説明

易裂性延伸フィルム、易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、及び易裂性延伸フィルムの製造方法

【課題】優れた直線カット性を有すると共に、延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことのない易裂性延伸フィルム、これを用いた易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、及び易裂性延伸フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】易裂性延伸フィルムは、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してなりMXD6の融点が233〜238℃である熱履歴品とを含む原料からなり、前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易裂性延伸フィルム、易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、及び易裂性延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、高齢化社会を迎えた事情も手伝い、高齢者や障害者が若年者や健常者とともに快適な社会生活を送れるようにするため、さまざまな分野でバリア(障害)となるものを取り除く「バリアフリー」の概念が脚光を浴び始めている。
一方、食品、薬品等の包装袋のシール基材(シーラント)フィルムとしては、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)等のフィルムが多用されている。しかし、このL−LDPEフィルムは、シール強度が優れているため安全であるが、引き裂き抵抗が大きいため使用時に切れ目に沿って真っ直ぐに切れず、開封しにくいという問題があった。
それ故、包装分野においても、「バリアフリー」への要請が非常に高まり、具体的には、各種食品用包材、医療用包材に関して、易開封性(易裂性)への要望が一層高まっている。
そこで、袋を構成するフィルムに易裂性、特に直線カット性を付与するための種々の提案がなされている。
例えば、一軸延伸フィルムを中間層として有するラミネートフィルムとした構成(特許文献1)や、表基材フィルムとしてナイロン6(以後、Ny6ともいう)とメタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)とのブレンド樹脂からなる二軸延伸フィルムを用いた例が知られている(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58―38302号公報
【特許文献2】特開平5−220837号公報
【特許文献3】特開平5−200958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る構成では、中間層に一軸延伸フィルムを介在させており、直線カット性は優れているが、この一軸延伸フィルムは、強度面で余り寄与するものとはなっていない。
一方、特許文献2や特許文献3に係る構成では、直線カット性に優れた表基材を与え、ラミネートフィルムとしたときでも、その優れた直線カット性を維持できるため、易裂性袋として実用上の価値が高い。しかしながら、Ny6とMXD6とのブレンド樹脂からなる二軸延伸フィルムは、ラミネートフィルムを構成した後に過酷な条件下に置かれると、二軸延伸フィルムの層内で、いわゆる層内剥離を引き起こすおそれがある。このような、層内剥離が起こると、ラミネートフィルムの強度が不安定となり、袋を構成した場合に実用上の問題が生ずる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、優れた直線カット性を有すると共に、延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことのない易裂性延伸フィルム、これを用いた易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、及び易裂性延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の易裂性延伸フィルムは、ナイロン6(以後、Ny6ともいう)60〜85質量部、とメタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)15〜40質量部(両者の合計は100質量部)とを原料として含む易裂性延伸フィルムであって、該易裂性延伸フィルムのMD方向(フィルムの移動方向)及び/又はTD方向(フィルムの幅方向)の引裂強度が70N/cm以下であり、該易裂性延伸フィルムと、直鎖状低密度ポリエチレン製フィルムとを積層してなる積層フィルムに対し、40℃で3日間エージングを行い、その後に層間剥離試験を行った場合、該易裂性延伸フィルムの内部で層内剥離が発現しないことを特徴とする。
【0007】
本発明の易裂性延伸フィルムによれば、原料の配合割合として、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であるため、未延伸原反フィルムをMD方向及び/又はTD方向に延伸することで、同方向の引裂強度が70N/cm以下となり、直線カット性に優れる易裂性延伸フィルムが得られる。また、未延伸原反フィルムを二軸延伸すれば、耐衝撃性にも優れる易裂性延伸フィルムともなる。
また、本発明の易裂性延伸フィルムと、直鎖状低密度ポリエチレン製フィルムとを積層してなる積層フィルムに対し、40℃で3日間エージングを行い、その後に層間剥離試験を行った場合に、該易裂性延伸フィルムの内部で層内剥離が発現しないため、強度面でも非常に安定している。それ故、包装袋等の最終製品としての実用性能(易開封性)に優れる。
