説明

星型高分子化合物及びその製造方法

【課題】 疎水性の主骨格と親水性の鎖とを有する新規な星型高分子化合物、特にポリマーミセル形成能を有する星型高分子化合物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 ジナフタレン型四官能エポキシ化合物残基と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基とからなるエポキシ化合物のヒドロキシル基がスルホニルオキシ基を有する基で変性された変性エポキシ化合物を重合開始剤とし、オキサゾリンモノマー等をカチオン重合させるか、又は該スルホニルオキシ基をポリアルキレングリコールに置換させるなどの方法で得られる星型高分子化合物及びその製造方法。ポリマーミセル形成能を有する星型高分子化合物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四官能エポキシ骨格からなる主鎖に、親水性のポリマー鎖を側鎖とする星形高分子化合物及び該星型高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた物理的、化学的、電気的性質から、塗料をはじめ、電気関連、接着などの用途に幅広く利用されている。該エポキシ樹脂の水中で安定なポリマーミセルを形成することができれば、水性エポキシ樹脂組成物が得られ、例えば、親水性の無機材料とのハイブリッド材料としての機能を発現することができる。しかし、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代表されるエポキシ樹脂は疎水性に富み、親水性を有するヒドロキシル基を有するものの、その親水性は必ずしも高くないため、エポキシ樹脂は水中で安定なポリマーミセルを形成することは困難であった。
【0003】
また、例えば、二級炭素に結合するヒドロキシル基と酸無水物とを反応させて得られる半エステル化変性エポキシ樹脂を塩基中和することにより、エポキシ樹脂を水溶性化することができるが(例えば特許文献1参照。)、該水溶性エポキシ樹脂も、水中で安定なポリマーミセルを形成することは困難であった。
【0004】
本発明者らは、既に、二官能性線状エポキシ樹脂の二級炭素に結合するヒドロキシル基に親水性のポリマー鎖を導入することによって、櫛型の高分子化合物が得られること、及び該櫛形の高分子化合物を用いることによって水中で安定なポリマーミセルが得られることを提案した(特許文献2参照。)。しかしながら、該特許文献2で提供した櫛形の高分子化合物は、例えば、親水性無機材料とのハイブリッド材料の一つであるナノシリカ製造に用いた場合に、櫛形の限られたモルホロジーであることから、得られるシリカファイバーもまた線状のものに限られ、ナノサイズ構造を有する材料の特性である、星形高分子化合物から得られる大表面積や優れた表面特性を示す円形放射状とは異なり、表面物性が乏しく、その応用分野が限られるという問題が新たに生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開平5−70558号公報
【特許文献2】特開2005−307185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、疎水性の主骨格と親水性の鎖とを有する新規な星型高分子化合物、特にポリマーミセル形成能を有する星型高分子化合物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する四官能エポキシ化合物を原料として用いることにより、ポリマーミセル形成能を有する星型の高分子化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】

〔式(1)中、Yはアルキレンイミン構造単位、N−アシルアルキレンイミン構造単位、アルキレンエーテル単位、ポリアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位、及びポリN−アシルアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖であり、Zは一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基である。〕
で表されることを特徴とする星型高分子化合物を提供するものである。
【0010】
更に、本発明は、下記式(i)で表される四官能エポキシ化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシル基を、スルホニル化剤によりスルホニルオキシ基に変性した変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として使用し、該スルホニルオキシ基から、オキサゾリンモノマー等をカチオン重合させるか、又は該スルホニルオキシ基をポリアルキレングリコールに置換させるなどのことからなる星型高分子化合物の製造方法をも提供するものである。
【0011】
【化2】

