葉由来抽出物の製造方法が提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0058】
SEQ ID NO:1 ; Primer to amplify the cDNA fragment of mouse Adiponectin gene.
SEQ ID NO:2 ; Primer to amplify the cDNA fragment of mouse Adiponectin gene.
SEQ ID NO:3 ; Primer to amplify the cDNA fragment of mouse Beta-Actin gene.
SEQ ID NO:4 ; Primer to amplify the cDNA fragment of mouse Beta-Actin gene.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明日葉のカルコン及びイソフラボンを含有する組成物。
【請求項2】
明日葉のカルコン及び大豆由来のイソフラボンを含有する組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
大豆由来のイソフラボンが、ダイゼイン、ビオカニンA、グリシテイン、ダイジン、グリシチン、及びゲニスチンからなる群より選択された少なくとも一種である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
明日葉抽出物及びイソフラボンを含有する組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
明日葉抽出物が、含水エタノールを溶媒とした固液抽出によって明日葉から得られる抽出物である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
明日葉からの滲出物及びイソフラボンを含有する組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
明日葉のカルコンが、4−ヒドロキシデリシン及び/又はキサントアンゲロールである請求項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−190245(P2011−190245A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28361(P2011−28361)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】