【0008】
層内剥離を起こさないようにするには、Ny6とMXD6の双方に親和性のある相溶化剤を原料中に配合することが有効である。例えば、原料中に後述する熱履歴品を配合することも好ましい。
また、原料の配合割合が上述の範囲をはずれると、易裂性延伸フィルムの直線カット性や耐衝撃性が低下し、包装袋等の最終製品としての実用性能に乏しくなる。また、延伸倍率等の延伸条件が悪いと、易裂性延伸フィルムの引裂強度が70N/cmを超えてしまい、直線カット性が低下して、包装袋等の最終製品としての実用性能に乏しくなる。
なお、引裂強度の値は、エレメンドルフ引裂強度試験(JIS K 7128)にもとづくものである。
【0009】
本発明の易裂性延伸フィルムは、Ny6と、MXD6とを原料として含む易裂性延伸フィルムであって、前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを含み、前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%であることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記Ny6の化学式を下記の化1に示し、またMXD6の化学式を下記の化2に示す。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
上述のバージン原料とは、通常は、Ny6とMXD6とが互いに混合され溶融混練された履歴を持つ混合原料ではない状態の原料を意味する。例えば、Ny6やMXD6が各々単独で溶融混練された履歴があっても(例えばリサイクル品)、これらが混合され溶融混練されていない場合は、バージン原料である。ただし、易裂性延伸フィルムとなったときの物性の面からは、リサイクル回数のできるだけ少ないバージン原料を用いることが好ましい。なお、Ny6とMXD6とが互いに混合され溶融混練された履歴を持っていても、その混練が弱いため、MXD6の融点降下があまりなく、238℃を超えていれば、これらのNy6とMXD6は依然としてバージン原料を構成するものであって、熱履歴品を構成するものではない。
すなわち、本発明では、バージン原料を構成するNy6とMXD6に熱履歴品を加えた三者(あるいは二者)がいわゆるドライブレンドされた後に溶融混練されて易裂性延伸フィルムを構成する。
上述の熱履歴品とは、Ny6とMXD6の配合品で、一度押出機を通過したものをいい、本発明については、示差走査熱量計(DSC)でMDX6樹脂の融点が233〜238℃の範囲に保持されたものを用いる。
【0014】
本発明の易裂性延伸フィルムによれば、バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であるので、直線カット性に優れている。そして、原料全体に対して、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品が5〜40質量%含まれているので、易裂性延伸フィルムを過酷な条件下で使用しても層内剥離を起こしにくい。
ここで、層内剥離とは、易裂性延伸フィルムを適当なシーラントフィルムとラミネートした後に過酷な条件で使用すると、易裂性延伸フィルム(ナイロン層)内で剥離を引き起こす現象をいう。層内剥離の機構は必ずしも明確ではないが、易裂性延伸フィルム内では、Ny6とMXD6が層状に配向しており、その界面で剥離が起こるものと考えられる。
このような層内剥離が起こると、ラミネートフィルムの強度が不安定となり、袋を構成した場合に過酷な使用条件下では破袋等の問題を生ずるおそれがある。このような過酷な使用条件は、例えば、ラミネートフィルムのラミネート強度(剥離強度)を測定する試験により再現することができる。
【0015】
また、熱履歴品におけるMXD6の融点は233〜238℃であり、好ましくは235〜237℃である。熱履歴品におけるMXD6の融点が233℃未満になると、易裂性延伸フィルムの直線カット性と衝撃強度が低下する。また、熱履歴品におけるMXD6の融点が238℃以上であると、層内剥離を防止する効果が低くなる。
なお、熱履歴品が製造される過程で、混練時の温度や圧力が高いと熱履歴品中のMXD6の融点はより大きく下がる。
ここで、熱履歴品におけるMXD6の融点とは、バージン原料と溶融混練される前の状態で測定された融点をいう。
この易裂性延伸フィルムは、ラミネート袋の表基材として利用する場合には、二軸延伸されていることが耐衝撃性向上の点で好ましい。また、二軸延伸は、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが好ましい。
また、易裂性の点では、MD方向及びTD方向のいずれの方向についても引裂強度が70N/cm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明では、前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合が、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることが好ましい。
本発明によれば、熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合が、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であるので、直線カット性、衝撃強度及び層内剥離防止効果により優れた易裂性延伸フィルムとすることができる。
【0017】