【発明の効果】
【0012】
本発明の星形高分子化合物は、多官能エポキシ化合物残基と一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基とからなるエポキシ化合物骨格を主骨格とし、エチレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン構造単位、エチレングリコール構造単位、及びプロピレングリコール構造単位などを構造単位とする親水性の直鎖状ホモポリマー鎖、又は、ブロックポリマー鎖を鎖として有するため、分子中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持ち、かつ各々の構造制御が可能であることから、容易にポリマーミセルを形成し、カプセル化が可能であるなど特徴的な機能を有する。そして、親水性無機材料とのハイブリッド材料の一つであるナノシリカ製造に用いた場合には、円形放射状のシリカファイバーが得られ、ナノサイズの構造を持った材料の特性である大きな表面積を有すると共に、無機材料固有の半導体特性、導電性、表面物性、機械的強度などの諸物性が期待される。応用分野としては、医農薬、化粧品、香料、トナー、液晶、インキ、塗料、プラスチック、電子材料分野やバイオ・ライフサイエンス分野、各種の先端材料分野などの幅広い用途に利用でき、その応用展開が有望である。
【0013】
また、上記の星形高分子化合物は、エポキシ樹脂中に存在する二級炭素に結合するヒドロキシル基が、アルキルスルホニルオキシ基やアリールスルホニルオキシ基などの脱離能の高い基で置換された変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤とし、オキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合する、又は、該変性エポキシ化合物にポリアルキレングリコールを置換させるという簡便な方法で合成することができ、工業的生産に適するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の星型高分子化合物は、下記式(1)で表されるものである。
【0015】
【化3】

〔式(1)中、Yはアルキレンイミン構造単位、N−アシルアルキレンイミン構造単位、アルキレンエーテル単位、ポリアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位、及びポリN−アシルアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖であり、Zは一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基である。〕
【0016】
前記一般式(1)中のZで表される一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基は、グリシジル基と反応可能な一価の芳香族ヒドロキシ化合物の残基であれば特に制限されるものではないが、目的とする用途に応じて、得られる変性エポキシ化合物により剛直な骨格が必要となる場合には、例えば、芳香環上に置換基を有していてもよい、ヒドロキシビフェニル残基、ヒドロキシジフェニル化合物の残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾール残基、ヒドロキシベンゾチアゾール残基、ヒドロキシカルバゾール残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドール残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基であることが好ましい。
【0017】
又、前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基は、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基などの各種置換基を芳香環上の置換基として有していてもよい。
【0018】
前記ヒドロキシビフェニル残基としては、例えば、下記一般式(2)で表される残基が挙げられ、得られる変性エポキシ化合物の耐熱性をより向上させることができるため好ましいものである。
【0019】
【化4】

〔式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
【0020】
また、前記ヒドロキシジフェニル化合物の残基としては、下記一般式(3)で表される残基が挙げられ、該構造を与えるヒドロキシジフェニル化合物が、汎用の有機溶剤への溶解性に優れるため、合成が容易である点から好ましいものである。
【0021】
【化5】

〔式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、Aは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、又は−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
【0022】
また、一価の芳香族構造を有する色素類などの化合物残基であるフェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾール残基、ヒドロキシベンゾチアゾール残基、ヒドロキシカルバゾール残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドール残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基等を有する変性エポキシ化合物は、色素化合物との良い相互作用を有するため好ましい。
【0023】
前記一般式(1)で表される星型高分子化合物中のYは直鎖状ポリマー鎖であり、アルキレンイミン構造単位、N−アシルアルキレンイミン構造単位、アルキレンエーテル単位、ポリアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位、及びポリN−アシルアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位からなる群から選ばれる一種以上の構造単位からなるものであり、N−アシルエチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、エチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、N−アシルプロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、エチレングリコール構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレングリコール構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、そしてN−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位とエチレン又はプロピレンイミン構造単位の組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖、N−アシルエチレンイミン構造単位とN−アシルプロピレンイミン構造単位の組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖、及びエチレン又はプロピレンイミン構造単位とエチレン又はプロピレングリコール構造単位の組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖、などが挙げられる。また、N−アシルエチレンイミン又はN−アシルプロピレンイミン構造単位として、異なるアシル基を有する構造単位を使用した直鎖状ポリマー鎖も使用できる。N−アシルエチレンイミン又はN−アシルプロピレンイミン構造単位のみからなるポリマー鎖は親水性が高く、その塩酸塩などの塩はさらに水溶性が高い。これら直鎖状ポリマー鎖のうち、二種以上の構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、ランダムポリマー鎖であってもブロックポリマー鎖であってもよい。
【0024】
前記直鎖状ポリマー鎖のうちN−アシルエチレンイミン構造単位、及び/又はN−アシルプロピレンイミン構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、一般にオキサゾリンモノマーのカチオンリビング重合により得られるポリオキサゾリンであり、その内、エチレンイミン構造単位の例としては、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N−ブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルエチレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)エチレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミン、ポリ(N−アクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたエチレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルエチレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルエチレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0025】
また、プロピレンイミン構造単位の例としては、例えば、ポリ(N−ホルミルプロピレンイミン)、ポリ(N−アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルプロピレンイミン)、ポリ(N−ブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)プロピレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミン、ポリ(N−アクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたプロピレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルプロピレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルプロピレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルプロピレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミンなどが挙げられる。
【0026】
上記例示したポリマー鎖の構造としては、下記一般式(4)〜(9)で表されるものが構造制御が容易であるため好ましい例として挙げられる。
【0027】
【化6】

