説明

星型高分子化合物及び星型高分子化合物の製造方法

【課題】 疎水性の主鎖と親水性の側鎖とを有する新規な星型高分子化合物、特にポリマーミセル形成能を有する星型高分子化合物を提供すること。
【解決手段】 多官能グリシジル化合物残基と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基とからなるエポキシ樹脂骨格を主鎖とし、エチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン単位、エチレングリコール単位、又はプロピレングリコール単位の少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖を側鎖として有する星型高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エポキシ骨格からなる主鎖に、親水性のポリマー鎖を側鎖とする星形高分子化合物及び該星型高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた物理的、化学的、電気的性質から、塗料をはじめ、電気関連、接着などの用途に幅広く利用されている。ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代表されるエポキシ樹脂は、エピハロヒドリンと芳香族ジヒドロキシ化合物とから、あるいは、グリシジル化合物と芳香族ヒドロキシ化合物とからなる二級アルコール構造をその主鎖中に有しており、側鎖ヒドロキシ基を除き、疎水性に富んでいる。一方、該側鎖ヒドロキシ基は、親水性を有するものの、その親水性は必ずしも高くなく、従って、エポキシ樹脂は水中で安定なポリマーミセルを形成することなく、カプセル化などのポリマーミセルに特徴的な機能を発現することは困難であった。
【0003】
また、例えば、側鎖のヒドロキシ基と酸無水物とを反応させて得られる半エステル化変性エポキシ樹脂を塩基中和することにより(特許文献1参照)、あるいは、エポキシ樹脂中のグリシジル基と二級アミンとを反応させて得られる三級アミノ化変性エポキシ樹脂を酸中和することにより、エポキシ樹脂を水溶性化することができるが、これら水溶性化されたエポキシ樹脂も、水中で安定なポリマーミセルを形成することなく、同様にカプセル化などのポリマーミセルに特徴的な機能を発現することは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−70558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、疎水性の主鎖と親水性の側鎖とを有する新規な星型高分子化合物、特にポリマーミセル形成能を有する星型高分子化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(1)〜(3)で表される星型高分子化合物を提供することにより上記課題を解決した。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【0011】
【化4】

【0012】
(式(4)中、Yはエチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン単位、エチレングリコール単位、又はプロピレングリコール単位の少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜1000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖を表し、Zは一価の芳香族アルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のBはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
【0013】
また、本発明は、下記式(i)〜(iii)で表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させ、得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤によりスルホネート基に変性した後得られる変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として、オキサゾリンモノマーをカチオン重合させるか、又は該変性エポキシ化合物の該スルホネート基にポリアルキレングリコールを反応させることからなる星型高分子化合物の製造方法を提供することにより上記課題を解決した。
【0014】
【化5】

(式(i)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0015】
【化6】

(式(ii)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0016】
【化7】

(式(iii)中、Aはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の星形高分子化合物は、多官能グリシジル化合物残基と一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基とからなるエポキシ化合物骨格を主鎖とし、エチレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン構造単位、エチレングリコール構造単位、及びプロピレングリコール構造単位などを構造単位とする親水性の直鎖状ポリマー鎖を側鎖として有するため、分子中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持ち、かつ各々の構造制御が可能であることから、容易にポリマーミセルを形成することができる。これにより得られるポリマーミセルは、カプセル化が可能であるなど特徴的な機能を有することから、医農薬、化粧品、香料、トナー、液晶、インキ、塗料、プラスチックなどの幅広い用途に利用できる。
【0018】
また、上記の星形高分子化合物は、二級アルコール構造を有する変性エポキシにおける側鎖ヒドロキシ基が、アルキルスルホネート基やアリールスルホネート基などの脱離能の高い基で置換された変性エポキシを、カチオン重合開始剤とし、オキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合するという、又は、該変性エポキシにポリアルキレングリコールを反応させるという簡便な方法で合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の星型高分子化合物は、下記式(1)〜(3)で表されるものである。
【0020】
【化8】

