説明

易滑性アンチブロッキング光硬化性樹脂組成物、それを基材上に被覆硬化したアンチブロッキング性構造体およびその製法

【課題】熱可塑性フィルム等の層状体間の付着などの不具合、即ち、ブロッキング現象を防止することのできるフィルムおよびその層状構造体においてすべり性を改善することができる技術の提供。
【解決手段】第1成分、第2成分およびシリコーン系化合物を含むアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物であって、前記第1成分が、少なくとも一種以上の樹脂からなり、前記第2成分が、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される1種以上のものからなり、前記組成物の塗布後に前記第1成分の樹脂が相分離により析出し、表面に微細な凹凸を形成するアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチブロッキング性を有する硬化性樹脂組成物、ハードコートフィルムおよび層状構造体ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PETフィルムなどの熱可塑性フィルムにハードコーティングを施す場合、製造工程で、ロール状に巻回して保存したりすることがある。ハードコートを形成したPETフィルムなどの樹脂基材層上に別の層状体を重ねた場合に、層間に粘着力や化学的な力が働いて、付着状態になり、各層状体を利用するときに、各層状体を剥がすための力が必要であったり、付着力が強くなって剥がすのが困難になったり、あるいはむりやり剥がそうとすると層状体の破壊が起こったりすることがある。
【0003】
そのような場合、基材のハードコーティングの施されていない反対面に、1μm程度のシリカなどの粒子状物を練り込んだ塗料を塗布してバックコートを形成して、その表面に凹凸を設けて、各層間の接触面積を小さくすることにより、層状体間の付着を防止することがある。例えば、特開2004−151937号公報(特許文献1)や特開2005−132897号公報(特許文献2)には粒子状物を含有するバックコートを形成した技術が開示されている。
【0004】
上述の粒状物質の利用による層状体間の付着を防止する技術は、有効であるが、粒子の凹凸が表面にまで現れなければならないので、塗膜の厚さが粒径より小さく(例えば、0.5μm程度)にしなければならず、機械的強度が低下すると共に、傷などが付き易く、また、ぎらつき等も生じる。このような欠点は、透明性を要求される熱可塑性樹脂層の場合には、光学特性や透明性が低下し、致命的な欠点となる。
【0005】
上述の方法はハードコート層の反対面のバックコートに粒子を混入したものである場合、ハードコート層自体にも樹脂粒子を混入して、表面に凹凸を形成する技術も存在する(特開2004−042653号公報(特許文献3)。粒子を混入する場合、表面の凹凸形成の為に膜厚を薄くする必要があり、膜強度が弱くなり傷が付きやすく、塗膜特性が劣化する。また、光化学特性が損なわれることもある。
【0006】
本発明者等は、既にハードコートフィルムに用いることができるアンチブロッキング性を有する硬化性樹脂組成物を提供した(特願2006−002480号)。この特許出願の技術では、樹脂組成物が硬化する時に相分離することにより表面に微細な凹凸が自然発生的に生じ、ブロッキングを防止することができる。この特許出願の技術により、ハードコートフィルムの製造上の問題は解決されたものの、このハードコートフィルムをタッチパネルの表面に用いた場合、特に、ペンでタッチするいわゆるペンタッチのパネルの場合、表面のすべり性が求められる。特に、ペン先がポリアセタールであることが多いので、ポリアセタールに対するすべり性の高いものが要求されている。このような性能は、先の特許出願の技術によっては達成できないものである。そこで、上記出願の技術を改良したポリアセタールに対する滑り性の高いアンチブロッキング性を有する硬化性樹脂組成物を検討することが望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2004−151937号公報
【特許文献2】特開2005−132897号公報
【特許文献3】特開2004−042653号公報
【特許文献4】特願2006−002480号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性フィルム等の層状体間の付着などの不具合、即ち、ブロッキング現象を防止することのできるフィルムおよびその層状構造体においてすべり性を改善することができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、少なくとも一種以上の樹脂からなる第1成分、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される第2成分を含む硬化性樹脂組成物(特願2006−002480号)にシリコーン系化合物を添加(配合)することよって、組成物の塗布後、第1成分の樹脂が相分離により析出し、得られるフィルムの表面に微細な凹凸を形成することでアンチブロッキング性が得られ、さらに、形成されるフィルムおよびその層状構造体においてそのすべり性を改善することがでることを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0010】
第1成分、第2成分およびシリコーン系化合物を含むアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物であって、
前記第1成分が、少なくとも一種以上の樹脂からなり、
前記第2成分が、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される1種以上のものからなり、
前記組成物の塗布後に前記第1成分の樹脂が相分離により析出し、表面に微細な凹凸を形成するアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0011】
前記シリコーン系化合物が、(メタ)アクリロイル基を含有する反応性シリコーン化合物である、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0012】
前記シリコーン系化合物の含有量が、前記第1成分および第2成分の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部である、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0013】
前記硬化性樹脂組成物が、さらに、無機粒子および/または有機粒子を少なくとも1種を含む、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0014】
第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が1.0以上である、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0015】
前記第1成分の樹脂がガラス転移温度(Tg)2℃以上であり、重量平均分子量2000以上である、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0016】
