説明

易滑性ポリイミドフィルム、銅張積層基板及び回路基板

【課題】ポリイミドフィルム製造時や当該フィルムを使用しての電子部品作製時において、取扱い上有利な易滑性を備えかつ接着性にも優れたポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】フィルム表面に高さ3〜300nmの突起が50〜5000個/μm2存在し、かつ静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルム。特に微粒子を含有しないフィルムが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機化合物又は有機化合物からなる微粒子などの滑剤を添加せずに、滑り性のある易滑性ポリイミドフィルムに関し、詳しくは、ポリイミドフィルムをプラズマ処理などの放電処理を施し表面に特異的形態を形成することにより滑り性と易接着性とを兼ね備えたポリイミドフィルムに関し、このポリイミドフィルムを使用した銅張積層基板及び回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度及び電気的特性などに優れていることから、金属箔又は金属薄膜との積層基板や、フレキシブルプリント基板など回路基板の用途に広く使用されている。
ポリイミドフィルムがこれらの用途に用いられる際の重要な要求特性の一つとして、フィルム表面の易滑性が挙げられる。すなわち、易滑処理されていないフィルム表面が平滑なポリイミドフィルムは、フィルム加工工程において、加工機械のフォルム支持体(例えばロールなど)との摩擦係数が大きく、しわが入ったり、ロールに巻き付いたりするため、例えばフレキシブルプリント基板を生産する際に、銅箔とのラミネートができないといったトラブルが生じることがある。
従来、ポリイミドフィルム表面に易滑性を付与する方法としては、サンドブラストなどの表面処理をする方法が知られているが、この方法では、得られるポリイミドフィルムの表面にブラストの粒子やブラスト後のフィルム破片などが付着するため、ポリイミドフィルムに銅張り前工程で接着剤を塗布した際に、気泡をかみ込みかんだり、粗大フィラー部で接着剤をはじいたりして、フレキシブルプリント基板の歩留まりが悪化するという問題があった。
【0003】
ポリイミドフィルムにフィラーとしてリン酸カルシウムなどの無機化合物からなる微粒子を混合し、フィルム表面に微細な突起を生じさせることにより易滑性を付与する方法(特許文献1参照)、やシリカ(特許文献2参照)などの無機化合物からなる微粒子を混合し、フィルム表面に微細な突起を生じさせ、表面摩擦を減らす方法が採用されてきた。また、微細な無機微粒子を分散させ溶媒中で重合したポリアミック酸溶液を流延製膜してポリイミドフィルムを製造する方法が提案された(特許文献3参照)などが知られている。具体的には、有機溶媒中に予め無機微粒子を分散させた後、このフィラー分散有機極性溶媒に芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを加えて反応させることにより、ポリアミド酸溶液を調製し、このポリアミド酸溶液を製膜し、次いで加熱イミド化することにより、易滑性ポリイミドフィルムを製造する方法が採用されてきた。
【特許文献1】特開昭62−068852号公報
【特許文献2】特開昭62−068853号公報
【特許文献3】特開平06−145378号公報
【0004】
また、ポリアミド酸溶液中に、メジアン平均径が0.8〜1.0μmで、かつ5μm以上の粒子径の割合が2%以下の粒子径分布を有する無機微粒子が、5〜30重量%の濃度で均一に分散した低粘度無機微粒子含有溶液を、無機微粒子を含まないポリアミド酸溶液と混合し、このポリアミド酸溶液を製膜した後イミド化する製法によるフィルム表面同志の静摩擦係数が0.1〜1.2易滑性ポリイミドフィルム(特許文献4参照)、熱可塑性ポリイミドからなるポリイミド表面層を有し、少なくともポリイミド表面層約1μm中にピロメリット酸成分とp−フェニレンジアミン成分とを80%以上含有するポリイミドからなりメジアン径が0.3〜0.8μmでかつ最大径が2μm以下である全芳香族ポリイミド粒子をポリイミド表面層のポリイミドに対して約0.5〜10質量%の割合で分散してなる易滑性の改良されたポリイミドフィルム(特許文献5参照)なども知られている。
【特許文献4】特開2002−256085号公報
【特許文献5】特開2005−126707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られているこれらの易滑性ポリイミドフィルムの製法においては、フィラーを添加するコストと工程により経済性においても課題があり、また低粘度の有機溶媒中にフィラーを混合する際に、フィラーが沈降凝集して粗大粒子となり、この粗大粒子に起因してフィルム表面に粗大突起が生じ、ポリイミドフィルムに銅張り前工程で接着剤を塗布した時に、気泡をかみ込んだり、粗大突起部で接着剤をはじいたりして、フレキシブルプリント基板の歩留まりが悪化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、無機化合物又は有機化合物からなる微粒子などの滑剤を添加含有せしめることなく、
ポリイミドフィルムの表面に、直径が10nm以上500nm未満、高さが5〜300nmの微小突起を多数存在せしめることで、静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0の易滑性でかつ接着性にも優れたポリイミドフィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