【0021】
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【0024】
【化11】

【0025】
(式(4)中、Yはエチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン単位、エチレングリコール単位、又はプロピレングリコール単位の少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖を表し、Zは一価の芳香族アルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のBはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
【0026】
上記式(4)中のZで表される一価の芳香族アルコキシ基は、グリシジル化合物と反応する一価の芳香族ヒドロキシ化合物の残基であれば特に制限されず、例えば、ビフェニルアルコール残基、ジフェニルアルコール残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾル残基、ヒドロキシベンゾチアゾル残基、ヒドロキシカバゾル残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドル残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基などの芳香族ヒドロキシ化合物残基が例として挙げられる。
【0027】
上記一価の芳香族アルコキシ基は、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基などの置換基を有していてもよい。
【0028】
なかでも、得られる星型高分子化合物に剛直な骨格を与える場合には、4−フェニルフェノール、4−ヒドロキシ4−ビフェニルカボニトリル等のビフェニル骨格を有する芳香族ヒドロキシ化合物、ビスフェノールA型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールF型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールS型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールヒドロキシ化合物等のジフェニル骨格を有する芳香族ヒドロキシ化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、アントラノール化合物、ヒドロキシピレン化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、ヒドロキシベンズイミダゾル化合物、ヒドロキシベンゾチアゾル化合物、ヒドロキシカバゾル化合物、ヒドロキシジベンゾフラン化合物、ヒドロキシインドル化合物、ヒドロキシキノリン化合物、ヒドロキシアクリジン化合物、ヒドロキシキノキサリン化合物などの一価の芳香族アルコール構造を有する色素類などの残基であることが好ましい。
【0029】
また、ビフェニル骨格を有する芳香族アルコキシ基のなかでも、下記式(5)で表される芳香族アルコキシ基は得られる星型高分子化合物の耐熱性を向上できるため好ましい。
【0030】
【化12】

【0031】
(式(5)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0032】
また、ジフェニル骨格を有する芳香族アルコキシ基のなかでも、下記式(6)で表される芳香族アルコキシ基は、該構造を与える芳香族ヒドロキシ化合物の溶解性が高いため調製が容易であり好ましい。
【0033】
【化13】

【0034】
(式(6)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0035】
また、芳香族アルコール構造を有する色素類などの残基である芳香族アルコキシ基のなかでも、フェノール化合物、ナフトール化合物、アントラノール化合物、ヒドロキシピレン化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、ヒドロキシベンズイミダゾル化合物、ヒドロキシベンゾチアゾル化合物、ヒドロキシカバゾル化合物、ヒドロキシジベンゾフラン化合物、ヒドロキシインドル化合物、ヒドロキシキノリン化合物、ヒドロキシアクリジン化合物、ヒドロキシキノキサリン化合物などの残基は色素化合物との良い相互作用を有するため好ましい。
【0036】
上記式(1)〜(3)で表される星型高分子化合物が側鎖に有する直鎖状ポリマー鎖は、N−アシルエチレンイミン構造単位、エチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン構造単位、エチレングリコール構造単位及びプロピレングリコール構造単位の少なくとも一種からなる群から選ばれる構造単位からなるものである。該直鎖状ポリマー鎖としては、N−アシルエチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、エチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、N−アシルプロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、エチレングリコール構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレングリコール構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、そしてN−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位とエチレン又はプロピレンイミン構造単位の組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖及びN−アシルエチレンイミン構造単位とN−アシルプロピレンイミン構造単位の組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖などが挙げられる。また、N−アシルエチレンイミン又はN−アシルプロピレンイミン構造単位として、異なるアシル基を有する構造単位を使用した直鎖状ポリマー鎖も使用できる。N−アシルエチレンイミン又はN−アシルプロピレンイミン構造単位のみからなるポリマー鎖は親水性が高く、その塩酸塩などの塩はさらに水溶性が高い。これら直鎖状ポリマー鎖のうち、二種以上の構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、ランダムポリマー鎖であってもブロックポリマー鎖であってもよい。
【0037】
上記直鎖状ポリマー鎖のうちN−アシルエチレンイミン構造単位、及び/又はN−アシルプロピレンイミン構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、一般にオキサゾリンモノマーのカチオンリビング重合により得られるポリオキサゾリンであり、その内、エチレンイミン構造単位の例としては、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N−ブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルエチレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)エチレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミン、ポリ(N−アクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたエチレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルエチレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルエチレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0038】
また、プロピレンイミン構造単位の例としては、例えば、ポリ(N−ホルミルプロピレンイミン)、ポリ(N−アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルプロピレンイミン)、ポリ(N−ブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)プロピレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミン、ポリ(N−アクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたプロピレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルプロピレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルプロピレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルプロピレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミンなどが挙げられる。
【0039】
上記例示したポリマー鎖の構造式としては、下記式(7)〜(11)で表されるものが好ましい例として挙げられる。
【0040】
【化14】