本発明の易裂性ラミネートフィルムは、上述の易裂性延伸フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されていることを特徴とする。
本発明の易裂性ラミネートフィルムによれば、上述の易裂性延伸フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されているので、ラミネートフィルムとしても、直線カット性、衝撃強度に優れ、また、過酷な条件下で使用されても、ナイロン層に層内剥離を起こすことがない。
【0018】
本発明の易裂性袋は、上述の易裂性ラミネートフィルムを使用したことを特徴とする。
本発明の易裂性袋によれば、前記した易裂性ラミネートフィルムを使用して構成されているので、開封性(直線カット性)に優れるとともに、ナイロンフィルム層で層内剥離が起こらないため、強度面でも安定した実用性の高い易裂性袋となる。
【0019】
本発明の易裂性延伸フィルムの製造方法は、Ny6とMXD6とを原料として含む易裂性延伸フィルムの製造方法であって、前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部(両者の合計は100質量部)からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、前記熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%であり、MD方向(フィルムの移動方向)及び/又はTD方向(フィルムの幅方向)に2.8倍以上の延伸倍率で二軸延伸したことを特徴とする。
【0020】
本発明の易裂性延伸フィルムの製造方法によれば、Ny6とMXD6とを原料として含み、所定の延伸倍率で延伸しているため、製造後のフィルムは、直線カット性に優れ、ラミネートフィルムを構成した場合であっても、その良好な直線カット性を維持できる。また、MD方向及びTD方向への二軸延伸であれば耐衝撃性にも優れる。さらに、原料中に、所定の熱履歴品を含有しているため、ラミネートフィルム(袋)を過酷な条件で取り扱っても、ナイロン層が層内剥離を起こすことはない。
また、MD方向及び/又はTD方向の延伸倍率は、2.8倍以上とするが、好ましくは3.0倍以上とする。延伸倍率が2.8倍より小さい場合には、直線カット性が劣るようになる。また二軸延伸であっても、耐衝撃性が低下して実用性に問題が生ずる。なお、延伸は、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが、MD方向とTD方向の強度バランスの点で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る易裂性延伸フィルムの製造方法において使用する二軸延伸装置の概略図。
【図2】本発明の第2実施形態に係る易裂性ラミネートフィルムの一例を示す断面図。
【図3】前記実施形態における易裂性ラミネートフィルムの一例を示す断面図。
【図4】前記実施形態における易裂性ラミネートフィルムの一例を示す断面図。
【図5】前記実施形態における易裂性袋を示す正面図。
【図6】本発明の実施例に係る直線カット性の評価方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の易裂性延伸フィルムは、上述したように、原料中のNy6とMXD6の配合量等の条件を満たすかぎり製造方法には特に限定されないが、以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
[第1実施形態]
本実施形態に係る易裂性延伸フィルムは、Ny6とMXD6とを原料として含み、この
原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、熱履歴品の含有量が原料全量基準で5〜40質量%である。ここで、Ny6の化学式は化3に示し、MXD6の化学式は化4に示す。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合は、製膜後のフィルムの直線カット性と衝撃強度の観点から、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であることが必要である。バージン原料におけるMXD6が15質量部より少ない場合には、直線カット性が劣るようになる。また、MXD6が40質量部より多い場合には、衝撃強度が大幅に低下して実用性に乏しくなる。
バージン原料を構成するNy6とMXD6は、いずれもペレット状のものをドライブレンドして使用することが好ましい。
【0026】
原料中には、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とが含まれていることが必要である。また、熱履歴品におけるMXD6の融点は233〜238℃であり、好ましくは235〜237℃である。熱履歴品におけるMXD6の融点が233℃未満になると、易裂性延伸フィルムの直線カット性と衝撃強度が低下する。また、熱履歴品におけるMXD6の融点が238℃以上になると、層内剥離を防止する効果が低くなる。
【0027】
さらにまた、原料全体に対して、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品が5〜40質量%含まれていることが必要である。熱履歴品が5質量%未満では、易裂性延伸フィルムをラミネートフィルムとした後に、過酷な条件下で使用すると層内剥離を起こしやすくなる。また、熱履歴品が40質量%を超えると、易裂性延伸フィルムの直線カット性や衝撃強度が低下する。
なお、熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることが好ましい。
熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であるので、直線カット性、衝撃強度及び層内剥離防止効果により優れた易裂性延伸フィルムとすることができる。
熱履歴品におけるMXD6の配合割合が15質量部未満(Ny6の配合割合が85質量部より多い)であると、易裂性延伸フィルムとした場合に層内剥離防止効果が低くなる。熱履歴品におけるMXD6の配合割合が40質量部を越えると(Ny6の配合割合が60質量部未満)であると易裂性延伸フィルムの直線カット性、衝撃強度が低下する。
【0028】
この熱履歴品は、本実施形態により得られた易裂性延伸フィルムをリサイクルしたものでもよい。また、熱履歴品を、Ny6のペレット及びMXD6のペレットとうまくドライブレンドするには、熱履歴品の形状をペレット状に加工して用いることが望ましい。例えば、本実施形態により得られた易裂性延伸フィルムを細かく切断・圧縮してそのような形状としてもよい。
【0029】
この易裂性延伸フィルムは、ラミネート袋の表基材として利用する場合には、二軸延伸されていることが好ましい。二軸延伸は、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが好ましい。また、MD方向及びTD方向のいずれの方向についても引裂強度が70N/cm以下であることが直線カット性を向上させる点で好ましい。
【0030】
なお、易裂性延伸フィルムには、必要な添加剤を適宜添加することができる。このような添加剤として、例えばアンチブロッキング剤(無機フィラー等)、はっ水剤(エチレンビスステアリン酸エステル等)、滑剤(ステアリン酸カルシウム等)を挙げることができる。
【0031】
このような易裂性延伸フィルムは、例えば、図1に示すようなチューブラー方式の二軸延伸装置を用いて製造することができる。例えば、Ny6のペレット、MXD6のペレット及び熱履歴品をドライブレンドした混合物を溶融押出しした後、冷却した原反フィルムをMD方向及びTD方向共に2.8倍以上の倍率で二軸延伸することにより製造できる。
【0032】
このような実施形態によれば、バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合が、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であり、これにNy6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、この熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、熱履歴品の含有量が原料全量基準で5〜40質量%であるので、直線カット性と衝撃強度に優れるとともに、過酷な条件下で使用しても層内剥離を起こしにくい易裂性延伸フィルムが得られる。
【0033】
[第2実施形態]
本発明の易裂性ラミネートフィルムは、易裂性延伸フィルムを少なくとも1層として含み、2層、3層等何層であってもよい。図2〜図4に、本実施形態に係る易裂性ラミネートフィルム100、200、300を示した。ここで、例えば、図2に示すように、第1層を易裂性延伸フィルム18、第2層を各種シーラントフィルム19とした2層構造、図3に示すように、第1層を各種基材フィルム20、第2層を易裂性延伸フィルム18、第3層を各種シーラントフィルム19とした3層構造、図4に示すように、第1層を易裂性延伸フィルム18、第2層を各種基材フィルム20、第3層を各種シーラントフィルム19とした3層構造としてもよい。
【0034】
基材フィルム20の材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、EVOH(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物)、PVA(ポリビニルアルコール)、PP(ポリプロピレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)等の二軸若しくは一軸延伸フィルム又は無延伸フィルムを使用できる。なお、このような樹脂系フィルムの他、アルミニウム箔のような金属フィルムを使用してもよい。
【0035】
シーラントフィルム19の材料としては、L−LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、PB(ポリブテン−1)、CPP(未延伸ポリプロピレン)、アイオノマー、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等及びこれらの混合物を使用できる。前記易裂性ラミネートフィルムのラミネート方式としては、例えばエクストルージョンラミネート、ホットメルトラミネート、ドライラミネート、ウエットラミネート等がある。
【0036】
本実施形態によれば、易裂性ラミネートフィルム100、200、300は、上述の易裂性延伸フィルム18が複数層の少なくとも一層として形成されているので、ラミネートフィルムとしても、易裂性、直線カット性、衝撃強度に優れ、また、過酷な条件下で使用されても、ナイロン層に層内剥離を起こすことがない。すなわち、この易裂性ラミネートフィルム100、200、300を用いて袋を製造すれば、その特性を生かした易裂性袋400(図5)として利用できる。
【0037】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0038】
例えば、本実施形態では、易裂性延伸フィルムとして、二軸延伸フィルムを製造したが、一軸延伸フィルムでもよい。例えば、図5の易裂性袋で、TD方向に配向した一軸延伸フィルムを表基材フィルムとして使用してもよい。直線カット性が特に重視される場合に好適である。
