説明

易開封性フィルム、これを用いる蓋材及び包装袋

【課題】内容物が揮発薬剤成分を含むものであってもデラミネーションが起こらず、ヒートシール温度の適応範囲が広く、剥離時には容易に開封可能であり、容器の蓋材や袋等に好適に用いることができる易開封性フィルムと、これを用いた蓋材及び包装袋を提供すること。
【解決手段】ヒートシール層と接着樹脂層と基材層とが積層されているフィルムであって、ヒートシール層が、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体10〜55質量%とポリブチレンテレフタレートホモポリマー45〜90質量%との混合物、又は非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体0〜55質量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体45〜100質量%との混合物もしくは単独樹脂を主成分とし、接着樹脂層が酸変性ポリオレフィンを主成分とする易開封性積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や雑貨等を充填する包装体において、内容物の有する揮発性成分等によっても侵されずに密封性を保持しながら、開封時には容易にヒートシール部を剥離することができる易開封性を発現し、該用途に好適に用いることができる易開封性フィルムと、これを用いた蓋材及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や雑貨等を充填する包装容器として保香性、透明性、リサイクル性に優れるポリエステル系樹脂からなる容器が幅広く使用されている。これらの包装容器は充填口に蓋材をヒートシールし密封して使用されるが、包装物を取り出す際には蓋材を剥がす必要がある為、容器と蓋材を安定して密封でき、かつ剥がしやすいヒートシール強度を持つシーラントフィルムが必要となる。
【0003】
上記の問題を解決する方法として、特定の破断伸度を有するポリエステル層/オレフィンと無水マレイン酸の共重合樹脂層/ポリオレフィン樹脂層からなる易剥離性フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、ポリエステル層とオレフィンと無水マレイン酸の共重合樹脂層の層間剥離力を300〜1500g/15mmとすることにより、内容物保護と易剥離性とを両立させようとするものである。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1で提供されている積層フィルムを包装体の蓋材として使用した場合、開封時の剥離性に問題はないものの、消臭剤、芳香剤といった揮発薬剤成分を含むものを包装した場合には、ヒートシール層であるポリエステル層を薬剤が透過して接着樹脂層、基材層、ラミネート層にまで達し、ヒートシール層と接着樹脂層との層間強度が低下する為、この層間でのデラミネーションが起こり、蓋材を剥がした後にヒートシール層のみが容器に残る膜残り、またはシール強度が低下するという現象が問題となることがあった。
【0005】
又、易開封性包装材料として、ヒートシール層に低結晶性ポリエステル組成物を用いる方法が提供されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、前記特許文献2の実施例で提供された包装材料をポリエステル容器の蓋材として用いた場合、同様にポリエステル層を薬剤が透過して、蓋材を剥がした後にヒートシール層のみが容器開口部全面または一部に大きく残る膜残り、またはシール強度が低下する等、実用上の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−094933号公報
【特許文献2】特開2001−328221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、内容物が揮発薬剤成分を含むものであってもデラミネーションが起こらず、またヒートシール温度の適応範囲が広く適度なシール強度を有しながら、剥離時には容易に開封可能であり、容器の蓋材や袋等に好適に用いることができる易開封性フィルムと、これを用いた蓋材及び包装袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒートシール層に特定のポリエステル系樹脂混合物を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒートシール層(A)と接着樹脂層(B)と基材層(C)とが(A)/(B)/(C)の順に積層されている積層フィルムであって、該ヒートシール層(A)が、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)10〜55質量%とポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)45〜90質量%との混合物、又は非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)0〜55質量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)45〜100質量%との混合物もしくは単独樹脂を主成分とするものであり、且つ接着樹脂層(B)が酸変性ポリオレフィン(b1)であることを特徴とする易開封性積層フィルムとこれを用いて得られる易開封性ラミネートフィルムを提供するものである。
【0010】