1.フィルム表面に高さ5〜300nmの突起が50〜5000個/μm2存在し、かつ静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルム。
2.フィルム表面の突起に対し凹部より凸へ接線を引きその角度が鋭角(0〜89度)であるものを突起A、鈍角(90〜180度)であるものを突起Bとし、突起Aの個数と突起Bの個数との比率:突起A/突起Bが1以上である前記1に記載の易滑性ポリイミドフィルム。
3.無機化合物又は有機化合物からなる微粒子を含有しない前記1又は2いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
4.突起が、放電処理により形成されたものである前記1又は2いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
5.ポリイミドが、芳香族ジアミン類の残基がベンゾオキサゾール骨格を有するポリイミドベンゾオキサゾ−ルである前記1〜4いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
6.前記1〜5のいずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルムの少なくとも片方の表面に銅層が積層された銅張積層体。
7.前記1〜5のいずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルムを用いて作製された回路基板。
8.フィルムと銅層の剥離強度が0.6kN/cm以上である前記6に記載の銅張積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリイミドフィルムは、高さ5〜300nmの突起が50〜5000個/μm2存在し、かつ静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルムであって、かつ無機粉末などの従来の微粒子からなる滑剤を含有しない。また、プラズマ処理などによって表面に特異的形態を形成することにより滑り性と易接着性とを兼ね備えた易滑性ポリイミドフィルムであって、無機粉末などの微粒子からなる滑剤を添加することによる弊害がなく製造することができ、しかも易滑性と接着性とをともに備えている。本発明のポリイミドフィルムを使用した銅張積層基板及び回路基板においても、易滑性を備えることで取扱い上、製造上有利であり、かつ銅などとの接着性に優れており、これら銅張積層基板及び回路基板の性能に寄与することが大であって、工業的に極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるポリイミドフィルムは、フィルム表面に高さ5〜300nmの突起が50〜5000個/μm2存在し、無機化合物又は有機化合物からなる微粒子を含有しない、静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルムであれば、特に限定されるものではないが、通常、溶媒中で芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類とを(開環)重付加反応に供してポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を得て、次いで、このポリアミド酸の溶液からポリイミド前駆体フィルム(グリーンフィルム)を成形した後に乾燥・熱処理・脱水縮合(イミド化)することにより製造される。
以下ポリイミドフィルムについて詳述する。
本発明におけるポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、下記の芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙げられる。
A.ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
B.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
D.上記のABCの一種以上の組み合わせ。
本発明で特に好ましく使用できるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに使用される、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類として、下記の化合物が例示できる。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

【0020】
【化12】

【0021】
【化13】

【0022】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを70モル%以上使用することが好ましい。
【0023】
本発明は、前記事項に限定されず下記の芳香族ジアミンを使用してもよいが、好ましくは全芳香族ジアミンの30モル%未満であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種又は二種以上、併用してのポリイミドフィルムである。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、
【0024】
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
【0025】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0026】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、
【0027】
