説明

易溶性寒天及びその製造方法

【課題】沈殿させずに容易に溶解させることが可能な易溶性寒天及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】水に溶解され混練された寒天混練物に発泡処理を施したことを特徴とする易溶性寒天である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天を容易に溶解させることが可能な易溶性寒天及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、冷水に不溶であるが、熱水に溶解して溶液になり、冷却により凝固してゲル(ゼリー)を作る性質を有する。寒天は、この性質を利用して様々な用途に利用されており、特に、日本の伝統食品として、江戸時代より和菓子素材として広く利用されている。
【0003】
寒天の溶解は、例えば、寒天を銅鍋やステンレス鍋に入れ、小豆を炊き練り上げると同じように直火又は蒸気の加熱により行うことができるが、寒天は、溶解する前に沈殿するため、焦げ付いてしまうという問題がある。このため、木へらによりたえず底をこすりながら掻き混ぜたり、大きな釜においては機械攪拌により攪拌することによって、焦げ付きを防止しようとしている。しかしながら、このような攪拌では、焦げ付きを防止するのに十分でなく、特に、機械攪拌の場合、液粘性が高くなると底を十分にかきとることができないという問題がある。
【0004】
一方、糸寒天、角寒天と呼ばれている天然寒天、スープ用等に使用されている寒天(特許文献1参照)は、その形態から、水に入れた際に沈みにくいという特性を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−136949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら沈みにくい寒天は、水に加えた当初は沈まずに浮いているが、時間と共に吸水し次第に沈んで行くことは避けられない。すなわち、これらの寒天は、冷凍法により製造される寒天であり、冷凍変性により氷の結晶を成長させ大きな空隙を作っているので、当初は浮いているが、吸水により空隙が水で満たされて沈降してしまうのである。
【0007】
また、これら沈みにくい寒天は、一度ゲル化させてから冷凍させることにより脱水しているため、分子構造が安定した網目構造を形成している。このため、これら寒天は、水が十分吸収して膨潤した状態にならないと加熱しても溶解しないばかりか、完全に溶解させるのに、沸騰後数分から数十分を要するという問題がある。このように溶解のために時間を要するので、吸水して沈んだ寒天が焦げ付きやすいという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、沈殿させずに容易に溶解させることが可能な易溶性寒天及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水に溶解され混練された寒天混練物に発泡処理を施すことにより、沈殿せずに容易に溶解できることを見出した。すなわち、本発明は、水に溶解され混練された寒天混練物に発泡処理が施されたことを特徴とする易溶性寒天である。
【0010】
また、本発明は、水に溶解された原料寒天を加熱加圧状態で混練する混練工程と、該混練工程によって混練された寒天混練物を減圧することにより膨化し、さらに水分を蒸発することによって発泡処理を行う発泡工程と、を備えたことを特徴とする易溶性寒天の製造方法である。
【0011】
このように、本発明に係る易溶性寒天は、発泡処理により、無数の小さな空隙を形成しているので、従来の沈みにくい寒天と異なり、空隙が水で満たされるのが遅く、そのため沈殿する前に溶解することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、沈殿せずに容易に溶解させることが可能な易溶性寒天及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る易溶性寒天は、かさ比重が0.03〜0.45g/cmの範囲になるように発泡処理が施されていることが好ましい。かさ比重が0.45g/cmより大きいの場合には、水に加えたとき吸水により寒天が容易に沈んでしまう。一方、かさ比重が0.03g/cmより小さい場合には、嵩張るため、搬送効率が良くないばかりか、膨化した寒天の強度が弱くなり壊れやすくなる。本発明に係る易溶性寒天において、かさ比重とは、単位見かけ容積当たりの寒天の重量のことをいい、定量の容器に寒天を自然落下により投入し、容器すり切りの重量を測定し、その測定された寒天の重量を容器容積により割ることによって求めることができる。すなわち、かさ比重は、(寒天の重量)÷(見かけ容積)によって求めることができる。
【0014】
また、本発明に係る易溶性寒天において、前記発砲処理は、それによって形成される空隙の平均径が5mm以下になるように行われることが好ましく、特に1mm以下であることが好ましい。5mmよりも大きいと、空隙が水によって満たされ易くなり、溶解する前に沈殿してしまう。本発明に係る易溶性寒天の空隙は、前記発砲処理によってほぼ球状又は円筒状に形成されており、このように球状又は円筒状に形成されることも、表面張力の関係などにより水に満たされるのが遅くなっている原因の一つとなっている。さらに、本発明に係る易溶性寒天は、乾燥処理されていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る易溶性寒天の製造方法は、発泡工程において、又は発泡工程の後に、乾燥工程を行なうことが好ましい。これら混練工程及び発泡処理工程などは、加圧加熱機であるエクストルーダーを用いることにより実現することができる。すなわち、本発明に係る易溶性寒天は、上記原料をエクストルーダー内に入れて水の存在下で加熱加圧、混練し、減圧吐出することにより製造することができる。