更に本発明は、上記で得られる易開封性積層フィルム・易開封性ラミネートフィルムを用いることを特徴とする包装容器の蓋材及び包装袋を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の易開封性積層フィルムは、これを消臭剤や芳香剤といった揮発薬剤成分を有するものの包装体として使用しても、該成分の吸着・透過を防止することができ、密閉性に優れると共に、開封時にはヒートシール層と接着樹脂層間での層間剥離が容易であることから、易開封性に優れるものである。又、ヒートシール温度の適用範囲が広いため、シール温度の厳密な管理を必要とせず、更にシール強度に応じた温度設定も可能であり、その応用範囲が広く、有用性が高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の易開封性積層フィルムは、少なくともヒートシール層と接着樹脂層と基材層とを有する多層フィルムである。尚、本願における「主成分とする」とのことは、各層における、特定の樹脂又はその混合物の、全体質量に対する当該特定の樹脂又はその混合物の質量割合が65質量%以上、好ましくは80質量%以上であることをいうものである。
【0013】
本発明の積層フィルムのヒートシール層(A)に用いる樹脂は、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)10〜55質量%とポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)45〜90質量%との混合物、又は非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)0〜55質量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)45〜100質量%との混合物もしくは単独樹脂を主成分とするものである。〔単独樹脂になるのは、前記ポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)を主成分とすることである。〕
【0014】
前記非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)としては、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするグリコール成分からなるポリエステル樹脂である。このポリエチレンテレフタレート系重合体は、共重合成分として、ジカルボン酸の一部をイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の一種または二種以上用いたものが挙げられる。また、グリコール成分の一部として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリアルキレングリコール、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の一種又は二種以上を用いたものが挙げられる。また、三官能以上の化合物、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸等をポリマーが実質的に線状となる程度で使用しても構わない。
【0015】
本発明で用いられる非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)は、その固有粘度が0.7dl/g以上が好ましい。0.7dl/gよりも低いと、(B)層及び(C)層と共押出した時に合流部において、流動性が合致しにくいためフィルム表面に流れムラ外観不良の原因となることがある。
【0016】
この様な非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)の市販品としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートに1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したイーストマンケミカル製PETG等が挙げられる。
【0017】
尚、本願における「非晶性」とは、DSC(示差走査熱量測定)において23℃〜300℃の範囲で0.5J/g以上のピークを有さないことを言うものである。
【0018】
前記ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)は、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを重縮合して合成されるポリエステルである。このポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)は、その固有粘度が0.7dl/g以上が好ましい。0.7dl/gよりも低いと、(B)層及び(C)層と共押出した時に合流部において、流動性が合致しにくいことがありフィルム表面の外観不良の原因となる場合がある。
【0019】
この様なポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)の市販品としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチック製NOVADURAN 5020(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度1.20dl/g)、またはウインテックポリマー株式会社製ジュラネックス500FP(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度0.875dl/g)等が挙げられる。
【0020】
前記ジカルボン酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールとの重合体に、第三成分として、イソフタル酸を共重合したものである。その固有粘度が0.7dl/g以上が好ましい。0.7dl/gよりも低いと、(B)層及び(C)層と共押出した時に合流部において、流動性が合致しにくいことがありフィルム表面の外観不良の原因となる場合がある。
【0021】
このポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)の融点が170℃以上であるか、またはガラス転移点が25℃以上であることが好ましい。ガラス転移点が25℃よりも低いと、フィルムをロール状に巻き取ったときに、フィルム同士が密着して剥離しにくくなる、所謂ブロッキングが発生しやすくなることがある。
【0022】
前記テレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)の市販品としては、例えば、ウインテックポリマー株式会社製ジュラネックス400LP(固有粘度:0.765 融点:170℃ ガラス転移点:27℃)等が挙げられる。
【0023】
本発明において、ヒートシール層(A)は、
(i)前記非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)10〜55質量%とポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)45〜90質量%との混合物
(ii)非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)0〜55質量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)45〜100質量%との混合物もしくは単独樹脂
を主成分とするものである。
【0024】
前記(i)の混合樹脂を用いる場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)の含有率が10質量%未満では、得られる多層フィルムのヒートシール層(A)の結晶化度が高くるため、非晶ポリエチレンテレフタレート(以下、A−PET)へヒートシールするときに、非常に高温でのヒートシールが必要となり、容器が極端に変形してしまい、包装用のシーラントフィルムとしては実用的ではなかった。また、該含有率が55質量%を超えると薬剤バリア性に劣る傾向が見られた。ヒートシール可能な温度であるヒートシール開始温度と薬剤バリア性とのバランスにおいて、より好ましい混合比は、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)40〜55質量%、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)45〜60質量%である。
【0025】
前記(ii)の混合樹脂又は単独樹脂を用いる場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)の使用割合が55質量%を超えると、得られる多層フィルムの薬剤のバリア性に劣るため、易開封性多層フィルムとしての実用性にかけるものである。より好ましい混合比は、非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)40〜55質量%、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)45〜60質量%である。
【0026】
前記特許文献2では、ヒートシール層に用いる樹脂について結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルとの混合樹脂を用いることを提供するものであり、特に脂肪族ジカルボン酸から誘導される成分単位を有する結晶性ポリエステルを用いるものである。しかしながら、脂肪族ジカルボン酸から誘導される成分単位を有する結晶性ポリエステルを非晶性ポリエステルと混合し、これを積層フィルムのヒートシール層に用いると、得られる積層フィルムの薬剤バリア性等が不足する。本願では、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸と1,4−ブタンジオールから誘導される成分単位を有する結晶性ポリエステルを用いることにより、これらの点を改善することができる。
【0027】
本発明の易開封性多層フィルムの接着樹脂層(B)は、開封時において前述のヒートシール層(A)との層間剥離を実現させるために、酸変性ポリオレフィン(b1)を主成分とするものであることを必須とする。
【0028】
前記酸変性ポリオレフィン(b1)は、ポリオレフィン系樹脂に無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト共重合してなる酸変性ポリオレフィンである。かかるポリオレフィン系樹脂としては、エチレンとプロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のαオレフィンとの共重合体等のエチレン系重合体、プロピレンとエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等との共重合体であるプロプレン系重合体が挙げられる。また、エチレンと(メタ)アクリル酸メチルや酢酸ビニル等との共重合体でもよい。
【0029】
又、接着樹脂層(B)にはヒートシール樹脂層(A)との層間接着強度を上げるために、粘着付与剤、反応触媒などを添加してもよく、粘着付与剤としては、天然樹脂や合成樹脂からなる常温で粘着性を有する樹脂が挙げられ、例えば、天然樹脂ロジン、重合ロジン、水素添加ロジン、グリセルネステルロジン、ペンタエリスリトール等のロジン系樹脂;テルペン、芳香族テルペン、テルペンフェノール、水素添加テルペン等のテルペン系樹脂;脂肪族石油樹脂、芳香族系石油樹脂、水素脂環式系石油樹脂;常温で液状のポリブタジエン、常温で液状のポリイソプレン、常温で液状のポリイソブチレン等が挙げられる。
【0030】