光硬化性である、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【0017】
上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物をフィルム状に硬化することにより得られたアンチブロッキング性ハードコートフィルムであって、該フィルムが全光線透過率90%以上、ヘイズ2.0%以下を有するクリアー性能を有する、アンチブロッキング性ハードコートフィルム。
【0018】
上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体。
【0019】
上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体をロール上に巻回したアンチブロッキング性層状構造体巻回ロール。
【0020】
基材上に上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥させて相分離させ、その後硬化することで得られるアンチブロッキング性層状構造体の製造方法。
【0021】
前記相分離と硬化が、光を照射することにより行われる、上記の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、基材上に塗布し必要に応じて乾燥させた後に、硬化(特に、光硬化)させるのみで、表面に凹凸を有する樹脂層であるアンチブロッキング層を設けることができる。得られたアンチブロッキング性ハードコートフィルムは、従来のものよりも硬く、傷が付きにくい。また、平均粒子径0.5μmを超える粒子状物を用いていないので、光学特性が損なわれることが無く、樹脂自体の性能が利用できる。このアンチブロッキング性ハードコートフィルムを樹脂基材と組み合わせたアンチブロッキング性層状構造体を複数枚重ね合わせても、ブロッキング現象(例えば、層間付着)が生じない効果を発揮する。本発明のアンチブロッキング性層状構造体が巻回ロールの場合、ブロッキング現象(例えば、巻回ロールからの剥離の困難性)が起こらない。
【0023】
また、本発明により表面に凹凸を形成した場合、自然発生的に凹凸配置が決まるので、微細凹凸を有する被膜の表面に不規則な凹凸形状を形成することができる。
【0024】
本発明は、上記のアンチブロッキング性を必須の性能として、先の硬化性樹脂組成物において、さらにシリコーン系化合物を添加することによって、形成されるフィルムおよびその層状構造体の表面摩擦係数を低下させることができる。すなわち、すべり性を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
添付の図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。図面は次の内容を示す。
図1は、本発明のアンチブロッキング性層状構造体の断面該略図である。
図2は、パラメーターRJISの説明図である。
図3は、全光線透過率の概略説明図である。
図4〜6は、本発明のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【0026】
アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、樹脂基材層上に塗布され微細凹凸を有する被膜を形成するものである。このアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物には、第1成分および第2成分の2種類の成分が少なくとも含まれる。これら第1成分および第2成分は、アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布する場合において、第1成分および第2成分それぞれの物性の差に基づいて、第1成分と第2成分とが相分離する、という特徴を有する。
【0027】
なお、第1成分は、少なくとも一種以上の樹脂からなり、第2成分は、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される1種以上のものからなる。
【0028】
第1成分
第1成分の樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリシラン樹脂、ポリイミド樹脂またはフッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、低分子量であるいわゆるオリゴマーであってもよい。なお、本明細書でいう「オリゴマー」とは、繰り返し単位を有する重合体であって、この繰り返し単位の数が3〜10であるものをいう。(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂として、(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂などが挙げられる。オレフィン樹脂を骨格構造に含む樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体などが挙げられる。ポリエーテル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエーテル結合を含む樹脂であり、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエステル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエステル結合を含む樹脂であり、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリウレタン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にウレタン結合を含む樹脂である。ポリシロキサン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシロキサン結合を含む樹脂である。ポリシラン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシラン結合を含む樹脂である。ポリイミド樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にイミド結合を含む樹脂である。フッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂は、ポリエチレンの水素の一部または全部がフッ素で置きかえられた構造を含む樹脂である。樹脂として、上記骨格構造の2種以上からなる共重合体であってもよく、上記骨格構造とそれ以外のモノマーとからなる共重合体であってもよい。
【0029】