(式(7)中、pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
【0041】
【化15】

(式(8)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
【0042】
【化16】

(式(9)中pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
【0043】
【化17】

(式(10)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pは2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。)
【0044】
【化18】

(式(11)中、R、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、各々異なるものであり、p、pは2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。)
から選ばれる一種である直鎖状ポリマー鎖は、構造制御が容易であるため好ましい。
【0045】
上記式(7)〜(11)で表される直鎖状ポリマー鎖は、一端が主鎖変性エポキシ中の側鎖ヒドロキシ基が結合していた炭素原子に結合しており、また、他端に重合開始剤残基を有する末端には、求核剤などを反応させることにより、種々の置換基や構造を導入してもよい。
【0046】
上記構造式で例示した直鎖状ポリマー鎖のなかでも、例えば、式(8)又は(9)で表される直鎖状ポリマー鎖、特にポリエチレンイミン鎖、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などは、親水性が高く、これら直鎖状ポリマー鎖を側鎖として有する本発明の星形多分岐高分子化合物は水中でポリマーミセルを形成しやすいため好ましい。
【0047】
また、上記側鎖ポリマー鎖がブロックコポリマー鎖である場合にも同様に、式(11)で表される直鎖状ポリマー鎖、特にポリエチレンイミンブロックとポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックコポリマー鎖又はポリエチレンイミンブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖などの親水性の高い直鎖状ポリマー鎖であると、星型高分子化合物のミセル形成能が高いため好ましい。
【0048】
また、上記側鎖ポリマー鎖が、式(11)又は(12)で表されるランダムコポリマー鎖である場合には、側鎖の親水性が均一となり、星型高分子化合物のミセルの安定性が高いため好ましい。
【0049】
また、側鎖ポリマー鎖の親水性は、一般に水溶液の水素カチオン濃度、いわゆるPHや、共存イオンの濃度によって大きく影響されるが、例えば、ポリエチレンイミンの場合、水溶液のPHが低いほど、ポリエチレンイミンのイミン窒素原子はプロトン化されて極めて親水性が高くなる。
【0050】
上記した本発明の星形高分子化合物は、主鎖に疎水性のエポキシ化合物骨格、側鎖に親水性の直鎖状ポリマー鎖を有することから、水や親水性溶媒中、あるいは疎水性溶媒中でポリマーミセルを形成することができ、カプセル化などのポリマーミセルに特徴的な機能を発現する。
【0051】
上記式(1)〜(3)で表される本発明の星型高分子化合物は、下記式(i)〜(iii)で表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させ、得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤によりスルホネート基に変性した後得られる変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として、オキサゾリンモノマーをカチオン重合させるか、又は該変性エポキシ化合物の該スルホネート基にポリアルキレングリコールを反応させるという簡便な方法で得ることができる。
【0052】
【化19】