本発明の易開封性多層フィルムの基材層(C)としては、前記ヒートシール層(A)と前記接着樹脂層(B)と共押出成形できる樹脂からなるものであって、前記接着樹脂層(B)との剥離強度が、ヒートシール層(A)と接着樹脂層(B)との剥離強度よりも大きくなるような樹脂であれば、特に制限なく用いることができるが、この様な設計が容易である点と、工業的入手が容易である点からポリオレフィン(c1)を主成分とすることが好ましい。
【0031】
前記ポリオレフィン(c1)としては、接着樹脂層(B)と強固に接着する組成であることが必須である。例えばエチレン系樹脂を主体とする接着性樹脂を使用した場合には、エチレン系樹脂を主体とする熱可塑性樹脂であれば、基材樹脂層(C)と接着性樹脂層(B)との層間が強固に接着するため、開封時にヒートシール樹脂層(A)と接着性樹脂層(B)との層間で容易に剥離させることができる。
【0032】
本発明の易開封性積層フィルムは、全フィルム厚さが20〜150μmのものが好ましい。全フィルムの厚さがこの範囲であれば、フィルムが成膜しやすく、ハンドリング性が良好となる。また、ヒートシール層(A)の厚さは、1〜10μmが好ましく、より好ましくは2〜5μmである。ヒートシール層(A)の厚さがこの範囲であれば、開封時に膜残りが少なく、開封性が良好で、且つ、薬剤バリア性も良好となる。
【0033】
本発明の易開封性フィルムの製造方法としては、共押出積層法であれば特に限定されるものではないが、例えば、2台以上の押出機を用いて各樹脂層に用いる樹脂を溶融し、マルチマニフォールドダイス法、フィードブロック法等の共押出法により溶融状態で積層した後、インフレーション、T−ダイ・チルロール法等の方法を用いてフィルム状に加工する方法が挙げられる。T−ダイ・チルロール法の場合、ゴムタッチロールやスチールベルト等とチルロール間で、溶融積層されたフィルムをニップして冷却してもよい。
【0034】
さらに、本発明の易開封性フィルムは、少なくとも1軸方向に延伸されていてもよい。延伸方法としては、縦あるいは横方向の1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸、あるいはチューブラー法2軸延伸等の種々の方法を採用することができる。また、延伸工程はインラインでもあっても、オフラインであってもよい。1軸延伸の延伸方法としては、近接ロール延伸法でも圧延法でもよい。1軸延伸の延伸倍率としては、縦あるいは横方向に1.1〜80倍が好ましく、より好ましくは3〜30倍である。一方、2軸延伸の延伸倍率としては、面積比で1.2〜70倍が好ましく、より好ましくは縦4〜6倍、横5〜9倍、面積比で20〜54倍である。
【0035】
また、本発明の易開封性ラミネートフィルムは、前述の易開封性積層フィルムの基材層(C)上に延伸基材フィルム及び/又は金属箔が積層接着されていることを特徴とする。
【0036】
具体的には、ウレタン系接着剤等の接着剤を使用して強度やガスバリヤー性等の機能を付与できるフィルム及び/又は金属箔、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム、KMセロハン、アルミ箔等のフィルム及び/又は金属箔等を貼り合わせても良いし、前記基材層(C)上にポリエチレンのような熱可塑性樹脂を共押出しても良いし、あるいは、基材層(C)上にポリエチレン等を溶融積層し、更にその上にウレタン系接着剤を使用して前記フィルムを貼り合わせても良い。
【0037】
積層接着するフィルムの膜厚は、用途によって異なり、特に限定されるものではないが、例えば、以下に詳述する本発明の包装容器の蓋材フィルムとして使用する場合には、10〜500μmであることが好ましい。
【0038】
本発明の易開封性積層フィルムには、ヒートシール層(A)、接着樹脂層(B)、基材層(C)のいずれか、あるいは2層以上の樹脂層に、他の熱可塑性樹脂、耐熱安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で添加しても良い。
【0039】
この様にして得られる本発明の易開封性積層フィルム、および易開封性ラミネートフィルムは、特にその用途が特定されるものではなく、例えば、各種食品や雑貨用の包装袋、或は、食品や雑貨用蓋材として用いることができる。なかでも、以下に詳述する本発明の包装容器における蓋材として用いることが本発明の効果が顕著になる点から好ましい。何れの用途においてもヒートシール層(A)が必ずヒートシールされる様に用いるものである。
【0040】
本発明の蓋材は、合成樹脂製容器との開口部、例えば、表面にヒートシール可能な樹脂からなる底材を有する鍔部に、前記積層フィルム又はラミネートフィルムのヒートシール層(A)側を配置し、ここをヒートシールするように用いるものであり、内容物を充填した状態で密閉することができる。該合成樹脂製容器内側の底材としては、ポリエステル樹脂、特に、非晶ポリエチレンテレフタレートからなるものであることが、本発明の効果を効率よく発現できる点で好ましい。
【0041】
ヒートシールの条件としては、特に限定されないが、蓋材のヒートシール層(A)と合成樹脂製容器の開口部の底材部分(シール層)を重ね合わせ、圧力0.1〜4MPa、温度160〜190℃、時間0.5〜3秒間で行なうことが好ましい。このときのヒートシール温度幅が比較的広いため、厳密な管理を行なわなくても安定したシール強度が得られることも、本発明の効果の一つである。
【0042】
このようにヒートシールされて得られる包装容器は、シール部の密着性と開封性とのバランスに優れ、保存時には充分な強度を有し、特に内容物が消臭剤や芳香剤等の揮発薬剤成分を有するものであっても、ヒートシール層(A)を該薬剤が透過することがなく、デラミネーションが起こらないものでありながら、開封時にはヒートシール層(A)と接着樹脂層(B)とが層間剥離することにより、容易に開封することができる。
【0043】