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0028】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル及び上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシル基、シアノ基、又はアルキル基又はアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基又はアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は例えば芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

【0035】
【化19】

【0036】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種又は二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物。
【0037】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
前記芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸(無水物)類とを重縮合(重合)してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマー及び生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。 これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0039】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌及び/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0dl/g以上が好ましく、4.0dl/g以上がさらに好ましい。
【0040】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0041】
高温処理によるイミド化方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒及び脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒及び脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができる。
【0042】
熱閉環法の加熱最高温度は、100〜500℃が例示され、好ましくは200〜480℃である。加熱最高温度がこの範囲より低いと充分に閉環されづらくなり、またこの範囲より高いと劣化が進行し、複合体が脆くなりやすくなる。より好ましい態様としては、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0043】
化学閉環法では、ポリアミド酸溶のイミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するポリイミド前駆体を形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。
この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0044】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1〜4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0045】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは特に限定されないが、絶縁基材に用いることを考慮すると、通常1〜150μm、好ましくは5〜50μmである。この厚さはポリアミド酸溶液などのフィルム原料液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液などのフィルム原料液における原料濃度によって容易に制御し得る。
本発明の(ポリイミド)フィルムは、無延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよく、ここで無延伸フィルムとは、テンター延伸、ロール延伸、インフレーション延伸などによってフィルムの面拡張方向に機械的な外力を意図的に加えずに得られるフィルムをいう。
【0046】
本発明のフィルム表面に高さ5〜300nmの突起が、50〜5000個/μm2存在し、静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルムの製法は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリイミドフィルムの製造過程又はポリイミドフィルムの製造後に、フィルムの表面を高電圧放電処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理などを施す方法が挙げられる。中でも好ましくはプラズマ処理である。
プラズマ処理においてプラズマ発生の放電形式としては、(1)直流放電及び低周波放電、(2)ラジオ波放電、又は(3)マイクロ波放電などを採用することができる。放電する際のガス雰囲気は、アルゴン、酸素、空気などを採用することができる。