〔式(4)中、pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
【0028】
【化7】

〔式(5)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基であり、pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
【0029】
【化8】

〔式(6)中pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
【0030】
【化9】

〔式(7)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基であり、p、pはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
【0031】
【化10】

〔式(8)中、R、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、各々異なるものであり、p及びpはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
【0032】
【化11】

〔式(9)中、p、pはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
【0033】
前記一般式(4)〜(9)で表される直鎖状ポリマー鎖は、一端が主骨格である変性エポキシ化合物中のヒドロキシル基が結合していた二級の炭素原子に結合している。また、他端に重合開始剤残基を有する末端の場合には、求核剤などを反応させることにより、種々の置換基や構造を導入してもよい。
【0034】
前記一般式(4)〜(9)で例示した直鎖状ポリマー鎖のなかでも、例えば、式(4)又は(5)で表される直鎖状ポリマー鎖、特にポリエチレンイミン鎖、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などは、親水性が高く、これら直鎖状ポリマー鎖を鎖として有する本発明の星形多分岐高分子化合物は水中でポリマーミセルを形成しやすいため好ましい。
【0035】
また、前記直鎖状ポリマー鎖がブロックコポリマー鎖である場合にも同様に、式(6)で表される直鎖状ポリマー鎖、特にポリエチレンイミンブロックとポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックコポリマー鎖又はポリエチレンイミンブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖、式(9)で表される直鎖状ポリマー鎖、特にポリエチレンイミンブロックとポリエチレングリコールブロックとのブロックコポリマー鎖などの親水性の高い直鎖状ポリマー鎖であると、星型高分子化合物の水中でのポリマーミセル形成能が高いため好ましい。
【0036】
また、前記直鎖状鎖ポリマー鎖が、式(7)、(8)又は(9)で表されるランダムコポリマー鎖である場合には、側鎖の親水性が均一となり、星型高分子化合物のミセルの安定性が高くなる。
【0037】
該直鎖状ポリマー鎖の親水性は、一般に水溶液の水素カチオン濃度、いわゆるpHや、共存イオンの濃度によって大きく影響されるが、例えば、ポリエチレンイミンの場合、水溶液のpHが低いほど、ポリエチレンイミンのイミン窒素原子はプロトン化されて極めて親水性が高くなる。
【0038】
前述の本発明の星形高分子化合物は、主骨格に疎水性のエポキシ化合物骨格、鎖部分に親水性の直鎖状ポリマー鎖を有することから、水や親水性溶媒中、あるいは疎水性溶媒中でポリマーミセルを形成することができ、カプセル化などのポリマーミセルに特徴的な機能を発現する。
【0039】
本発明の星型高分子化合物は、例えば、本発明の製造方法である、下記一般式(i)で表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により生じる二級炭素に結合するヒドロキシル基を、スルホニル化剤によりスルホニルオキシ基に変性した変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤とし、オキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合するという、又は、該変性エポキシ化合物にポリアルキレングリコールを置換させるという簡便な方法で得ることができる。
【0040】
【化12】

【0041】
前記四官能エポキシ化合物と反応させる一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、前述の一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基を与えるものであればよく、芳香環上に置換基を有していてもよい、ヒドロキシビフェニル、ヒドロキシジフェニル化合物、フェノール、ナフトール、アントラノール、ヒドロキシピレン、ヒドロキシアントラキノン、ヒドロキシベンズイミダゾール、ヒドロキシベンゾチアゾール、ヒドロキシカルバゾール、ヒドロキシジベンゾフラン、ヒドロキシインドール、ヒドロキシキノリン、ヒドロキシアクリジン、ヒドロキシキノキサリンが挙げられる。前記芳香環上の置換基としては、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基などが挙げられる。
【0042】
前記ヒドロキシビフェニルとしては、下記一般式(ii)で表されるものが好ましく、又前記ヒドロキシジフェニル化合物としては、下記一般式(iii)で表されるものを好ましく使用することができる。
【0043】
【化13】