第1成分の樹脂として、(メタ)アクリル樹脂が好ましく、なかでも、不飽和二重結合含有アクリル共重合体が好ましい。不飽和二重結合含有アクリル共重合体は、基本骨格となるアクリル共重合体中に反応性基(例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等)を導入し、その反応性基を不飽和二重結合を有し、かつ、反応性基と対応する官能基(エポキシ基にはヒドロキシル基またはカルボキシル基、ヒドロキシル基にはエポキシ基またはイソシアネート基、カルボキシル基にはヒドロキシル基またはエポキシ基)を有する化合物と反応することにより形成される。アクリル共重合体中にエポキシ基を導入するには、アクリルモノマーとグリシジルメタクリレートを反応することにより行われる。ヒドロキシル基を導入するには、アクリルモノマーとヒドロキシル基含有モノマー(例えば、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート)を反応することにより行われる。カルボキシル基を導入するには、アクリルモノマーとアクリル酸やメタクリル酸と反応することにより行われる。反応性基を有するアクリル共重合体は、反応性基と対応する官能基を有するモノマー(例えば、エポキシ基には2−ヒドロキシエチルメタクリレート等、ヒドロキシル基にはグリシジルメタクリレートやイソシアナトエチル(メタ)アクリレート等、カルボキシル基にはグリシジル(メタ)アクリレートを反応させて二重結合基を導入する。これらの不飽和二重結合含有アクリル共重合体は、一種を単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
第1成分の樹脂は、好ましくはガラス転移温度(Tg)の下限としては2℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは50℃以上を有する。一方、ガラス転移点の上限としては200℃、好ましくは150℃を有する。ガラス転移温度は、通常の動的粘弾性によるTgの測定方法と同様の方法により得ることができる。このTgは、例えば、RHEOVIBRON MODEL RHEO2000、3000(商品名、オリエンテック社製)等を用いて測定することができる。ガラス転移温度が2℃より低い場合は、アンチブロッキング機能が低下する。
【0031】
第2成分
第2成分は、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される1種以上のものからなり、モノマーとしては多官能性モノマー、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。この他にも、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(共栄社化学(株)社製)などの、ポリエチレングリコール骨格を有するアクリレートモノマーを使用することもできる。これらの多官能性モノマーは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーや上記第一成分で挙げられた樹脂の低分子量物、特に繰り返し単位の数が3〜10であり、重量平均分子量8000未満のものである。オリゴマーとしては、前述の樹脂の骨格構造の2種以上からなる共重合体であってもよく、上記骨格構造とそれ以外のモノマーとからなる共重合体であってもよい。
【0032】
シリコーン系化合物
本発明で用いるシリコーン系化合物は、シロキサン(Si−O)結合を有する化合物であれば特に限定なく使用することができ、例えば、非反応性シリコーン化合物および反応性シリコーン化合物が挙げられる。
【0033】
非反応性シリコーン化合物は、一般に、式:
−((R)(R)SiO)−R
[式中、
、R、RおよびRは、独立して、炭素数1〜25のアルキル基または炭素数1〜25のアルコキシ基を示し、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよく、
nは、1〜150の整数である]
で表される化合物である。
【0034】
反応性シリコーン化合物は、少なくとも1つの重合性基または官能基を有し、一般に、式:
−((R)(R)SiO)−R
[式中、
、R、RおよびRは、独立して、重合性基、官能基、炭素数1〜25のアルキル基または炭素数1〜25のアルコキシ基を示し、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよいが、R、R、RおよびRの少なくとも1つが重合性基または官能基であり、
mは、1〜150の整数である]
で表される化合物であり、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、官能基としては、アミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基などが挙げられ、重合性基が好ましく、なかでも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0035】
シリコーン系化合物の数平均分子量(Mn)は、100〜10000、好ましくは1000〜5000である。
【0036】
シリコーン系化合物としては、マトリックスに組み込まれて安定化するので、反応性シリコーン化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基を含有する反応性シリコーン化合物が特に好ましい。
【0037】
また、シリコーン系化合物として市販品を使用してもよく、例えば、BYK(登録商標)−306、307、310、330(ビッグケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)、BYK(登録商標)−UV3500、UV3510(ビッグケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン)、TEGO(登録商標)RAD 2100、2200N、2250、2600、2700(テゴケミサービス(株)製反応性シリコーン)、サイラプレーン(登録商標)(チッソ株式会社製反応性シリコーン)、例えば、FM−7711、FM−7721、FM−7725、FM−0711、FM−0721、FM−0725、TM−0701、TM−0701Tなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の組成物に含まれるシリコーン系化合物の含有量は、第1成分および第2成分の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。含有量が0.01重量部未満である場合、形成されるフィルムの摩擦係数を低下させることができず、フィルムにすべり性を付与することができない恐れがある。また、含有量が10重量部を超過する場合、形成されるフィルムにすべり性を付与することはできるが、フィルムのハードコート性などの物性が低下する恐れがある。
【0039】
本発明において、シリコーン系化合物を添加することによって、当該アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物から形成され得るフィルムの静止摩擦係数を低下することができ、フィルムにすべり性を付与することができる。本明細書中、フィルムの静止摩擦係数およびすべり性については以下のアンチブロッキング性層状構造体の説明において詳細に言及する。
【0040】
また、第1成分の樹脂は、重量平均分子量で2000以上、好ましくは2000〜100000、より好ましくは5000〜50000であるのが好ましい。
【0041】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす、第1成分および第2成分それぞれの物性の差として、例えば、それぞれの成分のSP値と重量平均分量が一定の差異を有する場合が挙げられる。
【0042】
SP値とは、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0043】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