又、本発明の包装袋は、前述の易開封積層フィルム又は易開封ラミネートフィルムのヒートシール層が対面するように配置し、周囲をヒートシールすることにより得られる袋である。被包装物としては食品・雑貨等特に限定されるものではないが、消臭剤・芳香剤等の揮発薬剤成分を有するものであることが、本発明の効果が顕著になる。該包装袋のヒートシール部分は、同一組成の樹脂層同士がシールされていることから密閉性に優れ、開封時には、ヒートシールされた部分とヒートシールされていない部分との境目でヒートシール層の破断が起こると共に、接着樹脂層とヒートシール層の間の層間剥離により、容易に開封することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0045】
(1)シール性の評価
得られたフィルムの基材層側にウレタン系接着剤を使用して膜厚12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムをラミネートして、ラミネートフィルムを作成した。得られたラミネートフィルムのヒートシール層をA−PETシート(軟化点77℃、結晶化温度126℃)に合わせ、精密ヒートシーラー(テスター産業製)も用いて温度170℃、圧力0.2MPaで幅10mmのシールバーにより、1.0秒間ヒートシールした後、放冷し、次いでヒートシールしたサンプルから15mm幅の試験片を切り取り、23℃、50%RHの恒温室において引張速度300mm/分の条件で、万能型引張試験機(株式会社エー・アンド・ディー製)で180度方向に剥離して最大荷重を測定した。また、上記ラミネートフィルムのヒートシール層同士を合わせ、上記同条件にてヒートシールし、同様にして最大荷重を測定した。(単位:N/15mm)
【0046】
(2)耐薬品性の評価
A−PETのシートからなり、幅5mm、一辺の長さが88mmの正方形で厚さが300μmの鍔部を有する、天然系消臭剤(固形、市販品)20gを入れた容量80cm3容器の鍔部に上記ラミネートフィルムのヒートシール層を重ね合わせ、包装機を使用して、温度175℃、時間1.5秒間、荷重100kgの条件でヒートシールして包装体を得た。この包装体を50℃の恒温槽に1ヶ月放置した後、ヒートシール部の状態(デラミネーション、層間剥離の有無)、剥離状態を確認した。
【0047】
耐薬品性評価
シール部状態 ○:シール直後からの変化無し
△:シール層と接着層での層間剥離による浮きが発生
×:シール層と接着層での層間剥離による破袋発生
剥離状態 ○:正常な層間剥離
×:膜残り発生
【0048】
実施例1
ヒートシール層(A)用の樹脂として、ポリブチレンテレフタレート系共重合体〔ウィンテックポリマー株式会社製ジュラネックス400LP;以下PBT共重合体という〕45質量部と、非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体〔イーストマンケミカルジャパン株式会社製PETG6763;以下PETGという〕55質量部との混合物を用い、接着樹脂層(B)として密度が0.89g/cmの無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ブテン共重合体〔以下接着性樹脂という〕を用い、基材層(C)用の樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン〔密度0.93g/cm、メルトフローレート6g/10min;以下LLDPEという〕を用い、ヒートシール層用押出機(口径30mm)と接着樹脂層用押出機(口径30mm)と基材層用押出機(口径40mm)とのそれぞれに樹脂を供給し、共押出法により押出温度230℃でTダイから(A)/(B)/(C)の各層の厚さが5μm/10μm/15μmになるように押出し、30℃の水冷金属冷却ロールで冷却し、基材層(C)表面の濡れ張力が40mN/mとなるようにコロナ放電処理を施した後、ロールに巻き取り、35℃の熟成室で48時間熟成させて、全厚が30μmの本発明の積層フィルムを得た。
【0049】
実施例2
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT共重合体75質量部及びPETG25質量部の混合物を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の積層フィルムを得た。
【0050】
実施例3
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT共重合体を用いた以外は実施例1と同様にして実施例3の積層フィルムを得た。
【0051】
実施例4
ヒートシール層(A)用の樹脂として、ポリブチレンテレフタレート〔三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製NOVADURAN 5020;以下PBTという〕45質量部と、PETG55質量部との混合物を用いた以外は実施例1と同様にして実施例4の積層フィルムを得た。
【0052】
実施例5
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT75質量部と、PETG25質量部との混合物を用いた以外は実施例1と同様にして実施例5の積層フィルムを得た。
【0053】
実施例6
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT90質量部と、PETG10質量部との混合物を用いた以外は実施例1と同様にして実施例6の積層フィルムを得た。
【0054】
実施例7
基材層(C)用の樹脂としてプロピレン−エチレン共重合体〔密度0.90g/cm、メルトフローレート7g/10min;以下PPという〕を用いた以外は実施例1と同様にして実施例7の積層フィルムを得た。
【0055】
比較例1
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PETGのみを用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の積層フィルムを得た。