紫外線照射処理としては、空気中でフィルムの表面に紫外線を照射する方法があり、紫外線を照射する光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を用いることができ、照射前に紫外線吸収性溶剤で高分子材料の表面を処理してもよく、紫外線の波長は適宜選択できるが、材料の劣化を少なくするためには、360nm付近又は360nm以下が好ましい。
本発明におけるプラズマ処理の処理時間は、0.01分以上60分未満が好ましく、更に好ましくは、0.1分以上30分未満、更に好ましくは、0.5分以上15分以下である。0.01分以下の処理では、本発明で述べる特異的な表面突起の形成が不十分であり、易滑性が得られない。60分以上の処理では、生産性が低くなり、産業上有用な処理ではない。
本発明の易滑性ポリイミドフィルムは、無機化合物又は有機化合物からなる微粒子を含有しないものが好ましい。微粒子を含まない利点としては、以下のことが挙げられる。高密度配線パターン形成でのリソグラフィー(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)工程において、滑剤凝集物由来のレジストの塗工斑が無く、超ファインパターンの形成が可能となる。多層配線板作製での、ドリル、レーザーによるビア加工時にビア穴の端面からの滑剤の脱落が無く、垂直なビアが形成可能であり。メッキ後の絶縁不良が生じない。滑剤を添加することによる上記の不良は、滑剤の存在量に比例して統計的に生じるために滑剤を添加しないことが望ましい。しかし、易滑性が発現しない程度のごく少量の微粒子の含有と本発明における表面突起を組み合わせることにより不良率の減少に利用することも本発明の範囲内に入る。そのため無機化合物又は有機化合物からなる微粒子の含有量は0〜300ppmである。300ppm以上存在すると滑剤によるレジスト斑の発生やファインビアの形成時に滑剤の脱落が顕著に見られ、本発明の効果が少なくなる。
【0047】
高圧放電処理は、トンネル状の処理装置内に処理されるフィルムを移動させ、フィルムを移動させながら、処理装置の内側の壁面に多数付けられた電極間に数十万ボルトの高電圧を加え、空気中で放電させて処理する方法があり、放電によって空気中の酸素と被処理物の表面が活性化され、フィルムの表面に酸素が取り込まれるなどの表面改質が生じる。
コロナ放電処理は、接地された金属ロールとそれに数mmの間隔で置かれたナイフ状電極との間に数千ボルトの高電圧をかけてコロナ放電を発生させ、この放電中の電極−ロール間にフィルムを通過させる方法がある。
これらの放電処理において、ポリイミドフィルムの表面に、直径が10〜500nm、高さ5〜300nm以上の突起が、50〜10000個/μm2存在するような条件を選定して処理することが必須となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1.(摩擦係数の評価方法)
ASTM D1894に記載の方法に従って、23℃、60%RH、24時間で保持、調湿したポリイミドフィルムの片面を基板とし、その反対側の面がすり合わさるようにスレッドメタルに張り付け、引張り試験機を用いて(滑り速度:150mm/min)摩擦係数を測定した。
チャ−トの動き出したときの値を静摩擦係数、チャ−トの安定したときの値を動摩擦係数とした値で表示する。
2.(巻取りの良否の評価方法:ロール巻取り性)
巻取り性の良否は、長尺状のポリイミドフィルムを巻取りロ−ル(心棒の外径:15cm)に2m/分の速度で巻取る際に、皺が発生したりロ−ルに巻きついて円滑に巻取りが出来ない場合を巻取り性が不良とし、皺が生じず円滑に巻取りが可能である場合を巻き取り性が良好とした。
3.(接着性の評価方法:剥離強度)
測定対象の金属化フィルム(銅張積層体)を90μm配線幅のTABテープパターンに加工した後、90度方向に引き剥がしたときに要する強度を以って剥離強度とした。測定は、JIS C6481に準じて引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ(商品名)機種名AG−5000A)を用いて行った。
4.(突起の観察と評価方法)
突起の観測方法:原子間力顕微鏡E−Sweep(SII社製)を用い以下の条件でフィルムの表面観察を実施した。観察モード:DFMモード、スキャナー:20μmスキャナー、カンチレバー:DF−3、観察視野:2×2μm2
突起とは、フィルム表面凹凸の凹部の2点間を結んだ線から、線上の凸部の高さが5nm以上であり、且つ凸部を形成する表面の高さが5〜300nmである表面部位を意味する。
突起の評価には、原子間力顕微鏡にて観測したフィルム表面の1μm2の画像を取り込み突起高さと数を計測した。計測は5回行い、突起高さと高さ5〜300nmの突起の数について平均値を算出した。
突起比率の評価:原子間力顕微鏡にて観測した面の1μm2の画像を取り込み、フィルム表面の突起に対し凹部より凸へ接線を引きその角度が鋭角(0〜89度)であるものを突起A、鈍角(90〜180度)であるものを突起Bとし、突起を分類した。本操作を5回繰り返しその平均値を突起比率とした。
【0049】
〔ポリアミド酸の重合(1)〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで、N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後,ピロメリット酸二無水物485質量部を加え,25℃の反応温度で48時間攪拌すると、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(1)が得られた。得られた溶液のηsp/Cは4.2dl/gであった。
【0050】