【0044】
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…ジオキサン、アセトンなど
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0045】
樹脂のSP値δは次式によって与えられる。
【0046】
【数1】

【数2】

【数3】

【0047】
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0048】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす第1成分および第2成分それぞれの物性の差がSP値の差である場合、第1成分のSP値と第2成分のSP値との差は1.0以上であるのが好ましい。このSP値の差が1.5以上であるのがさらに好ましい。このSP値の差の上限は特に限定されないが、一般には8以下である。第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が1.0以上ある場合は、互いの樹脂の相溶性が低く、それによりアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物の塗布後に第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。相分離によって、第1成分の樹脂が析出し得る。
【0049】
本発明に有用な第1成分および第2成分の他の一例として、第1成分および第2成分が、共に(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂を用いるのが好ましい。この第1成分は、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましく、また第2成分は多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのがより好ましい。
【0050】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物には、上記の第1成分および第2成分のほかに、通常使用される樹脂が含まれてもよい。本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、上記のような第1成分および第2成分を用いることによって、樹脂粒子などを含ませなくても、凹凸を有する樹脂層を形成することができることに特徴がある。そのため、本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、樹脂粒子を含まないのが好ましい。しかしながら、本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、無機粒子および/または有機粒子、若しくはそれらの複合物を少なくとも一種以上含んでもよい。これらの粒子は、特に表面に凹凸を形成する目的のために添加されるのではなく、相分離や析出を制御して、より均一で微細な凹凸を形成する為に添加される。これらの粒子の粒径は、被膜に透明性が必要である場合には、平均粒径で0.5μm以下、好ましくは0.01〜0.3μmである。0.5μmを超えると、若干透明性が低下する。
【0051】
無機粒子の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、雲母、合成雲母、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)、酸化錫、酸化インジウムおよび酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも1種類が挙げられる。
【0052】
有機粒子の例としては、アクリル、オレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、ウレタン、ポリエステル、シリコーン、ポリシラン、ポリイミドおよびフッ素粒子からなる群から選択される少なくとも1種類が挙げられる。
【0053】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、第1成分と第2成分を、必要に応じた溶媒、重合開始剤、触媒、光増感剤および硬化剤と併せて混合することにより調製される。アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物中における第1成分と第2成分との比率は、0.1:99.9〜50:50が好ましく、0.3:99.7〜20:80がより好ましく、0.5:99.5〜10:90がさらに好ましい。重合開始剤、触媒および光増感剤を用いる場合は、第1成分および第2成分そして必要に応じた他の樹脂(これらを合わせて「樹脂成分」という。)100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部加えることができる。硬化剤を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部に対して、0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部加えることができる。溶媒を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部に対して、1〜9900重量部、好ましくは10〜900重量部加えることができる。
【0054】
本発明で用いられるアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物中の溶媒は、特に限定されるものではなく、第1成分および第2成分、塗装の下地となる部分の材質および組成物の塗装方法などを考慮して適時選択される。用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒を単独で使用してもよく、また2種以上を併用して使用してもよい。これらの溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒およびケトン系溶媒が好ましく使用される。
【0055】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤として、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の添加剤が挙げられる。
【0056】
アンチブロッキング性ハードコートフィルム
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物をフィルム状に硬化するとアンチブロッキング性ハードコートフィルムが得られる。硬化方法や条件などは、下記のアンチブロッキング性層状構造体の説明に記載したものを用いる。
【0057】
アンチブロッキング性層状構造体
本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、樹脂基材層と微細凹凸を有する被膜(ハードコートフィルム)とを有する。この微細凹凸を有する被膜は、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物から形成される。
【0058】