また、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式でもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【実施例】
【0039】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
[実施例1]
(易裂性延伸フィルムの製造)
Ny6ペレット及びMXD6ペレットをそれぞれ70質量部及び30質量部の割合で混合したものに対して、すでに一度、この配合比で溶融混合してペレット化した熱履歴品(MXD6の融点が236℃のもの)を原料全量に対して15質量%配合した。このドライブレンド品を押出機中、270℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して原反フィルムを作製した。
なお、MXD6の融点は、パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)を用い、昇温速度10℃/minで50℃から280℃まで昇温を行って測定した。いずれもファーストランにおける値を融点とした。
【0040】
Ny6として使用したものは、宇部興産(株)製ナイロン6〔UBEナイロン 1023FD(商品名)、相対粘度 ηr=3.6〕であり、MXD6として使用したものは、
三菱ガス化学(株)製メタキシリレンアジパミド〔MXナイロン 6007(商品名)、相対粘度ηr=2.7〕である。
また、Ny6とMXD6の配合割合を、それぞれ70質量部と30質量部とし、40φEX、シングルスクリュー(株式会社山口製作所製)を用い、270℃で押出したものを熱履歴品とした。
【0041】
次に、図1に示すように、この原反フィルム11を一対のニップロール12間に挿通した後、中に気体を圧入しながらヒータ13で加熱すると共に、延伸開始点にエアーリング14よりエアー15を吹き付けてバブル16に膨張させ、下流側の一対のニップロール17で引き取ることにより、チューブラー法によるMD方向及びTD方向の同時二軸延伸を行った。この延伸の際の倍率は、MD方向及びTD方向共に3.0倍であった。
次に、この延伸フィルムをテンター式熱処理炉(図示せず)に入れ、210℃で熱固定を施して本実施例に係る易裂性延伸フィルム18(以後、延伸フィルム18ともいう)を得た。
【0042】
(易裂性ラミネートフィルムの製造)
次に、この延伸フィルム18(厚さ15μm)を表基材フィルム、L−LDPEフィルム〔ユニラックス LS−711C(商品名)、出光ユニテック(株)製、厚さ50μm〕をシーラントフィルムとして、両者をドライラミネートして本実施例に係る易裂性ラミネートフィルム(以後、ラミネートフィルムともいう)を得た。なお、ドライラミネート用の接着剤としては、三井タケダケミカル製のタケラックA−615/タケネートA−65の配合品(配合比16/1)を用いた。また、ドライラミネート後のラミネートフィルムは、40℃で3日間エージングを行った。
【0043】
〔評価方法〕
(延伸成形性)
延伸フィルム18の製膜時におけるバブルの安定性を延伸成形性として評価した。具体的には、バブルが安定しているものをA、バブルの揺れがあって不安定なものをCとして評価した。なお、当初、バブルの揺れがあっても、微調節でバブルを安定化できたものは、Bとした。
(衝撃強度)
衝撃強度の測定は、延伸フィルム18について行った。
東洋精機(株)製のフィルム・インパクト・テスターを使用し、固定されたリング状のフィルムに半円球状の振り子(直径1/2インチ)を打ち付けて、フィルムの打ち抜きに要した衝撃強度を測定することにより行った。そして、衝撃強度が45,000J/m以上をA、45,000J/m未満をCとして評価した。この衝撃強度が45,000J/mより小さくなると、表基材としての性能が低下してゆき、液体包装用基材としての実用性が乏しくなる。
【0044】
(直線カット性)
直線カット性は、延伸フィルム18について行った。
図6に示すように、20cm幅のフィルム18に所定間隔Ws(例えば2cm間隔)で切れ目21を入れ、これらの切れ目21に沿ってフィルム18を引き裂いた後、フィルム片18Aの他端22の幅Weを測定し、元の間隔Wsとの偏差αを下記の式で求める。
α=〔|Ws−We|/Ws〕×100
【0045】
この測定を10枚のフィルム片18Aに対して行い、その平均値のα(%)が±10%未満のものをA(直線カット性が非常に良好)、±10%≦α≦±30%のものをA(直線カット性が良好)、α(%)が±30%を越えるものをC(直線カット性が不良)として評価した。α(%)が±30%を越えるとフィルム18を真っ直ぐに切ることが困難になる。
【0046】
(層内剥離)
上述のラミネートフィルムから15mm幅の短冊状試験片を切り出し、その端部を手で数cmほど界面剥離を行い、表基材フィルム(延伸フィルム18)とシーラントフィルムとに分離した。その後、各々のフィルム片を引張り試験機(インストロン万能試験機 1123型)にセットして、300mm/minの速度でラミネート部分の剥離試験を行った(90度剥離)。
剥離試験の最中に表基材フィルム内部で層内剥離が生ずると剥離強度が急激に減少するため、そのような挙動が発現したか否かで層内剥離発生の有無を判別できる。例えば、剥離試験の開始時は、剥離強度が7N/m程度であったものが、剥離試験の途中で急激に1〜2N/m程度に減少すれば、層内剥離が生じたと判断できる。
そして、表基材フィルム内部で層内剥離の挙動を示さないものをA、層内剥離の挙動を示したものをCとして評価した。
【0047】
(引裂強度)
引裂強度の測定は、延伸フィルム18について行った。