【0056】
比較例2
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT共重合体40質量部及びPETG60質量部の混合物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2の積層フィルムを得た。
【0057】
比較例3
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBT30質量部及びPETG70質量部の混合物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例3の積層フィルムを得た。
【0058】
比較例4
ヒートシール層(A)用の樹脂として、PBTのみを用いた以外は実施例1と同様にして比較例4の積層フィルムを得た。
【0059】
比較例5
ヒートシール層(A)用の樹脂として、結晶性ポリエステル〔東洋紡績株式会社製バイロンGM−913;以下結晶性PESという〕90質量部と、PETG10質量部の混合物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例5の積層フィルムを得た。
【0060】
上記により得られた積層フィルムを、前記の手法によりラミネートフィルムとした後、得られたフィルムの評価を行なった。結果を表1〜3に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
実施例1〜7の結果では、A−PETシートに対するシール性が良好であり、揮発薬剤成分に対しても、デラミネーションを起こさず、耐性があることが確認された。
【0065】
比較例1は、A−PETシートに対するシール性が良好だが、揮発薬剤成分に対してはデラミネーションを起こし、耐性がないことが確認された。
【0066】
比較例2はA−PETシートに対するシール性が良好だが、揮発薬剤成分に対しては一部デラミネーションを起こし、耐性が弱いことが確認された。
【0067】
比較例3は、A−PETシートに対するシール性は高温にシフトするものの良好だが、揮発薬剤成分に対しては一部デラミネーションを起こし、耐性が弱いことが確認された。
【0068】
比較例4は、ヒートシール開始温度が200℃以上でありA−PETシートに対するヒートシールが困難であることが確認された。
【0069】
比較例5は、A−PETシートに対するシール性が良好だが、揮発薬剤成分に対しては一部デラミネーションを起こし、耐性が弱いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の易開封性多層フィルムおよびこれにラミネートフィルムは、ポリエステル樹脂からなる包装容器用の蓋材として有用である。また、ヒートシール面同士を向かい合わせ、周囲をシールすることにより、包装袋としても使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール層(A)と接着樹脂層(B)と基材層(C)とが(A)/(B)/(C)の順に積層されている積層フィルムであって、該ヒートシール層(A)が、
非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)10〜55質量%とポリブチレンテレフタレートホモポリマー(a2)45〜90質量%との混合物、又は
非晶性ポリエチレンテレフタレート系重合体(a1)0〜55質量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体(a3)45〜100質量%との混合物もしくは単独樹脂、を主成分とするものであり、
且つ接着樹脂層(B)が酸変性ポリオレフィン(b1)を主成分とするものであることを特徴とする易開封性積層フィルム。
【請求項2】
前記基材層(C)がポリオレフィン(c1)を主成分とするものである請求項1記載の易開封性積層フィルム。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィン(b1)が無水マレイン酸変性ポリオレフィンである請求項1又は2記載の易開封性積層フィルム。
【請求項4】
ヒートシール層(A)の厚さが1〜10μmである請求項1〜3の何れか1項記載の易開封性積層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の易開封性積層フィルムのヒートシール層(A)が対面するように配置し、周囲をヒートシールすることにより得られることを特徴とする包装袋。
【請求項6】
消臭剤又は芳香剤用の袋である請求項5記載の包装袋。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項記載の易開封性積層フィルムの基材層(C)上に接着剤を介して延伸基材フィルム及び/又は金属箔が積層接着されていることを特徴とする易開封性ラミネートフィルム。
【請求項8】
請求項7記載の易開封性ラミネートフィルムを用いることを特徴とする包装容器の蓋材。
【請求項9】
前記包装容器がポリエステル系樹脂からなるものである請求項8記載の蓋材。
【請求項10】
前記包装容器が消臭剤又は芳香剤用の包装容器である請求項8又は9記載の蓋材。
【請求項11】
請求項7記載の易開封性ラミネートフィルムのヒートシール層が対面するように配置し、周囲をヒートシールすることにより得られることを特徴とする包装袋。
【請求項12】
消臭剤又は芳香剤用の袋である請求項11記載の包装袋。

【公開番号】特開2010−228178(P2010−228178A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76191(P2009−76191)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】