樹脂基材層としては、各種プラスチックフィルムおよりプラスチック板などを使用することができる。プラスチックフィルムとして、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ジアセチレンセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルム等が使用できる。なお、樹脂基材層の厚さは、用途に応じて適時選択することができるが、一般に25〜1000μm程で用いられる。
【0059】
微細凹凸を有する被膜は、樹脂基材層上に、上記のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布することにより形成される。アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物の塗布方法は、アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物および塗装工程の状況に応じて適時選択することができ、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)などにより塗布することができる。
【0060】
微細凹凸を有する被膜の厚みは、特に制限されるものではなく、種々の要因を考慮して適時設定することができる。例えば、乾燥膜厚が0.01〜20μmとなるようにアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布することができる。
【0061】
樹脂基材層に塗布された塗膜を室温にて相分離させてもよく、また硬化させる前に塗膜を乾燥させて、硬化前に予め相分離させておいてもよい。塗膜を硬化させる前に乾燥又は加熱させる場合は、30〜200℃、より好ましくは40〜150℃で、0.01〜30分間、より好ましくは0.1〜10分間乾燥させて、予め相分離させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合に、硬化前に乾燥させて予め相分離させておくことは、微細凹凸を有する被膜中の溶媒を効果的に除去でき、かつ所望の大きさの凹凸を設けることができるという利点がある。
【0062】
硬化させる前に相分離させる他の方法として、塗膜に光を照射して相分離させる方法を用いることもできる。照射する光として、例えば露光量0.1〜3.5J/cmの光、好ましくは0.5〜1.5J/cmの光を用いることができる。またこの照射光の波長は特に限定されるものではないが、例えば、360nm以下の波長を有する照射光などを用いることができる。例えば光開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどを用いる場合は、照射光は310nm付近の波長を有する光を照射するのが好ましく、そしてさらに360nm付近の波長を有する光を照射するのがより好ましい。このような光は、高圧水銀灯、超高圧水銀灯などを用いて得ることができる。このように光を照射することによって、相分離および硬化が生じることとなる。光を照射して相分離させることによって、アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物に含まれる溶媒の乾燥ムラに起因する表面形状のムラを回避できるという利点がある。
【0063】
アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物の塗布により得られた塗膜を、または乾燥させた塗膜を、硬化させることによって、微細凹凸を有する被膜が形成される。第1成分と第2成分との混合物が熱硬化性である場合は、40〜280℃、より好ましくは80〜250℃で、0.1〜180分間、より好ましくは1〜60分間加熱することにより、硬化させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合は、必要に応じた波長の光を発する光源を用いて光を照射することによって、硬化させることができる。なお、光照射は、上記のとおり相分離させる目的で用いることもできる。
【0064】
こうして形成されるアンチブロッキング性層状構造体の断面該略図を図1に示す。アンチブロッキング性層状構造体1は、微細凹凸を有する被膜3と樹脂基材層5とを有している。本発明のアンチブロッキング性層状構造体表面の凹凸は自然発生的に凹凸配置が決まるので、樹脂層の表面に不規則な凹凸形状を形成することができる。
【0065】
微細凹凸を有する被膜の表面の凹凸形状は、RJIS(十点平均粗さ)のパラメーターを使用して評価することができる。ここでRJISは、JIS B0601の付属書1表1において規格化されたパラメーターである。このRJISは、表面上の凹凸の高さ粗さを表わす指標である。図2は、パラメーターRJISの説明図である。この図中において、実線曲線は微細凹凸を有する被膜の断面を示している。十点平均粗さ(RJIS)は、例えば(株)キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡などを用いて、JIS B0601の付属書1に準拠して測定することができる。なお、JIS B0601は、ISO 4287を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
【0066】
本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、R(算術平均高さ)が0.1μm以下であるのが好ましい。Rが0.1μmを超える場合は、膜のヘイズ値が高くなり、透明性を損ねてしまう。Rは0.07μm以下であるのがより好ましい。下限は0.01μmであるのが好ましい。
【0067】
本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、RJISが0.5μm以下であるのが好ましい。ここでRJISとは、粗さ曲線の10点平均粗さであり、JIS B0601−2001において規定されるパラメーターである。RJISが0.3μm以下であるのがより好ましく、0.2μm以下であるのがさらに好ましい。下限は0.01μmであるのが好ましい。本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、相分離による樹脂析出による凝集防止として、凹凸形状を制御する役割で平均粒子径0.5μm以下の粒子を含んでもよい。この粒子はアンチブロッキング性を発現するためでは無く、ギラツキも生じることがない。アンチブロッキング性層状構造体のRJIS(十点平均粗さ)の値が0.5μmを超える場合は、アンチブロッキング性層状構造体に白濁感を与え、ヘイズ値が高くなり、透明性を損ねてしまうといった不具合を生じる。
【0068】
本発明のアンチブロッキング性層状構造体が透明な場合、その透明性を表すために、全光線透過率とヘイズで表すと、全光線透過率85%以上、好ましくは90%以上であり、ヘイズは2.0%以下、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.5%以下である。全光線透過率(T(%))は、アンチブロッキング性層状構造体に対する入射光強度(T)とアンチブロッキング性層状構造体を透過した全透過光強度(T)とを測定し、下記式により算出される。全光線透過率の概略説明図を図3に示す。
【数4】

【0069】