エレメンドルフ引裂強度試験(JIS K 7128)にもとづき、延伸フィルム18のMD方向及びTD方向の引裂強度を測定した。そして、引裂強度が70N/cm以下をA、71N/cm以上をCとして評価した。この引裂強度が70N/cm以下であることが直線カット性を向上させる点で好ましい。しかし、引裂強度が71N/cm以上であると、直線カット性が低下してしまい、液体包装用基材としての実用性能が乏しくなる。
【0048】
(総合評価)
上述した延伸成形性、衝撃強度、直線カット性、層内剥離、及び引裂強度の5項目すべてにA以上がつくものをAとする総合評価を行った。上述の5項目のうち、一つでもCがあれば総合評価としてCとした。
【0049】
[実施例2〜6、比較例1〜6]
上記実施例1において、Ny6ペレット、MXD6ペレット、及び熱履歴品の混合量、さらに、熱履歴品におけるMXD6の融点を変えて、実施例1と同様の製造工程により製膜を行った。評価試験も実施例1と同様に行った。表1に、実施例、表2に、比較例の製造条件を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
[評価結果]
表1、表2に示すように、本実施例に係る延伸フィルム18は、Ny6とMXD6とを原料として含み、この原料がNy6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%の範囲にあるため、延伸成形性、衝撃強度、直性カット性、及び層内剥離防止効果、及び引裂強度のいずれについても優れている。
【0053】
一方、比較例は、上述の条件を満たしていないため、いずれも、延伸フィルム18の物性に問題がある。具体的には、比較例1は、原料として熱履歴品を含有していないため、ナイロンフィルム層で層内剥離を起こしている。また、比較例2は、熱履歴品の含有量が45質量%と多いため、衝撃強度、直線カット性、及び引裂強度に劣る。比較例3は、熱履歴品におけるMXD6の融点が232℃と低いため、直線カット性に劣る。比較例4は、熱履歴品の含有量が少ないため、比較例1と同じく、ナイロンフィルム層で層内剥離を起こしている。比較例5では、熱履歴品の融点が210℃とかなり低いため衝撃強度と直線カット性、及び引裂強度がともに劣る。また延伸成形性も不良である。比較例6では、Ny6の含有量が多すぎるため、直線カット性と引裂強度に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、包装材料等として衝撃強度、直線カット性に優れるとともに層内剥離を起こすことのない易裂性延伸フィルム、易裂性ラミネートフィルム、及び易裂性袋として利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
11 原反フィルム
16 バブル
18 易裂性延伸フィルム
100 易裂性ラミネートフィルム
400 易裂性袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン6(以後、Ny6という)と、メタキシリレンアジパミド(以後、MXD6という)とを原料として含む易裂性延伸フィルムであって、
前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、
Ny6及びMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを含み、
前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%であることを特徴とする易裂性延伸フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の易裂性延伸フィルムにおいて、
前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることを特徴とする易裂性延伸フィルム。
【請求項3】
請求項2に記載の易裂性延伸フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されていることを特徴とする易裂性ラミネートフィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の易裂性ラミネートフィルムを使用したことを特徴とする易裂性袋。
【請求項5】
Ny6とMXD6とを原料として含む易裂性延伸フィルムの製造方法であって、
前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部(両者の合計は100質量部)からなるバージン原料と、
Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、
前記熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、
前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%であり、
MD方向(フィルムの移動方向)及び/又はTD方向(フィルムの幅方向)に2.8倍以上の延伸倍率で延伸したことを特徴とする易裂性延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246491(P2012−246491A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163837(P2012−163837)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【分割の表示】特願2006−175776(P2006−175776)の分割
【原出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】