(式(i)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0053】
【化20】

(式(ii)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0054】
【化21】

(式(iii)中、Aはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。)
【0055】
これら多官能グリシジル化合物と反応させる一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、上記した芳香族アルコキシ基を与えるものであればよく、上記に例示した芳香族ヒドロキシ化合物を使用できる。
【0056】
なかでも、下記式(iv)、又は(v)で表される芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく使用できる。
【0057】
【化22】

【0058】
(式(iv)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0059】
【化23】

【0060】
(式(v)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0061】
上記多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコールの側鎖ヒドロキシ基の変性は、一般にアミンやアルカリ性無機塩の存在下、スルホン酸ハライドやスルホン酸無水物などのスルホニル化剤を作用させることにより達成される。
【0062】
スルホン酸ハライドとしては、例えば、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライドなどのハロゲンで置換されていてもよいメタンスルホン酸ハライドや、ベンゼンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドなどのメチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライドや、1−ナフタレンスルホン酸クロライドや2−ナフタレンスルホン酸クロライドなどのナフタレンスルホン酸ハライドなどが挙げられる。
【0063】
上記スルホン酸クロライドのうち、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライド、または、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸クロライドは、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂の溶解性が高中でも、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライド、ベンゼンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドは、原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、p−トルエンスルホン酸クロライドは、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂の安定性が高い点で、またトリフルオロメタンスルホン酸クロライドは、得られる変性エポキシ化合物のカチオン重合開始能が高いため好ましい。
【0064】
スルホン酸無水物としては、例えば、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物などのハロゲンで置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物や、ベンゼンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホン酸無水物、2−ニトロベンゼンスルホン酸無水物、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸無水物などのメチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸無水物などが挙げられる。
【0065】
上記スルホン酸無水物のうち、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物は、水酸基のスルホニル化反応後、未反応のスルホン酸無水物を減圧によって留去できるので好ましく、中でも、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物は、原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂のカチオン重合開始能が高いので好ましい。
【0066】
スルホン酸ハライドによるスルホネート基への置換反応は、一般に塩基存在下で行われるが、塩基としては、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの脂肪族3級アミン、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性無機塩などが挙げられる。
【0067】
上記の二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホネート基に置換する割合は、上記スルホン酸ハライドの添加量や塩基の種類により調整できる。例えば、全てのヒドロキシ基を、スルホネート基に変換する場合には、二級アルコール構造を有するエポキシ樹脂中のヒドロキシ基に対し、大過剰モル量のスルホン酸ハライドやスルホン酸無水物を使用すればよい。
【0068】
また、ヒドロキシ基を部分的にスルホネート基に置換する場合には、塩基としてピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどの芳香族3級アミンを用い、スルホン酸ハライドをヒドロキシ基に対し小過剰モル量用い、反応温度を室温程度に維持すればよい。
【0069】
本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖のスルホネート基からオキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合できるので、カチオン重合開始剤として使用でき、エポキシ樹脂を主鎖とし、ポリオキサゾリンなどのカチオン重合体を側鎖とする櫛型ポリマー又は星型ポリマーを製造することができる。本発明の変性エポキシ化合物は、p−トルエンスルホン酸メチルやトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸エステルと、オキサゾリンと加熱条件下で容易に反応し、高い重合収率でポリオキサゾリンを生成でき、また、スルホネート基とオキサゾリンモノマーとの比率を変えることにより、ポリオキサゾリン側鎖長を制御することもできる。
【0070】