全光線透過率の測定は、例えばヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて測定することができる。
【0070】
本発明によれば、上記の通りヘイズが低いために基材の透明性を損ねることない優れたクリア性能を有するアンチブロッキング性ハードコートフィルムを調製することができる。
【0071】
ヘイズは、JIS K7105に準拠して、下記式より算出することができる。
【数5】

H:ヘイズ(曇価)(%)
:拡散透光率(%)
:全光線透過率(%)
【0072】
ヘイズの測定は、例えばヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて測定することができる。
【0073】
本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、微細凹凸を有する被膜の表面の不規則な凹凸形状の配置が、自然発生的に決まるものである。
【0074】
また、本発明のアンチブロッキング性ハードコートフィルムおよびその層状構造体は、上述の第2成分に含まれる重合性シリコーンによって、表面のすべり性が向上する。
【0075】
フィルムのすべり性は、例えば、フィルム表面の静止摩擦係数(μ)によって評価することでき、静止摩擦係数は、例えば、ポータブル摩擦計(ヘイドン・トライボギア)Type:94i−2(新東科学(株)製)などの摩擦計によって測定することができる。
【0076】
フィルム表面の静止摩擦係数(μ)は、0よりも大きく、0.3以下、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下である。静止摩擦係数が0.3以下であると、従来のフィルムでは得られない優れたすべり性を得ることができる。
【0077】
優れたすべり性を有する本願発明のハードコートフィルムおよび層状構造体は、例えば、タッチパネルなどの用途に有効に適用することができる。タッチパネルの操作としては、指での操作に加えて、ポリアセタールをペン先としたペンでの操作が一般的であるが、従来の技術では、ペン先がフィルム上で引っ掛かるなどの問題があった。しかし、本願発明を使用することによって、すべり性が大幅に向上し、上記の従来技術の問題を解消することができる。
【0078】
巻回ロール
本発明のアンチブロッキング性層状構造体は、樹脂基材層を複数枚重ねて使用する場合に、アンチブロッキング性機能が発揮される。アンチブロッキング性層状構造体は、種々の態様が考えられるが、例えば樹脂基材を巻回してロール状にしたものが考えられる。
【0079】
このような巻回ロールの態様の場合は、樹脂基材層上に本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布硬化後、ロール状に巻き付けていく方法が考えられる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0081】
調製例1
アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート1263.6g、メチルメタクリレート18.9g、メタクリル酸67.5gからなる混合物を混合した。この混合物を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた5000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル2430gに3時間かけて等速滴下し、その後、110℃で30分間反応させた。
【0082】
ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート67.5gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの540g溶液を30分間滴下して、数平均分子量2700、重量平均分子量5200のアクリル共重合体を得た。この樹脂は、SP値:10.2、Tg:113℃であった。
【0083】
調製例2
不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート441.6g、メチルメタクリレート8.4g、エチルヘキシルアクリレート120g、メタクリル酸30gからなる混合物を混合した。この混合物を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた5000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル1080gにターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート6.0gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの240.0g溶液と同時に3時間かけて等速滴下し、その後、1時間、110℃で反応させた。
【0084】
その後、ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート0.6gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル51g溶液を滴下して、110℃で30分反応させた。
【0085】
その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド4.5gとハイドロキノン0.17gを含む6gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、さらにグリシジルメタクリレート51.9gとプロピレングリコールモノメチルエーテル15.0gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。
【0086】
数平均分子量6700、重量平均分子量15000の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂のSP値:9.8、Tg:55℃であった。
【0087】
調製例3
不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート187.2g、メチルメタクリレート2.8g、メタクリル酸10.0gからなる混合物を混合した。この混合物を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル360gにターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート2.0gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの80.0g溶液と同時に3時間かけて等速滴下し、その後、1時間、110℃で反応させた。 その後、ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート0.2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル17g溶液を滴下して、110℃で30分反応させた。
【0088】