〔式(ii)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
【0044】
【化14】

〔式(iii)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、Aは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、又は−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
【0045】
前記四官能エポキシ化合物と前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応としては、特に限定されるものではなく、例えば、触媒存在下で、100〜220℃で加熱攪拌する方法が挙げられる。この反応時には、適切な有機溶剤の存在下に行う事もできる。前記触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、オニウム塩、ホスフィン類、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。また、前記四官能エポキシ化合物と前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物との使用割合としては、それぞれの原料中のヒドロキシル基がエポキシ基の当量以上であることが好ましく、四官能エポキシ化合物中の全てのエポキシ基を開環させるためには、ヒドロキシル基が1.2〜2.5倍当量になるように用いることが好ましい。
【0046】
この反応時に用いることができる有機溶剤としては、原料である四官能エポキシ化合物、一価の芳香族ヒドロキシ化合物、及び生成物を均一に溶解し、且つ不活性のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、エトキシエチルプロピロネート、3−メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、セロソルブアセテート等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソロブ、tert−ブチルセロソロブ等のセロソルブ類、モノグライム、ジグライム、トリグライム等のグライム類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶剤等が挙げられる。
【0047】
前記反応で得られた生成物は、必要に応じて触媒の失活・溶媒や未反応原料の留去・乾燥等の精製工程を行うことによって、純度の高いものとすることが出来る。
【0048】
前記四官能エポキシ化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により生じる二級炭素に結合するヒドロキシル基を、スルホニルオキシ基を有する基に置換する方法としては、一般にアミンやアルカリ性無機塩の存在下、スルホン酸ハライドやスルホン酸無水物などのスルホニル化剤を作用させることにより達成することができ、反応性に優れる点からスルホン酸ハライドを用いることが好ましい。このとき、得られる変性エポキシ化合物の汎用有機溶剤への溶解性が向上すると共に、ヒドロキシル基に由来する分子内及び分子間の凝集を低減させ、且つ、カチオン重合開始剤として用いた際のその重合開始活性に優れる点から、全ヒドロキシル基の80モル%以上が置換されていることが好ましく、全てのヒドロキシル基が置換されていることがより好ましい。
【0049】
前記スルホン酸ハライドとしては、例えば、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライドなどのハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸ハライド、ベンゼンスルホン酸クロライド、4−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドなどの、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライド、1−ナフタレンスルホン酸クロライド、2−ナフタレンスルホン酸クロライドなどのナフタレンスルホン酸ハライド等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライド、または、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸クロライドを用いることは、得られる変性エポキシ化合物の汎用有機溶剤への溶解性が良好であり、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライド、ベンゼンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドは、工業的原料入手が容易な点で好ましい。特に、4−トルエンスルホン酸クロライドを用いて得られる変性エポキシ化合物は、保存安定性が高い点で好ましく、またトリフルオロメタンスルホン酸クロライドを用いて得られる変性エポキシ化合物は、カチオン重合開始剤として用いた際の重合開始活性が高いため好ましい。
【0051】
前記スルホン酸無水物としては、例えば、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物などのハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物や、ベンゼンスルホン酸無水物、4−トルエンスルホン酸無水物、2−ニトロベンゼンスルホン酸無水物、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸無水物などの、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸無水物などが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物は、ヒドロキシル基のスルホニル化反応を行った後、未反応の該スルホン酸無水物を減圧によって留去できる点から好ましく、特に、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物は、工業的原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を用いて得られる変性エポキシ化合物は、カチオン重合開始剤として用いた際の重合開始活性が高いため好ましい。
【0053】
スルホン酸ハライドによるスルホニル化反応は、一般に塩基存在下で行われるが、塩基としては、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの脂肪族3級アミン、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性無機塩などが挙げられる。
【0054】
前記反応時には、必要に応じて有機溶剤を併用しても良い。併用できる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド等の非プロトン製性極性溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0055】
スルホン酸無水物によるスルホニル化反応は、スルホン酸ハライドを用いるときと同様に、前記塩基や溶剤を併用しても良いが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等の揮発性の高いスルホン酸無水物を用いる場合には、該スルホン酸無水物の蒸気に暴露することによっても、スルホニル化反応を達成することが可能であり、生成するスルホン酸や未反応のスルホン酸無水物は、減圧留去によって除去することが出来る。