本発明の星型高分子化合物は、上記方法により得られる変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として、オキサゾリンモノマーをカチオン重合させる方法、又は該変性エポキシ化合物のスルホネート基にポリアルキレングリコールを反応させる方法といった簡便な方法で得ることができる。
【0071】
上記カチオン重合性モノマーの具体例としては、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、N−(テトラヒドロピラニル)エチレンイミン、N−(t−ブチル)エチレンイミンなどのアジリジンや、アゼチジンなどのアルキレンイミンモノマー、2−オキサゾリン、2−メチルオキサゾリン、2−エチルオキサゾリン、2−フェニルオキサゾリン、2−ステアリルオキサゾリン、2−(3−(パーフロロオクチル)プロピル)オキサゾリンなどの2−アルキルオキサゾリンや、2−ビニルオキサゾリン、2−イソプロペニルオキサゾリン、2−オレイルオキサゾリンなどの2−アルケニルオキサゾリン、2−フェニルオキサゾリン、2−ベンジルオキサゾリンなどの2−アリールオキサゾリンなどののオキサゾリンモノマー、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのオキシランモノマー、オキセタンなどのオキセタンモノマー、テトラヒドロフラン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマー、トリオキサンなどのアセタールなどが挙げられる。
【0072】
本発明の星形高分子化合物の製造において、上記変性エポキシ化合物を使用した際のカチオン重合条件は、p−トルエンスルホン酸メチルやトリフルオロメタンスルホン酸メチルなどのアルキルスルホン酸エステルをカチオン重合開始剤とする慣用公知のカチオン重合条件に類する。
【0073】
また、オキサゾリンモノマーを複数種使用した重合により、N−アシルエチレンイミン構造単位の複数種からなるランダムポリマー鎖を形成でき、さらに一般にオキサゾリンのカチオン重合はリビング重合であることから、オキサゾリンモノマーの種類を変えた多段階重合によりブロックポリマーを製造できる。これにより、本発明の星形高分子化合物の側鎖をランダムポリマー鎖や、ブロックポリマー鎖とすることができる。例えば、本発明の星形高分子化合物の製造に用いられる前記カチオン重合開始剤で2−フェニルオキサゾリンをカチオン重合した後、2−メチルオキサゾリンを重合することにより、エポキシ樹脂にポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)鎖が直結し、該ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)にポリ(N−アセチルエチレンイミン)が直結した、ブロックポリマー化されたポリアシルエチレンイミンを側鎖とする、星形高分子化合物を得ることができる。
【0074】
また、N−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖の加水分解を部分的に行うことにより、ポリマー鎖中の一部のN−アシルエチレンイミン構造単位が加水分解されてエチレンイミン構造単位となり、N−アシルエチレンイミン構造単位とエチレンイミン構造単位とからなるランダムポリマー鎖を側鎖に有する星形高分子化合物を得ることができる。
【0075】
加水分解前のN−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖がブロックポリマーの場合、加水分解条件を制御することによりN−アシルイミノ基の選択的加水分解が可能であり、ポリエチレンイミンブロックとポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖や、ポリエチレンイミンブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとのブロックコポリマー鎖などの、ポリエチレンイミンブロックとN−アシルポリエチレンイミンブロックとからなるジブロックポリマー側鎖を有する星形高分子化合物を合成することができる。
【0076】
加水分解前のN−アシルエチレンイミン構造単位からなるポリマー鎖がランダムポリマーの場合にも、エチレンイミン構造単位とN−アシルエチレンイミン構造単位とのランダムコポリマー側鎖を有する星形高分子化合物を製造することができる。
【0077】
本発明の星型高分子化合物は、上記したように水や親水性溶媒中、あるいは疎水性溶媒中でポリマーミセルを形成することができる。このため、星型高分子化合物によると、本来水に不溶性ないし難溶性の機能性化合物をカプセル化し、水中に安定に維持することができる。例えば、ピレンなどの蛍光性芳香族炭化水素は、本発明の星形高分子化合物のポリマーミセル内に分子状態でカプセル化され、水中で安定に存在することができる。
【0078】
このような、本発明の星形高分子化合物は、種々の機能性化合物をカプセル化できるので、医農薬、化粧品、香料、トナー、液晶、インキ、塗料、プラスチックなどの幅広い用途に利用できる。
【0079】
また、本発明の製造方法によれば、上記星型高分子化合物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表わす。
【0081】
(実施例1)
ジャパネポキシレジン(JER)の商品名エピコート1031S[テトラキス(グリシジルオキシアリル)エタン]9.8g(50m等量、エポキシ等量196g)、4−フェニルフェノール11.9g(70mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.21ml(0.1mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、160℃で4時間反応させた。放冷後、水100ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、70℃で減圧乾燥して、ビフェニレン型の側鎖にヒドロキシ基を有する変性エポキシ化合物を得た。得られた生成物の収量は17.6g、収率は96%であった。
【0082】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.53〜7.25(m),7.13〜6.60(m),4.50〜3.75(m)
【0083】
上記で合成した側鎖にアルコール性ヒドロキシ基を有するビフェニレン型変性エポキシ化合物9.15g(25m等量)、ピリジン20g(250mmol)及びクロロフォルム30mlの溶液に、p−トルエンスルフォン酸クロライド14.3g(75mmol)を含むクロロフォルム(30ml)溶液を、窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロフォルム60mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして飽和食塩水溶液で順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をメタノールで数回洗浄した後、濾過、70℃で減圧乾燥して、変性エポキシ化合物を得た。収量は13g、収率は98%であった。