その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド1.5gとハイドロキノン0.1gを含む6gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、さらに4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル24.4gとプロピレングリコールモノメチルエーテル5.0gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。
【0089】
数平均分子量5500、重量平均分子量18000の不飽和結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂は、SP値:9.7、Tg:92℃であった。
【0090】
調製例4
不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート97.2g、メチルメタクリレート2.8g、エチルヘキシルアクリレート90.0g、メタクリル酸10.0gからなる混合物を混合した。この混合物を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル360gにターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート2.0gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの80.0g溶液と同時に3時間かけて等速滴下し、その後、1時間、110℃で反応させた。
【0091】
その後、ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート0.2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル17g溶液を滴下して、110℃で30分反応させた。
【0092】
その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド1.5gとハイドロキノン0.1gを含む6gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、さらにグリシジルメタクリレート17.3gとプロピレングリコールモノメチルエーテル5.0gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。数平均分子量4800、重量平均分子量9200の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂のSP値:9.9、Tg:2℃であった。
【0093】
調製例5
不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート187.2g、メチルメタクリレート2.8g、メタクリル酸10.0gからなる混合物を混合した。この混合物を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル360gにターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート20.0gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの80.0g溶液と同時に3時間かけて等速滴下し、その後、1時間、110℃で反応させた。
【0094】
その後、ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサエート0.2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル17g溶液を滴下して、110℃で30分反応させた。
【0095】
その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド1.5gとハイドロキノン0.1gを含む6gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、さらにグリシジルメタクリレート17.3gとプロピレングリコールモノメチルエーテル5.0gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。
【0096】
数平均分子量1650、重量平均分子量2800の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂のSP値:10.5、Tg:113℃であった。
【0097】
実施例1
第1成分として調製例1のアクリル共重合体(この樹脂のSP値:10.2、Tg:113℃、重量平均分子量Mw=5200)を1重量部と、第2成分としてアロニックスM305(東亜合成(株)製のペンタエリスリトールトリアクリレート、SP値:12.7)99重量部と、シリコーン系化合物としてFM−7711(チッソ(株)製反応性シリコーン、数平均分子量Mn=1000)を0.1重量部、光開始剤である2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン7重量部を溶媒であるイソプロピルアルコールに混合して、不揮発成分率を40重量%となるように溶液を作製した。
【0098】
この溶液を、23℃で、PETフィルム基板(100μm)にバーコーター(No.10)にてバーコート塗布し、膜厚が5μmとなるように80℃で1分乾燥して、溶媒を除去乾燥し、その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線(350nm)を300mJ/cmのエネルギーとなるように露光して硬化させた。得られたアンチブロッキング性層状構造体(基材:PETフィルム基板およびアンチブロッキング性ハードコートフィルム)について、ΔSP値、全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、静止摩擦係数(μ)、Ra、RJIS94、AB(アンチブロッキング)性、すべり性、硬度および耐スチールウール性について以下に記載の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、表1には、第1成分、第2成分について、配合量、SP値、Tg(第1成分のみ)および分子量(第1成分のみ)も記載する。さらに、その他の成分としてシリコーン系化合物の種類、数平均分子量、配合量(第1成分および第2成分の総量に対する配合量)を記載し、また、粒子についても粒子の種類、平均粒子径および配合量を表1に記載する。
【0099】
また、実施例1のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像を図4に示す。
【0100】
全光線透過率(Tt)
ヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて、フィルムに対する入射光強度(T)とフィルムを透過した全透過光強度(T)とを測定し、下記式により全光線透過率(T(%))を算出した。
【数6】

【0101】
ヘイズ(曇価)
ヘイズメーター(スガ試験機社製、HGM−3DP)を用いて、フィルムの拡散透光率(T(%))および上記全光線透過率(T(%))を測定し、ヘイズを算出した。
【数7】

H:ヘイズ(曇価)(%)
:拡散透光率(%)
:全光線透過率(%)
【0102】
算術平均高さ(Ra)
表面上の凹凸の粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS−601に準拠して測定し、Ra値を得た。