【0056】
又、スルホン酸ハライドやスルホン酸無水物の代わりに、スルホン酸エステルなどのスルホニル化剤用いることによっても、前述の変性エポキシ化合物を製造することが出来る。
【0057】
前記ヒドロキシル基を、スルホニルオキシ基を有する基に置換する割合としては、特に限定されるものではなく、目的とする変性エポキシ化合物の諸特性に応じて、ヒドロキシル基とスルホニル化剤とのモル比や塩基の種類により適宜調製することが可能である。例えば、全てのヒドロキシル基を置換する場合には、二級炭素を有するエポキシ化合物中のヒドロキシル基に対し、大過剰モル量のスルホン酸ハライドやスルホン酸無水物を使用すればよい。
【0058】
また、ヒドロキシル基を部分的に置換する場合には、塩基としてピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどの芳香族3級アミンを用い、スルホン酸ハライドを二級炭素を有するエポキシ化合物中のヒドロキシル基に対し小過剰モル量用い、反応温度を室温程度に維持すればよい。この様にして得られるヒドロキシル基を有する変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として用いた場合には、残存するヒドロキシル基からはカチオン重合することが出来ないため、得られる星型ポリマーの形状を制御することが可能となる。
【0059】
本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖のスルホネート基からオキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合できるので、カチオン重合開始剤として使用でき、エポキシ樹脂を主鎖とし、ポリオキサゾリンなどのカチオン重合体を側鎖とする櫛型ポリマー又は星型ポリマーを製造することができる。本発明の変性エポキシ化合物は、p−トルエンスルホン酸メチルやトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸エステルと、オキサゾリンと加熱条件下で容易に反応し、高い重合収率でポリオキサゾリンを生成でき、また、スルホネート基とオキサゾリンモノマーとの比率を変えることにより、ポリオキサゾリン側鎖長を制御することもできる。
【0060】
本発明の星型高分子化合物は、上記方法により得られる変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として使用し、該変性エポキシ化合物のスルホニルオキシ基から、オキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合する方法、又は、該変性エポキシ化合物のスルホニルオキシ基にポリアルキレングリコールを置換させる方法といった簡便な方法で得ることができる。
【0061】
前記カチオン重合性モノマーの具体例としては、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、N−(テトラヒドロピラニル)エチレンイミン、N−(t−ブチル)エチレンイミンなどのアジリジン、アゼチジンなどのアルキレンイミンモノマー、2−オキサゾリン、2−メチルオキサゾリン、2−エチルオキサゾリン、2−フェニルオキサゾリン、2−ステアリルオキサゾリン、2−(3−(パーフロロオクチル)プロピル)オキサゾリンなどの2−アルキルオキサゾリン、2−ビニルオキサゾリン、2−イソプロペニルオキサゾリン、2−オレイルオキサゾリンなどの2−アルケニルオキサゾリン、2−フェニルオキサゾリン、2−ベンジルオキサゾリンなどの2−アリールオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマー、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのオキシランモノマー、オキセタンなどのオキセタンモノマー、テトラヒドロフラン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマー、トリオキサンなどのアセタールなどが挙げられる。
【0062】
本発明の星形高分子化合物の製造において、前記変性エポキシ化合物を使用した際のカチオン重合条件は、p−トルエンスルホン酸メチルやトリフルオロメタンスルホン酸メチルなどのアルキルスルホン酸エステルをカチオン重合開始剤とする従来のカチオン重合条件に類する。
【0063】
また、オキサゾリンモノマーを複数種使用した重合により、N−アシルエチレンイミン構造単位の複数種からなるランダムポリマー鎖を形成でき、さらに一般にオキサゾリンのカチオン重合はリビング重合であることから、オキサゾリンモノマーの種類を変えた多段階重合によりブロックポリマーを製造できる。これにより、得られる星形高分子化合物の鎖をランダムポリマー鎖や、ブロックポリマー鎖とすることができる。例えば、本発明の星形高分子化合物の製造に用いられる前記カチオン重合開始剤で2−フェニルオキサゾリンをカチオン重合した後、2−メチルオキサゾリンを重合することにより、エポキシ樹脂にポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)鎖が直結し、該ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)にポリ(N−アセチルエチレンイミン)が直結した、ブロックポリマー化されたポリアシルエチレンイミンを鎖とする、星形高分子化合物を得ることができる。
【0064】
また、N−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖の加水分解を部分的に行うことにより、ポリマー鎖中の一部のN−アシルエチレンイミン構造単位が加水分解されてエチレンイミン構造単位となり、N−アシルエチレンイミン構造単位とエチレンイミン構造単位とからなるランダムポリマー鎖を鎖として有する星形高分子化合物を得ることができる。
【0065】
加水分解前のN−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖がブロックポリマーの場合、加水分解条件を制御することによりN−アシルイミノ基の選択的加水分解が可能であり、ポリエチレンイミンブロックとポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖や、ポリエチレンイミンブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖などの、ポリエチレンイミンブロックとN−アシルポリエチレンイミンブロックとからなるジブロックポリマー鎖を有する星形高分子化合物を合成することができる。
【0066】
加水分解前のN−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖がランダムポリマーの場合にも、エチレンイミン構造単位とN−アシルエチレンイミン構造単位とのランダムコポリマー鎖を有する星形高分子化合物を製造することができる。
【0067】
本発明の星型高分子化合物は、上記したように水や親水性溶媒中、あるいは疎水性溶媒中でポリマーミセルを形成することができる。このため、該星型高分子化合物を用いることによって、本来水に不溶性ないし難溶性の機能性化合物をカプセル化し、水中に安定に維持することができる。例えば、ピレンなどの蛍光性芳香族炭化水素は、本発明の星形高分子化合物のポリマーミセル内に分子状態でカプセル化され、水中で安定に存在することができる。