【0016】
エクストルーダーは、スクリュとシリンダにより圧縮・せん断・混合・混練などの動作を行う機械で、成形、組織化、溶融、殺菌などの加工で食品の多くの用途に利用されている。本発明によれば、寒天を加水しながら加圧加熱して膨化させることにより、目的とするかさ比重が0.03〜0.45g/cmの範囲の寒天を得ることができる。エクストルーダーは、単軸型のもの、二軸に代表される多軸型のものが用いられ得るが、二軸型エクストルーダーを用いるのが好ましい。スクリューの構成は、原料供給口からダイスに向かいピッチが狭くなるストレート形を基本とするが、膨化を強化するために、ニーディングスクリュー、リバーススクリューおよびパイナップルエレメントを組み込んでも良い。
【0017】
本発明に係る易溶性寒天及びその製造方法においては、原料として、海藻を抽出してろ過冷却により凝固されたゲルをさらに脱水処理された濃縮ゲル、または乾燥処理された粉末を用いることができる。
【0018】
水の添加量は、使用する原料寒天に左右されるが、原料の0〜3/10倍量程度の水を添加することが望まれる。加熱温度としては、50〜200℃、より好ましくは60〜170℃程度とされる。すなわち、加熱温度が50℃を下回ると、寒天のα化が十分に行われないので得られた寒天の溶解性が著しく低下する。一方、200℃を越えると、寒天分子の切断により寒天の強度が弱くなってしまう。また、エクストルーダーの加圧条件としては、10〜100Kg/cm程度が好ましい。
【0019】
このようにエクストルーダー内において加熱加圧された原料混合物は、ダイスより押し出され、大気中で減圧されて膨化し、同時に原料混合物中の水分蒸発により気泡を内包する。このようにして得られる寒天は、適当な寸法に切断される。
【実施例】
【0020】
次に、本発明に係る易溶性寒天の実施例について説明する。先ず、エクストルーダー((株)日本製鋼所製 TEX−32F)を用いて、寒天(伊那寒天ZH)を連続的に3/10倍量の水と共にシリンダ内に供給し加熱加圧処理した。スクリューの構成は、ストレート形を基本とし、先端付近にニーディングスクリューを組んだ。処理条件は、加熱温度105℃、加圧圧力60kg/cm、スクリュー回転数450rpmとした。混練寒天は、ストランドダイスにより成形加工され、カッターにより5mmに切断することにより、本実施例に係る発泡粒状の易溶性寒天を得た。
【0021】
出来上がった本実施例に係る易溶性寒天をステンレス鍋に入れ、それぞれ1重量%、3重量%、5重量%になるように水に分散させて攪拌することなく、ガス直下加熱した。同時に発泡処理を行っていない粉末寒天ZHを比較例1として同様に溶解させた。本実施例に係る易溶性寒天は水に浮くのに対し、比較例に係る粉末寒天は、吸水して鍋底に沈んだ。攪拌しないで加熱をしていくと、本実施例に係る易溶性寒天は、焦げ付くことなくほぼ溶解したのに対し、比較例に係る粉末寒天は、加熱が進むと焦げ付きが見られた。とくに寒天濃度の高いものほどその状態が大きくなった。
【0022】
次に、本実施例に係る易溶性寒天を2重量%になるようにステンレス鍋に入れ、水に分散させて10分間保持した後、攪拌することなく、加熱沸騰により溶解させた。比較例2及び3として糸寒天(岐阜県産)と角寒天(長野県産)を同様の方法により溶解させた。本実施例に係る易溶性寒天、並びに比較例2及び3に係る糸寒天及び角寒天は、いずれも10分後までは浮いていたが、溶解すると、比較例2及び3に係る糸寒天及び角寒天は、不溶物の固まりが多く見られた。10分間ではなく3時間水に分散させた糸寒天及び角寒天は、吸水してステンレス鍋の中に沈んでいた。
【0023】
本実施例に係る易溶性寒天に形成された空隙は球状であり、この平均径を測定したところ、1mmであった。同様に比較例2及び3に係る糸寒天及び角寒天の空隙の平均径を測定したところ、角寒天は、平均径3mm長さ1〜2cmの繊維状、糸寒天には空隙がほとんどなく、あっても1cm位の長さの繊維状であった。このように本実施例に係る易溶性寒天に形成された空隙は、小さく球状であるため、水に満たされるまでが遅く、このため溶解する前に沈殿することがない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に溶解され混練された寒天混練物に発泡処理が施されたことを特徴とする易溶性寒天。
【請求項2】
かさ比重が0.03〜0.45g/cmの範囲になるように発泡処理が施されたことを特徴とする請求項1記載の易溶性寒天。
【請求項3】
前記易溶性寒天は、乾燥処理されていることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の易溶性寒天。
【請求項4】
水に溶解された原料寒天を加熱加圧状態で混練する混練工程と、
該混練工程によって混練された寒天混練物を減圧することにより膨化し、さらに水分を蒸発することによって発泡処理を行う発泡工程と、
を備えたことを特徴とする易溶性寒天の製造方法。

【公開番号】特開2006−296354(P2006−296354A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125860(P2005−125860)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】