【0084】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.94〜7.74(m),7.55〜6.30(m),4.40〜3.80(m),2.40〜2.34(m)
【0085】
上記で合成した側鎖にp−トルエンスルホニルオキシ基を有する変性エポキシ化合物2.08g(4m等量)、2−メチルオキサゾリン6.8g(80mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。得られた反応混合物を酢酸エチル300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過、酢酸エチルで2回洗浄、減圧乾燥して白色粉末固体8.7gを得た。重合時の収率は99%だった。1H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、テトラキスフェニルエタン構造の変性エポキシを主鎖(δ:6.45〜7.90ppm)とし、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)を側鎖[エチレン水素(δ:3.47ppm)、アセチル水素(δ:2.00ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度20のポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマーであると認められる。
【0086】
(実施例2)
実施例1で合成した側鎖にp−トルエンスルホニルオキシ基を有する変性エポキシ化合物1.56g(3m等量)、2−エチルオキサゾリン5.9g(60mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド30mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。得られた反応混合物をエチルエチル300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過、エチルエチルで2回洗浄、減圧乾燥して淡黄色固体6.3gを得た。重合時の収率は98%であった。1H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、テトラキスフェニルエタン構造の変性エポキシを主鎖(δ:6.45〜7.90ppm)とし、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)を側鎖[エチレン水素(δ:3.36ppm)、プロピオニル水素(δ:2.50ppm、0.97ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度20のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)星型ポリマーであると認められる。
【0087】
(実施例3)
実施例1で合成した側鎖にp−トルエンスルホニルオキシ基を有する変性エポキシ化合物1.56g(3m等量)、ポリエチレングリコールメチルエーテル(平均分子量、Mn=750)6.75g(9mmol)、炭酸カリウム4.1g(30mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド30mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、得られた反応混合物にクロロフォルム100mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして飽和食塩水溶液で順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、70℃で減圧乾燥して褐色固体7.2gを得た。重合時の収率は90%だった。1H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、テトラキスフェニルエタン構造の変性エポキシを主鎖(δ:6.45〜7.90ppm)とし、ポリエチレングリコールメチルエーテルを側鎖[エチレン水素(δ:3.71ppm)、メトキシ水素(δ:3.38ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度16のポリエチレングリコール星型ポリマーであると認められる。
【0088】
(実施例4)
実施例1で合成した側鎖にp−トルエンスルホニルオキシ基を有する変性エポキシ化合物1.56g(3m等量)、2−メチルオキサゾリン5.1g(60mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応混合物のままの1H−NMR分析より重合反応を確認した後、引き続き、2−エチルオキサゾリン5.9g(60mmol)を、窒素雰囲気下、さらに加えて、100℃で48時間攪拌した。得られた反応混合物をエチルエチル400mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過、エチルエチルで2回洗浄、減圧乾燥して淡黄色固体12.42gを得た。重合時の収率は99%だった。1H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、テトラキスフェニルエタン構造の変性エポキシを主鎖(δ:6.45〜7.90ppm)とし、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)を側鎖[エチレン水素(δ:3.36ppm)、プロピオニル水素(δ:2.50ppm、0.97ppm)、アセチル水素(δ:2.00ppm)]とし、また、反応物と生成物の定量的な計算から数平均重合度20のポリ(N−アセチルエチレンイミン)と数平均重合度20のポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)の星型ブロックポリマーであると認められる。
【0089】
(実施例5)
実施例1で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー3.8gを、5規定塩酸水15.2g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン約150mlに加え、室温で約30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体3.3gを得た。その収率は99%だった。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)を側鎖アセチル水素(δ:2.00ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレンイミン塩酸塩を側鎖とする星型ポリマーであると認められる。
【0090】
(応用例1)
実施例1で得られたポリ(N−アセチルエチレンイミン)星型ポリマー30mgに純水10mlを加えて攪拌し溶解させた。その溶液での星型ポリマーの粒径分布を測るために散乱強度分布を測定したところ、平均粒径47.1nmが得られ、水中で良好にミセルを形成していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