【0068】
このような、本発明の星形高分子化合物は、種々の機能性化合物をカプセル化できる。そして、親水性無機材料とのハイブリッド材料の一つであるナノシリカ製造に用いた場合、円形放射状のシリカファイバーが得られ、ナノサイズの構造を持った材料の特性である大きな表面積を有すると共に、無機材料固有の半導体特性、導電性、表面物性、機械的強度などの諸物性に発現が期待できる。応用分野としては、医農薬、化粧品、香料、トナー、液晶、インキ、塗料、プラスチック、電子材料分野やバイオ・ライフサイエンス分野、各種の先端材料分野などの幅広い用途に利用でき、その応用展開が有望である。
【0069】
また、本発明の製造方法によれば、前述の有用な星型高分子化合物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0071】
実施例1 [ヒドロキシル基を有するエポキシ化合物の合成]
ジナフタレン骨格四官能エポキシ化合物 EPICLON HP−4700(大日本インキ化学工業株式会社製 商品名、エポキシ当量158]15.8g(100m当量)、4−フェニルフェノール23.8g(140mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.42ml(0.1mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド80mlを、窒素雰囲気下、120℃で6時間反応させた。放冷後、水200ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、70℃で減圧乾燥して、ビフェニル基と、二級炭素に結合するヒドロキシル基とを有するエポキシ化合物(a)を得た。得られた生成物の収量は31.8g、収率は97%であった。
【0072】
得られたエポキシ化合物(1)のH−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.73〜6.80(m),4.89(s),4.50〜3.85(m)
【0073】
実施例2[エポキシ化合物のスルホニル化反応]
実施例1で得られたヒドロキシル基を有するエポキシ化合物(a)16.40g(50.0m当量)、ピリジン40.0g(500mmol)及びクロロホルム60mlの溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド28.6g(150mmol)を含むクロロホルム(60ml)溶液を、窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム120mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液200ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして飽和食塩水溶液で順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をメタノールで数回洗浄した後、濾過、70℃で減圧乾燥して、スルホニル化した変性エポキシ化合物(A)を得た。収量は23.6g、収率は98%であった。
【0074】
H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.94〜6.55(m),5.25〜3.95(m),4.60〜3.85(m),2.40〜2.00(m)
【0075】
実施例3[スルホニル変性エポキシ化合物のリビングラジカル重合反応1]
実施例2で得られたスルホニル化した変性エポキシ化合物(A)3.86g(8.0m等量)、2−メチルオキサゾリン13.6g(160mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド60mlを、窒素雰囲気下、100℃で18時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチル100mlとヘキサン100mlの混合溶液を加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過、酢酸エチルで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体17.3gを得た。重合時の収率は99%だった。H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、ジナフタレン構造の変性エポキシを主骨格とし、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)を鎖[エチレン水素(δ:3.40〜3.50ppm)、アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度20のポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマーであると認められる。
【0076】
実施例4[スルホニル変性エポキシ化合物のリビングラジカル重合反応2]
実施例2で得られたスルホニル化した変性エポキシ化合物(A)1.93g(4.0m当量)、2−メチルオキサゾリン17.0g(200mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド60mlを、窒素雰囲気下、100℃で18時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチル100mlとヘキサン100mlの混合溶液を加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過、酢酸エチルで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体18.7gを得た。重合時の収率は99%だった。H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、ジナフタレン構造の変性エポキシを主骨格とし、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)を鎖[エチレン水素(δ:3.40〜3.50ppm)、アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度50のポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマーであると認められる。
【0077】
実施例5
実施例3で合成したポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー8.73g(4m当量)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(平均分子量、Mn=750)6.0g(8mmol)、炭酸カリウム2.8g(20mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド30mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、得られた反応混合物に酢酸エチル100mlとヘキサン100mlの混合溶液を加え、室温で強力攪拌した後、固形物を濾過、酢酸エチルで2回洗浄した。引き続き、固形物にクロロホルム150mlを加えて不溶解成分の炭酸カリウムを濾過した後、減圧濃縮して淡黄色固体10.5gを得た。H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、ジナフタレン構造の変性エポキシを主骨格とし、数平均重合度20のポリ(N−アセチルエチレンイミン)とポリエチレングリコールメチルエーテルからなるブロックポリマーを鎖[エチレングリコール水素(δ:3.57ppm)、エチレン水素(δ:3.20〜3.55ppm)、メトキシ水素(δ:3.25ppm)、アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]とする星型ポリマーであると認められる。