【0103】
十点平均粗さ(RJIS)
表面上の凹凸の十点平均粗さ(RJIS)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS−B0601の付属書1に準拠して測定し、RJIS値を得た。
【0104】
AB性
上記組成物から得られた構造体を2×5cmの大きさに切り出し、PETフィルム(易接着層未塗布)面に重ね合わせ、ガラス板に挟んで200g/cm条件にて、室温、24時間放置し、目視にてブロッキング現象(AB性)を評価した。
○:アンチブロッキング性あり、×:アンチブロッキング性なし
【0105】
硬度
JIS−K5400にもとづき評価した。(鉛筆硬度試験)
【0106】
耐スチールウール性
500gf/cm苛重下、スチールウール(#0000番)を10往復、摩擦することより傷がつくがどうか目視にて評価した。
【0107】
すべり性(静止摩擦係数の測定)
すべり性として、ポータブル摩擦計(ヘイドン・トライボギア)Type:94i−2(新東科学(株)製)を用いて、摩擦計の接触子と、フィルム塗装表面との間で静止摩擦係数(μ)を測定した。
○:すべり性あり(静止摩擦係数:0.3以下)
×:すべり性なし(静止摩擦係数:0.4以上)
【0108】
実施例2〜9
実施例1と同様に、実施例2〜9のアンチブロッキング性層状構造体を作製し、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1および2に示す。なお、実施例2〜9では、実施例1で使用したアクリル共重合体を表のものに変更し、使用するモノマー、シリコーン系化合物は、実施例1と同一のものを用い、実施例5および実施例9では以下のシリカ粒子を使用し、実施例6では以下のアクリル粒子を使用した。
【0109】
比較例
実施例1と同様に、比較例1〜3のアンチブロッキング性層状構造体を作製し、実施例1と同様の評価を行い、結果を表3に示す。なお、比較例1では、第1成分として調製例3の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を使用し、第2成分は実施例1と同一のものを使用し、シリコーン系化合物を使用せず、比較例2および比較例3では第1成分を使用していない。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

*1:FM−7711(チッソ(株)製反応性シリコーン)
*2:アクリル系マイクロゲル(日本ペイント社製メチルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートとから合成したもの)
*3:オルガノシリカゾル(MIBK−ST:粒子径20nm、日産化学工業株式会社製)
【0112】
【表3】

【0113】
第1成分、第2成分およびシリコーン系化合物を含む本願発明のアンチブロッキング性層状構造体(実施例1〜9)ではアンチブロッキング性に優れ、なおかつ、優れたすべり性を有するのに対し、シリコーン系化合物を含有しない比較例1では、アンチブロッキング性は得られるが、すべり性は得られない。また、シリコーン系化合物を含むが第1成分を含まない比較例2および3においては、すべり性が得られるもののアンチブロッキング性が得られない。従って、本発明では、第1成分および第2成分にシリコーン系化合物を添加することによって、高いアンチブロッキング性を維持しながら、さらに、すべり性を付与することができた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明のアンチブロッキング性層状構造体の断面該略図である。
【図2】パラメーターRJISの説明図である。
【図3】全光線透過率の概略説明図である。
【図4】実施例1のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【図5】実施例4のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【図6】実施例5のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【符号の説明】
【0115】
1…アンチブロッキング性層状構造体、3…微細凹凸を有する被膜、5…樹脂基材層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分、第2成分およびシリコーン系化合物を含むアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物であって、
前記第1成分が、少なくとも一種以上の樹脂からなり、
前記第2成分が、一種以上のモノマーもしくはオリゴマーからなる群から選択される1種以上のものからなり、
前記組成物の塗布後に前記第1成分の樹脂が相分離により析出し、表面に微細な凹凸を形成するアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリコーン系化合物が、(メタ)アクリロイル基を含有する反応性シリコーン化合物である、請求項1記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン系化合物の含有量が、前記第1成分および第2成分の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部である、請求項1記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物が、さらに、無機粒子および/または有機粒子を少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が1.0以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記第1成分の樹脂がガラス転移温度(Tg)2℃以上であり、重量平均分子量2000以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
光硬化性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物をフィルム状に硬化することにより得られたアンチブロッキング性ハードコートフィルムであって、該フィルムが全光線透過率90%以上、ヘイズ2.0%以下を有するクリアー性能を有する、アンチブロッキング性ハードコートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体をロール上に巻回したアンチブロッキング性層状構造体巻回ロール。
【請求項11】
基材上に請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥させて相分離させ、その後硬化することで得られるアンチブロッキング性層状構造体の製造方法。
【請求項12】
前記相分離と硬化が、光を照射することにより行われる、請求項11記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13384(P2009−13384A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180357(P2007−180357)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】