〔微粒子含有ポリアミド酸の重合(2)〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで、N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物485質量部を加えた。次いで、別に蒸留したN−メチル−2−ピロリドン50質量部に、株式会社日本触媒製、コロイダルシリカ、商品名:シーホスターKEP−10を1000ppm混合して、ホモジナイザーで15分攪拌後加えた後、25℃の反応温度で48時間攪拌すると、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(2)が得られた。得られた溶液のηsp/Cは4.1dl/gであった。
【0051】
〔ポリアミド酸の重合(3)〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、ピロメリット酸無水物545質量部、4,4’ジアミノジフェニルエーテル500質量部を5000質量部のジメチルアセトアミドに溶解し、温度を20℃以下に保ちながら同様に反応させてポリアミド酸溶液(3)を得た。得られた溶液のηsp/Cは3.0dl/gであった。
【0052】
〔ポリアミド酸の重合(4)〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、フェニレンジアミン500質量部を仕込んだ。次いで、N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後,3,3,4’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物485質量部を加え,25℃の反応温度で48時間攪拌すると、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(2)が得られた。得られた溶液のηsp/Cは3.2dl/gであった。
【0053】
(実施例1)
上記のポリアミド酸溶液(1)をステンレスベルトにT型ダイを用いてコーティングした。ダイのリップギャップは650μmであった。次いで、90℃にて60分間乾燥することにより得られた自己支持性をもつポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離し、連続式の乾燥炉にて、170℃で3分間、次いで、約20秒間で450℃にまで昇温して450℃にて7分間加熱して、その後、5分間で室温にまで冷却し、オンラインで大気圧プラズマ処理を行い厚さ25μmの褐色のポリイミドフィルムを得た。プラズマ処理後のフィルムは易滑性を有し、搬送中のロールとの接触においても搬の発生が無く、皺の混入の無い品位の良好なロールフィルムを得た。プラズマの条件は、以下のとおりである。
電極間距離:2.0mm
電極幅:500mm
ガス流量:窒素 15L/min、酸素:窒素の4%(1L/min以下)
電力条件:400W:150V、2.67A、30kHz
処理時間:3分
上記ポリイミドフィルムに対して、エポキシ系接着剤(UR2700:東洋紡績株式会社製)を塗工して、5分間80℃にすることで接着剤の溶媒を蒸発させた。その後、厚さ12.5μmの銅箔(USLP−SE、株式会社日本電解製)をラミネーターで積層した。
その後、150℃にて2時間処理することで接着剤を硬化させた。その後、このフィルムを250mm×400mmに切り出すことで、金属化ポリイミドフィルムを得た。
測定対象の金属化ポリイミドフィルムを90μm配線幅のTABテープパターンに加工した後、90度方向に引き剥がしたときに要する強度を以って剥離強度とした。測定は、JIS C6481に準じて引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ(商品名)機種名AG−5000A)を用いて行った。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
上記のポリアミド酸溶液(1)をステンレスベルトにT型ダイを用いてコーティングした。ダイのリップギャップは650μmであった。次いで、90℃にて60分間乾燥することにより得られた自己支持性をもつポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離し、連続式の乾燥炉にて、170℃で3分間、次いで、約20秒間で450℃にまで昇温して450℃にて7分間加熱して、その後、5分間で室温にまで冷却し、オンラインで大気圧プラズマ処理を行った。プラズマ処理後のフィルムは易滑性を有し、搬送中のロールとの接触においても搬の発生が無く、皺の混入の無い品位の良好なロールフィルムを得た。プラズマの条件は、以下のとおりである。
電極間距離:2.0mm
電極幅:500mm
ガス流量:アルゴン 15L/min、酸素:窒素の4%(1L/min以下)
電力条件:400W:150V、2.67A、30kHz
処理時間:1分
以降は実施例1と同様に行い、フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
上記のポリアミド酸溶液(1)をステンレスベルトにT型ダイを用いてコーティングした。ダイのリップギャップは650μmであった。次いで、90℃にて60分間乾燥することにより得られた自己支持性をもつポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離し、連続式の乾燥炉にて、170℃で3分間、次いで、約20秒間で450℃にまで昇温して450℃にて7分間加熱して、その後、5分間で室温にまで冷却し、オンラインで大気圧プラズマ処理を行った。プラズマ処理後のフィルムは易滑性を有し、搬送中のロールとの接触においても搬の発生が無く、皺の混入の無い品位の良好なロールフィルムを得た。プラズマの条件は、以下のとおりである。
電極間距離:2.0mm