【0078】
実施例6
実施例4で合成したポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー9.50g(2m等当量)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(平均分子量、Mn=2,000)8.0g(4mmol)、炭酸カリウム1.4g(10mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド30mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、得られた反応混合物に酢酸エチル100mlとヘキサン100mlの混合溶液を加え、室温で強力攪拌した後、固形物を濾過、酢酸エチルで2回洗浄した。引き続き、固形物にクロロホルム150mlを加えて不溶解成分の炭酸カリウムを濾過した後、減圧濃縮して淡黄色固体12.1gを得た。H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、ジナフタレン構造の変性エポキシを主骨格とし、数平均重合度50のポリ(N−アセチルエチレンイミン)とポリエチレングリコールメチルエーテルからなるブロックポリマーを鎖[エチレングリコール水素(δ:3.57ppm)、エチレン水素(δ:3.20〜3.55ppm)、メトキシ水素(δ:3.25ppm)、アセチル水素(δ:1.85〜1.98ppm)]とする星型ポリマーであると認められる。
【0079】
実施例7
実施例3で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー8.7gを、5規定塩酸水32.5g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン150mlに加え、室温で30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体7.8gを得た。H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレンイミン塩酸塩を側鎖とする星型ポリマーであると認められる。
【0080】
実施例8
実施例4で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー9.4gを、5規定塩酸水32.5g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン150mlに加え、室温で30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体8.5gを得た。H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレンイミン塩酸塩を鎖とする星型ポリマーであると認められる。
【0081】
実施例9
実施例5で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)とポリエチレングリコールメチルエーテルのブロックポリマーを鎖として有する星型ポリマー10.5gを、5規定塩酸水32.5g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン150mlに加え、室温で30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体9.6gを得た。H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:1.86〜1.98ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレンイミン塩酸塩とポリエチレングリコールメチルエーテルのブロックポリマーを鎖として有する星型ポリマーであると認められる。
【0082】
実施例10
実施例6で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)とポリエチレングリコールメチルエーテルのブロックポリマーを鎖として有する星型ポリマー12.1gを、5規定塩酸水32.5g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン150mlに加え、室温で30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体9.6gを得た。H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:1.85〜1.98ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレンイミン塩酸塩とポリエチレングリコールメチルエーテルのブロックポリマーを鎖として有する星型ポリマーであると認められる。
【0083】
応用例1
実施例3、4、5及び6で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー及びポリ(N−アセチルエチレンイミン)とポリエチレングリコールメチルエーテルのブロックポリマーを鎖として有する星型ポリマーの各々30mgに純水10mlを加えて攪拌し溶解させた。溶解した各々の星型ポリマー水溶液を用いて走査型電子顕微鏡により観察したところ、全ての前記星型ポリマーは水中で良好なミセルを形成していることが判った。
【0084】
応用例2、及び比較応用例1
実施例7で得られた、ポリエチレンイミン塩酸塩を鎖として有する星型ポリマー(応用例2)と、前記特許文献2の実施例12で提案した、ポリエチレンイミン塩酸塩を側鎖とする櫛型ポリマー(比較応用例1)とを、各々0.5g用いて50mLの蒸留水に溶解した。攪拌しながら、その溶液に10%のアンモニウム水溶液50mLを滴下した。生成した白い粉末をしばらく放置した後、濾過し、その粉末を冷水で3回、アセトンで1回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中40℃で乾燥してポリエチレンイミン塩酸塩側鎖をポリエチレンイミン側鎖に変えた。得られた、ポリエチレンイミン鎖を有するそれぞれのポリマーを各々0.1g用いて20mLの蒸留水に溶解して、90℃に加熱し、完全透明な水溶液を得た。各々の水溶液を室温下で冷やして不透明な溶液状態になった後、さらに室温に1時間放置した。その不透明な溶液にテトラメトキシシラン(TMSO)とエタノールの1/1(体積比)の混合液を7mL加え、軽くかき混ぜた後、そのまま40分放置した。その後、得られた固形物を濾過し、エタノールで数回洗浄を行った後、40℃で減圧乾燥して、有機無機複合ナノシリカを得た。得られた有機無機複合ナノシリカを走査型顕微鏡により観察したところ、前記特許文献2の実施例12で提案した櫛型ポリマーからなる有機無機複合ナノシリカは、絡み合った線状のシリカファイバーの形態であるのに対して、本発明の星型ポリマーからなる有機無機複合ナノシリカは円形の放射状の形態であることを確認した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