又は下記式(2)
【化2】

又は下記式(3)
【化3】

[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【化4】

(式(4)中、Yはエチレンイミン構造単位、プロピレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン単位、エチレングリコール単位、又はプロピレングリコール単位の少なくとも一種からなる数平均重合度が2〜2000の範囲にある直鎖状ポリマー鎖を表し、Zは一価の芳香族アルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のBはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
で表される星型高分子化合物。
【請求項2】
前記一価の芳香族アルコキシ基が、ビフェニルアルコール残基、ジフェニルアルコール残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾル残基、ヒドロキシベンゾチアゾル残基、ヒドロキシカバゾル残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドル残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の星型高分子化合物。
【請求項3】
前記一価の芳香族アルコキシ基が、下記式(5)
【化5】

(式(5)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
又は、下記式(6)
【化6】

(式(6)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の星型高分子化合物。
【請求項4】
前記式(4)中のYが、下記式(7)
【化7】

(式(7)中、pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
又は、下記式(8)
【化8】

(式(8)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
又は、下記式(9)
【化9】

(式(9)中pは2又は3であり、qは2〜1000の範囲である。)
又は、下記式(10)
【化10】

(式(10)中、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pは2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。)
又は、下記式(11)
【化11】

(式(11)中、R、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、各々異なるものであり、p、pは2又は3であり、q+qは4〜2000の範囲である。)
から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の星型高分子化合物。
【請求項5】
下記式(i)〜(iii)で表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させ、得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤によりスルホネート基に変性した後得られる変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤として、オキサゾリンモノマーをカチオン重合させるか、又は該変性エポキシ化合物の該スルホネート基にポリアルキレングリコールを反応させることからなる星型高分子化合物の製造方法。
【化12】

(式(i)中、nは1〜3の整数を表す。)
【化13】

(式(ii)中、nは1〜3の整数を表す。)
【化14】

(式(iii)中、Aはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。)
【請求項6】
前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物が、置換基を有していてもよいビフェニルアルコール、ジフェニルアルコール、フェノール、ナフトール、アントラノール、ヒドロキシピレン、ヒドロキシアントラキノン、ヒドロキシベンズイミダゾル、ヒドロキシベンゾチアゾル、ヒドロキシカバゾル、ヒドロキシジベンゾフラン、ヒドロキシインドル、ヒドロキシキノリン、ヒドロキシアクリジン、ヒドロキシキノキサリンから選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載の星型高分子化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−56976(P2006−56976A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239470(P2004−239470)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】