電極幅:500mm
ガス流量:窒素 15L/min、酸素:窒素の4%(1L/min以下)
電力条件:400W:150V、2.67A、30kHz
処理時間:1分
以降は実施例1と同様に行い、フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに(3)を用いて、実施例1と同様な方法で、ポリイミドフィルムを作製した。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0057】
(実施例5)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに(4)を用いて、実施例1と同様な方法で、ポリイミドフィルムを作製した。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
大気圧プラズマを実施しないこと以外は実施例1と同様な方法で、ポリイミドフィルムの作製を試みたが、フィルムの滑り性が悪く、皺が発生したため良好なロールフィルムを得ることができなかった。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに微粒子を含有したポリアミド酸溶液(2)を用いて、実施例1と同様な方法で、ただしオンラインで大気圧プラズマ処理を行わずにポリイミドフィルムを作製し、フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した。結果を表1に示す。フィルムの滑り性やロール巻取り性は良好であったが、フィルム端面を観察すると微粒子の脱落部位が確認され、切断、穴あけなどの後加工において欠陥が生じやすい構造であった。
【0060】
(比較例3)
ポリアミド酸溶液(3)を用いること以外は比較例1と同様の方法で、ポリイミドフィルムの作製を試みたが、フィルムの滑り性が悪く、皺が発生したため良好なロールフィルムを得ることができなかった。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
ポリアミド酸溶液(4)を用いること以外は比較例1と同様の方法で、ポリイミドフィルムの作製を試みたが、フィルムの滑り性が悪く、皺が発生したため良好なロールフィルムを得ることができなかった。フィルムの表面性状などの評価、及び剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の易滑性ポリイミドフィルムは、微粒子を含有させずに、フィルム表面に超微細な突起を多数形成させることによって静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0の易滑性を得ることができるので、取扱い上有利である。また、接着性にも優れており、この易滑性ポリイミドフィルム表面上に銅層などの薄膜層が積層されてなる積層体において剥がれのない優れた積層体が得られる。特に銅層が積層された銅張積層基板の絶縁基板フィルムとして優れ、この銅張積層基板を用いて作製された回路基板においても優れた性能を有するものとなり、小型、軽量、薄型のフレキシブル印刷回路配線板など、また小型、軽量、薄型の電子部品の絶縁性フィルムとしても有効に利用できる。
特に本発明の易滑性ポリイミドフィルムが微粒子を含まない場合の利点としては、以下のことが挙げられる。高密度配線パターン形成でのリソグラフィー(レジスト塗布、露光、現像、エッチング)工程において、滑剤凝集物由来のレジストの斑が無く、超ファインパターンの形成が可能となる。多層配線板作製での、ドリル、レーザーによるビア加工時にビア穴の端面からの滑剤の脱落が無く、垂直なビアが形成可能であり。メッキ後の絶縁不良が生じない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面に高さ3〜300nmの突起が50〜5000個/μm2存在し、かつ静摩擦係数が0.03〜1.0、動摩擦係数が0.03〜1.0であることを特徴とする易滑性ポリイミドフィルム。
【請求項2】
フィルム表面の突起に対し凹部より凸へ接線を引きその角度が鋭角(0〜89度)であるものを突起A、鈍角(90〜180度)であるものを突起Bとし、突起Aの個数と突起Bの個数との比率:突起A/突起Bが1以上である請求項1記載の易滑性ポリイミドフィルム。
【請求項3】
無機化合物又は有機化合物からなる微粒子を含有しない請求項1又は2いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
【請求項4】
突起が、放電処理により形成されたものである請求項1又は2いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
【請求項5】
ポリイミドが、芳香族ジアミン類の残基がベンゾオキサゾール骨格を有するポリイミドベンゾオキサゾ−ルである請求項1〜4いずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルムの少なくとも片方の表面に銅層が積層された銅張積層体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の易滑性ポリイミドフィルムを用いて作製された回路基板。
【請求項8】
フィルムと銅層の剥離強度が0.6kN/cm以上である請求項6に記載の銅張積層体。

【公開番号】特開2007−254643(P2007−254643A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82637(P2006−82637)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】