〔式(1)中、Yはアルキレンイミン構造単位、N−アシルアルキレンイミン構造単位、アルキレンエーテル単位、ポリアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位、及びポリN−アシルアルキレンイミン−ポリアルキレンエーテルブロック単位からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖であり、Zは一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基である。〕
で表されることを特徴とする星型高分子化合物。
【請求項2】
前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基が、芳香環上に置換基を有していてもよい、ヒドロキシビフェニル残基、ヒドロキシジフェニル化合物の残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾール残基、ヒドロキシベンゾチアゾール残基、ヒドロキシカルバゾール残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドール残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、及びヒドロキシキノキサリン残基からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の星型高分子化合物。
【請求項3】
前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基が、下記一般式(2)
【化2】

〔式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
又は、下記一般式(3)
【化3】

〔式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、又は炭素数が1〜5のアルデヒド基であり、Aは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、又は−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4の整数であり、mは1〜5の整数である。〕
で表される一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の星型高分子化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のYが、下記一般式(4)、
【化4】

〔式(4)中、pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
下記一般式(5)、
【化5】

〔式(5)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基であり、pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
下記一般式(6)、
【化6】

〔式(6)中pは2又は3であり、qは2〜2000の範囲である。〕
下記一般式(7)
【化7】

〔式(7)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基であり、p、pはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
下記一般式(8)、
【化8】

〔式(8)中、R、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、各々異なるものであり、p及びpはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
又は、下記一般式(9)
【化9】

〔式(9)中、p、pはそれぞれ独立に2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。〕
から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項記載の星型高分子化合物。
【請求項5】
下記一般式(i)
【化10】

で表される四官能エポキシ化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により生じる二級炭素に結合するヒドロキシル基を、スルホニル化剤により変性して得られる、スルホニルオキシ基を含有する変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として使用し、該スルホニルオキシ基から、オキサゾリンモノマーをカチオン重合させるか、又はポリアルキレングリコールを置換させることを特徴とする星形高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物が、芳香環上に置換基を有していてもよい、ヒドロキシビフェニル、ヒドロキシジフェニル化合物、フェノール、ナフトール、アントラノール、ヒドロキシピレン、ヒドロキシアントラキノン、ヒドロキシベンズイミダゾール、ヒドロキシベンゾチアゾール、ヒドロキシカルバゾール、ヒドロキシジベンゾフラン、ヒドロキシインドール、ヒドロキシキノリン、ヒドロキシアクリジン、及びヒドロキシキノキサリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項5記載の星形工分子化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−204529(P2007−204529A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22419(P2006−22419)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】